IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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お久しぶりです。作者は元気になりました。
今回は前回とは違って、怒濤の約一万五千文字。情報量がたぶん多いので時間がある時に読む事をお勧めします。


第三十九話

 時刻は夜。本州。

 夕食時間となり、IS学園の食堂はいつもの様に賑わしくなったその時間、本土側のモノレール駅には二人の男女が佇んでいた。

 

「「…………」」

 

 二人の男女──隆道と千冬は一切も喋る事なく何かを待っている様子だ。ここのところ、二人は一緒にいる時間が多いのではないだろうか。

 それもそうだろう。何せ、監視と抑止力を両立出来る人間は彼女その他存在しない。万が一の事を考えると並大抵の教員には任せられない。

 

「……そろそろか? お前の友人が来るのは」

 

「…………」

 

「……ふぅ」

 

 相変わらずのガン無視。一緒にいる事が増えたとしても彼の心境が変わった訳ではない。それで変わるのなら誰もが人間関係で苦労などしない。彼女に対して駄々を捏ねないだけまだマシだ。

 何故、二人が本土のモノレール駅にいるのか。それはある人物を待っている為である。

 あの日──土曜の夜中に彼女の部屋へ突撃したその後、彼は友人へ連絡を取っていた。

 

『手渡しで持ってきて欲しい物がある』

 

 彼から連絡を受けた友人は直ぐ様荷物を調達。そして三日後の今日、それがここに届く。

 彼は件の事件(暴力だらけの日曜)以降、外出許可が厳しくなった。しかし、モノレールまでなら話は別だ。当然の事ながら同行者付きではあるが。故に、彼の監視兼抑止力として彼女がいるのである。

 何故、運送ではなく手渡しなのか疑問が浮かぶところではあるが触れる事は御法度だ。一切詮索しない、そういう約束となっている。

 

「……来たか」

 

「……?」

 

 遠くから聞こえて来たのは数台のエンジン音。それは此方へ向かって来ている様で、徐々に爆音を響かせる。目を凝らすと遠くからはバイク集団が見えてきた。

 それは五台のアメリカンクルーザー型バイク。跨る人間は全員が黒のジャケットにフルフェイスヘルメットという黒ずくめ。バイザーはスモーク仕様であり表情は一切見えはしなかった。

 爆音を奏で、バイク集団は彼等の前で止まる。そこから降りたのは、これまた大きめのバッグと堅牢なケースを背負う二人のみ。

 

「「…………」」

 

「…………」

 

 挨拶の一つは交わすと思いきや、二人は無言で物を彼に渡すなり直ぐバイクへ戻っていく。一見すると何処かの密売の様だと彼女は感じた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

「…………」

 

 バイク集団は此方を見つめるも、未だに無言。それを光り無き目で見据える彼は右手を上げ謎のサインを出した。恐らく彼等独自のハンドサインだろう。少なくとも軍属であった彼女ですら全く理解が出来ない。

 それを確認し理解したのか、彼等は頷いて颯爽とその場を去っていく。集団で爆走していく姿は数秒程で見えなくなっていた。

 

(本当に友人、なのか……?)

 

 会話も何も無い、単なる荷物の受け渡し。彼等は本当に友人なのだろうか。何かしら一言ぐらい交わしても良いではないかと思えてしまう。

 それよりも荷物の中身が気になる。一つは入学直後に運送されたショルダーバッグと同等の大きさを持つバッグ。一つは堅牢な作りをしている長方形型の巨大ケース。

 

「柳、その中身は──」

 

「詮索しねえ約束だろうが。それより、あんたは他の心配した方が良いんじゃねえのか」

 

 同行してから黙りを決めていた彼が放った言葉は皮肉めいた一言。それが何を指すのか、彼女にとってそれは心当たりが多過ぎた。

 ラウラの事なのか、シャルロットの事なのか。女尊男卑主義者の事なのか、彼の妹の事なのか、一夏の事なのか、それとも自分自身の事なのか。

 

「もう用は済んだ。帰るわ」

 

「……わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は進み、隆道の自室。

 

「ああ、今日の集まりは無しだ。一人でやりたい事があるからな」

 

『そうですか……わかりました。ではまた明日』

 

「ん」

 

 電話をしながら自室へと帰ってきた隆道は通話を切るなりバッグと机に放り投げ、ケースを床へ乱雑に置く。そのまま椅子へふんぞり返りながら直ぐに何処かへ電話を掛けた。

 

「……よお、さっきはご苦労さん」

 

『全くだ。久々だぞ、こんな長距離走ったのは。おかげで真夜中ツーリング確定になっちまった』

 

「ははっ、良かったじゃねえか。さぞ快適だろ」

 

『馬鹿言うんじゃねえ、やってる事はただの配達じゃねえか。何一つ面白くもねえよ』

 

 電話の相手は先のバイク集団の一人──章吾。互いに無言で受け渡しをしていたと思えないそのやり取りは年齢に相応しいものであった。

 だが、そのやり取りも長く続かない。この声は電話越しでもわかる程の低音に変わる。

 

『……言われた通り私物の奥に突っ込んどいた。姐さんはこの事を一切知らねえ。知っちまったら何言われるかわかったもんじゃねえぞ。つーか、マジでやんのか』

 

「ああ、狩らなきゃならねえくそったれがいる。後手に回るつもりはねえ、先手必勝だ」

 

『気いつけろ。お前に万が一の事があれば──』

 

