IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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大変お待たせしました。
作者の語彙力が無い故にまたしても更新が遅れてしまった……申し訳ない。
さて、今回はオリ主の三回目となるISでの戦闘。そして情報を一部ババンと。


第三十七話

 隆道は、あの場に出る気など無かった。

 

 

 

 遅れながらも第三アリーナのピットに到着し、目にしたものは代表候補生達の戦闘であった。

 だがそれは公平に欠けた二対一。更に彼女達の雰囲気からして競技規定(レギュレーション)に沿った模擬戦ではなく──感情に任せた明らかな私闘。所謂、喧嘩。

 

「…………」

 

 暫くそれをモニター越しに眺めていると、一人という不利な状況の筈のドイツ人──ラウラの方が圧倒していた。対して二人──セシリアと鈴音は既にボロボロ。彼女達の攻撃は殆ど通用せず、ダメージを負うばかり。最終的には嫐られ、機体が大破寸前になっていく光景が目に写る。

 

「くそったれ共が。勝手に潰し合ってろ」

 

 口から漏れたのは呆れた様な物言い。

 不愉快。馬鹿馬鹿しい。嫌気が差す。そう思う彼は次第に嫌悪感が膨らんでいき、自然とその歯を食い縛っていた。

 喧嘩自体は別に何とも思ってはいない。誰でも一度はする事だ、珍しい事ではない。そもそも、喧嘩以上の事をしてきた自分がとやかく言うなど出来やしない。重要なのはそこじゃない。

 

 

 

 ──こんな奴等が、こんな人間共が、何れ国の代表を務める事になるのか。

 

 

 

 ──そんなんだから、世の中は狂ってるんだ。

 

 

 

 これ以上見ても無駄な時間だ。先に行っていた一夏達の姿が見えないのなら、この場にいる理由など一つもありはしない。今も彼女達二人は執拗に嫐られてはいるが自分には関係無い事。汚物を見る様な目つきで、彼はその場を去ろうとする。

 しかし、その足は止まった。モニターから目を反らそうとしたその時、純白のISが目に留まる。

 

「織斑……!?」

 

 三人の私闘に乱入して来たのは、モニター越しでもわかる、怒りを露にした一夏であった。

 何故一夏が? 今まで何処にいた? その思考が彼を支配する。その出処を探すと、今度は橙色のISを纏うシャルロットが飛び出す光景が。

 彼女も何処から来たのか、その出処を辿り──彼の息は詰まった。

 

「────」

 

 彼が目にしたものは、パックリと隙間が出来たステージのバリアー。そして、直ぐ側で──。

 

「ほう──」

 

 

 

 ──唖然と立ち尽くしている、箒の姿。

 

 

 

「──っ!!!」

 

 それが、行動の起爆剤となった。

 彼はゲートに走り出す。思わず言いかけたその言葉をぐっと押さえ込み、彼等の元へ向かう。

 あのドイツ人はやる気に満ちていた。鎮静化はこの際度外視、此方から先手を打つ。

 ISで戦った事などほんの二回だけ。候補生二人でも歯が立たない相手に、教員の指示とはいえ模擬戦すらしていない自分がマトモに戦える事など絶対に有り得ない。

 

 

 

 ──だが、それでもいい。

 

 

 

 勝つ必要は無い。此方に矛先を向け、抵抗するだけ。それが今の自分に出来る唯一の方法。

 今までもそうやって日々生きてきたのだ。矛先を自分に向け、時に抵抗して、時に暴れて。やる事は変わらない。これまでも、これからも。

 後で何かしらの罰があるに違いない。しかし、彼にとってそんなものは至極どうでもいい。

 

「俺もくそったれ、だったな。……『灰鋼』」

 

 彼は自分自身に悪態をつきながら、その場から文字通り姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして──。

 

「やっちまえっっっ!!!」

 

fire(ファイア)

 

 先制攻撃を仕掛けたのは隆道。掛け声の直後に電子音声が流れ、無人砲台と化した『豪雨』二基はラウラに向けて一斉射撃。毎分約四千五百発の発射レートによって放たれる無数の20㎜口径弾がばら蒔かれる。

 

「ふんっ、姿さえ見えれば……!」

 

 だがしかし、それらは空を切るだけ。

 先程まで二人──しかも、特殊兵装を持つ二人を相手していた彼女にとって、その二方向からの攻撃を回避する事など容易い。冷静を取り戻した彼女はいとも簡単に躱し続ける。その姿は候補生の名に恥じない動きだ。

