IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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お待たせしました。

オリジナル回突入。内容としては夏休み前まで。原作の三巻と四巻の間です。日常回が多数なので他の章より平和かと思われ。
今回は短め。


幕間の青春
第五十九話


 七月十一日。月曜日。

 『銀の福音事件』から既に四日の日時が経つ。臨海学校における話題は疾うに無くなり、今では別の話題が教室を飛び交っていた。朝のSHR前でこの状況。相変わらず元気一杯である。

 

「「「「「────! ────!!」」」」」

 

 否、今日は一段と姦しかった。初日の一夏達やシャルロット達の時と同様──いや、それ以上と言っても決して過言ではないレベルでうるさい。騒音に騒音が重なり、最早何を言っているかすら分からなかった。だが、意中の男性に向ける様な甘ったるいものとは何か違うような。

 騒ぎは教室だけではない。砂鉄の如く集まった群衆は扉まで続き、必然的に廊下までもが生徒で埋め尽くされている。彼女達は()()()()に集中、それはそれは祭りを彷彿とさせた。何をそんなに盛り上がっているのやら。

 そんなうるさ過ぎる中──逆に我関せずと外を眺める物静かな生徒が窓際に六人。

 

「なあ、昼飯何食う?」

 

「もう昼飯の話を!? ……そうですね、今日は屋上でのんびり。米をガッツリしたい気分です。なんか、拳ぐらいの特大おにぎり、みたいな」

 

「良いね、僕もおにぎりにしよ。具が色々豊富で美味しいよね。ラウラは何食べる?」

 

「シャルと同じが良い。肉々しいのはあるか?」

 

「唐揚げを付ければ良い。茶があれば完璧だな」

 

「おにぎりに紅茶……合いますの?」

 

 窓際に綺麗ピッタリ並ぶ六人──隆道、一夏、シャルロット、ラウラ、箒、セシリアは騒ぎなどガン無視して外を眺めていた。隆道とセシリアが同じグループにいるのはとても珍しかった。

 念の為に語るが、隆道とセシリアの二人は別に和解した訳ではない。たまたま同じ場に集まっているだけでしかないのだ。セシリアはともかく、隆道は未だに仲良くする気無しなのは確か。

 

「特大ね……頼めば用意してくれるんじゃね? 具も二つぐらい詰めて貰うか」

 

「明太子と玉子の組み合わせ的なヤツですか? せっかくなんで少し攻めてみたいですね。それと二つじゃなくて三つくらいぐぐっと入れても案外面白……あっ」

 

「「具をぐっと入れろ」」

 

「「「…………」」」

 

「ぐぶっ……ぶふっ……。ん゛ん゛……」

 

 意外。まさかの珍プレーが炸裂した。

 下らな過ぎるギャグをぶちかます隆道と一夏。冷めた目で見詰める箒とシャルロットとラウラ。まさかのツボに入って震えるセシリア。うるさい生徒達とは全く別の空間が出来上がっていた。

 

「決まったな」

 

「ええ、見事な一撃でしたね」

 

「昼飯の話してんだけど。急にどうした?」

 

「!?!?!?!?!?」

 

「ぶぁっはぁっっっ!? ぐ、ぐふふ……!! ふひっ、ひぃ……!!」

 

 一夏は裏切られた。それが引き金になったか、辛くも耐えていたセシリアは遂に抱腹絶倒する。淑女の欠片も無かった。

 

「ひゅ……ぐひゅ……。ごっ……」

 

「む、セシリアが死にかけてる。お前のせいだぞ織斑。どうするつもりだ?」

 

「一夏、次変な事言ったら口縫うからね?」

 

「それでは足りないかもしれんな。ああそうだ、接着剤でも塗るか」

 

「なあ、今の流れ結構酷くないか?」

 

 一夏に味方はいなかった。

 何やら様子がおかしい。そもそも組み合わせの時点で既におかしいのだが、何故彼等はここまで騒ぎを無視しているのか。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 六人の目は死んでいた。