「殺られるつもりはねえよ。今までもそうだったろうが」

 

『……そう、だったな。……兎に角気ぃつけろ。俺から言えるのはそれだけしかねえ』

 

 出来る事なら助けになりたい。しかし、今回の狩り場は内側(IS学園)。外側の人間は一切手出し不可能。出来る事はこうして物資を渡す事だけだ。あとは彼の無事を願うしかない。

 

「ありがとさん。……もう切るぞ、色々と準備をしねえと──」

 

『待て、バッグの方に姐さんから贈り物がある。そろそろだろ?』

 

「贈り物? そろそろ? ……ああ、そういう」

 

『超最新式だとよ。あと俺達からも、な』

 

「……まあ、ありがたく貰っとく、皆によろしく言っといてくれ。勿論光乃にも。……じゃあな」

 

 通話を切って椅子にもたれ掛かる彼。五分にも満たない通話は彼にとっては素晴らしい一時だ。こうした友人との会話は、何処か癒される。

 そうした姿勢で寛ぐ事、数分。目を閉じていた彼は険しい表情となり、勢いを付けて立ち上がりバッグへと手を伸ばす。

 

「こんなに服いらねえって。いつ着るんだよ」

 

 そのバッグから次々と出てくる物は、衣類やら菓子やら何の変哲のない物ばかり。端から見れば修学旅行を彷彿とさせる代物ばかりだ。おかしい所などありはしない。

 と、そこへ。

 

「……おお」

 

 彼がつい声を漏らして手に取ったのは長方形状の箱と光り輝く金属。それは十箱の煙草とチタンコーティングされたオイルライターであった。

 これは素直に嬉しい。何せストレスでどうにかなりそうな日々が続いていたのだ、こういう様な嗜好品は本当に助かる。後で存分に楽しむとするかと表情が柔らかくなっていった。

 またしてもここで念押ししておくが、彼はまだ未成年だ。正真正銘、紛うことなきクソガキ。

 IS学園は『あらゆる法の適応外』。だから問題無いという屁理屈を頭に浮かべながら彼はバッグを続けて漁っていく。

 

「これか?」

 

 疑問の声を出しながら手に取ったのは、見覚えの無い箱であった。可愛らしくラッピングされたそれをおもむろに開封すると、中からは腕時計の様な物が。

 

「んー……?」

 

 それは真四角のディスプレイが目立つスマートウォッチ。章吾曰く超最新式だそうだが、生憎彼はその手の情報が疎い。喜びより先に疑問が浮き出てきてしまった。

 そんな疑問を抱えながらも左腕に填めて電源を入れると、表示されたのは緑の心拍数グラフが。時刻も表記されたがオマケ程度に小さい。普通は逆じゃないのか。

 

「……どっかのホラーゲームみたいだな」

 

 ともあれ、貰った事には感謝だ。他にも機能があるらしいが、それはまた後にしよう。今は最も優先すべき事がある。

 バッグから私物を取り出し切って中を覗くと、バッグに合わせたマットが一枚。それを取り除き中から出てきたものは──。

 

「ふむ」

 

 ──謎めいた部品の数々。

 一目見てわかるのはセンサーやスイッチ、筒状の金属に工具など。他は最早何なのかすら不明な物体であった。これ等はいったい何なのか。

 しかし、彼はコレに見慣れているのか全く疑問に思わず椅子へ腰掛け、組み立てていく。

 黙々と組み立てる事、十数分──。

 

「……こんなもんだろ」

 

 完成したのか独り言を呟きつつ大きく背伸び。出来上がったソレは──用途が全く不明な機械。それがざっと十個以上。

 四角状の物体上には一本の短い筒、その後ろにも何やらハンマーの様な物体。全くわからない。

 

「出来は、どうだ?」

 

 そう言うなり、彼は手元にあるスイッチを一つ入れて物体の前に手を翳す。その直後に響くのはカチンという金属音。

 その音を聞いた彼はほくそ笑む。どうやら成功した様だ。不気味に笑みを浮かべ、それ等を全てバッグにしまい込んでケースへと手を伸ばした。取り出したその中身は──。

 

「……ほー」

 

 

 

 ──フルサイズのコンパウンドクロスボウと、真新しい一本のマチェットナイフ。

 

 

 

「しっかり手入れしてんじゃねえか、流石だな」

 

 一目見てもわかる程に手入れされた大型凶器。スコープや矢筒、更にコッキングメカが搭載されフル装備と化したそれは使い勝手が良さそうだ。

 何度か構えて、矢を装填せずに空撃ち。中まで手入れを施したのかトリガーも軽く撃ちやすい。ここまでしてくれた友人には感謝しかない。

 

「こっちは手作りか? 切れ味は……上々、と」

 

 そしてもう一つの凶器。手作り感満載の刃物は一切装飾も無く、グリップ部分に紐を巻き付けただけの無骨な物。刃先を指で軽くなぞると皮膚がぱっくりといき、血が滴る。試しにと思いっきり叩いても金属音を響かせるだけで多少撓る程度であった。付属である鞘も手作りの分厚い革製だ。見た目からして耐久性も高いに違いない。

 切れ味良し、強度良し。これで得物は揃った。

 

「……ふぅっ」

 

 彼は、近々に『狩り』を行う。その狩猟対象はシャルロットの暗殺を企む畜生だ。恐らく相手は教員達を警戒して行動する手練れであろう。未だに発見出来ていないのがその証拠だ。

