Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第24節a 英雄すべての敵

『フリーダ!貴様は、本当に、バカか!何のための護衛だ!

この女は見事その役割を果たしてみせたのに、貴様はそれを犬死ににしようとしたのだぞ!』

 

自分だって犬、いや狼のくせに、よく喋る。うるさい。頭に響くじゃないか。

結局、後から飛び降りた私が、先に落ちたスガに追い付けるはずもなく。

着水前にフェンリルの加速によって私たちは回収されてしまったのだから。

私には甘んじて彼の説教を受ける義務があるが。

助けてくれたお礼を言う前に怒鳴られてしまうと、その機会も逸してしまうと言うものだ。

 

いや、そんなことよりも。スガの容態だ。

彼女の腕を手に取る。傷は……大丈夫。ちょっと掠っただけのようだ。

湖に落ちたのは剣の直撃を受けたからでなく、バランスを崩したからだったのだろう。

あの剣に不可逆の傷や人型特効の逸話などがなくて、本当に良かった。

 

「フリーダ様。なぜ(わたくし)を……。私はあなたの護衛です。

庇って死ねるなら本望。いつ死んでも良かった身なのに、どうして……」

「あなたは確かに私の護衛を買って出てくれました。とても嬉しかったです。

ですが、私は!あなたに私の代わりに死んでくれと頼んだ覚えはありませんし、

これからもありません!極東の暗殺者よ、生きて、私と共に戦ってください!

彼の山での別れのときに、啄木たちにもそう言われたでしょう!」

 

スガは何も言い返せないのか、目を逸らされてしまった。

フェンリルにも、噛み付かんばかりの眼光で睨まれている。

例えどんなに愚かだと思われようと、それが()()()()の判断だ。

彼の協力はルーラーの打倒までだ。彼もそう言ったのだから、私の方針には従ってもらう。

 

『フリーダ、聞こえるか』

 

メフメトの声だ。いつもよりトーンが低い。

英霊兵の襲撃に気を取られ、本命を疎かにしていた。

"白"のランサーはどうなったのだろう。湖面に目を向けつつ、私はすぐに応答する。

 

『イヴァンがやられた。奴は水の上を歩くだけじゃなかった。()を隠し持っていやがった。

その翼はイヴァンが奪ったが、再生されるかもしれない。どうする?』

 

淡々と。残酷に。私は、私の判断の誤りで仲間を死なせたことを告げられる。

湖を睨む。怪物は最初に見たときと変わらず。非常にゆっくりとこちらに近付いてくる。

 

怪物はここから見た限りでは健在のようだ。あれが、一度は空を飛んでみせたのか。

砲声と雷撃は遠目に見えていたが、そこまで戦況が深刻だとは思っていなかった。

確かにデコイも含めて周囲を飛ぶ装置の数が減っている。イヴァン共々、撃墜されたのだろう。

この状況で、彼が嘘をつくはずもないが。一騎の"王"を失ったのは事実のようだ。

 

『そうですか。わかりました』

 

緑の獅子。水に縁があり、()()()()。つまりあれはスフィンクスか、ラバルトゥか。

あるいは私も知らないアフリカの土着信仰の神か。いずれにせよ、対処手段は変わらない。

イヴァンが命懸けで証明してくれた敵の生命力。そして自己改造。"泥"の持つ生体変化。

 

間違いない。敵は何らかの神に連なる()()を持っている。

すなわち、()()()()()()()だ。――それなら、切り札はこちら側にある。

 

『畏れながら、始皇帝陛下。謹んで申し上げます。宝具の開封を、お願いできますか?』

 

まだだ。ここで引き下がる訳には行かない。怪物を倒すには、戦力の揃ってる今しかない。

フェンリルを除けば。始皇帝はここにいる英霊の中で、最も旧く、強い"王"だ。

そして唯一、彼だけが神性に対する特効宝具を所持している。この作戦の鍵と言っても良い。

 

『将はそなたなのだろう。兵たる朕に求めるなら、そう命じれば良い。

それとも今のは本当に頼んだだけか。あるいは、異なる意味も持つ問いかけか』

『御身の持つ神殺しの弓なら、ランサーをも殺せると私は推測しました。

異境と言えど、敵は神に連なる存在であると。陛下のお見立ては、異なりますか?』

 

皇帝の問いに、問いで返す。これが彼の国なら、私は頸を刎ねられただろう。

それでもいい。今の私は、シャルルから、ヴラドから陣営を託された城主代理。

例え私に()の器がなくても。参謀として、王の杖として。そう振る舞うと決めている!

