執筆の体力が続かず、週2ペースがデフォになっているこの頃……。
ツラい……早くオリジナル回を終わらせたい……!でも終わらない……!まだ続いてしまう……!!
文章作法を学び、取り入れたので以前までと違う所が所々あります。
(行頭の空白、三点リーダーとダッシュの個数、感嘆符と疑問符使用後の空白)
これについて何か一言下さい。場合によって以前までの話に修正を加えます。
※注意
今回、『R-15』『残酷な描写』要素が強いです。
時間は少し遡り、隆道が住宅街から姿を消した丁度その頃。住宅街付近の人通りが少ない道路には『髑髏』の集団がいた。
「うわっ、顎がすげぇ事になってる……こいつはダメだな。そっちはどうよ」
「歯ぁ無ぇから無理だ。ホント、何をどうしたらこうなるってんだよ」
そこに集まる十数人の青少年は何かを囲っている。隙間なく密集している為、そこで何をしているのか判断は出来ない。
その集団から距離を離している一人の青年──章吾は光乃に電話をかけていた。
「姐さん、やっぱり隆道は……」
『電話に出てくれないの……! 部屋を見たらずっと開けてなかったロッカーが抉じ開けられてて、中身が……!』
「ああ、くそったれ……! あのやろ……!」
『ああ、どうして……! こんな事なら無理にでも一緒にいれば……!』
彼女は酷く取り乱している。息は電話越しに聞こえる程に荒く、時折鼻をすする音も聞こえる事から相当酷い顔をしているのだろう。その表情を想像するのは容易であった。
隆道に言われた通りに一眠りした彼女は先程起きたばかり。心配するなと言われたものの、やはり心配になり彼に電話をかけたのだが一向に出てはくれなかった。
何度かけても繋がる事はなく、最終的に電源が切られてるというアナウンス。彼女が異常を察した頃に丁度良く章吾から電話がかかり、そして今に至った。
『はぁ……はぁ……探さなきゃ……! 隆道君を……隆道君を探さなきゃ──』
「落ち着けって姐さん! 家から出るなって言ったばかりじゃねえか!」
『だ、だって……だって……!』
「俺達が探すから姐さんは待ってろ! 見つけて、絶対に連れて帰って来るから! な!?」
『あ゛あ゛……う゛ぇ……』
隆道を探そうとする彼女を必死に宥める章吾。険しい表情をする彼は今にも怒りが爆発寸前までに達していた。
住宅街を巡回中に突然掛かってきた電話。その相手は家に帰らせたはずの女の子──彩。何事かと思い電話に出ると、それは彼等が動くには十二分な内容であった。
──隆道が『飼い犬』に襲われた。
彼女に事の詳細を聞きながら大急ぎで現場に向かうと、そこには一台の車と死にかけの青年が六人。血だらけになったその通路に彼の姿は無かった。
彼の姿は見えない、本人から襲われたと連絡も来ていない。章吾はもしやと思い光乃に電話を掛けたのだが──彼は不在、電話にも出ないと聞いてその予想は的中した。
彼が『飼い犬』達に襲われた事、その人間が重傷を負っている事。姿を消した彼と、彼の部屋にある抉じ開けられたロッカー。この事から一つの答えが導き出される。
(一人でおっぱじめるつもりかよ……!)