 

「くそったれが。やっぱ簡単にはいかねえ、か。……『灰鋼』ぇっっっ!!!」

 

 ──『バリアブルシールド』展開。防衛対象、『織斑一夏』、『シャルロット・デュノア』──。

 

 彼の怒声に反応してか、『灰鋼』の右側にある欠けた浮遊シールドが二枚ほど分離。それはまるで生きている様に飛翔、一夏とシャルロットそれぞれの手前で急停止し、更に装甲がスライドされて二倍の大きさとなる。

 何が何だかわからない。突然の出来事に混乱が生じる一夏であったが、ある一点に目が行く。

 それは、自身が穴を開けてしまったステージのバリアー。そこにはいつの間にかシールドが穴を塞ぐ様に貼り付いていたのだ。彼の介入によって冷静になった一夏はその意味を嫌でも理解する。

 あの穴を開けたのは自分自身。頭に血が上ったとはいえ他生徒を危険に晒してしまったのだと、一夏は罪悪感が芽生え始めた。

 

「や、柳さん……! あ、あの、俺……!」

 

「後にしろ。お前はそいつ等を──あぶねっ!」

 

 ──瞬間。彼は頭を大きく横に逸らす。すると先程まであった頭の位置に一発の砲弾が横切る。無人砲台に彼女の足止めを任せていた筈だったのだが、此方に攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「今のを避ける、だと……?」

 

「どうやって攻撃……ああ、くそったれっ!! そういう事かっ!!」

 

 彼は叫びながらも全速力で走った。向かう先は地表に設置した無人砲台。先程までは名前に相応しい位に弾丸をばら蒔いていた『豪雨』であったが、現在は砲身をラウラに向けているだけ。今はうんともすんとも言わない。

 

「ちょこまかと……!」

 

「あっぶねえ……なぁっっっ!!!」

 

 その理由は単純明快、ただの"弾切れ"である。発射レートが凄まじく高い『豪雨』は直ぐ弾切れを起こす事を忘れていたのであった。

 彼女が放つ砲撃を出鱈目な動きで回避しつつ、スライディングで無人砲台を回収。もう一基の方も砲弾を躱しながら回収し、彼はその場で停止。弾薬を補充し始める。

 

「はっ、素人が。動きが止まったぞ」

 

 停止した彼は今や無防備。好機とばかりに彼女は右肩の大型大砲を発射。狙うは頭部。

 

 ──88㎜電磁加速砲(レールガン)『リボルバーカノン』──。

 

「!?」

 

 しかし、その砲弾が彼に当たる事は無かった。

 彼の左肩に浮く『バリアブルシールド』が彼の手前に移動し、寸での所で防御。耳を塞ぐ程の高い金属音と共に砲弾は盾を疵一つ付ける事無く、明後日の方向へ飛んでいった。

 これには流石の彼女も呆然。発射体勢を解かず様子を伺い始める。

 

「……無人砲台と言い、先程の分裂と言い、今の防御と言い、それは……特殊兵装? いや、第二世代にその様な兵装は無い筈だ」

 

 彼女の言う事は尤もだ。第二世代となる機体にイメージインターフェイスを用いた兵装は無い。

 射撃行動しか起こさない無人砲台。思考制御とは思えない、機械的な動きのシールド。これ等を踏まえて彼女は、アレは自動制御を搭載した兵装ではないかと推測した。

 

 

 

 それは、当たっている様で当たってはいない。

 

 

 

 確かに、無人砲台に関しては彼が全て動かしている訳ではない。『バリアブルシールド』も彼は指示を出しただけ、セシリアが扱う特殊兵装の様に思考制御などしていない。では、いったいどの様にして動かしているのか。

 簡単な事である。それらを動かすのは、彼自身だけではない。

 

 

 

 その正体は──

 

 

 

 ──あっぶなー……

 

 

 

 ──コアナンバー『○一九』

 

 

 

 常に変異をするその機体は、『○一九』による全力の学習能力を経て様々な代物を作り出した。その内一つが既存のISには存在しない、『灰鋼』だけが持つ新たなシステム。

 

 ──ハイブリッド兵装制御システム──。

 

