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セシリアがアリーナステージへ強行突破する直前。Aピット内にいた四人がBピットの方へ意識を向けていた頃、もう一つの熱源反応があった第二アリーナ入り口付近では───。
「………」
『最優先事項。目標の篠原日葵を発見、行動を開始する』
入り口の外側にいた日葵は謎のISと遭遇していた。周囲には誰もいなく、扉の内側からは数々の悲鳴と必死に扉を叩く音が響いている。
普通このような状況に陥ると多少なりとも不安や恐怖に駆られる訳だが、彼女は不気味な笑顔のままだ。微塵たりとも不安も恐怖も一切見受けられない。
「あなた誰ぇ?私に何か用かなぁ?」
───瞬間。
「あぶなっ」
言い切ると同時に謎のISはその巨大な腕を彼女に向けて伸ばす。あと少しで届く所だったが彼女は焦ることなくこれを後方に跳んで回避、そのまま後退る。
回避された事が意外だったのか空振りしたまま硬直するが、それも直ぐにやめ彼女との距離をじわじわと詰めていった。
「………ふーん、そっかそっかぁ。私が目標ってのは聞き間違いじゃなかったんだねぇ」
相手は彼女の言葉に一切反応はしない。どうやら聞く耳を持たないようだ。
「私を拐いに………いや、それとも殺しに来たのかな?まぁどっちだっていいやぁ。狙われてる事には違い無いんだしぃ」
一見、自身が窮地に追いやられてる状況にも関わらず彼女は余裕の表情だ。腕を組み大袈裟に頷く姿から見るに本当に怖がってないのだろう。
しかし、そのにこやかな表情は次第に歪み始めていく。
「じゃあさぁ、あなた………私の敵ってことだよねぇ」
謎のISは彼女の豹変に怯むことなくゆったりと迫っていく。まるで小動物を追い詰める狩人のように。しかし───。
「だったらぁ………遠慮なくぶっ壊してもいいってことでしょっ!?いいよねぇっ!?」
───目の前の少女は決して小動物という可愛らしいものではない。
「アハァッ!何しに来たのか知らないけどさぁ、まさか五体満足に帰れるなんて思ってないよねぇ!?残念でしたぁっ!あなたはここでぶっ壊しまーっすぅ!!今決めましたぁっ!!!」
彼女は足を止め嗤い狂う。獲物は私ではない、お前だとでも言うかのように。
「ヒヒッ。覚悟してねぇ、二度と歯向かえないようにしてあげるからさぁ」
彼女に容赦という言葉は存在しない。歯向かう者、自分を邪魔する者は全て敵だ。これまでもそうやって相手を潰していきここまで来たのだ。
かつてのブリュンヒルデがそうしたように、立ち塞がる者は力ずくで黙らせる。
政府高官も知らない、
彼女の異常性を察知したのか、謎のISは相手が生身にも関わらず急加速を始め接近していく。
しかし、彼女はそれに臆することなく右手を自身の首元───襟の内側のソレに触れる。
「───『
彼女がそう呟いた瞬間、謎のISはけたたましい破裂音と共に吹き飛ばされた。
第二アリーナステージ。隆道がいるBピットに向かおうとした一夏は謎のISの豹変した動きによって簡単に阻まれ吹き飛ばされたが、彼は一度失敗したくらいで諦める男ではない。
妨害によって機体と自身両方にダメージを負ったはずなのだが、今の彼は痛みよりも怒りが勝っていた。
「どうしてだあああぁぁぁっ!!!!!!!!」
何故、よりによって彼なのだ。何故、自分じゃない。自画自賛する訳ではないが、世界最強の弟だの最新の第三世代ISを持っている自分の方が優位性があるはずだ。なのに───。
「うあああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
Bピットの前に立ち塞がる敵に向かって一夏は再び突撃する。今度は全力とも言える瞬時加速を使用して。
高機動である『白式』の瞬時加速は正に驚異的だ、ハイパーセンサーで捉えることはほぼ不可能だろう。しかし───。
「ぐあっ!?!?」
───軌道を予測出来れば反撃など容易い。
再び彼の攻撃は巨大な腕によって弾き返され、その直後の打撃によってまたしても壁際まで吹き飛ばされる。
怒りによって冷静さを失った彼が侵入者に一撃を与える確率は───ゼロに等しい。
「ああ、くそっ………ちくしょう………」