彼は武器を手に取り、『飼い犬』の居る所へ向かったのだ。殲滅する為に、たった一人で。
「とにかく家から出るんじゃねえぞ! また連絡する!」
『ま、待って章吾く───』
章吾は光乃の返事を聞かず一方的に電話を切り、舌打ちをしつつ集団の元へと近づいていく。彼を見つける為には情報が必要だ。幸いにもここには彼の行き先を知っていそうな人間がいる。
「結衣。お前の後輩何人か姐さんの所へ向かわせてくれ。いつ飛び出すかわかったもんじゃねえ」
「もう向かわせてるわ。こういう時は女同士が適任だしね」
「毎度のことながら手際良いな。……さて」
章吾は結衣の手回しに感心しつつ集団の隙間を通り抜け、その中央へと向かう。そこには隆道に返り討ちに合い重傷、又は重体となった『飼い犬』が六人。その光景は酷く痛々しく、今すぐにでも応急手当てをするべきなのだが──。
「どうよ、意識のある奴はいるか?」
「五人は全然ダメですね。てか、起きたとしてもこれじゃ喋れないかと。比較的マシなのはこいつだけです」
「そうか。……とっとと起きろオラァッ!!」
「ごっばぁっ!?!?!? あ゛ぎっ……!?」
──彼等には知ったことではない。
怒声と共に転がっている青年一人の腹を思い切り踏みつける章吾。青年はその蹴りによって意識が戻るが、身体中の痛みによって悶え始める。
その様子を眺めていたいと思う彼であったが、隆道の行方を知る事が最優先だ。
「よお、くそったれ。目ぇ覚めたか?」
「げぼっ……っ!? ど、髑髏……!?」
「喋れそうだな。おい、得物貸せ」
「へい」
章吾の一声によって集団の一人がピストルタイプのクロスボウを取り出し、それを受け取った彼はそのまま血塗れの青年へと向ける。怪我人といえど容赦はしない。
「ひっ!?」
「知ってる事全部吐け。吐かねえと二度と歩けねぇ身体にすんぞ」
淡々と物騒な事を言い放つ彼はクロスボウを青年の目と鼻の先まで近づける。そこには情けなど一切存在しなかった。
そして、時は進み──。
「──これでも食らっとけぇっっっ!!!」
「ぎゃあっっっ!?!?!?」
始まりは隆道の散弾銃による先制攻撃。散弾を受けた青年は大きく仰け反り、血肉を撒き散らしながらその場に倒れる。肩への被弾により即死は免れたが、その衝撃力は大きい。故に、撃たれた青年は気絶、再起不能だ。
愕然としていた『飼い犬』達であったが、構内での発砲により反響する銃声と硝煙の匂い、そして血を流し倒れる青年が視界に映り込んだ事によって漸く現状を理解する。撃たれたのだと。
しかし、理解は出来ても身体が動かない。衝撃的な出来事の連続で狼狽えてしまったのだ。
「──っ!? ど、どど、髑髏!?こいつが髑髏だなんて聞いてねえぞっ!?」
「ち、散れ! あんなもん食らっ──」
「呆けてんじゃねぇっっっ!!!」
──瞬間。けたたましい銃声。
「──だぁっっっ!?!?!?」
彼は狼狽える青年達を黙って見てるほど大人しくはない。直ぐに二発目を放ち、また一人が倒れていく。
「はんっ、まるでただの的だなっ!! クレー射撃の方がまだ難しいんじゃねえのか!?」
「うっそだろてめえ……!?」
「覚悟しろよ、てめえらは全員八つ裂きだっ!! それとも蜂の巣の方が良いかぁっ!?」
彼は狂った笑みを浮かべながら手慣れた手付きで
しかし、彼等とて黙ってやられる訳にはいかない。数はだいぶ減っているがそれでも六人は残っている。他の『飼い犬』もこの廃工場に向かっている最中であり、その数は二十人だ。数は圧倒的に上である。そして何より──。
「こっ、この野郎っ!!」
「──っ!」
「くたばれぇっ!!」
──彼等も散弾銃を用意している。
青年は近くに立て掛けてあった散弾銃を一丁手に取る。既に装填済みという事もあり直ぐに撃つことが可能だ。それを直ぐ様彼に向けて一発撃つのだが──。
「おっと!」
「はあぁっっっ!?!?!?」
──彼は散弾を回避するという、あまりにもあり得ない事をやってのけた。
真横へのサイドステップにより散弾は彼の真横を通り過ぎ、入り口付近の壁に数多くの弾痕が残る。回避した彼はそのまま物陰に隠れていった。
「な、なな、なんだよそれっ!? 避けた!? マジで出鱈目過ぎんだろてめえぇっっっ!!!」
「おい! てめえらも銃を持てっ!」