 一夏を側に付かせ接近での暗殺を未然に防ぐ。鉄砲玉でない限り、幾ら人目がある場所で堂々と仕掛けたりはしないはずだ。仮に、そうだったとしても近づかれる前に仕留めて見せる。

 勿論、一夏とシャルロットにはこの事を伝えていない。一時は伝える事も考えたが彼等の事だ、変に警戒心を出してしまい、相手は姿を現す事は無いだろう。故にだ、この件は誰にも知られずに成し遂げなければならない。

 ここはIS学園、自分の住処(縄張り)ではない。今までの様には絶対にうまくいかない、自分一人では何も出来やしない。

 

 

 

 そう、()()()()では。

 

 

 

 成し遂げるにはこの『灰鋼』が必要不可欠だ。せいぜい道具──いや、兵器らしく役に立たせて貰おう。役に立たなかったらそれまで。その程度の代物──ただのゴミ、ガラクタだ。

 

「…………」

 

 

 

 夢などもう抱きはしない。()()()の様には。

 

 

 

「兵器は兵器らしく、な」

 

 チャンスはたった一度きり。定めている標的が白か黒か、持ち前の技能と経験が腐ってない事を祈るばかりだ。

 黒なら確実に仕留める。その為にこうして武器や道具を用意したのだ。絶対に逃がしはしない。

 彼は険しい表情のまま道具とバッグを背負い、数本の矢を手に取る。そのまま扉へ向かい──。

 

「『幽霊犬』」

 

 ──姿を消した。

 

 

 

 

 

 ──たっくん……。私、は……。

 

 

 

 ──作成完了。対■■絶対■■投影『■■』──。

 

 ──作成完了。対人近接武装『HF.M』──。

 

 ──作成完了。対人射撃武装『HV.C』──。

 

 ──作成状況を確認──。

 

 ──待機戦闘形態、九パーセント──。

 

 ──特殊兵装、三十六パーセント──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。一組の教室にて。

 授業中真っ只中であるその部屋は、以前の様な居心地の悪い雰囲気は全く無かった。

 

「……あの、ちふ、んんっ! 織斑先生」

 

「なんだ、織斑」

 

 一人の生徒──一夏は静かに手を上げ、千冬に質問を投げ掛ける。妙にかしこまった表情の彼に応答した彼女は何気無く返事を返す。まるでその質問をわかりきっているかの様に。

 

「柳さんに……何かあったんですか? 電話にも出てくれないんですよ」

 

「…………」

 

 そう、今現在隆道の席は──もぬけの殻。隆道は今日、欠席をしていたのだ。そのおかげなのか教室内に険悪な雰囲気が充満する事は無かった。

 ただの体調不良なら疑問に持つ事は無かった。しかし、そういった連絡は一切無い、電話にすら一切出ない。それ等が彼に不安を駆り立てた。

 次第に不安を現す表情に変わる彼を見兼ねて、彼女はおもむろに口を開く。

 

「……事前に連絡があってな、具合が悪くなっているらしい。暫くは休むそうだ」

 

「そう、ですか」

 

「電話にも出れない程体調が良くない。今は絶対安静中だ、決して見舞いに行こうとするなよ」

 

「……はい」

 

「案ずるな。何も二度と戻ってこない訳では無いんだからな。時期に良くなるだろう」

 

 彼としては見舞いに行きたい所。しかし、悪化してしまえばそれは本末転倒である。あまり納得していないが、これ以上は何を言っても意味が無い。引き下がるしかなかったのであった。

 

「…………」

 

 彼が授業に集中し直して暫く。生徒達が教科書に目を落としたそのタイミングで彼女は手持ちのタブレットを覗く。その画面には──。

 

 

 

 ──lost──。

 

 

 

 ──たったそれだけが表示されていた。

 『灰鋼』の現在地は勿論の事、バイタルサインすら機能が停止していた。ありとあらゆる情報がシャットアウトされた今、居所は掴めない。

 

(生徒に任せて……何が教師だ……)

 

 隆道は今──どこで何をしているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日後の土曜。

 大半の生徒達が本土へ外出しているその頃に、一夏は第二アリーナにてシャルロットと訓練中。急遽タッグ仕様となった学年別トーナメントまで残り一週間と二日。一回戦敗退という無様過ぎる姿を晒さぬ様に、こうして時間余す事無く訓練等に励んでいた。

 今回は今まで経験した事の無いタッグ戦。単体での模擬戦ですら戦果はよろしくないのに、今度は味方との連携も絡んでくる。今まで以上に気を引き締めなければならない。

 と、思いはするものの。

 

「ほら、一夏。集中して、集中」

 

「あ、ああ。悪い」

 

 実際の所、彼は訓練に集中出来やしなかった。頭を振って取り除こうにも、何度も脳内に過る。

 

(大丈夫、なのかな……)

 

 あれから三日間、隆道が皆の前に姿を現す事は無かった。部屋の手前で声を掛けても全く応答が無く、電話を掛けても電源を切ってあるのか一切繋がらない。本当にただの体調不良なのか、一夏は不安が募っていた。

 

「一夏。ねえ一夏」

 

「──っ! な、何だ?」

 

「……柳さんの事考えてたでしょ。顔に出てる」

 

「うぐっ。わ、悪かった」

 

