IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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今回も短め。これ以上描くと変な所でぶつ切りになるので。
久々にあの人。これからもちょくちょく出ます。


第六十話

 まだ日も昇らない深夜。明かりなど一切と無いその時間帯に()()はいた。

 IS学園一年寮付近に聳え立つ樹木の列。その内一本にしがみつくのは一匹のリス。その小動物は軽い身のこなしで上へ上へと駆け登っていく。

 

 

 

 否。『匹』、ではない。

 

 

 

 遠くから見ると単なる小動物。しかし、近くで見るとシルバー一色のメタリックな外観だった。

 そう、『機械仕掛けのリス』だ。やけに精巧で動物らしさある挙動をするそのリスは木の天辺に到達して建物へ飛んだ。

 一見無謀な動きだったが──そのリスは外壁を難なく張り付く。目的地があるのか、そこからは異様な速度で這い進んでいった。その動きは宛らゴキブリと大差なくキモかった。

 突起物など少し足りとも無いまっさらな外壁を這り進んでいき、そのリスは一ヶ所の窓に着く。その窓は少しばかり開いていた。

 リスはそこからするりと侵入。その部屋も当然真っ暗だが──このリスは全てが見えている。

 不自然に広いスペースに丁寧に積まれた雑誌や大きな箱。写真立て一枚のみの殺風景過ぎる机。ベッドに大の字で寝る人間が一人。

 

「ZZZZZzzzzz……」

 

 その部屋主──隆道。

 彼はタンクトップと短パン姿で爆睡していた。寝息も静かで涎も全開、なんと安らかな表情だ。様子からして完全に安眠で警戒のけの字も無い。硬い表情が標準である彼の間抜け面はここでしかお目に掛かれないであろう。

 

『…………』

 

 そのリスは脇目も振らず隆道の元へ近づいた。そろりと足によじ登ってそこから胸元まで移動、彼のだらしなさ過ぎる顔をじっと見つめて──。

 

 ──侵入者発見──。

 

『!?』

 

 突如、宙に浮く。

 

 ──捕獲成功──。

 

 宙に浮いたリスは引っ張られたかの様に空間を移動して隆道から離れていく。数メートルの所でピタリと停滞し、何も無かった空間に歪みが。

 そう、これは光学迷彩。

 

 ──生体反応確認出来ず。未確認無人機──。

 

 そこから姿を現すのは『WALKER』。アームはリスの胴体を掴んでいた。直ぐ逃げようとするも見た目以上の腕力でびくともせず、寧ろその度に力は強まりメキメキと音が響く。

 『WALKER』は何であろうとも逃しはしない。それが得体の知れない相手でもだ。

 

 ──排除──。

 

『ピギュッ』

 

 『WALKER』は少しも躊躇わずリスの首を持ち一捻り。そのまま引き千切って破壊した。機械と分かっていてはいても絵面はかなり酷いものだ。

 

『…………』

 

 『WALKER』は動かなくなったリスを舐め回す様に観察する。頭部と胴体を交互に見て、何かを思い付いたのかソレを片手で纏めて机に。

 目的は机──ではなく、机の下にある工具箱。それを持ち出して今度はやけに広いスペースへ。そこは本来ベッドがあった場所なのだが、劇的なリフォームによりこの様な広さになっていた。

 それを手掛けた匠は無論『WALKER』である。使われていないベッド一床が邪魔だったらしく、強引に解体して空間を確保。今や『WALKER』の遊び場的な場所となっていた。雑誌と大きな箱は隆道のものではなく『WALKER』のものである。

 勿論、リフォームは無許可。お隣さんが曰く、チェーンソーの騒音が壁まで響き怖かったとか。千冬はこれにブチギレるが『WALKER』は無視。やりたい放題だった。

 

『…………』

 

 『WALKER』は壊れたリスを床に置くや否や、工具箱から精密ドライバーやらはんだごてやらと次々取り出していく。床一面に工具が散らばり、精密ドライバーを取り出したところで──。

 

 ──分解開始──。

 

 ──機械仕掛けのリスをバラしていった。

 頭、胴体、四肢、尻尾。それ等全ては瞬く間に分解されていき極小の部品と化す。素早い動き、それでいて丁寧。巧みに工具を使い熟し一つ一つバラしていく様は職人顔負けである。