「あの野郎っ……!」
散弾を回避するという非常識な光景を目の当たりにしてしまったが、取り敢えず彼の攻撃は中断出来た。その隙に三人は銃を手に取り、残り二人は撃たれない様に遮蔽物を利用しながら彼に近づいていく。
(あぶねー、そこに置いてたのかよ)
彼等が散弾銃を用意している事は知っていたが、誰も持っていなかった為に彼は油断していた。散弾銃の置場所も彼の死角に置いてあった事から何処かに放置してるのだろうと考えていたのだ。お陰で反撃を許してしまった。
しかし、単体のみの攻撃ならばたいしたことはない。持ち前の回避能力の出番である。
(てめえらの攻撃なんざ当たるかよ)
彼が回避出来たのは、何も散弾を目視し超人染みた速度で回避したというものではない。
彼の持つ技能『危険察知』によって散弾銃を向けられる事を直ぐに察知し、引き金を引かれる前に横にずれた。ただそれだけだ。勿論、回避出来たのはそれだけが要因ではない。
『飼い犬』が使った銃は彼の物と同じく上下二連式散弾銃だ。火力はあるが反動も大きく、装弾数も二発。素人が簡単に扱える代物ではない。構えから発砲までに多少のもたつきと躊躇いがあった故に回避が可能であった。相手が熟練者であったならば被弾していたことだろう。
彼等は当然、その散弾銃の扱いに関しては素人だ。構え方や躊躇いがまさにそれである。物陰から覗くと装填も手こずっている様子だ。
(相手は六人、こっちは一人……)
数は負けている。一人対六人、此方が散弾銃一丁に対し向こうは四丁という宜しくない状況。クロスボウや拳銃と種類はあるが、それを扱うのは自分一人だけだ。
普通ならこの時点で勝敗は決している。本来ならば逃げるのが賢明。しかし──。
(数が多いだけだ。こちとらてめえらより場数踏んでんだよ)
──あくまで普通ならばの話だ。
何故、彼が散弾銃の扱いに手慣れているのか。何故、人を撃つ事に躊躇いが無かったのか。それは簡単な話だ。
彼は散弾銃の射撃経験がある。少なくとも目の前の彼等よりも。そして──。
──人を撃った事など
過去に『野良犬の巣窟』の周辺で起こった散弾銃による傷害事件、その数十件──。
その内の六件は、たった一人の人間の手によるもの──。
何を隠そう、その人間こそが──。
「『髑髏』を舐めるなよ……!」
──隆道その人である。
「殺す! 殺すっ!! 絶対にぶっ殺すっ!!」
「やれるもんならやってみやがれっっっ!!!」
最初の『髑髏』にして頭目、柳隆道。仲間に慕われ、そして同時に恐れられている彼を止めれる者はここにはいない。
『飼い犬』と『髑髏』。イカれた者同士の抗争はまだ始まったばかり──。
「な、なんなのよ……これ……」
構内の隅にて、菜月は目の前の光景に唖然とする事しか出来なかった。その光景はあまりにも非常識で、目を疑うものなのだから。
「ああっくそっ!! 何で当たらねえっ!!」
「ちゃんと狙えよっ!! どんだけ弾無駄にしてんだてめえっ!!」
「う、うるせえっ!! てめえも外してばっかじゃねえかっ!!人のこと言え──っぶねっ!?」
青年達は遮蔽物越しに四丁の散弾銃を隆道に向けて乱射。彼等の周辺には硝煙が立ち込め、止むことの無い銃声によって構内に反響が続く。足元には数多くの空薬莢が転がり、それは今もなお増やし続けている。
対する隆道は遮蔽物を頻繁に変え、時には前進。移動の際は出鱈目な動きで散弾を回避し、時折撃つ散弾は彼等の行動を確実に制限している。その表情に焦りは微塵も見えない。彼からは『殺意』だけが見えていた。
「どうしてこんな……」
自分より十年も若い青年が互いに凶器を向けている。この現実を受け止める事が出来なかった。
素手や鈍器による殴り合いではない、刃物や銃を用いた殺し合い。まるでヤクザ同士の抗争、それしか表現しようがなかった。
「柳……君……」
そして、何よりも目を疑ったのは彼の姿だ。数多くの武器を背負い、散弾銃を持って乗り込んできたその姿は『野良犬の巣窟』で遭遇した青少年達と全く一緒だったのだから。
『──柳隆道。そして、『髑髏』の頭目』
彼自身が『髑髏』だった。それもメンバーの一人ではなく、リーダーとして。あの青少年達に臆すること無く、逆に恐怖を抱かせた理由はこういうことだったのかと。
「…………」