 このシステムはイメージインターフェイスとは違い、操縦者と同時にコア自身も制御を行う──言わば操縦支援システム。並列思考を持たない隆道の為にコアが作り上げた、今までにない代物。

 大まかな指示等は彼自身が思考制御を、精密な動作等はコアが思考制御を。もし、彼が制御不可な状況ならばコアが制御を担い、支援を行う。

 そう、操縦者の集中力が必要となる特殊兵装の運用、そのデメリットを完全に克服したシステムなのだ。それは『○一九』による、苦心の賜物。

 そして、『バリアブルシールド』も同じくして誕生した屈指の防衛兵装だ。

 以前──四月の試合で大破した『灰鋼』。実はこの時、既に『○一九』はセシリアの専用機──『ブルー・ティアーズ』の兵装を全て学習していたのであった。

 指向性エネルギー兵器、思考制御によるオールレンジの特殊兵装、小型の弾頭ミサイル。これ等を学習し対策を取った結果、完全な一次移行によってあの堅牢な装甲と巨大シールドが生まれた。

 レーザーを完全に弾き、ミサイルも防ぐ装甲。迎撃用として追加された、無人砲台機能。

 

 

 

 ──全ては彼を守る。その為だけに。

 

 

 

 だが、彼はそれを知るよしもない。何故か増え続ける機能を不気味に思いつつ、嫌々使うだけ。『○一九』の想いは──届かない。

 

「もっかい、働けぇっっっ!!!」

 

Fire(ファイア)

 

「くっ……!」

 

 装填を終えた彼は二基の無人砲台を地表へ突き刺す様に設置。離れた直後、電子音声の後に再びあの弾丸の雨が放たれる。備えていた彼女はこれを回避するが、次第に精密になっていくその射撃は躱す事が難しくなっていく。

 

「この……!」

 

「俺を忘れてんじゃねえぞっっっ!!!」

 

「!」

 

 そう叫び彼が構えたのは二丁の後付武装。片やドラムマガジン式である巨大な広範囲武装。片やベルト給弾式である巨大な炸裂弾武装。

 

 ──自動散弾銃(フルオートショットガン)『轟鉄』──。

 

 ──擲弾発射器(グレネードランチャー)『破砕』──。

 

 そこから繰り出されるのは一斉射撃であった。無人砲台二基からの弾丸に加え、彼が放つ広範囲の散弾と高威力の炸裂弾。 様々な銃声がステージに響き渡り、その足元には空薬莢が凄まじい勢いでばら蒔かれていく。

 流石の彼女もこれには回避に全力を注ぐ。反撃のチャンスが来るその時まで。

 

「蠅みてえにブンブン飛びやがってこの……! さっさと落ちろ……!!」

 

「なんという火力だ……! だが……」

 

 ラウラはニヤリと笑う、その直後。

 

「……!?」

 

 突如、両手の後付武装から渇いた金属音だけが鳴った。後付武装だけでなく、側の無人砲台も砲身が回るだけで弾丸は発射されていない。

 状況が一瞬飲み込めなかった彼だったが、二度引き金を引いてその意味を理解した。

 

「あ、やっべ」

 

「残弾管理を怠ったな。隙有りだ」

 

「──っ!?」

 

 回避に専念していた彼女は瞬時に反撃に移る。4本のワイヤーブレードを彼に向けて射出、咄嗟に防御体勢に入ったシールドの間を掻い潜り二丁の後付武装を弾き飛ばす。その流れで直ぐに四肢を拘束、その場から引き綴り出した。

 

「おわっ!?」

 

「雑魚の分際で随分と手こずらせてくれた。今度は──私の番だ」

 

「おおおぉぉぉぉっっっ!?!?!?」

 

 そこから始まるのは遠心力にものを言わせた豪快な振り回し。それは正にハンマー投げを彷彿とさせる。鈴音ですら対処が出来なかったワイヤーブレードによる振り回しは、彼も為す術が無い。

 

「ぐぅ……離せこのっ……!」

 

「ふむ。……良いだろう、離してやる」

 

「げっ!?」

 

 彼女は回転速度が最高速に達したその時、彼の希望通りに拘束を解いた。

 ハンマー投げというものは周回速度が増すと、遠心力と飛び出す瞬間の初速度が増し、結果的に飛距離が増加する。手放した瞬間、そのハンマーの速度がどれだけ高いかが記録を左右するのだ。