 分解し始めて数分。床下には小さ過ぎる部品と細過ぎるコードだけ残る。機械仕掛けのリスは、どの様な形だったかも分からぬ程にバラされた。

 

 ──分解完了。保管──。

 

 ──セキュリティ改善の必要性有り。チェック項目追加──。

 

 そこからの動きは早かった。

 『WALKER』は散らばる部品を回収、別の箱へ静かに仕舞い、工具も一切音を立てず元に戻して机の下に収納。開けっ放しの窓もきちんと閉め、周囲をチェックしていく。

 部屋の隅から隅までせかせか見回り。四本脚であらゆる所へと動きまくる様は凄まじくキモい。しかし、これだけ動いても静音なのだから隆道は全然起きる気配がなかった。なんて高性能だ。

 

 ──チェック終了──。

 

 どうやら終わったらしい。深夜帯での一仕事を終えた『WALKER』は自身の広場に戻って大きな箱の中をごそごそと漁っていく。取り出したのは──知恵の輪がざっと十種類。

 そう、大きな箱は『WALKER』のお気に入りが詰まったおもちゃ箱。本当にロボットかコイツ。

 

 ──メモリー消去。対象『パズル』──。

 

 ──攻略開始──。

 

 『WALKER』は知恵の輪を弄りだす。ロボットらしからぬその行動は隆道が起きるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七月半ば。

 夏休み。学生にとって超絶テンション爆上がり期間まであと半月となった。迫り来るイベントの数々に生徒達は今か今かと待ち望む。

 故郷の恋しさに帰国する者、鬱憤を晴らそうと遊び倒す者、己を磨く為に鍛練に励む者。各々の目的は違えど既に活発化する兆しが見えていた。

 だからこそ、彼女達は今も勉学に勤しむのだ。夏休みが日に日に近づこうとも手抜きはしない。それを怠った結果夏休みが全部潰れましたなどと間抜けな事は無い。大騒ぎしたり目が眩んだりと千冬から馬鹿共と散々な評価だが、優等生なのは間違いないのだ。

 異例である一夏も変わらない。勤勉である彼も同じく──いや、彼女達以上に取り組んでいる。入学当初は知識ゼロだったにも関わらず、今では他の生徒達に追い付きつつあった。それでも彼は慢心はせず上昇志向爆上がり。真面目に取り組む姿勢は学園内での評判も右肩上がり。模範生徒になるのも遠くはないだろう。

 では、一方の隆道はどうなのか?

 

「「「「「…………」」」」」

 

「……っあー。……えーっと」

 

 突然だが『福笑い』をご存知であろうか。

 『福笑い』とは正月に遊ばれる日本の伝統的な遊びである。また、転じて『変な顔』の事を指す言葉としても使われる。例としては顔面福笑いがあるが馴染み深いのは前者の方だろう。

 遊び方はシンプル。阿亀(おかめ)阿田福(おたふく)といった面の輪郭を描いた紙の上に目、口、鼻、耳等の部品を散らし、目隠しした者がそれを適当な所に置く。完成した顔は配置が大体滅茶苦茶になる為滑稽な顔立ちになってしまうのである。それを見て皆で笑い楽しむものだ。

 何故、今それを語るというとだ。

 

「…………」

 

「……柳、君?」

 

「……何ですかね」

 

 一年一組教室。生徒達は物静かに、それはもう不気味過ぎる程に授業へ打ち込んでいた。真面目と言えば聞こえは良いのだが、この静かな空気はもう一つの理由があった。

 

「……先生ね? 柳君が真面目に授業するようになったのはとても嬉しいの。うん、ホントよ?」

 

「……なら良いじゃねえですか」

 

「うん。……でもね?」

 

 彼女の名は──エドワース・フランシィ。数学担当の教師でカナダ出身二十五歳。ちなみにだが今現在絶賛彼氏募集中との事。今日は千冬と共に一組のIS座学を担当としてここにいる。

 そんな彼女の顔は──青かった。かなり青く、そして頬を引き攣っている。つまりはドン引き。扉付近で腕組み待機する千冬も同じくドン引き。これまた珍しい表情をしていた。

 二人の視線は窓際の奥──隆道に向けている。注目されている彼は、今までの彼とは違った。

 