何故、彼がここに来たのかはわからない。武器を持ち単身で乗り込んできたという事は彼等に捕らわれていなかったということ。ここに来ないという選択肢はあったはずだ。
あの時、次は助けないと言われた。自分達を助けに来たとは思えない。まさか、護衛一人の為だというのだろうか。
しかし、それならば納得がいく。四月のイギリス代表候補生との試合では一夏を出させまいとして、代わりに自ら忌み嫌うISに乗り込むという自己犠牲をやってのけたのだ。たった一人の為に行動を起こしても不思議ではない。
「……とにかく、抜け出さないと」
理由はこの際なんでもいい。『飼い犬』達全員が彼に意識を向けているこの状況はまたとない好機だ。今の内に脱出しなければと彼女は藻掻き始める。
「ん、んぅ……。さ、榊原……先生……?」
「っ!山田先生……!?」
「ここ……は? この、音は……?」
脱出しようとした矢先、気絶していた真耶が漸く意識を取り戻した。未だに朦朧としてるが、今は一刻を争う事態だ。無理にでも覚醒させなければならない。
「山田先生! ほらしっかりして!」
「……っ!? さ、ささ、榊原先生!? 人、人があんなに倒れて!? え、あれって散弾銃!? それに柳君!? あの恰好は!?」
「目覚めて早々悪いけど説明してる暇は無いの。先ずはここから脱け出すわよ……!」
「え!? え、えと……は、はい……!」
真耶は酷く混乱しているが無理も無いだろう、気絶していない菜月ですらこの光景が今でも信じられないのだから。
しかし、それを一から説明してる暇など無い。優先すべきはここから脱出する事。今の真耶には酷な話だがどうにか落ち着いて貰いたいところ。
「ど、どう……?抜けれそう?」
「だ、ダメ、です……! 硬くてとても……!」
痕が残ってしまいそうな程に縛られた手足はどれだけ力を出しても抜く事が出来そうにない。撥ね飛ばされた青年が落とした刃物等はあるが、それら全ては銃撃戦のど真ん中だ。取りに行くのは危険過ぎる。別の脱出手段を模索する彼女であったが、同時に一つの疑問を抱えていた。
彼はISを展開していないのだ。命の危険に晒されているのだから自己防衛として展開したとしても咎められないはず。にも関わらず彼は展開する素振りすら無かった。
(柳君……! どうしてISを使わないの……!)
(やっと起きたか、あの牛眼鏡)
遮蔽物に身を隠す隆道は散弾銃を乱射されているにも関わらず、彼女達の様子を覗くという多少の余裕を持っていた。
捕らわれているというのは些か面倒だ。『飼い犬』全員の意識は此方に向いているが、いつ彼女達を盾にするかはわからない。そうなると非常にやっかいである。
「…………」
ISを使えばこの状況など一瞬で片付く。しかし、彼はその選択肢を避けた。
別に千冬の言い付けを守ってる訳でははない。生身の人間に対してISを使ってしまえば自分すら許せなくなる、彼はそう考えていたのだった。
ISは何があろうと決して展開はしない。この状況をどう打破しようかと考えたその時──。
「──っ!?」
──『危険察知』により背後から脅威を察知。後ろを振り向くと、そこには消火斧を振り抜こうとする青年が一人。
その青年は激しい銃撃戦の中、彼に気づかれない様に構内を大きく迂回していたのだ。故に、至近距離まで接近する事に成功していた。
『危険察知』は弱点が存在する。脅威が目前まで迫らないと発揮は出来ない。ただ近づかれるだけでは反応しないのだ。
「うらぁっっっ!!!」
「ぐぉっ!?」
直前に反応出来たはいいが、回避すれば遮蔽物から飛び出す事になってしまう。そうなれば格好の的、散弾の雨を浴びる羽目となる。
よって散弾銃を盾に使い防御、刃は彼の顔面手前で止まり間一髪で危機を逃れるが──。
「貰ったぁっっ!!!」
「おぉっ!?」
──青年は消火斧を散弾銃に引っ掛け、力任せに引っ張った。それによって散弾銃を手放してしまい、遮蔽物の無い場所に放り投げられる。
「死ねやっっっ!!!」
青年はこれを好機とし、消火斧を彼の頭部に向けて振り下ろす。この至近距離だ、背負ってる武器も懐の拳銃も出す暇などありはしない。
しかし──。
「ふんっ!!」
「──だっ!?」
──面と向かった彼に接近戦は通用しない。
彼は寸での所で回避し青年の腹へ一撃、怯んだ隙に消火斧を奪う。
