Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第23節a 箱庭の決戦

タンザニア、ヴィクトリア湖畔の都市、ムワンザ。

漁業で栄えるタンザニア第二の都市は、プラトンの姦計によって得体の知れない"泥"に侵され、

無人となった街をランサーの眷属の英霊兵がうろつくこの世の地獄になっていた。

 

3人の王の乗る装置には、始皇帝による改造で通信設備もつけてもらった。

私たち機動部隊とも、魔術的探知なしに常時連絡が取れるのはありがたい。

以前は念話で良いと馬鹿にしたが、敵に精神干渉手段がある以上、私も考えを改めなければ。

 

私たちが乗ってきた分の昇降装置は、魔術迷彩を施して今いるビルの屋上に隠した。

これで、こちらが戦ってる間に破壊される可能性は減っただろうが、

イヴァンの助言通りに近くに予備を残しておいて正解だったかもしれない。

聖都に帰還させてもよかったが、緊急脱出のカードは切れるようにしておきたいからだ。

 

敵のランサーは、現在地から北に15分ほどの、ウケレウェ島付近の湖上を南下している。

周囲の小島はほぼ泥に呑み込まれてしまったようだ。

このまま何もしなくても、彼女は泥を足場に陸へも進むだろう。

そうなったら作戦が続行できない。フェンリルの言う通り、私は楽観的過ぎたかもしれない。

 

だが、仮にそうだとしても。ここで諦める訳にはいかない。

それこそ城主として、英霊として、これまで戦ってきた責任の放棄に他ならないからだ。

ランサーを必ずここで倒し、聖杯大戦の観測を続行する。

 

メフメトに作ってもらったネックレスとピアスに手を当てる。

この地で出会った、大事な仲間たちの思い出……。

私は無神論者じゃない。だからと言って、急に神のお告げが聞けるようになったわけでもない。

 

私が信じるのはもっと直接的な、永劫回帰に繋がる存在の加護だ。

それを"神"と呼ぶのかもしれないし、あるいはそれが"座"なのかもしれない。

時空の概念を超える彼の場所にて。もしこの旅の出来事を忘れたとしても……。

私は、今のこの暖かさだけは、己が霊基に刻んで忘れないようにしようと強く思った。

 

もうじき、メフメトたちからの突入合図があるはずだ。

今のところ周囲の英霊兵は、私たちに気付くことなく周囲をただ徘徊している。

数はそんなに多くなさそうだが、増援はどんどん来るに違いない。手早く片付けてしまおう。

 

『フリーダ、準備は良いか?こっちはいつでも行けるぜ』

 

思った通り、メフメトだ。イヴァンと始皇帝も頷くのが聞こえた。

 

『わかりました。それでは第一段階、陽動始めます。偉大なる王たちよ、私に勝利を!』

 

フェンリル、スガと目配せし、私は屋上から()()()()()

着地はフェンリルだ。鞍もないのに、横乗り(サイドサドル)でも問題ない。

彼にはライダーのクラス適性でもあるのだろうか。なんて、余計なことを考えたら怒られるな。

 

「偉人の姿を騙る亡者どもよ!私が相手だ!

自我無き者など、このフリーダ(ニーチェ)の敵ではないと知れ!

いざ、虚無の螺旋(リンゲ)を断ち切らん!我が銃身(バレル)を恐れぬ者はかかってこい!」

 

――決まった。

フェンリルがこちらを睨んでいる。スガが呆気に取られて私を見ている。構わない。

意思疎通のできない敵が相手でも、口上は大事だ。こんなこともあろうかと前から考えていた。

 

ふふっ。思わず笑みが零れる。カッコよさとは、なんて大事で素敵な言葉だろう!

きっと今の私はカッコいいな。感想を誰かに聞いてみたいところだが、その前に。

さあ、王の勝利の凱旋のため。道路掃除と行こうじゃないか!

バレルを構えて、近くの英霊兵に狙いを定め、突っ込む。

 

剣を掲げる者。槍を向ける者。弓を引き絞る者。遅い!遅い!遅い!

樽の賢者のドラゴンに比べれば、武器持つだけのゾンビなど文字通りフリーゲ(コバエ)だ。

対等な英霊の姿をしているから迷ってしまう。相手が虫だと思えば良い。つまり銃身(バレル)は殺虫剤だ。

 

私は次々に撃ち殺していく。至近距離に入った敵は、付き従うスガが始末してくれる。

私たちですらこうなんだから、フェンリルなら何も問題ないだろうが。一応目を遣ってみる。

氷の息吹が、彼の視界に入った敵を凍らせた。英霊兵の武器を牙で噛み砕くのも見えた。

 

()()()()の心配など不要だったな。私たちも続こう。

そのとき、遠くでカチャリ、とライフルを構える音が聞こえた。……隣の建物の屋上か!

