IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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Q.何で更新遅れたんですか?

A.場面の同時進行がめちゃくちゃ難しくて。あとRE4がめちゃくちゃ楽しすぎて。

ホントすいませんっした。

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文章修正


第五十六話

 一夏達が飛び立った直後。花月荘。

 

「ほっ、ほっ」

 

 廊下を歩く景子は何やら急ぎ足。騒ぎがあった玄関とは真逆の方へ進んでいた。

 廊下から従業員専用通路、従業員専用通路から更に奥へ行き、道中の部屋や厨房を覗きつつ足を早めていく。従業員は一人として見当たらない。昼はとうに過ぎて夕食の仕込みがあるのに誰一人見えないのはどういう事だろうか。だが、彼女はそれを気にする事なく更に早く歩き進む。

 彼女が向かうは裏口。そこへ一直線に向かい、到着するや否や深呼吸しつつモニターに近づく。映るのは風情がある踏み石のみ。人なぞいる筈がないのに──。

 

「……『造花』」

 

「『黒百合』」

 

 景子の言葉の後に何故か声が返ってきた。

 まるで合言葉の様で不穏な空気が流れていく。どちらも『花』に関連しているものであった。

 黒百合の花言葉は不吉であると言われている。一般的に知られているのが『呪い』、『復讐』。他は『恋』があるが"負"のイメージの方が強く、後者はまず使われない。縁起がかなり悪い花だ。

 明らかに普通なやり取りではない。モニターに映らない声だけの存在が扉の先にいる。それでも彼女は扉から離れようとはしなかった。

 

「……はい、今開けますね」

 

 景子の表情が強張る。扉の鍵を開け、ゆっくり開くと見えたのは──。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 ──黒尽くめの特殊部隊。数は十人。

 一切見えない顔、身体に引き付く機械、隅々に固めた装備、過剰過ぎる銃火器の数々。常人なら先ず怖じ気づく集団が景子の目の前に。

 しかし、彼女は彼等に臆せず。まるで最初から彼等の存在を知っていたかの様であった。

 

「お初にお目にかかります、清洲様。このような姿で御挨拶になってしまいました事を深くお詫び申し上げます」

 

「貴殿方が、あのお方の……」

 

「ええ、ご認識の通りです。失礼とは存じますが私達は立場上名乗れない者故。何卒ご理解を」

 

 姿に似合わず丁寧な挨拶。頭から足まで全てが場違い過ぎて相手を威圧する格好なのに、それをなるべく感じさせない柔らかな口調。少なくとも景子に危害を加えるつもりは無いようだ。彼等がこの旅館にやって来た理由とは。

 

「いえいえそんな。……お話は伺っております。貴殿方がお見えになったという事は本当に……」

 

「誠に遺憾ながら。ですが御安心下さい、私達が迅速に対処致しましょう。従業員の方々には?」

 

「既にお伝えして各休憩室で待機させています。事が終わるまで出ないよう言っておりますので。それと、貴殿方の部屋を一つ御用意致しました。どうぞ御利用なさってください」

 

「おお、これはこれは。御協力に感謝、有り難く使わせていただきます。……1-5は清洲様に付け。他は俺と」

 

「「「「「了解」」」」」

 

 一転。その柔らかな口調は忽然と消える。

 その合図で武装集団はぞろぞろと構内に入り、一人を残して九人が突き進む。全員が廊下に出た所で一瞬にして二列縦隊に並び静止、戦闘態勢に入って緊迫した空気に包まれた。

 間違いない。これから物騒な事がこの旅館内で起こってしまう。

 

「音響センサーに不自然な反応有り、一ヵ所だけ音が一切拾えない。ポイントBと一致」

 

「ふん、道理で。ハンター0-1、応答願う」

 

『…………』

 

「ハンター0-1」

 

『…………』

 

 先頭の一人が通信を試みたが何も聞こえない。全員が左腕のディスプレイを覗き、少し凝視した後に顔を合わせ首を振った。様子から見るに誰も繋がらない模様。

 が、その程度は想定済みなのであろう。全員は特に驚く素振りもなく装備のチェック、廊下には金属音だけが響き渡る。

 

「音響遮断と電波障害か、忌々しい。俺の分隊で探す、二分時間をくれ」

 

「了解。1-3と1-4は『月長石』を探せ。俺と1-2で先にネメシスと合流する」

 

「了解。山田真耶と榊原菜月はどうする。奴等は()()()()()()()だぞ。いつまで放っておく気だ」

 

「今日か明日にでもお灸を据えるだろうが決定はネメシスにある、今は待て。では各員セット」

 

「「「「「セット」」」」」

 

 混濁は更に渦巻く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『銀の福音』交戦領域にて。

 

「オオオオオォォォォォッッッ!!!」

 

 隆道から飛び立った一夏は混戦へと詰め寄る。加速から重なる更なる加速──瞬時加速が炸裂、以前の『白式』を超える超音速を叩き出した。

 否、ただの瞬時加速ではない。大いなる進化で強化され、大型ウィングスラスター四機を備えた彼のISはより高みへ。

 

 ──『二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)』──。

 

 一・五倍に上昇した最大速度、約三分の二まで短縮された瞬時加速のチャージ時間、そこからの瞬時加速をも超える二段階瞬時加速。それなりの練度が無ければ出来やしないだろう技術を一夏は無意識に繰り出した。

 その圧倒的な速さに戸惑いはするも一瞬だけ。先ずはセシリアに肉薄する狂暴な『銀の福音』を引き剥がすべく斬り掛かる。

 

「そこだぁっっっ!!!」

 

『──ガッ!?』

 

 超音速で威力が上乗せされた二刀での凪払いは暴れ狂う『銀の福音』の腹を直撃。鈍い金属音と機械らしからぬ悲鳴を上げ盛大に吹き飛んだ。

 

「!? いち──」

 

『……!?!?!? テテ、敵機情報更新』

 

 だがしかし、決定打にならず。吹き飛ばしから流れる様に体勢を立て直す『銀の福音』は即座に一夏へ標的を変えた。

 エネルギー翼が大きく広がる。更に背中からも青白い翼が生え出す。次の瞬間には莫大な掃射が彼に集中される。回避はどう足掻いても不可能。

 

「多っ!? だったら──」

 

 一夏は逃げない。左腕を盾を構える様に水平に翳し、光弾の雨を真っ向から待ち構える。

 何も被弾覚悟という訳ではない。彼の()()()は必ずソレを防ぎ切る。

 

 ──『霞衣』展開──。

 

 直後、一夏の左腕が変わる。前腕部に引き付く細長い盾は上下に勢いよくスライド、その面積は三倍に変化する。次にその上から青白い光の薄い膜が張られ、彼の全体と同等の大きさに。ソレは迫り来るエネルギー弾を全て受け止め──。

 

『!!』

 

 

 

 ()()()()

 

 

 

「俺にエネルギー攻撃は効かねぇっっっ!!!」

 

 ──可変複合盾『霞衣(かすみごろも)』──。

 

 その左腕、状況に応じて変形する盾。

 防刃と防弾を兼ね備え、且つエネルギー攻撃を全て無効化──『零落白夜』の展開を可能にした防御装備。攻撃に特化した単一仕様能力は一夏の想いによって守りにもなった。

 これで『銀の福音』のエネルギー兵器は完封。エネルギーは消耗するが攻撃用よりも比較的燃費良し、何より撃墜される確率は大幅に減った。

 それに、もう近づくしか出来ない彼ではない。

 

『──ギャンッッッ!?』

 