「ラ゛ァッッッ!!!」
「──ぎゃあっっっ!?!?!?」
そして、そのまま青年の肩に目掛けて全力で振り下ろした。刃は見事青年の肩に食い込み骨にまで到達、砕ける音と共に血が吹き出し返り血を浴びる。
「あ゛……あ゛……」
「邪魔だっっっ!!!」
再起不能となった青年を突き飛ばし、彼はこの後どうするか考えに耽る。何せ散弾銃を落としてしまったのだ。飛び道具はあるにはあるが多少心許ない。
「隆道ぃっっっ!!!」
「ったく、次から次へと……っ!?」
今度は自身を呼ぶ怒声。またかよと呆れながらも声のする方へ向くと──。
「この距離なら……!!」
──そこには拳銃を持った青年の姿が。
その拳銃は大男が菜月達から奪っていたものである。車に撥ね飛ばされた事により落としていたのだった。青年はそれを拾い、先程斬りかかった青年と同様に回り込んでいた。
至近距離で向けられた拳銃。『危険察知』があっても超人ではない故、弾丸を躱す事など出来やしない。よって回避は──。
(やっべ──)
──不可能。
「死ねぇっっっ!!」
「──ぐぁっ!?」
青年は彼に向けて拳銃を乱射、放たれた弾丸は彼の胴体に叩き込まれた。全弾十発中五発の弾丸を受けた事により仰け反り、遮蔽物から離れてしまう。
そう、
「ぐっ……」
「──っ!? 柳君っ!?」
「でかしたっ!! 狙えぇっ!!」
遮蔽物から身体を曝け出してしまった彼に思わず叫ぶ真耶。青年達はこれを好機と判断、四人全員が彼に散弾銃を向け──。
「だ、駄目──」
「撃てぇっっっ!!」
「──っっっ!?!?!?」
──真耶の叫びも虚しく四人は同時に発砲。彼に三百粒以上の散弾が襲い掛かった。
「な、なんてことを……」
「や、やったぞっ!! 漸く──」
拳銃弾も、散弾も直撃した。殺せたことは確実だと彼等は笑みを浮かべ、彼女達は最悪の事態につい顔を覆ってしまう。散弾を受けた彼は大きく仰け反り、倒れる──。
「──ってぇなこの野郎っっっ!!!」
「「「「「!?!?!?」」」」」
──否、倒れることはなかった。
彼は仰け反った状態から体勢を建て直し、懐に隠していた小型の拳銃を取り出す。その拳銃はここに向かう前に『飼い犬』から奪っていた物。
周囲が愕然とする最中、彼は近くの青年へ向けて数発撃ち込む。
「あ゛っっっ!?!?!?」
「──あっ!? てめ──うおっ!?」
その直後に散弾銃持ちの青年達へ向けて発砲。威嚇射撃である故に当たりはしないが、それにより彼等は咄嗟に遮蔽物へと隠れる。その隙に先程落とした散弾銃を拾い、よろけながらも遮蔽物へと戻っていった。
「お、おいっ!? あの野郎なんで生きてんだよっ!? つか、立って……!?」
「化け物かよあいつ……!?」
「マジでなんなんだよてめえはぁっっっ!!!」
何故死なないと彼等は叫ぶ。五発の拳銃弾を受け、三百粒以上となる四発の散弾も直撃した。生きてる処か立っている事などあり得ないはず。
(あぁ、くそっ。流石にきっついな……)
そんな叫びを飛ばす彼等を余所に、彼は苦しそうな顔をしている。死にはしなかったが、ダメージは確かに受けていた。苦しむ彼のジャケットには無数の穴、そこから出血は一切見受けられない。
何故、彼は拳銃弾と散弾を受けても血を流さず、生きている処か立っていられるのか。
こんな話をご存知であろうか。
数年前、英北西部のとある州で男性が青年に散弾銃で撃たれた事件があった。
その時の男性と青年の距離は、なんと至近距離である約一・五メートル。散弾は左胸に命中し、死は免れないはずだった。しかし、その男性は自力で自宅に戻って救急車を呼び一命を取り留めたのだ。
男性が助かった要因は二つ。一つは男性の胸ポケットには頑丈な携帯電話が入っていた事。そしてもう一つは実包そのものにあった。
──『バードショット』──。
散弾銃に使用される一般的な実包は大まかに三種類存在する。鳥撃ちやクレー射撃で使用される『バードショット』、対人や中型動物の狩猟に使用される『バックショット』、そして大型動物の狩猟で使用される単発弾『スラッグショット』。青年が使用したのはこの『バードショット』だ。
『バードショット』は数十から数百粒程の散弾が敷き詰められている実包。主な用途は小動物の狩猟とクレー射撃だ。口径と散弾の規格にもよるが、まず対人で使われないものである。
