欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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償いの激痛

深海艦娘となった時雨さんと五月雨さんを救出したものの、旗艦である水母棲姫には逃げられてしまった。海中に逃げられたので追うこともできず、それを助けるために大量の援軍もやってきてしまった。

現在はそれを撒くため、撤退作戦に移行。深海艦娘の対処をしていた白露型と、強引な戦術で最後に戦場を飛んだ皐月さん以外はまだあまり消耗していなかったのが功を奏し、援軍の先頭集団を一網打尽にする。

特に、不完全燃焼だった神通さんと、撤退作戦に思うところがある初霜さんが凄かった。初霜さんが雷撃である程度処理し、撃ち漏らしは神通さんが着実に仕留める。こと撤退作戦に関しては初霜さんの右に出るものはない。

 

「援軍、反応無くなりました。撒きましたね」

「じゃあもう安心だ。痛て……無理するもんじゃないや」

 

第一部隊の旗艦である白露さんが中破ではあるものの、命に別状はない怪我なのが救い。一撃で死ぬであろう攻撃を腕1本の犠牲で食い止めたのだから、この中破も最良の選択。

敵影もないので、ここで司令官に通信しておこう。心配していそうだし。

 

「救出部隊第二部隊旗艦の朝潮です。司令官、応答願います」

『私だ。その声を聞く限り、成功したみたいだね』

「はい。時雨さんと五月雨さんの救出に成功しました。被害は白露さんが中破です。入渠ドックの準備をお願いします」

『了解した。気をつけて帰ってきてくれ。準備して待っているよ』

 

これで後は帰投するだけだ。白露さん以外は殆ど怪我もないのが大きい。

 

「うああぁぁ……ごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ……」

「五月雨、仕方ないっぽい。あれは全部敵のせいだから気にしなくていいよ」

「でも……でもぉ……」

 

正気に戻った五月雨さんは頭を抱えて蹲っている。それを夕立さんが曳航している状態。破壊した後に残った鎖で引っ張っているものだから、帰りたがらない犬を散歩しているような光景。

 

「あれは触って大丈夫なの? 鎖だよ?」

「陣地側と繋がっているのがダメなだけで、破壊してしまえばただの鎖なんでしょう。鈍い光も無くなっているもの」

「はー、熊野冴えてるねぇ。鈴谷にゃあよくわかんないや」

 

撤退しながらも瑞雲で周囲警戒をしてくれている鈴谷さんと熊野さん。2人のおかげで、水母棲姫の艦載機も墜としやすくなり、制空権を確保できていた。やはり航空戦力は大事。

鎖に関しては、熊野さんのいう通り、鈍い光が無くなっているので大丈夫と判断された。あちら側の時雨さんにも同じように鎖が残っているが、お互いが鎖に触れても何も変わらなかったことで証明もできている。

 

「五月雨、割り切るしかないよ。僕も結構辛い。あんなことをペラペラと……」

「時雨姉さん……うぅぅ……」

 

元に戻るまでには、少し時間がかかりそうだ。

 

 

 

なんとか帰投し、白露さんはすぐに入渠。時雨さんと五月雨さんは調査に入る。これには私、朝潮と、2人と同じ境遇である電さんも参加。

この鎮守府で元気にやっている電さんを見た2人は、自分達もここでならやっていけるだろうと安心できたみたいだった。だがあの時の記憶は消えない。時雨さんは割り切れそうだが、五月雨さんは後を引きそうである。

 

「イナヅマトオナジダ。コガタノギソウガウエツケテアル」

 

セキさんにより首輪のガワが外され、電さんの時と同様、小型の深海艤装が植え付けられていることがわかる。これはもう全員同一で施術されていると考えてもいい。

 

「じゃあ、また敵を呼び込んでしまうのですね……」

「敵を呼び込む? 僕達がここにいるだけで敵が来てしまうのかい?」

「今のままでは……」

 