彼は這いつくばりながらも嘆いていた。二度にわたって渾身の一撃がいとも簡単に防がれたのだ。怒りは未だに沸き上がってくるが、それと同時に自分の弱さと相手の強さに絶望していた。
───絶対に勝てないと。
「───っ!?あなたよくもっ!!」
「私達もいること忘れてるんじゃないわよ!!」
そばにいたセシリアと鈴音は敵の動きに唖然としてしまったが、いつまでも黙ってる訳にはいかない。彼女達は代表候補生だ、このような事態は迅速に対応しなければならないのだ。
「アンタ、私がアイツの気を引くから隙を突いてBピットへ行きなさい!」
「………任せますわ!」
本来なら連携して撃退したのち向かうべきなのだが、今は回線が阻害されてる為戦闘中のやり取りが不可能だ。至近距離でないと互いの声が聞き取れない。
二人が昔からの馴染みで息が合うのなら回線が無くてもある程度は出来るだろうが、両者とも顔見知り程度だ。連携経験など一切無い。
故に近接を得意とする鈴音が敵を引きつけ、セシリアがその隙に隆道の元に向かう事になる。
「はあぁっ!!」
分離した『双天牙月』を用いて鈴音は敵に急接近、回転を織り混ぜた連撃で攻撃を仕掛ける。だが相手は余裕と言わんばかりに全て弾き、回避してしまう。
「ああ、くそっ!なんなのよその人間離れした動きはっ!?」
国家代表クラスでもやらないような化け物染みた回避を前に彼女はつい悪態をつく。以前まで自分は強い方だと思っていたが、こうも通用しないとその自信も無くなってしまう。
だが、彼女が敵を引きつける事には成功してるのでその隙にセシリアが救援に向かう事が出来るはずなのだが───。
「くっ!?ち、近づけませんわ………!!」
何故鈴音が敵を引きつけてるにも関わらずセシリアは未だにBピットへ行けないのか。答えは簡単であった。
(凰さんの攻撃を捌きながら此方に制圧射撃!?化け物ですの!?)
なんと謎のISは鈴音の連撃を捌きながらセシリアに対しビームを連発していたのだ。それもBピットに近づけないよう的確過ぎる精密射撃で。
どれだけ捻りを加えた動きであってもそこにビームが飛んでくる。ダメージを受ける覚悟で突っ切る事も一度は考えたが、アリーナシールドを貫通するほどだ、絶対に無事では済まない。
もはや敵の戦闘能力は人間の範疇を超えている。 その事実に二人もまた一夏と同様に絶望を感じていた。
三人が絶望の真っ只中にいる中、Aピットにいる教員二人も事態の対処に全力を注いでいたが、状況は一切変わらなかった。
「くそっ!とうとう三年達からの通信も途絶えた!真耶、そっちは!?」
「ダメです、織斑君達の回線も未だ復旧しません!此方でもシステムの干渉すら受け付けないなんて………!?」
「徹底してるな………何がなんでも邪魔はさせないらしい………」
「このままじゃ、柳君が………!?」
状況は最悪だ。全回線は遮断され指示も出せない、扉は全てロックされてる為行動も起こせない。
「柳は………柳は無事なのか………!?」
千冬は余程焦っているのか、先程から何度もタブレットを確認している。
現状、隆道の安否を確認出来るのはこのタブレットのみだ。この端末だけ影響が無かった事が唯一の幸いであろうか。
そのタブレットには彼が『灰鋼』を展開したログが残されている。タイミングからしてセシリアがステージに強行突破した後だ。
バイタルサインは多少乱れてはいるが警告域には達していない為まだ大事には至って無いのだろう。
「どうすればいい………!?どうすれば………」
出来る事なら自らが出撃したい。しかし生徒用の訓練機は勿論、教員用のISすら別の場所だ。Aピットに缶詰にされてる状態では取りに行く事すら出来ない。
教員二人も、この状況に絶望していた。
「何が教師だ………!我々は………何も出来ないのか………!?」
「織斑先生………」
悔やんでも無駄なのは分かっている。だが何も出来ない以上声に出さずにはいられなかったのだ。
───そんな二人の前に更なる絶望が降りかかる。
「「!?!?!?」」
突如タブレットから鳴り響く警告。それを聞いて千冬は今まで味わった事の無い悪寒が走った。
ゆっくりと視線だけを端末に向けると───。
───操縦者の深刻ナ異常を確認。心拍数不不不不安定。緊…急処置ヲ実行。………不可能───。
───深刻なシン的外ショウ後ス*レス障ガイto判dddn───。