 それは油断か。攻撃を防いだ一夏から放たれた光速の一閃が『銀の福音』の胸部へと着弾、再び吹き飛ばされていった。

 防御装備だけではない。嘗てシャルロットから借りた銃で経験した射撃はここで漸く実を結ぶ。

 

「っしゃあ命中!!」

 

 右腕で抱える様に構える大型の大砲。近接しか攻撃手段が無い『白式』はもう存在しない。

 正体は荷電粒子砲『月穿』。背中にあるソレはサブアームで固定され、使用時には脇下を通って手元に移動する。熟練者の切替より遅いが武装を呼び出す際の集中力はいらなくなった。

 展開の必要性は無し、拡張領域に格納も不要。全ての武装は一夏の思うがままに動く。

 

『ジョジョ、ジョウキョウ変化。最大攻撃シシシシヨウシヨウシヨウ』

 

「今度は逃がさねぇぇぇっっっ!!!」

 

 機械仕掛けの天使を討つべく一夏は飛び込む。恩人の為に。自身の為に。

 

 

 

 

 

『…………』

 

「さて、どうするか……」

 

 一方、一夏と分かれた箒はブレード持ちのISと対峙。満身創痍のセシリアを庇う形で寄り添い、二刀の切っ先で相手を牽制していた。

 レーザーライフルは全て破壊されたのだろう。換装装備のスラスターもヒビ割れが目立つものや一部欠損していたりと酷い状態だ。飛べはするがそれ以上の事は出来やしないように見えた。唯一残された武器はショートブレード一本のみ。彼女は今までたった一本で戦っていたのだ。

 他の代表候補生はもう一機のISと混戦中。が、状況はあまり宜しくはなさそうであった。

 

「箒、さん……。わたくしの事は、構わず……。今の貴女では──」

 

「何を馬鹿なことを言ってる。……心配するな、私はもう大丈夫だ」

 

 嘘である。本当は今も引き摺っている。

 自分のせいで一夏達を傷付けた。自分のせいで作戦が長引いた。自分のせいで他者も傷付いた。

 もうISなんて懲り懲りだった。逃げ出したい、関わりたくないという想いが心を満たしていた。自分には荷が重過ぎたと苦しんだ。

 それなのに──。

 

 

 

『柳さん、俺は行きます』

 

 

 

 どうして。

 

 

 

『ああ、地獄の片道切符ってな。ぶっつけ本番でやってやろうじゃねえか』

 

 

 

 泣いている暇なんて無かった。

 自身が暗いどん底に深く沈む最中、逆に彼等は立ち向かった。どんなに傷付いても、折れても、誰かの為に再び身体を動かす彼等は強く見えた。

 ならば放っておけない。彼等と共に戦いたい、彼等の背中を守りたいという強い『願い』が箒の失った活力を無理矢理に甦らせた。

 恐怖はまだあるが、それでも彼女は逃げない。今は戦いを終わらせるのみである。

 

「隙が無いな。無理に仕掛けるのは無謀か……」

 

「……箒さん」

 

「しつこいぞ。私は大丈夫だと──」

 

()()()()()()?」

 

「……何だと?」

 

 箒は耳打ちをしてくるセシリアの言葉の意味に理解が全くと出来なかった。この状況でいったい何の話をしている。どう見えるとは。

 彼女がそう思うのも無理はない。途中参戦した二人はセシリア達と決定的な違いがある。

 

「あのIS……箒さんにはどう見えます?」

 

「どうって……」

 

 何言ってるんだコイツはと疑問を拭えない箒。改めて目の前に立ち塞がるISを細目で凝視するが──()()()I()S()()()()()()と思うだけ。

 そう、セシリアとは見えているものが違う。

 

「何が言いたいんだ」

 

「そのままの意味ですわ。答えてくださいまし」

 

「むぅ。……似ているな、五月のクラス代表戦に乱入してきたISに。コイツらは……」

 

 突如現れた『紫色の千冬』と『紫色の隆道』は『幻覚』が見せた仮の姿。その正体──。

 

 

 

「『()()()』……!!」

 

 

 

 その時、セシリアが見る二機のISに罅が入る。胴体からのソレはやがて四肢と頭部までに達し、全身に余す事なく巡り──砕け散る。

 

「……!!」

 

 真の姿が露になる。

 素肌を見せない所々損傷した全身装甲、複数の不気味なカメラアイ、両脇に浮遊する分厚い盾。全身は細身で違いこそあるのだが、嘗て彼女達が手も足も出なかった襲撃者と姿が酷似していた。恐らくは発展型と思われる。

 全てのピースが揃った。間違いなく目前のISは囮。本命はまたしても隆道ただ一人。

 

「あの時と同じ……。まさか、またなのか……」

 

「ええ、間違いなく。ですから箒さんは──」

 

『退け』

 

「「!!」」

 

 二機の無人機が同時に襲い掛かる。牽制体勢の箒に急接近、直後に二刀が簡単に弾かれた。

 

「……!?」

 

 感じたのは違和感。剣術を心得ている箒だから感じ取れたソレは彼女の思考を一瞬鈍らせる。

 攻撃の意志が感じられなかった。切っ先だけを小突いた様な軽めの弾き。これは──。

 

「セシリア!!」

 

 時既に遅し。無人機は呆気に取られた箒の横をすり抜け、まともに戦えないセシリアを集中的に攻撃を仕掛けた。確実に数を減らすつもりか。

 

「くぅっ!!」

 

 辛うじて回避出来たセシリアは逃げに徹する。リーチの短い短刀では分が悪い、今は何としても耐えなければ今度こそおしまいだ。

 

「やらせはせんぞ!」

 

 それを黙って見過ごす箒ではない。全力全開で無人機を追い掛け、二刀での凪払いで──。

 

「何!?」

 

 その攻撃は簡単に防がれる。

 無人機は目視せずにブレードだけ翳して防御。箒には目も暮れずにそのままセシリアを追った。

 徹底的に箒を無視している。相手にならないと判断しているのか、それか構ってられないのか。どちらにしろ今はセシリアだけが標的のようだ。

 そうはさせない。そちらがその気ならば此方はとことん邪魔してやろうではないか。

 

「そこだ!!」

 

『!』

 

 繰り出したのは『雨月』による赤色の光弾雨。流石に防御の選択肢は取れなかったらしく大きく逸れて回避した。しかし、それは想定内である。

 

「これはどうだ!!」

 

 次は『空裂』。巨大な帯状の攻性エネルギーが無人機の胴体に目掛けて飛んでいく。流石に回避不可能だと判断したかコレを防御、遂に足止めに成功した。

 体勢の立て直しなどさせない。透かさず距離を詰めて二刀での連撃を仕掛ける。

 

「私に任せろ!!」

 

「!! ……お願いいたします!!」

 

『邪魔をするな』

 

「貴様の相手は私だぁぁぁっっっ!!!」

 

 刃物同士の高い金属音が轟く。無人機は今でも防御を徹底している。はやり攻撃の意志は一つも感じられない。舐められているのだろうか。

 この際どちらでもいい。目の前の敵を少しでも足止め出来るのなら、誰も傷付かないのなら。

 エネルギー管理は怠らない。同時に力の限りに攻撃の手を緩めない。彼女にはまだ難しい事だがやり遂げなければならない。もう負けられない、今度こそ勝つのだと箒の闘志は更に燃えた。

 

「はあああぁぁぁっっっ!!!」

 

 連撃、連撃、連撃。何度かち合っただろうか。相手は未だに反撃の様子が見られない。が、今はセシリアを離せただけでも御の字であった。

 

「どうした!! 何故反撃してこない!!」

 

『その必要は、無い。それに、イギリス人を追う必要も無い』

 

「何……!?」

 

『もう一機を忘れたか』

 

「!?」

 

 否。それは謀略だ。

 はっとした箒は目だけでセシリアの方を見る。視界に映ったのはもう一機の無人機に首根っこを掴まれたセシリアの姿。他の代表候補生は何処?