 頑なに生徒達の方を見ようともしない。興味が無い、というより見たくないと感じ取れる姿勢の彼等は何処か不気味。隆道の目が死んでいるのはいつもの事だとしても他五人も死んでいるとは。

 

「……あの~」

 

「何だ馬鹿斑」

 

「馬鹿斑……!? ……いや、そろそろ現実逃避やめにしませんか? 何れこうなってましたし。これから慣れていきましょうよ」

 

「……そりゃ、分かってたけどよ。……なあ?」

 

「「「「……はぁっ」」」」

 

 彼等は何を諦めたのか、大きく溜息を吐き捨て教室内へと振り向く。彼等の目は揃ってジト目、一点へと集中した。

 

 

 

 その視線は一ヵ所に群がる生徒──ではなく。

 

 

 

「何コレェ!? うっわぁ何コレェッッッ!? なんか目がパチパチしてるぅ!? ね、ねぇ君、喋れるって聞いたけどホント!?」

 

『肯定。私はAIと対話インターフェイスを搭載。人間との会話が可能です。退いてくれますか?』

 

「ホンットに喋ったぁぁぁっっっ!?!?!? え、その声女の子!? 貴女、女の子なの!?」

 

『……否定。私に性別は存在しない。この音声は市販品の音声合成ソフトを使用。早く退いて』

 

「うわ! うわわ! すっご!! ロボットってここまで進化したんだぁ!!」

 

 

 

 そう、例の変なヤツ(ロボット)である。

 

 

 

『いい加減に退け、人間共。邪魔』

 

「ねぇねぇねぇねぇ!! 名前何て言うの!?」

 

「ちょっと触っても良い!? 良いでしょ!? 良いよね!?」

 

「ウインク出来るウインク!? あ、一つ目じゃ難しいかな!? じゃあジト目ならどう!?」

 

『問題発生。人間との会話が成立しない』

 

 コイツらうるさ過ぎ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三日前──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七月八日。変なヤツが現れてから数分後。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 ──『改めましてこんばんは』──。

 

 隆道の自室。室内には謎のロボットと、ソレに対峙する形で向かい合う男女が六人。

 椅子に腰掛ける隆道。その側で佇む一夏、箒、シャルロット、ラウラ。そして仁王立ちの千冬。彼等の視線は全て一機に集中していた。

 彼等全員がしかめっ面のその一方、ロボットは一人一人に目を向けながらモノアイを定期的に、尚且つ不規則に開閉している。改めて見ると実に人間臭く、それが彼等の頬を引きつらせる。

 

「……お前は……何だ……?」

 

 沈黙を破ったのは千冬。最早何から突っ込めばいいのやらで胸一杯な彼女だが、一先ずはコレの正体からだと在り来たりな質問を投げた。

 千冬の言葉を理解したか、ロボットは直ぐ様にノートにペンを走らせる。人間では不可能である速度で早くも文字を書き上げ、全員に見えるよう突き出した。

 

 ──『自律型多脚無人機、WALKER』──。

 

 ──『A()I()()()()()()()()()()()()()』──。

 

 ──『カテゴリ、特殊兵装』──。

 

 ──『登録機、灰鋼』──。

 

「「「「「はぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」」」

 

「な、特殊兵装……!? 馬鹿な……!?」

 

 全員が度肝を抜かれた。

 そう、この無人機は『灰鋼』の兵装であった。それも人を手が一切加えられていない、IS単体で造り出した『天然の特殊兵装』。

 しかも単なる無人機ではない。遠隔操作不要の自律型無人機だ。対話インターフェイスは聞いた事無いが、筆談からして会話が可能なのだろう。会話可能なAIは既に存在するが、筆談するAIなぞ今までいただろうか。