───自kkko防エイsystem『キョウ犬』を強セイ起dddddddddddd───。
───ジコボウエイsystem、ハソン───。
───システム、キドウフカノウ───。
───バイタルサイン、ショウシツ───。
───『ハイハガネ』lost───。
「あ、ああ───」
───彼女の頭は、真っ白になった。
時間は侵入者が現れた直前に遡り、Bピット。急にモニターが映らなくなった事に隆道は何事かと疑問に思っていた。
「あ………?おいおい、今からだって時に───」
一夏が何かを決し、鈴音に向かって何かをしようとした途端に映像が途切れたのだ。肩透かしを食らった彼はずっこけ、つい愚痴を溢してしまう。
「おわっ」
だがそんな事を口に出した直後に鳴り響く爆発音。その巨大な音と共に出る震動によって彼は椅子から転げ落ちた。
「あでっ。………何だよ今のは」
爆発もそうだが今のは震動はなんだ。ステージにいた二人が出したようには思えない。現に今もステージの方向から連続した爆発音が聞こえるが、モニターが映らない以上何が起こってるかわからない。
「………しかたねえ、向こう行くか」
これではここにいる意味が無い。生徒が密集している通路に戻るのは嫌だが、そうも言ってられないのだ。
文句を垂れながらも扉まで進むのだが、ここで彼は気づく。
「………悲鳴?」
よく耳を澄ますと、小さくはあるが通路から悲鳴が聞こえる。ピットは頑丈な造りであり、防音効果もある。故に扉に近づくまで悲鳴に気づかなかった。
「なんで悲鳴なんか………んあ?」
そしてもう一つ気づいた事、扉が一切の反応を示さないのだ。パネルに触れても、扉を叩いてもうんともすんともいわない。
「閉じ込められた………?」
いったい何故と疑問が尽きない。未だに鳴り響く爆発音と小さな震動。開かない扉に通路から辛うじて聞こえる悲鳴。もしや自分の見えない所でとんでもないことが起きてるのでは無いかと推測する。
「………つっても、何も出来ねえんじゃどうしようもねえわな」
回線を用いて連絡を取るという手が残っているのだが、生憎彼はその方法を覚えてない。今までISを纏ってる時は一夏と近場でしか会話してないのでチャンネルの開く事など無かったのだ。
もっとも、その回線も直ぐに遮断されるので覚えてようが連絡は取れないのだが。
「あーあ、暇になっちまった。どうすっかな………」
暇潰しなど用意してない。眠気など一切無いので昼寝など出来ない。現代人ならではの携帯を弄るという手もあるのだが、自身の携帯は適性検査を強要された際に紛失したので手元に無いのだ。
「まったく、これじゃここに来た意味が───」
暇を持て余してしまいBピット内ををうろつく───その時だった。
「───っ!?」
突如、彼の視界の色が反転し、心臓の鼓動が強くなる。
彼はこの感覚を良く知っている。
それはここ数年、脅威に晒された事によって彼が身に付けた技能───『危険察知』。
それによって感じるのは自身に襲い掛かる『物理的な脅威』。
その『脅威』の行方は、自身の真後ろに───。
「っうおあぁっ!?!?!?」
彼はその『脅威』から全力で跳び離れる。その直後に聞こえるのは何かを掴んだような鈍い音。その正体を見るべく振り返ると、そこには『透明なナニカ』がいた。
「はっ………はっ………な、なんだよコイツ………」
その『透明なナニカ』は次第に姿を写しだし、やがて全身が目視出来るようになる。
そこにいたのは『黒い巨人』だった。不気味なカメラアイ、至るところにある複数のスラスター、そして体格に合わない巨大な腕。
『人』からかけ離れたソレは彼の前に佇み、ゆっくりと歩み寄っていく。
「───っ!?こ、コイツは!?!?!?」
見たことの無いソレを見て彼は戦慄した。
コイツはなんだ?いつからそこにいた?どうやってここに入ってきた?今、自分に何をしようとした?などと思考が渦巻く。
『ステルス行動失敗。最優先事項『柳隆道』、行動を再開』
「っ!?コイツっ!!!」
今、確かに自分の名前を言った。つまり、自分が狙いだと言うことに結論が出るのはそう難しいことじゃなかった。
だとするならば周りの異常も納得が行く。自分を逃がすつもりは無いのだと。
(どこの差し金だ!?テロリスト!?団体の連中!?他国か!?………ああ、くそったれ!!!心当たりが多過ぎんぞっ!!!)