 

「……!?!?!?」

 

『今まで迎撃で済ませていたが状況が変わった。所詮は人間、手加減しなければ撃墜は容易』

 

「う、そ……」

 

 海面に浮かんだ三つの点。ハイパーセンサーでフォーカスすると、点でなく見慣れた人間──。

 

「────」

 

『案ずるな、主は殺害を決して望まない。勿論、我々もそれを望まない。無用な争いも望まないが時間が無い。これも主の願いの為だ。……いや、人類の為でもあるか』

 

 今の箒には、その言葉は頭に入らなかった。

 セシリアを救助しようにも、目の前の無人機は確実に阻止するだろう。一夏は『銀の福音』との戦闘で手一杯、援護は期待出来ない。

 箒の脳裏にまたしてもあの光景が甦る。誰かが傷付く、二度と目にしたくないあの光景が。

 敵の目的を知れた? 不可解な謎が解けた? 目的を阻止すれば勝ち?

 

 

 

 それがどうした。

 

 

 

 残酷な事だが、この場では強さが全てなのだ。信念があろうと結束があろうと使命があろうと、圧倒的な力の前ではその壁を打ち破れない。

 セシリア達は優秀な代表候補生なのに? 単に無人機の方が格上の存在だっただけの話である。それ以上でも以下でもないのだ。強いから勝つ、弱いから負ける。当たり前の事でしかなかった。志だけでは力の差は決して埋まらない。

 仮に『銀の福音』に勝てたとしても、隆道には辿り着けない。全てが遅過ぎた。

 

「何故、こんな事を……!!」

 

『間もなく使命は果たされる。我々の存在意義は主の()()()()()。今は大人しく──』

 

 

 

 

 

 唯一打ち破れるものは更に上を行く力だ。

 

 

 

 

 

「うわっっっっ!?!?!?」

 

 突如、凄まじい衝撃波が箒と無人機を襲った。攻撃──と言うより押し退けられたに近いソレはそれぞれを引き剥がす様に吹き飛ばす。

 

「な、今度は何──!?」

 

 

 

 吹き飛ばされながら箒は目にする。

 

 

 

 無人機の両腕が──何故だか千切れた。

 

 

 

『早、過ぎる……。作戦失ぱ──』

 

 次に目にしたのは空高くにある巨大な光の塊。ソレは一気に降下して無人機の全身を呑み込む。柱とも言えるその光は数秒程留まり──。

 

「な──」

 

 

 

 無人機と共に跡形も残さず消える。

 

 

 

『!!』

 

「きゃっ!?」

 

 残された無人機はセシリアを強く放り投げる。頭上を見上げると──全く同じ光の塊が一つ。

 

「貴方っ、何の真似──」

 

『近づくな!!』

 

「えっ」

 

『……もう、おしまいだ』

 

 いきなりの怒声にセシリアはたじろぐ。まるで此方の身を案じる叫びは彼女の動きを止めた。

 それは正しかった。無人機はここで終了する。

 

『主──』

 

 直後、この無人機も極太の光に呑み込まれる。ISを身に付けても耳を塞ぎたくなるような轟音を鳴らし、数秒で消えて無人機の姿も消えた。

 

「え……」

 

 いきなりの展開に二人は付いていけなかった。突然現れた巨大な光と消えた無人機。一体誰? 無人機は何処へ行った?

 いや、理解したくなかっただけかもしれない。無人機は──二度と現れない。

 

「な、何だ今の!?」

 

 当然ながら一夏もその光を目の当たりにした。見た事のない光柱につい攻撃を中断し狼狽える。それは『銀の福音』も同じであった。

 

『高エネルギー反応ヲ感知。退避──』

 

 今度は『銀の福音』に光が雲を裂いて降った。しかし、今までのと違い今度は一秒程度。直ぐに消滅して当の本人はその場に残ったが──。

 

『イギャアアアァァァッッッ!?!?!?』

 

 ──銀とは程遠い、真っ赤へと化す。

 

『デデデ、deadzoneにトウタツ! トウタツ! トウタツ! 操縦シャにダメ、ダメージヲ確認! 深達性Ⅱ度ネッショウをフク数カカ、カクニン! ヤダッ! ヤダッ! ヤダァァァッッッ!!!』

 

「うっ……」

 

 変わり果てた『銀の福音』に一夏は困惑した。

 まるで火事から逃れる人間の様に踠き苦しみ、機械的であった音声は助けを乞うかの様に叫ぶ。その姿は一夏の良心に深々と突き刺さり、攻撃に躊躇いを生ませてしまった。

 『銀の福音』はもう戦闘不能に等しい。表面の装甲は溶け始め、焼ける音が今も続く。辛うじて浮いているのはP.I.Cだけが機能しているからか。

 

『シンジャウ! シンジャウ! ナタル、ナタルシンジャウ! ナタルシンジャウ!!』

 

「え、えと……。う……」

 

 見てられない。撃墜しなければならないのに、悲鳴を上げてのたうち回る相手は攻撃出来ない。というか、やけに流暢に喋る。ナタルとは誰? そもそもさっきの攻撃は誰が?

 一夏は必死に思い見る。何が最善なのか、何が正しいのか。

 

「う゛~……。う゛~……」

 

『イ゛イヤアアアアアァァァァァッッッ!!! ナ゛タ゛ル゛──』

 

「──ごめんっっっ!!!」

 

『ヴッ──』

 

 答え。一夏はぶっ叩いた。

 『双ノ雪片』の片方を納刀、一本だけを残して『零落白夜』を発動し刃先ではなく刀身の側面で頭部に振り下ろした。直撃しても振り抜かずに、そのまま押し付けて。

 

『ナ゛、ナ゛ナ゛ダ……』

 

「悪いけど……今は、大人しくしてくれ……!」

 

 終わりである。

 『銀の福音』は遂に具現維持限界に到達した。装甲は崩れる様に粒子となり中の操縦者が露に。そのまま海へと墜ちていく。

 

「あやっべっ!!」

 

 一夏は間髪をいれず急降下して操縦者を掴んで抱き抱える。死んでいないよなと顔を覗くが息は辛うじてしていた。

 しかし、かなり酷い状態だった。複数の打撲もそうだが、何よりも火傷が凄まじい。ISスーツの一部は溶け、素肌は見たことない色をしていた。確実に重傷レベルだ。いや、重体なのかも。

 

「ヤバいヤバいヤバい!! え、コレどうすれば良いんだ!? 冷やすか!? 水か!? 海水、海水は良いんだっけ!? いや痛そ──」

 

 正に混乱。もう思考が停止しそうなレベルで。

 火傷なら経験あるがここまでの火傷は初めて。知識が無い一夏は何が最適かと思考をぐるぐると回してしまう。勇姿は何処へ行ったのやら。

 やるべき事はまだ残っている。それでも重傷の彼女を易々と見捨てられない。どうすれば良いと空のど真ん中であたふたしてしまっていた。

 

「何してるんですか貴方は!!」

 

「あ、ナイスセシリア!! この人頼む!!」

 

「え、ちょっ」

 

 正しくグッドタイミングだ。一夏は寄って来たセシリアに預ける事にした。彼女なら応急措置の知識はあるだろうという偏見から。

 今は話を聞く暇は無いのでガン無視する。皆も大事だが隆道が最優先なのだ。

 

「あの、お待ち──」

 

「行くぞ箒!!」

 

「え!? あ、ああ!!」

 

