IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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前以て謝罪を。

いやホントすいません。この更新で福音編を終わらすつもりでしたが余裕で3万文字超えてしまい全く終わらなかったのでやむを得ずキリの良い場面で区切って更新。
最後まで書いたら情報量が過去最多で意味不明になっちゃうんじゃないかなと。とりあえず今回はこれで許して……。


第五十七話

 ──準備しろ。ハンター6のみ私が合流するまで待機。先に例の職員二名を黙らせる。

 

 ──了解。処分はいかなる方法で?

 

 ──それは奴等次第だ。私としては賢い選択を期待したい。

 

 ──ハンター0-1、降下準備完了。命令待機中、指示を待つ。

 

 ──ウォッチャー17、突入準備完了。

 

 ──ウォッチャー21、同じく突入の準備完了。火刑と磔刑、どちらでも行けます。

 

 ──了解。ウォッチャーは待機、指示を待て。やるなら両方だ。……さて諸君、あの憎たらしいくそったれに思い知らせてやろうではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『銀の福音』撃墜作戦は苛烈過ぎる戦闘の末に漸く幕を下ろした。勝利を収めたのは一夏達だが──安堵や歓喜等よりも幾つかの懸念が勝った。それは報告後も変わりはしなかった。

 撃墜した『銀の福音』は完全に大破。操縦者も二割以上の深達性二度熱傷という重症。帰還後は早急に緊急治療、その後は専門施設に運ばれた。当分は入院治療との事。かなり散々な状態だが、関係する国々は何も言及出来やしない筈だ。

 当たり前だ。『軍用IS』の暴走に加えて日本へ領空侵犯。条約違反と国際法上の不法行為をした国にそんな厚かましい権利は絶対に許されない。公にされないだけマシであろう。

 次に代表候補生。第二撃に参加したセシリア、鈴音、シャルロット、ラウラは軽傷で済んだが、彼女達のISはダメージレベルDまで到達してしまい操縦が不可能に。国から部品を取り寄せるまでは動かせないだろう。試作の装備処か専用機までも壊れたのだ、それぞれの国は相当お怒りになるに違いない。

 だがしかし、その点に関しては何も心配無用。学園上層部が全力で対応するとの事だ。彼女達がお咎めを受ける事はない。死に物狂いで戦ったというのに非難の一つでもされたら泣きっ面に蜂、とても堪ったものではない。

 専用機についてはまだいい。怪我も構わない。あの厄介な『軍用IS』が相手なのだから彼女達は全て覚悟の上であった。

 

 

 

 ──結局、勝てなかった。

 

 

 

 セシリア達の心にまた一つ傷痕が刻まれた。

 『銀の福音』を撃墜出来なかった。突然現れた無人機に太刀打ち出来なかった。セシリアだけは他三人以上に粘り強く奮闘していたが、途中から手加減を止めた無人機により被撃墜一歩手前まで追い詰められた。

 四人掛かりでも勝利は有り得なかっただろう。増援の一夏達や日葵の援護射撃が無ければ全滅は免れなかったであろう。

 そう、日葵だ。太刀打ち出来なかった無人機をたった一撃で消し飛ばし、『銀の福音』に致命的ダメージを与えたのは彼女。あの巨大たる光線はセシリアのBT兵器と同類──だがしかし、それと比較にならないオールレンジ攻撃であった。

 そこで全員が知る。日葵と『華鋼』の強さを。この事件の真相を。その真犯人を。そして彼女の罵倒と共に無慈悲な現実を叩き付けられる。

 

『本っ当に無様。所詮は代表()()()だったかぁ。情けないと思わないの? 特に中国人、お前だよお前。何なのその姿? あれだけ啖呵切っといてソレ? もう辞めちゃえば?』

 

 日葵の一言は、とても冷たかった。

 暴走ISを囮に使った隆道の拉致計画。誰よりも逸早く気づき、その為に留まったのは彼女だけ。やる気が無かった訳ではなく、襲撃者が来た時の戦力となる為に敢えて作戦に参加しなかった。

 それは間違いではなかった。全員の証言を基に状況を照らし合わせると、辿り着く答えは隆道の拉致なのだと断言出来る。

 初撃での被撃墜による戦力の低下、第二撃から始まった通信障害、そこからの同時に押し寄せた束と無人機の襲撃に幻覚。もし、あの時に彼女が言われるがまま撃墜へと向かっていたら花月荘は戦地と化し、彼は拐われた可能性があった。

 ほとんどが束の術中に嵌まってしまったのだ。それに抗い、打ち破ったのはたったの三人だけ。対策した日葵、復活した一夏、予測不能な隆道。男子二人は結果的にではあるが良しとしよう。

 何故、それを言わなかったのかと誰かが彼女に強く言及するが──返ってきた答えはコレ。

 

『あのクソ兎に張り合えるぅ? 無理でしょ? 雑魚共じゃ何も守れないよぉ。あとさぁ、今まで何があったか忘れたのぉ? お前達なんか信用も信頼も出来ないんだけどぉ』

 

 作戦より優先すべき方を取った。それだけだ。

 束が相手なら彼女達では戦力外と判断、騒動に便乗して男子を狙う者が旅館に潜んでいる可能性有りと推測。考えうる不安要素等を取り除くべく不真面目を装い、非協力的態度を貫いた。何故、態々その行動に至ったか。