自分の価値は良く分かっている。世界に二人しかいない数少ない男性操縦者。その稀少価値を欲しがる者もいればその存在をよく思わない者もいる。
彼は恐らく後者だと推測した。到底拐いに来たとは思えなかったからだ。
未だにステージからは爆発音は続いている。きっと一夏も同じ状況なのだろう。
逃げ場は無い、恐らく助けは来ない。ならば自衛しか残された手段は無い。
「四の五の言ってられねえっ!!『灰鋼』ぇっ!!!」
無断展開となるが、今は緊急事態だ。彼は『灰鋼』を展開し、臨戦態勢を取る。
(未確認熱源が他にも二つ!?こことステージだけじゃねえのかよ!!)
展開した事によって目の前の巨人と同じ熱源反応が表示され、それによってステージ内とアリーナ外にも存在している事が把握出来た。一夏達の位置情報も表示されるはずなのだが、故障でもしてるのか何故か表示されない。
だが未確認熱源の内一つは間違い無く一夏達がいる所だろう、しかしもう一つは不明だった。外にいる理由がまるでわからない。他にも目的があるのだろうか。
目の前の巨人があと一体処か二体いることに驚愕と疑問を隠せないが、相手はそんな事を考えてる暇は与えてはくれなかった。
謎のISは急接近し、その巨大な腕を彼に向けて伸ばす。
その速度は瞬時加速と変わらずの速度で並の操縦者だったら反応は出来ないだろう。だがしかし───。
「あぶねっ!」
『危険察知』を持つ彼がISを纏ってしまえばその程度の速度は無意味だ。以前のセシリアと戦った時と違い、機体に多少慣れているのと精神も少なからず安定しているので急接近に驚きはしたが回避など容易かった。
(つってもこんな室内じゃいずれ詰むぞ………。ゲートぶち破って逃げるか?でも飛べねえし………くそっ、こんな事なら飛行訓練もするべきだったか………!?)
彼はセシリアと戦った際にシステムが起動した時以外一切飛行を行っていない。
授業や放課後に飛行訓練をしようとしたが、
その事もあって彼は飛行訓練を一切止め、代わりに歩行訓練だけに絞る事にした。
(飛べねえISってなんだよ………!これじゃ、ただの頑丈な鎧じゃねえか………!)