この散弾の殆どがその携帯電話に命中した為、血管や臓器が無事だったのだ。少しでもズレていれば確実に死んでいたと言われるこの出来事は正に奇跡とも言えよう。
偶然なのか、『飼い犬』もこの散弾を使用していた。しかも、対人には向かない非常に小さい規格を。確かに殺傷能力はあるが、距離が離れてしまえば散弾は拡散し威力は減少する。彼等は自分達の使う散弾の特性を良く理解していなかった。
当然、これだけでは彼が出血しない理由にはならない。理由はもう一つ、服の下に
(防弾効果は充分。だったら……)
この時、彼はある事を思いついた。この状況を直ぐに終わらせる方法を。
「あ゛……ぐ……」
「おら、立てよ」
「あ゛あ゛ぁ゛っ!? いっで……!?」
彼は弾切れになった拳銃を投げ捨てた後、いったい何をしようというのか、拳銃弾によって倒れていた青年の胸ぐらを掴み無理矢理立たせる。そして狂った笑みを浮かべながらこう言った。
「もうチマチマやるのは面倒なんだよ。そろそろここに増援が来るんだろ? ならさっさと終わらせねえとな」
「な、なに……?」
彼が今から何をするのか。それは常人ならば絶対に考え付かない、狂行とも言える行動。
「あいつら、すっげえ怒り狂ってるよなあ。身体を出したら直ぐに撃ってくると思わねえか?」
「……!?!? お、おい……やめ──」
「せいぜい撃たれねえ事を祈りな。……んじゃ行ってこいっっっ!!!」
彼は青年を遮蔽物の外へと突き飛ばした。彼等の攻撃を誘う囮として。
「──べっっっ!?!?!?」
「あっ!?」
「ひぃっ!?」
「あーあ」
──瞬間。青年は散弾の雨に打たれた。衣服は一瞬の内に穴だらけとなり、鮮血を辺り一面に散らし倒れる。青年はもう立ち上がる事は無いだろう。生きてるかどうかも怪しい。
その光景を見た彼等は硬直してしまい、それを見てしまった彼女達は小さく悲鳴を上げた。
「や、やっちま──」
隆道の思惑通り、彼等はろくに確認もせずに発砲した。つまり、連続した攻撃回数を減らせたということだ。全員が二発とも装填していた状態で撃った為、この時点で撃てるのは各一発のみ。その後は再装填が必要になる。
これが彼の狙い。単に同士討ちさせる為ではない、
「オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ッッッ!!!」
「「「「!?!?!?」」」」
彼は遮蔽物から飛び出し、そしてそのまま彼等に向かって全力で走り出した。
これこそ、彼が思いついた狂行──。
──被弾覚悟の突撃である。
「柳君っ!?!?!?」
「気でも狂ったかてめえっっっ!!!」
遮蔽物ゼロとなる特攻。彼のとち狂った行動に彼等は一瞬狼狽えたが、直ぐに散弾銃を構える。
「死ねえっっっ!!!」
「──ガッ!?!?!?」
一直線に向かってくる狂人に向けて一人が発砲。散弾を受けた彼は当然怯むが──それも一瞬。直ぐに体勢を立て直し走り出す。
「こ、こいつっ!?」
「う、撃て!! 撃て!!」
「──ッッッ!?!?!?」
彼等は再び発砲、今度は三人での同時発射。彼は大きく仰け反る──。
「グッ……オ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!」
──が、しかし。彼は止まらない。
青年達は直ぐ様再装填しようとするが、迫り来る狂人を前に手が震え上手く出来ない。
「こ、この化け物──」
──瞬間。一発の銃声。
「がぁっっっ!?!?!?」
彼は突撃しながらも散弾銃を青年に向けて撃ち、青年の左手に命中させる。胴体でなかった為倒れはしなかったが──。
「ぎ……あ゛あ゛あ゛っっっ!?!?!?」
「ひ、ひえぇっ!?」
──左手が吹き飛んでいた。
距離を詰めた状態での近距離射撃。彼は青年達と違い、散弾の特性を理解している。彼の使用する実包は勿論対人用の散弾──。
「て、手っ! 俺──の゛っっっ!?!?!?」
──『バックショット』。
左手を失った青年に続けて二発目の散弾。今度は左足膝に着弾し、千切れ飛んでいく。左手だけでなく左足を失った青年はその場で転げ回り、まるでスプリンクラーの様に血を撒いていく。
(あと三人っ!!)