「…………」

 

 なんと隆道は、授業態度が最悪だと定評のある彼が今、超真面目に授業を受けているのである。教科書とノートはきちんと開き、にらめっこしてペンを走らせている。よく見ると教科書は付箋がびっしり。どうやら本気で取り組んでいる模様。彼も彼で少しは成長しているようであった。

 ただ──。

 

 

 

 

 

「無理してまで……とは言ってない、のよ?」

 

 『()()()』がそこにいた。

 

 

 

 

 

 果たして、ここまでぐっちゃぐちゃな顔になる人間がいただろうか。今の隆道には『福笑い』と表現する以外の言葉が見つからなかった。

 眉間には皺の集大成、左右非対称に歪んだ眉と今にも飛び出そうな充血した目、あらぬ方向へと曲がった鼻、歯を剥き出して食い縛る口、素肌は遠くからでも分かる程に真っ赤でぶっとい怒筋が至る所に。

 よく見ると顔だけではなかった。首元も両手も血管が浮き出まくりのバッキバキとなっている。それはそれは鋼と言っても過言ではない強靭たる肉体が全面に出ていた。

 彼が急に勉強し始めたのはここ最近。生徒達が『WALKER』と対面したその日からなんの脈絡もなく授業態度が打って変わったのである。当初はやっと改心したかと皆が感心していたが、時間が経つに連れて彼の顔色は悪くなっていき、数日が経った今となってはコレ。大半の生徒達は視界に入れる事すらも怖くなっていた。

 流石に目に余る姿に教員や一夏達は休むように促すも何故かこれを拒否。授業から抜ける様子は全くと無かった。

 彼はどう見ても無理をしていると断言出来る。今では意地張りか当て付けにしか見えなかった。何がしたいのだ、この男は。

 

「柳、もう無理するな。いい加減に休め」

 

「……別に何も。俺ぁ平気っすよ。ええ、はい。なんか毎度すんませんね、気ぃ遣わせて」

 

(((((どこが平気だよ!!)))))

 

 皆の心がまた一つになった。

 ぐちゃぐちゃなのは顔だけではなかった模様。口調も聞いた事ない敬語らしき不気味なものに。隆道の性格上有り得ないであろう言葉遣いに皆は戦慄する。彼はぶっ壊れてしまったかに見えた。

 ここで弁解しておくが、彼は当て付けで勉強をしている訳ではない。そしてブチギレる寸前でもぶっ壊れてもいない。それ以前に怒っていない。

 真実はたった一つ。

 

 

 

(頭いってえ腹いてえいてえいてえいてえいてえいてえいてえいてえいてえいてえいてえ……)

 

 

 

 本当に体調不良だった。

 隆道は勉強が嫌いである。彼にとっての勉強は苦痛という他なかった。それがIS座学なら尚更。その苦しみはざっと数倍にも及んでいた。

 そう、今の彼は計り知れない苦痛に耐え授業に取り組んでいるのである。その結果が今の容態。皆の思った通り体調不良なのは間違いなかった。死ぬ程我慢していただけだった。

 ISに対するストレス。IS学園にいるストレス。勉強によるストレス。それ等三大ストレスは彼の自律神経を蝕み、頭痛、腹痛、疲労、息苦しさ等不調のオンパレードにより集中力は完全に切れ、それがまたストレスとなって悪化。正に悪循環が出来上がっていた。馬鹿かコイツ。

 何故、強烈過ぎるストレスを抱えてまで勉強を続けるのか。

 

(くそったれ、今に見てろ……。絶対、に……)

 

 真意は誰も知らない。何故そうまでして授業に出るのだと聞いても真面目にして何が悪いんだと質問に答えず口を濁すばかり。授業態度からして舌先三寸ではないのは確かだが何かが妙である。本当に改心したのだろうか。

 だが、確かめる術が無い以上は平行線である。今は彼の気が済むまでやらせようと、皆は断念し刺激しない方向で行く事になったのであった。

 そんな中、『WALKER』は何をしているのか。

 

「……ウォーカー? お前……何をやってる?」

 

