Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第25節a 絶望に薔薇は咲く

"泥"の湖を越えて、街へと狼が駆けていく。

後ろを追いかける英霊兵の絶対数も、確実に減っている。

怪物が王と戦っている間は、泥による生体増殖も十全には機能しないらしい。

 

――なら、勝機はこちらにある。

フェンリルの吹雪と、スガの黒鍵と、私の銃身(バレル)。武器は十分だ。

敵が宝具を使えるようになったとは言え、それだけだ。よく観察すれば事前に兆候を察知できる。

 

金髪の大柄な英霊兵が、グラディウスを片手に水の上を走ってくる。

やがて男は空へ跳び上がり、私たちに刃を向けて迫って来た。

 

()()()()()()

銃声と共に、英霊兵は落下しながら塵へ変わっていく。

 

射程内に入った敵は、私の方から積極的に仕留めていく。

軽いケガとは言え、病弱持ちのスガにはあまり無理をさせられない。

残りは約二十体と言ったところか。これ位ならまあ、何とかなるだろう。

フェンリルの氷の牙(レーヴァティン)と私の極大光束(フルトランス)を合わせれば良い。湖岸も近い。仕掛けるなら今だ。

 

「バーサーカー、止まってください!私が向かって左を片付けます。あなたは右を。

アサシンは零れた敵をお願いします。距離(シュトリヒ)良し、撃ちます――!」

 

フェンリルが急旋回し、近付いてくる英霊兵に向き直って、空中で制止する。

返事はしてくれないが、意思は伝わってるのだろう。

 

魔力の流れが変わったのを知覚する。

私たちが停止したことで、英霊兵たちも宝具を展開しようとしているのだ。

無論、打たせはしないが。

 

フェンリルが氷の息吹から巨大な槍を作り出す。『氷霜を越えて突き立て、氷の牙』(ヴィダル・レーヴァティン)

氷の領域ニブルヘイムの主である彼の持つ神造兵装。裏切りの杖。不定形の魔槍。

紛い物とは言え、投擲された破滅の黎明(グラム)を砕いただけのことはある。これが神話の武器。

 

私も負けてはいられない。銃身(バレル)を構え、宝具の発動待機に入る。

ふと、ディオゲネスの言葉を思い出す。私の宝具の真名は、極大光束(フルトランス)ではないのだった。

実際には何を叫んでも、魔力収斂の過程さえ正しければ発動する。やはり"座"はいい加減だ。

それなら、良い機会だ。ちょっとアレンジしてみよう。

 

斬撃(シュナイデン)!……普通か。

蹂躙せよ(パンツァー・フォー)!これでは奇をてらいすぎか。うーん……。

思考には数秒もかけてないはずなのだが、フェンリルに皮肉られる。

 

『おい、バカ娘。戦場で我と並び立つ栄誉だけでは足らぬなら、

貴様の分の敵と共に、貴様の身も()()()()()変えてやろうか?』

「その呼び方は止めてください。わかってます、わかってますよ。集中します」

 

はぁ。見せ場を理解しない獣はこれだから。何て思ったらまた怒られてしまうな。

敵の兵力の限度が見えたとは言え、油断は禁物だった。これが片付いたら王の援護に行こう。

 

射撃、開始(フォイアー・ロース)!!」

『突き立て、食らえ!我が息吹!』

 

銃身(バレル)の光芒と氷槍の光束が、二色の軌跡を描きながら直進する。

各々の宝具を発動される前に、英霊兵たちが飲み込まれていく。

 

……悪くはなかったが、読者(わたし)(ハーツ)には響かないな。

せっかく銃士になったんだ。

次があれば、リッヒの著作からトリスタン卿のセリフでも引用して――

 

「消えなさい!」

 

スガの叫びと共に、私の直上を暗器が飛んでいく。黒い外套に短剣、少女の姿をした英霊兵。

しまった、回避されていたか。と思ったときには、敵はもう黒鍵によって消滅しかけていた。

怨霊の反英雄だったのか?まったく気付かなかった。さすがは気配遮断持ちのアサシンだ。

 

『ふん。今ので最後のようだな』

「ええ、そのようですね。では、改めてスルタンたちと合流を――」

 

噂をすれば。スルタンの乗った昇降装置がこちらに向かってくる。

向こうも片付いたのか。なら、後は"泥"を……。

 

異変に気付く。

泥が、後退している?

ランサーのいる湖の向こうを見る。

 

ランサーのいた場所に、巨大な石の塔が見える。

塔の周囲には三層ほどの壁があり、泥を吸い上げては、崩れていく。

あれは、まるでピラミッドやジグラットのような、巨大な墳墓……。

 

『政がやった。ランサーもあの中だ。(すげ)えな、長城ってのはよ』

 

メフメトから通信が入る。()()と彼は言った。

"白"のバーサーカー討伐のときに、マダガスカル島に築かれていた始皇帝の宝具。

――『万里長城』か。

いや、真名はこの際どうでもいい。ランサーがあの中にとは、一体、なぜ?

