IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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第二話

 IS学園入学式当日。新入生は今入学式の最中であり在校生は既に教室に戻っている。今年は世界初の男性も入学するという事もあり在校生達の話題は九割以上が男性操縦者関連だ。

 ちなみに話題の中心人物である一人目、織斑一夏は入学式に出席しているが男が自分一人、周囲は女性のみという、正に四面楚歌と言える状態。

 彼が女好きであれば女性に囲まれた状態で鼻の下を伸ばしまくる所であるが、本人はその気がなく、むしろ同性が本当にいないんだなと改めて痛感し胃を痛めていた。

 二人目の席もあるがまだ学園に着いていないので当然空席のままである。

 そんな織斑一夏の精神が徐々に削られてる一方、校門の中央で腕を組んでいる人物が一人。

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐くその人物は、鋭い吊り目に、黒いスーツ姿で立つ千冬。彼女はここで二人目の男性操縦者、柳隆道を迎える為待っていた。

 本来ならば入学式前には到着するはずだったのだが、本州とIS学園を繋ぐモノレール手前で逃げ出そうとしたとのこと。

 十人の護衛が一斉に取り押さえようとしたが、彼は猛獣の如く暴れ散らしたという。

 同行していた護衛は、全員が要人警護任務に就く際に選抜される屈強なメンバー。その姿は服の上から見ても分かるほどの筋肉質な体格であり護身術も群を抜いている。

 そんな彼らが三人ほど大怪我を負い、残りの七人掛りでようやく確保したという連絡が来たのが十数分前。

 その電話の最中にも多少なりとも怒鳴り声が聞こえていた。内容までは聞こえなかったがIS学園へ行くことを強く拒絶しているという事だけは確かだと確信している。

 

「どうしたものか……」

 

 千冬は教師の中でも非常に厳しく、規則を破った生徒には容赦なく鉄拳や出席簿で制裁を与える人物。仮にだが、遅れてきた二人目が極普通の家庭環境で育ち、遅れてきた理由も下らない物だったら容赦なく制裁するであろう。

 しかし、二人目の詳細に目を通して以来彼に制裁なぞ出来る気がしなかった。

 彼女とて二人目を優遇するつもりはない。教師たる者個人に肩入れなぞしたら周囲に影響を及ぼす。加えて彼女は知らない者などいない世界最強。そんな有名人が個人に肩入れしたらどうなるかなど目に見えている。

 しかし彼にとっては地獄以上の監獄とも言えるIS学園。そんな中で教師である千冬が他生徒同様に厳しく接したら彼はどうなってしまうのだろうかと考えてしまう。

 IS学園に入学する生徒は当然ISに興味を持った者達だ。事故を起こさないように、怪我を負わないように、しっかりと規則を守らせる為に厳しく指導するのは至極当然のこと。

 

 

 

 しかし、二人目は他生徒とは違う。

 

 

 

 女性を嫌い、ISを嫌い、学園に行く直前ですら大人数相手に必死で抵抗する。彼女も真耶と同様に接し方が分からなくなっていた。

 不安が渦巻く最中、しばらくして遠くから一人此方に向かっているのが見える。ようやく来たかと一端考えるのをやめ、相手を待つ。

 向かってくる人物は自身より大分背が高く、片手で鞄を背負ってる。その手の甲には包帯が巻かれており少々の血が滲んでいた。暴れた時になったのであろう。

 

「あんた……ここの教師か?」

 

 青年は千冬の前に着くなりそう一言。その声に感情など一切無く、無表情である。

 先程まで学園に行くまいと抵抗していたとは思えないほど静かだった。

 彼からは戸惑いも、不安も感じられない。あるのは異常な程の敵意と警戒心。

 千冬はその異常な敵意に怯みそうになるが、表情には出さずに一度咳き込んで話しかける。

 

「柳隆道だな? モノレール手前で暴れたと聞いたが」

 

「俺に関する資料は見てるだろうし、暴れた事については連絡いってんだろ? 説明する必要あんのかよ。それに質問してんのはこっちだ」

 

