ついにVT戦開幕。結末や如何に。
ステージで隆道達の死闘が起こる、その直前。鎮圧に向かった千冬と入れ替りでピットに入った一夏達は──。
「急いで一夏!! 『白式』をハンガーにかけてケーブルの接続!! 僕達も手伝うから!!」
「おう!!」
今や三人は必死そのもの。急ぎ足で『白式』にコードを次々と繋ぎ、エネルギーの充填を開始。彼の機体のダメージレベルはC寄りのBだ。装甲の完全な修復は見込めそうにないが、この際機体が動けるなら何だって良い。
シャルロットも復帰しようとしたのだが、先の試合でダメージレベルがCに到達している。充填すれば復帰自体は可能だが、それをしてしまえば今後に支障を来す。故に、彼女は戻れはしない。唯一出来る事と言えば『白式』のエネルギー充填を手伝う事、ただそれだけだ。
三人掛かりで漸く機体にケーブルを全て接続、充填の完了を今か今かと待つ。この時間がかなりもどかしくて仕方がない。最悪、途中でも充填を止めてまで戻らなければ。
「早く、早くしてくれよ『白式』……!」
「やはり時間が掛かるな。柳さん達は今……?」
ふとモニターを見ると、その画面は砂嵐状態で状況が全く以て掴めない。ステージ内での状況はどうなっているのか。千冬より先に出た教員達や残された隆道は未だ戻っては来ない。その事実が彼等を余計に焦らせている。
「一夏! いい方法があった! 手伝って!」
「シャルロット!? いったい何を!?」
シャルロットは急いでボロボロとなった機体を待機形態に戻してケーブルを接続、エネルギーを充填する。彼女の機体はダメージレベルC、復帰は難しい筈だ。思い付いた方法とはいったい。
「……僕の『リヴァイヴ』ならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う。充填しつつ『白式』にエネルギーを移せれば──」
「本当か!? 頼む! 早速やってくれ!」
「ま、待って、設定するから……! えと……」
そう、彼女はこう言っているのだ。自身の機体にもエネルギー充填し、それで得たエネルギーをそのまま彼の機体に移すのだと。この方法ならば恐らくより速くのエネルギー充填が可能であろうという判断であった。要は充填速度の加速だ。
食い気味に掛かる彼に押されそうになりつつ、彼女は待機形態のISからコードを引っ張り出して『白式』に接続、あれやこれやと設定を始める。
「あとは『リヴァイヴ』のコア・バイパス解放。エネルギー流出許可。よし、これなら……!」
設定をして数秒程。どうやら成功したらしく、微々たるものではあるがエネルギーの充填速度が上がっていた。これならば復帰を早められる。
普通はコア・バイパスは極めて難しいコア同期をしなければならない筈なのだが、彼女はそれをぶっつけ本番でやってのけたのだ。優秀過ぎる。
「よっしゃ! あとは──」
と、その時──。
「うわっ!?」
「な、何だ!?」
突如と響いたのはステージから聞こえる轟音。それは連続して鳴り、地震かの様にピットを震動させている。その意味は彼と箒だけが理解した。
「これは……一夏っ!!」
「柳さん……!!」
あの時と一緒だ。隆道が豹変した、あの時と。つまり、ステージでは今──。
「急いでくれ、『白式』……!!」
しかし、それを確認する事は出来ない。彼が今出来る事はたった一つ、『白式』のエネルギーが回復するのを待つのみであった。
そして同時刻──。
「オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッッッ!!!』
隆道と『黒の剣士』はステージ中央にて激しい死闘を繰り広げていた。互いに一歩も怯む事無く武器をかち合う光景は見る者全てを圧倒させる。それ程までに凄まじいものであった。
空気を切り裂く風切り音に刃物同士がかち合う金属音が連続して響き、地表には無数の斬撃痕と複数のクレーター。最早、ISによる
そんな斬り合いの最中で、『灰鋼』の中のコア──『◯一九』は慌てふためいていた。この状況を何とかする方法はないかと今や必死であった。
──いったいどうすれば……。あ、特殊兵装は……!?
──特殊兵装、八十六パーセント──。
──駄目、間に合わない……!!