 日葵は、今の今まで全員を観察していたのだ。過激派かそうでないか。有事に頼れるのか否か。へらへらとおちゃらけた態度の裏では一人一人を厳しく見定めていた。

 セシリアは四月の件で除外、鈴音は癇癪持ちで除外、シャルロットは戦力不足で除外、ラウラは男子に対する敵対心があった件で除外、教員達は男性操縦者襲撃事件の件で論外、千冬に至っては束との繋がりが有る時点で論外。一応それとなく言葉を濁した彼女だが、各それぞれはその意味を理解し、心身共に傷だらけなところへ追い打ちを掛けられてしまった。

 今では違う? 関係無い。決めるのは日葵だ。他の者が彼女を信用しなかったと同じく、彼女も他の者を信用しなかっただけに過ぎない。全ては今までに起きた過程と結果によった行動なのだ。だからこそ、彼女は信用しないし信頼もしない。これまでも、そしてこれからも。

 日葵に反論する者はもういない。寧ろ、今回の件で一番に功績を残したのは日葵である。そんな彼女に誰も非難する資格は無かった。

 

 

 

 

 

 とにかく、これで苦しい戦いは終わり。作戦は完全終了し平穏は取り戻せた──とはならず。

 問題は未だ山積み。箒の専用機──『紅椿』の処遇はどうするのか、通信障害時に真耶達の前に現れた謎の襲撃は何なのか、『灰鋼』は何の様に管理から逃げ出して隆道の元へ戻ってきたのか、暴れ散らした彼の処分はどうするのか。

 『紅椿』の件はともかく、他の三つは近い内に片付く。答えは直ぐそこだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は十九時半辺り。花月荘にて。

 

「ね、ね、結局何だったの? 教えてよ~」

 

「機密だから駄目」

 

 臨海学校最後となる夕食時。豪華過ぎる食事を黙々と食べるシャルロットの周囲には生徒数名が群がってあれやこれやと訊いていた。

 気になるのも仕方がない。テストは突然中止で自室待機、それが終わってみれば代表候補生達に絆創膏やら湿布やら包帯やら目立つではないか。箒はいつも付けていたリボンが無い、教員の姿は見えない、キモい程に食べまくる日葵もいない。生徒達はそれがあまりに不思議で居ても立ってもいられなかった。

 彼女だけに群がるのは親しみやすさが断トツであるからだろう。他の代表候補生には雰囲気から到底訊けるものではなかったが故の。

 それは選択ミスだ。彼女は責任感が強い。

 

「ね、ね? 誰にも言わないからー。それにさ、昼過ぎに変な音もしたんだよね、パンパンって。シャルなら何か知ってるんでしょ?」

 

「駄目」

 

「も~お堅いなぁ~。おーねーがーい──」

 

「制約付くよ? 監視付くよ? 裁判するよ? 聞いたら暫く普通の生活──」

 

「ごめんシャルごめん、ホンットにごめん……。もう聞かないからそんな怖い顔しないで……?」

 

 般若がそこにいた。生徒達は折れた。

 誰も見た事のない、酷く恐ろしい顔であった。あのシャルロットが。これ以上は本気で怒るぞ、そう目が訴えていた。

 普段は怒らない人間が怒るとかなり恐ろしい。彼女達はそれを身をもって知った。後に生徒達はそれはそれは凄い眼力だったと語る。

 

「……分かってくれれば良いよ。はい、この話はこれでおしまい。もう何も言わないから」

 

「はーい……」

 

「……ふぅっ。…………」

 

 質問責めから解放されたシャルロットは小さく溜息。再びに箸を進める──前に、流し目で隣の男子二人へ目を向ける。

 

「「……! ……! ……!! ……!!」」

 

 男子二人(隆道と一夏)は爆食いしていた。

 隆道だけではない。一夏も彼と同様に猛烈なる速度で白米を一心不乱に掻き込んでいた。彼等の間には複数のおひつ。昨日の比ではない。

 とても荒々しい。なのに食器の扱いは超丁寧。豪快かつ器用に食べ物が見る見る減っていく。

 

「! やべえ、もう飯が……!!」

 

「うわっ、マジだ……!! すいませーん!! おひつお願いしまーす!!」

 

「はーい!」

 

「危ない危ない……。あ、ソレ貰います」

 

「あ! てめ!」

 

 フードファイターコンビがそこにいた。

 炸裂する食べ盛り。新しいおひつが来るや否や二人は茶碗に盛りに盛ってまたしても掻き込む。昨日の食べっぷりが影響したか、彼等のおかずと汁物は二倍近くの量があったがそれも殆ど無い。今や生徒から貰ったおかずを取り合いしていた。何してんだコイツら。

 

(そりゃあ……食べるよね)

 

 一夏は一時的昏睡状態のせいで昼食を取れず、隆道に至っては昨日の夕食を最後に朝から何一つ口にしていない。激しい戦闘で体力をごっそりと持っていかれていた。身体のエネルギー切れだ。一応シリアルバーの類いはあったが彼等はこれを断り、何も食べようとはしなかった。

 そう、全てはこの時の為らしい。豪華な食事が待っているのに他で腹を満たすとは馬鹿の極み。大爆発寸前の食欲をここで満たそうと彼等は暫し耐えていたとの事。どちらにせよ馬鹿だった。