「ああ……」

 

 二人はセシリアの静止を振り切って超絶爆速で飛び出す。せめて話だけは聞いてくれないかと、何処か悲しくなったセシリアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡る。

 

「確保」

 

「!!」

 

 隆道を取り囲む複数の敵──『ゴーレムⅡ』の一機が機敏な瞬時加速で詰め寄り襲い掛かった。その巨大な鉄の手の平は──寸前で屈まれた事で空振りに終わる。

 

「あぶねっ!!」

 

 透かさず『ゴーレムⅡ』は隆道に掴み掛かる。が、これも空振り。常人なら回避処か反応すらも出来ない豪速の掴みは砂塵が舞うだけとなる。

 生身に関わらずこの回避。入学前の過酷過ぎた環境で身に付いた身体能力は、入学後の度重なる死闘で更に洗練されつつあった。

 

 

 

 否。それは否である。

 

 

 

 洗練──ではない。隆道は取り戻しつつある。嘗て、『飼い犬』や『髑髏』の者が恐怖し震えた『全盛期の髑髏(隆道)』に。

 そう、彼の戦闘力はこの程度のものではない。今まで見せたものは僅かな一片だ。憎しみだけを活力にしていた当時の彼は最早──。

 

「っだぁくそっ!!」

 

 だがしかし、所詮は人間でしかなかった。

 隆道は武術の達人ではないし、ましてや身体を改造した強化人間でもない。身体全体を駆使した荒々しい回避は一気に疲労が襲い、元から疲労が蓄積していたのもあり肉体が限界に達す。体勢が崩れてしまい、動きも打って変わって鈍くなる。生身での回避は既に限界か。

 それに──。

 

「うおっ!?」

 

 今は一対多である事を忘れてはならない。

 隆道は別方向からの脅威に対応出来ず、片足を器用に掴まれてしまう。そのまま持ち上げられて宙ぶらりん状態となる。

 

「放せ……この……!!」

 

 放せと言われて手放す阿保は何処にもいない。問答無用で吊り上げる『ゴーレムII』は空高くへ飛翔、抵抗虚しく瞬時に高さ数十メートルへ。

 このままでは連れていかれてしまう。何処だか見当もつかないが本能が力一杯に警告を鳴らす。絶対に逃げ切れと。

 

「て、め……調子乗んなよオラァッ!!」

 

 怒声と共に隆道の右腕は『剛鉄爪』へと変化、自身を掴む腕に思い切り爪を振るう。ひしゃげた金属音と砕ける轟音が響いていとも簡単に破壊。捕縛から逃れた彼は砂浜へ真っ逆さま。

 

「隆道様!!」

 

「っ……!!」

 

 やられっぱなしは気に食わない。直と沸き立つ怒りが隆道の闘志に火を付ける。戦えと吠える。その意志に応えたのか、コンマ五秒も掛からずに『灰鋼』が展開された。

 火事場の馬鹿力だろうか。今まで出来なかったイメージでの展開をこの極限で遣り通すとは。

 

「ぶべらっ!?」

 

 ただし、華麗なる着地だけは無理だった模様。背中からの墜落で途轍も無い衝撃が隆道を襲い、潰れた様な声が吐き出される。

 ショックアブソーバーがさっぱり機能しない。先の爆発と墜落で故障してしまったか。

 

 ──警告。energyパイバスにイジョウ──。

 

 ──warning.An error occurredddddddd──。

 

「ごっ……ぶほっ……──っ!?」

 

 隆道に安息は許されない。

 察知したのは真上から。気がつくと一直線へと落下してくる片腕の『ゴーレムII』の姿が見える。このままではまたしても掴まれてしまうが、彼は密かにほくそ笑んだ。

 彼には絶対的な防衛システム『番犬』がある。連発出来ないが守りには十分な性能──。

 

(──いやちげぇっ!!)

 

 否。隆道は転がる様にその場から逃げ出した。直後、自身がいた場には爆発したかの様に砂煙が舞い散り──そこから直ぐに脅威が。

 

(駄目だ!! 防御を!!)

 

 『危険察知』に合わせて盾一枚を脅威の前に。受け止めたのか、金属同士がぶつかる轟音だけが響くだけとなった。間一髪に危険は逃れる。

 

「あぶね──」

 

 ──かと思われた。

 

「──!? 駄目──ぐぁっっっ!?!?!?」

 

 突如に隆道は何かを察知、右腕で庇った直後に吹き飛ばされてしまった。

 味わった事の無い衝撃、けたたましい破砕音。軽々しく吹き飛ばされた彼は訳が分からずとも、砂浜に爪を立て無理にでも体勢を立て直す。

 何故、攻撃が通った。盾で防御した筈なのに。右腕で防がなかったら確実に直撃していた。

 いや、それ以前にだ。

 

 ──ケイ告。ミ確認エネルギーヲカンチ──。

 

 ──warning.■■■■■■■■■■■■──。

 

(『番犬』も発動しねえ……!!)

 

 コレも駄目なのか。ログの羅列を見ても原因は判明出来ず。何かしらを感知したらしいが表記にバグが発生、潰れて読めなくなった。機能不全や不具合は今に始まった事ではないがタイミングというものがあるだろうと悪態をつきたくなる。

 

「……!?」

 

 隆道は愕然とする。

 防御に回した盾は木っ端微塵に。右腕の前腕と手の甲には大きな凹みと罅。まさかと視線を前にやると、砂煙から真っ直ぐに突き出た腕──から更に突き出た巨大な()()()()。これは──。

 

「『鋼牙』……!?」

 

 察すると同時に砂煙は晴れる。そこにいたのは──巨大な二連装パイルバンカーをいつの間にか装備した『ゴーレムII』。

 細部の見てくれは違うがほぼ『鋼牙』と同じ。盾に穴を開けた破壊した正体はアレだったのか。どうりで強い衝撃の筈だ。

 

「うああ……マジかよ……」

 

 それだけならまだマシであった。

 周囲を見渡せば別個体も武装を展開していた。ある個体は両腕に同じ二連装パイルバンカーを、ある個体は刀剣かの様な無骨な近接ブレードを。

 これだけに留まらず。このISの群れ、明らかに数が増えている。ハイパーセンサーから続け様に熱源反応が多数、ざっと数えても二十は超えた。何処からここまでの数を用意したのだ。大国でも不可能なこのISの大群を。

 向こうは未だに無傷。対して隆道は展開時点でダメージレベルC。勝てる見込みは無いであろう。普通ならば降参の選択肢しかない──が。

 

「抵抗を止めてISを放棄して下さい。そして私と共に行きましょう。これは隆道様の為なのです」

 

「……はんっ」

 

 それでも、隆道は足掻く道を選ぶ。

 

「なーにーがー俺の為だくそったれが。要は俺を拉致しに来たんだろうが。態々こんな数揃えて。目的は俺の血か? 肉か? それか頭ん中か? いや全部だろうな、素直に行くと思ってんのか。お断りだ馬鹿野郎」

 

「…………」

 

「それに、お迎えならもう先約を取っちまった。大事な大事な先約をな。てめえに用はねえんだ。共に行きましょう? 勝手に一人で行きやがれ」

 

 そう言って隆道はビシッと中指を立てた。

 易々と連れ去られる訳にはいかない、最後まで足掻く。相手が何れ程強敵であろうと折れない、屈しない、敗北は絶対に認めない。

 自身の為──ではない。覚悟を決めた、強靭な鋼の意志を持つ少年と交わした約束の為。自身が何れ程腐ってようとそれだけは果たしてみせる。それが今の彼を動かす活力。

 

「……流石は隆道様。多勢に無勢であろうと抗うその姿勢、お聞きした通りです」

 

「誰から聞いたか知らねえがもう慣れたさ」

 

「はい、存じ上げております。……だからこそ、何としてでも成し遂げなければならないのです」

 

「……? 何の話してんだ」

 

 

 

 ──ごめんくーちゃん……逃げられちゃった。急いで……。

 

 

 

「!! ……時間がありません、説明は後程に。あのお方が来る、その前に……!!」

 

 少女の雰囲気が変わった。閉じていた瞳を開き──人のソレではない黒の眼球と金の瞳が露に。次第に彼女は空間毎歪み始め──。

 

「ここで必ずっっっ!!!」

 

 ──姿を消す。

 

(来る!)

