IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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お待たせしました。

本当はもっと先まで書いてたのですが、二万文字を突破した為に分割しました。
その為、今回はオリ主の出番無し!!


第四十二話

 男性操縦者襲撃事件が起こった六月二十二日。この日以降、一夏と箒の生活事情は多少なりとも変化した。

 一夏と箒の行動は教員か代表候補生との同行が必須、アリーナ使用の際は学園が厳選した教員が監視員として置かれる事となった。現状は千冬と真耶、そして最近復帰したばかりの菜月といった極少数だ。信用出来る人物が限られた今、唐突の襲撃を考えれば当然の事であろう。更なる仕事が増えてしまった彼女達が報われる日は来るのか。

 彼等と同行する代表候補生に関してはセシリアに鈴音、そしてシャルロットの三人がいる。何も心配はいらないだろう。日葵とラウラは論外だ。

 一方の隆道に関して。彼は日葵以上の危険人物として扱われる事になる。所謂ブラックリスト。

 彼が漸くと見せた単一仕様能力『悽愴月華』。相手の武装を奪い、IS適性を奪う事が可能なその能力は非常に危険過ぎる。相手の攻撃手段を絶つ処か一生ISを操縦不可能になるのはIS学園内──いや、全世界の女性にとっては恐怖そのものだ。自らの選手生命を絶たれるのと同然なのだから。

 当然、この能力の詳細は後日の緊急全校集会で襲撃事件を含めて公開された。これを聞いた生徒並びに教員全員は顔を真っ青にしたとか。何人かは追放するべきだと声を上げた者もいた。

 至極当然だ。何せ、その能力を一度でも受けてしまえば苦労して培った全てが終わってしまうのだから。誰が好き好んで自分の危険を晒してまで近づこうとするのか、誰が好き好んで危険人物と同じ構内で暮らしたいというのか。

 だが、その要望は却下される。学園側が言える事は接触を避けよ、それだけしか言えなかった。

 世界に二人としか存在しない男性操縦者。その片割れを追放などすれば世界中の人間がこぞって拐いに来るか、或いは殺しに来るか。一般操縦者と男性操縦者のどちらが価値があるかなど、答えは言うまでもない。彼女達は彼に対してただただ怯えるしかないのだ。

 だが、逆に言えばこれは抑止力と言って良い。憎む存在が勝手に遠ざかるのだから彼にとっては有難い物であろう。まるで腫れ物扱いのそれではあるが、女性不信である彼にとって別に気にする事ではなかった。

 それに、誰よりも彼自身がこの能力の危険性を把握している。エネルギーや武装、IS適性だけに留まらず、()()()()()()()()()()()()()。如何に強力であっても使う気にはなれない。使うとするならば──相手が明確な『敵』である時だけだ。頻繁に使うつもりなど更々無い。

 それでも、危険人物という事には変わり無い。これを機に、彼は全面的な戦闘を禁じられる──その筈だったのだが。

 なんと、IS学園上層部はこれを却下したのだ。今後は稼働データだけでなく戦闘データも積極的に採取せよと通達が送られてきたのであった。上の連中はいったい何を考えているのか。

 

 

 

 一つだけ可能性があるとするならば──まさか『灰鋼』の更なる変異を望んでいるのだろうか。

 

 

 

 そうして戦闘が解禁された彼であったのだが、勿論行動する際は一夏達と同様、教員または代表候補生が付く事になっている。教員には千冬を、代表候補生にはシャルロットを。

 教員の中でシステムを起動した彼を止められる可能性を持つのは千冬のみであろう。他の教員では返り討ちに合うのは目に見えている。これ以上と問題が起きてしまっては堪ったものではない。

 代表候補生に関してはシャルロットが適任だ。代表候補生の中では彼女だけが彼との人間関係が良好が故、千冬は協力を仰いだ。

 勿論、彼女はこれを二つ返事で了承した。一度は痛い目にあったが、自分を多少なりとも支えてくれた彼に何か出来るのならばそれに越した事は無い。それに、女性不信である彼が何故、自分と普通に接するのか知りたいという気持ちもある。それ故の返事だ。事の真相を知った時、彼女は彼に対しどんな想いを抱くのであろうか。

 

 

 

 

 

 ところで、彼等三人に襲撃をかました生徒九人と監視員はどうなったのか。

 貴重な人間を危険に晒した彼女達は勿論重罪、尋問した後は速やかにIS学園から追放し、今頃は政府に拘束されている。もう日の光を浴びる事は無いだろう。なんと愚かな末路か。