 正に図星であった。何かと顔に出てしまう彼は言い訳が思い付かない。試合に向けて訓練に集中しなければならないのに、自分は何をしているのだろうか。それが一層彼の気持ちを沈ませた。

 

「……今日はもう上がろうか。コンディションを整えないと出来る事も出来なくなっちゃうしね」

 

「…………」

 

「そう落ち込まないで、まだ時間はあるんだし。柳さんもその内ひょっこりと出てくるよ。ね?」

 

「……そう、だな……そうだよな。サンキュー、シャルル。気が楽になった」

 

 あの日──全てを打ち明けた日以降、彼女とはかなり親しくなっていた。

 今もそうだが、大体が彼女の方が気を利かせてくれる。彼女の方が辛い状況の筈なのにだ。

 

『今のあいつは脆い、お前が支えろ』

 

(……そうだ、支えるんだ。俺が弱気になっちゃ駄目なんだ。しっかりしろ、織斑一夏)

 

 隆道に言われた、ある一言を思い出す。

 四月に決意した自分探しは未だ見つからない。しかし、これこそが今の自分に出来る事なのだ。 時間はまだまだたっぷりある。それを見つけ出すまで自分が出来る事をするべきだと、彼は改めて決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 IS学園の屋上行きの階段には、ある看板が立て掛けられていた。そこには『清掃中』という看板が一つ。その付近の階段では清掃員が一人黙々と作業をしている。

 彼女はIS学園専属の清掃業者。かつては学舎の掃除を生徒にやらせないのはどうなのかと保護者からの反発があったのだが──。

 

『僅かな時間もIS教育に回した方が良い』

 

 ──とのことで落ち着いたとの事。生徒が清掃する時もある時はあるが、それは生徒への軽い罰として使われていた。変わった学園である。

 

「…………」

 

 今も黙々と清掃を続ける清掃業者の女性。所々綺麗に磨き上げていくその手際良さは目を見張るものがある。流石は専属であろう。

 

 

 

 ──否。彼女は単なる専属清掃業者ではない。彼女の正体は──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園、屋上。

 その屋上の隅で佇むのは三年生であろう生徒と作業着の女性。所々にも作業着を来た清掃業者が彷徨いており、辺りを見渡している。そんな中、生徒は辺り──正確には第二アリーナの入り口を見つめ、その目付きはとても鋭かった。

 

「此方がご用意した物です」

 

「ご苦労様」

 

 そう言って作業着の女性が清掃道具箱から一つ大きいケースを取り出し、生徒へ手渡した。生徒はそれを受け取り中身を確認していく。

 その中身は数々の部品と、数発の大口径弾薬(.50BMG)。それを確認するなり生徒は部品を組み立てていき、それは一丁の銃となる。

 

「…………」

 

 完成したそれは、大型の単発式対物ライフル。スコープとサプレッサーも付いたそのライフルは破壊と隠密を兼ね備えていた。

 約百年前に誕生したその弾薬は今でも現役だ。ISスーツは勿論の事、弾丸によっては鉄板ですらぶち抜くその高威力は世界中で運用されている。

 そう、この生徒こそがシャルロット暗殺を実行する真犯人。表上は代表候補生ですらない、特筆する事の無いただの一般生徒。授業態度も真面目である事から教員達の目から逃れられていた。

 その正体は一部のフランス政府と繋がりを持つ暗殺者。政府にとって邪魔者である存在を排除する為、このIS学園に入学したのである。周囲の清掃業者も彼女の協力者。長年と専属清掃に勤めていた事もあって疑われる事はなかった。

 今まで来る事は無かった暗殺依頼。だが、その依頼が今回漸くやって来た。彼女は直ぐ様準備に取り掛かっていった。

 暗殺対象の行動パターンを把握し、有効な暗殺手段を考察。協力者により武器も調達、後は実行するのみだ。後片付けは協力者がやってくれる。簡単な仕事だと彼女はほくそ笑んだ。

 

「ごめんなさいねえ、シャルロット・デュノア。貴女に恨みは無いのよ。スポッター(観測手)よろしく」

 

「了解」

 

 狙うは上半身か頭部のみ。この大口径弾薬なら他の部位でも致命傷は避けられないが、ISの展開によって一命を取り留める可能性がある。故に、一発で確実に殺さなければ。

 この様な携行武器ならISから発する警告に引っ掛かる事もない。距離は長いが、自身の射撃能力には自信がある。後はその時を待つのみだ。

 何も知る事の無いシャルロット。彼女の死神は刻々と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、屋上行きの階段にて。

 未だに清掃を続ける女性。一見すると生真面目ではあるが、実は何度も同じ箇所を磨いている。怪しまれない様、仕事(暗殺)が終わるその時までにこうして見張りをしていたのであった。

 

「……んん?」

 

 その時、彼女は何か違和感を覚えた。見られている様な、そんな感覚が。そして、それと同時に危機感も感じていた。

 つい、懐に手を伸ばして辺りを見渡す。だが、辺りには人一人いやしない。一切の気配がない。

 

「……ふぅ」

 

 気のせいかと、彼女は階段の清掃を再開する。土曜のこんな時間だ、誰も来やしない。そう彼女は安堵の表情を浮かべた。

 

「もう、さっさと終わらないかし──」

 

 

 

 ──しかし、その時。

 

 

 

「──っ!?」

 

 突如として襲い掛かるのは掴まれた様な感覚。そしてそのまま彼女は()()()に引っ張り出され、階段から転落、廊下へ放り出される。

 