 千冬を前にしてもこの態度。世界最強と言われるだけあって他のIS操縦者はもちろんのこと、多くの男性からも恐れられているにも関わらず隆道は表情を崩さない。

 

「……ああ、私は織斑千冬。お前のクラスの担任を務める者だ」

 

「あんたのことは知っている。まさかブリュンヒルデが担任だとは思わなかったがな」

 

「その名で呼ぶな、今日からお前は生徒で私は教師だ。織斑先生と呼べ」

 

「そうかよ」

 

 千冬は隆道と会話しながら思考する。非常にやりにくい相手だと。

 今まで彼女と会話する者は全員が憧れを抱く者か恐れているかの二択であった。しかし目の前の男、隆道にはどちらもない。敵意を全面に出す相手との会話なぞ初めてだった。

 普段の千冬なら敬語を使えと、生意気だとして既に制裁を与える所ではあるが、やはり先日の事やついさっきの出来事を思い出してしまう。

 ここで手を出したら彼は一生自分を、いや誰も信じなくなるだろうと。

 先ずは彼に信用してもらう、そこから始めることにした。

 

「本来ならば入学式に出席してもらうはずだったが、既に始まっている。すまないが終わるまで職員室で待機だ。SHR(ショートホームルーム)が始まる頃に私と一緒にクラスに向かってもらう」

 

「一人目はもう入学式にいるのか」

 

「ああ、たった二人しかいない男子生徒だ。……どうか仲良くやってくれ」

 

「顔合わせたことねぇのに仲良く出来るかどうかなんぞ分かる訳ねぇだろうが。馬が合わなければどうしようもねぇだろ」

 

「分かった……。とにかく時間も限られている、職員室へ行くからついてこい」

 

 千冬はそう言って学園へと向かう。隆道は何も言わず黙ってその後をついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人がしばらく歩き玄関前辺りまで進むと、ふと千冬は立ち止まり振り向かずに隆道に話しかける。

 

「柳」

 

「あ?」

 

「お前が女性とISを嫌っているのは知っている。資料で家族の事も見た」

 

「……何が言いたい」

 

「検査を渋ったのも、IS学園に行く事を拒絶した理由も分かる」

 

「だから何を──」

 

「だが()()()()()()。このIS学園に連れてきたのは、お前を保護するためでもある。迫害なぞするつもりもないし、させはしない。私が許さない」

 

 千冬は決心した。彼を壊さないためにも、女性全員が隆道が出会ってきたであろう女尊男卑思考な輩ではないという事を分かって貰う為に優しく接することを。

 

 

 

 自分だけじゃなく、副担任である真耶にも、他の教師にも、クラス全員にも協力してもらおうという善意での行為。

 

 

 

 ──故に気づかなかった。

 

 

 

 ──彼の地雷を踏みつけたことに。

 

 

 

「クラスの皆にも釘を指しておく。だから、お前もどうかクラスの皆と──」

 

 

 

ふざけるな

 

 

 

「っ!?」

 

 突如千冬の背筋が凍る。彼の声は電話内で聞こえた怒鳴り声でも、校門前での会話の時のようなものではなかった。

 感じたのは『どす黒い何か』。憎しみや恨みなどの負の感情が混ざりに混ざった、説明が困難な程どうしようもない物。その声を聞いただけで息苦しく感じた。

 千冬はゆっくりと振り向くと──。

 

やっぱ、あんたもそうなんだな

 

  ──そこには、殺意に満ち溢れた隆道の姿があった。

 表情は見たことも無いほど歪んでおり、その目は相手を殺してしまうのではないかと言うほど鋭くなっている。

 

今までどれだけの男を騙してきた? ……いや、数えてすらいねえのか

 

「柳……お前──」

 

この際だからはっきり言っとく。俺はお前ら女なんぞ一切信用しない。特にISに関わってる奴らなんかにはな

 

 隆道は容赦なく言葉を続ける。

 