 彼女達に指示を出したのは男性操縦者の存在を憎む者──以前、隆道の抹殺を指示した女性だ。監視員に彼等を襲撃せよと命じ、あまつさえ女尊男卑主義の生徒達にも協力を仰ぐというド畜生。彼女は危惧していたのだ、彼がとてつもない力を得る事になると踏んで。

 それは正に焦り。以前の失敗の件がそれを加速させて周りが見えなくなった彼女は、またしても愚行に走ったのであった。その結果この様だが。

 足が付く事が無い様に色々と手は尽くしたが、もう同じ手を使う事は出来ない。彼は今後も力を付けていくことであろう。それが彼女をより一層怯えさせる事になったのであった。

 尤も、その逃げの努力も虚しく近い内に身柄を拘束される事になるのだが。

 

 

 

 男性操縦者の襲撃を命じたのは政府の女性だ。それは間違いないではない。

 

 

 

 だが、彼女も唆された人間の一人に過ぎない。

 

 

 

 では、いったい誰が彼女を唆したのか?

 

 

 

 それは男性操縦者を憎む存在ではなく──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS委員会、日本支部にて。

 その廊下の一角にて、二人の男がいた。一人は熊田、もう一人は熊田と同じIS委員会の人間だ。彼は男に対し怒りを露にしている。

 

「貴様ぁっ!! 気は確かなのかっ!!」

 

「全く……喧しいぞ、私が何をしたというのだ。二番目の戦闘に関しては各国も賛成しただろう」

 

「その事ではない!! ……知っているんだぞ、お前があの女を唆して彼等を襲わせたのは」

 

「はっ、何を言うかと思えば……。あの女が勝手に暴走した、それだけの事だ。私に責任は無い」

 

「この……!!」

 

 彼は男の言葉に剣幕な表情を見せる。対する男はしれっとした表情であった。その堂々とした姿は彼の怒りを更に膨れ上げていく。

 激昂する彼に対し、男はその姿勢を崩さない。ネクタイを直しつつも目を逸らさずに淡々と口を開くだけだ。少しも悪びれる様子など無い。

 そう、この男こそ男性操縦者襲撃事件の発端。女尊男卑主義である政府の女性を唆した張本人。彼女に当たり障りの無い事を言って隆道達を襲う様に煽ったのだ。いったいその真意とは。

 

「証拠は何も無い、捕まるのはあの醜い女だけ。良かったではないか、世界の癌が一つ減って」

 

「その為に彼等を危険に晒したと言うのか!! 下手をすれば彼が死ぬ恐れがあったのだぞ!!」

 

「……まるでわかっていないな、これは必要な事なのだよ。彼を、二番目を戦わせる為には、な」

 

「何だと……!!」

 

「彼の『灰鋼』は戦闘毎に変異していく。これは彼女の『華鋼』とはまた違ったものだ、積極的に戦闘をして貰わねば困るのだよ。我々は『灰鋼』の変異を求めているのだからな。トーナメント戦は先手を打たれてしまったが、まあ良いだろう。既に圧力を掛けたのだから今後に期待だ」

 

 これが、男性操縦者襲撃事件の真意。一夏や箒は然程重要ではない。ただ単に隆道に戦闘させる為だけのものであったのだ。この男、正気か。

 更にはそれだけに留まらない。事の真相を一切知らないIS委員会は非情にもある決定を下した。

 

 

 

 ──『灰鋼』の戦闘データを採取させると。

 

 

 稼働データ。それしか送らないIS学園に痺れを切らしたIS委員会はIS学園上層部に圧力を掛け、今後は積極的に戦闘データを取れと命じた。幾らIS学園であろうと、IS委員会からの全面的で全力な圧力の前では規約などあまり意味の無いもの。

 彼が危険? 学園の人間も危険に晒される? そんな事、IS委員会には一切関係無い。必要なのは『灰鋼』の変異だ。『リカバリーショット』の量産により味を占めた彼等は更なる物を求めた。

