IS~傷だらけの鋼~   作:F-N

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前回から一年以上……!? 遅過ぎる……!!


第六十一話

 隆道と『WALKER』の朝は早い。

 

「ぎゃぱぱぱばばばぁぁぁっっっ!?!?!?」

 

 皆が絶賛おねんね鼻ちょうちん中である早朝。隆道は唐突な激痛に襲われて目覚める。

 その元凶は当然『WALKER』。このロボット、なんとあの有名な護身用具──スタンガンを彼の身体に押し当てていた。朝っぱらから何してんだコイツは。

 

『朝です。起きて下さい』

 

「べべべべべっべべべべべぇぇぇぇぇい゛っでっい゛っででででででぇぇぇぇななな何なになに゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っっっ!?!?!?」

 

 主の悲鳴もまるでお構い無し。『WALKER』は隆道の悲鳴をガン無視し今も尚当て続けている。ダメージが余程凄まじいのか、彼の口から泡が。絵面がとてもヤバい。

 早朝故に未だ暗い部屋も連続するフラッシュでとんでもなく明るい空間に。けたたましい雷響と眩い閃光からしてその威力は相当なものだろう。いや本当に何してんだ。

 

『起きて♡起きて♡起きて♡』

 

「ヴヴヴヴヴ起ぎだ!! も゛う゛起ぎだ!! お゛お゛お゛ぎだか゛ら゛も゛う゛止めろ止めろろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ろ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛──」

 

『おはようございます』

 

 隆道の切実なる叫びで雷響はピタリと止んだ。ビクンビクンと痙攣する泡吹いた隆道と、それをじーっと見詰める『WALKER』。心配する様子も無く、スタンガンをアーム内へと格納。しれっと何事も無かったかの様に朝の支度をし始めた。

 制服等の衣類や鞄は既に卓上。おまけに朝食も用意されており、ケトルも今しがた沸いた模様。全部レトルトや缶詰類だが、温められて出来立てばりに湯気が立ち込め食欲をそそりまくる香りを漂わせていた。多目的無人機とはいえ、ここまで便利だとは。でも朝からスタンガンは絶対嫌だ。

 

『気分はどうですか?』

 

「……もう最悪。……なあ、今のもしかして……スタンガン、か……? 何でだよ……」

 

『起きる気配が全く無かったので。叩き起こせと言ったのは隆道です』

 

 だからといってモーニングスタンガンを決行は如何なものか。普通なら思い付かないしやろうとしないのだが。

 

「痛過ぎる……動けねえ……。テーザガンの方がマシってどういうことだよ……」

 

『確実な無力化が出来るよう改造しましたので。これでも威力は最低に設定しているんですよ? ちなみに織斑千冬にも効果的です』

 

「一番低くてこれか──え、ブリュンヒルデにも効くっての? それを俺に? 嘘だろ?」

 

『嘘ではありません。威力検証として三十分前に織斑千冬の部屋に侵入し丁度良く寝ている本人に最低出力と最大出力をぶちこんで無力化に成功。あの様子では暫く身動きが取れないでしょう』

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「ウォォォォォカァァァァァッッッ……!!! や゛、やって、くれた、なぁっっっ……!!! 今日という今日はホントに、あ゛っ……ホントに許さんぞっっっ……!!! おぼえてい、ろ……うっがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」

 

 千冬は激怒した。

 必ず、かの傍若無人のロボを除かねばならぬと決意した。

 千冬にはAIがわからぬ。

 千冬は、元IS操縦者の教師である。

 数多の生徒を厳しく指導し、感情を表に出さず生活していた。

 けれども侮蔑に対しては、人一倍──というかここ最近数倍敏感であった。

 つまりマジギレ。束関係を除けば過去一。

 

「ぐぅぅぅ……。朝、間に合う、か……?」

 

 その日、千冬は出勤に遅れそうになったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌気差しまくり容赦無さ過ぎの酷暑が連続する七月の後半。生徒達はその暑さにやられながらも夏休みを今か今かと待ち焦がれていた。その間も学業を怠らないのは勿論である。一切の隙無し。

 普通学科は当然の事ながらISの座学実技双方も抜かりは無い。実は臨海学校翌週に期末テストが行われていたのだが、彼女達は難なくとクリア。フリーダム夏休みは約束されたも同然であった。尚、当時の様子は特に面白味も無い為割愛する。黙々とペンを走らせる光景なぞ何も面白くない。日常系じゃあるまいし。

 強いて語るなら、隆道だけ余裕の全教科赤点。無慈悲にも夏休み中の補習授業は確定していた。無駄に反抗して突っぱねたりサボったりするから後々ツケが回ってくるのだ。希少価値が超絶高い男性操縦者だからといっても都合良く免除される事はなかった。馬鹿め。

 そもそもの話、勉強嫌いな上に犯罪に片足処か全身を突っ込んでいるような反社会的で暴力的なクソガキがエリート校の授業に付いていける訳がなかったのだ。くそったれな環境下で生きてきたくそったれな輩が優等生と同じ土俵にいる事自体間違いである。場違いにも甚だしい。彼の赤点は予測可能回避不可能、必然であった。残当隆道。

 無論、一夏は問題無し。勤勉である彼の順位は中の中辺り、肝心のIS関連についても今では赤点回避出来るレベルなのであった。頭の出来すらもこの差よ。憐れ隆道。

 

『ま……まさか、普通科も全滅だったとは……。ちなみに高校の時は……?』

 

『ギリで回避してた。つっても底辺高校だからの話であって……はあ、こうなるのは分かってたっつーの……。言わせんなよ……』

 

『オーケーよく分かりましたすいませ……ん? え、は? いや……何で実弾系統の銃火器関連は全問正解なんですかね……? この辺りの範囲は柳さんが休んだ時にやったとこですけど……』

 

『ん……? ……あー、知り合いにいるんだよ、()()()()()()()()()奴らが……。そいつら無駄にひけらかすもんだから覚えちまったっつー……。ま、おかげさまで役に立ったの──いやそんなのどうでもいいかな。そこだけ出来たって赤点じゃ全っ然意味ねーしなあ……』

 

『は、はぁ……。ま、これから頑張りましょう。俺も付き合いますから』

 