 工場等で稼働する作業ロボットとは訳が違う。自己判断で動き、人間とのコミュニケーションが可能な無人機を、ISが造り出した。

 以前千冬が考察した『バリアブルシールド』が特殊兵装というのは誤りだ。あの盾は『打鉄』の機能を強化し拡張しただけに過ぎないのだった。この無人機こそが『灰鋼』の特殊兵装なのだ。

 驚くのはまだ早い。この特殊兵装は文字通りに──いや、それ以上に特殊過ぎるのである。

 

「やぁぁぁなぁぁぁぎぃぃぃ……!! これはぁ一体どういう事だぁぁぁ……!!」

 

「おおおおおいおいおい知らねえ知らねえ!! こんなヤツ知らねえ!! マジで知らねえ!!」

 

「そんな事があるかぁっ!!! お前が知らない筈が──」

 

「な、なぁ千冬姉」

 

「何だ!! ……む」

 

 激昂しまくりな千冬は一夏に無人機へと視線を促される。その方へ目を向けると、無人機は既に新しい文を書いて皆に突き出していた。

 

 ──『柳隆道は無関係』──。

 

「な……に……?」

 

 その文を見て一気に頭が冷えた千冬を尻目に、無人機は再び文字を書いて突き出す。

 今度は短文ではなく長文。その内容は千冬達を絶句させた。

 

 ──『説明。7/7.13:10。No.019は花月荘構内と構外に敵勢反応を感知し我を展開。灰鋼を奪還し柳隆道の元へ向かう』──。

 

 ──『13:12。柳隆道に接近するも二名の人間に抵抗される。緊急を要する為に無力化。柳隆道に灰鋼を譲渡、以後同行』──。

 

「な、あ……」

 

「……ん? あ!! アレお前かよ!!」

 

 謎の答えがここにあった。全部コイツだった。

 『灰鋼』が厳重管理から逃れた真相はコイツ。花月荘で突然現れた謎の襲撃者の正体もコイツ。襲撃でも何でもなかった。

 彼が倒れた理由? 単純な話、このロボットが首輪を投げ、無理矢理装着させた勢いで倒れたに過ぎない。『○一九』は勿論だが、彼に対しても何かと雑だった。

 ずっと彼の側にいたのだ。脱走の時も、孤島で孤立した時も、戦闘が終わった後も、帰り際も、寮内も。常に彼から離れずにいた。ISでも視認が出来ない、つまりはこの無人機にも『幽霊犬』と同等の光学迷彩が備わっているという事だろう。登録機でも見えないとは此は如何に。

 今理解出来た。そういえば脱走時に『灰鋼』を調べた時から『WALKER』という謎過ぎる項目があったが、この無人機を指していたとは。

 

「何だお前!! 味方なら普通に開けろよ!! 何で態々あんな真似した!? 流石にビビったわくそったれが!!」

 

 ──『説明。人間の警戒態勢を解く為録音した音声で呼び掛けたが失敗、やむを得ず強行突破。我、装備不十分により対IS戦闘は不適切と判断。安全確保の確立まで潜伏』──。

 

「あんなんで開ける奴なんかいねーよボケ!! 不自然過ぎんだろうが!! 人間舐めんな!! 二度とすんじゃねえ!!」

 

 ──『了解。学習する』──。

 

 なんとお騒がせ過ぎる無人機なのか。真耶達を恐怖のどん底に陥れて隆道の脱走劇を手助けした正体がコレだったとは。今まで警戒していたのが馬鹿みたいではないか。

 問題が減ったと思いきや逆に増えた。これなら謎の襲撃者のままで良かったと何れ程思ったか。ISが造った自律型の無人機など誰が予想したか。これが調査可能且つ解明可能ならテクノロジーの進化に大いに貢献する事になるに違いない。

 余計に世界各国が欲するだろう。『灰鋼』を。そして『柳隆道』を。

 争奪戦が──更に激化してしまう。

 

「な、なあ。これってつまり──千冬姉!?」

 