 つまりだ。ISだからこそ出来る、驚異的な回転速度で拘束を解かれた彼は当然──。 

 

「だはぁっっっ!?!?!?」

 

 ──凄まじい勢いで壁に叩き付けられる。

 逆さ大の字状態となった彼はそのまま崩れる様に地表に墜落。ブラックアウト防御と絶対防御が発動し、エネルギーが大きく削られてしまう。

 

 ──あぁっ!? ええと、これとこれと……。

 

 ──姿勢制御システム、再調整──。

 

 ──アイゼン、作成開始──。

 

 ──ショックアブソーバー、作成開始──。

 

「あ゛あ゛、くそったれが……! 今月で何度目だっつー──」

 

「まだ終わってないぞ」

 

「──っ!? ぐおっ!?!?!?」

 

 『危険察知』によって咄嗟に防御体勢を取った彼に襲い掛かるのは砲撃の嵐。それと同時に四本のワイヤーブレードが不規則な動きで迫り来る。攻撃は全てシールドが防いでいるがこのままでは反撃が出来ない。

 

「柳さんっ! 今援護を──」

 

「来るんじゃねぇっ!! さっさと──」

 

「そこだ」

 

「──ぐぅっ!?」

 

 一瞬の隙。猛攻の末、シールドを弾く事に成功した彼女はワイヤーブレードを張り巡らせて彼の首と両腕を拘束する。またしても捕まってしまうのだが──。

 

「さて、捉えたぞ。さあ此方に──っ!?」

 

「ぐ、ぐおおおぉぉぉぉ……!!」

 

 ──黙っていられるほど、彼は呆けていない。

 

「馬鹿な……。う、動かん……!」

 

 彼はその場で踏ん張っていた。首と両腕を拘束している筈だが全く引っ張り出す事が出来ない。

 これに驚愕する彼女を余所に、彼は両腕に巻き付いているワイヤーブレードを解く処か更に巻き付けてワイヤーを握り締める。

 

「調子、乗ってんじゃねえぞ……このキャベツ女が……! 今度は……──」

 

「!?」

 

「──てめえが来やがれぇっっっ!!!」

 

「なっ!?」

 

 彼は、逆に彼女を引っ張り出した。身体全体を駆使したそれによって彼女は宙を舞い、彼の元へ飛んでいった。

 しかし、彼女が驚愕したのはそれだけだ。直ぐに体勢を立て直して余裕の表情で瞬時加速、逆に距離を詰める。

 

(馬鹿め。私に近接戦を挑むか)

 

 彼女は近接戦も得意としている。持ち前の技術と機体の性能、そして特殊兵装『A.I.C』。正直、一対一なら無敵に近い。同学年で彼女に近接戦で勝てる者はいないだろう。

 

「望み通り──」

 

 

 

 だがしかし──。

 

 

 

「馬鹿が」

 

 

 

 ──彼に近接戦は通用しない。

 

 

 

「──がぁっっっ!?!?!?」

 

 彼女が瞬時加速で距離を詰めた瞬間、『灰鋼』の防衛システム『番犬』が発動。けたたましい音と共に装甲が展開、漆黒の機体を吹き飛ばした。

 地表を転がり回る彼女。何が起きたのか状況が掴めず混乱に陥ってしまう。

 

「うぅ……。な、何が──」

 

「『鋼牙』ぁっっっ!!!」

 

「!?」

 

 彼女はその怒声にはっと顔を上げた。その目に留まったのは、吹き飛ばされたかの様な出鱈目な姿勢で急速接近してくる彼の姿。恐らく瞬時加速の姿勢維持に失敗したのであろうが、それよりも目を見張る物が彼の右腕に。

 

(『盾殺し(シールド・ピアース)』……!)

 

「オ゛ッラ゛ァッッッ!!!」

 

 爆発音と共に二本の杭が彼女に迫り来る。この瞬間から彼女には余裕など無くなっていた。

 それは焦り、文字通り必死の形相。咄嗟に手を翳し『A.I.C』を発動、彼の動きを止める。

 

「……ああ? 何だ、これ」

 

「はぁっ、はぁっ。……やってくれたな貴様ぁ。しかし、これでは何も出来まい」

 

 彼女は微笑む。先程はどのように攻撃してきたのかは不明だが、捕まえてしまえば関係は無い。完全に停止した彼に向けて『リボルバーカノン』を発射準備に移行、その顔面を狙うが──。

