Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
慎重とも言えるヴラドの態度に違和感を覚え、私は恐る恐る真意を問うてみる。
「それは…どういう意味でしょうか?」
「単純に戦力の問題だ。余は傲岸にも異国の王の城を自らの領土と定めた上でここに在るが。
それでも前回のように全力で戦う力はない。城を離れ地上に降りれば尚更であろうよ」
驚いた。
この英霊はこれだけの王気を放ちながらも全力ではないと言う。
母国で知名度補正のかかった状態なら果たしてどれほど強かったのか想像もつかない。
「加えて二度目の危機の際は、あらかじめ素性の知れた者同士が再現されたのも大きい。
サーヴァントの真名の秘匿が原則なのは、それがそのまま弱点の露呈に繋がるからに他ならぬ。
未知の相手をいきなり味方につけるのは、倒すことよりも遥かに難しいのだよ、フリーダ」
確かに。ヴラドの言葉は至極もっともだと思う。
それでもやはり、三騎のままで状況の観測を続けるには限界がある。
「まったく。城を得ても攻めに出られぬなど。英霊になど成り果てた割には余も無様よな」
「ワラキア公よ。俺は自ら聖都を差し出すと決めたのです。どうかお気になさらず。
攻めるだけが戦でないのは、王の戦いが証明しているではありませんか。
そしてフリーダ。誰と戦うにしても頭数に俺を忘れないでくれよ!」
もちろんだ。
シャルル…セイバーの力はどんな敵と戦うにしろ不可欠だ。
それなら、やはりここは正攻法で行くべきだろう。
二人でも倒せそうな相手を見定め、選び、必要ならこちらの力を示した上で、引き入れる。
「キャスターやアサシンなど、御しやすい相手から狙うべきです。
懐まで攻め込んでしまえば白兵戦に優れるお二人の敵ではないでしょうし、
もし勧誘できれば別の"眼"を持つ斥候として状況をより有利に変えられるはずです」
「道理だな。ではシャルル、誰か充てはあるか?」
「そこで俺に聞きますか!うーん……。あー!ここ、このセネガルって国のあたり。
キャスターかどうかはわかんねえけど、ここに超ローマな気配を感じるぜ。
たぶん俺と同じ地域の英雄だし、どうせ仲間にするなら知り合いからの方が王道だろ!
先輩、いやネロ陛下だったら感動なんだけどなー!あははは!」
「まあ、ひとまずはそのサーヴァントを狙うとしよう。フリーダもそれで良いな?」
最悪の場合は一人で十四騎を相手にしなければならないかもしれなかった。
実際には違った。最初から頼りになる二騎が味方として加わっている。
どんな相手でも、この二人を軸に味方を増やせれば来たる"白"のランサーとも――。
「フリーダ?フリーダ!」
「はっ?王よ。いかがされましたか?」
「いや、良い。マスター契約を結んだ訳ではないが、
事態を打開することができるイレギュラーがいるとすればやはりそなたなのだろう。
ならば我らはサーヴァントの使命を果たすのみ。そうであろう、シャルル?」
「御意に!なあフリーダ、一人で気負うなよ。俺たちのことも信頼してくれ!」
「キャスターの居所と思われるセネガルまでは時間がかかる。
フリーダよ、守りは我らに任せ、しばし部屋で休むが良い。
それと、そなたにばかり喋らせてしまったからな。この果物を持っていけ」
「……ありがとうございます」
テーブルに並べてある瓶の一つを渡される。
瓶に入っているのは…ライムの輪切りだろうか。
サーヴァントに食事は必要ないとは言え、この優しさは心に沁みる。
ヴラドは、きっと気遣いのできる王なのだろう。
シャルルも、少々いい加減なところはあるが清廉な騎士には違いない。
「それにしても。そなたの格好はその、やはり、少々みすぼらしいな」
……急に言われては私も返す言葉がない。哀れむようなヴラドの視線が痛い。
自分は女なのだから、もっと服装に気を配るべきだということか。
しかし、英霊が服にこだわるなど…。
「城に住む者は身分に関係なく気品ある服装を心がけねばならぬのだよ。
そうさな、暇ができたら余が参謀役にふさわしきドレスでも仕立ててやろう」
「王自らが…ですか?」
「疑問か?余はこう見えても裁縫が得意でな。
何、採寸などせずともそなたに合うものを見繕ってみせよう」
どうやらヴラドは気遣いだけでなく気配りもできる王のようだ。
最初に出会ったサーヴァントが彼らで良かった、と心から思う。
「あっ抜け駆けとかずるいぞフリーダ!王よ、俺にも何かー!」
「――シャルル。真のカッコ良い王にしか見えぬ服に興味はあるか?
ちょうど余が着られなくなったサイズのものが手元にあるのだが…」
ヴラドはくっくっと笑っているが、シャルルは目を輝かせてきょろきょろしている。
今のやり取りは聞かなかったことにして、ヴラドの言う通り部屋で少し休もう。
食堂を出て、回廊を歩きながら考える。
英雄。英霊。サーヴァント…か。
彼らと自分は同じ存在のはずなのだが、やはり実感が湧かない。
かと言って、自分が人間ではないこともわかっている。
部屋に戻り、ヴラドにもらった果物の瓶を開け、一口食べてみる。
酸っぱいが、程よい甘みも感じる。
もしやこれも料理と同じくシャルルが作ったのだろうか…?
だとすれば、性格の割に器用な男だ。
もう一つ。シャルルから受け取った銃を改めて観察する。
生前に習ったり使ってた記憶はないが…不思議とどこをどうすればいいかはわかった。
間違いなくこれは私の武器だ。
敵が現れても、これで一時の応戦はできる。…と思いたい。
そうだ。私の真名。
聖杯に与えられた知識から、銃使いの女性で自分に当てはまりそうな英霊を探す。
――だめだ。
アーチャー、アサシン、キャスター、ルーラー。
クラスから考えてみても、やはり自分の真名には思い至らない。
私は現代より未来の人物で、聖杯の知識にも含まれていないとすれば?
いや、だとしたら王にも哀れまれたこの近代風の地味な服装に説明がつかない。
自分は一体、誰なのだろう?
そして何のために、ここにいるのだろう?
ベッドに腰かけて、思索を続けていたとき。
砲声らしき音と共に、城が大きく揺れた。
今さら気付いたが、乗り物とは本来揺れるものだ。
今まで全く揺れを感じなかったのは、聖都の技術によるものだったのだろう。
だがもちろん今のは風で揺れたのではない。明らかに何者かの攻撃を受けている。
敵対するサーヴァント…!
まだセネガル領には入っていないはずなのに。
聖都の地図機能で確認する。
現在の位置はサハラ砂漠…モーリタニア付近のようだ。
となれば、目標にしていたキャスターではない可能性が高い。
1500mの高度を砲撃できるとなれば、敵は対城宝具を持っていると考えるべきだが…。
『王よ、俺が出ます。王はフリーダの保護を』
『ならん。そなたに何かあれば機動聖都そのものが危うくなる。
あやつは余が抑えよう。その隙にセネガルへ向かい、必ずそなたの知己を倒すか、引き入れよ』
緊迫した会話を交わす二人。
シャルルはいつの間にか私の部屋に移動していた。
『フリーダよ。そなたもサーヴァントなら、シャルルの危ういときには助けてやれ』
ヴラドの言葉は私にも向けられた。
はい、と答え、手に持った銃を握りしめる。
いざとなれば、これで自分はシャルルの援護をしなければならない。
私にできるだろうか。
いや、やらなければならない。
私は、私の思うままに振る舞えと教えられたのだから。