特殊兵装を出そうにも、未だ作成中だ。以前の待機戦闘形態と違い、途中から緊急展開出来ない以上どうしようもない。『◯一九』はただ見守る事しか出来ないのだ。何も出来ない自分が憎い、そうひしひしと感じていた。
そんな『◯一九』の事もつゆ知らず、彼は今も『黒の剣士』と激闘を続けている。
「死ねぁっっっ!!!」
斬り合いの最中で炸裂するのは、彼の最大攻撃力となる『鋼牙』。殺意に満ち溢れたその攻撃は『黒の剣士』の胴体を確実に捉え、爆発音と共に繰り出される。
至近距離からの爆速攻撃。並大抵の──いや、上級者ですらそれを躱すのはほぼ不可能に近い。防御しても無駄である。よって、『黒の剣士』はその攻撃をモロに──。
『オ゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
「!?」
──受ける事は無かった。
なんと、『黒の剣士』は彼が出す殺人的攻撃を回避処か防御もせず刀を用いて簡単に受け流し。二本の杭は無惨にも空間だけを叩いた。
武器だけでなく身体全体を使った、流れる様な動きは正に強者の動き。それは素人である彼自身にも嫌でも感じさせてしまう。
そして、受け流しをやってのけた『黒の剣士』は──既に攻撃体勢だ。
「くっ!!」
斬撃が来る直前に片足で防御体勢。その瞬間に脚部へ衝撃を感じ、装甲に一本の斬撃痕が残る。それによって体勢を崩し、彼は怯んでしまう。
(なんつう速さ──)
『ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
怯む彼を待つ程、『黒の剣士』は優しくない。いつの間にか次の攻撃──袈裟斬り体勢に入り、彼を狙っていた。このままでは真っ二つとなる。
『黒の剣士』が放つその鋭い袈裟斬りは今、正に彼自身を捉え──。
「食らうかぁっっっ!!!」
──空間を斬る風切り音だけが鳴る。
IS適性値はトップレベルにまで補正され、機体性能は競技用を遥かに超え、そして彼自身の技能──『危険察知』の存在。それ等により回避能力が桁違いとなった彼は斬られる事無く緊急回避、『黒の剣士』の後方へと入った。
「ヴラ゛ァッッッ!!!」
緊急回避の流れから彼は反撃。『黒の剣士』に『鋼牙』を力の限り突き出す。背後を取ったその攻撃は確実に入ったといっても良いであろう。
が、しかし──。
「何っ!?」
背後を取った筈の攻撃。にも関わらず、それはまたしても簡単に受け流されてしまう。しかも、今度は受け流しに留まらず『鋼牙』の装着部分に刀を刺される。そしてそこから捻り、いとも簡単に外されてそれは宙を舞った。
更にそれだけでは終わらない。『黒の剣士』は『鋼牙』を脅威と認識したのか、その場で高速の乱斬り、瞬時に切り刻みバラバラにしてしまう。
──『鋼牙』、大破──。
──機体の稼働限界まで、残り四分──。
「ああ、くそ──っ!?」
気づけば『黒の剣士』は下段の体勢。そこから繰り出されるのは──。
「やっべっっっ!?」
それは正に間一髪。彼は全力のバックステップで斬り上げを回避、大きく距離を離す。一旦体勢を立て直さなければならない。
前方からの攻撃は愚か、後方の攻撃すら無駄。この真っ黒な機体、隙が全く無い。
「危ねえ危ねえ。……あん?」
その時、身体に妙な違和感を覚える。視線を下に向けると胸部装甲には一本の斬撃痕。そこから滲み出るのは赤い液体──血だ。
そう、彼はまた斬られたのであった。骨や臓器まで斬られた訳ではないが、それなりの出血量。常人なら先ず悶える事は間違いない。
「……はんっ。よくもやってくれたじゃねえか。……今度はこっちの番だぁっっっ!!!」
しかし、彼は決して怯む事はない。自分自身が傷付く事など今まで幾度と無くあった。しかも、今は痛覚抑制が施されている。何を気にする必要があるというのだ。全く以て無いに等しい。