 尚、流石に白紙ではなかった模様。謎に知識が偏っていたりほんの一瞬言葉を詰まらせたり等と変な怪しさもあったが、オール赤点があまりにも衝撃的過ぎた故に一夏は秒で気にせず、翌日には記憶からすっぱり消えたとか。

 ISの勉強、処罰の奉仕活動、補習授業の確定。ほぼほぼ自業自得であり自主的に行動するようになったとは言え、苛烈で強烈なストレスが今後も続く事に隆道は苦しむ。これからも彼は呪い並の苦境に耐え忍ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七月十九日、火曜。

 

「あ゛あ゛あ゛今日からまた始まっちまう……。もうだりぃ……」

 

「休み明けなのに早過ぎませんかね。今日含めて四日もあるんですけど」

 

「分かってるわ。ただの愚痴だろうがそんくらい分かれよボケカスアホ……アホ斑」

 

「!?」

 

『ボケカスアホアホ斑? ……成る程、アホ斑の派生型ですか。一層と阿保さが際立ってますね。私もそう呼ばせていただきます。改めてよろしくボケカスアホアホ斑』

 

「!?!?!?」

 

「「んふふっ……」」

 

 今日もIS学園は賑やかに始まる。

 机に突っ伏して何の脈絡もなく毒を吐く隆道。それに便乗する『WALKER』。両者から貶される何一つ悪くない一夏。唐突な罵倒と蔑称に不意を突かれ吹きそうになる箒。その直ぐ後ろで同じく吹きそうになるセシリア。いつも通り姦し過ぎる教室に彼等も溶け込んでいた。

 隆道を畏怖する生徒はこのクラスにはいない。隆道の方も警戒心も敵意も憎悪も無い。殺伐した空気は今となっては一切と無い。会話する人間は相変わらず極少数だが入学初期と比べれば大きな変化であろう。

 誤解を招く前に再び釘を刺しておくが、隆道とセシリアは未だ和解せず。彼の徹底した無視故に関係改善は全くと進歩していなかった。いい加減和解しても良いのではないかと思うであろうが、それを決めるのは他者ではなく隆道本人だけだ。他者が口を出す筋合いは無い。不憫な女だが今は一夏の方が断然不憫なのでセシリアに関する話は一旦放置する。ここで語る価値無し。第一印象は大事だね。残念だね。

 シャルロットとラウラ? 彼女達はまだ飯時。

 鈴音? 他クラスの人間なんて知らん。文句は割り振った奴に言え。

 

「だからさウォーカー! 馬鹿斑とかアホ斑とかそういう変な渾名で呼ぶのやめてくれってば! いちいち柳さんの真似しなくてもいいって!! てか柳さんも柳さんですよ!! 何でもかんでも真似されるの分かっててやってます──あっ! 何あからさまに顔を背けてんですか!! 絶対に笑ってるよ!!」

 

『落ち着いたらどうですかボケカスアホアホ斑。別に良いではないですか。渾名はその人の特徴を捉えて軽蔑か親愛の意図で付ける名前──』

 

「軽蔑! 軽蔑言った! 今軽蔑言ったぁ!! 前のも今のも軽蔑の意図になるんだけどぉ!?」

 

『はい』

 

「!?!?!?!?!?」

 

 はいじゃないが。

 まさかのノータイム肯定が炸裂。一夏は絶句し目ん玉をひん剥いた。思いやりなんて無かった。一方隆道は笑いを堪えていた。何白を切ってんだコイツは。

 

「え、な……。ごめ……今、何て?」

 

『私は『はい』と言いま……はいっつってんだろ聞こえねえのかテメーコノヤロウその耳は飾りか引き千切ってやろうかコラ』

 

 急に『WALKER』の口が悪くなった。というか何で態々言い直した。急にどうした。

 遠巻きに見ていた生徒達はその豹変にぎょっとする──事もなく、今日は一段と口が悪いなーとあまり気にしていない様子。もう慣れていた。

 が、しかし。その豹変に未だ慣れない者が。

 

「ッ……!! ッッッ……!!!」

 

「うわまずい! セシリアがツボに入ったぞ! やめろウォーカー!! それ以上は!!」

 

 箒の声は届かない。既に詰みである。

 この無人機を侮るなかれ。コイツは二十四時間あらゆる事を学ぼうとし、それを実行したがる。良し悪し関係無く。時折に出る口の悪さは隆道やインターネットから学んだ故にである。

 残念ながらそれを指摘する者はここにいない。奇怪な言葉遣いを学んでしまった『WALKER』は今、()()()を試みている。

 

 

 

 なんと『精神攻撃』。つまり罵倒。

 

 

 

 どうして? 特に理由など無い。善行だろうが悪行だろうが奇行だろうが学ぶと何の脈絡もなく実行したがる。なんてくっそ迷惑な好奇心。

 

 

 

 しかと見よ。この無人機が繰り出す罵倒を。

 

 

 

『自身が賢い人間だと自負していたのですか? 理解出来な過ぎて思考回路がショート寸前です。私は本気で馬鹿にしてるんだ自意識過剰クソボケゴミカス腐れ脳味噌低能が調子乗ってんじゃねぇテメーは私の下だ義務教育を最初からやり直しなバーカバーカバーカ』

 

 

 

 カスみたいな低レベルだった。

 

 

 

「────」

 

『どうしました、まさかまだおねんね中ですか。だから寝言が言えるのですか早く起きろやテメーここで永眠させるぞボケカスアホアホ斑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死──』

 

「ぶふぁっっっ!! ばぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛っっっはあああぁぁぁっっっ!!!」

 

「ああっもう……」

 

(((((うっわぁ……)))))

 

 罵倒の嵐。セシリア爆発。一夏の目は死んだ。

 おしとやかな印象の声なのに淡々で且つ内容がエグ過ぎる。それだけでもギャップでキツいのに有無を言わさずの畳み掛けはセシリアのドツボにストライク、少女一人の大爆笑が教室に轟いた。箒は天を仰ぎ、生徒達は皆引き攣った顔と化す。もう淑女のしの字も無いな、この女。

