IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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新年よろしくお願いします(激遅)

文字数が二万四千超えしました。記録更新です。中途半端になっちゃうので区切れませんでした。くっそ長くてダルくなるかもしれません。


第五十五話

 あの日からだ。全てが裏目に出たのは。

 

 

 

 何もかもが空回りする、失敗する。

 

 

 

 今日こそ上手くいくと思ったのに。

 

 

 

 なのに、どうしていつも──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十三時三十三分。交戦開始から二十分経過。

 

「ぐあぁぁぁっっっ!!!」

 

 ラウラは金属の破片を散らし吹き飛ばされる。

 換装装備は完全に大破し、その勢いは止まらず海面に激突して水面を跳ねた。絶対防御は最大限発動、駄目押しとして損傷の激しい装甲は更なる悪化を辿らせていく。

 機体だけではない。彼女の見せる素肌は所々に痣と小さな切創、そして口から垂れる少量の血。受けた攻撃は生身にもダメージを受けていた。

 

「ちょ、あんた──」

 

『余所見か』

 

「──!?」

 

 今、他者を心配する暇など許されはしない。

 軽々しく吹き飛ばされるラウラに気を取られた鈴音に鋭い斬撃が襲う。ブレードを失った彼女は左腕で防御、数センチ程食い込み紫電が走る。

 

「うぁ……!!」

 

 この判断が不味かった。彼女のディスプレイに破損の二文字が現れる。それは腕の小型衝撃砲が壊れた事実。武装をまた一つ失った状況に絶望が膨れ上がっていく。

 使い慣れているブレードは疾うに失い、頼みの綱であった炎弾と小型衝撃砲は一つも通用せず。ならば自前の身体能力を活かした格闘しかないと足掻くも、これも虚しく無駄に終わる。

 衝撃砲が通用しない。近接格闘も通用しない。防御も悪手。回避しても捌き切れずに斬られる。ただ嫐られるだけが続く。

 

『どうした中国人。顔が青いぞ』

 

「……!!」

 

『動きが鈍くなったじゃないか。ISの故障か? 肉体の疲労か? それとも私に対する畏怖か?』

 

 襲い掛かる紫色の千冬は酷く冷たい顔で淡々と鈴音に話し掛けてくる。感情を全く感じられない声色が彼女の絶望と恐怖に拍車を掛けていく。

 近くで見ても似ている。いや、似過ぎていた。本人ではないのは理解しているのだが、ここまで瓜二つだと本人なのではと錯覚してしまう。

 まるで"悪夢"そのもの。千冬本人ですら未だに苦手意識が拭えない彼女だが、全くと同じ姿形で斬り掛かられると堪らなくて仕方がなかった。

 

「何なのよ……!! あんたのその姿……!!」

 

『知って何になる。どちらにせよ未熟なお前では私に勝てない。……未熟といえばその身体も随分未熟、いや貧相──』

 

「!! あ、ん、たぁぁぁ……!!」

 

『ふん、こんな程度の低い挑発も反応するのか。やはり未熟。データ通りの人間──む』

 

「──う゛ぁ゛っ!?」

 

 突然、紫色の千冬は鈴音を蹴り飛ばして大きくその場を離れた。その直後、周辺に無数の光弾が降り注ぐ。無論、体勢を崩されてしまった彼女はコレに対応出来ず。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっっっ!!!」

 

『間抜けが』

 

 回避も出来ない、防御すらも出来ない。直撃を受けた鈴音のISは大破、具現維持限界一歩手前に達して吹き飛んだ。まだ堕ちていないが、彼女はもうまともに戦えはしないだろう。

 一方、紫色の千冬は五体満足。惚れ惚れとする回避に加えて高速乱舞で光弾を全て弾いていく。まるで本物の千冬であるかのように冷静、そして確実に攻撃を対処していく。

 

『キアアアアアッッッ!!!』

 

 光弾の出所は二次移行した『銀の福音』から。一層と凶悪と化した『銀の福音』は紫色の千冬に急速接近、両腕の爪で襲い掛かる。

 しかし、紫色の千冬に焦りは少しも見えず。

 

『……!?』

 

『見境無しは変わらずか』

 

 『銀の福音』の攻撃は簡単に防がれた。

 フックに近い爪攻撃をブレードで簡単に弾く。そこから絶え間無い上下左右攻撃も易々と弾く。どの角度からの攻撃も不規則な攻撃も全て弾く。攻撃は無駄だと言わんばかりに一つも通じない。

 大人が子供をあしらうかのような光景だった。このまま畳み掛けたとしても時間の無駄だろう。それでも『銀の福音』は攻撃を止めなかった。

 

『私にばかり構うな』

 

 ──直後。

 

『──ゴッ!?!?!?』

 

 突如、『銀の福音』は轟音と共に真下へと急速落下した。勢いは落ちることなく海面に衝突し、十メートル以上の水柱が出来上がった。

 落ちた原因は──紫色の隆道による近接攻撃。二連装パイルバンカーで『銀の福音』を真上から容赦なく叩き落としたのであった。

 

『余計なお世話だったか』

 

『別に構わない』

 

『そうか』

 

 この者、先程ラウラを痛めつけて吹き飛ばした張本人である。見たところ傷一つ無かった。

 隆道とは似て非なる存在。馬鹿高い攻撃能力は同じかもしれないが、飛行技術は勿論戦闘技術は天と地の差であった。ラウラの強みである対近接戦闘の停止結界に一度も引っ掛からず、隙あらば強攻撃の連撃。防御は悪手、回避も追い付かず。何一つとして歯が立たなかった。

 二人が乱入してから約三分、代表候補生相手に無傷。対多数にも関わらず疲労等は見られない。強い処の話ではない。恐らくは国家代表クラス。

 謎にも程がある。圧倒的強さ、高い操縦技術、千冬と隆道に酷似した外見。そして彼等の目的。彼等は一体何者なのだ。

 

『……いつまで沈んでるつもりだ』

 

 紫色の隆道が下を見やると、直後に海は大きく爆ぜて銀光──『銀の福音』が飛び出してきた。目立ったダメージ無し。まだまだ動けるだろう。心なしか、怒っている様に思える。エネルギーの塊である巨大な光輝く翼は更に大きくなり、次の攻撃に移ろうとしていた。

 

『キアアアアア……!!』

 

『とんだ恥晒しだな。人間共に好き勝手されて、『兵器』にされて、最終的にはこの有り様、か。米国も米国だが……そんな体たらくでいつまでもされるがままとは。だから主に目を付けられる』

 

『今は好都合だ。されるがままならば利用する。抵抗されては面倒だ。……それよりも、だ。先の発言は訂正しろ。『人間の言いなり』ではない、『凡人の言いなり』だ。そこを間違えるな』

 

『訂正する。奴は『凡人の言いなり』だ』

 

『それでいい』

 

 それでも二人は余裕綽々であった。警戒のけの字も無く、意味深な言葉を交わしていく。

 強大な力を前にしてるのに焦ろうともしない。ソレに対処出来る実力があるからなのか、それか元からこうなのか。表情が読めない以上推測など不可能に近かった。

 そんな緊張感の全く無い二人に『銀の福音』は光弾を放つ。数えるのが馬鹿馬鹿しい無数の光。独特な音と共にその全てが彼等へと向かう。

 

『次』

 

 言うが早いか、二人は左右に別れて飛んできた光弾を回避。紫色の千冬はそのまま大きく旋回、攻撃してきた『銀の福音』には全然と目もくれず──今度はシャルロットに急速接近した。

 

「き、ききき来たぁぁぁっっっ!!」

 

 瞬時加速と同等に等しい接近に反応出来たのは奇跡か。シャルロットは咄嗟に全てのシールドを前に構えて攻撃を防いだ。その重い斬撃は彼女を大きく後退させていく。単なる凪払いでもコレ。モロに受けたらどうなっていたことか。

 防御は辛うじて出来た。しかし、紫色の千冬は特別驚愕することもなく怒涛の追撃を仕掛ける。シャルロットは防御に徹するが一撃が重過ぎる。とても反撃に移れなかった。

 

「あぁもう!! どう、すれば……!!」

 

『何も出来ない。お前達は堕ちるだけ』

 

「うる……さい!! はいそうですか、なんて、言えるかぁぁぁ……!!」

 

『無駄な』

 

 シャルロットは次々繰り出される斬撃を必死に防ぐ。ハイパーセンサーの感度を限界まで上げて死に物狂いで耐える。

 が、それも時間の問題か。シールドの耐久値は残り僅か。回復の余裕が無い以上は何れ大破して乱舞の餌食だ。絶対絶命であった。

 弾薬は残り僅か。エネルギー残量も心許ない。仮に回復出来たとしても──勝てる望みは薄い。

 