 最早、彼等(馬鹿二人)は腹を満たす事しか考えていない。ひたすら目の前の飯に猛獣の如く食らい続ける。誰も彼等を止められないだろう。

 見慣れたものだ。生徒達は男の子だなぁと深く考えずにスルー、此方は此方で楽しもうと普段の姦しい空気に戻っていった。

 

「…………」

 

 違った。隆道だけは。

 時間が止まってしまったかの様にピタリと箸を止めて彼は一人物思いに耽る。その顔は次第にと険しくなり、眉間にはがっつりと皺が。

 彼は思い出す。孤島で戦いを終えた後の事を。日葵と二人きりになったあの時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡る。孤島が光に包まれたその後。

 

「マジ……かよ……」

 

 全ては"無"になる。

 自身の足元を除き、辺り一面は焦土と化した。緑は全て焼け、砂はドロドロに溶け、海は湯気が高く立ち昇って孤島を囲む。それは一向に収まる気配がなく、まるで壁の様になっていた。

 焼ける音が止まない。沸騰する音が止まない。何処を見渡しても舞い散る火の粉と焦げた地表と湯気の壁だけ。それ以外は──何も無かった。

 

「大丈夫ぅ?」

 

「!」

 

 絶句する中、背後から聞こえるしまりない声。ゆるりと振り向けば、地表から僅かに浮く日葵が満足げな表情で此方を見ていた。血だらけなのが不気味さに拍車を掛けている。

 転がっていた無人機の下半身は消えた。自身が破壊した無人機だったものも消えた。残っていたISコアも消えた。他の無人機も消えた。

 コレを、この地獄絵図を、彼女一人が作った。全てを、何もかもを一瞬で焼き尽くした。

 強い処の話ではない。比喩ではなく、文字通り次元が違い過ぎる。これが──彼女の"力"か。

 

「いやぁー、これでめでたしめでたしってねぇ。もうあっちこっちに行かないでよねぇ。こっちはそりゃもう大変だったんだからさぁ」

 

「……今更出てきて何のつもりだお前」

 

「何のつもりって……そりゃ男性操縦者を失えば問題じゃん? ほら、私って代表候補生だしぃ、貴重な人材は守らないとねぇ? ……それより、私と一緒でも平気なんだねぇ。もう慣れたぁ?」

 

「あん? ……あ」

 

 言われてみればそうだ。日葵を前にしても一切恐怖心が湧かない。頭痛も無いし息切れも無い。首輪も点滅していない事から発症もしていない。

 どういう事だろうか。前までは一目見るだけで心臓が締め付けられる感覚があったというのに、今では嫌な感覚がまるで無い。彼女の言った通り慣れたのだろうか。或いは別な感情が勝ったか。

 それならそれでいい。彼女に対して態々ビビり散らかすのは懲り懲りだし発症なぞ御免である。不気味なのは未だに変わりないが気にする事ではないだろうと隆道は納得した。

 

「まあ、いいわ。……なあ日葵」

 

「!! ……なーにっかなぁ?」

 

「あの女……篠ノ之束は何で俺を狙うと思う?」

 

「……さーて、ねぇ。男性操縦者のサンプルとか欲しいんでしょ。それか何かしらの実験台ぃ? 考えるだけ時間の無駄だと思うけどねぇ」

 

「……あっそ」

 

 何処か腑に落ちない。

 男性操縦者を欲しているのならば一夏も候補に当たる筈である。それなのに向こうは自分だけを狙ってきた。強力な無人機を過剰なまで揃えて、一度ならず二度までも。故にこれは違うだろう。だとすると、飽くまで狙いは自分自身なのか。

 それにもう一つ引っ掛かる。クロエと名乗った少女は共に行こうと言った。拉致が目的にしても妙にかしこまった態度は違和感が全く拭えない。自分ならば有無を言わせず気絶させてから拐う。

 ますます真意が分からなかった。結局は日葵の言う通り、考えるだけ無駄でしかないのだろう。この違和感は一旦放置するしかない。それよりも気になる事がたった今増えた。

 

「……えへ。えへへ」

 

(何笑ってんだコイツ……)

 

 日葵から溢れ出す満面の笑み。隆道は引いた。

 恐怖心は失くなった。けれども、流石にコレは不気味過ぎて寒気がした。いきなりどうした。

 どうしてそんな嬉しそうな顔をしているのだ。何だその口元は、何だその頬は、何だその目は、何だその仕草は。そんな顔で此方を見るな。

 

「~~♪ ~~♪」

 

(鼻歌まで歌いやがった……こわっ)

 

 撤回する。やはり恐ろしい女だった。

 火の粉が舞うこの地獄絵図の中で笑顔全開から鼻歌は頭がおかしいとしか言いようがなかった。自分自身も気狂いだと自覚してはいるが妹の方がヤバ過ぎる。何かしらのスイッチでも入ったか。

 見ない、触れない、関わらない。こういう輩は徹底して無視に限る。反応でもしたらもう最後、録な目に会わない事は明白故に隆道はガン無視、見なかった事にして目を逸らす。

 大分前から分かり切っていた筈だ。人は簡単に変わってしまうのだと。自分も、周りの人間も、元身内も。誰でも。

 なのに──何故か、何処か哀しくなる。

 

「~~♪ ……ねぇ。ねぇねぇねぇ」

 

「……はぁっ。……何だよ」

 