 と、それから直ぐ我に返ったセシリアは自身の醜態に気づいてかたつむりの如くしゃがみこんでしまった。顔はもう真っ赤。何か可哀想。

 

『死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑──』

 

 コイツまだ言ってる。

 

「んふ……んふふ……ふへっ」

 

 一方、隆道の方は止める素振りがまるで無し。机に突っ伏したまま超必死に笑いを堪えていた。痙攣して死にかけていた。何知らんぷりしてんだクソガキこの野郎。早く止めろよ。

 それにしてもこの無人機、日毎に流暢に喋るし口の悪さも頻度が上がりつつある。おかげさまで教員達はタジタジで千冬はブチギレエブリデイ。今日もまたブチギレるかもしれない。

 

「…………。あ、渾名、付けるならさ、出来れば親愛の方で付けてくれると、なーって」

 

『死刑しけ……ふむ。お気に召さないのであればワンサマーはどうでしょうか? 英語に変換した簡易的な渾名ですよ。カタカナ語を多用しがちなイキリ日本人に好評を博すかと見受けられます。人気者に箔が付くでしょう』

 

「────」

 

『どうかしました?』

 

 硬直。一夏は困惑から一変して能面の様に。

 

「ごめん、ワンサマーは本当にやめてくれ……。よく分からないけど、なんか、すっげー傷付く。うん、すっげーヤダな……」

 

『何故ですかワンサマー?』

 

「ぐぅ……いや、俺も全然分からないって……。でも無理ホント無理……。ごめん、キツい……」

 

 一夏は天を仰いだ。うっすら涙を垂らして。

 どうやら本気で傷付いたらしい。相当嫌なのか拒絶感が凄まじく、手で静止してしまっていた。軽蔑と全く結び付かない気がするがコレばかりは駄目な模様。まるで過去に大多数から散々とそう呼ばれ貶されてきた様な否定ぶりだ。当の本人はよく分かっていないようだが何故だろうか。

 

「……悪かった、俺が悪かったよ。ウォーカー、織斑には渾名呼び禁止な。罵倒も駄目だ」

 

『了解。ちなみにもう一つ渾名を考えてまして。一夏の夏と日本人の蔑称、これ等を合わせます。そう、名付けてサマージャップ──』

 

「駄目だっつってんだろうがぶっ壊すぞてめえ」

 

『それは困りますね。了解、留意します』

 

「……泣けるぜ」

 

 本当に酷い渾名(蔑称)だ。これでも本機は悪気無しというかそもそも善悪の概念が無いのだからたちが悪い。ちゃんと教育しろ隆道。お前のせいだぞ。

 

「相変わらずだな……。まぁ、そう気を落とすな一夏。セシリアのブリカスライムよりはマシ──あっ」

 

「箒さん? それについて詳しく」

 

 当然お蔵入りである。箒はセシリアに首根っこ掴まれて連行、廊下へと消えた。合掌。

 ちなみにだが、何処ぞのSNSでは入学初日での変な疑惑が広まり、一夏は一部の腐った人間からホモだのゲイだのと呼ばれていた。最悪だった。一方の隆道は──いや、語るのは止めておこう。人生、知らない方が良い事もある。

 

『質問。何か間違っていましたか?』

 

「最初から全部な。織斑を罵倒してどうすんだよバカタレ。罵倒するなら相手は選びな」

 

『了解。では試験対象を再選抜。……選抜完了。分かりました、次は織斑千冬にばと──』

 

「ぜってーめんどくせー事になるから駄目」

 

『了解』

 

 クソガキ代表とも言える隆道もこれには流石にNO一択である。そんな事をしてしまったら千冬のブチギレエブリデイがブチギレオールウェイズに変化待った無しだろう。何かと余計な事ばかりで迷惑極まりないな、このロボットは。

 そんな事など石ころ並にどうだっていいのだ。怒り狂った千冬なぞ今となっては見飽きている。それは隆道だけでなく一組一同の総意でもある。一組は結構図太くなっていた。強い。

 

「はあ……。織斑、今日の授業なんだっけ」

 

「え? あー午前は普通科で午後は銃器取り扱い実習です。ISの訓練はいつになるのでしょうね。俺達のISだって手付かずですのに」

 

「仕方ねえんじゃね、あいつらのIS直ってねえわ教師はバタバタしてるわで全然人いねーんだし。調査うんぬんで夏休み全部無くなったりして……いやそもそもよ、俺らって夏休みとかあんの? 外出れんの? なんか無理臭くね?」

 

「……あっ! 嘘でしょ? え、嘘ですよね? いやそんな筈はないですよね? ……う゛あ゛あ゛どうか夏休みだけは夏休みだけは……」

 

『切実ですね』

 

 隆道達はここ暫くISの操縦をしていない。

 訓練処か早急にすべき調査すら行っていない。臨海学校後にデータ採取を行って以降稼働厳禁。IS実技も一学期は全学年無しになり、それに伴い調査も一時的に保留となっていた。

 代表候補生達のISは未だ修復中。千冬を筆頭に教員達は業務や対応等に追われっぱなしの毎日。八月が迫っているのもあって教員達は一向に手が空かなくなった。例え空いたとて隆道達の訓練や調査に携われるかは全く別の話。やるとするなら夏休みが始まってからしかないであろう。

 外側も然り。相次ぐ事件や情報の解決隠匿転嫁等々と薄汚いくそったれな大人達の攻防が激しくぶつかり合い隆道達に構っている暇なんて無し。その最中一部が好機だと捉えて出し抜こうとし、妨害し、牽制し、また一部が出し抜こうと各地でいたちごっこが繰り広げられている。最早これは戦争と言っても過言ではなかった。ISコアたった一個でも血みどろな取り合いになるというのに、それを遥かに上回る稀少価値が出ればどうなるかなんて猿でも分かるだろう。世の中手取り足取りフレンドリーは無理なのだ。

 各々思うところはあると思うがどうか分かって欲しい。何もしないではなく何も出来ないのだ。事件の滞積によって何処も人手不足。諸々の件を終わらせるまで彼等のIS事情は一旦保留するしか選択肢が無いのであった。取り敢えず、引っ掻き回したあの天災が悪い。全部悪い。謝罪しろ。

 

『隆道、そろそろ時間なので行って来ます』

 

「あん? ああ行ってら。迷惑掛けんなよ」

 

『勿論です。では後程』

 

「「「「「え?」」」」」

 

『はい退いてください退いてくださいー』

 

 ここで思わぬ動きが。

 『WALKER』は軽く手を振って隆道から離脱。何をするのかと思えば生徒を掻き分けそそくさと教室から出ていった。やり取りからして何処かへ出掛けたようだ。

 ふと、皆は疑問に思う。決して彼から離れずに行動していた無人機がこうも簡単に離れるとは。一体何処へ?