 

 

 

 

 その一方で。

 

「ほっ!! ……!!」

 

『やけに落ち着いているな、イギリス人』

 

 飛び交うセシリアと紫色の隆道。間には双方に襲い掛かる『銀の福音』。光弾と閃光と爆発音が乱れゆく激戦を繰り広げていた。

 彼女の射撃は紫色の隆道に一発も当たらない。彼が放つ太い杭は彼女に少したりとも掠らない。広域に散らばるエネルギー弾は彼等に当たらず。良くも悪くも決着は見えてこない。

 現状、戦力差が絶望的なのは確か。それでも、何故だか彼女は揺らぐことなく目の前に全集中。回避と迎撃に徹していた。

 

「……!!! ……!!!」

 

『精一杯のようだが。いつまで続く?』

 

 紫色の隆道が追い、セシリアはひたすら迎撃。互いは今も『銀の福音』から降る光弾の雨の中を掻い潜り、戦闘は激しさを増していく。

 出鱈目に散らばりまくる光弾。そのど真ん中で描かれる蒼の線と紫の線。時折見える細い閃光と空気を揺るがす大爆発が打ち上げ花火大会の如く連続していく。まだ決着は見えてこない。

 しかし、遂にその平行線は破れる。

 

『隙有り』

 

「!!」

 

 光弾の回避に集中していたが故か、セシリアの僅かな隙を見つけた紫色の隆道は加速して接近。距離を縮めていき破壊力抜群の攻撃を繰り出す。彼女を確実に捉えた杭はそのまま──。

 

「ふんっ!!」

 

『む』

 

 ──何も無い空気を叩く。

 セシリアは攻撃が当たる直前、脚部の膝で杭を蹴り上げていた。当然、紫色の隆道は間髪入れず次の攻撃、左からの攻撃を繰り出す。

 ストレートではなく腹部側面を狙ったフック。体勢からして防御も回避も非常に難しい筈。

 

「そこっ!!」

 

『何?』

 

 紫色の隆道はその事実に一瞬と目を疑った。

 セシリアは防御はせず、回避すらしなかった。なんと攻撃を()()()()()()のだ。

 彼女は何をしたのか。彼は右手の武装に視線を動かすと、そこには杭と杭の間に挟まる短い刃。大型レーザーライフルではない。

 

『……『高速切替(ラピッド・スイッチ)』?』

 

「う……ぐ……!!」

 

 セシリアの右手には大口径のレーザーライフル『スター・ダストシューター』はなく、まさかのショートブレード『インターセプター』。

 彼女は攻撃を受ける直前にレーザーライフルを格納し、それと同時に唯一の近接ブレードを逆手持ちで高速展開していた。そのタイム──驚異のコンマ一秒。

 そこからは間一髪。振りかぶる寸前で杭と杭の間にブレードを差し、逸らすように押し退ける。お陰で殺人的な攻撃は塞き止められた。

 攻撃を止められたのも驚きものだが、それより注目すべきなのは彼女が行った武装の換装速度。通常の切り替えとは比べ物にならないソレは彼の判断に一瞬だけ遅れを生じさせた。

 そう、これはシャルロットの得意分野である。瞬時に換装を行う高等技術──『高速切替』。

 

『いつ覚えた。その技能はフランス人だけの筈。データには一切──』

 

「せいっ!!」

 

『お』

 

 セシリアは紫色の隆道を思い切り蹴り飛ばして距離を離した。そこからの逃げ──かと思えば、ある程度の距離で再びと彼と向かい合った。

 撤退、ではない。少なくとも彼女の表情からはそれを感じられなかった。

 

「ふーっ……。ふーっ……」

 

 相当に集中していたのだろう。彼女は今は肩で息をし、顔面は汗でびっしょり。塞き止めたのも単なる一か八かだったのであろう。ならば連撃で崩すまでだと、彼は再度武装を構える。

 

『所詮無駄な足掻き。せいぜい──』

 

『キ゛アアアァァァ──』

 

『邪魔』

 

『──ア゛ッッッ!?!?!?』

 

 紫色の隆道へと奇襲してきた『銀の福音』は、攻撃が当たる直前にハエ叩きの如く叩き落とされ再び海面に沈む。今度はかなり効いたのだろう、飛び上がる様子は無かった。

 最早ギャグでしかない。攻撃性が増加した筈の軍用ISをここまであしらうとは。

 

「……やはり、そういうことですのね」

 

『?』

 

 唐突にセシリアは呟いた。ショートブレードを左手に持ち替え、レーザーライフルを再展開してリラックスした体勢で紫色の隆道を冷たく睨む。

 

「……貴方方の唐突な乱入、軍用ISの二次移行。ええ、確かに絶望しましたわよ。任務の達成処か生き残るのも危うい、そう思いましたわ……」

 

『急にどうした』

 

「フゥッ……。不可解、ですのよ。何もかもが」

 

 セシリアは疑問を抱えていた。それも多くの。

 確かに心底絶望した。神に祈りを捧げた程に。夢であってくれと何れ程願ったことか。

 しかし──直後に疑問が絶望を塗り潰した。

 

 

 

 何故この二人は乱入してきた? 千冬と隆道に酷似したその姿は?

 

 『銀の福音』を一度は墜としたその意味は? 何故二次移行した?

 

 どちらの味方でもないのは何故? 邪魔をしに来ただけ? 理由は? 意味は?

 

 

 

 だからこそ、セシリアは直ぐ我に返れた。

 皆が絶望し恐怖し冷静を失う最中、彼女だけが取り乱さず、全ての可能性を考慮し、現状自分が出来る事を全て試した。

 先ずは本部に報告だと攻撃を回避しつつ通信を開いた。だが、いつの間にやら通信妨害が発生し連絡が一切取れなくなった。

 本部が繋がらないなら味方はと通信を試みた。が、コレも駄目だった。レーダー類も全滅した。連携が取れなくなった。

 

 

 

 ──()()()()

 

 

 

 セシリアは思い出す。嘗ての事件を。

 疑問は懐疑へと変わる。それでも、まだ情報が足りない。もっと欲しい。だから彼女は──。

 

「……約三十一キロ」

 

『?』

 

「貴方方が現れた時の旅館までの距離、ですわ。今は……約六十三キロ、ですか。あーらあらぁ、かなり離れましたわねぇ」

 

 急にセシリアの雰囲気が変わる。

 自暴自棄になったか、彼女は相手をおちょくる態度で呟き始めた。一体何を。

 

『何の企んでいるか知らないが逃げられないぞ。お前達はここ──』

 

 

 

 

 

「まるで遠ざけたいかのようですわねぇ」

 

 

 

 

 

『────』

 

 紫色の隆道は──口を閉ざした。

 

「わたくしがただ逃げてばかりだとお思いで? 御生憎様、これでも学年主席でしてよ」

 

『…………』

 

「ずっと計っていましたの。ハイパーセンサーが健在だったのは幸いでしたわ。逃げ回りながらの計測と全員の観察は本っ当に大変で大変で……。そういえば貴方方は常にわたくし達を太平洋側に追いやってましたわねぇ? 不思議ですわねぇ」

 

『…………』

 

 彼等が乱入してから約三分。懐疑に満たされたセシリアは混戦当初から常に花月荘からの距離を計測、同時に自身を含めた全員を観察していた。あの目まぐるしい激戦の中でだ。マルチタスクを得意とする彼女でも相当苦労したことだろう。

 それは無駄ではなかった。必死に計測と観察を続け、ある事実が判明する。

 

 

 

 花月荘から遠ざかっていた。一度や二度でなく連続で。

 

 

 

 偶然ではない意図的なものだ。乱入者の二人は日本を背にして自分達と軍用ISを攻撃していた。周囲は目印無しの海面のみ。予め距離を計測していたセシリアだけが気づけた。

 それにだ。最初から撃墜するつもりなら疾うに墜ちている。現に誰一人も撃墜されてはいない。満身創痍の人間に止めを刺さないのは不自然だ。

 何故、遠ざけている? 何故、撃墜しない? いや、まさか最初からその気が無い? 遠ざける理由は──日本に『何か』があるから?

 それは何処? いや、このタイミングと状況を察すると場所は限られる。花月荘だ。彼処にある『何か』が目的か。

 試作のテスト兵装? 天災お手製最新鋭機? 他のIS? ISコア? 駄目だ、候補が多過ぎる。一体何が狙い──。

 

 

 

 『物』ではなく『者』だとしたら?