『ゲーム●ーイです。ソフトはテ●リスですね。隆道が買ってくれて昨日届きました。知恵の輪も面白いですがこれも中々──』

 

「だから授業中にやるなと言ってるんだっ!! いい加減にしろっ!! ゲームやってないで柳を止めたらどうだっ!!」

 

『拒否。何度でも言いますけど私は隆道の命令を受けてますし他の人間共からは受け付けません。そもそも音は消していますし邪魔してませんが。自分の仕事に集中してろズボラ女』

 

「ズボ……!? おっお前、ホント……!!」

 

 相変わらずやりたい放題であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで昼時。

 

「──って訳。ブリュンヒルデはもうブチギレ。ありゃ三十路になる前に皺まみれになるかもな。シカトすりゃいいものを……」

 

「他人よりも自分の心配しな? あんたもだいぶ疲れてるじゃないのさ。顔も少しばかり赤いし。最近ずっとそんな調子じゃない?」

 

「知恵熱ってヤツな……。ああ、しんど……」

 

『隆道。知恵熱というのは生後六、七ヶ月過ぎた頃の乳児に見られる原因不明の発熱を指します。正しくはストレス性高体温症です。単純に勉強のし過ぎでは?』

 

「だってさ。また賢くなったね」

 

「……ご指摘どうも……」

 

 午前の授業から漸く解放された隆道は真っ先に教室から脱出。脱兎の如く購買に直行していた。今は購買の女性と駄弁り中である。

 ちなみだが、行動する際の同伴者は未だ必須。お蔭様でシャルロットとラウラは必死に追い掛け入口の辺りでご臨終、息を切らしていた。隆道の俊足は代表候補生をも超えるらしい。

 

「……な、何故だ。何故そんな早……ゲホッ」

 

「ゴホ……さっきのアレ何……? 三角飛び? 何で出来るの……? 意味分からない……」

 

「何したのさ?」

 

「他の奴もぞろぞろ出て邪魔だったからな……。壁蹴って飛び越えたり隙間を滑り込んだり……」

 

「●ASUKEに出れば世界取れるよ、あんた」

 

 隆道の特技がまた一つ明らかに。

 廊下と階段は三角飛びで生徒達を華麗に通過。時に手すりを使って体操選手染みた曲芸を駆使しシャルロットとラウラを瞬く間に置いていった。道中出会した教員が制止すべく立ちはだかるも、野球選手並みの滑り込みにより難なく回避。誰も彼を捕まえられなかったのであった。

 唯一彼に付いて来れたのは『WALKER』のみ。見た目とは裏腹にかなり素早く、跳躍力も抜群。人間という名の障害物を全て回避し彼の行く道を余裕で切り抜けていた。凄い性能だ。

 シャルロットもラウラも決して身体能力が低い訳ではない。寧ろ代表候補生故に高く、ラウラに至っては軍人でもある。彼女達も運動には自信がある方なのだが──それでも彼の方が凄かった。

 

「足は自信あんだよ……。鬼ごっことかで中高はひたすら走りまくったからな……」

 

『隆道はパルクールが得意なのですね』

 

「これでもだいぶ鈍ってると思うんだがな……。昔は家の屋根から屋根に飛んだりして逃げたりも追い掛けもしたもんだ……。三階から飛び降りも楽勝だったんだが今はどうだか……」

 

「あれ? 鬼ごっこの話よね?」

 

 そう、隆道の動きは『髑髏』で得たもの。

 中学時代、高校時代。『飼い犬』達から必死に逃げ続け、時には何処までも追い続け。それ等を死に物狂いで続けた結果として、彼は化け物並の身体能力を手に入れていた。

 障害物を使い、足場の無い場所では飛び越え、高所からは飛び降りて。そんな苛烈過ぎる逃走を繰り返せば自然と身に付くもの。最初こそ無傷で済まなかったが、時が経つに連れて彼は誰よりも逃げに特化した動きが出来るようになっていた。そして──その逆もまた然り。

 逃走に特化したなら追跡にも特化。当時の彼は皆が恐れ戦く『白髪の髑髏』と呼ばれた狂人だ。ありとあらゆるものを活用し、獲物と定めた者を何処までも追い掛けて追い詰めて地獄に落とす。逃げで培った経験は狩りで大いに有効であった。