故に、意に介さず突撃する。彼の思考は『敵』の破壊と抹殺、ただそれだけなのだから。
「ダァッッッ!!!」
姿勢を極限まで低くし、仕掛けるのは出鱈目な瞬時加速。一気に詰め寄り、『黒の剣士』の顔面に全力で殴り掛かる。
無論、『黒の剣士』にはそれがはっきり見えているのだろう。即座に迎撃体勢に移行し、彼の拳に向けて刀を振るう。
『オ゛オ゛オ゛ッッッ!!!』
──しかし、それはフェイクだ。
「あめぇっっっ!!!」
彼は刀が当たるその直前、その拳を突然と下に振り抜き華麗に受け流す。そこから空中回転し、繰り出されるのは──。
「オ゛ラ゛ァッッッ!!!」
『──ッッッ!?!?!?』
──殺人的な威力となった飛び蹴りだ。
それは『黒の剣士』の顔面に直撃。盛大に吹き飛ばし壁へと叩き付け、地表へ這いつくばせる。
それでも彼は止まらない。『敵』はまだ動いているのだ。徹底的に、二度と動かなくなるまでに壊さなくてはならないと、その思考が支配する。
「もう一発──」
「柳ぃっっっ!!!」
「!」
追撃を仕掛けようとしたその瞬間、間に割って入って来たのは千冬。彼は即に対象を切り替え、マチェットブレードを振り抜く。対峙する彼女は片手の『葵』で防御、少々後退りはするも何とか持ち堪える事が出来た。驚異的速度となった斬撃を受け止める事が出来る人間は彼女だけだろう。
「くっ……!」
「やっと来たかブリュンヒルデェ……!! もうクソ教師共の避難は終わらせたのかぁ……!?」
「やな、ぎぃ……!!」
何故、彼女が先程までいなかったのか。それは『黒の剣士』によって倒された教員達を回収し、先に避難させていたからだ。彼と『黒の剣士』は一旦後回しにするという判断。もし巻き込まれてしまったら堪ったものではない。
何度か往復し、漸くと避難を終わらせた彼女は戦闘に介入。勿論、彼等を無力化する為に。
「ホラァ、ホラホラホラホラァッッッ!!!」
「ぐぅっ、はぁっ、ぬぅっ!?」
右手に持ち替えたマチェットブレードからなる怒濤の斬撃。これに彼女は二刀で防御し続ける。
彼女が二刀にも関わらず、彼は一本のブレードのみ。だか、パワーと出力が桁違いが故に押されつつあった。その証拠に両刀の刃こぼれが目立ち始めてきている。
(さて、どうする……)
彼女は、彼に対し決して攻撃は出来やしない。シールドバリアーと絶対防御が機能停止している彼の頼みの綱は装甲のみ。もしも、自身が全力で斬ったとしたら──彼を殺す事になる。それだけは絶対に避けなければならない。
ならば峰打ちで彼を気絶させるか、『灰鋼』が稼働停止するまで持ち堪えるか。だが、それ等は非常に難しい事だ。出来なくはないであろうが、そう簡単にいくかどうか怪しい。
それに──。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッッ!!!』
「──っ!?」
──もう一体のISも相手しなければならない。
急接近してきた『黒の剣士』は彼女に向かって全力の袈裟斬りを仕掛ける。咄嗟に彼女は片手の刀で防御、それと同時に受け流した。
あっという間に二対一と化したこの状況。彼女は自身の機体より強力となった二機を同時に相手しなければならなくなってしまった。
──機体の稼働限界まで、残り三分──。
「オ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
「はあああぁぁぁっっっ!!!」
連続する、耳を塞ぎたくなる程の高い金属音。三人共の動きは徐々に加速し、ハイパーセンサーですらそれは捉える事が難しいものまでとなる。二人掛かりの斬撃を耐えられているのは彼女こそのものであろう。世界最強の名は伊達ではない。
しかし、武器はどうであろうか。
(そろそろ、か……!)
