「あ、そうだ、朝潮ちゃんってそろそろ対潜訓練だよね」
「はい、司令官にも今朝伝えられました。対空も大分慣れてきたので別の訓練を始めようと」
駆逐艦定例会がそろそろお開きというところで吹雪さんから聞かれた私、朝潮。いつもやっている対空訓練は、主に吹雪さん、皐月さんが一緒になっているが、対潜は初めてだ。先生が誰になるかもまだわからない。
「私や皐月ちゃんは一緒になることは無いと思うから、対潜で一緒になりそうな子を改めて紹介しておくね」
「はい、助かります」
「潮ー、潮ちょっと来てー」
呼ばれてやってきたのは綾波型駆逐艦10番艦の潮さん。主砲と高角砲が装備できない
綾波型は特Ⅱ型とも呼ばれ、特Ⅰ型である吹雪さんとは型は違えど
「はい、何か御用ですか?」
「多分対潜訓練で朝潮ちゃんと一緒になると思うから、先に挨拶だけでもと思って」
そうですね、と潮さんがこちらに向き直る。
今まで一緒に訓練してきた人達と比べると、おっとりした大人しい人。見ただけで優しい人だとわかる。
「改めまして、潮です。対潜は私の専門だから……何かわからないことがあったら聞いてね、朝潮ちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
対潜というのは基本的には駆逐艦と軽巡洋艦の仕事だ。軽空母や航空戦艦にも手段はあるが、そちらはそちらの仕事をやってもらった方がいいだろう。そのため、対潜はそれができるのなら必須な技能である。
目視できず、ソナーの反応だけで敵潜水艦の場所を把握し、次の位置を見極めて爆雷を投射する。これは対空で敵艦載機に狙いを定めるのに似ている。上か下かの違いだ。
「潮はうちの駆逐艦の中でも屈指の対潜性能だからね。頼っちゃって頼っちゃって」
「うぅ、データで見ると私そこまで対潜強くないんですよ? 白露ちゃんや皐月ちゃんの方が高いですし……多分朝潮ちゃんよりも……」
だんだん縮こまっていく潮さん。だが、実際は特化した訓練をし続けていたおかげで、潮さんがトップであることを後から知る事となる。
後日、初めて対潜訓練をすることになった。参加者は私、潮さん、そして暁型駆逐艦2番艦の響さん。響さんは対空と雷撃に
暁型は別名特Ⅲ型。こちらも吹雪さんとは
ちなみに、潮さんも響さんも、吹雪さんを姉と感じることはあまり無いらしい。複雑な姉妹関係である。
「響だよ。定例会ではあまり話はできなかったけど、対潜訓練ではよろしく頼むよ」
「はい、よろしくお願いします」
「潮と一緒にできるのはいいね。とても参考になる」
そこまで言われるのだから、吹雪さんの言う通り鎮守府の中でも屈指なのだろう。本人は否定しているが。
早速対潜訓練の準備をする。装備するのはソナーと爆雷投射機。
ソナーはヘッドホン状の装備。集音器で潜水艦を探知する。海中は目視できないため、対潜には必要不可欠だ。他の種類もあるらしいが、今回はこちらを使用。
爆雷投射機は腕に装備。発見した潜水艦に向けて投げるイメージ。当然だが爆雷が沈むまでにはタイムラグがあるので、そこまで予測した投射が必要となる。
「準備できたね。じゃあ、行くよー♪」
対潜の先生は川内型軽巡洋艦3番艦の那珂ちゃんさん。歌って踊れる艦隊のアイドルを自称しており、ちゃんを付けないと怒る。
明るく元気でマイペースだが、艦の時には水雷戦隊の旗艦を務めていたという実力派。艦娘となってもその実力に恥じぬ力を持ち、天龍さんと並び軽巡洋艦のツートップとなっている。
「対潜訓練はいつも通り、潜水艦との合同訓練! こっちは当てる、向こうは避ける、以上!」
現場に着いて、周囲を踊りながら説明する那珂ちゃんさん。落ち着きがないように見えるが、これにはちゃんとした理由がある。
那珂ちゃんさんの
「那珂ちゃん、特殊艤装持ってきたでち」
「いつもありがとー♪」
そんな那珂ちゃんさんのために専用で作られたのが、我が鎮守府にはいないイギリスの戦艦艦娘からヒントを得た椅子型の特殊艤装だ。那珂ちゃんさんの
その艤装を持ってきたのは潜水艦の伊58さん、通称ゴーヤさん。苦そうなあだ名である。
「初めての朝潮ちゃんには説明しとくでち。こっちはゴーヤ含めて3人いるから、1人に爆雷を当ててね」
それだけ言って潜っていった。あっという間に姿が見えなくなる。少し潜っただけでもこちらからは目視が出来なくなっているのだから、ソナーを使うでもないと見つかりそうにない。
