Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第4節a もう眼を見れない

窓を見遣る。ヴラドは地上降下装置で降りていったようだ。

砂漠の中。遠目に大砲のようなものが複数見える…やはり対城宝具の類だろうか?

となるとあちらの敵はアーチャーか、ライダーか。とにかく彼の武運を祈ろう。

 

私たちが離れる前に、聖都の高度を引き上げて魔術迷彩と自動防衛機構を発動させる。

これで当面の拠点の安全は確保できたはずだとシャルルは言う。

 

シャルルと私は降下装置でキャスターの工房付近を目指す。

戦闘が目的ではない。まずは話し合い、協力の要請。

相手がどう出るかで、都度対処を考えよう。大丈夫だ。ここまでは間違えていない。

 

見えてきた。

大きな十字架。時計台に続く螺旋階段。貝をモチーフにしたと思われるオレンジと青の外壁。

荘厳で洗練された現代建築の教会だが、付近に渦巻いてる魔力は明らかに現代の物ではない。

ここが、キャスターの工房――。

 

「俺は教会ってのはもっとこう…堅っ苦しいイメージがあったけど、カッコいいなー!

何より美しい!ロマネスクもいいものだが、現代の建築も素晴らしい!アリだ!」

 

敵地にいると言うのにシャルルも感嘆の声を漏らす。

 

「ふーん。英霊サマの眼にもそう言う風に映るんだ?」

 

教会の扉が開き、工房の主と思しき人物が歩み出てくる。

ツリ目の赤色の瞳の少女が、いかにもな気の強そうな目つきでこちらを睨んでいる…。

司教冠(ミトラ)を被り、白の司祭服(ストラ)を纏っているということはキリスト教の聖職者(クレリック)だろうか?

 

「これは失礼をした。俺は"青"のセイバー。ここにいる可憐な少女フリーダと、

今ここにはいないがもう一人"青"のランサーと三人で同盟を組み、事態の観測に当たっている。

この工房のキャスター殿とお見受けする。まずは、俺の話を聞いてくれないか?」

 

シャルルは丁重に頭を下げる。

騎士の礼、というやつだろうか。

私もシャルルに倣い頭を下げた。

 

「その通り、私は"白"のキャスターよ。でも話は良いわ。長くなりそうだし」

 

あっさりと断られる。

 

「残念だけど。私は主の奇蹟を再現するだとか言うふざけた聖杯に興味はないの。

もちろんくだらない戦闘も勘弁。敵対するつもりもないし、私はそのうち適当に退去するから。

魔術要員が欲しいなら他を当たりなさい。じゃそう言うことで」

 

一方的に告げて、扉を閉めようとするキャスター。

シャルルは慌てて引き留める。

 

「ま、待ってくれ。あなたが鋭い観察眼をお持ちだと言うのはよくわかった。

こちらとしてはお互いの情報の共有だけでも…」

「しつこいわね。わかったから中に入りなさい。外は暑くてたまらないの。

まったくもう…ローマの涼しさが恋しいったらないわ」

 

ローマ、と口にした。

やはりこのキャスターはシャルルと同じ地域の英霊…。

 

拘束術式や呪詛が仕掛けられていないことを確認し、中に入る。

す、涼しい……。外とは比べられないほどに快適だ。

そして内装も見事だった。

大理石の聖具や調度品。開いたままの聖書が置かれた講壇。よく手入れのされた椅子。

棚には信徒たちのものと思われる聖書がずらりと並んでいる。

 

「言っておくけど。これは私が作ったわけじゃないわよ。

残ってた主の家の中から直感で決めたの。

ま、結界用に少しいじらせてもらったけど、ほとんどそのままで機能してるわ。

現代の信仰も捨てたものじゃないわね」

 

シャルルと私は並んで教会の長椅子に腰かける。

講壇に立ち、説教でも始めるかのように構えるキャスター。

 

「それで?迷える仔羊たち。情報と言っても何を共有したいのかしら?

私から提供できるのはどのサーヴァントがどこにいるのかぐらいだけど」

「凄いな。アサシンでもないのに気配探知の術を持っているのか」

「当たり前でしょ。私を誰だと思っているの?信仰心のある所全ては主の御庭なんだから」

「そうだな。直接の協力をもらえないのは残念だが、その情報だけでも非常にありがたい。

見返りに与えられるのは聖都の自立式防御の一部と、俺の真名ぐらいだが、それでいいだろうか」

「構わないわよ。あなたたちがどこの英霊サマか知らないけど、端から戦う気はないんだし。

ひ弱そうなあなたはともかく、そこの騎士サマなら面白い話の一つや二つあるでしょう。

帰ったらあなたの英雄譚を調べてせいぜい笑わせてもらうから。はい、これ」

 

キャスターが司教杖(バクルス)を振るうと、一枚の羊皮紙と羽ペンが現れ、手元に投げられる。

受け取って広げてみると、大陸の地図の至る所に陣営とクラス名が書いてあった。

サーヴァントのある程度の特徴も書かれている。

 

「もしサーヴァントが移動しても私が生きてる限り情報は更新されるわ。

羽ペンは自動筆記の機能も付けたから。さ、もういいでしょ。置くもの置いて二度と来ないでね」

「ありがとう。キャスター殿の協力に感謝して、我が真名を預けよう。

俺の真名()は、シャルルマーニュ。御伽噺の聖騎士(パラディン)さ」

 

カラン、と音が教会に響いた。

キャスターが持っていた司教杖を落としたようだ。

足元まで転がってきた杖をシャルルが拾い、キャスターに渡そうとする。

一方のキャスターはシャルルを見つめたまま固まっている。

 

「やっぱり(カール)の知り合いだったか?悪いな、そっちの記憶は曖昧で。

防御機構は先程教会に配備した。操作は自動だが、あなたなら多分改造もできるだろう」

カール(シャルル)……大帝(マーニュ)……」

 

搾りだすようにして、シャルルのもう一つの名前を告げるキャスター。

…様子が変だ。

シャルルを凝視していたかと思えば、急に背けた顔を赤らめて、あれではまるで――。

 

「悪い。その名前で呼ばれるのは好きじゃないんだ。シャルルでいい。俺は――」

「主よ、御身の奇蹟に深く感謝を捧げます。

カロリス(カール)、さあ私をどこへでもお連れください。私があなたの敵全てを焼き払いましょう」

「待ってくれ。あなたは勘違いしているようだが、俺はシャルルであってカールじゃないんだ」

「いいえ。あなたは先程確かにカール(シャルル)と名乗りました。

私の記憶にあるお姿とは少々違いますが、なるほど確かに大帝の風格を感じます。

ヒトならざる英霊としての再臨では、こういうこともあるのでしょう」

 

“白”のキャスターは。いや、女教皇は。

ミトラを脱ぎ、燃えるような橙色の長い髪をなびかせ、己が真名を告げた。

 

「私はレオ三世。ハドリアヌス一世に続く者、第九十六代ローマ教皇。

そしてカロリス、あなたに皇帝の位を授けた者です」

 

よもやお忘れですか、と続ける彼女の言葉は恐らくシャルルには届いていない。

私は、状況をそう分析していた。




次話投稿予定:21日0時
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