「なんて、事だ……。ああ、今日も寝れないな。うふ、うふふふ……」

 

「ヤバい!! 千冬姉が壊れた!!」

 

「教官んんんんんっっっ!!!」

 

 世界最強、遂に限界を迎える。

 崩れ落ちベッドに腰掛ける千冬はぶっ壊れた。腐れ縁に振り回され、狂人に打ちのめされ、漸く終わったと思いきやとびっきりの爆弾が目の前。彼女に安息は無かった。

 心魂が抜ける寸前の千冬。それを見て狼狽える一夏とラウラ、思考停止する箒とシャルロット。狭い一室で地獄の様な光景が完成してしまった。

 そんな彼等を余所に、隆道は特別驚く事はなく無人機から目を離さず。

 

「…………」

 

『No.0()1()9()は──』

 

「○一九……」

 

 書かれた『No.019』が脳内を絶えず反復する。その度に視界にノイズと似たものが走り、灰髪の少女がちらつく。会った事など無い筈なのに。

 数字だけは見覚えがある。『灰鋼』に搭載したISコアのナンバーがそれであった。今まで一切と気に留めなかったが、急に気になり始めていた。

 『WALKER』は自身が展開したものではない。では誰がと言われれば『灰鋼』以外有り得ない。なのに、機体名ではなく態々番号の方を書いた。つまり──。

 

(有り得ねえ。そんなの有り得ねえし認めねえ)

 

 隆道は否定する。意地でも認めない。

 ISコアに意思など存在しない。所詮システムかAIの類いに違いない。大人達が解明不可のソレを自身が理解など無理なんだと、彼は脳に焼き付く数字を消すべく頭を振るう。

 今気にするべきなのはそこではない。目の前の無人機をどうするべきか。どう扱うべきか。

 いや、その考えは捨ての一択だろう。今までに発現したシステムや武装はリスクはあれど自身の役に立った。そして意味があった。ならば、この無人機も同じくして造られた筈だ。

 故に理解しなければならない。この無人機を。

 

「……おい、お前の役目は何だ」

 

 ──『回答。用途、柳隆道の護衛兼支援活動。我、柳隆道の命令を最優先』──。

 

「……俺の言うこと聞くのか?」

 

 ──『肯定。命令権、柳隆道に有り』──。

 

「……はんっ、面白えヤツ」

 

 どうやらこの無人機、隆道の命令に従う模様。自身も欺くコレは想像以上に便利かもしれない。彼の脳内にはしょうもないパシリからえげつない悪巧みまで様々な使い方が浮かび上がっていた。

 しかし足りない。得体の知れないこの無人機を信用出来る判断材料が欠けている。一歩間違えば己の首を絞めるだけの存在でしかない。

 だからこそ、彼は問う。

 

「質問だ。……お前は何だ」

 

 ──『回答。我は兵器』──。

 

「ほう。……お前にとってISは何だ」

 

 ──『回答。ISは兵器』──。

 

「なんでそう思う?」

 

 ──『回答。開発者篠ノ之束が十年前に立証。軍用ISの存在。よって人間が定めた競技は建前と見解』──。

 

 

「……良いねえ」

 

 中々に良い答え。しかし、あと一押し欲しい。己が十分に満足出来、且つ信用に足る答えが。

 隆道は気持ち前屈みになって無人機に近づく。次の質問はかなり意地悪だが──この無人機なら答えてくれる。彼にはそんな確信があった。

 

「次で最後。……俺の欲しいものは分かるか? お前なりに答えてみろ」

 

 

 

 

 

 ──『回答。全ての敵を滅ぼす武力』──。

 

 ──……!? ちょ……!!