 

「ウォーカーは何処へ?」

 

「……バイト」

 

「バイト!?」

 

(((((バイト!?!?!?)))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前十時頃。購買店内。

 

「ホント助かったぁ~! やっぱり二人でやると楽ねぇ! あ、この場合一人と一機?」

 

『伝われば良いと思います。おかわりどうぞ』

 

「あ~り~が~とっ」

 

 レジの奥でこ機嫌に茶を啜り寛ぐ購買の女性。その側でピッチャーとお茶請けを持って持て成し姿勢の『WALKER』。お互いに動く気全く無しのこれまた新しいコンビがそこにいた。

 いつもならこの時間帯は品出しの真っ盛りだが彼女達に仕事する素振りなぞ無い。端から見れば盛大にサボり散らかしている様にも見える。

 だがしかし心配御無用。これはサボりではなく休憩。業務は既に終わらせている。

 

「しっかしこんなに早く終わっちゃうなんてさ。君、思ったより全然動けるのね」

 

『私は多目的を想定して造られましたので簡単な作業は余裕です。品物の配置はここに何度も来たお陰で覚えました。常連様々です』

 

「あっらまぁいつもご利用ありがとうございます奥さま。今日のお昼は期待してくださいねぇ」

 

『奥様とは? 私の事を指しているのですか? 配偶者になった覚えはありませんが。それ以前に私は無人機であって性別という概念は──』

 

「こういうノリはまだ分かんないかぁ……」

 

 隆道の言っていたのはコレの事。

 『WALKER』は購買店のアルバイトを始めた。実習無しの午前限定で主な業務は運搬と品出し。兵器と自負するロボットがまさかアルバイトにも手を出すとは。どこまで好奇心旺盛なのだ。

 賃金は無いが、代わりとして購買での買い物が一定額無料になったりおかず類がおまけされたりその他諸々サービスとなったり。購買での隆道は超VIPになった。

 当然千冬も把握済み。話を聞いた当時の彼女はそれはもう良い顔しなかったのだが、いざ面接に同席してみると礼儀正しいわ物分かりは良いわと自身の時と真逆過ぎる態度を取る『WALKER』に吃驚仰天。この事実に彼女は胸糞悪くなった。

 皆はこう思う筈だ。何れ購買の女性にも失礼な態度を取るのではないかと。いつものえげつない毒を吐くのではないかと。

 

『そうかそうか。つまり、日頃のふざけた態度はわざとと捉えていいんだなぁ……!?』

 

『語弊がありますね。私は利点が無い人間相手に敬う必要性は無いと判断しているだけですから。ネームバリューだけに釣られて胡麻擂りや畏まる浅ましい人間共とは違うのです。残念でした』

 

『あ~、織斑先生とは仲良くした方が良いんじゃないかい? 色々と融通が利くかもよ?』

 

『隆道が言っていました。一度下手に出たら一生ナメられると。此方の行動を阻害される可能性を考慮して拒否します。融通が利く人間なんて他にいますので織斑千冬はノーセンキューですから。おととい来やがれカス。酒でも飲んで寝てろ』

 

『あ゛?』

 

 否。『WALKER』は、なんと人を選んで態度を変えていた。案の定千冬はブチギレたが、他人の心情や都合なんて知ったこっちゃないを地で行くこのロボットには何一つ効かなかった。

 補足だが、『WALKER』はアルバイトの許可を学園長から既に貰っていたりする。いつの間に。

 

『この後はどうしますか? 指示をください』

 

「うーん、ぶっちゃけ君の仕事はもう終わりさ。彼の所に戻る?」

 

『契約時間内は残ります。隆道からもそう指示を受けていますので。どうぞ過労死させるレベルで私をこき使って下さい』

 

「そんな台詞言わないからね普通は。駄目よ? 余所でそんな事言っちゃ」

 

 『WALKER』は予想以上に仕事が出来ていた。往復が必要な運搬はロボットならではのパワーでゼロに短縮。品出しも簡単な指示を出しただけで迅速、その上正確に行うものだから彼女の出番は事務作業以外ほぼ無かった。明日以降には更なる作業短縮が出来るだろう。

 ぶっちゃけ暇になったのだ。早めの昼休憩だと考えても生徒達が来るまでに二時間以上もある。業務を早く終わらせられるのはとても良い事だが急激に時間が余ると途方に暮れてしまうものだ。何か名案はないだろうかと彼女は考えに耽った。

 

「ウォーカーくん暇な時は何してる? やっぱりゲーム?」

 

『待機時はパズルか携帯ゲーム機で遊んでます。隆道からスマホを借りてネットも少々』

 

「相変わらず好きなのねぇ。ボードゲームとかもハマったらおもちゃだらけの部屋になりそう」

 

『ボードゲームは既に幾つか買ってくれました。今日の夕方に届く予定です。俺の部屋を玩具屋にする気かと隆道に文句言われました』

 

「あっはっはっ、手遅れだったかぁー」

 

 このままお喋りで時間を潰すのも有りだろう。好奇心旺盛な無人機なのだから退屈なんてものは無縁も無縁──。

 

「あ!」

 

『どうかしましたか?』

 

 この時、彼女に一つの閃きが。

 

「ウォーカーくん。この時間を使ってお勉強でもしてみない?」

 

『勉強ですか。興味が湧きませんね』

 

「んーやっ。勉強は勉強でもぉ……」

 

 彼女は店内の奥へと消え──秒で戻って来た。それなりに分厚い一冊の本を携えて。

 『WALKER』の視線は自然に本へと一点集中。その反応を見逃さなかった彼女は表紙を突き出し見せ付けた。

 