 

 

 

 旅館に待機するIS学園の生徒と教員。その中の重要人物は一夏、箒、千冬、日葵、そして隆道。最も狙われる可能性のある人物は誰──。

 

 

 

 

 

 ああ、そうか。道理で似ている訳だ。

 

 

 

 まだ諦めていなかったのか。

 

 

 

 

 

「……それで、誰かお探しで? 柳さんとか?」

 

『………』

 

「沈黙は肯定と受け取りますわよ」

 

 紫色の隆道は沈黙したまま。しかし、心なしか瞳は更なる冷たさを醸し出していた。

 その雰囲気は隆道に近くなりつつある。されどセシリアは恐怖せず、小馬鹿にした態度を改めず言葉を続ける。

 何故、彼女は彼に対し恐怖を抱かないのか? 偽者とはいえ姿も雰囲気もほぼ同一。本来ならば間違いなく怯む筈だ。

 

 

 

 セシリア・オルコットは恐れない。

 

 

 

「これで確信しましたわ。貴方方はわたくし達を旅館から遠ざけたいだけ、撃墜する必要は無い。でしたらこれは時間稼ぎ。『銀の福音』の暴走に便乗したか……これも計画の範疇? だとしたら最低で最悪ですわね」

 

『貴様』

 

「それともう一つ。お恥ずかしながらわたくし、作戦中に『幻覚』を見たようでして。そのような有り得ない現象が起きた後に現れたのが貴方方。ですからわたくしは一つの仮説を立てましたわ。貴方方のその姿は……」

 

 

 

 本物の恐怖(隆道)を知ったから。

 

 

 

「わたくし達の恐怖心が生んだ『()()』──」

 

『オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』

 

 突如、紫色の隆道は聞いたことない咆哮と共にセシリアに瞬時加速で一直線。殴り掛かるように襲い掛かって来た。

 

「無駄ぁっ!!」

 

『!?』

 

 その攻撃、当たらず。

 セシリアは身体を全力で反らして回避。同時に彼の腕を押し退け、その反動を利用して真下へ。

 

「隙有りっ!!」

 

『──ッッッ!?!?!?』

 

 繰り出すのは下半身に目掛けた至近距離速射。一切とスコープを覗かない、近接戦闘に基づいた本能射撃でこれでもかと乱射した。

 数発足らずでシールドバリアーを貫通し、蒼の閃光は紫色の装甲を抉り続ける。撃ち込みながら反動相殺機能を停止、反動を利用し発砲する度に互いの距離を一気に離した。

 

『ゴ……!! ……!!』

 

「今ですわ!!」

 

 かなりの大ダメージだったのか、紫色の隆道は硬直。これを好機と見たセシリアはスラスターを一気に全開した。目指すのは一点、今も尚苦戦を強いられているシャルロットの元。

 減速も停止も全く考えないその速度。ここからセシリアは人生初のゴリ押しをかます。

 

『何?』

 

「え!? セシ──」

 

「ごめんあそばせぇぇぇぇぇっっっ!!!」

 

「──ぐぶぅぅぅっっっ!?!?!?」

 

「ナイスキャッチですわぁぁぁっっっ!!!」

 

 まさかのタックルが炸裂した。

 お嬢様には程遠く、アメフト選手もびっくりな豪快たるソレは確実にシャルロットを掴まえた。何やら潰れたような悲鳴が聞こえたがセシリアはガン無視、そのまま速度を落とさず抱えたままで全速力。向かう先は花月荘だ。推測が正しければ彼等の目的は──。

 

「いったぁっ!! いっっったぁっっっ!!! お腹千切れるぅぅぅっっっ!!! ああっ!? いやぁぁぁぁぁエネルギー二桁ぁっっっ!!! 死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃうぅぅぅっっっ!!!」

 

「ちょっ、どうか落ち着いてくださいまし!! 今回復させますから暴れないで!!」

 

「いやだぁぁぁもう駄目だぁぁぁっっっ!!! う゛わあああ助けてぇっっっ!!! たしゅけておかーさぁぁぁんっっっ!!!」

 

「うわ……」

 

 セシリアは引いた。ドン引きした。

 シャルロットが幼児退行してしまった。病名は聞いたことがあるが、目の当たりにすると結構に酷い絵面だ。顔も涙と鼻水と涎のオンパレード。これはとても男子に見せられないと彼女は思わず目を逸らした。止めを刺した張本人なのに酷い。

 とにかく、彼女を何とかしなければならない。かくなる上は荒療治。以前、箒が気絶した鈴音に実施した手刀──。

 

「お目覚めになって!!」

 

「ぶぶぅっ!?」

 

「早く!!」

 

「ぶぶぅっ!?」

 

 意外、それはビンタ。ISでの高速往復ビンタがシャルロットに炸裂する。しかも二連続。中々にえげつない荒療治だった。可哀想だった。

 

「どうです!?」

 

「う゛、う゛ぇぇぇん……!!」

 

「これでも駄目ですの!? でで、でしたら……今度はグーで──」

 

「わ゛ぁぁぁ待って!! セシリア待って!! 目は覚めたから!! ほーらほら元気元気!! ね!? ね!? だからグーはやめて!!!」

 

「良し!!」

 

 良しではないが。何してんだコイツ。

 本当に酷過ぎて見ていられない。紫色の千冬に追い詰められてる時に死ぬ程痛いタックルからの幼児退行からの連続往復ビンタ。シャルロットが何をしたというのだろう。正気を取り戻しただけまだ救いはあったのかもしれない。取り戻したというより別の恐怖が上回った感があるが。

 

「エネルギー一桁……。本当に死んじゃう……」

 

「ご、ごめんなさい。ほら、これを打って……」

 

「ありがと。……って、ちょっとセシリア!! 何処に行くの!? 『銀の福音』は何処に!? 鈴とラウラは!? アイツらは!?」

 

「先ずは回復してくださいまし!! この作戦はお──危ないっっっ!!!」

 

「わぁっ!?」

 

 セシリアは直進からいきなり方向転換。直後に真横を刃が通り過ぎる。が、間髪を入れずに次は凪払いが迫る。またも方向転換を──。

 

「下下下ぁっっっ!!!」

 

「くぅっ!!」

 

 否、方向転換せずに宙返りで大きく後退した。聞こえたのは空気を切る鋭い音と爆発音。直ぐ様体勢を立て直すと──前方には紫色の二人が。

 

『『…………』』

 

「……シャルさん。早く回復を」

 

「う、うん……」

 

 彼等は冷たく睨んだ。両腕をだらんと垂らし、此方の様子──どちらかと言えば主にセシリアに向けて。目で殺すと言わんばかりに。

 彼女は怯まない。もう、何も怖くないから。

 

 

 

 

 

 ──感づかれたか。

 

 ──肯定。我々も何れ見破られる。

 

 ──了解。こちらNA-01、一名が幻覚効果薄、作戦に支障の可能性大。『ワールド・パージ』を再要請。対象は『ブルー・ティアーズ』。

 

 ──……わかりました。此方も予想外の事態が複数。ターゲット確保は困難、時間を要します。そちらは何としても阻止を。

 

 ──了解。

 

 

 

 

 

 沈黙から数秒後。

 

ギュ……!

 

ゴォ……!

 

「っ……」

 

 二人の姿が更に恐ろしくなった。

 潰れた様な声と共に彼等は痙攣し、身体全体に紫色の光が鈍く発光する。冷たい瞳は全てが赤く染まり、血涙が滝のように溢れ出る。その口元は三日月のように大きく開き、表情は歪む。

 

邪魔ハサセナイ

 

主ノ願イヲ叶エル。ソレガ我々ノ使命

 

 瓜二つだった声色も今や面影が無い。ただ姿が似ているだけでしかなくなった。

 一言で表すのなら『怪物』。ソレが今、此方に明確な敵意を向けている。肌で感じる程に。

 

「ねえ、セシリア。あの二人雰囲気変わった? 何かしたの?」

 

「……なるほど。今度はわたくしだけですか」

 

「え?」

 

 シャルロットの反応からして、目の前の怪物は自分にしか見えていないとセシリアは納得した。やはりこれは幻覚、人の恐怖心を利用した手口。目的の為にここまでするのか。

 敵の正体は未だ不明、数も不明。だがしかし、目的さえわかれば望みはある。それを阻止すれば此方の勝ちだ。

 良いだろう。戦おう、足掻こう。だが、絶望は絶対にするものか。可能性が一つでもあるなら。

 

「シャルさん、ちょっと此方に」

 

「な、何……?」

 

「────。────。────」

 

「……! うん!」

 

 セシリアはシャルロットに耳打ちする。それを聞いた彼女は信じられない表情となるが、数秒で顔が険しくなりその場から降下、鈴音とラウラの元へ飛翔していった。

 

『……!』

 

 