 

「吹き飛──ぐぁっっっっ!?!?!?」

 

 ──またしても彼女は吹き飛ばされる。

 彼の動きを止める事は出来たがそれも数秒程。『番犬』の吹き飛ばしによって彼女は再び地表を転がり回る。

 

「停止結界が効かない……!? そんな事──」

 

「逃がすかあああぁぁぁっっっ!!!」 

 

「くっ、よくも──」

 

 この時、彼女の体感時間はスローになった。

 飛び出して来た彼は『鋼牙』を構えていない。左腕を伸ばし、その手を開き此方に迫っていた。

 

 

 

 その左腕は、()()()()()していた。

 

 

 

 何故なのかはわからない。しかし、自身の持つ防衛本能がこう告げていた。

 

 

 

 ──()()()()()()()()()、と。

 

 

 

 恐怖が彼女を支配する。アレには絶対掴まってはいけない。その警告が頭に最大限鳴り響いた。

 

「──っ!?!?!? こんのぉっっっ!!!」

 

「ぐおっ!?」

 

 回避が間に合わない絶妙な距離間。『A.I.C』が効かない以上、彼に掴まる事を恐れた彼女は全てのワイヤーブレードを用いてその赤黒く発光する左腕を弾く。

 何がなんでも逃げなければ、その思考が彼女の身体を全力で動かした。怯んだ彼の隙を狙いその場から離脱、追撃に備えつつ大きく距離を離す。

 

「……ああ? なんだ、さっきまでの自信はどこいっちまったんだよ。なあ、おい」

 

 彼女はいつでも回避出来る様身構えていたが、彼は鋭い目つきでただ見詰めるだけ。ゆらゆらと不気味に輝く左腕を垂らし様子を伺っている。

 

「……なるほど、な。教官が警告する訳だ。貴様は……危険過ぎる」

 

 侮っていた。目の前の彼は戦えもしない腰抜けでも、ましてやその辺にいる雑魚でもない。狂暴で、危険な存在。自身の──『敵』。

 彼は何れ絶対的脅威となるに違いない。ならばここで潰さねばならないと、彼女はプラズマ手刀を展開し構える。

 

「貴様はここで叩きのめすっ! 私の邪魔をする存在を、あの人を──教官を悩ませる存在を、私は認めないっっっ!!」

 

「やれるもんならやってみろよっ!! てめえはここで終わらせてやるっっっ!!!」

 

 彼とて、彼女と同じ気持ちだ。一夏に対し明確な敵意を持った人間は、自身の──『敵』。

 高々に叫ぶ彼は右腕の『鋼牙』を構え、赤黒く光る左腕を彼女に向け体勢を低くする。

 目を鋭くし、対峙する両者。今まさに、壮大な大喧嘩が始まる。

 

 

 

 

 

 ──その時だった。

 

 

 

 

 

「はぁーい、タイムタイムゥ」

 

「「──っっっ!?!?!?」」

 

 

 

 

 

 ──突如、緊張感の無い声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 その直後、一発の巨大なエネルギー弾が二人の間に着弾。地表を大きく抉り、辺り一面が土煙で覆われる。

 

「なっ、何だっ!?」

 

「あっ……あぐっ……」

 

 唐突の事に驚いたラウラとは別に、隆道は酷く怯えていた。それはトラウマか、或いは恐怖か。それは彼自身すら理解していなった。

 その声を聞き間違える筈は無い。一ヶ月以上、自身の前に姿を現さなかった──。

 

「ひ、ひ──」

 

「う、し、ろ」

 

 土煙が舞う中、突然と真後ろから声がした。

 ハイパーセンサーの位置情報によりそこに佇む存在は感知出来る、見えもする。しかし、自身の本能がそれを拒んだ。

 目を瞑りたい。耳を塞ぎたい。その存在を認識したくない。けれども眉一つ、身体が動かない。

 

「あらぁ、固まっちゃったぁ。んもぅ……」

 

 その存在はゆっくりと彼の前へと移動。それと同時に煙が晴れ、姿が露になる。

 そう、その存在はIS学園において問題児の中の問題児。最凶にして最狂の生徒──。

 

「ひ、ま、り……」

 

「はぁーいっ!! 日葵でぇーっす!!!」

 

「────」

 

 ──篠原日葵。

 

「約一ヶ月半……ぶりぃ? どう? 調子は?」

 