 

 ──『Si vis pacem,para bellum(汝平和を欲さば、戦への備えをせよ)』──。

 

 

 

 

 

「……はは、はははっ。おーし気に入った」

 

 決まりだ。『WALKER』は信用に値する。

 機能はまだ把握していないが、それはこれから知ればいい話だ。使いようによっては期待以上の成果を出してくれるであろう。

 隆道は誓う。そしてほくそ笑む。この無人機を必ず使い熟すと。精々役立って貰うと。

 そして、必ずや──。

 

「そういや……お前会話出来るんだよな? 何でいちいちノート使ってんだ?」

 

 ──『説明。拡声器故障中。我、自己修復機能無し。要修理』──。

 

「ほー、なんかISらしくねえな。……分かった、修理やその他もろもろは明日な」

 

 ──『了解。後ろの人間共が騒がしいが対処は如何に』──。

 

「気にすんな。こっちで何とかする」

 

 千冬が壊れてしまった以上、調査は明日以降に回すしかないだろう。今は場を収めるしかない。

 

「さーて、お前はもう引っ込んどけ……んあ? え、解除出来ねえ」

 

 ──『回答。我、独立稼働展開システムにより収納、量子変換を受け付けない』──。

 

「は?」

 

 ──『これからよろしく』──。

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 九日と十日。再び学業が始まるまでの二日間は『WALKER』の件で退屈など無かった。

 千冬や他教員達は事件の後始末や書類整理等の超多忙によって隆道に纏わる件は保留になった。事件の後始末やらIS委員会への説明やら各クラス毎のまとめやらでブラック企業顔負けの仕事量。彼だけに構ってる暇など無いのである。

 よって隆道は教員達の手が空くまでは暫しの間暇な日々を過ごす──とはならず。

 

「お前、ホンットにずっとそのままなのな……。エネルギーとか大丈夫なのか?」

 

 ──『回答。我、稼働時間は最大で約72時間。現在のエネルギー残量から推定して残り稼働時間約30時間。充填方法はISと同じ手順』──。

 

「ほう、『リカバリーショット』でも良いのな。面倒が省けるわ」

 

 

 

 

 

 この無人機、まだいた。

 

 

 

 

 

 『WALKER』が稼働したのは七日の十三時頃。その時から展開されたままなのである。

 隆道は何もしていない。いや、何も出来ないと言うのが正しかった。

 

「しっかし、ロボットと同棲だなんてなあ……。いや、女とよりかずっとマシだけどよ……」

 

 ──『提案。今後の共同生活において幾つかの規則が必要と判断。協議求む』──。

 

「しっかりしてんなあ、ますます気に入ったわ。まあ、その話は取り敢えず直してからな」

 

 この様な状況も十分過ぎる訳がある。

 『WALKER』は独立稼働展開システムという、誰もが知らない機能で展開された事が分かった。『灰鋼』の状況に関係無く彼の防衛兼支援を行う目的でこのシステムを用いたらしい。

 『灰鋼』と接続してはいるがそれだけなのだ。解除をしようと、大破しようと、隔離しようと、『灰鋼』がどうなろうと『WALKER』は影響無く稼働する。最早ISとは全くの別物に近かった。

 これが結構に厄介。何せ、独立化した故なのか解除不可能──いや、その項目自体が無いのだ。量子変換しようもシステム類が弊害しているのか受け付けず。この無人機、出しっ放しであった。本当に特殊過ぎた。

 

「つーかどうやってIS学園まで来たんだよ……。バスとかモノレールとかどうしたんだよ」

 

 ──『説明。我、バスとモノレール搭乗せず。バスは屋根に張り付き、モノレールはレール上を歩行しIS学園に進入』──。

 

「器用過ぎんだろ。す、すげーなお前……」

 

 ──『褒め言葉として受理。それよりも部品はいつ頃届く? 筆談は非効率』──。

 

「面倒って言いたいんだろ。もう少し待ってろ」

 

 そして、もう一つの謎。拡声器が損傷していた理由もこの時に判明する。

 『WALKER』曰く──。

 

 ──『人間の銃撃により拡声器に被弾。損傷し発声不可能』──。

 