 それだけではない。IS学園に蔓延る女尊男卑、それが崩れゆく様をこの目でしかと見たいのだ。女性が男性に怯える、その姿を。

 勿論この事に反対をした者はいるが、それ等は女性が大半。男性が大多数な事もあってか大勢が賛成の声を上げ、結果が戦闘データ採取の可決。数の暴力とはこの事であろう。

 名目上スポーツとして扱われているIS。だが、あくまでそれは一般目線としてだ。IS委員会だけでなく、どの国の研究員も兵器として見ている。それを公言しない、ただそれだけなのだ。

 

「貴様も見ただろう? 新たに発現したシステムに対人兵装を。更には例の単一仕様能力。確かに恐ろしいものではあるが実に面白い。それにだ、傲慢な女共が怯える姿は滑稽だと思わんかね?」

 

「っ! 貴様という奴は……!!」

 

「各国もそれを望んでいる。エネルギー回復装置だけでなく、今度は高性能な武器を作り出した。あの『灰鋼』は、今後我々に何を見せてくれるのだろうな? はっ、はははっ!!」

 

「……この、悪党めが」

 

 IS委員会は、『灰鋼』の更なる変異を求めた。

 IS学園の安否は二の次。男性操縦者は兎も角、女子生徒や教員、選手の代わりは幾らでもいる。終わってしまえば別の者を探すだけ。

 彼等が一番に望むもの。それは新たな技術──テクノロジーへの進化。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六月も最終週に入った月曜の二十七日。

 IS学園は学年別トーナメント一色に変わった。慌ただしさは予想を遥かに上回り、第一回戦が始まる直前まで全生徒達が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っている。勿論の事、教員も大忙し。

 それからして漸く解放された生徒達は急ぎ足で各アリーナの更衣室へと走るという多忙の極み。トーナメント前にしてへろへろな彼女達は大丈夫なのであろうか。そこだけが心配だ。

 ちなみにだが、男子組──というか一夏一人は例によってこのだだっ広い更衣室を一人占めだ。恐らく、反対側の更衣室では本来の倍となる生徒を収容して大変な事になっているであろう。

 

「しかし、凄いなこりゃ……」

 

 更衣室のモニターから観客席の様子を見れば、そこには各国政府関係者、研究員、企業の人間、その他諸々の顔ぶれ。あまり興味が無いが故か、人数の多さだけに驚愕していた。

 そこでふと、雑務の際にシャルロットが言っていた事を思い出す。

 

『三年にはスカウト、二年には一年間の成果確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今の所関係無いみたいだけど、それでも上位入賞者には早速チェックが入るよ』

 

『ふーん、ご苦労な事だな』

 

 だがしかし、それもほんの少し思い出すだけ。今の彼には他の考えが過ってしまっていた。

 ここ最近起きた一連の騒動。代表候補生の私闘から男性操縦者襲撃事件、それ等を思い出す。

 セシリアと鈴音を嫐りに嫐ったラウラ、そしてそのラウラをいたぶり千冬に一撃を与えた日葵。そして自身に降り掛かった女尊男卑主義の襲撃。最後には──。

 

ギャア゛ア゛ア゛ァァァッッッ!?!?!?

 

 ──未だに頭にこびり付く、隆道の悲鳴。

 

「っ……」

 

 彼は無意識の内にその拳を握り締めていた。

 隆道が持つ単一仕様能力はしかと聞いている。どれだけ危険なのか、それは十分理解している。

 

 

 

 だがしかし──。

 

 

 

 それがどうした、それが何だと言うのだ。隆道は心優しい、闇雲に力を振るったりなどしない、力に溺れたりなどしない。少なくとも、彼自身はそう思っている。周りがどれだけ危険視しようと自分はあの人の味方、それだけは絶対揺るぎ無いものだ。見捨てるなど有り得ない。あの日誓ったのだ、隆道の力になりたいと。

 しかし、そんな想いも虚しくか、何も出来ない自分を置いて周りの人間が次々と傷ついていく。それが堪らなくて仕方がなかった。

 自分は未だ弱いまま。まさかこの先もこのままなのかと、それが彼の思考を支配する。

 自分がやりたいことはなんだ。自分はいったい何をしたいのか。自分は──何も出来ないのか。

 

「駄目だ、感情的になるな一夏。シャルロットも言っていたじゃないか。今は……試合に集中だ」

 