「がっはぁっ!?」

 

 いったい何が起こった。明らかに足を滑らせた訳ではない。それは正に引っ張り出された感覚。

 這いずったまま混乱する最中、次に襲い掛かるのは首を締め付けられる感覚。余計混乱する彼女を余所に身体は宙に浮き、そのまま壁へ押し付けられていった。

 

「ぐっ!? な、ななな、なにっ……!?!?」

 

 それは恐怖。ISを持っていないにも関わらず宙に浮き、今は壁にへばり付いている。首元へ手をやると、そこには何も無いにも関わらず感触が。

 

「漸く、か。くそったれ共が……!!」

 

「──っ!? そ、その声……!!」

 

 何も無い筈の所から聞こえる男性の声。目の前で徐々に姿を現すのは、凶器を背負い、鉄の首輪を装着した鋭い目付きの青年。

 

「長かったぞ……? ここ暫くずっとあの女郎の後を付け回して……。四六時中付け回すってのはほんっと楽じゃねえよな。なあ、おい……!!」

 

「に、二番目……!?」

 

 その正体は隆道その人であった。部屋から姿を消したあの日から今日に至るまで、一人の生徒を追跡していたのであった。飲まず食わずに。その証拠に鋭い目付きの下にはくっきりと隈が。顔も何処か窶れている。

 

「まさか協力者──しかも清掃業者がとは、な。危ねえ危ねえ、そこまで考えていなかったぜ」

 

「何の、話……!? 私はただの清掃業者──」

 

「何の話だと? ただの清掃業者が──」

 

「あっ!? ちょっ!?」

 

 そう言うなり、彼は彼女の懐を弄った。端から見ればただの変態だ。この時点で彼はセクハラで訴えられる事は確実。

 ──が、しかし。

 

「拳銃なんて持ってる訳ねえだろうがっ!!」

 

「……うぅっ!?」

 

 懐から出てきたのはサプレッサーが内蔵された小型拳銃が一丁。非常にコンパクトであるそれはポケットに入る程に極小の凶器であった。

 何故、彼がその凶器を発見出来たのか。それは彼の専用機『灰鋼』が新たに生み出した、絶対的である索敵システムのお蔭である。

 

 ──対武装絶対索敵投影『猟犬』──。

 

 待機形態でも必ず起動する、あらゆる武器等やISに反応する探知能力。探知機に反応しない代物ですらこのシステムの前では全て丸裸だ。

 それだけではない。対象を選べばどれ程の距離が離れていようと声を拾う事が出来、足跡を追跡(トラッキング)が可能というオマケ付きである。

 索敵と追跡に特化した、対象を確実に逃がす事の無いシステム。またしても突然生まれたこれのお蔭で探し出す事は容易であった。

 

「てめえに用は無えっ!!」

 

「ああっ!?」

 

「そこで寝てろぉっ!!」

 

「──あぁっっっ!?!?!?」

 

 彼は彼女をそのまま投げ飛ばし、奪った拳銃をその両足に弾切れになるまで撃ち込んでいく。

 膝関節を狙った無慈悲な射撃。静かなる発砲により廊下は空気を切る音と空薬莢が転がる金属音だけが鳴り、それ以降は彼女の悲鳴が響くのみ。最早立てはしない。

 

「あとは……!!」

 

 残弾が無くなった拳銃を投げ捨て、向かう先は屋上。何としても阻止して見せる。そう彼はより一層表情を歪め、階段を駆け上がっていく。

 

「オ゛ラ゛ァッッッ!!!」

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

 扉を蹴破ると、確認したのは大型対物ライフルを構える生徒が一人と清掃業者が三人。話し合いは無用、先手必勝を決める。

 

「な、何よ貴方──」

 

「ダァッッッ!!!」

 

「──ぎっっっ!?!?!?」

 

 先ず狩るのは扉の真隣にいた業者だ。背負いのマチェットを抜き、逆手に持ち替え太股に二回、そして肩に突き刺し捻り抜いていく。

 

「な、何故二番目が──」

 

「次ぃっっっ!!!」

 

「──がっっっ!?!?!?」

 

 次なる標的は屋上の中央付近に佇む業者。血に染まり倒れ行く業者の懐から直ぐ拳銃を抜き取り数発撃ち込んでいく。それは胸、腹、足に着弾。更に弾丸が頭を掠め、また一人と倒れていく。

 

「こ、このっ!!」

 

「──っ!?」

 

 瞬間、感じるのは持ち前の技能『危険察知』。其方を向くと生徒の真隣にいた業者が今にも拳銃を取り出そうとしていた。

 距離は離れている。この距離では拳銃を当てる自信がない。遠距離武器は背負ったまま、構える前に撃たれる。ならばどうするか。

 この一瞬のピンチ。しかし、彼は誰よりも自信がある特技を持つ。それは──。

 

「ダラ゛ァッッッ!!!」

 

 ──()()だ。

 

「──ぎゃはぁっっっ!?!?!?」

 

 彼はマチェットを業者に目掛けて投げ込んだ。

 それは勢いよく回転し、見事に業者の持つ拳銃を弾き、肩へ深々と突き刺さり倒れる。

 残すは今回の大元──暗殺者。

 

「っ! こんのぉっ!!」

 