優しくするから信用しろだ? クラスの女とも仲良くしてくれと? ……そう言って最後は俺ら男を弄ぶのか。生憎その手口は知ってんだよ

 

「違う! 私は本当に──」

 

 

 

黙れよ

 

 

 

「……っ!」

 

 本当に心配していると、騙すつもりはないと千冬は主張したかった。しかし、隆道の一言一言が非常に重く感じる。

 千冬の現役時代、他の選手から妬み嫉み等は少なからずあった。正面から言われた事もあったが大して気にもとめなかった程度ではあるが。

 隆道のはそんなちんけなものじゃない。声を聞くたびに心臓を鷲掴みされてるような感覚に陥る。

 

誰が信用なんぞするか。俺にとってお前ら女は敵だ。何を考えてるか知らねぇが、俺はお前らの思い通りになるつもりはねぇぞ

 

 千冬は、自分が軽率な発言をしてしまった事に酷く後悔した。隆道の心の傷はもうここまで深刻な事になっているのかと。

 

「……職員室はどこだよ、時間は限られているんじゃねぇのか、織斑先生?」

 

 いつの間にか隆道の表情は元に戻っており、先程まで感じていた息苦しさも無くなっている。

 

「……ああ、すまない」

 

 これ以上は危険だ。そう結論づけた千冬は、それ以降職員室に着くまで隆道に話しかけようとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」

 

 チャイムが鳴り終わった数秒後。一組の副担任である山田真耶は教室に入り黒板の前に立つ。

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「…………」

 

 しかし、真耶の声に反応する生徒はいなかった。

それもそのはず、生徒全員の目線はこのクラスの中央一番前に座る生徒に集まっている。

 その生徒こそ世界初のIS操縦者であり学園初の男子生徒、織斑一夏である。

 注目を浴びてしまうのは致し方ない事ではあるが浴びている本人からすればたまったものではない。

 

(これは……想像以上にきつい……)

 

 入学式から参加している一夏は周囲が女子のみという状況に心底参っていた。

 同性がいないだけでこんなにも苦しいのかと、夢であってほしいと思わずにはいられない。

 しかし、真耶に彼の心境なぞ分かるはずもなく、真耶自身に向けられている訳ではないがクラス全員の威圧にたじろいでしまう。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 このままではいかんと、真耶は無理矢理にでもSHRを進めた。担任である千冬が来るまでにある程度進めておかないといけないからだ。

 数人がようやく真耶の一言に気付き、生徒達は順調に自己紹介を進める。その中で一夏は他人の自己紹介など耳に入るはずもなく、未だに心の中で悲鳴を上げていた。

 八方塞がりとなった一夏は救いを求める為に窓側の方に視線を向ける。そこには六年ぶりに再会した幼なじみ、篠ノ乃箒の姿があった。

 この状況を何とかしてくれと、助けてくれと箒に向けて目で訴える。

 箒は一夏の目線に気づくが、窓の外に向けて顔を反らされてしまう。救いなんて無かった。

 

「……くん。織斑一夏くんっ」

 

「は、はいっ!?」

 

 完全に意識を箒に向けていた為に、思わぬ所から声を掛けられた一夏はつい声が裏返ってしまう。端から見るとあまりにも間抜けな声だったので、周囲からはくすくすと笑い声が聞こえる。これにより一夏はますます落ち着かない気分となり、夢なら覚めろと願う以外手段が見当たらなかった。

 

「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね?自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」

 

 とても教師とは思えないほどに生徒である一夏に対して真耶は頭を下げる。それも一度ではなく会社で部下が上司にするかの如く何度も頭を下げるので、サイズの合ってるのか合ってないかのような眼鏡はずり落ちそうになっていた。

 その腰が低い姿を見て一夏は流石に彼女が年上とは思えなかった。同い年と言われたら絶対に信じたであろう。少なくとも、一夏にはそういった謎の自信があった。

 そんなどうでもいいことを考えていたが、一夏の目の前で未だに頭を下げている相手は教師。これ以上頭を下げられると色々とまずい、自己紹介しなくてはと一夏は真耶に声を掛ける。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても……っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」