「真面目な話さ、暫くは大丈夫だろうけどいつかまたクソ兎は拐いに来る。間違いなくね。それにあいつだけじゃない、ISに乗れる男を狙う奴等はそこら中にいる。学園にいる内はまだ良いとして外ではどうする気? それにずっといられるって訳じゃないんだよ?」

 

「そんな事お前に言われなくても分かってるわ、次はどんな手を使ってくるやら。……まあ、俺に次なんてねえだろうけどよ」

 

「うん?」

 

 今回はどうにか退けたが次こそおしまいだ。

 軍事重要機密を知った、教員に暴行を加えた、一時的とはいえ貴重なISを持ち出して脱走した。もうIS学園にはいられない。家にも帰れない。

 襲撃も打つ手が失くなる。畜生共はどうとでもなるが相手が束なら無理だ。ISが無ければ抵抗も出来ずに拐われるだろう。

 

(……くそったれがよお)

 

 天災の顔が脳裏にちらつき、落ち着いた怒りと憎しみが一気に湧き上がり、更なる黒に染まる。青年は──『どす黒い何か』に侵食されていく。

 許せない。許せない。本当に許せない。最早、彼女の死に様をこの目で確と見るその時まで胸のつかえが取れそうにない。今までと段違い過ぎる憎悪が身体中から溢れ出そうになる。

 この憎悪と怨恨を晴らす為には──。

 

「────。──ーに。おーい、もっしもーし」

 

「──っ。……うるせえな、今度は何だ」

 

「今後の心配でもしてるんでしょお? それならすっごいナイスな方法あるんだけどぉ」

 

「……ああ、分かった分かった。聞いてやるから聞いてやるから」

 

 さっきから本当に面倒でしかないが仕方無い。今は向こうの気が済むまで相手でもしてやろう。どうせあと少しで一夏達が来る筈だからそれまで辛抱だと、隆道は耳をほじりつつ意識を少しだけ日葵へ向けた。飽くまで少し。適当にあしらう。

 馬鹿正直に耳を傾けるつもりなど微塵も無い。話を真面目に聞く必要はない──のだが。

 

 

 

 

 

()()()()

 

「────。……今、なんつった……?」

 

 

 

 

 

 また耳がおかしくなったか。今、日葵は何と?

 

 

 

 家に来て? いきなり何だ? 何の話だ?

 

 

 

 いや、隆道は理解したくなかっただけ。

 

 

 

 日葵はこう言っているのだ。

 

 

 

 

 

 また『家族』になろう、と。

 

 

 

 

 

「家に来てって言ったの。今度こそママのとこに行こ? そしたら色々解決で、き、る、か、ら」

 

「……!!」

 

 隆道の煩わしい気持ちは吹き飛ばされる。

 全く考えていなかった──と言えば嘘である。父親が亡くなった時も、IS適性が判明した時も、日葵に再開した時も、頭の隅っこでその可能性がチラついていた。いつ、その時が来るのかと。

 身寄りがいなくなった子を血縁者が引き取る。十分に有り得る話だ。今まで来なかったのが逆におかしかった。しかし、まさかこのタイミングでその話を持ち掛けられるとは。

 

「にーになら分かるでしょ? 私とママのとこに来れば安心して暮らせる。『過激派』の連中共は二度と手出しなんて出来ない。安全も、お金も、権力も、何でも手に入るんだよ。なんてったって権利団体の会長とその娘なんだし」

 

「…………」

 

「あのクソ兎だって追い払えるよ。私にはそれが出来る"力"がある。どーお? 魅力的でしょう? そう思わない?」

 

「……お前──」

 

「私は大歓迎だよ。ママだって望んでる。必要な書類は全部揃えてる。部屋だってもうあるんだ。あとは……にーにが受け入れるだけ」

 

 再び『家族』となる。それは極上の甘い蜜。

 この女尊男卑社会で大いなる権力を持つ団体の頂点に立つ会長と、IS操縦者で且つ専用機までも所有するその実娘。強大な力が二つもある血統、それが篠原家。

 この日本において彼女達は正に最強の親子だ。 男性は勿論、傲慢過ぎる女性でも篠原家の前では無力で虫ケラでゴミ以下で無価値な存在と化す。例え穏健派だと評判とて、篠原家を敵に回す事は即ち死を意味する。

 この親子に盾突く事は国家反逆と同義である。少しでも噛み付けば法で叩きのめされ、周囲から打ちのめされ、親族もろともこの世から消える。

 有り得ないと思うだろう。しかし、これも全て女性優遇制度という狂気が招いた当然の結果だ。ISの為に女性を一括りにし便宜を与えた結果だ。男性の人権より国の有益を優先した結果だ。

 有事の際の防衛力を目的で施行したこの制度は結果として類を見ない最高の成果をもたらした。有益にもならない威張り散らす有象無象と違い、実績を残した篠原家は指折りの価値があるのだ。だからこそ、国はあの手この手を使って保護し、確保する。失わない為に。奪われない為に。

 そんな権力の塊の様な血統に隆道が入ると? それが、血の繋がった身内であり、世界にたった二人しか存在しない男性操縦者の一人なら?

