Fate/Apocrypha Revival in the Interstice   作:梨央

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第4節c 極刑王

サハラ砂漠、モーリタニア。

 

『――どんな人間も私は恐れまい。だが、悪魔(ドラクル)だけは別だ。』

 

どこまでも砂の続く平原に、新兵(イェニチェリ)だったものたちが並んでいる。

所詮は使い潰しの利く、使い魔代わりの雑兵だ。

ただ敵に倒されたならまた呼び出せばいい。

だが――。

 

この景色をかつて()は見たことがある。

トゥルゴヴィシュテの城塞。死と血と腐臭の林。

騙し討ち同然に、あの忌々しい杭に打たれた同胞たちの変わり果てた姿!

 

俺は今回の聖杯大戦において、"白"の陣営のアーチャーと定義された。

輝かしい栄光に満ちた、偉大なる征服者(ファーティフ)三重の防壁(コスタンティニエ)を破った男。

それが俺だ。俺のはずなんだ。

 

俺にとってワラキアという国は征服した国々の一つでしかない。

それでも、俺の霊基には染み付いて消えぬモノがある。

決して認めたくはないが。あの光景にはただただ、怯え、恐れている。

これだけの示威を、恐怖を、俺と同じ人間が一体どうすれば与えられるのだ。

 

杭の群れの奥に悪魔(ドラクル)が立っていた。

血に塗れた串刺し公(カズィクル・ベイ)

ただ殺すのではなく、俺への見せしめとして。二万の捕虜を殺戮した男。

 

「――ほう」

 

男が口を開く。

生前の戦場ではついに勝てなかったあの悪魔が、俺に話しかける。

 

「我が杭を見てまだ立っている者がいると思えば、貴様とはな。蛮族の王よ」

 

あいつは、俺をよく知っている。

 

「だが喜べ。余は慈悲深い。英雄たる者の務めならば、過去の遺恨は全て水に流そう。

"白"のアーチャー、テュルクの王よ。貴様もこの事態の異常は理解しているだろう?

ならば余に与せ」

 

な…に…?

この男は、一体何を言っている?

 

「余の臣下の城を攻撃した罪科は、我が杭によって贖われた。

我らはまだ見ぬ敵に備えるため、一騎でも多くの英霊の力を結集せねばならぬ」

 

ふざけるな。

俺の聖杯大戦はまだ始まったばかりだと言うのに、

貴様によって兵を皆殺しにされただけでなく、降伏しろだと?

 

恐怖に屈しそうなのを必死で打ち消しながら。

俺は必死で抗う。短刀(ヤタガン)を振り上げ、叫ぶ。

悪魔の言いなりになどなるものか。

 

「ヴラド・ツェペシュ!俺は貴様だけじゃない。全てのサーヴァントどもを殺して、

聖杯大戦に勝利する!そしてカルナックの大聖杯を手に入れるんだ!」

 

だが。

悪魔は動揺の色すら見せず、首をかしげ、大げさにため息をついてみせた。

 

「失望したぞ、皇帝(スルタン)よ。貴様ともあろう者が小事に拘泥し大局が見えておらなんだとはな」

 

「何……?」

 

「余と戦いたいと言うのなら止めはせぬ。ただし余に誓うがいい。

万が一、貴様が余を討ち果たしたならば。ここより南にいる聖騎士と娘を訪ねると。

貴様の恐怖の具現たる余が理解させられぬことでも、彼らに会えばきっと理解しよう。

彼らの話を聞くまで、彼らに手を出すことは許さぬ。

これはサーヴァントとしてではなく。一人の人間として、王としての約定である」

 

「いいだろう!誓ってやる!

俺は貴様を殺し、貴様の仲間も殺して、必ずや聖杯を手に入れる!」

 

"青"のランサーの眼が赤く光った。

がくん、と首に違和感が走る。

奴め、本当に強制(ギアス)を……?

 

だが今は後だ。

俺は、目の前の奴を……!

 

奴は手にした槍を手に不敵に笑っている。

俺は短刀を構え、飛び掛かった。

 

奴の宝具である杭は、杭そのものではなく、突き立てられた杭が本質なのだと言う。

俺の新兵(イェニチェリ)を容易く仕留められたということは、この辺り一帯は既に奴の領土なのかもしれない。

奴の杭が空から大量に俺目掛けて降ってくる。

だがそれがどうした。

俺は城壁用の巨砲とは別の、大砲を二門用意する。

 

轟音。

奴の杭と、俺の砲が撃ち合い、相殺される。

奴が無限に杭を再生するなら、俺はその全てを破壊するまでだ。

 

いける。

俺は奴に斬りかかり、奴は槍で受け止める。

 

「どうした悪魔(ドラクル)!貴様は串刺しばかりで槍の扱いには慣れていないのか!?」

 

今のところ俺の剣戟を防いではいるが、奴の槍は軽い。

このまま押し通って――

 

「『極刑王(カズィクル・ベイ)』」

 

激痛。

足が、動かない。

何本もの杭が突き刺さっている。

 

「曰く、三騎士のクラスは四騎での召喚より英霊本人の高潔な側面が現れやすいと言う。

それに期待した余が愚かであった。蛮族にそのような人格は存在しないのだと理解したぞ」

 

奴が槍から片手を離し、なぞるように手を動かす。

()()()()()()次々と杭が現れては、腕や胴、脚を突き破る。

 

「逆にもし貴様が騎兵のクラスで召喚されていれば、

貴様も貴様の軍勢ももう少しは歯ごたえがあっただろうに。残念でならぬ」

 

痛い。

思わずこみ上げた血の塊を吐く。

 

「さらばだ。アーチャー。また別の戦場で挑むがいい」

 

槍を高く掲げる。

奴は俺に止めを刺そうとする。

 

 

 

まだだ。

まだ終わらせない。

 

皇帝(スルタン)を舐めるな、ランサー」

 

届いた。

俺の短刀は、確かに奴の心臓を捉えた。

 

腕の拘束が不完全だったのは助かった。

皇帝特権、スキル取得、仕切り直し――。

利き腕だけ再生強化したのが上手くいった。

 

「ふん……。ようやくそれらしい顔を見せたか、アーチャー」

 

「俺の勝ちだ、ランサー。さっさと失せろ」

 

奴は黒い塵になって、消えた。

 

まずは一人。

あと何騎残っているのかは知らないが、俺はその全てを蹂躙し――。

 

いやその前に。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

俺はラクダを呼び寄せ、迷わず南を目指した。

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