自身の『葵』は至って普通の近接ブレードだ。彼が持つマチェットブレードより強度はあれど、『黒の剣士』が持つ刀より脆い。しかも、出力やパワーアシストは向こうの方が上。現にその二本の『葵』は折れる寸前にまで達していた。
かち合う事、約十数秒。そして遂に──。
「ダラ゛ァッッッ!!!」
『オ゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
「──ぐぅっ!?」
──それ等は砕ける様に折れる。
「隙有りだブリュンヒルデェッッッ!!!」
『ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
無手状態となり、完全に無防備と化した彼女に襲い掛かるのは双方の鋭く、そして重い斬撃だ。それ等に彼女は為す術もなく──。
「甘いっっっ!!!」
──否。彼女には体術という武器がある。
「──何っ!?」
双方から来る斬撃を己の手で巧みに操り、全ていなす。そしてそこから新たな『葵』を二本とも瞬時に展開、武器を弾き大きく仰け反らせた。
『──ッ!?』
「──ぐおっ!?」
「せあああぁぁぁっっっ!!!」
『──ッッッ!?!?!?』
一瞬の隙。彼女はこれを易々と逃す筈が無い。『黒の剣士』を連続攻撃で更に仰け反らせ、次に彼の元へ急接近。一気に懐に入り峰打ちを狙う。
(狙うは首っっっ!!!)
居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから放たれる必殺の一閃。自身が誇る、自分だけが持つ太刀筋。打撃で死に至らない様に威力を最小限に抑えるべく集中、そして──。
「はぁっっっ!!!」
「──ガァッッッ!?!?!?」
──瞬時にそれを当てた。
「……ア゛ァッ──」
「良し……! あとは……!!」
首筋へ打撃を受けた彼はその場でがくんと首を倒し硬直する。恐らく戦闘不能で間違いない。
だがしかし、彼の様子を伺っている暇は無い。直ぐにラウラも無力化せねばと彼女は残り一機の『黒の剣士』に飛び掛かっていった。
「────」
──はぁ、やっと止まってくれた……。
彼が硬直して十数秒。全く動かない事から完全に気絶したのだろう。彼の暴走は止まったのだ。残すは『黒の剣士』の無力化だけ。『◯一九』は早く事態を終息してくれと切に願う。
もう、これ以上は見ていられない。戦うその度に彼が傷付いていく姿など。
しかし、その様な事は許されない。
──操縦者のショック状態を確認──。
──気つけ処置を実行──。
「──っっっ!?!?!? い゛っで……!!」
──えっ!? な、何でっ!?
『灰鋼』が発した一瞬の紫電。それは彼の全身を覆い、強制的に覚醒──目覚めさせた。この事に『◯一九』は驚愕を露にする。
そう、この『猛犬』は対象を倒すまで決して、絶対に止まる事は無い。それ以外で止まるとするならば、機体が限界に達するか──彼が死ぬか。
「ア゛ァッ、ハァッ……ふぅ……」
強制的に目覚めた彼は首を鳴らしながらも一層と恐ろしい表情へと変わっていく。それは正しく憤怒の形相。更に溢れ出す『どす黒い何か』。
──機体の稼働限界まで、残り二分──。
──止まって……。ねぇ、止まってよ……。
「はぁっ、いつつ……。ったく、やってくれたなこの……くそったれがぁぁぁっっっ!!!」
──お願いだから止まってぇぇぇっっっ!!