また電さんの時の悲劇が繰り返される。深海艤装を剥がすためには、山城さんの力により一撃で吹き飛ばす他ない。麻酔などがあればまだいいのだが、私達艦娘に効くそういう(たぐい)の薬は、そう簡単には手に入らない。基本的に高速修復材で何もかも治るのだから不要という判断をされているせいだ。

 

「時雨ちゃん、五月雨ちゃん、覚悟が必要なのです」

「覚悟?」

「その艤装を無理矢理剥がすのです。電はやりましたが、その、この世のものとは思えない激痛なのです……」

 

さすがに尻込みしてしまう時雨さん。五月雨さんは言葉もない。

 

「剥がさないなら剥がさないでも問題ありません。そのための防衛線警護ですから。そもそもここは最前線、敵も多いので」

 

なるべくなら辛い思いをしない方がいい。電さんの時からスタンスは変えていない。あんな悲鳴をまだ何度も聞かなくてはいけないと思うと、私も辛い。

 

「わ、私、それやる。白露姉さんにあんなことしちゃったし、このままだと迷惑かかっちゃうし、やります!」

 

先に五月雨さんが決心した。その姿を見たら、時雨さんもやめたいなんて言えなくなってしまう。

 

「わかった。敵のせいとはいえ、迷惑をかけたのは僕も同じだしね。償いの痛み、受けるよ」

「わかりました。白露さんの入渠が終わり次第、始めましょう。1人で受けるのは辛いでしょうし」

 

あの施術ができる山城さんは現在警護任務中だ。山城さんが戻ってこないことにはできない。

それに加えて、主に暴れるのを抑え込むために誰かに付き添ってもらうべきだ。その人が一番信頼できる人がいい。この2人なら、長女の白露さんがベストだろう。

 

 

 

午後、山城さんも戻り、白露さんの入渠も完了。時雨さんと五月雨さんの最後の治療ということで、白露型も全員集まっていた。電さんを見届けたこともあり、私と司令官も施術を見守る。

 

「首を晒して、白露に抱きついて。顔は胸に押しつけるように。叫ぶなら白露の胸の中で叫ぶこと」

 

山城さんの指導の下、体勢が決まっていく。先に受けるのは五月雨さん。後の方が恐怖が増すというのは誰にでもわかることなので、姉の時雨さんが一歩引いた。

白露さんの大きな胸に顔を埋めた五月雨さん。すごい震えている。電さんから酷い激痛があると事前に聞いているのだから仕方がない。

 

「高速修復材準備できてます。山城さん、お願いします」

「ホントこれだけは私も嫌だわ。五月雨、歯を食いしばって」

 

五月雨さんの首筋に指を構える。震えは止まらない。当たり前だ。

 

「3……2……1……0!」

 

電さんの時と同じく、一撃で艤装は跡形もなく吹き飛び、同時に血が噴き出る。

 

「っああっ、あぁあああああっ!?」

「頑張って! 五月雨! 痛っ、頑張れっ!」

 

即座に高速修復材をぶちまけ傷を治す。痛みが引くまでの長い時間、五月雨さんは暴れに暴れた。白露さんが押さえつけているおかげで周りに被害は無かったが、白露さん自体が何度も殴打される形に。生えてしまった角も胸に思い切り食い込んでいた。

 

「大丈夫、大丈夫だよ。ほーら痛くない痛くない」

「ひっ……ひぎっ……」

 

修復材のおかげで綺麗になった首筋を撫でていく。暴れなくは無くなったが、痙攣するようにビクンビクンと震えている。頭を抱きかかえながらワシャワシャと撫で回す姿は、姉妹というよりペットを可愛がる飼い主のようだった。

 

「大丈夫になるまでこのままでいいからね。よーしよし、よく頑張った。えらいぞー、よしよしよし」

「白゛露゛姉゛さ゛ん゛そ゛れ゛だ゛と゛ワ゛ン゛ち゛ゃ゛ん゛で゛す゛ぅ゛……」

 

泣き叫びすぎてガラガラになった声の五月雨さん。ようやく痛みが引いてきたようで、力が抜けたように白露さんにもたれかかっている。

 