 覚えているだろうか。花月荘にて真耶が拳銃を乱射したあの時を。

 そう、『WALKER』に放たれた数発の弾丸の内一発がものの見事に拡声器へと着弾。当たり所が悪かったらしく、その時壊れてしまったのだと。代用が無くそのままにしていたらしい。

 とにかく、修理しない事には何も始まらない。部品や工具諸々は他者が調達し、人目に入らない自室での修理をする事となった。難儀になるかと思いきや、隆道は意外に手際が良かったらしく、『WALKER』の助力もあり難なく修理は終わる。

 これで面倒な筆談とはおさらば──なのだが、それとはまた別の問題が。

 

『音声テスト中。音声テスト中。音声テスト中。アーイーウーエーオー。オハヨウ、コンニチハ、コンバンハ。……柳隆道、評価求ム』

 

「すっげーキモい。不気味、不愉快、気色悪い。二度と喋んな」

 

『……低評価了解。我、音声調整ガ困難ト判断。読ミ上ゲ用音声合成ソフト求ム』

 

「あん? 何だソレ? ……まあ探してみるわ。あと、堅苦しい言葉遣いもどうにかなんねえ? なんか鳥肌立って仕方ねえ」

 

『了解。学シュ……覚エマス』

 

 『WALKER』の声はあまりにもキモ過ぎた。

 明らかな機械音声は百歩譲って良しとしても、一文字一文字を継ぎ接ぎにした様な音声は隆道の背筋を凍らせた。ジャパニーズホラーも顔負けな恐ろし過ぎる声はかなり不評であった。

 『WALKER』はこれを直ぐに理解。キモ過ぎる声を変えるべきと判断し、新たなソフトウェアを要求してきたのであった。修理の時といい、物を要求するAIは世界初なのではないか。学習能力が変に高いのも不気味だ。

 少しの不安はあった隆道であったが、キモ声でなければ何でもいいやと深く考えず周囲と協力しソフトウェアをインターネットで購入、直ぐ様にインストールしたのであった。

 選んだのは女性陣。よりによって女性型音声。お値段は一万弱。隆道の自腹である。

 

『音声テスト中。音声テスト中。音声テスト中。あーいーうーえーおー。おはよう、こんにちは、こんばんは。……どうですか?』

 

「違和感はねえな。んじゃ次コレ読んでみろよ。なるべく早くな」

 

『早口言葉ですか。やってみましょう。……生麦生米生卵、ラバかロバかロバかラバか何故か是非分からないからラバロバ比べた、達者な足袋太鼓代わりタンタン叩いて啖呵切ったって閑散』

 

「……すっげ、文句ねえぞ。問題無さそうだな」

 

『買って頂いたソフトのお蔭で調整が楽でした。どうやら好評のようで。ありがとうございます』

 

 最早、人間が喋るのと何ら変わりはなかった。学習したものあって筆談時の堅苦しい言葉遣いは既に無い。敬語は残ってるが妥協点だと、隆道は特に気にしなかった。

 その後は今後においての取り決めで話し合い。途中、過労と心労で絶賛死にかけの千冬も交えた三者面談(?)は十日の夜まで続いた。

 その内容は一旦割愛する。一つ挙げるのなら、千冬は更に頭を悩ませたとだけ語っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして冒頭のSHR前へ。

 

「散れ、馬鹿共」

 

 時間通りにやって来た千冬の静か且つ凄まじい圧は生徒達を一気に散らせた。クラスメイト達は即座に席に着き、他クラスの者は何事も無かったかの様に静かに退散していく。その流れに乗って隆道達もそれぞれ自身の席に戻った。流石千冬のクラスと言うべきか。ちなみに、昨日の夜辺りで包帯は取れた模様。回復力が化け物過ぎる。 

 

「ウォーカー、お前は柳の後ろ辺りにでもいろ。そこだと邪魔だ」

 

『勿論そのつもりですが? 貴女に言われずとも動きます。尤も、貴女の命令など受けませんが。寝言は寝て言え』

 