 

聖杯大戦の観測のためにも。ランサーは必ず排除しなければならない敵だ。

そして相手がどんなに強大な怪物でも、あれはサーヴァントだ。必ず殺せる。

ならば私は城主として、一番確実性の高い策を選ぶ。その責任と義務がある。

 

『いいや。朕もそなたと似たようなことを考えていたところだ。

……つまり、小さき城主よ。そなたは朕に、慢心を捨てろと言うのだな』

 

始皇帝の言の葉の一つ一つが、私に圧をかける。王は、私にその覚悟を尋ねている。

私の計算は正しいのかと。私は解に至れるのかと。私の選択は間違っていないのかと。

すべて、すべて。決まっている。城主代理の答えは、とうに決まっている。

 

『はい。中国(シーナ)の偉大なる王。中原の覇者。"青"のライダー、始皇帝陛下よ。

大戦の観測者にして、"白"と"青"を繋ぐ者。機動聖都(パトリキウス)の主。フリーダ(ニーチェ)がここに願い請う。

御身の渾身の一射をもって、あれなる怪物に裁きを!』

 

私の心からの叫び。もう彼を持ち上げる言葉も無い。通信越しでも伝わるといいのだが。

 

『――良かろう。だがな、そなた。客将が朕しかおらぬ訳ではあるまいて?』

 

フェンリルが溜め息をつく。私の後ろに跨っているスガも、私のドレスの袖を引っ張っている。

振り向くと、眼で何か訴えていた。何だろう、その眼は。もしかして、怒ってるの……?

 

『そうだぞー、フリーダ!告白みたいな言い回ししやがって!』

『わ、私はそんなつもりでは……!』

 

咄嗟に訂正するが、怒りが収まらないのか、メフメトに畳みかけられる。

 

『学者だからってお前は大げさなんだよ!あのな、俺たちは()()()()()サーヴァントだ。

例えこの地に守るべき民草がいなくても。あれは英雄すべての敵だ。王が倒すべき怪物だ。

そんな大仰な頼み方しなくても。ここにいる皆、目的はお前と同じ!一人で背負うなバカ!』

 

呵々と、始皇帝が豪快に笑ってみせる。

 

『そう責めてやるな、狄の王よ。越南の王も、俄罗斯の王も。王の名に恥じぬ輝きを持っていた。

さて。ならば朕は始皇帝の名に誓って。小さき城主の期待に応える弓術を見せるとしようぞ』

 

ふん、とメフメトも鼻息を鳴らす。

 

『ライダーのくせに宝具が弓とはな。これはアーチャーの俺も負けちゃいられねえ。

しかし、戦場で長々と口上を垂れやがって。見ろよ、英霊兵どもも引いてやがるぜ』

 

違う。嘘だ。メフメトの砲撃は派手だから、視界の端にも見えていた。

私が方針を決めるために考え、喋っている間も。

フェンリルを含めて、彼らは皆、自分の戦いを続けていたんだ。

左腕を負傷したスガでさえ、フェンリルの氷礫を躱した敵に右手だけで黒鍵を投擲している。

私は、私は……。一人で何を迷って……。

 

『いいか野郎ども!城主サマがあんな調子だから、代わりに俺が言ってやる。

()()()()()だ。イヴァンの分も、今度こそ皆で怪物を仕留める!

バーサーカー、俺の声は聞こえるんだろ。陽動とフリーダは任せたぜ!』

『人間の指図など受けん。我は我の好きに動く。バカ娘ども!せいぜい振り落とされるなよ!』

 

フェンリルの叫びも、私以外には遠吠えに聞こえるのだろうか。

何がおかしいのか。ふふ、と思わず笑みが零れる。

またスガに狂ったと思われてしまうか。それでも、()()()()()()()仕方ない。

 

英雄たちと共に並び立って戦えるとは、なんて幸運なことなのだろう!

()()()は、怪物にも深淵にも負けない。私は一人じゃない。大勢の仲間がいる!

何を恐れる必要があろう!ここにいる私は辺境の哲学者じゃない!自由(フリーダ)だ!

 

敵のランサー。その真名すら掴めぬままに、1騎を失ってしまったが。

まだ敗北したと決まったわけじゃない。諦めていない。レオにもそう言われたじゃないか。

そう、レオにだ。胸に手を当てる。彼女の証は、今も確かに私の手元にある。

 

『言いたいことはスルタンに言われてしまいましたが!

その通り、これより作戦の()()()()を始めます!英霊たちよ、今一度、私に勝利を!』

 

陸地側から向かってくる数十体の英霊兵を指さす。

フェンリルが進路を変えた。混戦を防ぐために、叩ける敵は叩いておこう。

――全ては、王と我らの勝利のために。




次話投稿予定:24日6時
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