 暗殺者は急遽邪魔者が入った事に思考が停止していたが、そこはプロであろうか。直ぐ様に対物ライフルを彼に向け始めていた。

 その大型対物ライフルは重く、取り回しが非常に悪い。故に、暗殺者は構えに時間が掛かる。

 これを好機と見た彼は直ぐに背負う遠距離武器──コンパウンドクロスボウを持ち、構え出す。

 両者が構え、スコープ越しに相手を捉えたのはほぼ同時であった。

 

「死ねぇっっっ!!!」

 

「てめえがぁっっっ!!!」

 

 ほぼ同時に発射された矢と大口径弾丸。それは対峙する二人の間を交差し──。

 

「──ぐあぁっっっ!?!?!?」

 

「──きゃあっっっ!?!?!?」

 

 先に着弾したのは彼の方。暗殺者は咄嗟の射撃が故なのか、彼ではなくコンパウンドクロスボウに命中。それは完全に大破し、それにより軌道がズレた弾丸は──彼の首を掠めた。致命傷とはではいかなかったが、右内頸動脈を傷付けてしまい血を撒き散らしながら倒れてしまう。

 対する暗殺者には遅れて着弾。しかし、悪運が強いのか肩へと命中していた。深々と突き刺さるそれは抜けやしなく、銃を構える事が出来ない。彼と比べると比較的軽傷であった。

 

「がっ……あ゛あ゛っ、ちくしょうが……!!」

 

「ああ、くそっ、くそっ! 失敗したっ!!」

 

 暗殺者の脳内には失敗の二文字が過る。現場を見られた、協力者は倒された、自身は負傷したが故に狙撃が出来ない。そこから導き出される結論はたった一つ。

 そう、全力で逃げる事。

 

「ま゛、待てこのっ……っっっ!?!?!?」

 

 未だに出血が止まる事の無い首元。逃すまいと暗殺者を追い掛けようとする彼だったが──それは数発の弾丸により阻止され、またしても倒れてしまう。その隙を突いて暗殺者は一目散に階段へと消えていく。

 

「ご、ごの……男の癖によぐも……!!」

 

 その弾丸の出先は──肩にマチェットを刺したままの業者が構える拳銃から。他の業者よりかは比較的に軽傷であった彼女は鬼の形相だ。殺意を剥き出しにしている。

 

「ごろず……! ごろじでやる……!!」

 

「ぐ、ぐっそ……!」

 

 小口径弾が故、ISスーツを貫通する事はない。しかし、衝撃によるダメージによって彼は踞る事しか出来なくなってしまう。

 勿論、業者は直ぐに気づく。となれば──。

 

「ISスーツを着てるのね……。だったら……!」

 

 彼女が狙うのは頭部一点。ISを展開される前に確実に殺さなければと彼に近づいていく。

 貴重な男性操縦者を殺す? 頭に血が上り激昂してしまった彼女には何を言っても無駄だ。

 至近距離まで近づいた彼女は銃口を彼の眉間に押し付けた。このままでは死ぬのはシャルロットではなく──彼自身だ。

 

「それじゃさよならぁっっっ!!!」

 

「こんのクソアマがぁっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 ──作成中断。待機戦闘形態、緊急展開──。

 

 ──対人近接武装、緊急展開──。

 

 

 

 

 

「──は?」

 

「──あ?」

 

 奇妙な事が、今正に起こった。

 彼はただ、力を振り絞り押し付けられた拳銃を払い除けようとした。それだけであった。

 

 

 

 しかし──。

 

 

 

「──い゛ぃ゛っっっ!?!?!?」

 

 

 

 ──何故か、彼女の右腕は無くなっていた。 

 

 

 

 血を撒き散らし、痛み故に悶えてしまう彼女。いったい何が起こった。何故、彼女の腕が消えているのだと彼は言葉を失う。

 その時だった。右腕に違和感を覚えたのは。

 

「……なっ!?」

 

 違和感の正体。それは右腕全体に纏まり付く、謎の装甲。ISの腕部装甲とは違う、明らかに人体にフィットした外骨格の様な代物。そして右手に握られているのは青白い紫電が走り、付着した血を蒸発させている鋭利な刃物。

 

 

 

 ──対人近接武装『HF.MACHETE』──。

 

 

 

「あああああっっっ!!!」

 

「っ!?」

 

 混乱する最中、顔を上げると悲鳴に近い雄叫びを上げて拳銃を取ろうとする彼女。彼は混乱する頭を振り払い直ぐ様接近、彼女の両足を一振りで斬り飛ばして残りの左腕も斬り上げで飛ばす。

 四肢は全て切断。肉だるまと化した彼女はもう何も出来やしない。完全に再起不能だ。

 

「ぎあああぁぁぁっっっ!?!?!?」

 

「はっ……はっ……。いったい何だってんだよ」

 

 屋上で悲鳴が飛び交う最中、彼は自身の変わり果てた右腕に注視する。

 装甲で覆われた謎の右腕に、あまりにも切れ味が良すぎる刃物。感覚からしてISではない何か。これはいったい何なのだろうと目を見据えると、それ等は光の粒子となって消える。やはりISなのではと疑問が尽きないでいた。

 

「……それよりも」

 

 肝心の暗殺者を逃がしてしまった。恐らく、既に校舎から出ている事であろう。呆けている場合ではない。一刻も早く追い掛けねばならない。

 しかし、それに関わらず彼は落ち着いていた。まるで今後の展開がわかりきってるかの様に。

 首元に止血剤を当て包帯を巻きながらゆったりと屋上を歩き、辺りを見渡すと全力で走っている人影が。目を凝らすと肩には一本の矢が刺さったままの生徒。間違いなく例の標的──暗殺者だ。