 そう一人、彼は自分に言い聞かせてモニターを見直す。もうそろそろ対戦表が決まる筈だ。

 そうだ、今は雑念等を捨てろ。何の為に彼女と特訓を重ねてきたのか。この調子のままでは彼女に申し訳ない処ではない。自分が許せなくなる。

 彼は深呼吸し、その精神を落ち着かせる。漸く落ち着いたその頃、ある一つの疑問が残った。

 どういう理由なのか定かではないが、突然たるタッグ戦への変更がなされてから従来までに使用していたシステムが正常に機能をしなかったと。本来なら前日に作成出来る筈であった対戦表も、今朝から生徒達が手作りの抽選クジで作成していたとか。もっと早めにするべきだったのではと彼は思ったのだが、それは胸にしまう事にした。

 

「おっ……。一回戦目、か」

 

 先ず表示されたのはAブロック一回戦一組目。チームは一夏とシャルロットのペアであった。

 これは運が良い。何せ待ち時間に色々考えずに済むから。勢いが肝心、出たとこ勝負、思い切りの良さで行きたい等々といった所だ。

 残すのは対戦相手のみ。いったい相手は誰なのだろうかと、真剣にモニターを見詰める。願う事ならば最初の対戦相手はラウラのチームが良い。

 今回のトーナメント参加者の中では間違いなく最強の部類であろう。だが、それでもラウラとは戦わねばならない。決着を付けねばならない。

 と、待つ事数十秒──。

 

「──!」

 

 ──画面が切り替わり、対戦相手が決まった。

 

 

 

 ──Aブロック一回戦──。

 

 

 

 ──織斑一夏&シャルロット・デュノアVS篠ノ之箒&ラウラ・ボーデヴィッヒ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。反対側の更衣室では。

 

「…………」

 

 人口密度が凄まじいそこにあるのは一つの冷気を放つ一角、ラウラの姿。彼女から滲み出るその異様な気配には籠った熱も二の足を踏むかの様。いったい何が彼女をそうさせているのか。いつ頃からなのかは彼女自身すら覚えてはいなかった。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

 それが彼女の名前ではあるが、同時にそれは何も意味を持たないと彼女自身が理解している。

 しかし、それでも例外はあった。自身を鍛えてくれた教官──千冬に呼ばれるその時だけは、その響きだけが特別な意味を持つ気がして、その度に僅かな心の高揚を感じ取っていた。

 彼女もまた、千冬に惹かれた者の一人。だが、それはそこら辺のファンなどといった生温いものでは断じて無い。それは──。

 

(あの人の存在が……その強さが私の目標、存在理由……)

 

 出会った時に一目でその強さに震えた。恐怖と感動、そして歓喜に。そして彼女は願った。

 

 

 

 ──ああ、こうなりたい。

 

 

 

 ──これに、私はなりたい。 

 

 

 

 空っぽだった穴が埋まり、それが全てとなる。自らの師、絶対的な力、理想の姿。唯一と自らを重ね合わせてみたいと感じた存在は彼女にとって希望そのもの──いや、それ以上であった。

 で、あるならばだ。それが完全な状態でない事を許せはしない。絶対にだ。

 

(織斑一夏、柳隆道、篠原日葵……)

 

 千冬に汚点を残させた張本人の一夏。千冬を今も悩ませる隆道。千冬を這いつくばらせた日葵。三人の存在を決して認めない。許さない。それが全くの無意味だとしても倒さねばならないのだ。あの人に近づきたいから、あの人に認められたいから、あの人に自分を見て欲しいから。

 

(排除する。絶対に、絶対に……!!)

 

 先ずは一夏からだ。彼を徹底的に叩きのめす、その事だけを考えて彼女はゆっくり立ち上がる。

 暗い闘志に火を付け、その赤い右目は鈍く光を放つ。『敵』を倒す、ただそれだけの為に。

 

 

 

 彼女は知るよしもない。

 

 

 

 自分が()()だという事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時は進み──。

 

「一戦目で当たるとは、な。待つ手間が省けたというものだ」

 

「そりゃなによりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

 両チームは既にアリーナのステージ内にて対峙していた。一夏とラウラは互いに睨み合い、直ぐにでも飛び出す勢いで試合開始の合図を今か今かと待っている。一触即発状態だ。

 

『試合開始まで十、九、八──』

 

「先ずは貴様から排除してやる。覚悟しろ」

 

「はっ、やってみろよ」

 

『──二、一、試合開始』

 

 試合が今、始まる。

 

「「叩きのめすっっっ!!!」」

 

 一夏とラウラの怒声は奇しくも同時であった。

 開始と同時に彼は瞬時加速で一気に詰め寄る。先ずは先手、これが決まれば戦況は大きく傾く。

 

