とある島の高台で、1人の少女と1匹の動物がくつろいでいた。
「気持ちいい?クラムチャウダー」
少女の問いかけにウサギの体にコウモリの羽を持つ―――〝ラビットバット〟のクラムチャウダーは「キキッ」と嬉しそうな声をあげる。
本日は快晴。暖かな日差しと少女のブラッシングを受けてクラムチャウダーの胸中は幸せで満ちていた。
―――それをぶち壊す無粋な者が現れなければ。
「お嬢ちゃん。こんなところで何しているんだい」
声をかけてきたのは見るからに怪しい男。振り向いた少女の可愛らしい顔立ちと、珍しい動物を見てその顔を歪ませた。
「お嬢ちゃん。おじさんと一緒に来ないかい。いい所に連れて行ってあげるよ」
「嫌。お前臭いもん」
無表情、冷淡な声でそう言われた男の胸にグサッと何かが刺さる。眉をひくひくさせながらも、少女に話しかける。
「そんなこと言わずにさ、一緒に行こうよ。―――おじさん達と一緒に」
男の後ろからぞろぞろやって来たのは、見るからに悪人とわかる連中だった。背も体格も、少女とは比べものにならないくらい大きい。
一端の口をきいていたが、流石に怯えて何もできないだろう。と、男―――人さらいのボスは高をくくっていた。 しかし、少女は。
「嫌だって言ってるでしょ。頭悪いのかクズが」
先ほどと変わらない無表情に淡々とした口調。しかも舌打ち付き。空に浮く黒いウサギ(?)が「キーキキキキッ!」と笑っている。
「調子乗ってんじゃねェこのクソガキァ―――!」
ついに切れた人さらい集団は、各々の武器を持ち少女に襲いかかった。
「だめよ、クラムチャウダー。お腹壊す」
血を吸うべく首筋に噛みつこうとしたところで、少女―――シエルに制止されたクラムチャウダーは了解の鳴き声をあげると、シエルの肩に乗っかる。
「まったく。ゴミのような時間をすごしたわね」
差した番傘を肩にかけ、シエルは高台を後にした。
高台にやって来た島民が死屍累々の現場を見て悲鳴を上げるまで、あと数分。
* * *
売店で買った飴を舐めながら、シエルは鼻歌を交えながら街を散策していた。傘をくるくる回しながら歩いていれば、肩に乗っていたクラムチャウダーが「キキッ」と声をあげる。
「どうかしたの?」
肩から飛び立ったクラムチャウダーは少し進んでは振り向き、また進んでは振り向く。その行動に首を傾げるが、少しして真意を察した。
クラムチャウダーの耳は非常にいい。人間では聞こえない音を拾い、それをシエルに伝えようとしている。
とりあえず行ってみようと、シエルはクラムチャウダーの後を追った。
『もうすぐ始まりますよ~!我こそはという人はどうぞ参加を!もうすぐ締め切りで~す!』
司会と思わしき女性がマイクとピザを手にアナウンスするのは、どうやらピザの大食い競争の参加者を集うための様だ。
「ピザ、大食い競争…。つまりは食べ放題?」
ぽつりと零れる呟きにクラムチャウダーはコクコクと頷く。
シエルは無表情ながらも目を輝かせると、司会の女性に向けて若干興奮気味に手をあげ声を張った。
「参加します!」
「食費も浮いて、稼げるなんて。やっぱり大食い大会はいいわね」
ありがとう、と告げればクラムチャウダーは笑い声をあげる。
ぶっちぎりの一位を獲得したシエルは、賞金として100万ベリーを受け取った。
思わぬ収入に気分が上がる。
何としてでもあのクズから守らねば。という決意をした時だった。
周囲を屈強な男たちで囲まれる。
状況を察し、「またか」と内心で溜息を吐いた。
どうにも一人でいると絡まれやすい。小柄な少女ということで人さらいに狙われたり、クラムチャウダーを目当てに襲ってくることもある。
「ねぇお嬢ちゃ―――――ゲブッ!」
言い終える前に腹に拳を叩きこむ。目的が何かは知らないが、敵なのは確実なのだから容赦も躊躇もいらない。全力で叩き潰す。
「てめ、おとな―――――ブッ!」
何事かを言おうとした奴の顔面を踏んで、近くの民家の屋根まで跳躍する。
シエルは男たちをゴミを見るような目で見降ろすと、冷たく言い放った。
「いい加減にしろよロリコン共。今日で2回目だろーが」
* * *
グランドラインで活動する賞金稼ぎ、〝夜兎〟。
見た目は小柄で可憐な少女だが、その中身は野獣と言っても過言ではない。行動を共にしている〝無心殺鬼〟には「毒持つ肉食獣」と称されている。
外見に惑わされてはならない。
侮ってしまえば最後、ウサギの強烈な身体能力に叩きのめされてしまうから。
これでキャラの紹介話は終わりです。次回からは原作キャラと関わります。