 

「ほ、本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」

 

 ようやく顔を上げたかと思いきや、一夏の手を取って熱心に詰め寄る真耶。本人は悪気は無いのだがこれにより一夏の注目度は加速していく。

 どちらにせよ新入生は自己紹介からは避けて通れぬ道。最初で躓いてしまうと二度とこの環境には馴染めないと一夏は確信した。

 覚悟を決めて席を立ち、後ろを振り向く。

 

(うっ……)

 

 今まで背中に受けていた視線という集中攻撃が今度は真正面となる。流石にこれほどの女子から注視されたことない一夏は後退りしそうになるがそこは耐えた。

 

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 簡潔に名前だけ名乗り頭を下げる。学園に入ってからずっと受けていた女子生徒達の目線攻撃にメンタルをボロボロにされた一夏に出来る自己紹介は、名前を名乗るだけという最低限のものであった。

 しかし、一夏の心境なぞ知らぬクラスの女子達はそれで納得しない。『もっと色々しゃべってよ』と目線で威圧し、『これで終わりじゃないよね?』という空気を作り出す。

 

「…………」

 

 勘弁して欲しいと、どうしたらいい、何を言えばいいと一夏は思う。容赦の無い女子達の悪気0%精神攻撃によってだらだらと背中に流れる汗を感じるという、精神だけでなく肉体にまで影響が出始めた彼の策は尽きた。

 しかし続けなければならない、ここで黙ったままだと今後『暗いやつ』のレッテルを貼られてしまうであろう。

 とっさに思いついた策を実行するために一夏は深呼吸をし、思い切って口にした。

 

「以上です」

 

 その一言により、女子の数名はまるでコントでもしてるかのようにずっこける。何を言うつもりなのかと構えていたらまさかの終了宣言である。こけてしまうのも仕方のないことであった。

 

「あ、あのー……」

 

 もうどうすればいいか分からなくなってしまった真耶はとうとう涙目になってしまう。

一夏は周囲の状況に疑問を持った瞬間──。

 

「いっ──!?」

 

 ──空気を叩く音と同時に頭部に激痛が走る。

 そしてあることが一夏の頭をよぎった。この叩き方、この痛みには覚えがあると。

 おそるおそる振り向くと、そこには世界最強であり、自身の姉である織斑千冬の姿があった。

 

「げぇっ、関羽!?」

 

 余裕があるのか無いのか、一夏はつい三国志の有名人の名を口滑らせる。その結果再度叩かれる事になった。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

 低めの声で彼女は一夏を叱る。しかし一夏は叱られる事よりもある疑問が浮かぶ。

 職業も弟である一夏にも教えず、月に一、二回ほどしか家に帰らない彼女がなぜここにいるのかと。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田君。クラスの挨拶を押しつけてすまなかったな」

 

「い、いえっ。副担任ですから、これくらいはしないと……」

 

 先程までの涙目になっていた真耶は千冬が来るなり表情を変え、若干熱っぽいくらいの声で応えている。

 

「それで………柳君は」

 

 だがそれも一瞬。真耶は表情を暗くしながら小声で千冬に問い掛けた。千冬が来たということは既に柳隆道はすぐそばに来ているという事になる。

 

「ああ、廊下で待機させてある。ここからは私が説明しよう」

 

真耶の問い掛けに対して千冬も小声で応える。しかし一夏の耳には入っていた。

 

(柳君……? 誰なんだろう?)