「おおおおおぉぉぉっっっ!!!」

 

「ふん」

 

 それを全くと動じない彼女は右手を彼に向けて突き出した。その意味を彼は既に理解している。

 

(来る……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『A.I.C? なんだそれ?』

 

『『シュヴァルツェア・レーゲン』の特殊兵装。アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略。慣性停止能力ね』

 

『ああ、あの動きを止めたのが……』

 

『ええ、その対策を考えますわよ。……理屈として大体が衝撃砲と同じ、エネルギーで空間に作用を与えている筈ですわ』

 

『じゃあ『零落白夜』なら切り裂ける訳だな? でも実際止められたぞ?』

 

『簡単よ、『零落白夜』に触れなければ良いの。つまり、あんたの腕を直接止めたのよ』

 

『彼女なら出来るでしょうね。それに、一つ申し上げるなら一夏さんの動きは読みやすいので』

 

『ぐっ……。じ、じゃあどうすればいい?』

 

『そうね……ぶっちゃけ確実な手段は無いわね』

 

『なら、これならどうでしょうか。確実……とは言えませんが──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!!」

 

 唯一の手段──意外性で攻める事。

 しかし、その程度の戦略など読むまでも無い。彼女は彼の腕を始めに胴体、足と『A.I.C』の網に捕らわれる。押そうが引こうが少しも動かない。まるで見えない腕に掴まれたかの様に彼は身動きの一つ取れなくなってしまっていた。

 

「開幕直後の先制攻撃……これ以上わかりやすいものは無い。やはり感情的で直線的だな」

 

「……そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

 

「ならば次にどうするかもわかるだろう」

 

 全然わかりたくはないが、想像は実に容易だ。彼女の機体に備わる『リボルバーカノン』からの装填音が響き、『白式』が警告を発する。

 

 ──警告。ロックオンを確認──。

 

 だが、彼はたじろぐ事は無かった。目と鼻の先にその砲口があっても落ち着いた表情だ。理由は実に簡単、当たり前の事。何せこれは──。 

 

「そう慌てるなって、何も一対一じゃないんだ」

 

「先ずは一撃──」

 

「──そうだろ?」

 

 彼の頭上を飛び越えて現れるのは、後付武装を構えたシャルロット。それと同時に特殊弾の射撃を浴びせ、その砲口をずらす。

 

 ──六一口径アサルトカノン『ガルム』──。

 

「ちっ……!」

 

 シャルロットの射撃によって彼に向けて放った砲弾は空を切り、更なる追撃によって彼女は急後退し間合いと取る。だがしかし、シャルロットは彼女を逃がしはしない。

 

「逃がさないっ!!」

 

 シャルロットは即座に銃身を正面へと突き出す突撃体勢に移行。片手に更なる後付武装を展開、呼び出し無しのそれは一秒と掛からず形成した。そう、これこそシャルロットが得意とする技能。

 

 ──『高速切替(ラピッド・スイッチ)』──。

 

 それは事前呼び出しを必要しない、戦闘と平行して行える瞬時の武装展開。これはシャルロットの器用さと判断力があってこそのものだ。これがあるからこそ、数多くの後付武装を備えていた。

 と、そこへ──。

 

「私を忘れて貰っては困る、ぞっ!!」

 

 遮る様に現れるのは打鉄を纏う箒。

 防御型ISである証明である浮遊シールドを前に展開し、銃弾を弾きながらもシャルロットへ斬り掛かる。しかし、その動きは何処か鈍い。

 

「それじゃあ俺もぉっっっ!!」

 

 『A.I.C』から解放された彼は直ぐシャルロットの背中へと瞬時加速する。このままでは衝突だ。

 しかし、衝突するその直前──。

 

「はいっ!」

 

「──なっ!?」

 

 シャルロットはその場で宙返り。彼との場所を入れ替え、彼と箒の刀がぶつかり火花を散らす。

 まさかの交代。しかも息の合ったその動きには驚愕の意を見せざるを得ない。

 二人の連携がとても凄まじい。少なくとも此方のチームよりあるだろうと箒は歯を食い縛った。

 鍔迫り合いの最中、彼は突如箒に語り出す。

 

「……なあ、箒」

 

「な、なんだ……!?」

 

「試合中なんだぜ、今は柳さんの事考えるなよ。あの人はそんな顔望んじゃいない」

 