散弾銃は二発撃った事で弾切れ。再装填せずに一番遠くの青年に向けて投げつけ、その青年が怯んでいる隙に今度はホルスターから拳銃を取り出し乱射。標的は二番目に遠い青年。
「ば゛っっっ!?!?!?」
走りながらの乱射ではあるが、距離は充分だ。全弾七発の内三発が青年に命中、殴り抜かれた様に倒れていく。次の標的は──。
「アト二人ィィィッッッ!!!」
──目の前の青年だ。
「ま、待て!? タイム! タイムゥッ!!」
散弾をものともしない彼に恐怖したのか、青年は観念して散弾銃を捨て降参の意を表した。
しかし、彼は一人も逃す気は無い。背中に携えるマチェットを抜き──。
「タイムだって言ってんだろ──」
「──ルセェッッッ!!!」
「──う゛ぁっっっ!?!?!?」
──薙ぎ払いで青年の左四指を斬り飛ばす。そこからの胸元、腹へ二連続の斬撃。更に三撃目で太股に突き刺し、力の限り捻り込む。
「ぎぃあああっっっ!?!?!?」
「寝てろぉっっっ!!!」
「お゛っ───」
突き刺したマチェットを勢いよく抜き、止めに青年の上半身に向けて一刀両断。深々と斬られた青年は最早叫ぶ事なく──倒れた。
「ゲホッ……。アト……ヒトリィ……!」
「……っ!?!?!?」
帰り血を浴びに浴びた彼を目の当たりした青年は恐怖した。目の前のこいつは本当に人間なのかと。あれだけの銃弾と散弾を受けて、何故立っていられるのかと。
「こ、この……化け物がぁっ!!」
この男は手に負えない。ならば奥の手だと青年は散弾銃を投げ捨て、彼女達に向かって走り出す。その行動は人質を盾にするつもりだと誰もが理解出来た。尤も──。
「ぎっっっ!?!?!?」
──それすら叶う事は無いのだが。
「あ、足っ……!?」
盛大に転んだ青年のふくらはぎには金属の矢。彼は散弾銃だけでなく、クロスボウの扱いにも長けていた。面積の小さいふくらはぎに当てる事など造作無い。
矢を使い切ったクロスボウを捨て、足元に落ちている散弾銃と実包を拾って装填する彼はゆっくりと青年に近づいていく。返り血で染まったその姿は最早『人ではない何か』にしか見えない。
「ま、待ってくれ……! お、俺は今日呼ばれたばかりなんだよ……! あんたの事も今日知ったばかりだ……!」
「……」
「ほ、ほら、もう俺は立てねえって……! だ、だから……もう勘弁──」
「ウルセエッッッ!!!」
「──っっっ!?!?!?」
彼は青年の言葉など聞かず、至近距離から両足に向けて撃ち込む。それによって両足は血肉となって弾け飛び、見るも無惨な姿へと変わった。
「~~~っっっ!?!?!?」
「一生這いつくばってろ。……はあ」
最後の一人を片付けた彼は、小さく溜息をつきながらホルスターを外して穴だらけとなったジャケットを脱いでいく。そのジャケットの下にはズタズタになったベスト。
彼は『防弾ベスト』を着ていたのだ。彼等が散弾銃を持っている事は事前に把握していた為に用意をしていた。
しかし、その防弾ベストは見るも無惨な姿であり、弾丸がシャツまで貫通している。誰が見てもとっくに防弾機能は果たしていなかった。
彼はそれも脱ぎ捨て穴だらけのシャツを捲ると、そこには無数の弾痕が残った紺色のフィットスーツが見える。このスーツこそ、被弾しても死なない理由であった。
「あぁ、いてて……。
彼は『防弾ベスト』だけでなく『ISスーツ』も着ていた。ISを操縦する際に必要不可欠となるそのスーツは耐久性にも優れており、一般的な小口径の拳銃弾程度であれば完全に受け止める事が出来る。彼が受けたのは小口径の拳銃弾の他に規格の小さい『バードショット』。数百粒も受けてしまったが、一粒一粒が小さかった事、貫通力も無い事、距離が多少離れていた事によって肉体に届く事は無かった。