「よっと、これで訓練始められるねー♪」
手際よく椅子に座ると、何処からかサングラスとメガホンを出した那珂ちゃんさん。本人曰く、現場監督はこのスタイルだとか。ちょっとわからない。
「じゃあ最初は響ちゃん、現場入ってー」
「了解。響、出撃する」
私への手本というのもあり、まずは響さんから訓練が始まる。
先程ゴーヤさんが言っていた通り、訓練は単純だった。海中を動き回る潜水艦に対し、こちらは爆雷を当てるのみ。
特殊な素材で作られている爆雷の破片が潜水艦に付着するようになっており、それが確認できればこちらの勝ちとなる。
今回訓練に参加している潜水艦の方々は、
「……3人バラけてるね」
当然だが当たらないようにするために3人の潜水艦は別々に行動する。ソナーを起動させてみると、反応が3つ、どの方向にいるかが大体わかる。聞こえてくる方向だけで場所を推測するわけだ。ある程度目視できる対空訓練とは違った難しさである。
相手からも狙われることもあり、響さんは動き回りながらタイミングを探っている。
「……ここだね」
とある場所を通過するところで爆雷を投射。ソナーを使っている限りでは、少し離れた位置だが、進行方向を計算に入れているため、そのまま進めばドンピシャ。
しかし、潜水艦もそんなに甘くない。爆雷が落ちてくるのを確認し、急速潜航した。反応が下の方へ遠くなる。その後、大きな反応。爆雷が爆発した反応だろう。
「別のが上がってきてる……こっち」
移動しながらさらに爆雷を投射。1人に狙いを絞ったようだ。
「あっぶない!」
投射された爆雷の爆発を掻い潜って水上に顔を出したのは伊401さん。通称しおいさん。響さんが呟いた通り、海面に上がってきていた。主砲での攻撃のためだろう。防水加工された主砲を水中から上げ、響さんに狙いを定める。
「Ура!」
そこへ駄目押しの爆雷。すでに目視できるようになっているなら、ソナーに頼らなくても爆雷を直接投射できる。
「やばっ、どぼーん!」
すぐさま水中に逃げるしおいさん。だが、爆雷はすでに目前であり、潜った瞬間に爆発。見ている感じだと結構激しい爆発に見えたが、しおいさんは大丈夫だろうか。
少ししてから、まるで水死体のように浮かび上がってきた。怪我は無いようだが、衝撃は強かったらしい。逃げようとした瞬間の爆発だったからか、爆雷の破片は背中にビッシリ付いている。
「何やってんでちかしおいー!」
しおいさんが浮かんだことで、同時にゴーヤさんも海面に顔を出してきた。その後ろから3人目の潜水艦、伊19さん、通称イクさんも浮かんでくる。
「ごめんごめん、ちょっと深追いしすぎちゃった」
「しおいは狙いすぎなの」
「潜水艦はチームプレイ大事でちよ!」
潜水艦は潜水艦で反省会があるようだが、私はやはり気が気でない。
潜水艦の戦い方はわかった。海中から忍び寄り、隙を見て攻撃する。本来なら魚雷が発射されるだろうが、ここではそれがなく、潜水艦から来ることは無いであろう主砲による攻撃。
響さんの戦い方を参考にするなら、場所を把握しながら1人に絞り、浮上を促す。当たれば御の字。
「次、朝潮ちゃん! 行けるかな?」
「はい、朝潮、出ます!」
那珂ちゃんさんに呼ばれて戦場へ。潜水艦の方々は再び海中へと潜っていった。
戦場の真ん中でソナーを起動する。反応から、3人が私を囲んでいることがわかる。さすがにどれが誰だかはわからないし、距離までは完全にはわからない。
先程の響さんのように、1人に近付きながら様子を見る。その1人は少しずつ離れ、他の2人は背後に寄るように近付く。このままだと2人に背中を狙われて終わりだ。なるほど、動き回るのは照準を定めさせないということ。
「背後に取られないように……」
ソナーで3人の位置をある程度把握しながら移動と攻撃のことも考えるのは大変だ。背後を取られないようにするのはまず無理。なので、一気に近付く。
「撃ちます!」
大分近付いた辺りで爆雷投射。進行方向などの予測は一切していなかったが、確実にそこから移動するであろう位置を考えて攻撃した。
爆雷の爆発の反応。潜水艦の反応はそこから少し離れた位置だが、自分に近い。ここでもう一回投射。こうやって追い込んでいき、自分の来てほしいところに来てもらうのが良さそうだ。