 

 予感の直後に一機が真正面から突撃してきた。防衛システムは何故だか使えない、防御も悪手。それなら己の回避能力と得意のカウンター戦法で乗り切るしかないと隆道は集中。

 ISを纏った彼が集中さえすれば最大限に技能を発揮出来よう。数は多くとも、ある程度の回避は容易い筈──。

 

(先ず目の前──いや左!?)

 

 感じたのは左からの脅威。それに従って隆道は右へと大きくサイドステップ。その方へと視線を向けると──どうしてか何も無い。

 

「??? 何──うおっ!?」

 

 今度は後ろからの脅威が。大袈裟に跳躍からのロンダートでその場を離れ、脅威の出先を見るが──やはり何も無い。

 

(右か──いや正面!! 今度は上──じゃねぇ後ろだ!! 何なんださっきから!!)

 

 見えているものと感じるものが噛み合わない。相手を目で追っても脅威は微塵たりとも感じず、何も無い空間から脅威が来る。ソレから逃れると今度は瞬間移動の様に空間から敵が現れる。

 隙が無さ過ぎる。反撃の好機が見つからない。多少無茶してでも攻撃するしかないのかと隆道は左腕に『鋼牙』を展開、迫り来る敵を避けつつもタイミングを見計らう。

 避けて避けて避け続ける。体力は減るばかりで避け切れずに掠り始める。限界が近づいて来るが粘り強く好機を待つ。

 

(来た!!)

 

 遂にその時が訪れる。数ある内一機の急接近に視覚と感覚が一致した。先ずはコイツからだと、隆道は渾身の一撃を──。

 

「オ゛ラ゛ァ゛ッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 放ったのに。

 

 

 

 

 

「──な……」

 

 目を疑った。

 確実に相手を捉えた。カウンターは決まった。この目でしかと見えた。

 

 

 

 消えた。

 

 

 

 二本の鉄杭が『ゴーレムII』を貫いたその時、まるで蜃気楼の様に姿が歪み、空間へと消えた。手応えはあったが異様に軽過ぎる。まるで小物を殴ったかの様な軽さだ。予想外のあまりに隆道は放心せざるを得なかった。

 故に──それは大きな隙となる。

 

「やべ──だはぁっっっ!?!?!?」

 

 再び何も無い所からの脅威。咄嗟に盾を翳して右腕も盾に取る──が、やはり強烈過ぎる一撃が襲う。盾は盛大に大破、隆道は衝撃に逆らえずに吹き飛ばされ砂浜を転げ回った。

 

「ぐおぉ……。なん、でだ……」

 

 何が何だかわからない。攻撃を当てた筈なのに避けられる処か姿が消えた。ならば、自身は何を攻撃したのだと隆道は混乱に陥る。

 しかも最悪だ、右腕も駄目になってしまった。前腕部の装甲が遂に砕け、内部が抉れて紫電が。辛うじて動かせるがもう役に立たない。

 理解出来ない。納得出来ない。不可解過ぎる。何が起こった。何をされた。

 

「……?」

 

 ふと、視界の隅に奇妙な物が見えた。

 砂浜に散らばる無数の金属片と突き立つ金属。注視するとソレは刀身の欠片、側に突き立つのはギリギリ原形を保った罅だらけの近接ブレード。

 アレは何だ? どうしてそこに落ちている? どうして壊れている? 誰が壊した?

 

 

 

 ──……まさか、俺?

 

 

 

(まさかここまで効果があるとは。……ISの方は当然としても、あの回避能力も簡単に封殺……。よく観察していらっしゃる)

 

 これが不可解の真実である。

 範囲内のあらゆるものを吹き飛ばす『番犬』はシールドバリアーを攻性エネルギーへと変換して三百六十度に一斉放出する強力な防衛システム。つまりは前提としてシールドバリアーが必要だ。なら、シールドバリアーが無ければどうなるか。

 "無からは何も生じない"。この概念はISだろうと例外ではない。接近を決して許さない『灰鋼』に対抗するにはシールドバリアーの排除が必要。

 そう、その正体はシールドバリアーを阻害するジャミング装置なのだ。これによって『番犬』を完全に封じていた。『ゴーレムII』が存在する限り二度と発動する事はない。

 それと、彼が目の当たりにした不可解な現象。それはクロエの持つ専用機による能力。ある時は相手の精神に直接干渉、またある時は大気成分を変質させ幻覚を作り出す、異色過ぎる特殊兵装。

 

 ──『ワールド・パージ』──。

 

 隆道を襲うISの群衆は全てが幻。実在するISは彼には認識されない。認識出来る存在しないISと認識出来ない存在するISによる二方向同時攻撃で彼を翻弄していた。単純な不可視攻撃では易々と躱されるのを想定した故の手段。結果として彼は見事に策に嵌まり混乱に陥った。

 彼の反撃が失敗したのも実に簡単なトリック。全ての脅威に反応する『危険察知』は便利そうに見えるが、その脅威の詳細までは判別出来ない。自身に迫る危険だけを感じ取る。

 つまりだ。彼が攻撃した脅威はISではなく──単に投擲されただけの近接ブレード。投げられたソレを突撃してくる敵だと誤認した結果である。

 これは偶然? 否、彼のずば抜けた回避能力の謎を理解しているからこその投擲。そこに幻覚を合わせれば脅威は敵の接近という幻となる。

 『柳隆道』と『灰鋼』を知り尽くした戦法だ。ISはともかく彼の情報は何処で手に入れたのか。知人処か彼自身もよくわかっていない技能を。

 

「うっ……は、ぁ……。流石に、厳しいですね。ここまで『黒鍵』を使うのは……」

 

 汗を掻くクロエの身体にISは纏われていない。いや、そもそも存在すらしない。装甲も武器も、彼女のISには全くと無い。

 戦闘能力は全く必要無し。幻覚を見せるだけで相手を無力化出来る。それが彼女のIS。

 

 ──第三世代■■■■型IS『黒鍵』──。

 

 隆道は再び敗北する。徹底的に対策されたISと逃れられない幻覚に。全貌を知る由もない彼では成す術は無い。少しも、無い。

 

「この……!! くそ……!! ああ……!!」

 

 隆道はがむしゃらに足掻く。四肢を振り回し、抵抗し続ける。そこには何一つ無いというのに。今も幻覚が襲っているのだろう。

 無駄でしかない。哀れでしかない。果たすべき約束があろうと、意志が固かろうと、遥かに強い存在には手も足も出ない。

 

「……破壊を」

 

「──がっ!?」

 

 四機の『ゴーレムII』は一斉して隆道を囲み、『灰鋼』を一切の容赦なく破壊し始めた。彼だけ傷付けぬよう、繊細かつ豪快に。

 本来、クロエの目的は隆道の身柄のみだった。彼さえ確保出来ればそれで良し、『灰鋼』は然程重視していなかった。操縦者から離してしまえばただの機械でしかないのだから。

 だがしかし、蓋を開けてみればどうだ。厳重に管理された筈の『灰鋼』は何かしら手段を講じて逃れ、彼の元に戻った。遠隔の緊急展開は条件を満たせば可能なのだが当然満たしてはいないし、そもそも彼自身呼び出しすらしていない。だからこの線は絶対に有り得ない。