「ぐぅ……はあっ……」
とは言うものの、弾丸を受け止める事は出来ても衝撃を消す事は出来ない。彼は死ななかったとはいえ、死ぬ程の痛みを受けていたのだった。
それに、耐久性に優れてると言えど限度はある。既にISスーツはボロボロ、最早使い物にはならない。もし、あと少しでも多く弾丸を受けたら貫通していた事だろう。
彼は弾痕だらけとなったスーツを確認しながら再びジャケットを羽織ったのであった。
「……」
「ひっ……ひっ……」
阿鼻叫喚。彼女達が見るその光景はこの言葉が相応しいだろう。悶える青年が数多く転がり、一部は身体を震わせるだけで一言も発してない。
彼等の周りには血、血、血、どこを見ても血。カメラ越しに見たならばスプラッター映画と言われても疑われない程に凄まじかった。
そんな凄絶な光景に菜月は言葉を失い、真耶は目を反らし泣き崩れてしまう。しかし、それは無理も無いだろう。普通の人生を送ればこのような光景など見るはずは無いのだから。
「柳……君……」
「……」
血だらけの彼は喋らずに彼女達を見ている。何かを言いたげでもなく、ただ黙っているだけ。
菜月は、彼にどう声を掛ければ良いかわからなかった。感謝をすべきなのか、心配をすべきなのか、それとも叱るべきなのか。
暫くの沈黙の末、動いたのは彼の方。彼女達に近づこうとした所で──。
「はあ……ホントしつけえ……」
「……?」
「ひっぐ……?」
ふと、彼は立ち止まりある方向を見た。その方向は車が突っ込んだ事によって出来た大穴。彼女達もそこを見つめると、その大穴からは大きな人影が。
「あ、貴方は……!」
「ぐ……お゛お゛……げほっげほっ」
大穴から出てきたのは車に撥ね飛ばされ、車と共に消えた大男。所々傷が目立ち血で染まっているが、重傷と言える怪我は見受けられなかった。
大男は車に撥ね飛ばされても多少の怪我と気絶だけで済んでいたのだ。強靭な肉体によって骨折等を免れてたのである。
「よお、
「ぐ、ぐお゛ぉ……。て、てめえ……やることが、無茶苦茶、過ぎんだろ……。危うく死んじまう、ところだった……じゃねえか……」
「そのまま死ねば良かったのにな。つーか、てめえらこそ殺る気満々じゃねえか。関係ねえ人間を巻き込んだ癖に都合良い事言ってんじゃねえぞ。こんな物騒な物まで用意しやがって」
散弾銃をちらつかせながら彼は再び『殺意』を露にし、春日と呼ばれる大男を睨み付ける。会話から察するに二人は知り合いなのだろう。
「あ゛あ゛、くそっ……てめえが髑髏だったなんてな……。いつから……」
「んなこと知ってどうすんだよ。どの道てめえは八つ裂き確定だ」
淡々と言葉を放つ彼に怒りがこみ上げたのか、大男は苦痛の表情から悍しい表情へと変わる。
それは計り知れない程の『殺意』。大男は足元の大型ナイフを拾い、彼に近づいていく。
「あ゛あ゛……許ざねえ……殺じで、やる……! でめえは、絶対にぶっ殺じで、やる……!! 殺じでやるよ隆道ぃっ!!!」
「あ゛あ゛? それはこっちの台詞だくそったれ! 殺れるもんなら殺ってみろよ!! 死に損ないの飼い犬風情がっ!!!」
豹変した大男に臆する事なく、彼も怒声を響かせる。散弾銃を投げ捨て、マチェットを片手に大男へと近づき──二人は同時に走り出した。
「ぐだばりやがれごの野郎がぁっっっ!!!」
「くたばるのはてめえの方だぁっっっ!!!」
──犬同士による『殺意』のぶつかり合い。
──『飼い犬』と『狂犬』の争いは続く。