 数本の『リカバリーショットG』を抱えて。

 

 

 

阻止──』

 

 ──その刹那。

 

『『──ガッ!?』』

 

 シャルロットを追いかけようとするが、阻止。二人の顔面にレーザーが直撃した。

 その出所は勿論セシリアから。が、今の彼女は誰も見たことのない行動を取っていた。

 

「わたくしをお忘れになって?」

 

 なんと、両手それぞれにレーザーライフルが。

 右手に『スターダスト・シューター』、左手に『スターライトmkⅢ』。セシリアらしからぬ戦闘スタイル──レーザーアキンボ。

 

()()にも手伝って貰いましょう」

 

 そう言うなり、セシリアは後方の海面に向けて目視せずにレーザーを数発発砲した。閃光は海に吸い込まれ──()()がやって来る。

 『敵の敵は味方』という言葉がある。敵対する者と敵対している第三者を共通の敵を持つ味方と見做す事である。厳密に言えば状況は少し違く、間違いなく三つ巴の乱戦になるが──。

 

『ハ、イジョハイジョハイジョハイジョハイジョア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァッッッ!!!』

 

 ──戦力としては十分。

 

何故ダ。何故効イテイナイ

 

不可解。迎撃

 

「残念、貴方方なんて少しも怖くありませんわ。本物には勝てない。さあ、踊り……いいえ」

 

 奴等が利用するなら此方も同じ事をするまで。

 セシリアは両腕を大に広げ、高々に、優雅に、ここに宣言する。

 

「わたくしと踊りましょう!! 皆様方が奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■分前──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かわからぬ砂浜。

 さざ波の音を聞きながら、一夏は目の前に佇む少女と向かい合う。

 

「──ええっと……初めまして?」

 

 白い髪。それはもう眩い程に真っ白な髪。服も髪と同じ白色のワンピース。涼風に撫でられ時折膨らみ、静かに舞う。顔は──何故か見えない、というより認識出来ない。風で靡いても何故だか少しも見えなかった。

 足裏に感じる白砂の感覚と熱気、強く香る潮の匂い、地肌を撫でる涼風、じりじり照らす太陽。それ等は確かに感じ取れるのに、どういう訳だか少女がその場にいないかの様な違和感があった。まるで、もっと近くにいるかの様な──。

 

「初めまして……? あれ、いやでも、俺は君を知ってる。……ん?」

 

「面と向かったのは初、だから初めましてかな。ずっと一緒だったけど」

 

「ええ……? ああ、そうか。……んん?」

 

 返ってきた回答は意味深なものであった。

 ずっと一緒だった、けど面と向かったのは初。何を言っているのか全くとわからない。なのに、彼女が言ってるのは間違いではないと納得する。同時に何故に納得したのかと疑問が芽生えた。

 何か変だ。初めて会ったというのに顔見知りの感覚が拭えない。名前も一切知らないのに。

 

 ──君は誰? ここは何処? あれ? 俺は、さっきまで何処にいた……?

 

「ごめんね、混乱させて。大丈夫、直ぐ治まる。目覚めたら忘れるかもしれないけど」

 

「……ふーん」

 

 まるで意味がわからない。けれど、不思議にも一夏はその言葉に疑問を浮かべなかった。

 しかし──何かしら引っ掛かりを感じていた。もの凄く大事な事を忘れている気が──。

 

「あ」

 

「ん?」

 

 自身の真後ろに目をやる少女。それに釣られた一夏は急いで振り向くと──誰もいない。

 

「??? なあ、今何かいた──」

 

 そこに少女はいなかった。

 

「え……」

 

「…………」

 

 そこに立つのは全身が正に『白』。素肌は顔の下半分のみ、それ以外は甲冑の様な装甲を纏った長髪の女性が一人。

 巨大な剣を目の前に立て、柄頭に両手を預けて堂々と佇む姿。宛らそれは『騎士』の様で。

 いや、そんな事よりも少女は何処へ行った? この『白い騎士』は誰だ?

 

「力を欲しますか……?」

 

「え……」

 

 唐突たる謎の問いに、一夏は固まる。

 

「力を欲しますか……? 何の為に……?」

 

 お構い無しに『白い騎士』は問う。それ以外は聞かない、そう言わんばかりに。その通りなのか彼女はそれ以降口を閉ざす。

 

「「…………」」

 

 沈黙が続く。暫くして、口を開いたのは一夏。

 

「……難しいこと訊くんだな」

 

「…………」

 

 どうとでも取れる問いに、一夏は悩んだ。

 『白い騎士』は口を開かない。質問に答えろと言いたいのだろう。恐らく、此方が答えるまでは決して喋らない。或いは同じ言葉を繰り返すだけかもしれない。

 その『力』とは何か。単純な腕力を指すのか、権力を指すのか、別の複雑たるものを指すのか。それとも──ISを指すのか。

 確かにISは『力』そのもの。兵器を凌駕する、ソレを扱う者は権力や立場も強くなる。となればやはり、ISを指しているのか。

 まさか十五でこの質問を叩き付けられるなんて思わなかった。この質問は大きな意味がある筈、いい加減な答えは出せない。だから彼は悩む。

 

「俺は……」

 

 欲しくない、と言えば嘘になる。

 昔から憧れがある。姉に守られてきたが故に、自分も姉を守る強い人間になりたい、何かを守る人間になりたいと強く願っていた。

 嘗て幼馴染を守った過去もある。だからこそ、その想いはより強くなっていた。

 何れ強くなれば姉も守れる。そう思っていた。ISという予期せぬ力を手に入れ、戸惑いながらも心の何処かで強くなれる、守れると思っていた。

 

『何で、どうして……』

 

『さあ、……何でだろうな』

 

 

 

 本物に出会った。怖く、弱く、強い人に。

 

 

 

 強い弱い関係なく、その人は身を呈して自分を庇い、そして戦い抜いた。

 その前も、その後もそうであった。己の苦痛を押し込め、此方の気を和らげようとなるべく側にいて支えてくれた。

 あの時も、あの時も、あの時も。その人は側で支えた、助けてくれた、守ってくれた。

 だからあの日、ボッキリと折れた。今の自分は誰かを守れないと。逆の事しか出来やしないと。自分が惨めに思えた。

 その後も何度か挫けそうになった。道理のない暴力、どうにも出来ない理不尽に悩みに悩んだ。自分は何も出来なかったと歯を食い縛った。

 そんな時、駄目押しに人の死をこの目で見た。悲しくて、情けなくて、苦しくて、悔しかった。無力だった自分がとても嫌だった。

 それから毎日、改めて考える日々を過ごした。誰にも悟られない様に、一人で。

 何が出来る。何がしたい。何を願って──。

 

『このくそったれな先輩に任せとけ』

 

「っ……!!」

 

 

 

 

 

 ──そうだ。俺は、そう願っていた。

 

 

 

 

 

 

「……違う。俺は力が欲しいんじゃない」

 

「何……?」

 

 一夏は己の拳を強く握り締める。

 自分探しなど必要なかった。答えは出ていた。いや、あの人が既に引き出していたのか。嗚呼、何で今まで気づかなかったのだろうか。

 

「俺は、あの人に何度も助けられたし救われた。会って間もない俺にそうしてくれたんだ、きっと俺の知らない所でも誰かを助けてるし救ってる。俺はそう思ってる」

 

「…………」

 

「本当にすげえ。自分がどんなに辛くても誰かを助けるなんて。人を選んでるとしても真似なんか出来っこねえよな。けれど……真似出来なくてもそこにあったんだ、俺の目指したいものが」

 

 一夏は言葉を続ける。心の奥底から溢れ出す、自らの願いを。

 

「俺は皆と笑って過ごしたいんだ。誰かが悲しむ姿を見るのはうんざりだ。だから俺は……」

 

 力が欲しい? 力が無くとも人は強くなれる。それこそが──一夏の望む『願い』。

 

 

 

()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 その言葉に嘘偽り無し。

 言い切った。心からの願いを全部ぶちまけた。恥ずかしいという想いは一切無かった。

 誰もがその生涯で辛い事や悲しい事があろう。その時に手を差し伸べられる強かな人間になる。全ては不可能でも、目の前で助けを請う者がいるなら全力で助けたい。

 これが、織斑一夏の『願い』だった。

 

「だから、俺は強くなろうと思う。何があっても力になれる、強い人間に。まあ……先はすっげえ長そうだけどさ」

 

「そう……。それが貴方の『()()』か」

 

「ん? ……あああああそうだ、そうだよ!! こんな事してる場合じゃねぇっ!! 箒を庇ってそれか、ら……うわやっべぇぇぇっっっ!!! 泣かせちまったぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 想起からの自責からの喚きの一夏が誕生した。先程までの真剣な彼は何処へやら、頭を抱えつつ慌てふためくその様子は一気に年相応の男子へと戻っていった。

 そんな様子を『白い騎士』は静かに見据える。ただ、何処か雰囲気は穏やかそうで。

 

「俺今どうなってる!? まさか死んでた!? いやいやいやいやこんなのあんまりだろ──」

 

「大丈夫」

 

「──えっ」

 

 一夏は声に反応し振り返る。彼が向いた先には初めに言葉を交わした少女。そこにいた筈だった『白い騎士』はいなかった。

 

「うん? 君……え、あれ、何で……?」

 

「ほら、行かなきゃ」

 

「……!!」

 

 いつの間にか一夏の手は少女に握られていた。先程までそれなりに離れていた筈なのに、彼女は自身の目の前に忽然と立っていた。

 非現実的な連続に彼は目を丸くするしかない。今、何をしたのだ。君は誰なんだ。消えていった『白い騎士』は──。

 

「貴方の『願い』、叶えよ?」

 

 ──いや、今はやめておこう。

 

「……ああ!」

 

 直後。世界に変化が訪れる。光が全てを覆い、一夏の意識は遠のく。

 

(……?)