「……!!」

 

 どきりと、心臓が跳ね上がった。

 彼は見抜いていたのだ。箒が隆道の一件で雑念が生まれていた事に。先日起きた事件以降、箒は自身を庇った隆道の事で頭が一杯であった。自分が足手まといだったから、自分が弱かったから、隆道はあんな事になってしまったのだと。

 それは正しく悔みだ。やはり、自分には力こそ必要なのだと、心の闇が少しずつ支配していた。

 

「そんな顔……らしくない。全然らしくないぜ」

 

「…………」

 

 しかし、そこに現れたのが彼の一言、彼の顔。それによって箒は我に変える。心の中の闇が次第に晴れていくと、箒はそう感じた。

 

「……ああ、すまなかった。そうだな……今は、試合中だっっっ!!!」

 

「──ぐおっ!? ……ははっ、それだよそれ。なら……おおおっっっ!!!」

 

 彼と箒は刀を何度となく打ち合う。それが続く──事は無い。彼はスラスターの推進力を上げて斬撃の加速度を増し、箒を後方へ押していった。その高速攻撃には防御体勢にならざるを得ない。

 

「くっ……! この……!」

 

「シャルロット!」

 

「うん!」

 

 その刹那、彼の背中に控えていたシャルロットが両脇から手を伸ばす。その手に握られているのは広範囲攻撃に特化した二丁の後付武装。

 

 ──六二口径連装散弾銃『レイン・オブ・サタディ』──。

 

 この至近距離、外す事は決して有り得ない。箒は青ざめるがもう遅い。シャルロットは引き金を引くが──。

 

「!?」

 

 突然、目の前の箒が消え、散弾は虚しくも空を切った。いったいどこへ消えたのか?

 その理由は──。

 

「邪魔だ」

 

「なっ、何をっする──ぐあっ!?」

 

 入れ替わる様に急接近して来るのはラウラだ。その機体から『ワイヤーブレード』が一つ伸び、それは箒の足に絡み付いてステージ端まで遠心力で投げ飛ばしていった。

 そう、箒が消えた理由は彼女による牽引だったのだ。散弾を食らう事は無かったが、結果的に箒は地表に叩き付けられダメージを負ってしまう。抽選決めだったとはいえ、この女はいったい仲間を何だと思っているのか。

 語るまでも無いだろう。ただ邪魔だったから、それだけの事だ。助ける気など最初から無い。

 味方からの妨害により箒は怒りを露にするが、当の本人は聞く耳持たずだ。既に彼等への攻撃を始めているのである。チーム戦とはいったい。

 彼女は『プラズマ手刀』を展開し、左右からの連続攻撃。斬撃と突撃を混ぜた正確無比のそれに一夏は押され気味となってしまう。

 

「数の差で私が有利だな」

 

「くっ……たかが二倍じゃねえか!!」

 

 そうは言うものの、彼女の実力は確かである。今現在も彼との接近戦をこなしながらも、それと同時に『ワイヤーブレード』を四本全て駆使してシャルロットを牽制、彼から引き離している。

 

「無事か?」

 

『一夏こそ無事? 直ぐにサポートに入るから』

 

「いや、いい。このまま例の作戦で頼む」

 

『……わかった』

 

 秘匿回線で短くやり取りを交わし、彼等は予め決めていた作戦の一つへと移る。

 それは『箒を倒そう』作戦。なんとも安直ではあるが、タッグ戦において一人が欠けてしまえばそれだけでも状況は大きく変わる。

 この作戦を決めたのは結構単純であった。彼女の戦い方は一対多に特化している。つまり──。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だ。軍人がそれで良いのかと内心思った彼であったが、そんな事はどうだっていい。

 

 

 

 一対二の状況で畳み掛ける、それがこの戦いに勝つ道標だ。しかし、その状況でも充分に戦える能力を彼女は持っている。焦りはしないだろう。だが──そこが落とし穴だ。

 彼女の射程距離外から離脱したシャルロットは直ぐ様箒へと間合いを詰める。

 

「相手が一夏じゃなくてゴメンね」

 

「なっ……!? ……まあ、いいだろう。敢えて乗ってやるとしようではないか」

 

「ありゃ」

 

 一応と挑発を掛けたのだが、今の箒にはあまり効いてはいなかった。詰め寄りつつシャルロットは近接ブレードを展開、箒の斬撃を受け止める。

 