「……ひっ!?」

 

 暫く姿を現さなかった日葵は依然として鳥肌を誘う笑みを浮かべている。その距離──僅か三十センチ。文字通りの目と鼻の先。

 完全に油断していた。此処の所、全く見掛ける事すら無かったが故に気が緩んでいた。

 妹が現れただけでこの怯え様。覚悟を決めた筈だったのに、目を合わせる事すら出来ない。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 

 

 彼は──こんなにも小さく、そして弱かった。

 

 

 

「……あぁ、駄目だこりゃ。はぁ、ざーんねん」

 

 とは言いつつも、意に介していないのか言葉とは裏腹に笑みを崩さない日葵。怯えるしかしない彼に興味が失せたのかその場から離れ、ラウラの方へと向いた。もう彼は戦闘不能状態だ、戦う事は出来やしない。

 

「はじめましてぇ、ボーデヴィッヒさん。今度は私が相手だよぉん」

 

「……三組クラス代表、篠原日葵だな。何故邪魔をする。貴様には関係の無い筈──」

 

「はい間抜け」

 

 ──瞬間。

 

「──だぁっっっ!?!?!?」

 

 ほんの一瞬の出来事。一発の巨大エネルギー弾がラウラに直撃、盛大に吹き飛ばした。いつの間にか日葵の周辺には十枚のパーツが浮き、それらは様々な輝きを放っている。

 

 ──特殊広域殲滅推進翼『ミスミソウ』──。

 

「意見なんて聞いてないんだけどぉ? 敵を目前にして何呆けてんのかなぁ? 織斑せんせーから指導して貰ったとは思えないねぇ?」

 

「ぐっ……。き、貴様──」

 

「はいボケっとしない」

 

「──うぁっっっ!?!?!?」

 

 立ち上がる最中のラウラにエネルギー弾が再び襲い掛かる。それも一発ではなく三発連続が寸分の狂いも無しに全て命中、エネルギーがごっそりと削られていく。既に残量は五割以下、ダメージレベルもCに近い。

 

「はぁーあ、単発すら避けられないかぁ。こりゃ本気を出す必要なんて無いかなぁ」

 

「くっ……! な、何だ、それは……」

 

「あっれぇ? 気になっちゃう? 私はぁ、お前みたいに自分から手の内を明かす様な馬鹿じゃないんだよねぇ。スキャンするなりすればぁ?」

 

「さっきからいちいち癪に障る……!」

 

 ラウラは苛立ちが募っていた。先程から何度も日葵の機体をスキャンしているのだが、全て文字化け。機体名も、兵装も、一切わからない。それがより一層彼女の眉間に皺を寄せる。

 

「ああ、でもぉこのままじゃあ()()()()よねぇ。んー……じゃあ、特別に見せちゃおっとぉ」

 

 ──A.S.H(アンチ・システム・ハック)(ひいらぎ)』、解除──。

 

 ──A.S.H(アンチ・システム・ハック)鬼灯(ほおずき)』、解除──。

 

「はいっ、どーぞぉ。好きなだけ見て良いよぉ。そこの人達もサービスサービスゥ」

 

 いったいどの様な仕組みなのか、日葵の一声でその機体がスキャン可能となり、直ぐ様ラウラはスキャンを実行。日葵の言葉に甘えて他の全員も一斉にスキャンを掛ける。

 

「……っ!? こ、これはっ!?!?」

 

 ラウラは驚愕に染まった。

 彼女だけではない。スキャンを掛けた全員が、同じ心境に陥った。そのデータには──。

 

 

 

 

 

 ──操縦者、篠原日葵。IS適性値『S』──。

 

 ──機体名『華鋼・狂咲(くるいざき)』。第二形態──。

 

 ──戦闘タイプ、無段階変異殲滅型──。

 

 ──特殊兵装装有り。『ミスミソウ』──。

 

 ──単一仕様能力有り──。

 

 

 

「せ、第二形態(セカンドフォーム)……!!」

 

「はぁーいっ! お前達の赤子と違ってぇ、私の機体は成長してましたぁっ!! アハァッ!! 単一仕様能力もありまーっす!!」

 

 高々に笑う日葵。それは絶対強者のみ許される余裕の笑み。それはとても可愛らしく──そして同時に恐ろしくもある。

 そう、日葵の機体『華鋼』は既に二次移行した姿なのだ。更に一夏や隆道と同様、単一仕様能力までもが発現している。この事実に全員が驚きを隠す事が出来ない。

 

「さてとぉ、御披露目も済んだ事だしさぁ……。もう良いよねぇっ!? ねぇ良いでしょっ!? 徹底的にぶっ壊してあげるからさぁっ!!