「もう少し……もう少し……!」
私は完全に1人に絞っていた。なかなか当たらないが、だんだんと想定している場所に来てくれている。だが先程の響さんとの戦闘で向こうも警戒しているのか、浮上はしてこない。
なるべく逃げ場を無くすように、移動しながら相手の位置に集中する。集中
「朝潮ちゃーん、1人を狙いすぎると背中ガラ空きになるよー」
那珂ちゃんさんの声でハッとした。今の私は狙いを絞っていたので、他の2人の反応を把握していなかった。さっきまで背後にいることはわかっていたが、1人に詰め寄ったことで1対1の気持ちになってしまった。
「そうでちよ。ちょっと疎かでち」
気付いた時には遅かった。狙っていた1人とは違う反応が急速浮上してきているのがわからなかった。振り向いた時にはニッコリ笑ったゴーヤさんの機銃が完全に狙いを付けていた。
「でも初めてにしては狙いは良かったでちよ、今度コツ教えてあげるでち」
言いながら1発。見事に背中に当たり、私の負けで幕を閉じた。
戦場から退避しながら、1人反省していた。
全員の位置を把握しながらは難しい。とはいえ把握出来ていないとやられる。本来の戦闘なら魚雷で攻撃してくるのだから浮上してくることも基本的には無いだろう。進行方向の予測は必要不可欠だ。
向こうにもこちらのことはある程度見えている。そういう意味ではこちらの方が若干不利かもしれない。
「次、潮ちゃん! 張り切って行こー!」
「はい、潮……参ります」
1人反省会の最中、潮さんの出番に。だが、始まる前にゴーヤさんが浮上してくる。
「那珂ちゃん、潜水艦隊から要求があるでち!」
「んー? なになに?」
「潮ちゃんなら1人じゃなく3人全員に当てて欲しいでち」
無茶な要求に思えた。初めての私はともかく、響さんも1人に当てられたら勝ちとしていた訓練だ。潮さんだけ難易度が跳ね上がる。
「いいよー! 潮ちゃん出来るよねー?」
「わ、わかりました。頑張ります」
無茶な要求は通ってしまった。
「面白いものが見られるよ」
隣の響さんは心なしかウキウキしているように見えた。潮さんの訓練がそれほど楽しみなのか。
そうこうしている間に潮さんは戦場の真ん中へ。私もソナーを起動する。私や響さんの時と同じで、3人で囲んでいる状態。
「……えっと……」
周囲を確認しながらその場から動かない潮さん。潜水艦の反応は背後側の2人が少し集まりつつあるくらい。距離はまだある。
「じゃあ……行きますね」
急加速。同時に背後に爆雷投射。
そこからは急展開だった。狙いを絞った1人に急加速で近付いたところで爆雷を投射。背後と前方2箇所の3点同時、かつ時間差で投射することで逃げ場を完全に無くして1人を撃破。そこから急速旋回で背後の2人へ。二手に分かれさせる暇を与えず、左右を詰めさせるような投射でやはり逃げ場を無くし、最後は1つの爆雷で2人とも撃破するまでした。3人が先程のしおいさんのように浮かび上がっている姿は、さながら地獄絵図である。
何が一番驚いたかというと、普段の潮さんからは考えられないくらいの早業だったことだ。潜水艦のことを熟知しているからこそできる速攻。ちょっと怖くなった。
「хорошо、さすが潮だ」
「あんなに早く3人を……」
一息ついて戻ってきた潮さん。そのまま響さんの2回目の訓練が始まる。この訓練、潜水艦にとっては相当にスパルタなのではないだろうか。こちらは休みがあるが、あちらには休みが一切ない。だが、話を聞ける時間が貰えたのはありがたかった。
「どうしてあんなに早く倒せたんですか?」
「えっとね……潜水艦って、小回りが利かない……って、言えばいいのかな、わかっちゃえば動きは読みやすいの」
足裏のみで前後左右に移動できる水上艦と違い、さらに上下の移動ができる潜水艦には、移動方法に制限があると潮さんは語る。それさえわかれば、私もすぐに当てられるようになるとも。
あまり話す時間も無いので要所要所を掻い摘んで説明してもらった。これですぐに身につけばいいが、まずは努力あるのみだ。
しかし、今回の訓練では一度も勝つことができなかった。現実は非情である。響さんは五分五分、潮さんは完勝。さすがとしか言いようがない。
艦これ世界のソナーは扱いが難しいですが、このお話では集音することである程度の位置が判断できると解釈しています。三式だとまた表現変わりますけど。