 ──短剣型近接ブレード『ブレッド・スライサー』──。

 

 しかし、近接ブレードで箒の攻撃を受け止めたその直後、片手の『レイン・オブ・サタディ』が火を噴いた。至近距離での銃撃など全く想定していなかったのだろう。箒はモロにそれを食らう。

 

「くっ……!」

 

 射撃戦の印象が強いシャルロットではあるが、最大の特徴は『器用さ』だ。格闘も人並み以上にこなす上、そこへ例の『高速切替』。斬り合いかと思えば銃に持ち替えての射撃、間合いを離せば剣に切り替えて近接格闘。押しても引いても一定の攻撃リズムを保ち、安定したその構えを安易に突破する事は出来ない。

 曰く、『求めるほどに遠く、諦めるには近く、その青色に呼ばれた足は疲労を忘れ、緩やかなる褐色の死へと進む』。

 その戦法は、世間ではこう呼ばれている。

 

 

 

 ──『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』──、と。

 

 

 

「先に片方を潰す戦法か。無意味だな」

 

 彼女は箒を数には入れていないだろう。だが、彼等にとっては脅威の一つである。シャルロットが箒を撃破するまで何としても耐え凌ぐ、それが今の彼に出来る事だ。やり遂げねばならない。

 『プラズマ手刀』に『ワイヤーブレード』から繰り出される波状攻撃。これを全て捌き切るのは決して容易い事ではないが、彼は必死に接近戦を維持し続ける。

 

「貴様の武器はブレードのみ。さあ、どうする。離れればただの的だぞ?」

 

「う、うおおおっっっ!!!」

 

 彼女の言う通り、距離を離せば単の的になる。更に『ワイヤーブレード』がある以上、一度でも距離を取られれば取り戻すのにエネルギーと時間を食う。ならば、意地でも喰らいつくしかない。

 零距離で続く近接戦闘。途切れてしまいそうなその集中力を、彼は必死に、必死に繋ぎ止める。数分にも感じてしまうその戦い。今の彼に出来る事は──信じる事だけである。

 しかしその時──。

 

「……もう終わらせるか」

 

「!?」

 

 ──突如、彼の動きは止まった。

 

「ああくそっ! 『A.I.C』かっ!!」

 

「では──貰った」

 

「くっそおおおっっっ!!!」

 

 四本の『ワイヤーブレード』が無慈悲にも彼を切り刻む。装甲の三分の一を失い、エネルギーも半分以上持っていかれた。

 それでも彼女の攻撃は終わらない。そのまま彼の右腕を拘束し、捩じ切る様に回転を加えながら地表に叩き付ける。相殺しきれなかった衝撃が彼を襲い、呼吸を一瞬詰まらせた。

 

「がはっっっ!?」

 

「終わりだ」

 

 彼女は彼に容赦をする事は無い。今度は更なる追撃──いや、それは止めだ。大砲から放たれるその砲弾は対IS用徹甲弾。当たり所が悪ければ即終了となる代物。それが今、彼へと放たれ──。

 

「お待たせ!」

 

 ──その砲弾は防がれた。

 その正体は間一髪で間に入ったシャルロット。盾で砲弾を弾ぎ、全ての『ワイヤーブレード』を瞬時に切断して彼と一緒にその場から離脱した。この少年、なんたる強運の持ち主であろうか。

 

「シャルロット……助かったぜ」

 

「どういたしまして」

 

「箒は?」

 

「お休み中」

 

 シャルロットが促す先を見ると、ステージの隅で膝を付く箒の姿。エネルギーは残量無し、装甲も各部が大きく損傷していた。だが、どういう訳か何処かスッキリした様な表情であった。

 

「流石。……って、何であいつあんな爽やかな顔してんだ?」

 

「さ、さあね……。でも篠ノ之さん凄いね、僕も結構エネルギー持ってかれちゃったよ」

 

 少々困惑を見せつつも、シャルロットは片手に持つアサルトライフルを捨て新たな武装を展開。ショットガンとライトマシンガンの両方を持ち、戦闘体勢へと切り替わる。

 来てくれた。間に合った。ならば、ここからが正念場だ。

 

「さて、ここからが本番だね」

 

「ああ。見せてやるとしようぜ、俺達の連携を」

 

 戦いは、まだ終わらない──。




次回は近い内に投稿するのでどうか、どうかこれで許して……!
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