何故、彼が飛行が出来なかったか───。
それは彼のIS適性値が低いだの、訓練不足だのといった、決して才能や技術的なものではない。
───もっと根本的なものだった。
初めて機体に乗り一次移行をする時の彼はISに対し、あまりにも強い拒絶を抱いていた。その結果何が起こったか。
彼を理解しようとするISコア。そしてISを強く拒絶する彼自身。両方がぶつかり合い、度重なるエラーのまま進んだ形態移行は、結果として歪な物を生んでしまった。
そう、『灰鋼』は『
『灰鋼』は前代未聞の『
不完全な一次移行によって操縦者の保護機能を始めとした所々が機能不全となり、それによって飛行は愚か、浮く事すら出来ない機体となってしまった。保護機能が働かずエラーを起こし発症した原因も、元を辿ればこれが原因である。
だがそれでは検査時に形態移行もしてない機体に乗ったにも関わらず錯乱したのと、セシリアと戦っている際に発症し彼女に向かって飛べた事に説明がつかない。
検査時の錯乱は政府に強要されたこともあって精神が不安定だったという単純な物だったが、飛べない機体が一時的に飛べた理由は何故か。その答えはシステムそのものにあった。
自己防衛システムの内容の一つとして、機体の出力を無理矢理上げるものがある。そのお陰でスラスターの点火が可能になったのだ。システムが起動しなければ何も起こらず、決して飛ぶ事は出来ない。
偶然発現した危険なシステムを除けば量産機『打鉄』とデータ上は変わらない。教員も、政府も、IS委員会もそれを認識している。だがそれは間違いだ。
何故ならそのデータすらエラーを起こしてバグを発生させてしまい、『表面上』だけ問題が無く、変わらないように見えるのだから。
既に『灰鋼』は『打鉄』とは中身がまるっきり違う。
あるべき機能が働かない、危険で不完全な機体。
ISを憎む彼は、決して専用機など持ってはいけなかったのだ。
(悔やんでも仕方ねえ、ここでやるしか………!)
そんな自身の機体事情など知らず、ここで迎撃するとそう結論づけた直後、体勢を立て直した敵は再び襲い掛かる。その動きは先程より速度が上回っているが、彼には通用しない。
(中々速えなコイツ。けどまだ何とかなる………けどよ)
相手の動きは体格に似合わず速い。右腕を回避すると直ぐ様左腕が飛んでくるのだ。
彼も全うな人間だ、終わりの無い回避を繰り返していく内に当然ながら苛立ちも溜まっていく。
「………っ!いい加減にぃ───」
痺れを切らした彼は敵の右腕を屈んで回避したと同時にその場から高く跳び、顔面に目掛けて───。
「───しろぉっ!!!!!」
───回転からの後ろ蹴り、しかも足裏を突き出すという所謂『トラース・キック』を全力で放ち、大きく敵から距離を離す。
この蹴り技を食らった者は如何なる者でも脳震盪を起こし、まともに立つ事すら出来ない。だが相手は何事も無かったかのように、痛がりもせず此方を見ている。その姿は余裕の表れだった。
「ああ、やっぱIS………か?にしても少しは痛がってもいいんじゃねえの………?本当に人乗ってんのかよ、アレ」
彼は目の前の敵がISだと確信が持てなかった。何せ既存のISとは逸脱した姿なのだから。それに動きも人間らしくない、更に痛がりもしない。
だとしたら素手ではダメだ、確実なダメージを与えられない。エネルギーも有限なのだ。逃げられない以上、迅速に、確実に、高威力の武器で倒す必要がある。
(
策があるにはあったが、まだ誰にも試してもいない為それは危険な行為だった。
その策とは『鋼牙』を使ったある事。だが彼自身が思ってるように、それは他者が見ても危険であろう。
(………試すのはやめだ。コイツだけでなんとかするしかねえ!)