 並の人間なら直ぐに追い付かれる。障害物等を使っても直ぐに追い付かれる。時折建物を伝って先回りされる。その場で逃げ切ってもその後直ぐ追われて振り出しに戻り、その内に詰む。彼から逃げ切れる者は一人もいなかった。

 当の本人は鈍ったと言う。しかし、ここ最近の事件の連続によって無意識に取り戻しつつある。身体だけでなく、心までも──。

 

「俺んとこの鬼ごっこはそういうもんなの……。それより食いもんくれ、疲れに効くヤツ……」

 

「……自家製のはちみつレモンあるけどどう? 部活の子に売ってるヤツ。はい、箸」

 

「貰う。……うんまっ。コレいくら?」

 

「あんたとの仲さ。言わせるつもりかい?」

 

「……毎度ありがとさん」

 

 今ではこの女性も隆道の数少ない話し相手だ。四月から通い詰めていた彼は今では最早常連客の中の常連客。足を運ぶ度にこうして雑談するまで打ち解ける仲にまでなっていた。

 最初こそは買うだけ買ってそそくさと退散する素っ気ない取引でしかなかった。最低限に必要な物だけを伝え、受け取るや否や速攻さよなら。コミュニケーションはゼロであった。

 会話なぞ全く無い、飽くまでも店員と客という至極当然の関係。だがしかし、それが逆に彼にはある種の安らぎに近いものであった。

 対価を払えば望むものをくれる。此方の領域に踏み込んでこない。男性IS操縦者としてではなく客として接してくれる。それが至って普通な事で至って当然な事であろうが、擦り切れてしまった彼にとって何れ程助かったか。これが問答無用でずけずけと迫る人間だったならまた違った未来があったかもしれない。

 何より、胃袋を掴まされたのがかなり大きい。美味い食事の虜になった彼は昼食といえばここと必ず来るようになっていた。それを繰り返す内に口数は少しずつ増え、気づけばここまでの仲に。やはり飯は強かった。

 

「あ。そういや()()、届いてるか?」

 

『隆道。まさか?』

 

「ええ、ここにあるさ。……ほら」

 

『それです。ください』

 

 そう言って購買の女性は足元から大きめの箱を取り出した。少し重そうな様子からに結構な物が詰まっている模様。どうやら代理として買い物を頼んでいたらしい。

 それを見た隆道は満面の笑み。『WALKER』はさっさと寄越せと言わんばかりにアームを掲げて催促した。中には何が入っているのやら。

 

「金足りたか?」

 

「当然さ。セール品もあったから寧ろ余ったよ。これ領収書ね」

 

「…………。ほー、買い物上手いんだな。んじゃその余った金で今日イチ推しの飯をくれ。残りは手間賃で良いぞ」

 

「うーわ太っ腹。……じゃあ、コレとコレ──」

 

 付かず離れずの関係。いや、彼等はそれ以上になりつつあるのかもしれない。今は少なくとも、彼の数少ない安らぎであるのは間違いなかった。

 

「ねえねえウォーカーくん。君、小遣い稼ぎとか興味ないかい? うちでアルバイトとかどう? 織斑先生が良しって言えば来てくれるかな?」

 

『アルバイトですか。興味があります』

 

「変な事教えんなよな。コイツ、何でもかんでも知りたがるんだからよ」

 

「「え、まだ無視する?」」

 

 最早お約束である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。学園内のリラクゼーション・エリア(名ばかり意識高い系の単なる広場)で二つのエンジン音が響く。

 

「あっっっっっちぃ、なあ……」

 

『現在の気温は三十ニ度、昨日と比較して二度の上昇です。熱中症に注意を』

 

「地獄かよ。だりぃからさっさと終わらすぞ」

 

『了解』

 

 隆道達は草刈りをしていた。

 上半身はタンクトップ一枚。筋肉隆々な身体に汗を滴し、エンジン式刈り払い機で芝生を着々と刈っていく。時折にぶら下げた小型の水筒を口に含んで汗を拭い、強い日差しに苛立ちつつも黙々刈り続けていく。彼が通り過ぎた所はまっさらで美しい芝生に。