『◯一九』の声は決して届きはしない。怒りが頂点を突き抜けた彼は武器を投げ捨て、今までを超える瞬時加速で二機の元へ急速接近をかます。
急停止を考慮しない突撃。それは未だかち合う二機に猛獣の如く凄まじい勢いで激突し、彼女と『黒の剣士』を盛大に吹き飛ばして自身もろとも壁へとぶつかっていった。
『──ッッッ!?!?!?』
「──ぐぁっっっ!?!?!? や、柳っ!?」
「グォア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」
最早一切の暇を与えはしない。直ぐ起き上がり追撃を与える。彼の拳や蹴りによる怒濤の連撃は彼女と『黒の剣士』双方に向かい、彼女達は防戦一方となる。荒々しく、そして鋭過ぎるその打撃は全く止まらない。止められない。
一つ一つの打撃が非常に重く、それを振るう度に壁や地表が抉れ、受ける度に武器や装甲に罅が入っていく。このままでは此方が戦闘不能状態に陥ってしまう事は明白だ。
明らかに先程より攻撃力が上がっている。この『灰鋼』は更なる進化を遂げるとでも言うのか。彼自身も荒々しい。まるで我を忘れたかの様に。もう人間とは呼べない。まるで獣そのものだ。
その怒濤の殴り合いが続く最中──。
「っ!? 柳ぃっ!!」
その時彼女は叫んだ。それは正に悲痛な叫び。彼女は見た、見てしまった。それは彼が──。
「ヴダラ゛ア゛ア゛ア゛ァァァッッッ!!!」
──凄まじく傷付いていたから。
そう、彼は今やノーガード戦法で戦っている。
一見して防戦一方な『黒の剣士』は、所々彼の隙を見つけて斬りつけていたのであった。致命傷には至らずとも、彼を確実に斬っていた。時間が経つにつれ、彼の機体や身体には斬撃痕が残り、装甲と鮮血を辺りに撒き散らしていく。
装甲も、身体も、所々が
「柳、もうよせぇっ!! このままではお前は、お前はぁ……!!」
「知った、事、かあああぁぁぁっっっ!!!」
彼は絶対に攻撃を止める事は無い。目の前には憎き『敵』がいるのだ。それは機械そのものから発する意識の誘導なのか、彼自身の意思なのか、はたまたどちらともなのか。
彼女の声も虚しく、彼は戦い続ける。どちらかが勝ち、どちらかが負けるまで。勝った者が生き残り、負けた者が死ぬ。それは免れない事だ。
「や、な、ぎぃ……!」
傷付きながらも猛攻を続ける彼を見ざる得ない彼女は心底堪らなくなり、集中力が乱れ始める。
──それが決め手であった。
「うしゃあっっっ!!!」
「──ぐぁっっっ!?!?!?」
彼は彼女の一瞬の隙を突き、胴体に飛び蹴り。とてつもない打撃によって彼女は吹き飛び、壁に叩き付けられてしまう。壁が大きく凹んだ事からその威力は計り知れない。
彼女に追撃を仕掛ける彼であったが、そこへと立ち塞がるのは上段の構えをする『黒の剣士』。その切っ先は彼の頭上へと──。
『オ゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
「邪魔だあああぁぁぁっっっ!!!」
『──ッッッ!?!?!?』
しかし、彼はそれを寸前で弾き、『黒の剣士』に連撃を打ち込む。一秒間に十発以上もの打撃を入れ、盛大に吹き飛ばし彼女に向けて瞬時加速。そう、今の彼が狙うのは──。
「織斑千冬ぅぅぅっっっ!!!」
「──っ!? ぐぅっ!?!?!?」
彼女に急接近した彼はまたしても怒濤の連撃。彼女の機体を次々と破壊していき、大破寸前まで追い込んでいく。浮遊シールドは完全破壊され、所々の装甲も半壊状態に達していく。
──機体の稼働限界まで、残り一分──。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!」
「ぐぅっ! や、やめろ、柳ぃ……!!」
今も鮮血を撒き散らす彼に、彼女は心が乱れてしまう。もう満足に戦えはしないだろう、彼女の動きが鈍くなっているのがそれを物語っている。
『いいか。刀とは、その重さを利用して振り抜くのだ。手にするのではなく、自らの一部と思って扱え。無駄無く、隙無く、油断無く、それを振るえ』
いつしか一夏に言った、教えの一つ。しかし、今の自分にはどれも当てはまりはしなかった。刀がとても重い。自らの一部の様に扱えない。刀に振るわれてる。それ等が彼女に重く伸し掛かる。戦闘が続く中で、それは次第に大きくなる。それは雑念以外のなにものでもなかった。