「じゃーん!! ……どう?」

 

『……成る程、興味が湧きました』

 

 『WALKER』は理解する。彼女が何をさせようとしているのかを。何を求めているのかを。

 ソレは──『WALKER』の好奇心を刺激した。

 

『是非ご教授をお願いします、卜部ささら店長』

 

「……やっぱり、その呼び名しっくりこないね。無難に店長にしよ? うん、店長とお呼び」

 

 超今更だが彼女の名は卜部(うらべ)ささら。二十五歳でなんと二児の母である。

 

 

 

 ささらが持つ本にはこう示されている。

 

 

 

 ──『胃袋を鷲掴む料理のすゝめ』──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は飛んで午後の実習。

 ISの操縦において習得しなければならないのは多々ある。その一つが銃器の取り扱いとなる。

 ISで運用する射撃兵装は今でこそ技術を詰めた光学兵器等が見られるが、実弾を用いた銃火器は今も尚健在。主力兵装として未だに活用される。

 操作方法に違いあれど、それ等のカテゴリーは共通して『銃』である事に違いはない。想定外の死亡、負傷、暴発等の危険を排除、最小化にして安全に取り扱うのも当然の義務である。

 銃器の仕組みに弾薬の仕組みにその取り扱い。これ等を学ぶべく座学だけでなく実技も不可欠。実際に触れてこそ技術や知識は身に付くものだ。知らずして運用なぞIS操縦者の資格は無い。

 ただし、仕組みや取り扱いを学ぶのに態々ISでやる必要は無い。寧ろ、ISの補助や余計な知識が妨げとなって『銃』を軽く見るだろう。『銃』を深く理解しないだろう。

 何度でも述べよう。『銃』を学ぶのに態々ISは必要無い。身を以て知るには『生身』──。

 

「──うっ!?」

 

 室内に響く破裂する様な爆発音。イヤーマフを付けるジャージ姿の生徒はその音に大きく怯み、足を竦ませた。彼女の後方にいる何人かの生徒も差はあれどその爆発音に怯む。

 爆発音の出処は彼女からだけではない。彼女の横一列には他の生徒が一定間隔で並び、そこから不規則に爆発音が鳴り響いていた。その彼女達も爆発音が鳴る度に足を竦ませる。

 彼女達の手には──拳銃、小銃等の『銃』が。今も鳴り続ける爆発音の答えは銃声。

 そう、ここはIS学園の射撃訓練場。

 

「……この授業って何回かやってるよな」

 

「まぁ、それなりには。というか、柳さんが今日初めてこの実習に出た事実に驚いてますよ俺は。七月も終わるのに何ででしょう。不思議ですね」

 

「今までサボっててすいませんでしたねどうも。んで話戻すけど、毎回あんな感じか?」

 

「どうしても慣れない子だっていますし……」

 

 実習の最中、後方にて順番待ちの隆道と一夏は特にビビる様子もなくお喋り中。多数の生徒達が発砲音にビビり散らかしつつ真剣に取り組む中で彼等はしれっとしていた。

 慣れもあるだろう。イヤーマフも装備済み故に耳に悪影響も無い。しかし、素人の彼等がこうも無反応だと何処か恐ろしくある。隆道はまだしも一夏も平然とし過ぎではないだろうか。

 

『既に四ヶ月目ですのにゴミカスレベルですね。先が思いやられます』

 

「ゴミカスって……。ほら、この実習は飽くまで取り扱いの基礎訓練だから射撃の上手い下手とか別に……な?」

 

『評価に影響する以上無視出来ないと思います。確か項目に射撃成績というものがあった筈ですがそれでも関係無いと? 人間共の成績など私には関係無いので別に構いませんが』

 

「……伸び代があるって事で」

 

「いや短え期間で上手くなれは厳し過ぎるだろ。あんなもんだよあんなもん。知らねえけど」

 

 グループ分けされた生徒達は交代で射撃実習の真っ最中。二十メートル先の的に向け幾度となく発砲を続けているのだが──命中率は低かった。

 勇気を振り絞って引き金を引いたら当たらず。しっかり狙って漸く命中しても端しか当たらず。酷い者だと構えこそプロ宛らなのに掠りもせず。全員が全員そうという訳ではないが、下手くそは間違いなく多かった。

 代表候補生一行は当然これに該当しない。射撃特化のセシリアも、多芸多才のシャルロットも、軍人であるラウラも射撃精度は人間卒業レベルで非常に高め。それもあってか彼女達は今、指導の補佐として教員と共に生徒達に付いている。

 尚、彼女達の射撃の腕前はアレでも取り扱いに関しては模範的でそこは問題無しと弁明する。

 

『隆道。今日ボードゲームが届きますがどれから始めますか? 私はリバーシというものがとても気になります』

 

「いやいや駄目だぞウォーカー。柳さんてゲーム全般すっげー弱いし勝負にすらならないからさ。俺が相手するよ」

 

「何ナチュナルに喧嘩売ってんだよお前。お? やる気か?」

 

「そこ、お喋りは後にしろ。織斑、五番と交代」

 

「あ、はい。……よしっ」

 

 無駄話をしている内に一夏の番が来たらしい。彼はイヤーマフを付け直しながら緊張気味に射撃位置へと向かった。

 射撃の腕前は一体何れ程のものなのだろうか。拝見させてもらおうと隆道は一夏を見据え──。

 

 

 

 ──隆道。もしもし隆道。

 

 ──……いきなり()()()で話し掛けんなよな。せめて一言言ってからにしろ。

 

 ──それは失礼しました。それにしても応答が早く高精度ですね。記録更新です。

 

 ──そりゃどうも。しっかしまだ慣れねえな。つい口を動かしちまいそうだ。

 

 

 

 隆道の脳内に直接聞こえる『WALKER』の声。唐突に聞こえたソレを、彼は驚く素振りなどなく応答していく。その間の彼は一切口を動かさず。

 テレパシーではない。幻聴でもない。となればISの通信回線一択──なのだが、ソレでもない。コレは全くの別物だったりする。

 彼の命令しか受け付けない超迷惑掛けまくりで口悪いロボットと定評のある『WALKER』だが、実態は第三世代型ISに搭載される『特殊兵装』。異質過ぎて忘れがちだがセシリアのビット兵器、鈴音の空間圧作用兵器、ラウラの慣性停止兵器と同じカテゴリとなる。