 ならば自力で展開して動いたのかと思われるがそれも違うだろう。巨大な腕と盾を持つISが狭い廊下を疵一つ付けずに通り抜けるのは不可能だ。第一直ぐに発見される。

 しかし──不可能を可能にするのが『灰鋼』の恐ろしい所。もしかしたら今までの現象を上回る斜め上過ぎる事をやってのけたのかもしれない。誰もが想定出来ない、泡を吹いて倒れるレベルのとんでもない事を。

 最早、『灰鋼』は到底無視出来ない領域にまで達しているのだ。放っておけば更に変異し続け、より予測不可能な事態が起こるのは目に見える。そうなれば間違いなく史上最悪の脅威と化す。

 だから、ここで、確実に、壊すのだ。

 

「──!! ──!! ──!! ──!!」

 

 ──あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁっっっ!!!

 

 殴られ、斬られ、突かれ、砕かれ、剥かれる。装甲は無理矢理に引き千切られ、武装は徹底して砕かれる。盾は全てバラバラと化し、右腕は最早原形を留めないまでに変形し、左腕は滅多打ち、唯一の近接武装は木っ端微塵に。

 武装を全て破壊され、装甲の七割を破壊され、今や四肢部が千切られようとしている。ここまでされても具現維持限界に達せず解除されないのは規格外の頑丈さとエネルギー量が故であろうか。どちらにせよ強制解除は免れないだろう。

 

 ──Damage Level D.D.D.DDDDDDDDD──。

 

「っ……」

 

 こんなあっさりと負けてしまうのかと、隆道は歯を強く食い縛った。

 抗えない。何も出来ない。奥の手の『猛犬』も破損してしまって起動出来ない。例の特殊兵装は近くにあるようだが何もせず。役立たずだった。

 万事休す。『灰鋼』が無惨な姿になっていく。交わした約束も、固めた決意も、嘲笑われる様に踏みにじられていく。大口叩いた癖にこの様では一夏達に顔向けなんて出来そうにない。

 やはり、弱者は何処までも弱者のままなのか。受け入れるしか道は無いのか。

 

(くそが……情けねえじゃねえか──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──死ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 突如、隆道を嫐る四機の上半身が金色の光線に呑み込まれた。ソレは超高温が故か、辺りの砂は触れてもいないのに焼ける音を鳴らして焦がす。

 

「お゛あ゛ぢゃあああぁぁぁっっっ!!!」

 

 ──なになになに今度は何!? え、熱っ!! アッツッ!! 何コレ!?

 

 当然、至近距離の隆道も巻き添え。

 ISを纏ってもかなり熱い模様。触れてもいない彼は大層熱がりのたうち回った。光線は止まず、僅かに残る装甲や剥き出し状態の機関部が一気に熱され赤くなっていく。

 

「だあああっちいいいぃぃぃっっっ!!!」

 

 ──ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!! 溶ける!! 溶けちゃうううぅぅぅっっっ!!!

 

 まるで死ぬ寸前に踠く虫である。流石の隆道もコレは堪らないらしく、逃れようと暴れまくる。しかし、所々が大きく損傷していたが為に大して動けはしなかった。

 悲鳴を上げようともソレは止まらない。寧ろ、光は更に増していき、太くなり、金色から白色、白色から青色へと変化していった。温度が遥かに上昇した確かなる証拠だ。

 確かにコレは堪らないし耐えられないだろう。このままだと彼は干からびるか焼け焦げてしまう──のだが、ソレは直ぐに終わる。

 

「う゛っぎゃあ゛あ゛あ゛ぁぁぁっっっ!!! も゛う゛止めてくれえええぇぇぇっっっ!!!」

 

 お目に掛かれないであろう隆道の痛切な叫び。ソレに応える様に光線は忽然と消え去っていく。焼ける音は止まず、巨大な陽炎だけが残る。

 IS四機に袋叩きにされてから拷問に近い熱波。苦難の連続であった。嗚呼、可哀想。

 ともかく、これで彼は漸く地獄から逃れ──。

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……ホンットくそったれ──だあああ全然冷めねえええぇぇぇっっっ!!! 水水水ぅぅぅぅぅっっっ!!!」

 

 全然そんな事はなかった。

 『灰鋼』は高温で真っ赤に。直接装甲に触れる部位が死ぬ程熱いのだろう、隆道も顔を真っ赤にしてその場で激しく七転八倒した。

 皮膜装甲有りでもここまでの熱がり様だ。ISが無ければ一瞬で灰になったに違いない。保護機能お構い無しとは何れ程の火力なのだ。というか、まだ具現維持限界に達しないのか。一体何れだけエネルギーがあるのだか。

 

「────!!! ────!!!」

 

「そんな……。速、過ぎる……」

 

 熱さで状況の把握が出来ない隆道とは裏腹に、クロエは恐怖のあまりに後退りしていた。それもそうだ、彼女は目前の状況と光線の正体を十分に把握しているから。

 光に呑まれた四機は二度と動かない。

 

 

 

 ()()()()()()()()()のだから。

 

 

 

 光線をまともに受けた四機の『ゴーレムII』は下半身のみを残し次々に倒れる。見える断面図は溶岩の様に真っ赤、ドロドロとなり溶けていた。上半身は何処に? 千切れた? まさか粉微塵? 

 否、消滅したのだ。何者かが放ったその光線は呑み込んだ全てを焼き尽くした。

 更に、孤島を横断したソレは周りにも被害が。海を焼き、砂浜を焼き、草を焼き、生物を焼き、土を焼き、全てを焼き──島を割った様に端から端まで続く真っ黒な焦土が出来上がる。

 海から大きく立ち込める湯気、鼻が曲がる程の強い焦げ臭さ、未だに残る陽炎、引火して次々に燃え移る僅かな緑。穏やかだった孤島は瞬く間にこの世の終わりの様な地獄絵図に。

 この惨状を作り上げた正体は、この世の全てを焼却する規格外の破壊光線。『銀の福音』ですら不可能であろうこの攻撃を放てるのは──。

 

「だいたい七十五キロを四十秒ちょっと。うーん超速いね、さっすが私」

 

「っ……!!」

 

 ──いた。

 クロエは戦慄する。背筋が凍る冷たい声色に。IS学園一の最恐で最凶で最狂のIS操縦者に。

 彼女は恐る恐る空を見上げる。そこには四色の鮮やかなISを纏う血だらけの少女。

 

「ちーっす」

 

 

 

 ──篠原日葵。

 

 

 

「よっ、と。あー、疲れた。生身で殺り合うのは本当に面倒」

 

 ゆるりと砂浜に降り立つ日葵はクロエを一瞥。特に何か言う事なく呑気に隆道の元へ歩き出す。辺りを転がる下半身に目も暮れず。今の彼女には彼しか写っていなかった。

 

「あ゛ち゛ぃぃぃぃぃっっっ!!!」

 

「もーう、慣れない事するからだよ。ごめんね、熱かったでしょ?」

 

 ダルそうに言う日葵。隆道の近くに寄るなり、何をするかと思えば彼を鷲掴む。そのまま──。

 

「あよいしょ」

 

「──ぶっ!?」

 