 

「逃がしはしねえ、ぞっと」

 

 そう言うなり彼は懐から羅列されたスイッチを取り出し、それ等を数ヶ所押した。その意味とはいったい何なのか、知るのは彼だけだ。しかし、それは直ぐにわかる。

 

「さて、向かうか……んん? ……ほー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり、IS学園校舎外。

 

「はぁっはぁっ……」

 

 暗殺者は全力で走った。一先ず向かう先は唯一の退路、モノレール駅。泳ぐ事も考えたが直ぐに捕まるのがオチだ。協力者は現在足止めしている筈、ならば本土に逃げるのが得策だと考える。

 

「クソ、クソォッ!!」

 

 失敗してしまった。長年と待っていた任務が。これでは面目丸潰れ、大事処の話ではない。政府からは信用を失うだろう。大事な任務を失敗してしまったのだから。

 

「ぐ、ぐぅっっ!!」

 

 力いっぱい矢を握り締めて、漸く抜けたそれを捨てて足に力を入れる。もう少しで、もう少しでモノレール駅。そこまで行って駅員を人質に取ればあとはどうとでもなる。屋上で拾っていた拳銃を携え、彼女はほくそ笑んだ。

 

「は、ははっ、はははっっっ!!!」

 

 

 

 ──しかし、彼女の思惑は叶わない。決して。

 

 

 

「──っっっ!?!?!?」

 

 突如として鳴り響いたのは、一発の乾いた音。その直後に彼女は両足に激痛が走り、地面へ転げ回ってしまう。

 

「い、痛い! 痛いっ!! 痛いっっっ!!!」

 

 いったい何が起きたのか、足に感じるのは痛みと焼け箸を刺された様な熱さ、そして皮膚に滴る液体の感覚。確かめるべく、視線を自身の両足へ向けると──。

 

「何が……っっっ!?!?!?」

 

 ──彼女の両足には、無数の穴が出来ていた。

 乾いた音、無数の穴。それによって彼女は一つの結論に辿り着く。

 

(散弾……!!)

 

 そして同時に気づく。道端にある木の根本から見える、うっすらと漂わせる硝煙を。それを見た彼女は戦慄し、ある一つの兵器を思い出す。

 

 

 

 ──指向性散弾──。

 

 

 

 簡易に作られたその機械にはセンサーが一つ。そして上部には一本の筒と後部にはハンマー。

 そう、これこそが隆道が組み立てていた機械の正体。『髑髏』が愛用する、獲物を逃さない実包を用いた狩り道具の一つ。所謂──指向性地雷。

 彼は獲物の逃走経路を予測し、これを至る所に設置していたのだ。つまる所、彼女は──地雷原に足を踏み入れてしまっていた。

 

「そんな、そんなぁ……──ぐぅっ!?」

 

 絶望の最中、自身に襲い掛かって来たのは肩への激痛。眼球だけの動きでその方を向くとそこには一本の矢が。その出先には──。

 

「逃がさねえぞ、このクソアマがあ……!!」

 

 ──コンパウンドクロスボウを構えた、夥しい程に血塗れの隆道。

 彼女は混乱し、そして恐怖した。破壊した筈の武器を何故、彼が持っているのか。それよりも、足止めはどうなったのか。それ等が彼女を一層に震え上がらせる。

 このままでは殺される。そう感じた彼女は咄嗟に拳銃を向けようとするが──。

 

「──がぁっっっ!?!?!?」

 

 ──その直前に凄まじい速度を放つ矢は拳銃を破壊。手に着弾し、そのまま肩にまで貫通する。

 

「……ふーん。中々のもんだな、これ」

 

 

 

 ──対人射撃武装『HV.CROSSBOW』──。

 

 

 

「精度良し、威力良し、と」

 

 破壊されたコンパウンドクロスボウより性能が高いであろうそれは正に彼にピッタリの武器だ。何故、この様な武器が出現したかは彼自身理解は出来なかったが、今は良しとするかと深く考えはしなかった。

 それよりも目の前の『獲物』が最優先。目の前まで近づいていき、それを彼女の顔面に向ける。

 

「……どうだよ? 狩る側のつもりが狩られる側だった気分っつーのは」

 

「ぐ、うぅっ……。い、命だけは……!」

 

「……はあ。……何も、何も知らねえ人間の命を取ろうとしておいて……!!」

 

 絶対にこの畜生を許す訳にはいかない。一切の何も知らない少女の命を狩ろうとしておきながら醜い命乞いをする彼女には慈悲は無い。

 よって彼は──。

 

てめえが死ねぇっっっ!!!

 

「ひぃっっっ!?!?!?」

 

 ──トリガーに指を掛けた。

 

「そこまでだっ!!」

 

「!」

 

 トリガーを引こうとした、その瞬間。後ろから聞こえるのは一人の女性の声。其方へ振り向くと仁王立ちの女性──千冬が一人と拳銃や自動小銃(アサルトライフル)を構える教員が数名程並んでいた。

 

よお、ブリュンヒルデ。それにクソ教師共

 

「柳、もうこれ以上はやめるんだ……!」

 

ああ? コイツを生かすってのかよ……!!