 『特殊兵装』はイメージ・インターフェイスを用いた思考制御の兵器であるのは言うも更なり。『WALKER』も一応例外ではない。

 秘密は案の定『灰鋼』に有った。最新鋭のIS、熟練IS操縦者、優秀な技術者や野心的な研究員、邪心溢れる個人やら企業やら組織やら国家やら。挙げ句の果てに生みの親とも言える開発者すらに中指を立てて喧嘩を売りまくる彼の専用機には、まだまだ未曾有の機能が存在していた。

 

 ──そろそろ慣れて下さい。隆道の技能向上を図る為には経験度数を重ねる必要性があります。早速始めましょう。七月十九日十三時三十三分、三十八回目思考制御技能訓練開始。最初のお題は本日の昼食感想です。三、二、一。

 

 ──……えー今日の昼飯はBLTサンドでした。瑞々しいレタスとトマト、凄く肉厚なベーコンがこれでもかと贅沢に挟んでありました。ソースはサワークリームと粗挽きのマスタードで俺好みの味付けでした。とても美味しかったですマル。

 

 ──ノープロブレム。脳波強度、電波強度共に良好。乱れ等無し。思考制御問題無し。一問目の言語化は成功です。お見事。

 

 要は()()()()()()()()である。

 イメージ・インターフェイスによる電気信号を対話・インターフェイスで音声データへと変換。これにより隆道と『WALKER』は発声が不必要の会話が可能となった。必要とするのは特殊兵装と同じ集中力のみ。彼はこの機能を『思考通信』と名付けた。

 絶対に聞かれない、絶対に気づかれもしない。距離制限も無く、互いがどれだけ離れていようと影響は一切と無い。彼等は何時でも何処でも会話出来、割り込まれる事は絶対に無い。

 ログにも残る事は決して無い。更に思考制御の一環でしかない以上ハッキング等で傍受も不可。そもそも『A.S.H』がある以上先ず不可能であり、妨害しようにも『灰鋼』は対策済みだ。あの天災であろうと手出し出来ないこの思考通信は十全な機密性があると言えよう。

 

 ──訓練の成果ですね。初めの頃は何も言葉を出せなかったというのに。上達が凄く早いです。流石隆道。

 

 ──あれだけやってればな。あとはコレを維持くぁwせdrftgyふじこlp。

 

 ──聞き取れません。もう一度。

 

 ──縺?o縺セ縺倥°繧医?√b縺励b繝シ縺励?√b縺励b繝シ縺励??

 

 ──悪化しました。まるでエイリアン語です。聞いた事ありませんが。

 

 

 

 尚、隆道が使い熟せていないので台無し。

 

 

 

 ──褒めたのに速攻で乱してしまうとは……。成る程、それが所謂『ボケ』というヤツですか。流石隆道。

 

 ──縺?d縺。縺偵∴繧医?∝ー代@蠕?▲縺ヲ繧。縺ゅ?縺ゅ?縺ゅ?──あーあーあー。……なーにがさすが隆道だてめえこの。馬鹿にしやがってよ。すっげえ疲れるんだぞコレ。

 

 ──復旧を確認。やはりまだ無意識下の運用は難しいようですね。今後も続けていきましょう。持続は力なり、です。

 

 先程述べたように思考通信は特殊兵装の運用と同様に集中力を要する。集中力を乱すか切れると言語化は一発でオシャカとなり聞き取り不能に。先程絶対にバレないと述べたが、使う際の隆道は集中の為に沈黙し周りが見えなくなってしまう故運用そのものはバレる。そして周りが見えない=身動きが取れないので運用中の彼は超隙だらけ。使い辛い事この上なかった。余談だが、千冬には第六感的な何かで即バレした。やはり化物。

 負担も無視は出来ない。彼は脳疲労になるのが人一倍早く、症状も人一倍に大きい。現時点では出来ても一度に数分程で日に数回しか出来ない。無理に使えば彼は卒倒して暫くの間寝込むというペナルティが襲い掛かってしまうのだ。

 利便性は正直言って微妙に尽きる。内緒話しか出来ないのに不安定だし疲れるしでデメリットが大きい。普段の運用でもコレなのだから戦闘時はお察しである。彼のゴミカスなスキルでは常用はかなり厳しかった。現在はほんの少しでも錬度を上げるべく、こうして抜き打ち訓練をちまちまと繰り返している訳なのであった。

 条約だの規則だのバッチリ違反範疇な訳だが、そもそも『灰鋼』自体が違反上等くたばれ競技性ほざきやがれスポーツマンシップなトンデモISな上に常時展開の『WALKER』までもいるのだから今更というか。一応危険性は皆無だし控えるよう言っても『WALKER』は必須訓練だと言い張ってやはり言う事を聞かないので、千冬は他言無用を条件に黙認する事に。ぶっちゃけると諦めた。

 現状は微妙過ぎる思考通信だが、『WALKER』曰く彼の上達は早いとの事。このペースで行けば八月辺りには常用が期待出来るのかもしれない。それが吉と出るのか、はたまた凶と出るのか。

 

「──ぎ。柳!!」

 

「──ん? あ、ヤベ」

 

「……授業中は止めろ。ほら、次はお前の番だ」

 

「っあーくそっ、見逃したじゃねぇか……」

 

 思考通信に没頭してしまったせいで気がつけば隆道の番。一夏の手腕はものの見事に見逃した。なんてタイミングなんだと彼は心底がっかり。

 が、見れなかったものを悔やんでも仕方ない。さっさとやる事やろうと、彼は両肩を解しながら射撃位置へと歩いていった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 隆道は知らない。皆が興味津々だという事に。

 彼は今まで射撃訓練実習に参加した事が無い。毎度サボるか休むかのどちらか。生徒からすれば彼は今日初めて銃に触る、という認識しかない。その事に大勢が不安に駆られていた。

 

 ──大丈夫なのかな。

 

 ──ちゃんと当たるのかな。

 

 ──使い方分かってるのかな。

 