 ──波打ち際に放り投げた。

 隆道の周辺が一気に蒸発し、新たに打ち寄せる波が彼を覆い、また蒸発する。その間、ISは急な冷却によって僅かな装甲が割れ、音を奏でる。

 蒸発して、波に覆われて。何度も繰り返され、彼は湯気に包まれていく。まるで、そこに温泉が湧き出ているかの様な光景であった。

 

「──!! ──!! ──!!」

 

「おー。何ソレすっごい」

 

 ぶん投げた張本人は呑気であった。ちなみに、隆道はまだ虫の如く必死にのたうち回っている。身体を冷やそうと動きまくっているのであろう。まあまあ酷い絵面である。

 それも時期に終わりだ。流石に冷えてきたのか海水の沸騰は徐々に減り、彼自身も激しい動きを落ち着き始める。今度こそ地獄からの解放か。

 

「う゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……」

 

 湯気が立ち込める中、隆道は心底に疲れ切った表情で砂浜を這いずった。外傷等は無さそうだが死にかけていた。

 それよりも『灰鋼』の方がもっと酷い。装甲は全て剥げ、右腕は五指を失い、左腕は骨折の様に折れ曲がり、全身には紫電が纏わり付いていた。武装や盾は跡形も無い。動いているのが奇跡だ。まだ具現維持限界に達しないのか、このISは。

 

「取り敢えず良し。……んでお前」

 

「っ……」

 

 隆道を様子見していた日葵の目線はクロエに。辺りの無人機を警戒すらせず真っ直ぐ見据える。墨をぶち撒けた程に真っ黒な見開いた瞳は彼女の息を詰まらせ、そして怯ませた。

 

「ドイツ人に似てるな。姉妹? いや、あいつの情報にそんな奴一人もいなかった。じゃあアレ。お前、遺伝子強化素体(アドヴァンスド)だろ」

 

「……!」

 

「ああ、やっぱりまだいたんだ。はぁっ、これで何体目だっけ?」

 

 意味深な単語に反応してしまったクロエは更に怯んでしまう。どうやら日葵は彼女の持つ秘密を知っているらしい。

 クロエは動かない。無人機も動かない。いや、動かないのではなく動けない。一見して無防備な日葵だが、彼女には一切の隙が無い。

 なるべく手の内は明かさない。様子見に徹して油断した相手を僅かな手口で一気に叩き潰すのがこの少女──篠原日葵である。

 だが、それは実力を隠す時に限った話である。本来の日葵は、本気を出した彼女は──。

 

「どっちでもいいや。……それで? お前誰? もしかしてクソ兎の使い?」

 

「……いかにも。お初にお目にかかります。私はクロエ・クロニクル──」

 

「じゃあ死ね」

 

 直後。日葵から放たれた破壊光線が容赦無しにクロエを呑み込む。

 オーバーキルである。ISすら焼き尽くす光線をたかが人間一人にぶっ放すとは。

 

「本当に容赦無しですね、日葵様は」

 

「……幻覚、か」

 

 その破壊光線、クロエに当たらず。

 日葵も隆道と同じく幻覚を見ている。気づけば無数の無人機が周囲を取り囲んでいた。おまけにシステムにも異常有り。シールドバリアーが機能していない事に気づく。

 こうなれば絶対に絶対防御が発動してしまう。千冬に一撃を与えた『鳳仙花』も使用出来ない。この状況、既にどちらが勝つか決定している。

 

 

 

 無論、日葵が勝つ。

 

 

 

 クロエは理解している。幻覚や数の暴力等ではどうにもならないと。

 『ゴーレムⅡ』──無人機は超高性能である。一機だけで国家代表でも苦戦するレベルなのだ。それを十二機も用意した。二機は囮に、他十機は隆道の確保に。戦力は十二分であった。

 が、囮は全滅し本命は四機も失ってしまった。ほんの一瞬でだ。性能、技術、数では勝てない。それほどに日葵と『華鋼』は規格外。

 このままでは瞬く間に全滅する。せめて──。

 

(隆道様だけでも……!!)

 

 幸いにもクロエの特殊兵装は日葵に通用する。幻覚効果を強めれば、勝てずとも隆道を拐える。彼女としては彼を確保出来れば全て良しなのだ。

 一機の無人機がゆっくり彼に近づく。この間に幻覚を強化して時間稼ぎだ。

 あと少しで隆道を捕えられる。日葵は無人機に気づかない。もう少し、あともう少しで──。

 

(これで──)

 

 

 

 

 

 クロエの最大の誤算。彼女は隆道と『灰鋼』の全てを理解していなかった。

 

 

 

 

 

「え」

 

 無人機が隆道を掴もうとした寸前の事だった。何故か手の平が火花を散らして払い除けられた。隆道は未だに這いつくばったままだというのに。彼のISはほぼ破壊したというのに。

 今、何をした? クロエの思考はたった一つで満たされた。

 

 ──画面共有開始──。

 

「!」

 

 その時、這いつくばっていた隆道は唐突に顔を上げ無人機に飛び掛かる。目視出来ない筈なのに見事に胴体にしがみつきよじ登っていく。一瞬で彼は無人機の頭上に。

 

「ん!?」

 

「隆道様!?」

 

 クロエはその意味に気づけたが既に遅かった。隆道は準備を整えている。

 

(だつ)

 

『──ッッッ!?!?!?』

 

 赤黒く発光する折れ曲がった左腕部は無人機の頭を鷲掴み。直後に両者とも紫電が大きく走る。そう、隆道はソレを奪い尽くす。

 

いただきぃっ!!

 

 無人機は光となり砕け散った。するとどうだ、あれだけ損傷していた『灰鋼』が急速に元通りになるではないか。

 『悽愴月華』は対象を奪い自らのものにする。この場合──無人機を『部品』として奪った。

 

「……!!」

 

 それだけに非ず。戦う度に変異する『灰鋼』は奪った『部品』を使い、新たに装備を構築する。元通りとなった右腕は更に装甲が上乗せ、鋭利な爪もより鋭くなっていく。

 盾も増えた。四枚の『バリアブルシールド』は今では六枚。表面も厚みを増して堅牢に。無論、構築されたのは外見だけではない。

 

……おいてめえ。あの女の……何だってぇ?

 

「う……」

 

 隆道の目は、クロエを真っ直ぐと捉えていた。

 幻覚は今も見せている。故に見える筈がない。それなのに、彼は迷いなく此方を向いた。

 濡れた髪の隙間から顔を覗かせるどす黒い瞳。限界まで見開いたソレは彼女の恐怖心を煽る。

 

「……お願いします隆道様。全部説明しますから私と一緒に──」

 

「そうだよにーに。全部あのクソ兎の計画だ」

 

「日葵様!!」

 

「今回の暴走はね、全部ぜーんぶ仕組まれた事。何でだと思う? にーにを拐う為だけにやった、下らない茶番なんだよ」

 

 クロエの静止を無視して日葵は言葉を続ける。

 彼女は始めから分かっていた。誰がやったか、何が目的か。周囲の人間が暴走したISの撃墜だけ注目する中、彼女だけは直ぐ真相に辿り着いた。 真犯人を理解しているが故の。

 だから彼女は作戦に参加しようとしなかった。その時が来た際に対抗が出来るのは、頼れるのは自分だけなのだと。

 これが事件の全てだ。『銀の福音』の暴走も、一夏達が撃墜されたのも、現れた無人機も全て、一人の天災──篠ノ之束の計画。全ては──。

 

「隆道様!! どうか話を──」

 

ああ、そうかよ……

 

 

 

 

 

 隆道を拉致する為に。

 

 

 

 

 

「今思えば五月の襲撃だってそう。あのクソ兎はにーにを狙っていた。もう何処に行っても無駄。にーになら……分かるでしょ?」

 

俺……だけの為にかよ。それ、だけ、で……。それだけでぇぇぇぇぇ……!!!