 

 

 

 

 

 そう、唯一無二の後ろ盾が生まれる。

 

 

 

 

 

 誰もが隆道に歯向かえなくなる。ISに守られ、血統に守られる。国が、世界が彼の味方になる。彼を仇なす者は世界から敵視され、淘汰される。彼の安全は保障される。

 それだけで終わらない。国が味方する女性権利団体の会長。希少な高いIS適性と強大な専用機と実力を持つ実娘。貴重な男性操縦者である実息。三つの"力"が合わさり、最強から無敵の親子へと。篠原家は更に拡大していき、広告塔として注目を浴びせた織斑家と同等以上の国宝が完成する。

 一体何れ程の男性が欲するであろうか。権力に怯える必要もなく、生活に一切と困る事もなく、何一つ苦労しない裕福な人生を。

 彼だけに許された特別な切符。彼はただソレに応じるだけでいい。たったそれだけで人生が全て変わる。『負け組』から『勝ち組』になる。

 そう、『家族』になるだけ。それだけでいい。

 

「なるほどな……。そういう事かよ……」

 

 『家族』になるだけで──。

 

「ね? また一緒に──」

 

 

 

 

 

 『家族』は皆死んだ。

 

 

 

 

 

「俺の『家族』はもういねえ」

 

「──!」

 

 隆道は拒絶する。『家族』を。その甘い蜜を。

 

「親父を捨てたあの女は俺の『家族』じゃねえ。ISを受け入れたお前も、俺の『家族』じゃねえ。俺の『家族』は、親父とハルだけだ。だから……だから俺は『篠原家』にはならねえ」

 

「…………」

 

 答えは既に決まっている。

 もう、嘗ての家族はいない。ISの存在で全てが壊れた今となっては。それ等はどれだけ願っても戻る事はない。二度と。

 父親はこの社会によって死んだ。愛犬は無惨に殺された。母親と妹はISに魂を売り敵になった。誰も戻ってはこない。あの頃には戻れない。

 それに、隆道は見逃しはしなかった。

 

「うまい話には裏がある。俺が気づかねえとでも思ったか」

 

「何の話?」

 

「俺を『()()()』にするつもりだろ」

 

「……ありゃ、バレたぁ?」

 

 図星だったのか、日葵は目を丸くさせた後舌を出して肩をすくめる。隆道の推測は的中した。

 そう、これこそ日葵の目的。身内を引き取ると言えば聞こえは良いが、その実態は隆道を手駒にする奴隷化──『飼い犬』である。

 

「だろうと思ったわくそが。何処の国も欲しがる俺を出しにして甘い蜜でも吸おうってか?」

 

「よーく分かってるじゃん。にーにが来るだけで色んな話が私に飛び込んでくるし有利になれる。楽な世の中だよねぇ。……でもさ、良いのぉ? 今までの生活よりは間違いなく良い筈だけどぉ。大人しく受け入れた方が身の為じゃないぃ?」

 

「はんっ、ほざきやがれ」

 

 確かに今までの生活よりは断然良いのだろう。富と身の安全を第一とするなら最高の後ろ盾だ。大抵の男性ならば飛びつく話なのかもしれない。しかし、この案に乗るのは真の敗北を意味する。

 妹に屈し、元母親に屈し、全ての女性に屈す。そして否定し続けたISにも屈する。自らの人生を全否定する事になるのだ。

 全てが無駄に終わる。今まで抗い続けた人生が意味を成さなくなる。共に戦った仲間を裏切る。そして、何よりも──。

 

 

 

 ハルの無駄死を認めてしまう。

 

 

 

 絶対に認めたくはない。絶対に耐えられない。受け入れたらこの先一生許せなくなってしまう。この女尊男卑社会に抗った自分自身を。

 それ故に拒絶する。ISを。その恩恵を振り翳す全ての者達を。この世界を作り上げた元凶を。

 

「俺は『家族』を捨てねえし絶っ対に屈しねえ。『柳』として最後の最後まで生きてやる。お前やあの女の手助けなんか死んでも御免だ馬鹿野郎」

 

「……ふーん」

 

 隆道のはっきりとした拒絶を前にしても日葵は物動じなかった。恐らくは最初から拒絶されると分かり切っていたのだろう。

 さて、彼女はどう出る。この手の人間は自分の思い通りにならない場合、いう事を聞かせる為に何かしらの嫌がらせを仕掛けてくるが果たして。 間違いなく、今までよりも悪質で苛烈であろう。折れるつもりなど更々無いが。

 何でも来い。耐え切ってやる。寧ろ返り討ちにしてやる。そしてやられたその分を数十倍にして報復してやると、彼は意気込んだ。

 

「……んー、さっすがだねぇ。他の馬鹿共なんて直ぐヘコヘコするのに全っ然逆なんだもんさぁ。こりゃ無理かなぁ。あぁ、ざーんねん」

 

「? 何だお前、やけに諦めが早えじゃねえか。てっきり無理矢理従わせるかと思ったんだが」

 

 不自然に引き下がる日葵には違和感しかない。今までの奴等なら徹底していう事を聞かせるよう躾の如く嫌がらせやら暴行やら仕掛けてくるのがセオリーなのだが、どうやら彼女は違う模様。

 いや、目の前の人間がこうも簡単に諦めるとは思えない。諦めたと見せ掛けて後日仕掛けてくる可能性はある。油断は禁物だ。

 

「それじゃ意味無いんだよねぇ。こればっかりはにーにの意思が必要。私は『過激派』とは違う」

 

「俺からすればお前等は同類でしかねーよ」

 