 

 意識が途絶える直前に一夏は見た。少女の姿が一瞬だけブレたのを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時計の針が動く音と機械音が静かに鳴る一室。そこに眠る一夏は突如目を覚ます。

 

「…………」

 

 ゆるりと辺りを見ると様々な医療機器と数々の薬品。身体に目をやると満遍なく巻かれた包帯。そして自身の側に──。

 

「すー……」

 

 ──静かに眠る箒。

 

「…………」

 

 延々側にいたのだろう、泣いていたのだろう。辺りの布類は汚れ、乱れた髪の間から見える頬はうっすらと、そして広く涙の跡がある。

 

「…………」

 

 箒を心配させてしまった、泣かせてしまった。自分が情けない、思い切りぶん殴りたくなる。

 謝り倒そう。そして、幾らでも罰を受けよう。けれど、今は後回しにしなければ。

 

「……行こう」

 

 一夏は箒を起こさないよう静かに立ち上がり、シャツを手にして扉に手を掛ける。一度振り向き小さく深呼吸、意を決して部屋から出た。

 廊下を見渡すと人の気配無し。これは好機だと彼はすり足で素早く移動していく。

 

「見つかったら怒られるじゃすまない、よな」

 

 そう呟くも、一夏は足を止めないで突き進む。やけに静かでも気にしない、道中で僅かな振動を感じても気にしない。やるべき事の為に。

 一直線に歩いて暫く、彼は玄関まで辿り着く。ここまで来れば直ぐそこだと急ぎ足、玄関を開け走り抜け──門の辺りで意外な人物と出会う。

 

「……!!」

 

「……おう。早かったな」

 

 丁度人が腰掛けられる大きさの岩に、その者は堂々と、そして疲れ切った様子で居座っていた。

 身体は血塗れ、纏う様に漂う紫煙、その片手に凶器──拳銃を持つ、煙草を咥えた隆道が。

 

「お、もう驚かねえってか? ……まあなんだ、色々あり過ぎて、フゥー……大分お疲れってな」

 

「……温泉入った方が良いですね。あと、ソレを辞めたらどうです? 身体に悪いですし」

 

「辞めるつもりはねえな。火付けたばっかだから大目に見てくれ、最後の一本なんだよ」

 

「つまり、今まで隠れて吸ってたんですね……。んー、ポイ捨てしないなら目を瞑りましょうか。特別ですからね?」

 

「はんっ、言うねえ」

 

 普段通りと言える会話が交差する。互いは何も聞かずに、何も探らずに、何事も無かった様に。聞きたい事は山程ある筈なのに。

 今日が何事も無ければどれ程良かっただろう。願うならば、このまま談笑して、共に遊び倒し、共に食事し、共に爆睡して明日を迎えたい。

 それは出来ない。今は時間が惜しい。

 

「……止めに来たんですよね」

 

「よくわかってるじゃねえか」

 

 そう言って隆道は一変、いつもの顔から徐々に険しい顔となって一夏の前に立ち塞がった。

 疲労感が凄まじい脱力した立ち姿。ほんの少し押すだけで倒れてしまいそうだが、それとは逆に隆道の威圧は強いものになっていた。

 以前ならこれだけで怯んだ。だが、今は違う。ここで怯む訳にはいかないのだ。

 

「代表候補生共に全部任せとけば良いだろうが。お前が行く必要なんてねえ、さっさと戻れ」

 

「行かせてください。こうしてる間にも、誰かが墜ちるかもしれないんです」

 

「負けて眠ってたのは何処のどいつだよ……! 元気そうなのは結構だが怪我人は大人しく部屋で寝てろ!! お前が一番重傷だったんだぞ!! ISも大破した!! 何が出来るってんだ!!」

 

「俺はもう大丈夫です、この通り元気ですから。『白式』も動けますしまだまだ戦えます。だからお願いです柳さん、行かせてください」

 

「どっからその自信出てんだよ……!!」

 

 一夏は譲らない。隆道はこれに困惑した。

 何故ピンピンしてるのかも謎だが、先の戦闘でISは大破した。なのに一夏は動かせる、戦えると豪語する。まさか、自己修復は済んだのか。

 自暴自棄ではない、確かな自信だ。その自信は何処から来ているのかまるでわからなかった。

 それでも、譲れないのは隆道とて同じである。一夏を戦地に行かせるのは絶対に認められない。それをしたら否定した大人達と同類になるから。

 

「戦えても勝てる保証なんてねえだろうが!! 次はどうなるかわかんねえんだぞ!! そもそも俺達素人がどうにか出来る話じゃねえ!!」

 

「だからこそ行くんですよ!! 次は今戦ってる誰かが墜ちるかもしれない!! 戦えるのに何もしない、見てるだけなんて出来ません!!」

 

「ただの我が儘じゃねえかよ!! たかが素人が軍絡みに首突っ込むなっつってんだよ!!」

 

「いいや違います!! 俺はIS操縦者です!! しかも専用機持ちとしての責任があります!! 素人だなんて言い訳は通用しないんですよ!! ここで戦わないで何がIS操縦者ですか!!」

 

「……!! この、堅物があ……!!」

 

 が、駄目。折れない、引かない。

 一夏はもう素人ではない。ISの適性が判明した時点でその様な肩書きなど世界が許しはしない。己に突然刻まれた『世界初の男性操縦者』という呪いは一生残り続け、消える事はない。

 だからこそ最後まで向き合う、責任を果たす。それが織斑一夏の決意。それは誰にも砕けない、鋼の様に固い意志になっていた。

 

(無理やらされて何言ってんだよ……!!)

 

 一方の隆道は理解出来なかった。

 何が責任だ。一方的に押し付けられ、一方的に期待されるのが責任なのか。そんな人生でお前は本当に良いのか。受け入れられるのか。自分ならそんな理不尽は認めないし許せない。

 こんな事を言っても無駄でしかない。目の前に立つ少年は以前とは全くの別ものである。強かでとても逞しい。腐った自分とは真逆。何が一夏をそこまで強くさせたのか。

 最早説得は不可能。ならば最終手段。

 

「はは、せめて意志が強いって言ってください。とにかく、俺は行きま──」

 

「待てぇ!!」

 

「!」

 

 無理にでも通ろうとしたその矢先、此方を強く呼び止める怒声。その方を見やると──そこには息を切らした二人が。

 

「千冬姉。それに箒も……」

 

「何処へ行くつもりだお前達ぃ……!!」

 

「一、夏ぁ……!!」

 

 片や、怒り心頭の千冬。片や、泣きっ面の箒。不味い、見つかってしまったと一夏は困窮した。予想より早過ぎる。

 雰囲気からして間違いない、止めに来たのだ。これは厄介、千冬に捕まってしまえば終わりだ。何が何でも押し切らねば。

 

「なあ、箒、千冬姉。二人の言いたい事はすげえわかる。でも後にしてくれ。今は──」

 

「織斑ぁっっっ!!!」

 

「「!?」」

 

 

 

 その時、カチリと鈍い金属音が。

 

 

 

「……柳さん」

 

「……織斑、もう一度言うぞ。さっさと、戻れ。でねえと怪我すんぞ」

 

 振り向けば、隆道は片手で拳銃を構えていた。その照準を一夏に向けて。引き金に指を掛けて。先程までの必死さは全くと無い、酷く落ち着いた姿がそこにあった。

 千冬は悟る。隆道は撃つ気だ。弟を、一夏を。あの黒く濁る据わった目は──本気の目だと。

 