しまっ――

 

告げる(セット)――!」

 

スガが投擲した黒鍵が、正確にライフルを構えた英霊兵に刺さり消滅させる。

……良い腕だ。その身の病弱さえなければ、本当に暗殺者として大成したかもしれない。

呑気なことを考えていたら、スガの背後にカットラスを振り上げる英霊兵が見えた。

 

「ありがとうございます。ですが油断大敵ですよ、フリーダ様!(わたくし)に構わず、敵の殲滅を!」

 

今度は私でも反応できた。敵も二人組だったのか。撃たれた英霊兵が、塵になって消える。

 

「バーサーカー!こちらはあらかた片付きました。このまま湖岸に向かいます!」

 

目に入った敵を倒しながら、王たちが戦っている湖岸に向け走る。

鼻を衝く異臭がする。"泥"が近いのか。泥と言うより、ヘドロみたいなにおいだ。

角を曲がった道路の中央に、短剣を持った英霊兵がいた。

 

『……クッ。フリーダ!伏せろ!『氷霜を越えて突き立て、氷の牙(ヴィダル・レーヴァティン)』!!』

 

あれは、短剣なんかじゃなかった。ロイと同じ、いや下手したらそれを上回る()()

英霊兵は手に持つ剣を肥大させ、巨大な剣となったそれを投げつけてきた。

太陽の魔剣と氷雪の魔槍が衝突し、周囲に衝撃波が広がる。

 

――あれはそのうち宝具を使えるようになる。そうなる前に本体を叩け。

 

建物の窓ガラスが割れ、私たちの近くに降り注ぐ。

スガを破片から遠ざけ、私は宝具の起動後で隙だらけの英霊兵を撃ち抜く。

別に。忘れてたわけじゃない。思ってたよりも難しい問題だと再認識しただけだ。

 

『貴様が微睡んでいる間に、少しはラグナロクらしくなったようだな!人間!』

「言われなくてもわかってます!それよりもフェンリル。今、私のことを名前で――」

『それ以上言ったら噛みつくぞ。目前の敵に集中しろ』

 

英霊兵の宝具はランクが本来よりも劣る。先程の破滅の黎明(グラム)を見てそう確信した。

本物の太陽の禍は、フェンリルの権能でも簡単に相殺できないはずだからだ。

私たちでもどうにかできるなら、王は大丈夫だ。まだ勝機は残されている。陽動は続ける。

 

もしかしたら、湖の"泥"に近付くごとに英霊兵も強化されるのか?

今の英霊兵からは、宝具を使えるようになったから出す、程度の思考しか読み取れなかった。

先程は不意を衝かれたが、それならよく観察すれば前兆や予備動作を見抜けるはずだ。

 

いずれにしても立ち止まって考えている暇はない。前進あるのみだ。

この先の森の小路を抜ければ、湖岸の砂浜だ。そこからなら直接、湖の遠景も臨める。

木立の中、木の上で魔力の流れが変わるのを感じた。……これか!

 

振り向きざまに射撃する。命中だ。ボウガンを構えた英霊兵が落下しながら塵になる。

計算通りだ。時間差攻撃でも来なければ、宝具相手でも対処可能だとよくわかった。

それに宝具なら、私の手にだって……!

 

森を抜けた。本来なら、一面小石の浜と土色の湖が広がっているのだろうが。

今のパシャ湖畔は、もはや陸と"泥"の境目すら判然としない。間近まで泥が迫っている。

ランサーの姿も見えた。遥か上を飛ぶ王の装置もだ。ここから先へは、徒歩ではきついな……。

 

『……乗れ。二人ともだ』

 

ありがたい。持つべきものは戦友だ。私はオオカミ全般への好感度が上がった。

神話(エッダ)に曰く、彼はラグナロクの決戦地ヴィーグリドを縦横無尽に駆けたと言う。

見よ、この光景。終末の湖を、白狼と人間どもが踏破せんとしているこの様を。

リッヒ。今、私は、あなたの描いた黄昏(デメルング)の中にいるぞ――!

 

『浮かれるな、バカ娘。腕を食い千切られたいのか。それよりも見ろ。王どもの攻撃が始まる』

 

3基の装置の内、1基が急速にランサー本体に接近している。一人目の王の宝具か。

怪物の足元から、新たな英霊兵が複数湧き出るのを視認する。一部はこちらにも向かってきた。

覇道の邪魔はさせない。ここからでも、今の私なら狙える。

 

「バーサーカー、アサシン。隙ができる間、私を守ってください。勝利へ手向ける嚆矢です。

箱庭の畜群どもよ、受け取るがいい。『贋作銃身・極大光束(バレルレプリカ・フルトランス)』――!!」

 

銃身(バレル)から放たれた光芒が、近寄って来た英霊兵数体を消し去る。

露払いは済んだ。これでメフメトたちも心置きなく――

 

「フリーダ様、危ないっ!」

『チッ。背後か……!』

 

飛んできた長剣が、私を突き飛ばしたスガの左腕を掠める。血飛沫が舞う。

フェンリルの氷塊が、剣を投げた金髪の英霊兵を砕く。スガはそのまま"泥"の湖へ落ちて行く。

スガ……!とっさに私も飛び降りた。上で何かフェンリルが叫んでいる。

 

自由落下の風を切りながら目を遣ると、湖に浮かぶ獅子に雷槌が落ちるのが見えた。




次話投稿予定:22日6時

朝投稿を心がけたいと思います
今日こそ3章来るかな…

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