自分が──この世界を変えてしまった。自分が──目の前の存在を生み出してしまった。
堪らない、とても堪らない。苦しい。ここから逃げ出してしまいたい。その感情が彼女を襲う。
しかし、そんな事など彼に一切の関係が無い。彼女が自責の念に駆られる今も、攻撃を続ける。自らの命など少しも顧みずに、戦う。
そして遂に──。
「オ゛リ゛ャア゛ァッッッ!!!」
「──っ!?」
噛み付きに見立てた上下からなる打撃によって二本の『葵』はまたしても折られる。彼女は直ぐ展開しようとした所で──。
「ツカマエタ」
「──あ」
──彼に、両腕を掴まれた。
──機体の稼働限界まで、残り三十秒──。
「……漸く、だ。さあ、覚悟しろよ織斑千冬ぅ」
「やな──」
「てめえは終わりだ」
その言葉の直後、彼の両腕は赤黒く発光する。
それは彼の単一仕様能力『悽愴月華』。だが、彼女のIS適性値を奪ってしまえば死は確実。それは彼自身も百も承知。では、彼はいったい何を。
彼が奪うのは彼女のIS適性値──ではない。彼が奪うのは──。
「寄越せオ゛ラ゛ァッッッ!!!」
「ぐああぁぁぁっっっ!?!?!?」
その刹那。彼女の機体全体に紫電が走り、彼女は苦しみ悶え始める。それが数秒程経ち、そして彼女の機体は──。
──砕ける音と共に光の粒子と化し、消えた。
地表に放り出されるのは彼女自身と、手のひらサイズの球体──ISコアが一つ。
そう、彼は彼女のIS適性値を奪ったのではなく機体そのもの──『
しかし、それを気にしている余裕など彼女には無い。今や彼女はISスーツだけの生身だ、これを意味する事は勿論──完全なる無防備。
咄嗟に彼女は起き上がるが、時すでに遅しだ。彼はもう、既に構えている。
「死ネ゛ェッッッ!!!」
「────」
彼女に迫り来る、彼の鈍く光り輝く鋼鉄の拳。体感時間がゆっくりとなり、たった一つの単語が脳内を過る。それは確実な──。
(死──)
──その刹那。
「──っっっ!?!?!?」
拳が顔面に当たる、その直前。彼はその場からバックステップし、大きく離れた。いったい何が起こったのか。彼女は側面を見やると──。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……!!』
「……!!」
──そこにいたのは全身に紫電を走らせている『黒の剣士』。刀を振り下ろした状態であった。
彼に散々やられた『黒の剣士』は鈍重に復帰、彼等の間に入ってきたのだ。あまりにも執拗だ。
『オ゛オ゛、オ゛オ゛オ゛……!!』
所々に罅が入り、所々が彼の返り血で染まっている『黒の剣士』は今や動きが少々鈍い。かなりエネルギーを消耗しているのであろう。
──機体の稼働限界まで、残り二十秒──。
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……。ほんっとしつけえぞ、てめえ……!!」
威勢は良くても、彼も動きが鈍い。それもそうだろう。短時間とは言え、全力を出した戦闘だ。消耗しない方がおかしいのだ。彼は血塗れ、機体は大破寸前。いい加減決着を付けなければ"死"あるのみだ。
「フゥーッ……。さて、決着付け──」
彼が拳を構えた、その時だった。
「っ!?!?!? 柳ぃぃぃっっ!!!」
「────」
彼女の声は彼の耳に届きはしなかった。それは無視などといったものではない。
構えた時に感じた違和感に、有り得ない感覚。本来あるべきものが
そんな事は無い。ただ、痛覚を感じないだけ。それだけの筈だ。しかし、何度思考を巡らせてもその答えが導き出てきてしまう。
意を決して、彼は右側に視線を向けると──。
「あ……──」
──右腕が無くなっていた。
「────」
彼は完全に硬直してしまった。二の腕から手先まで綺麗に無くなっていた。それは『黒の剣士』による振り下ろしによる切断。彼女に止めを刺す寸前のあの時に斬り飛ばされたのだ。
──機体の稼働限界まで、十、九──。
最早、彼には戦意など一切喪失していた。彼にとって目の前の『敵』よりも大事なものがある。それは彼だけにしか理解出来ない。
辺りをくまなくと見渡し、漸く目に捉えたのは彼女の付近にぽつんと落ちるたった一つの自身の形見──首輪を巻き付けた腕。
──五、四──。
「それだけは、駄目だ……」