「駄目だ柳!! 撃つ──」

 

「ああストップストップ。待って千冬姉」

 

 一夏は手を翳して千冬を制す。何もするなと。

 あれだけ啖呵を切ったのだ。絶対に引かない、己の信念を貫き通して見せよう。

 

「だいぶ本気ですね。やっぱり良い人だ」

 

「あ? 何余裕ぶっこいてんだお前ぇ……!! この俺が撃てねえとでも思ってんのかぁ!!」

 

「撃ちませんよ」

 

「──っ!?」

 

 迷いなき一言。一夏が放った偽りの無い言葉は隆道の僅かな人の心に衝撃を与える。

 正しく改心の一撃だ。隆道の手は僅かに震え、照準はブレまくる。身体だけではない、心にまで揺らぎが生まれた。

 そして──。

 

「ああ、誤解しないでください。別に撃つ度胸が無いって意味じゃないですからね。『撃てない』じゃなく『撃たない』です。信じてますから」

 

「……俺がどういう人間なのかわかってんだろ。何でそこまでこんなイカれ野郎を──」

 

「何があっても、俺は味方であり続けたいから。柳さんの()()()()()()からです」

 

「な──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『父ちゃん、『忘己利他(もうこりた)』って何?』

 

『なーにぃ?』

 

『『己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり』。自分の事は後にして人に喜んで頂く行いをする。そこにこそ真の幸せがある、という教えだ』

 

『何それ。全然わかんない』

 

『二人にはまだ難しいか。つまり、困ってる人を助ける人になりなさいって事さ』

 

『へー、まるでヒーローみたい。……ってことは父ちゃんはヒーロー!?』

 

『そうさ。父さんも()()()()()()()()()からね。隆道も、日葵も、思いやりを持てば父さんの様にヒーローになれるんだ。あ、日葵は女の子だからヒロインかな?』

 

『すっげぇ!! なぁ聞いた!? 僕ヒーローになれるってさ!! 日葵はヒロインだって!! だったらいつか空も飛べたりする!?』

 

『ひまり、にーにとお空飛ぶ!!』

 

『はは。そうだな、いつの日か飛べるかもな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな俺が信じなきゃ何も意味無いんですよ。柳さんが俺を信じた様に、俺は柳さんを信じる。それに、俺がここまで来れたのは……」

 

 一夏は願った。誰かの力になりたいと。

 目覚める前に見た気がする夢。彼はその内容を殆ど覚えていないが、自ら口に出したものだけは確かに覚えている。一つ一つ、はっきりと。

 この意志は紛れもなく自分自身が出したもの。しかし、それを引き出してくれたのは他でもないただ一人の恩人がいてくれたから。

 

「貴方のおかげなんですよ……!!」

 

「────」

 

 隆道は思い出す。幼き頃の記憶を。己に教えを説いた故人──父親を。

 彼は父親に憧れていた。何時の日か父親の様な大人になると。どんな苦難が迫ろうと生き続け、擦り切れつつも背中を追い続けようとした。

 それなのに父親は死んでしまった。憧れであり大切な存在は──世界に殺された。

 家族を、愛犬を、父親を失った。残されたのはどす黒い憎しみだけ。女性が憎い、社会が憎い、ISが憎い、その元凶も殺したい程に憎い。全てが憎くて仕方がなかった。

 だから信じないと決めた。共に抗った仲間しか信じない、そう誓った。

 その矢先に出会ったのが一夏。少年を見定め、せめて自分と同じ畜生にさせまい、強くなるまで支えようとした。

 

(冗談じゃねえ。何処まで強くなっちまったんだお前はよ……)

 

 その必要は無くなった。自身には無い強さを、一夏は手に入れたのだ。

 

(いたんだな、俺の、なれなかったものに)

 

 暗い黒灰(隆道)は──敗北した。眩い純白(一夏)に。

 

「……あーあ、このくそったれ。負けだ負けだ。勝てねえっつーの畜生が」

 

 そう言って隆道は拳銃を下ろす。弾倉を抜き、スライドを何度も引いて──。

 

「「「え゛」」」

 

 ──弾薬が出てこない。

 

「あ、あの……。弾……」

 

「んだよ。ああそうさ、弾なんて入れてねえよ。入れる訳ねえだろ、バカタレ共が」

 

 三人は言葉を失った。

 つまりハッタリである。この男、元から弾薬を装填していなかった。弾倉もよく見ると空っぽ。初めから撃つつもりなど無かったのだ。

 まさかのオチに千冬と箒は崩れ落ちる。一夏は──それはもう声を荒げざるを得なくなった。

 

「はあああああぁぁぁぁぁっっっ!?!?!? 何ですかそれ!? 俺を試したんですかぁ!? やめてくださいよホントにもう!!」

 

「うるせえな!! 撃てる訳ねえだろうが!! 弾入れて万が一暴発でもしてみろ!! 手違いで頭パーンしましたなんて目も当てられねえ!! つーか弾無しでも向けたくなかったんだよ!! くそっ、自分が許せねえわこのボケ!!」

 

「だったら最初からしないでくださいよっ!! 馬鹿ですよ馬鹿!! あーもう大馬鹿!!」

 

「あ゛あ゛!? 元はと言えばお前が堅物──」

 

 うるさい。この一大事な時に男同士の口喧嘩が勃発してしまった。何してるんだこのガキ共は。時間の無駄とは正にこの事だ。

 言い合いを繰り返すクソガキ二人。千冬と箒は完全に蚊帳の外となり、静かな旅館には男二人の不毛な争いが響き渡る。どちらも馬鹿であった。

 

 

 

 

 

 それから数十秒して。

 

「柳さん、俺は行きます」

 

「おう、行ってこい。決着付けろ」

 

 馬鹿二人(一夏と隆道)は真剣そのものに戻っていた。先程のやり取りを無かった事にしていた。手遅れだが。色々と台無しなのだが。

 が、まだ黙っていられない二人が残っている。そう、空気と化していた千冬と箒の二人が。

 

「ま、待てお前達!!勝手に話を進めるな!! こっちは聞きたい事が山程あるんだぞ!!」

 

「そうだぞ二人共ぉ!! わ゛、私だって──」

 

「あーはいはい後でね後で」

 

「うるせえ黙れ水差すな」

 

「「聞けぇぇぇっっっ!!!」」

 

 軽くあしらわれた。隆道はともかく一夏まで。

 相手にしなければ良いのだ。隆道の説得ですら結構時間を食ったのにあと二人の相手など余計に時間を割くに決まってる。後がとても恐ろしいが仕方無い、説教は覚悟の上な一夏だった。

 

「けどよ織斑、それだけの自信は何処からだ? お前のISは大破したんじゃねえのか」

 

 もう止めはしないが腑に落ちない事が一つ。

 軍用ISは攻防共にハイスペック。代表候補生が削っているとしても脅威なのは変わり無いのだ。なのに、一夏は戦えると言った。

 自己修復したとしても眉唾ものの筈。損傷したISではとても太刀打ち出来ないと思うのだが。

 

「これです。……『白式』!!」

 

 一夏は展開する、自身のISを。粒子が集まり、ソレは一秒程で姿を現す。

 

「「「……!!」」」

 

 一夏の『白式』は──三人を愕然とさせた。

 二基から四基に増えた大型スラスター。細部が変化し追加された白の装甲。左前腕部に引き付く細長い盾。そして──。

 

()()……!?」

 

()()()()()、だと……!?」

 

 ──()()()()()にある新しい武装。

 背中に固定された白き大型大砲。両腰に備わる二本の刀剣──『雪片弐型』。いや、最早コレは皆の知る『雪片弐型』ではない。

 

 ──双刀剣『双ノ雪片(そうのゆきひら)』──。

 

 ──荷電粒子砲『月穿(つきうがち)』──。

 

「うっは。マジか……マジかよお前……!!」

 

「そうです。これが新しい『白式』──いいや、『白式・雪羅』!!」

 

 一夏のISは進化した。変異で歪んだ隆道のISと違う、強い『信念』と『願い』によって。

 

 

 

 ──白式第二形態『白式・雪羅』──。

 

 

 

 必要なものは全て揃った。これで終わらせる、今度こそやり遂げてみせるのだ。

 それだけではない。これからずっと──誰かの力になってみせると、一夏は意気込んだ。

 

「なるほどねえ。……おいブリュンヒルデ」

 

「──!! ……何だ」

 

「色々とあんだろうが後回しだ。全部終わったら幾らでも説教聞いてやるし罰だって受けてやる。だから、今は、目を瞑れ」

 

「…………」

 

