Fate/Apocrypha Revival in the Interstice 作:梨央
窓を見遣る。ヴラドは地上降下装置で降りていったようだ。
砂漠の中。遠目に大砲のようなものが複数見える…やはり対城宝具の類だろうか?
となるとあちらの敵はアーチャーか、ライダーか。とにかく彼の武運を祈ろう。
私たちが離れる前に、聖都の高度を引き上げて魔術迷彩と自動防衛機構を発動させる。
これで当面の拠点の安全は確保できたはずだとシャルルは言う。
シャルルと私は降下装置でキャスターの工房付近を目指す。
戦闘が目的ではない。まずは話し合い、協力の要請。
相手がどう出るかで、都度対処を考えよう。大丈夫だ。ここまでは間違えていない。
見えてきた。
大きな十字架。時計台に続く螺旋階段。貝をモチーフにしたと思われるオレンジと青の外壁。
荘厳で洗練された現代建築の教会だが、付近に渦巻いてる魔力は明らかに現代の物ではない。
ここが、キャスターの工房――。
「俺は教会ってのはもっとこう…堅っ苦しいイメージがあったけど、カッコいいなー!
何より美しい!ロマネスクもいいものだが、現代の建築も素晴らしい!アリだ!」
敵地にいると言うのにシャルルも感嘆の声を漏らす。
「ふーん。英霊サマの眼にもそう言う風に映るんだ?」
教会の扉が開き、工房の主と思しき人物が歩み出てくる。
ツリ目の赤色の瞳の少女が、いかにもな気の強そうな目つきでこちらを睨んでいる…。
「これは失礼をした。俺は"青"のセイバー。ここにいる可憐な少女フリーダと、
今ここにはいないがもう一人"青"のランサーと三人で同盟を組み、事態の観測に当たっている。
この工房のキャスター殿とお見受けする。まずは、俺の話を聞いてくれないか?」
シャルルは丁重に頭を下げる。
騎士の礼、というやつだろうか。
私もシャルルに倣い頭を下げた。
「その通り、私は"白"のキャスターよ。でも話は良いわ。長くなりそうだし」
あっさりと断られる。
「残念だけど。私は主の奇蹟を再現するだとか言うふざけた聖杯に興味はないの。
もちろんくだらない戦闘も勘弁。敵対するつもりもないし、私はそのうち適当に退去するから。
魔術要員が欲しいなら他を当たりなさい。じゃそう言うことで」
一方的に告げて、扉を閉めようとするキャスター。
シャルルは慌てて引き留める。
「ま、待ってくれ。あなたが鋭い観察眼をお持ちだと言うのはよくわかった。
こちらとしてはお互いの情報の共有だけでも…」
「しつこいわね。わかったから中に入りなさい。外は暑くてたまらないの。
まったくもう…ローマの涼しさが恋しいったらないわ」
ローマ、と口にした。
やはりこのキャスターはシャルルと同じ地域の英霊…。
拘束術式や呪詛が仕掛けられていないことを確認し、中に入る。
す、涼しい……。外とは比べられないほどに快適だ。
そして内装も見事だった。
大理石の聖具や調度品。開いたままの聖書が置かれた講壇。よく手入れのされた椅子。
棚には信徒たちのものと思われる聖書がずらりと並んでいる。
「言っておくけど。これは私が作ったわけじゃないわよ。
残ってた主の家の中から直感で決めたの。
ま、結界用に少しいじらせてもらったけど、ほとんどそのままで機能してるわ。
現代の信仰も捨てたものじゃないわね」
シャルルと私は並んで教会の長椅子に腰かける。
講壇に立ち、説教でも始めるかのように構えるキャスター。
「それで?迷える仔羊たち。情報と言っても何を共有したいのかしら?
私から提供できるのはどのサーヴァントがどこにいるのかぐらいだけど」
「凄いな。アサシンでもないのに気配探知の術を持っているのか」
「当たり前でしょ。私を誰だと思っているの?信仰心のある所全ては主の御庭なんだから」
「そうだな。直接の協力をもらえないのは残念だが、その情報だけでも非常にありがたい。
見返りに与えられるのは聖都の自立式防御の一部と、俺の真名ぐらいだが、それでいいだろうか」
「構わないわよ。あなたたちがどこの英霊サマか知らないけど、端から戦う気はないんだし。
ひ弱そうなあなたはともかく、そこの騎士サマなら面白い話の一つや二つあるでしょう。
帰ったらあなたの英雄譚を調べてせいぜい笑わせてもらうから。はい、これ」
キャスターが
受け取って広げてみると、大陸の地図の至る所に陣営とクラス名が書いてあった。
サーヴァントのある程度の特徴も書かれている。
「もしサーヴァントが移動しても私が生きてる限り情報は更新されるわ。
羽ペンは自動筆記の機能も付けたから。さ、もういいでしょ。置くもの置いて二度と来ないでね」
「ありがとう。キャスター殿の協力に感謝して、我が真名を預けよう。
俺の
カラン、と音が教会に響いた。
キャスターが持っていた司教杖を落としたようだ。
足元まで転がってきた杖をシャルルが拾い、キャスターに渡そうとする。
一方のキャスターはシャルルを見つめたまま固まっている。
「やっぱり
防御機構は先程教会に配備した。操作は自動だが、あなたなら多分改造もできるだろう」
「
搾りだすようにして、シャルルのもう一つの名前を告げるキャスター。
…様子が変だ。
シャルルを凝視していたかと思えば、急に背けた顔を赤らめて、あれではまるで――。
「悪い。その名前で呼ばれるのは好きじゃないんだ。シャルルでいい。俺は――」
「主よ、御身の奇蹟に深く感謝を捧げます。
「待ってくれ。あなたは勘違いしているようだが、俺はシャルルであってカールじゃないんだ」
「いいえ。あなたは先程確かに
私の記憶にあるお姿とは少々違いますが、なるほど確かに大帝の風格を感じます。
ヒトならざる英霊としての再臨では、こういうこともあるのでしょう」
“白”のキャスターは。いや、女教皇は。
ミトラを脱ぎ、燃えるような橙色の長い髪をなびかせ、己が真名を告げた。
「私はレオ三世。ハドリアヌス一世に続く者、第九十六代ローマ教皇。
そしてカロリス、あなたに皇帝の位を授けた者です」
よもやお忘れですか、と続ける彼女の言葉は恐らくシャルルには届いていない。
私は、状況をそう分析していた。
次話投稿予定:21日0時