 

「うっ……!?」

 

 突如、日葵は豹変した。

 不気味であった笑みは更に歪み、その口元は三日月を彷彿とさせる。その目は大きく見開き、まるで獲物を逃さない様にしっかりとラウラを捉えている。

 

 

 

 ──それは、『悍しいどす黒い何か』。

 

 

 

 ──それは、正しく『悪魔』。

 

 

 

さぁ、覚悟してねぇ。バラバラにしてや──」

 

 と、その時。

 

「──……はぁっ。これからだって時にさぁ」

 

 急激に雰囲気が戻った日葵はうんざりした様な物言いで顔を背けた。その視線の先は隆道でも、一夏達でも無い。そこにいた人物は──。

 

「ち、千冬姉っ!?」

 

「いい加減にしろ篠原ぁ……!」

 

 ──『打鉄』を纏う千冬であった。

 その両手には近接ブレード『葵』を握り締め、今にも日葵に斬り掛かる様な雰囲気を醸し出していた。凄まじく怒り心頭で、普段の目付きは更に鋭さを増している。

 

「あらぁ、そんな恐い顔しないで下さいってぇ。まだ何もしてないじゃないですかぁ」

 

「あくまで()()、だろう。全く、これだからガキの相手は疲れるんだ……!」

 

「はっ! 四半世紀しか生きていない癖に随分な事言うじゃないですかぁ! 織斑せんせーも世間ではそのガキの一人なんですよぉっ!?」

 

「この……」

 

 千冬の眼力の前に怯む処か逆に生き生きとする日葵は、まさかの挑発をした。中指を立てて。

 千冬とて感情のある生物だ。あからさまな挑発でも頭に来る事は当然ある。その証拠にブレードを握る拳には力が込められていた。

 生徒だけでなく、世界最強にも挑発する狂人。日葵には恐れなど──一切無い。

 

「あれぇ? 怒っちゃいましたかぁ? でしたらご自慢の実力で黙らせてみたらどうですぅ?」

 

「……覚悟は、出来ているんだろうな」

 

「構いませんよぉ? 一度織斑せんせーとは一戦交えたかった──」

 

 日葵が余所見をした瞬間、千冬は目で留まらぬ速さで接近した。それは誰しもが目で追えない、世界最速の瞬時加速。そこから繰り出される斬撃は──計り知れない破壊力を持つ。回避も、防御も不可能なそれは食らう他ない。

 

 

 

 

 

 ──筈、だったのだが。

 

 

 

 

 

「えっ……」

 

 声を漏らしたのは、一夏であった。

 対峙する二人を誰よりも注視していたのだが、全く理解できない事が目の前で起こった。

 突如、千冬が忽然と消えたのだ。最後に見えたのは、ほんの少し体勢を低くした姿。しかし、今は何処にも見当たらない。

 そして他にも不可解な事があった。それは日葵自身が未だにその場で佇んでいる事、彼女を中心に大きなクレーターが出来ている事、そして──彼女の機体『華鋼』の装甲が開いている事。

 何が起こったのか、一夏はもう一度思い返す。千冬が消えたその瞬間、けたたましい音と共に『華鋼』の装甲が開き、クレーターが出来た。

 わかった事は『灰鋼』と同じギミックだけだ。千冬は何処へ行ったのか。

 

「イヒッ、キヒヒッ……」

 

 一夏の認識は間違いだ。千冬は決して消えてはいない。間違いなくステージにいる。

 

「い、一夏……。アレ……」

 

「うん? ……え」

 

「きょ、教官っ!?」

 

 全員が刮目する事になる。鈴音に声を掛けられ促されたのはステージの壁。そこには──。

 

 

 

「ぐっ……はっ……」

 

 

 

 ──凹んだ壁と、倒れる千冬の姿が。

 

「ち、千冬ね──」

 

ギャハハハハッッッ!!!