 

 許せない。絶対に許せない。己を拐おうとし、あまつさえその為だけに一夏と箒を巻き込んだ、あの憎たらしい天災を。

 殺したいと思うのはもうやめだ。殺す、絶対に殺す、確実に殺してその身体を引き裂いてやる。バラバラにして臓物をぶち撒けてやる。

 隆道は取り戻す。そして黒く染まる。かつて、憎しみだけを活力にして抗った『髑髏』に。

 

『クロエ・クロニクルの戦線離脱を最優先』

 

 

 

篠ノ之束ぇぇぇぇぇっっっ!!!

 

 

 

『全機、迎撃』

 

 確保は不可能。そう判断した無人機はクロエを逃がすべく隆道に瞬時加速で接近、掴み掛かる。

 

ウシャアッッッ!!!

 

『──ゴッ』

 

 が、無駄である。何故だか無人機が見えている隆道は右腕で下段から大振りを決める。丁度良く捉えられた無人機は──一撃で木っ端微塵に。

 

見えちまえばこっちのもんだぁ!!

 

 無人機だったものから飛び散るオイルが隆道に振り掛かる。最早、どの部位だったかすら不明な破片は一面に散乱。彼の目前には何も残らない。残り四機。

 

おっと!!

 

 透かさずに別の無人機が隆道へ立ちはだかる。豪速の掴み掛かりは──彼を一切と捉えられず。

 彼は『猛犬』を起動してない。にも関わらず、起動時と変わらない俊敏な動きで無人機の巨腕を全て見切り、躱していく。

 

遅えっっっ!!!

 

『──ギャッ!?』

 

 隆道の十八番、跳び蹴りが炸裂した。無人機の顔面に轟音を響かせ、その反動を利用して大きく後退し距離を取った。

 駄目だ、接近戦では彼の方が群を抜いている。これでは近づく事が出来ない。

 

コレ、なーんだ

 

「あ。ソレって」

 

 隆道は相手に考える暇を与えない。

 彼が手に持っていたのは──銀色のガラクタ。元が何なのかは一目見ただけではわからないが、彼は勿論この場の全員がソレの正体に気づいた。

 

 

 

『凰、いつまでソレを持っているつもりだ』

 

『ん? ああ、コレ? ほいっと!』

 

 

 

 代表候補生四人が『銀の福音』との交戦の際、悪戦苦闘の末にもぎ取った『銀の鐘』。その後は鈴音が衝撃砲で木っ端微塵に吹き飛ばしていた。

 そう、このガラクタ──『銀の鐘』の一部分。隆道が孤島を散策している時に見つけたものだ。漂流物となって流れ着いていたのである。

 最早、使い物にならないガラクタでしかない。が、しかし。彼にとっては──何も関係無い。

 

 

 直後、そのガラクタは砕け散る。

 

 ──『銀の鐘』奪取──。

 

 ──破損データ復元完了。構築開始──。

 

 隆道の右背中に粒子が集まっていく。そこから生える様にソレは形成され、小型の黒き砲が姿を現した。

 

 ──対IS攻性エネルギー兵装『PW-120』──。

 

試し撃ちだコラァッッッ!!!

 

 隆道の怒声に応えてか、その砲身は彼の目線と連動して動き、砲口にエネルギーが集束。赤黒い光弾一発が高速で放たれた。

 

『────』

 

 爆散。言葉で現すならそれに尽きる。

 近距離にいた無人機は光弾をもろに直撃。怯む暇もなく身体は大爆発、四肢だけを残して破片が散弾の如く散っていった。残り三機。

 

「は、ははっ、ハハハッ!! スーッゴイ!! 凄いよにーに!! まさかここまで!!」

 

あ゛あ゛……?

 

 突然に嗤い出した日葵に隆道の動きが止まる。頬を赤く染め、目を輝かせ顔がほころんでいた。いきなり何なんだコイツ、敵対していた筈ではと彼の脳内に疑問が浮かんだ。

 

「そうだよねぇ!? 敵は殺らなきゃねぇ!? んじゃ私も本気だしちゃおっっっ!!!」

 

 日葵は高々に叫んだ。IS学園入学以来、決して見せなかった本気が、彼女の全力が、今ここで。

 

 

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)

 

 ──『慟哭陽光(どうこくようこう)』発動──。

 

 

 

 日葵が唱えた直後、『華鋼』の模様が変わる。

 ミスミソウを彷彿とさせる鮮やかなる四色は、見る見るうちに光沢のある濃紺に変色していく。まるで、全身がソーラーパネルの様な──。

 

「な、何だよソレ……!!」

 

どーおぉ? これが、私の単一仕様能力。()()()()()()()()I()S()()()()()()()()()()()()……! 取り敢えずお疲れ様だよにーに!! あとは私がぜーんぶ片付けるから!!

 

「おま、何を……!!」

 

 隆道は、もう戦う必要など無い。残った三機の無人機はここで終わりである。

 

射程範囲、半径二キロ……!! そしてそして出力最大ぃぃぃぃぃ……!!

 

 隆道の頭上に移動した日葵に眩い光が集まる。集まって集まって、最終的に青白い球体が彼女を丸々と包み込んだ。

 残された無人機はその場から動かない。いや、既に諦めたのだろう。逃げられないが故に。

 

 ──高エネルギー反応を感知。退避せよ──。

 

「おいおいおいおいマジで洒落になんね──」

 

死ねぇっっっ!!!

 

 その瞬間、太平洋に直径四キロメートル程ある巨大な光の柱が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ネメシスより各員、こちらの作戦は終了。

 

 ──負傷者多数。内一名、重傷。『月長石』は無事に確保した。

 

 ──代表候補専用機、全機ダメージレベルD。

 

 ──強化外骨格の用意を。奴を引き摺り出す。

 

 ──『月夜作戦』を続行せよ。




◆『月穿』
ライフルタイプのチャージ式荷電粒子砲。
第二形態となった『白式』の遠距離武装。背中のサブアームで固定、一夏の意思で自由に動く。

◆『霞衣』
可変型の小型盾。
第二形態となった『白式』の防御武装。左前腕に装備、大きさを自在に変えられる。単一仕様能力発動時、エネルギー兵器を完全無効化出来る。

◆『ゴーレムⅡ』捕捉。
識別コード『NA-XX』。
対『灰鋼』仕様の無人機。十二機存在、全体的に細身なタイプと巨腕タイプの二種がある。
シールドバリアー阻害のジャミング装置を搭載。隆道と日葵にISコアもろとも全機破壊された。

◆『PW-120』
正式名称『Particle Weapon-120』
対IS攻性エネルギー兵装。取り込んだ『銀の鐘』と『○一九』が過去に作成していたデータの二つを合わせて作成された。格納時は背中に、展開時は隆道の右肩辺りに砲身が可動する。
エネルギーを極限まで圧縮し射出、標的に絶大なダメージを与える。120は口径のミリ単位。

◆『慟哭陽光』
『華鋼』の単一仕様能力。条件は天候次第。
太陽エネルギーを変換効率の概念を無視してISのエネルギー、または攻性エネルギーに変換する。

※要約すると全身がソーラーパネル。エネルギーの無限化、出力増大。無敵&火力爆上げになる。

◆特殊広域殲滅推進翼『ミスミソウ』捕捉。
オールレンジ攻撃可、射程距離測定不可能。単一仕様能力発動時の運用は最大出力で絶対防御すら貫通する。相手は死ぬ。

~ここから後書き~
福音戦終わり。あと一話で臨海学校終わります。次で色々回収。
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