 ──怪我しそうで怖いな。

 

 無理もない。ISとは違い今は生身。補正は無い保護も無い実績も無い何も無い。生徒達は隆道が銃を並みに扱えるとは少しも思っていなかった。彼の素行を見ていれば評価が低いのは至極当然で悪く思われるのは普通である。

 

 

 

 ──そう、それが普通。

 

 

 

「ねぇ織斑君。あの人大丈夫かな……?」

 

「ん? ああ、柳さんだったら全然大丈夫だよ。だって──」

 

 極一部──一夏は何一つ心配していなかった。そして、あの千冬も。

 

「……? もうやっても?」

 

「好きにやってみろ。分からない事は直ぐ聞け。危ないと判断すれば私が止める」

 

「えらく信頼するじゃねえですか」

 

「ふっ、代表候補生を除けば()()()()()だろう。私の目は誤魔化せん。……そうだな、評価次第で銃の変更を認めようか。もしかすると長物だって許可するかもしれんな」

 

「へえ。それは魅力的ですね、っと」

 

 ほくそ笑む隆道は視線を下に。

 卓上にあるのは弾倉を抜いた状態の拳銃一丁、その横に空の弾倉二つ、その横に弾薬箱。一通り眺めた彼は、最初に拳銃を手にした。

 その拳銃、世界中の法執行機関にて採用されたポリマーフレーム(強化プラスチック)ハンドガン。軽量且つ耐久性に優れたソレは長年に渡り信頼を勝ち取っていた。そのバリエーションは豊富で、デッドコピー等も造られたりと後の銃器開発にかなり影響を与えた革新的な拳銃である。

 彼が持つのは三十八口径(9x19mmパラベラム弾)のコンパクトモデル。ユーザーの声を元に改良された、世界的に小さい傾向にある日本人の手にも充分馴染む大きさだ。ただ、彼にとっては少し小さいようだ。

 

「やりながらで良いから答えてみろ。その拳銃の撃発方式は何だ?」

 

「ストライカー方式」

 

「メリットとデメリットは? 二つずつでいい」

 

「……メリットは連射時コントロールしやすい、小型で軽量なのが多い。デメリットはデコックが面倒、スライドを引く時強い力がいる」

 

「良し」

 

 当然の様に答える隆道は拳銃から目を離さず。スライドを引いて薬室を覗き、確認終えるや否やスライドを何度も引いていく。執拗に繰り返し、止めたかと思えば今度は的へ突き出す様に向けて空撃ち。カチンと音が鳴るも、一度に飽き足らずそのまま数回程引き金を引いた。

 無意識レベルと言っても良い動作確認だった。初めて手にした筈なのに明らかな手慣れ。

 

「弾は込めないのか? セーフティの確認は?」

 

「分かってて言ってませんかねえ……。ガク引きしないか見てんすけど。トリガーセーフティしかねえでしょ、コレ」

 

「悪い悪い。もう言わんから続けろ」

 

「へい」

 

 受け答えの最中でも拳銃から顔を逸らさない。漸く満足したのか、隆道は拳銃を置いて今度こそ弾込めに取り掛かる。

 これがまた難儀。弾倉の中にあるバネは思った以上に硬く、当然込めれば込める程硬さが増す。非力な子供女性だと最後までの弾込めが難しいと言われる──が、彼には関係無い話なので着々と弾が込められていった。

 

『生き生きとしていますね。座学の時と違って』

 

「うるせえ。……撃つ時の決まりは?」

 

「好きにして構わん。分かってると思うが──」

 

「言われなくてもちゃんと構えるって」

 

『録画しましょう。携帯借りますよ』

 

 隆道が弾を込めているその間、『WALKER』は勝手に彼のポケットから携帯を取り出しカメラを向けて録画し始める。彼はそれを気にする事なく次々に弾込め、二つとも最大数まで入れ終えた。そしてソレを卓上へ軽く叩き始める。

 

「…………」

 

 隆道は次のステップへ移る。

 拳銃を手に取り弾倉を入れて底を二回程叩き、勢いよくスライドを引き、引いた後にほんの少し引きながら銃本体をチラ見。黒色の間にチラリと見える金色が見えたのを確認した後にスライドの後部を拳搥で叩き、両手を前へ押し出す様にして構えた。遂に射撃体勢へ。

 弾倉を叩き、装填後も再度叩いた。彼が弾倉や拳銃を叩いたのは不発や弾詰まりの原因を可能な限り排除した行いだ。

 装填後のチャンバーチェックも良し。その後に叩いて動作不良の解消も良し。構え方も現在最もスタンダードな立射──アイソセレススタンス。誰も教えてないのに何処で覚えたのだか。

 

『自信のほどは?』

 

「当てれば御の字……だろっ」

 

 先ずは一発。乾いた炸裂音が室内に響いた。

 

『中央、十センチ下』

 

「下過ぎ?」

 

 再度一発。

 

『左斜め上、三センチ上』

 

「んー。…………」

 

 暫く時間を置いて──三度目の発砲。

 

『お見事。中央に着弾、ブルズアイです』

 

「……良い銃だなコレ、すっげえ当たる」

 

『品質は勿論なのでしょうが、がたつき等は一切見受けられませんでした。恐らくは優秀な人間が整備したのでしょう』

 

 

 

 ──全弾命中。

 

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 度肝を抜かれた。

 隆道の発砲は初っぱなから的に命中し、なんと三発目で中央の中央に。その後も彼はそこそこに連射し続けるが全て的に命中、直ぐに弾切れして弾倉を入れ替えた後に再び連射していく。

 結果として全弾が命中。全てを撃ち切った彼は弾倉を抜き、スライドをしつこく引いて空撃ち。徹底した安全確認を最後に射撃実習を終えた。

 ど真ん中に命中したのは三発目だけだったが、初の実習である筈なのに一発も外さなかったのは代表候補生を除けば彼一人だけ。射撃成績は既にハイクラスと見ても良い。

 物が良いからだとかそんな単純な話ではない。彼の手腕こその命中率だろう。三十発もの弾痕がそれを嫌と言う程物語っていた。

 誰から教わった? 何時、何処で習得した? 聞いても彼ははぐらかすか答えやしないだろう。

 だがしかし、それでも分かった事が一つ。

 