 

「──っっっ!?!?!?」

 

 突然、日葵は大きく笑い出した。それは今までの様な不気味な笑いとはかけ離れた、耳を塞ぎたくなり、目を背けてしまいそうな恐ろしい破顔。それと同時に『華鋼』は装甲が元に戻り、辺りに煙を撒き散らしていく。

 

イーヒッヒッ……。ねぇせんせぇっっっ!! 以前言った筈ですよねぇっっっ!!!

 

 ──日葵は笑う。

 

私にぃっっっ!!!

 

 ──笑う。

 

近接はぁっっっ!!!

 

 ──嗤う。

 

絶っ対に通用しないぃぃぃっっっ!!!

 

 ──嗤い狂う。

 そう、千冬は消えたのではなかった。『華鋼』によって吹き飛ばされたのだ。それは『灰鋼』にも搭載されている、絶対的な防御システム。

 

 

 

 ──対近接絶対防衛障壁『鳳仙花(ほうせんか)』──。

 

 

 

 一夏を含めた、その全員が戦慄した。あの世界最強に一撃を与えた、今も嗤う狂人に。

 

「きょ、教官……」

 

ハァーッ、ハァーッ。……いやぁ、満足ですよ織斑せんせー。ありがとうございまーすぅ」

 

 次第に雰囲気が戻っていく日葵は、それはもう満足そうな表情であった。呆然とする彼等を余所に一人笑う少女は不気味を通り越した何かにしか見えない。

 正に悪魔、正に怪物。人の皮を被り、暴れ回る少女を止める事が出来る者は──いない。

 

「うん? ……あら。織斑君、後はよろしくぅ」

 

「え? ……っ!? 柳さんっ!!」

 

 しかし、その時。何か不都合な事があったのか日葵は逃げる様にその場を去っていった。何事かと辺りを見渡すと、そこには絶対に避けたかった事態が。

 

ひぐっ……。あ゛あ゛っ……

 

 その視線の先には蹲る隆道の姿。首輪は最大限に点滅し、例のシステム──『狂犬』が起動してしまっている状態であった。一夏は呆然状態から一気に覚醒、危険を承知で彼の元へと向かう。

 

「柳さんっ! 気をしっかり!!」

 

ぐぅっ……。ひ゛、ま゛、り゛ぃ……

 

 ──ストレス対象、『篠h』……ERROR──。

 

「もう彼女はいませんよ! 大丈夫ですから! だからっっっ!!!」

 

あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……

 

 完全に錯乱している隆道であったが、以前の様に攻撃的な様子ではなかった。何故そうなのかは不明だが、被害を抑えられるのならこの際何だっていい。一夏は必死に彼を宥めた。

 彼が落ち着きを取り戻したのは数分後。千冬の指示によって、全アリーナは学年別トーナメントまで私闘の一切を禁じられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一時間後。

 学年別トーナメントは突然の仕様変更、更には緊急告知文が記載された。内容は以下の通り。

 

『今月開催する学年別トーナメントではより実戦的な模擬戦闘を行う為、二人一組での参加を必須とする。尚、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする』

 

『緊急告知。『柳隆道』、『篠原日葵』。以上の二名は学年別トーナメントの参加を禁ずる』




◆第Ε世代無段階変異殲滅型IS『華鋼・狂咲』
カラーリング『四色(紫、白、青、桃)』
待機形態『鉄の首輪』
(待機形態元ネタ:ガダルカナル22号)
篠原日葵の専用機。
『灰鋼』と同様に『打鉄』が変異した機体。既に第二形態であり、単一仕様能力も発現済み。
あらゆる性能が従来の第三世代を凌駕している。それ以外の詳細は不明。

◆特殊広域殲滅推進翼『ミスミソウ』
『華鋼』の特殊兵装。球体型の大型スラスターと長六角形の小型シールドスラスター十枚の二種を備えた、高出力のマルチスラスター。多種多様のエネルギー弾射出と防御を兼ね備えている他、常に瞬時加速と同等の加速を行える。

◆A.S.H『柊』
『用心深さ』『保護』
任意起動可能なアンチ・システム・ハック。起動中は機体へのハッキングと解析を全て防ぐ。

◆A.S.H『鬼灯』
『偽り』『誤魔化し』
第二のアンチ・システム・ハック。被スキャン時は全て文字化け、操縦者のIS適性値も誤魔化す。

◆対近接絶対防衛障壁『鳳仙花』
『私に触るな』『短気』
対近接攻撃に特化した防御システム。発動条件と性能は『番犬』と同様である。
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