 千冬は口を閉ざし、目を瞑った。

 彼女は先程の隆道と同様に行かせたくないのが本音である。たった一人の家族が戦地へ行くなど姉として許しがたい事だった。そもそもが異例の連続なのだから尚更だ。

 一夏を行かせて大丈夫なのか。代表候補生達は無事か、作戦は終わったのか。確かめない限りは軽率な判断を下せなかった。

 

「……柳、向こうの状況はわかるか」

 

「……まだ殺り合ってる。けどやべえ、何人かは死にかけだぞ。あとは知らねえ熱源反応が二つ。何だコイツら、味方……じゃねえなこりゃ」

 

「やっぱり、皆……!!」

 

「これでもまだ止める気かてめえは。身内以外は見殺しってか? そこまで墜ちたか? あ?」

 

 最早何も言うまい。千冬の答えは決まった。

 

「……頼んだ」

 

「おし。……んで、お前はどうすんだ」

 

「…………」

 

 隆道の目線は──今も啜り泣く箒に。

 答えなどわかりきってる。一夏と同様に頑固な彼女がどうするかは明白。それでも敢えて聞く。本当なら行かせたくはないが、これ以上は揉める時間が無い。だから彼女の意思を尊重する。

 待って数秒程。彼女はおもむろに立ち上がり、ぐしゃぐしゃの顔を拭って強く言い放つ。

 

「全部、話して貰いますからね……!! それと一夏! あとで覚えておくんだな……!!」

 

 箒も戦う事に決めた。その瞳に自暴自棄という言葉は存在しない。一夏と共に立ち向かうと。

 これで戦力は増えた。いざ、リベンジだ。

 

「んじゃ行くか──」

 

「「「ストップ」」」

 

 行こうとした矢先、三人に呼び止められ隆道はずっこけた。メンツは揃ったのに今度は何だ。

 

「何だよ」

 

「え、柳さんも……?」

 

「その、こんな事言いたくないんですけど……」

 

「お前は飛べないだろ。何が出来るというんだ」

 

 ご尤もだ。隆道は一夏と箒と違って飛行技術がすこぶる悪い。お世辞にも言えないレベルでた。そんな彼が共に戦うのはあまりにも愚行の愚行、自殺行為でしかない。最悪、辿り着くのかさえも怪しいところではある。

 そんな事ぐらいは彼自身も重々承知している。しかし──彼にはある秘策があった。

 

「んな事わかってるっつーの。けどよ、ここから六十キロも離れてるんだぞ? かっ飛ばせば早く着けるかもしれねえがエネルギーはどうすんだ。俺が運んでやるから温存しとけ温存」

 

「何を言っている。お前では時間が──っ!? 柳!! お前、まさか()()を!?」

 

「ああ、地獄の片道切符ってな。ぶっつけ本番でやってやろうじゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして──。

 

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅっっっ!!!」」

 

「冗談、じゃねー、っての、こんなの……!! マジ、死んじまう……!!」

 

 三人は超音速飛行で太平洋をかっ飛んでいた。彼等が通り過ぎた場所は強い衝撃波で荒れ狂う。

 いや、三人ではない。前方は背中に換装装備を取り付けた『灰鋼』、その換装装備の上に必死でしがみつく『白式』と『紅椿』。そう、つまりは隆道だけで超音速飛行を実現させているのだ。

 彼がそんな事出来るのか? 答えは否。全ては『灰鋼』の換装装備にある。

 

「やっぱり馬鹿ですよ貴方はっ!! 幾ら何でも無茶苦茶過ぎますってぇっ!!」

 

「吐く……!! 絶対吐いてしまう……!!」

 

「自分の前方に角錐を展開させるイメージ自分の前方に角錐を展開させるイメージ自分の──」

 

 これこそ隆道の秘策である。政府が試験として送り付けた汎用の換装装備──いや、ゲテモノ。

 

『これは……増設スラスターだけ、ですね?』

 

 このゲテモノ、蓋を開けると中々に凶悪。

 細く巨大なロケットが四基、その回りに小型のロケットが八基。それ等が束となって集まった、計十二基の超巨大スラスター。全長十メートルを超えるその存在感は見る者を圧倒させよう。

 元々はレース専用として開発されたこの装備。それがどういう訳か何処かのとち狂った研究員の目に留まってしまい、改良という名目の魔改造が重ねに重ねられた。するとどうなったか。

 曲がらない、止まらない、安全性はほぼ不明、燃費は最低最悪、速さだけが取り柄。結果としてこの装備はゲテモノ化してしまった。

 

 

 

 その最高速、驚きのマッハ五。殺す気かよ。

 

 

 

 当然、誰も使いたがらなかった。

 話を聞くだけで怖じける者、スペックデータを見て断る者、話が付いたかと思いきや現物を見て逃げ出す者と様々。公の場に出る事は無かった。

 そうして倉庫の肥やしとなってから数年経ち、漸くとゲテモノの運用試験が舞い込む。使用者は優秀なゲテモノ実験台と定評のある隆道。

 これには研究員も大歓喜の嵐。直ぐに倉庫からゲテモノを取り出し大改修に励んだ。当時よりも進んだ技術のおかげで大多数の欠点は改善出来たのだが、燃費だけは改善出来なかった。それ故にエネルギー関連は他の研究所から手を借りた。

 それは日本山奥にある研究所。そこでは少量のエネルギーをより強大なエネルギーに増幅させる研究が行われていた。噂だと所長は変態らしい。

 運用試験が出来る、更に男性操縦者のデータも取れる。正しくWINWINな関係が誕生し、早速とばかりにエネルギー研究の過程で開発した装置をゲテモノへと組み込む。

 所長(変態)はその装置をこう呼んだ。

 

 

 

『『Output.Variable.Energy.Reverse.System.X(試作可変型出力増大昇華装置)』。略して『O.V.E.R.S.X』、なんてのはどうだい? まぁ試作も試作だから不安定なんだけどねぇ』

 

 

 

 こうして出来上がったのがアレ。アレはただのゲテモノではなく、狂気と変態の融合体なのだ。不安要素しかなかった。

 初心者にも安心な制御システム、超音速飛行で発生する空力加熱と衝撃波の対策、速度に応じる可変後退翼、エネルギー問題を解消するであろう『O.V.E.R.S.X』。他にも様々な装置をマシマシに組み込み、ゲテモノは更なる進化を遂げた。

 これにて万事解決──な筈もなく。

 

「何か爆発しましたけど!?」

 

「大丈夫だ!!」

 

「何か部品取れましたけど!?」

 

「大丈夫だ!!」

 

「「何か燃えてますけどぉぉぉっっっ!?」」

 

「大丈夫だぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 案の定でしかなかった。

 ゲテモノスラスターの小さな爆発から始まり、部品は弾け飛び、所々から火が噴き出す。隆道は原因がさっぱりわからなかった。

 最大の原因は『O.V.E.R.S.X』だ。エネルギーの増大は成功してはいたが、ある拍子に突如暴走。オーバーフローからの爆発により破損が連鎖的に発生していたのであった。何だこの欠陥品は。

 

「!! 見えた!!」

 

 その時、ハイパーセンサーが代表候補生四人を捉えた。情報通りに『銀の福音』と謎のIS二機も確認。やはり、様子からして味方ではない。

 けれども不可解。様変わりした『銀の福音』もそうだが、増えた二機のISは何処かで──。

 

 ──目標地点まで残り三十キロ──。

 

 ──装備に深刻なダメージ。パージせよ──。

 

「ポンコツがよ……!! コイツはもう駄目だ、ここでパージ──……あ」

 

「「ん!?」」

 

「…………」

 

 突如、隆道は焦りから唐突な冷静に変わった。

 今も爆発と炎上を繰り返す換装装備から一刻も早く離れるべきである。なのに彼は恐ろしい程に冷静。何か嫌な予感がすると二人はゾッとした。

 

 ──目標地点まで残り二十キロ──。

 

 ──パージせよ。パージせよ。パパppp──。

 

「……柳さん?」

 

「……わりい、壊れた。パージ出来ねえ」

 

「「はぁっ!?」」

 

 最悪。ここにきて操作を受け付けない事態に。

 隆道は諦めの境地へと入った。どうやら自分はここまでのようだ。彼等と共闘出来ないらしい。リベンジの前にリタイア確定してしまったか。

 

「ああくそっ。仕方ねえ、このまま行くぞ」

 

「何諦めてるんですか!! 今切り離し──」

 

「馬鹿野郎が!! 無理に切り離して爆発したら全員くたばるだろうが!!」

 

「でも……!!」

 

 ──目標地点まで残り十キロ──。

 

 ──DANGER。DANGER。DANGER──。

 

「あと十キロもねえ!! 備えろ!!」

 