「あーはいはい、今はそれでもいーからぁ。ま、気が向いたらいつでも──お?」

 

『うわっ、間近で見るとやはり凄まじいな……。本当にこの中なのか……?』

 

『反応はある、ここで間違いない!! んん? もう一機……篠原さんかコレ!? おーい!! 柳さーん!! 迎えに来ましたよー!!』

 

 いつの間にやら回復してた通信回線から二人の声が聞こえる。位置座標を見れば四キロ付近まで来ている。一夏達は漸く終わらせたらしい。

 これにて作戦は完全終了、後始末だけである。後は知った事ではない。全て大人達に任せよう。

 

「お迎え来ちゃった。んじゃ話はまた今度ねぇ」

 

「また? 二度とねえよ」

 

「まぁまぁそう言わずにさぁ。ママには保留って言っておくからぁ。……ああ、それと最後に」

 

「?」

 

「追放なんて無いから。ここからは私の仕事」

 

 意味深な言葉を残した日葵はその口を閉ざす。それ以降、彼女が話し掛けてくる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日葵が最後に言った一言は一体何だったのか。追放は無いとは何だ、彼女の仕事とは何だ。己に向けた言葉なのだから何かしらの関係があるのは明白。となれば、何か仕掛けてくるか。

 追放と言えば引っ掛かりが一つ。処分は後程に伝えると言われたのだが未だに何も言われない。それ処か、こうして呑気に夕食にもありつける。何故拘束されないのか謎であった。

 とは言うものの、処分に関しては教員がいない限りどうしようもないのも事実。他のメンバーも一切と言及しないのだから放置して良いだろう。何れ分かる事だ。

 

「考えるだけ無駄、か。さーて飯飯……んあ? あんなにあった茶碗蒸し──」

 

ふ? ぶぉうふぁふぃふぁふぃふぁ?(ん? どうかしました?)

 

「お前……!! マジでお前……!!」

 

 悲報。全部食われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

「う゛ぅ……」

 

「貴方達は……一体、何者……!?」

 

「騒ぐな、許可無く喋るな、質問にだけ答えろ。死体袋行きになるぞ」

 

「……!? …………」

 

「それでいい。早速本題に入ろう。『六・五』を憶えているな?」

 

「!? どうしてそれを──」

 

「二度までは許す」

 

「──!? え、ええ……」

 

「……はい。憶えて、ます……」

 

「次は無い。……さて、知り過ぎた貴様らに二つ選択肢を与える。選べ、親族共々処刑されるか、要求を呑むかだ」

 

 『彼等』は、まだそこにいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして。

 

「確かこの辺りの筈……」

 

 夕食を終えたその後。暫し休息を取った一夏は砂浜近くの岩場へと一人来ていた。満月の今日は真夜中でありながらも明るく、聞こえる波の音はとても穏やかであった。

 何故、彼がここにいるのか。それは呼び出しを受けたからである。

 

『ブリュンヒルデが呼んでるぞ。砂浜近くにある岩場に一人で来いとさ』

 

 隆道曰く千冬から話があるらしい。何故に直接言ってこないと訊いたが知らないとの一点張り。本来は抜け出し厳禁なのだが、姉が呼んでるならいいかとあまり深く考えなかった一夏はこうして来たという訳である。

 しかし、肝心の本人が何処にも見当たらない。もしかすると来るのが早過ぎたか。

 

「一夏……?」

 

「ん?」

 

 唐突に名前を呼ばれた一夏は、その方を向くと月明かりに照らされる千冬──ではなく箒の姿。

 リボンはまだ無い。あの時、焼かれてしまった時からストレートヘアのままだ。浴衣姿もあって中々に新鮮で綺麗であった。

 だがしかし、新鮮と同時に違和感が拭えない。初めて出会った時から結んだ姿しか見なかったが故にコレジャナイ感が凄まじい。やはり、彼女はいつもの髪型が似合うと彼は思っていた。

 だから──()()()()のかもしれない。

 

「何故ここに? 一夏も呼ばれたのか?」

 

「っていう事は箒も千冬姉に?」

 

「ああ。と言っても柳さんから言われて……」

 

「ん?」

 

「ん?」

 

 ここで二人はおかしいと気づく。

 あの隆道が千冬の伝言を易々と聞くだろうか。自分で伝えろなり言うと思うが。そもそもの話、二人揃って呼んだなら彼の伝言と矛盾している。いや、大事な話ならば直接言ってくる筈である。一体これはどういう状況だ?

 取り敢えず千冬に連絡だ。というか、最初から本人に訊けば良かった──と、その時。

 

「ん? 一夏、携帯鳴ってるぞ」

 

「ああ、ただの通知だから別にいいや。そういう箒だって携帯鳴ってるぜ」

 

「私のも通知だ」

 

「「……?????」」

 

 二人同時に携帯から何かしらの通知が入った。このタイミングで同時? と違和感が出た二人はおもむろに画面を開く。

 通知内容は短文のメッセージであった。相手はなんと隆道。内容はこう書かれている。

 

『呼び出しなんてねーよ。少しは疑え』

 

「「……うえぇぇぇぇぇ……」」

 