 『WALKER』も彼と同じ刈り払い機で草刈り。ボディに熊手や送風機等の道具を紐で括り付け、刈って集めて吹いてとあちこち行ったり来たりで草刈りしている。此方も負けず劣らずフラットな芝生が美しい。その代わりボディは草と土で相当汚れまくっていた。

 彼等は丁寧且つ迅速に黙々と草刈りを続ける。端から端まで刈り続け、芝草が詰まったゴミ袋は既に超山盛り。一人と一機の共同作業は完璧とも言える芝生を作り上げていった。業者かよ。

 

「熊手」

 

『どうぞ』

 

「…………。おっし、ブロワー」

 

『先にガソリン入れてきます』

 

 何故、彼等がこんな事をしているのか。

 この草刈り、勿論の事好き好んでやっている訳ではなく、隆道に課せられた罰の一つであった。

 臨海学校で起こした数々の重罪。身柄の拘束、専用機の没収、追放等が事実上不可能であった。そんな彼に与えられた罰、それが草刈り。つまりIS学園への奉仕活動だ。他には雑用やら清掃やら主に肉体労働が決まった。

 処罰が確立した際にいつも通りに反抗されると思いきや、彼は二つ返事で承諾。悪態などつかずこうして奉仕活動に勤しんでいる、という訳だ。あまりにも今までの彼と違い過ぎるが故に教員や生徒達は逆に心配になったとかないとか。

 ちなみにだが、奉仕活動は既に三日目。授業は死ぬ気で取り組んで放課後は炎天下で奉仕活動。本当にどうしたというのだ、この男は。

 

『隆道、人間共が昨日よりも一割増えています。視線の割合は隆道が七割、私が三割です』

 

「よく飽きねえよなあいつら……。こんなの見て何が面白えってんだよホントによ……。こちとらただ草刈ってるだけだっつーの……」

 

『また何か騒いでいますね。特に隆道を見ている人間共が。口の動きから読み取ると、あの筋肉に抱かれ──』

 

「言うな言うな何も言うな。もう無視しろって」

 

 珍奇。だからこそ生徒達を引き寄せる。

 筋肉バキバキタンクトップ姿で草を刈る隆道。汚れなど気にせずせかせかと働く『WALKER』。未だに生徒達から注目される一人と一機は更なる注目を浴びまくっていた。

 男子とロボットが奉仕活動というワードだけで十分興味を唆られた生徒は遠巻きに眺めに来る。初めは『WALKER』の方が関心が強かった生徒の多数は──滅多に見れない彼の肉体に釘付けに。中には限界突破してピンクな妄想に入った生徒もいたり()()()()が捗ったりした生徒がいたり。

 彼は確かに危険人物である。だがしかし、直接関わらなければ当然被害なんて無いものなのだ。歳上、それなりの顔立ち、そして凄まじい身体。これ等を揃えた隆道は一夏程でなくとも一定数の生徒を魅了していたのであった。

 

「ああっ! いけませんわそんなお姿……!!」

 

「何だコイツ!?」

 

「そっとしてやってくれるか?」

 

 どうでもいい事だが、何処かの英国馬鹿貴族も魅了されたというか限界突破したというか。

 

「……はぁ、終わり終わり。あとは指示待ちだ。流石にもうねえだろうけど」

 

『了解。予定より早く終わりましたね。用務員の到着予定まで約五分の余裕があります』

 

「あいよ──うわっ、お前また汚くしやがって。洗うの大変なんだぞ」

 

『こればかりは私でもどうしようもありません。今日もよろしくお願いします』

 

「くっそ……」

 

 確定。もう一仕事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、物陰から顔を出す生徒が一人。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 その生徒、かなり特徴的であった。

 リボンは一年を指し示す青。内側に向く癖毛の水色なセミロングに長方形の眼鏡。そして何やらISのヘッドギアらしきメカが取り付いていた。

 

 

 

「あれが……」

 

 

 

 その生徒が見詰めるのは一点。先程からずっと『ソレ』から目を離さず、何故か頬を染めて。

 

 

 

「……格好いい」

 

 

 

 視線の先は──隆道と『WALKER』。

 

 

 

「いいなぁ……! 格好いいなぁ……!」

 

 

 

 またしても厄介事の予感。

 




ウォーカーはパズルが大好き。
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