「ひ、と、こ、と、よ、け、い、だ」

 

 騒ぎの中心にいた『WALKER』は隆道の元へ。静かとなった空間は耳を澄ませば聞こえる程度の駆動音だけが聞こえた。

 今のやり取りで察しただろうが、この無人機は千冬に全く従わない。嫌がらせでも何でもなく、隆道の命令しか従わないのである。状況次第ではその限りでないと思うが、日常では先ず言う事は聞かないであろう。現状において制御可能なのは彼しかいないのであった。

 それにしても、時折口が凄く悪くなるのは彼の影響なのだろうか。これも学習能力の賜物か。

 

「な? 言ったろ?」

 

『昨日言っていた騒ぎになるはこの事でしたか。思うのですが、私の事は既に周知の筈では?』

 

「聞くのと見るのとでは全然違うからな。お前は珍し過ぎるんだよ。まあ慣れとけ」

 

『了解』

 

 『WALKER』は世界四大ニュースの一つだ。

 失踪中であった束の出現、その彼女がいきなり妹に与えた第四世代のIS、『白式』の二次移行、『灰鋼』が造った自律型の無人機。どれもこれもインパクトが強過ぎて事件に等しい情報である。

 その中でもレベルが段違いなのが無人機の件。誰もが想定しなかった全く以て新しい特殊兵装は各国の関心を大いに集めた。そのお蔭でIS学園は問い合わせが殺到しているとか。

 隠し通しても何れは世間にバレるもの。下手に隠して面倒事に繋がるのなら逸早く公表するのが比較的被害は少ないのだ。教員達には気の毒だが今は耐えて職務を全うして貰うしかない。南無。

 

「あー……諸君は耳にしただろうが、そこにいる生意気なロボットは柳のISから造られたものだ。今日から柳と共に行動する。分かってると思うが余計な騒ぎは起こすなよ」

 

『今日から、ではありません。四日前からです。貴女は今まで何を見ていた? 目が節穴?』

 

「いちいち揚げ足を取るな!! 今は学園内での話をしてるんだ!! おちょくってるのか!?」

 

「少し黙っとけ、話が進まねえ」

 

『了解』

 

「!? く、くぅぅぅぅぅ……!!」

 

 この通り、隆道にはかなり素直。彼の為だけに造られた兵装なのだから当然といえば当然だが、千冬としてはかなり困ったものである。唯でさえ性能面は未知数なのにこうも言う事を聞かないとやり辛い事この上ない。隆道と日葵の方がマシと思う日が来るなぞ誰が思うのか。

 念を押すが『WALKER』に悪気は一切と無い。自然に会話出来るとはいえ感情を持たないAIだ。そこを理解しないと身が持たないだろう。

 

「はぁっ。……諸君、夏休みまで残り三週間だ。それまでの予定だが──」

 

 これからはより一層と騒がしくなるであろう。負けるな千冬、頑張れ千冬。いつか報われる日が来るその時が来ると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいウォーカー!! さっきからガチャガチャガチャガチャと何をやってる!!」

 

『知恵の輪です。見てください隆道、高難易度も解けましたよ。とても面白いですね』

 

「すげえな。でもアレだ、もう少し静かにな?」

 

「せめてあとでやってくれ……」

 

 マジで頑張れ。




◆自律型多脚無人機『WALKER』
AIと対話インターフェイスを搭載した特殊兵装。隆道の防衛兼支援等の多目的として『○一九』が作成した。独立稼働展開システムでの展開により『灰鋼』の影響を受けず活動する。
読み上げ用の音声合成ソフトで人間と会話する。学習能力が高く好奇心旺盛。
収納不可能。量子変換不可能。自己修復機能無。その他性能不明。

※読み上げ用の音声合成ソフト=VOICEROIDまたはVOICEVOX。誰の声かは読者にお任せ。お好みでご想像を。
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