 隆道の嘘に引っ掛かる馬鹿二名(一夏&箒)、ここに有り。

 やられた。初めから呼び出しなんてなかった。何がしたいのだ、あの男は。というか、この文を見るに何処かで見ているのだろうか。

 非常に不味い状況である。もし、旅館から抜け出した事がバレたら大目玉間違いなしだ。隆道は良いとして他の人間に見られたら色々とヤバい。絶対に一騒動起きてしまう。もう勘弁願いたい。

 

「うーわー……何やってんだあの人──ん?」

 

「と、取り敢えず帰ろう。見つかったらただじゃ済まない……どうした一夏?」

 

「…………」

 

 帰ろうとする箒と違い、一夏の目線は携帯から離れず。何事かと彼女はつい踏み止まる。

 彼が見ているのはメッセージの続き。そこには彼だけに送られた文が一件。

 

『さっさと渡せ』

 

 一夏は察する。

 もしや、この為に場を設けたのか。だとしたらこれはナイス機会、今の内に済ましてしまおうと一夏は意を決した。

 今日は七月七日。七夕の他にもう一つ、特別な日でもあったりする。自身ではなく──箒の。

 

「あのさ、箒」

 

「何だ。ぐずぐずしないでさっさと──」

 

「はい」

 

 ここは勢いだ。一夏は箒の言葉を遮り、懐から梱包されたモノを出して問答無用で箒に渡した。突然の事に呆気に取られた彼女はソレを見るなり目を丸くさせる。

 それは透明な袋に梱包された、白く細長い布。ソレは──とても綺麗なリボン。

 

「え……コレ……」

 

「いやな? あのな? 本当はな? 紙袋のまま渡したかったんだけどクシャクシャになってさ。みっともねえなぁって思って。渡すタイミングも中々見つかんなくて」

 

「あ、えと……」

 

「誕生日、おめでとうな」

 

 そう、七月七日は──箒の誕生日である。

 

 

 

 

 

 その頃。

 

「やっと渡したな。よし今がチャンスだ篠ノ之。いけ、ほらいけっ」

 

 一夏達から数百メートルは離れた岩場。そこで匍匐する隆道はスコープ越しにて彼等二人を観察──いや、覗き見していた。拉致されかけた男が夜遅くに何をしているのだか。

 遡る事、先週の日曜。大勢で臨海学校に備えて買い物に出掛けていた時の事だ。

 

『そういや織斑よ、七日は篠ノ之の誕生日だろ。何かしら渡さねえのか』

 

『アレ? 箒の誕生日知ってたんですか?』

 

『ん? ……あー、前にお前言ってただろ』

 

『そうでしたっけ? いや、そうでしたね……。まぁ、プレゼントは渡そうと思ってるんですけどねぇ。女の子には何渡せば良いのかさっぱりで。あとでシャルにアドバイスでも聞こうかなと』

 

『ふーん。……小さいアクセサリーで良いだろ。それかリボンとかで良いんじゃね。お前が渡せば何だろうと喜ぶだろうよ』

 

『それってどういう意味です?』

 

『好きな奴から貰えばそら嬉しいだろ』

 

『箒はただの幼馴染みですよ?』

 

『マ、マジかよお前……』

 

『え。な、何ですかその冷たい目は……』

 

 そう、あの時に一夏は女性陣が目を離した隙を突いて箒のプレゼントを購入していたのだ。渡すタイミングも当日、人気が無い時だと今の今までその時を伺っていた。

 だがしかし、今回の騒動でかなりタイミングを潰されてしまった。このままでは折角の誕生日が台無し、そう踏んだ隆道は二人きりにする強行に至った訳だ。一夏にも伝えずに。

 結構ガバガバな作戦だが、あの二人なら千冬の名を使えば簡単に引っ掛かるだろうという信頼が彼にはあったのだった。それは見事に当たった。何て悪い奴なんだ。

 場は設けた。あとは二人次第。このまま流れで良い感じに行ければゴール出来るかもしれない。その時まで静かに見守ろう。

 

「ほう、ここまで離れたのはこの為だったのか。これは中々……」

 

「──!! ──!! ──!!」

 

「……はあ」

 

 

 

 隣にいる奴等がさっきからうるさい。

 

 

 

「……あのよお、お前等いつまでいる気だよ? まだ戻るつもりねえからいい加減諦めろって」

 

「いやだから抜け出しはマズイんですって!! 何回でも言いますけど外出厳禁の上に狙われてる貴方が一人でふらふらしないでくださいよ!! 少しは自覚あります!? また襲われたりしたらどうするんです!! 大人しくしてくれませんと流石に守り切れませんからぁっっっ!!!」

 

「ふむ、昨日教官が言ってたのは正しかったか。こうして見ると実に興味深いな」

 

 隆道の隣にいるのは匍匐状態のシャルロットとラウラの二人。片や小声ながら滅茶苦茶に焦り、片や反射防止の双眼鏡で同じく覗き見していた。

 何て事はない。彼女達は不振な動きをする彼を追い掛けた結果である。連れ戻そうとしたが彼は頑なにその場から動かないが故に彼女達も留まる羽目に。本当に迷惑極まりないな、この男は。

 一応語らせて貰うが、シャルロットの言い分は十割正しい。全面的に悪いのはクソガキ(隆道)の方だ。処分確定だからといって好き勝手していい訳では断じて無い。無敵の人かコイツ。

 ラウラ? 実力行使で連れ戻そうとしたのだがやはり無駄に終わった。つまりは諦めた。

 