 

 廊下の方へ顔を向けながらそんな疑問をしていると、突如千冬がクラス全員に向けて声を掛ける。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を一六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

 教師というより軍の教官に近い宣言。しかし、教室には困惑──ではなく、黄色い声援が響く。

 

「キャーーーーー! 千冬様、本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

 鼓膜が破れてしまうくらいに騒ぐ女子達を、千冬はかなり鬱陶しそうな顔で見る。

 

「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それともなにか?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

 本当に鬱陶しがってるのか、千冬は額に手を当てながら天を仰ぐ。有名人のつらいところであろう。

 しかしそんな彼女のことなどお構い無しに女子達は更に騒ぐ。

 

「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように躾をして~!」

 

 これには流石の一夏もドン引き。もはや憧れとか通り越した何かだと感じた。

 彼自身も姉がここにいること、しかも担任であることに驚愕しているが、女子達の黄色い声のおかげで逆に落ち着いてしまっている。

 千冬もこれ以上は無駄だと諦め、目先を生徒達全員から一夏に変えた。

 

「で?挨拶も満足に出来んのか、お前は」

 

 そんな落ち着いている一夏に向かって千冬が放った言葉は辛辣そのもの。しかし彼は待ったをかけようとする。

 

「いや、千冬姉、俺は──」

 

 言い切る前に放たれるは本日三度目の制裁。反論は許されなかった。

 

「織斑先生と呼べ」

 

「……はい、織斑先生」

 

 ──と、うっかり言ってしまったこのやりとりに一夏は後悔する。姉弟であることがクラスに知れ渡ってしまったのだ。

 

「え……、織斑くんって、あの千冬様の弟……?」

 

「それじゃあ、世界で『IS』を使えるってもの、それが関係して……」

 

「ああっ、いいなぁっ。代わってほしいなぁっ」

 

「でも待って。それじゃあ『()()()』は……?」

 

 女子達から言われたい放題であった一夏であったが、最後の女子の言葉を聞き逃さなかった。

 

「え、二人目……?」

 

 二人目とはなんだ、まさか他にも男子がいるのかと一夏は驚きを隠さない。

 教師二人の方へ直ぐ様向くとなにやら重苦しい空気になっている。

 数秒経ち、口を開いたのは千冬。

 

「……知っている者もいるだろうが今一度言う。先月の半ばに二人目の男性操縦者が発見された」

 

 その事を知らない一夏を含めた生徒達は驚愕する。知っている者もいるが、知られているのは『二人目の男性操縦者』という情報のみ。それ以上の事は誰も知らない。

 

「彼は高校を卒業して就職目前のところ、適性が発覚した。つまり諸君より三つも歳が離れている。その二人目もこのクラスに入る事になるが……皆に協力してほしいことがある」

 

 二人目もこのクラスに入る、歳上の男子というのを聞いて再び女子達は黄色い声をあげそうになるが、どうも様子がおかしい。

 静まり返った所で、一呼吸置いて千冬は語る。

 

「彼は今とても不安定な状態にある。あまり刺激しないようにしてもらいたい。そして、もし彼に何かあったときは直ぐに私か山田先生に伝えること。どうか頼む……」

 

教卓の前で頭を下げる千冬。そこには、先程までの世界最強の姿はなかった。見たこともない彼女の姿を見て生徒だけでなく真耶も目を見開く。

 

「ふぅ……そろそろ呼ばないとな。入れ、柳」

 

 髪をかきあげ、扉に向けて千冬がそう言った瞬間、教室の扉が開き男が入ってくる。

 

 

 

 その姿を見て千冬を除いた全員が固まった。

 

 

 

 一人目である一夏すら超える身長、左頬に目立つ二本の古傷、そして光の無い目。

 

 

 

 そして何よりも、鈍感な人間ですら分かってしまう程の敵意と警戒心。

 

 

 

 その負の感情を前にして、誰も声を出せないでいた。

 

 

 

「はぁ……柳、いい加減警戒を解いてくれ。皆が固まってしまってる」

 

「…………」

 

「ああ、悪かった……。そのままでいいから自己紹介を頼む」

 

 まるで腫れ物を触るかのように千冬は男を宥める。誰もが、千冬の見たことも無い姿を見て驚きを隠せない。

そしてついに男が口を開く。

 

「……柳隆道。無理矢理適性検査を受けさせられ、結果このIS学園に連れてこられた。どうか関わらないでくれ」

 

 

 

 彼にとって地獄を超える日々が幕を開ける。

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