 

「尋問の必要がある。あとは我々に任せてくれ。どうか、どうか頼む……!」

 

「織斑先生っ!?」

 

 頭を下げてまでの悲願。教員の目があろうと、千冬は彼の説得に全力を注いだ。

 これは彼の為でもある。人の目など関係無い。人殺しをさせたくないが故の行動。

 

「……はあっ。くそったれ」

 

 彼女の悲願に彼は、何故か頷くしかなかった。普段ならば一切戯れ言を聞く事はしなかったにも関わらずに。それは良心なのか、または別の何かなのか。それは彼自身ですらわかりはしなかった。

 

「一つ、頼みがあるんだけどよ」

 

「……何でも言え。出来る限り叶えて見せる」

 

「俺が動いた事、デュノアに言うんじゃねえぞ」

 

「何っ!? これはお前のおかげ──」

 

「んじゃ、あとはよろしく──」

 

 手持ちのスイッチを全て切ったその瞬間、彼の武器は光の粒子と化し消滅、同時に倒れる。

 三日以上も飲まず食わず、更には頸動脈損傷の多出血と被弾によって既に限界が近かったのだ。本来ならばとっくに倒れて動けない筈であった。

 

「っ!? 至急彼等を特別医療室へっ!」

 

「りょ、了解!」

 

 早急と教員に運び込まれていく血塗れの二人。その地面には血溜まりだけが残っていく。

 かくして、彼の狩りは幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは……本当、なんですか……?」

 

「ああ、本当だ。此方の問題は我々で片付けた。残すは()()()だけだが、気にする必要は無いぞ。お前はもう自由だ」

 

「う、うぅ……ぐずっ……」

 

「……いずれ連絡が来るだろう。その時は電話に出てやるといい」

 

「あ゛り゛がと゛う゛ござい゛ま゛す゛……!」

 

「…………」

 

「……? あ、す、すみません。つい……」

 

「いや……。さて、制服は新たに用意しようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜。一年一組の教室。

 朝方のSHRには隆道は勿論、シャルロットの姿さえも無かった。

 

「…………」

 

 一夏は不安に駆られた。昨日からいなくなった彼女はいったいどうしたというのだろうか。もう一度ぐるりと見渡しても二人はいない。それが、より一層彼の不安を増幅させていた。

 まさかとは思うが男装問題が関係してるのか。それならば彼女はもうここに来ないのではないかと思考が渦巻いていく。

 どう考えてもマイナス思考に陥ってしまう彼。やはり一生徒ではどうしようもなかったのかと、気分は絶不調となっていった。

 と、そこへ──。

 

「おい、何しけた面してんだ」

 

「へぁっ!? や、柳さんっ!?」

 

「おう、柳さんだ」

 

 彼の頭をぽんぽんと叩く青年──隆道の姿。

 一夏を含めた全員が目を見開いた。ずっと姿を現さなかった隆道が漸く教室にやって来たのだ。機嫌も悪くなく、雰囲気も穏やかである様子から体調は良くなったのだろう。

 

「た、体調は──」

 

「体調? ……ああ。見ての通りだ」

 

 そう言いながら大丈夫と言わんばかりに身体を見せ付ける隆道。これには不安の真っ只中だった彼も安堵の表情を浮かべるが──。

 

「良かった……あっ!? 柳さんっ! 昨日からシャルルが──」

 

「落ち着けって。あいつはいるから安心しろよ。教師共と一緒に来る筈だ」

 

「い、いる? 一緒に?」

 

「ああ。……ほら、噂をすれば、な」

 

「へっ?……あ」

 

 隆道に促され、彼を筆頭に全員が扉へ向いた。そして、そこに立つ人間を見て生徒達は一斉に騒がしくなっていく。

 

「今日は、ですね……皆さんに紹介したい生徒がいます……。既に紹介が済んでいると言いますか、ええと……」

 

「挨拶をしろ、デュノア」

 

「はい」

 

 教師が二人に、スカート姿の生徒が一人。隆道を除いた生徒全員が彼女に対して言葉を失った。それを余所に彼女は笑顔を見せて言葉を放つ。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

 コスモスが、咲いた。




◆対武装絶対索敵投影『猟犬』
武装とISを必ず探知するシステム。
探知機に反応しない武装は勿論の事、潜伏モードのISですら探知が可能。
索敵対象を選べば音声を盗聴可能であり、足跡も視界に表示される。
待機形態でも使用可能。

◆対IS光学迷彩『幽霊犬』補足。
待機形態でも使用可能。
防御性能は皆無。隆道本人がダメージを受ける、または触れられると解除される。

◆『HF.MACHETE』
正式名称『Hi Frequency.MACHETE』
対人近接武装その一。
対人戦用として作成された高周波マチェット。
特殊加工と高周波により大抵の物体は切断可能。当然ながら絶対防御は貫通不可。

◆『HV.CROSSBOW』
正式名称『High Velocity.CROSSBOW』
対人射撃武装その一。
対人戦用として作成された高速クロスボウ。
弾道CPU付きのスコープを搭載。弦を引くだけで矢が自動生成される。

◆待機戦闘形態(右腕部)
隆道の右腕に展開された謎の外骨格。
作成中の為、詳細不明。



~ここから後書き~

ここまで読んでくれた皆さんは思う事でしょう。次回こそが学年別トーナメント回だと。

違うね!その前にやらかす新たなオリジナル回!しかし、話数は少ない!(たぶん二~三話)
オリ主をとことんぶっ壊していくぞーっ!!
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