今の状況で試行錯誤は危険だ。故に彼は放課後の訓練である程度使い慣れた『鋼牙』を展開しようとした。
───展開しようとしたのだ。
「………?」
彼はここで異変に気づく。目の前の敵───謎のISが近寄らなくなったのだ。
「ああ?なんだてめえ、急に静かになりやがって。いったいなにを───」
謎のISに向けて問い掛けようとした───次の瞬間。
───警告。外部から不正規接続を確認。システムハックを受けています───。
「………は?今なんて───」
───複数端末による疑似信号多数───。
───全ての武装を強制ロック。展開不可能───。
急激に表示された警告。それが出ると同時に表示されてる武装は全てロックされ、展開が出来なくなってしまう。
「ちょっ!?嘘だろ!?」
急激な事に焦りを隠せない彼だが、そんな彼を置いて状況は更に悪化し続ける。
───メインシステムに不正規接続多数───。
───パワーアシスト停止。可動部固定───。
───緊急制御システム応答無し───。
───再起動を実行………不可能───。
次に表れた警告によってとうとう身体が動かなくなってしまった。完全に固定された為にびくともしない。
「おい!待て待て待て!!ふ、ふざけんじゃねえぞおい!!!」
最悪の事態によって彼は息が荒くなり、心臓の鼓動もより強くなる。
『このままでは殺される』。
そう確信した事によって機体は彼の異常を感知し、システムを起動しようとするが───。
───操縦者の深刻ナ異常を確認。心拍数不不不不安定。緊…急処置ヲ実行。………不可能───。
───深刻なシン的外ショウ後ス*レス障ガイto判dddn───。
───自kkko防エイsystem『キョウ犬』を強セイ起dddddddddddd───。
───ジコボウエイsystem、ハソン───。
───システム、キドウフカノウ───。
───ガイブタンマツ、セツダン───。
「く、くそったれがっ………!何の役にも立たねえ………!こうなったら解除を───」
───機体解除………不可能───。
───強制初期化を開始します───。
「───う、嘘、だろ………」
殆どの機能が停止し、動けなくなった所にトドメとも言える初期化。ハイパーセンサーもほぼ全ての機能が停止し、目の前に映るのは度重なる信号とノイズだらけの視界。唯一視認出来たのはその信号と同時に表示される
「ああ、くそったれ………。なんでこんなときに………」
先程から首輪は最大限に点滅し、自身の『危険察知』が警告を鳴らしている、謎のISが此方に近づいているのだろう。だが逃げる事は勿論、回避する事すら出来ない。
完全な『詰み』というものだった。
「………動けよ、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けっ………!」
しかし彼は諦めない。ここから脱出しないといけない。故に返事などしない機体に語りかけるように心の奥底から叫ぶ。が、しかし───。
「動けよ………。動けって………言ってんだろうがよおおおぉぉぉっ!!!!!!!!」
彼の叫びも虚しく、機体は微動だにしない。今も初期化が進んでおり、もう動く事は無いだろう。
「ああ、ちくしょう………」
もうどうにもならなかった。目の前の敵に何をされるかわからないが、それもどうでもよくなってしまったのだ。
せっかく意を決して一夏を支えると、ISと関わり抜くと誓ったのにこんな所で簡単に終わってしまうのかと彼は絶望した。
(結局、どこ行ったって同じって事か………)
『お前を一人にしてしまう父さんを、決して許すな』
(ははっ………。こんな事なら、あの時死ねば良かったじゃねえか………)
重く聞こえる足音は直ぐ目の前まで来ている。既に彼は逃げる気力は存在しない。
どの道動けないのだ、潔く諦める他ない。
「俺は、ISなんか、認めねえ………」
それは彼なりの最後の悪足掻きによる捨て台詞。その言葉には憎悪が込められていた。
「俺はISなんか絶対に認めねえっ!!!絶対に許さねえっ!!!!!!!!」
彼はいつの間にか泣いていた。その涙は何に対してなのか、彼自身にもわからなかった。
最後の力を振り絞り、彼は叫ぶ。
「くそったれがあああああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
───ソウジュウ者のho護ヲサイ優seン───。
───サイki動不カ能ニヨリコア・ネットワーク切断───。
───対■■絶対■■障■『番犬』ハツドウ───。
第二世代汎用防御型IS『灰鋼』
カラーリング『黒灰色』
待機形態『首輪』
(待機形態元ネタ:ソロモン6号)
量産機『打鉄』を一次移行(不完全)した機体。何故か展開しても待機形態である首輪が残っている。
既存の『打鉄』と違い装甲の至る所に溝があり、光沢の無い黒灰色のカラーリング上に血管のような黒いラインが浮き出ている。
自己防衛システムが起動すると装甲は鈍く光り、黒いラインは赤く点滅する。
隆道の強過ぎる拒絶によって度重なるエラーを引き起こした結果、不完全な一次移行をしてしまった。
それによって一部の保護機能は働かず、飛行に必要な機能は全て機能不全となり浮遊も飛行も不可能となる。
新たに追加された二つのシステムはISコアが隆道を保護する為に造り上げた物だが、これも強過ぎる拒絶により反って危険な代物へと成り果ててしまう。
二回目となる戦闘の最中に何者かからハッキングを受け、一つ目の追加兵装である自己防衛システムは破損。機体は強制的に初期化される事になる。