物語の片隅で   作:カササギパルフェ

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序章 NO,2 〝無心殺鬼〟

「すいません。これもお願いします」

「はいよ。それにしてもすごい量だねぇ。大丈夫かい?」

 

 食料が大量に詰まった4つの袋を見て、店員は購入者の少年にそう尋ねた。

 店員の問いに、少年は笑顔で答える。

 

「大丈夫です。鍛えてますから」

「あら。頼りになるねぇ」

 

 袋を受け取った少年は「ありがとうございました」と言って頭を下げると、店から去っていった。

 

 

 

「まだ若いのにあんなに礼儀正しいなんて…。お前も見習いな」

「うるせーババア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドラインに存在する島、ノドカーナ島。

 その名の通り平和でのほほんとした島であり、島民たちもまた穏やかな気質である。

 

 まぁそんなこと、通りすがりの海賊にとってはどうでもいいことなのだが。

 

 平穏な島に鳴り響く一発の銃声。おそらくこれは、平和な時間の終わりを告げる音。

 音に反応した島民たちが向いた先。そこには大勢の屈強な男たちがいた。

 その中心にいる二メートル近い、大きな大きな唇をした大男が、ニヤリとした笑みを浮かべて言った。

 

「奪ってこい。野郎ども」

 

 船長の命令に後ろに控えていた部下たちが、声を上げて島民たちに襲いかかる。

 

「キャアアアアア!」

「おいやめろ、これだけは!」

「痛デェ…痛テェよォ…」

 

 海賊たちは奪う。食料や金になりそうなものから―――――命まで。

 中には、命よりも大切な宝物も、彼らは平気で奪っていった。

 悲鳴と血、略奪を楽しむ笑い声が飛び交う。

 そんな中、海賊が来たことを知らせようと命からがら逃げだした島民の一人が、まだ襲撃を受けていない街から一人の少年がやって来ることに気がついた。

 

「あ…きみ、逃げなさい!海賊がすぐ近くまできているぞ!」

 

 両手いっぱいに食料の入った買い物袋を提げた少年は、その言葉に目を丸くする。

 

「あー…やっぱり。あの、ちなみに聞きますけど、船長の顔って見ました?」

 

 突然の質問に「はぁ?」と間の抜けた声を上げる。呆気に取られる島民の前に、少年は袋を地面に置き懐から紙束を取り出した。

 

「今はこれだけしか持ってなくて…。この中にいますかね?」

「え、ああ。…ってこんなことしている場合じゃないだろう!」

 

 差し出された手配書を読み込もうとして、我に返った島民は少年に対しツッコんだ。この状況で手配書を見せるなどどんな神経をしているのか。

 

「うーん誰かな…。この『修羅帯び』とかだったらいいのに」

「何を言っているんだ!早く逃げるぞ!」

「誰から逃げるって?」

 

 見れば、島を襲っていた者達を引き連れて、大きな唇を揺らしながら近づいてくる男がいた。その光景を見て、島民の顔が引きつる。少年は手に持つ手配書をめくっていた。

 

「うーん。残念」

 

 手配書をしまい、海賊たちに向かって歩き出す少年。

 その声には落胆の色がにじみ出ていた。

 

「『大口』は4千5百万ベリー。惜しいんですよ、せめてもうひと声は欲しいです」

「はぁ?何の話だ」

 

「だって―――うちの子の食費はその程度じゃまかなえないんです」

 

 ドスン!と重い一撃が入った音が響く。

 静かに道を歩いていた少年はそのまま―――一切の殺気なく『大口』の腹に拳を叩きこんでいた。

 

「お、お頭ァ!?」

 

 白目をむいてばったり倒れる自分たちのトップに、部下たちが悲鳴を上げる。

 あんな、見るからにひ弱そうな子供に一撃でやられたことに、驚きを隠せなかった。

 

「大人しくしてくださいね」

「は―――――げぼふッ!」

 

 慌てふためく部下の一人を、いつの間にか取り出していたナイフの柄尻で昏倒させる。

 まるで日常の延長線上にいるかのような、流れるような動作であった。

 得体のしれないものを見るかのような視線を受けながら、少年はにっこり笑った。

 

「ぼく―――賞金のかかっていない人に時間を使うの、嫌いなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全員、かな」

 

 島民たちの協力を得ながら、縛り上げた海賊たちを船に乗せるという作業を終えて、うんと伸びをする。

 

 ―――その様子を、物陰から見る一つの影があった。

 

 船番たちも少年にやられてしまったが、一人だけ魔の手から抜け出した者がいた。

 息をひそめ、無防備にさらされた背中に銃口を向ける。

 引き金に指をかけ、後は引くだけ―――――。

 

「遅いです」

 

 振り向くと同時に何かが投げられる。

 投擲用のナイフは―――――一部の狂いなく銃口に突き刺さった。

 驚くあまり一瞬、少年から目を離してしまう。

 そして―――――暗転。

 

 

「よし、今度こそ全員」

 

 最後の一人を縛り上げ、船の縁に腰掛ける。

 ぼんやりと海の向こうを見ていれば、カモメを掲げた船が1隻やってくるのが見えた。

 待ちに待った船の登場に、少年―――リミゼは笑顔を浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *     *     *

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランドラインを駆け抜ける1つの噂。

 殺意を感じさせず、そして人を傷つけることに何の躊躇を見せない人物がいるという。

 

 ついた名前が〝無心殺鬼〟。

 

 高額な賞金首も簡単に捕まえるほどの実力者。

 その通り名を聞く者は、さぞ心無き機械のような人物なのだろうと夢想する。

 実際は―――――。

 

「あ、これもお願いします」

 

 礼儀正しい、穏やかな少年だったりする。

 

 

 今は、まだ。

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