彼は遠く離れる腕に左腕を伸ばす。絶対に届く事は無いのに。それでも彼は手を伸ばし続ける。
──一、零。……稼働限界に到達──。
「ハル──」
──それは届かない。
「──ぐあぁっっっ!?!?!?」
いつの間にやら接近をしていた『黒の剣士』。ソレが持つ刀は──彼の胸を貫いた。
「うっ……ゲボッ……」
『オ゛オ゛オ゛……!!』
「あ゛、あ゛あ゛……」
『オ゛ア゛ア゛ッッッ!!!』
「──あ゛ぁっっっ!?!?!?」
勢いよく刀を引き抜く『黒の剣士』。そこから夥しい血が溢れ、彼を痙攣させる。身体や足元が真っ赤に染まり、その目に生気は消えていた。
しかし、まだ終わりではない。
「……おい、もうやめろっ!! やめろっ!! やめるんだラウラァァァッッッ!!!」
彼女の声は『黒の剣士』に届きはしない。彼が壊れるまで決して止まらないのだ。
血が滴る刀を持つ『黒の剣士』。対峙する彼はもう一歩足りとも動こうとはしない。そんな彼に『黒の剣士』は透かさず刀を振り上げる。
そして、とうとう──。
「やめろおおおぉぉぉっっっ!!!」
『死ネ』
──彼を叩き斬った。
「あ──」
「────」
叩き斬られて数秒。痙攣する彼はその場で崩れ落ちてしまい、辺りは生暖かい血の海が広がる。
肉を断たれる感覚、骨を砕かれる感覚、そして──肺、心臓を断たれるその感覚。彼が感じる事が出来たのはそこまで。
もう、彼は──。
──ねぇ、待ってよ……。
──待機戦闘形態データ、破損──。
──特殊兵装データ、破損──。
──痛覚抑制機能停止──。
──機体出力機能停止──。
──パワーアシスト機能停止──。
──皮膜装甲機能停止──。
──シールドバリアー再起動不可能──。
──絶対防御再起動不可能──。
──救命領域対応機能再起動不可能──。
──機体の展開解除不可能──。
──待って、待って待って待ってぇ!!
──操縦者の多量失血を確認──。
──操縦者の呼吸停止を確認──。
──操縦者の心肺停止を確認──。
──操縦者の
──わ゛あああああぁぁぁぁぁっっっ!!! やだあああああぁぁぁぁぁっっっ!!!
──死んだ。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッッ!!!』
ステージの全体に響き渡る咆哮。それは正しく勝者だけが許された叫び。この戦いに勝ったのは夥しい血を浴びた『黒の剣士』であった。
「────」
彼女は呆然とするしかなかった。自身を象ったソレが、彼を斬り殺した。その目には絶望だけが映っている。全てが嘘でいて欲しいと、全てが幻であって欲しいと、そう切に願う。
だが、それは絶対に叶わない。これが現実だ。これが真実だ。彼は──目の前で死んだのだ。
『…………』
じっと彼を見詰める『黒の剣士』。血で染まるその姿は悍しいの一言に尽きる。その目で所々を確認し、発したのは──。
『柳隆道の抹殺完了。『灰鋼』の破壊継続』
──『灰鋼』の完全なる破壊だ。
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッッ!!!』
『黒の剣士』は刀を一気に振り上げる。そしてそのまま機体に向けて──。
『──ッッッ!?!?!?』
──振り下ろす直前で盛大に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされるも、直ぐに体勢を立て直し地表に立つ『黒の剣士』。顔を見上げると、そこには純白の機体を纏う一人の少年──一夏の姿が。
「…………」
「────」
「……これ、借りますよ」
そう言って一夏は彼の腰に携える『葵』を勢いよく引き抜き、『黒の剣士』へと向かい合う。
彼は泣いていた。号泣ではない静かなる泣き。そこには深い悲しみだけがあった。
「……いっつもそうだ。何で、みんな俺を置いて傷付いていくんだ。何で……何で……」
その言葉を返す者はいない。そう、これは只の独り言。それは一夏自身も良く理解していた。
泣きながら一夏は怒りの表情を露にし、右手に『雪片弐型』を、左手に『葵』を持ち、構える。
『武装を確認。撃退対象と認識』
「行くぜ偽者野郎っっっ!!! 今度は俺が相手だあああぁぁぁっっっ!!!」
一夏は叫びながら『黒の剣士』に立ち向かう。戦いはまだ終わらない。
第二ラウンドが今、始まる。
オリ主、敗北&死亡。
次回、『⊂Я∀┠┃』。