 

『お前の読みが外れただけだ。フリーダ。奴は政の弓でも殺しきれなかった。

霊核は心臓ではないらしい。そこで、だ。一人生き残っちまった皇帝サマから提案がある』

 

そんな……。仮にそうだとしても、始皇帝の弓が通じないなんて。

あの怪物は間違いなく神性を持っている。始皇帝の弓は神殺しの弓。相性は抜群のはずだ。

なぜ、なぜ倒せない。私の計算は、また間違っていたのか。私は、また仲間を無駄死にに……。

 

「聞いちゃいねえか、まあいい。アサシン、たぶんお前とも関わりある話だ。よく聞けよ」

(わたくし)に……?」

 

"長城"で封じたとしても、永遠には無理だ。

閉じ込めただけ。倒したわけじゃない。いつかは壊され、外へ出てくる。

そうなったら、おしまいだ。そうでなくても、もう無理だ。私にはこれ以上の手札がない。

 

「アーラシュ・カマンガーって知ってるか?大昔の波斯(ペルシャ)の国の英雄の名だ。

お前は日本人だから知らないかもしれないが、世界一の弓の名手でな。

その矢は空に浮かぶ星をも穿ったらしい。信じられないが、俺も弓兵の端くれだ。尊敬するよ」

 

氷の牙(レーヴァティン)は神造兵装でも、神殺しの逸話はなかったはずだ。

残り全員の宝具を合わせても、王が倒せなかったなら無理だろう。

私は、どこかで間違えた。間違えてしまった。ここまで来たのに、私たちは全滅する。

 

「もう一人。ナポレオン・ボナパルトという男は知っているか?知ってる?そりゃ良い。

"座"でも有名、歴史書ではもっと有名な、俺より後の時代の()()()()の初代皇帝。

俺やイヴァンと同じ砲手だが、そいつは一兵卒から皇帝になった。それも(すげ)えよな」

 

メフメトが、ずっと一人で喋っている。

相槌を打つ者もいない。敗軍の将に、語るべき言葉などない。

――不可能だ。虚数解だ。一時的に膠着させただけの戦況を打開する策など、私にはない。

 

「その男が言ったそうだぜ。『吾輩の辞書に()()()は無い』ってな。

わかるだろ、フリーダ(ニーチェ)?お前の得意な格言(ヴィチゼ)ってやつだ」

 

――え?

 

「なあ、フリーダ。お前はちょっと、ネガティブすぎると思うぜ。

これは戦争だ。()()()()だ。思い通りにいかないことなんざ、たくさんある。

その度に一々将が折れてちゃ、国はあっという間に滅ぶってもんだ」

 

そんなこと、そんなことは――

 

「わかってない。レオのときから、ずっとだ。お前は心の中では泣いてばかり。

先に謝っておくぞ。俺はお前ほど口が達者じゃないから、上手く言えん。

それでもお前の優しさは、お前の長所だ。だから胸を張れ。お前はお前のままでいい」

 

その言葉も、聞き飽きた。私が私らしく振舞った結果、いつも誰かが死んだ。

どんなに悔やんでも、失った命は還らない。

これで大戦はランサーとプラトンの勝ちだ。大聖杯がどうなったかもわからないままに。

優しい言葉をかけられたって、状況は変わらない。

 

「変わるさ。変わるとも。なぜなら今の俺は兵士で、お前は城主だからだ。

お前さえ負けなければ、例え俺たちは()()()()負けない。

試合(ころしあい)には負けても、勝負には勝つ。大戦って、そう言うもんだろ?」

 

何を、何を言ってるか、よくわからない。

現実を、メフメトも受け入れられていないのか?

 

『おい、人間の王。まさか、貴様――』

「うお、もしかして、今俺に話しかけてるのか?そいつ。

ここに来てちょっとだけわかるような気がしてきたぜ。マジ多芸だな、俺。

……ま、そう言うことだ。成り行きだったが、今回の遠征も割と楽しかったぜ」

 

泥を吸い上げていた長城の一層目が、崩れ始める。

始皇帝が退去したのか。それとも長城の限界を超えたのか。

 

「さあな。まあ、壁がたくさん残ってるうちの方がウルバンの奴も喜ぶだろう。

フリーダ、よく見ててくれよ。これが俺の、アーチャー・メフメト二世の()()()()()だ」

 

装置の上に、巨大な大砲を召喚する。最初に、機動聖都からサハラ砂漠で見た物と同じ。

城攻めのための巨砲。三重の城壁(コンスタンティノープル)を破った大質量兵器。

だがそれは()()()()だ。それでは始皇帝の長城は壊せても、中のランサーまでは……。

 

「殺すのは無理だろうな。だが、奴の新しい弱点はわかってる。()()だ。

これも政が見つけてくれた。そして、俺が狙いやすいようにああ言う形で作ってくれた。

なら、俺はこの機会を無駄にはできねえよなぁ?」

 

大砲に魔力が充填されていく。

せっかく檻に閉じ込めたのに、怪物を解き放つのか。

仮初の黄昏を、その手で終わらせるのか。

 

「終わらせるんじゃないぞ、()()()()()んだ。

大戦の観測者よ。儚き民草の少女よ。用心棒サマからの置き土産だと思え。

諦めるな。何があってもだ。それがお前の、ここにいる意味だと俺は思う。

スルタンの王命だ。()()()()()()。民を生かすのは、いつだって王の役目だからな」

 

ただ生きてたって、死ぬのに?

どうせ死ぬなら、生きて、戦って死ねと?

 

「……そういうとこだぞ、フリーダ。まあいいさ、ここから先はお前が決めろ。

射線良し、射角良し、射高良し。砲弾装填完了。受け取れ、怪物。『鉄壁城塞陥落(サフィー・トゥフ)』!!」

 

メフメトが光の塵になって消えていく。砲弾とは、自分の霊核のことか。

カマンガーの真似事。詰まる所、特攻じゃないか。あれは弓兵なら誰でもできるのか?

だとしても、民には生きろだなんて言っておいて。私より背低いくせに、無責任な王様――。

 

砲が、光を放つ。長城を砕き、陵墓を貫き、獅子の頭を覗かせる。

その光は、豪奢を好んだ彼にしてはあまりに質素で、飾り気も無い単色の。

されど、スルタンの生き様にはふさわしい、薔薇色の光だった。

 

 

 

 

 

砂塵の征服者は、悲嘆に暮れる少女に可能性の橋を架けて退去した。

私はこれを、白のサーヴァント六人目の脱落と定義する。




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