「まあ待てよ、今良いところだから静かにしろ。つーかよ、今のお前等あの無人機共にボコされてIS使えねえじゃん。俺すら止められねえお前等がどうやって守るんだよ。ほら言ってみろ」

 

「ぐ、ぐぅぅぅぅぅ……。だ、だからって──」

 

「……む? おい見ろ、二人に動きが……!」

 

「何っ。……おお!? おいおい近えなあ!! こりゃいけるんじゃね!?」

 

「え? ちょ」

 

「お? おお? おおお!? こりゃあいける、ぜってーいける!!」

 

「…………。ぼ、僕も見たい、なぁ……?」

 

 隆道とラウラは一夏達に釘付けになる。二人の様子からして進展が見えたらしい。何も持たないシャルロットは目を凝らしても何が起きているかよく分からなかった。 置いてけぼりだった。

 彼女も花の十代。恋事情は興味があるのだから見たくないと言えば嘘だ。つまり超見たいのだ。

 

「あのー……」

 

「これは……もしやアレか? キスというものが見れるのか? そうなのか?」

 

「ちょっとー……」

 

「ああ、時間の問題だろうよ。……ああくそっ、何でそこでモジモジしてんだよ。織斑も織斑だ。いい加減気づけよバカタレが」

 

 超絶ガン無視である。隆道の『O.O.G』が炸裂、ラウラも目前の恋事情が優先なのか同じく無視。ああ、可哀想なシャルロット。

 

「もしもーし……」

 

「もうちょい、なんだがなあ。っあー、ここまで来たなら勢いでいっちまえば良いのに」

 

「…………。ぐすん……」

 

「……ったく。ほらよ」

 

「あ、どうも……あれ?」

 

 可哀想なシャルロットを見兼ねたのか、隆道は溜息を吐きつつスコープを彼女に渡した。やはり何だかんだ言って優しいではないか──と思った彼女だが、覗く前に気になる事が一つ。

 

(えええぇぇぇ……。本物じゃんコレェ……)

 

 代表候補生だからこそ分かる。このスコープ、明らかに遊戯用のレプリカではなかった。

 等倍から十倍までの高倍率。 所々疵は目立つが安物感が無く、変ながたつきも無い。見たところ防水性能と耐衝撃性能は抜群であった。

 実銃用の代物だ。何故、隆道がこの様な物を?

 

「あの。このスコープどうしたんです……?」

 

「あん? ああ、俺の私物」

 

「私物? あの、コレってじつ──」

 

「おい、見る気ねえなら返せ」

 

「さーて二人の様子はどうかなー」

 

 シャルロットは疑問を無理矢理消して覗き見にシフト、何も聞かなかった事にした。スコープの出所なぞ一夏達の恋事情と比べれば天と地の差、ミジンコみたいなものなのだ。

 ちなみにこのスコープ、六月の半ばに起こったシャルロット暗殺未遂事件の時に隆道が調達したクロスボウのパーツである。阻止の際に大破したその凶器はスコープだけ無事となり、没収された中でコレだけ返されたのであった。

 勿論、本物。猟銃でも使えるヤツ。どうやって手に入れたかは『髑髏』のみぞ知る。

 

「「あ」」

 

「あ? 何だ『あ』って」

 

「「…………」」

 

「おい、待て、お前ら、何があった」

 

 シャルロットがスコープを覗いた直後、二人は揃って間抜けな声を漏らした。何が起こった。

 二人の表情は次第にと残念そうな顔に変わる。一体何を見ているのだと隆道は一夏達の方へ目を向けると──何か増えている。

 

「ああ……?」

 

 何だアレ。二つあった人影が今は四つ見える。しかも結構動いている。目を細めてみるもやはり分からない。肉眼の限界か。

 視線をシャルロット達に戻すと、既に諦めたか覗き見を止めて溜息を吐いていた。

 

「戻ろう。アレではもう駄目だ」

 

「そうだね。もう少しだったんだけどなぁ……。あ、スコープありがとうございます……」

 

「くそっ、何が起こってや、が……うーわっ」

 

 スコープを奪い返し、見えた光景は酷かった。

 

「──!!! ──!!! ──!!!」

 

「──!! ──!!」

 

「──!! ──!!」

 

「──!!! ──!!! ──!!!」

 

 月明かりの下で良いムードだった筈のそこには激怒しまくりな鈴音と、その彼女を羽交い締めで止めるセシリアが追加されていた。

 超が付く程焦りを見せる一夏と箒、猛獣の如く暴れようとする鈴音、必死で抑え込むセシリア。どうやら一夏達を覗き見していたのは自分達だけではなかったらしい。

 唖然のまま見続けて暫く。遂に拘束から逃れた鈴音は阿修羅の如く一夏を追い掛けた。まさかの鬼ごっこが始まってしまった。

 一夏を鈴音が追い掛け、その二人をセシリアが追い掛け、その三人を箒が追い掛ける謎の構図。何なんだコレは。一体自分は何を見ているのだと思考が停止、何も考えられなくなった。

 しかし、そんな隆道でも一つだけやるべき事を理解する。

 

「……おっし、戻るか」

 

「「はい(うむ)」」

 

 我関せず。




日葵の目的は隆道を『飼い犬』にする事である。(目的が一つとは言っていない)

次回、本当に福音編ラスト。(謎回収&■■無双)
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