 もう手遅れだ。この装備が何時爆発するのかもわからない。一夏と箒には酷だが自身を見捨てて貰うしかない。その想いを察したか、二人は歯を食い縛って飛ぶ姿勢に入った。

 別に悲しくない。共に戦えないのは残念だが、今は終わらせる事が最優先だ。

 

 ──目標地点まで残り一キロ──。

 

「織斑ぁっっっ!! 篠ノ之ぉっっっ!!」

 

「「!!」」

 

 

 

 ここからは彼等次第。自分は、もう必要ない。

 

 

 

「あとでお迎え頼むわ」

 

「「……はい!!」」

 

 ──五百メートル──。

 

 隆道は叫ぶ。最後の声援を。

 

 

 

「翔べえええぇぇぇっっっ!!!」

 

 

 

 二人は声援と同時に飛び翔る。太陽を背にした白と紅はとても眩く、神々しく。

 

「うーわすっげえお似合──」

 

 ──直後、隆道は大爆発に巻き込まれる。

 半径二十メートルの巨大な爆炎が包み込んだ。ゲテモノ装備は散弾の如く飛散し何も残らない。爆発の衝撃と飛行による運動エネルギーが総じ、彼は遥か彼方に吹っ飛ばされてしまった。

 

「やな──」

 

「一夏!! 今は!!」

 

「……わかってる!!」

 

 約束した。迎えに行くと。だから、今は──。

 

「「仲間は、誰一人としてやらせない!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かの孤島。

 肉眼で辺り一面を全て見渡せるまでに小さく、僅かな緑しか存在しないその島は静かであった。

 

「──……ぁぁぁぁぁ」

 

 先程までは。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ」

 

 遥か遠くからえげつない速度で飛ぶ謎の物体。ソレは何やら絶叫の様な音と共にやって来た。

 

「──あ゛っ!?」

 

 激突。

 弾丸──いや、砲弾とも言えるソレは高速度で孤島の砂浜に落ちる。とてつもない轟音と衝撃が辺りを響かせ、砂塵が広範に舞い散った。

 辺りはしんと静まり返り、波の音だけが残る。砂塵は煙幕かの様に舞い続けて暫く、漸く晴れてソレの姿が露になった。

 

「……ゲホッ」

 

 ソレ、即ち隆道なり。煤まみれの顔面に損傷が目立つ『灰鋼』。既にボロボロであった。

 彼はあの大爆発の後、暫くの間は放り出されたままであった。換装装備処か『灰鋼』もある程度損傷を受け、本人の操縦技術もあってか成す術もなく身を任せるしかなかったのだ。

 作戦乱入からの心停止、拘束からの襲撃からの教師を半殺しからの自害からの脱走、爆発からの孤立。たった数時間の経過でコレである。文字にするとあまりにも酷過ぎた。

 

「結構離れたか……? 何処だよここ……」

 

 周囲を見回しても何も見えず。人間が砂浜から観測出来る水平線までの距離は約五キロらしい。となればそれ以上の距離か。ISで高く飛べば視認出来るかもしれないが、そんな気力は既に無い。

 

 ──ダメージレベルC。複数の損傷……確認。修復ヲ実ジジジジ──。

 

「……どっちにしろ何も出来ねえか」

 

 ここで大人しく待つしかない。となれば暇でも潰そうかと隆道はISを解除、島を散策し始めた。

 

「なーにーかーねーえーかーなーっと……お?」

 

 ぶらぶらと歩いて暫く。ふと、波打ち際辺りに気になるものを見つける。自然しかないこの場でソレはあまりにも不自然で。

 何かしらの漂着物だろう。もしかしたらソレで暇潰しが出来るかもしれないと隆道は歩く。

 

「んー……?」

 

 ソレは銀色のガラクタであった。全体的に罅が目立ち、コードが剥き出しに垂れ下がった何かの部品らしき物体。それなりの重量だが、ここまでボロいと元が何だったのかすらわからなかった。

 期待外れだが、これはこれで暇潰しにはなる。探せばきっと面白いものに出会うだろう。

 

「腹、減ったなぁ……」

 

 しかし、いい加減に腹が空いてきた。よくよく考えれば今日は朝から食事を取っていない。一度思えば食べ物の事しか考えられなくなり、遂には動く気が失せて座り込んでしまった。

 

「飯食いてえ。何でも良いから──」

 

「宜しければ此方を」

 

「ん? ……お、マジか!」

 

 視界からひょっこりと出た細い腕。その手には竹皮で包まれた何かがあった。隆道は本能に従い受け取って中を開けると──これまた手の込んだ大きめのおにぎり二個が顔を覗かせた。

 

「……!! ……!!」

 

 正に獣。隆道はおにぎりを一心不乱に貪った。良い塩梅の塩加減、辛子明太子とだし巻き玉子を組み合わせた具は彼を無我夢中にさせていった。ここ最近で一二を争う幸せを感じたであろう。

 か、その幸せも直ぐに終わってしまう。完食に数分は掛かるであろうおにぎりを、僅かな一分で食べ切ってしまった。

 

「お茶もどうぞ」

 

「サンッ……! ……っあー。ご馳走さん」

 

「お粗末様です」

 

 お茶も提供してくれるのか。最近のサービスは便利になったなと、隆道はそれはもう感心した。

 

「「…………」」

 

 

 

 

 

 ──そんな訳が無い。

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 我に返った隆道は飛び跳ねてその場から離脱、声の主から大きく距離を取る。咄嗟に振り向けば──そこには場違いな格好で佇む一人の少女が。

 

「ああ……?」

 

 その少女は、ラウラに瓜二つであった。

 流れる様な銀髪、白と青のゴスロリ系ドレス、高価であろう杖に閉じたままの瞳。全てが不可解過ぎる存在が目の前にいた。

 いつの間にいたのか、今まで何処にいたのかと必死に思考を巡らせる。直ぐわかったのは一つ。この少女は──味方ではない。

 

──『猟犬』起動。……IS反応有り──。

 

 ──識別コード不明。コアネットワーク巡回、ISデータ照合。……該当無し──。

 

 ──操縦者不明。コアネットワーク巡回継続、登録操縦者データ照合。……該当無し──。

 

 ──データプロテクト確認。解析不可能──。

 

「てめえも襲撃者か。しかもIS持ち……」

 

「申し遅れました。私はクロエ・クロニクル、と申します。以後、お見知りおきを」

 

「あっそ。……で、態々俺を殺しに来たってか。なるほどな、ここなら好都合だろうよ」

 

「滅相もありません。私はお迎えに参りました」

 

「は? ……っ!?」

 

 その時、隆道は気づく。旅館の周辺にいた筈の熱源反応が多数、此方に近づいている事に。

 

「機を窺っていました。本来なら隆道様が旅館にいる間に終わらせる筈でしたが……かなり予定が狂ってしまいまして。ですが、ここまで離れれば逆に助かりました」

 

 それ等は、あっという間に直ぐそこまで来た。見回しても視認出来ず。即ち、これは光学迷彩。奴等はずっと潜んでいた。

 視認出来ないそれ等は隆道を取り囲む。同時に空間が歪み、そして遂に姿を現す。

 それ等は嘗ての無人機に似ていた。数は十機、熱源反応からして──更に増える。

 

 ──『ゴーレムⅡ』──。

 

「ハード過ぎんだろくそったれ……!!」

 

「隆道様。……どうか、お許し下さい」

 

 戦いは終わらない──。




◆原作『白式・雪羅』との相違点。
・ブレード追加。二刀持ちになり腰に常時展開。 若干の追加仕様有り(鞘付き)
・左腕の多用途武装は無し、個別の装備に変更。若干の追加仕様有り。

◆増設スラスター(正式名称無し)
臨海学校で政府が用意した汎用換装装備。元々はレース用だが研究員の魔改造でゲテモノになる。最高速マッハ5(時速5958㎞)
『銀の福音』との交戦直前で故障し、大破した。今後は出番無し。
(元ネタ:アーマード・コアFAのV.O.B)

◆『O.V.E.R.S.X』
とある研究所でエネルギー研究の過程で開発したエネルギー増幅装置。試作型なので不安定。増設スラスターに組み込み、暴走して大破した。

※原作十一巻にて『O.V.E.R.S』が登場している。この装置はそのプロトタイプという位置付け。

◆『ゴーレムⅡ』×???
クラス代表戦にて襲撃してきた無人機に酷似した謎のIS。詳細不明。



 ~ここから後書き~
オリ主は銀の福音とは戦いません。原作主人公の役目なので直前で退場。その代わりのコレです。本来なら登場が遅いあの子も参戦。福音編は残り二話で終了するので気長に。
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