「うっし……。で、評価はどうですかね」

 

「……何を望む?」

 

「九ミリは何か物足りねえ、12ゲージスラッグ。あ、フルオートも良いな。いや五十口径……」

 

「馬鹿者っ。……生憎ここには民間用(セミオート)しかない。スラッグなら……まぁ良いだろう」

 

 隆道はガンマニアで大口径主義。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は十九時頃。野良犬の巣窟にて。

 暗い一室。一人の青年は、一つだけのライトで機械を動かし何やら作業をしていた。

 

「~~♪」

 

 ガッチョンとレバーを強く引いて、機械に手を伸ばしてはレバーを再度引いての繰り返し。延々同じ事をしているのに、この青年は何故だか大層ご機嫌であった。最早不気味だった。

 繰り返す度に機械の横には何か筒の様なものが羅列していく。見た感じ四十個程の小さな筒。

 

「はーい、ユッコちゃんがご飯お届けー」

 

「おっ、やっと来たか。腹減って仕方ねえ」

 

「暗っ。明かりぐらい付けな?」

 

「ちーす、荷物持ちでーす」

 

 唐突に扉を開けたのは長髪ストレートの女性。その後ろからは袋を手提げた青年がひょっこりと顔を出す。部屋に入るなり彼女は壁に手を伸ばし明かりを付け、一気に暗い部屋が露になる。

 

 

 

 

 

 その小さな筒──12ゲージショットシェル。

 

 

 

 

 

 青年の目前にあるのはリローディングツールと呼ばれてある機械。弾薬自作──ハンドロードを行う為のものだ。彼は実包を作っていたのだ。

 彼の足元には空薬莢がぎっしり詰まった箱が。一体何発作るつもりなのか。

 

「遂に新作ですか」

 

「おうよ。やーっと雷管が手に入ったからなー、張り切ってアホみたいに作っちまった。コイツはすげえぞ、()()()()()()()ぜ」

 

「消火器必要ですね。あ、金属用消火器って結構高いんじゃ……」

 

「もう一哉が買ったってさ。十本くらい」

 

「うっはぁ。金持ちは羨ましいなぁ……。それに比べて俺はいっつも金欠……」

 

 すたすたと歩いて椅子へと腰掛けるユッコ──もとい結依は煙草を吹かしつつ携帯を弄りだし、荷物持ちの少年は自身の財力に落胆しつつ弁当を二人に渡した。哀愁が凄いな。

 ご存知の通り、彼等は『髑髏』である。しかも全員が古参メンバー。共通して目が死んでいた。普段も隆道と一緒なのかよ、コイツら。

 

「治。さっき隆道から動画来てたけど見た?」

 

「あ? 俺には何も来てねぇけど」

 

「ん? ほら、これ」

 

 そう言うなり結依は青年──治に携帯をぽんと投げ付けた。華麗にキャッチした彼は、送られた動画を再生し──。

 

「……はあああぁぁぁっっっ!?!?!? 何だアイツ!! 銃撃ってんじゃん!! はぁ!? IS学園は銃撃てんの!?」

 

「撃てるよ。ああ、今分かった。アンタがそんな反応するから送らなかったんだ」

 

「うっっっわ羨ましいぃぃぃぃぃっっっ!!! くっそぉぉぉ俺も撃ちてぇぇぇっっっ!!!」

 

「俺らも撃ってるじゃないですか」

 

「バッカてめこの野郎、日本じゃたった二発しか撃てねぇじゃねえかよぉ!! ハンドガンなんてそもそも手に入らねぇっつーのっ!! ……? ちょ、セミオートショットガンまで!? そんなバカスカ撃ち……ちくしょぉぉぉっっっ!!!」

 

 キモい程に携帯へしがみつく治は既に弾作りを放棄。動画に映る一人の青年──隆道の射撃姿に釘付けとなってしまった。何だコイツ、キモッ。

 

「……はぁ~っ。先輩、鈍ってなさそうですね。実銃でも変わらず上手いですし」

 

「そりゃあ俺がみっちり教えたんだからな!! いやぁ俺の教えは無駄じゃなかったなぁ……ってそうじゃねぇよ!! アイツ……!!」

 

「ミリオタきっしょっ」

 

「先輩の役には立ったんですから良いのでは? 俺らも何かと助かってますし」

 

「でもさぁ……熱くなるのはきしょいって」

 

 犯人コイツ()かよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人には得意不得意がある。そう、誰にでも。

 

『はい、また私の勝ち。何で負けたか明日までに考えといて下さい』

 

「つ、つえぇ……。全然勝てねぇ……」

 

『織斑一夏。どうか自分を卑下しないで下さい。隆道と比べれば全然強いです』

 

「うるせえぞ馬鹿!!」

 

 『WALKER』、初のリバーシで超勝ちまくり。隆道は一勝も出来ず。やはり雑魚だった。




◆『WALKER』補足。
アーム内に非致死性スタンガンを格納している。ウォーカーは威力不足だと判断して魔改造した。最大出力は千冬を一撃で倒せる模様。

※後に最大出力は致命傷レベルと判明する。隆道は最大出力の使用を禁じた。

◆卜部ささら
購買担当。二十五歳の既婚者で子供が二人いる。
隆道と初めて会ってから何かと気に掛け、今では普通に雑談が出来る程になった数少ない理解者。試作品を作ってはその都度隆道に食わせている。荷物検査を避ける為に代理購入を任される事も。

※今後隆道はここで煙草を買う。

◆『思考通信』
イメージ・インターフェイスと対話・インターフェイスを兼ね合わせた限定的な通信方法。運用は特殊兵装と同じく集中力を要する。発声を必要とせずシステム的には思考制御と同じな為機密性は高い。現時点では『WALKER』との内緒話にしか役に立たない。
(イメージ:攻殻機動隊の電脳通信)

※隆道次第で精度が上がる。今はゴミカス。

~ここから後書き~
本来なら山田先生のシーンがあったんですけど、何かぶっ壊しすぎたと思ったので削除しました。別の機会にてもう少しソフトにします。
(射撃訓練場では一応いるにはいます。描写してないだけで)
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