「次、時雨よ。大丈夫?」

「だ、大丈夫さ。五月雨が頑張ったんだ。僕も覚悟しないと」

 

引き攣った顔の時雨さん。やはり後の方が恐怖感が増す。やられていないし、やられることもないのに、私も恐怖で震えそうになっている。

処置したこの場は五月雨さんの血とぶちまけられた高速修復材でめちゃくちゃだ。五月雨さん自身も、自分の血で制服は血塗れ。施術をした山城さんも返り血を浴びている。一層恐怖を煽る。

 

なんとか処置を終えた五月雨さんは、落ち着くまで白露さんの胸に顔を埋めた後、フラフラと離れ、今度は夕立さんに抱きつく。いろんな体液が出て酷い顔になっていたが、これはそれだけの大事である。

 

「ちょっと着替えてくるよ。ビショビショだから、新しい制服で時雨を包み込みます」

「ちゃんと用意してるから、ささっと着替えてね」

 

さりげなく後ろを向く司令官。山城さんもその司令官の目を押さえている。

白露さんは割と気にせずその場で着替え始めてしまうから困る。男性がいるということと、自分が駆逐艦らしからぬスタイルを持っているということを自覚してもらいたい。

 

「ほい、着替え終わったよ。じゃあ次、時雨」

「五月雨が頑張ったんだ。僕だって……!」

 

自分の顔を叩き、気合いを入れて白露さんに抱きつく。思い切り胸に顔を埋めて、なるべく温もりを感じるように。多少なり痛みが軽くできるかもしれない。

 

「一応私、時雨とも縁があるのだけど……こればっかりは手加減できないわ。時雨、歯を食いしばって」

 

時雨さんの首筋に指を構える。静かでクールな印象の時雨さんも、この時ばかりは年相応のか弱い女の子に見えた。事前にあれだけの恐怖を与えられているのだ。順番が逆だったら、五月雨さんはこの場から逃げていたかもしれない。

 

「3……2……1……0!」

 

艤装が弾け飛んだ。そして、血が噴き出る。

 

「〜〜〜〜〜〜っっ!?」

「いいっ、痛っ、痛い痛い痛い! 時雨鯖折りになってる痛いぃっ!?」

 

白露さんの方が大きな悲鳴。死ぬほどの痛みを受け、泣き叫ぶことなく、暴れることもなく必死に我慢している時雨さんだが、その力を抱きつきに全て使ってしまっているらしい。

高速修復材をかけるが絞めつけは強くなる一方。白露さんの方が先に参ってしまうかもしれない。思い切り顔を埋めているせいで、角が食い込むどころか刺さっている。

 

「〜〜っ、〜〜〜っ!?」

「刺さってる! 刺さってるから!」

 

時雨さんを撫でる余裕が無い様子。稀に骨が鳴る音が聞こえてきて怖い。痛みを耐えるために頭をグリグリと押し込んでいるせいで白露さんの方がダメージが大きいまである。

 

「はぁっ……はぁっ……っくぅぅ……っ」

「痛み引いてきた? あたしはすっごい痛い」

 

白露さんにも高速修復材がかかっているので傷は無い。が、胸元は角で引き裂かれてしまい、深く刺さっていたのがわかる。

 

「叫ばない代わりにあたしにダメージ与えるとは、やるねぇ時雨さんよぉ」

「ご、ごめんよ、僕も必死だったんだ」

 

平謝りな時雨さん。とはいえ、小型艤装が剥がせてよかった。隣で司令官も安心のため息をついていた。

 

 

 

血塗れになった制服を着替えた時雨さんと五月雨さん。ここまで来たら一安心と司令官は自分の作業に戻る。着替えを見届けるわけにもいかない。

五月雨さんは電さんと同様、深海艦娘の黒塗りされた制服をそのまま着ることにした。理由も同じ。力を受け入れるために、見た目から染まっておこうという決意。

時雨さんは逆に、制服を真っ白にした。元より黒い制服だが、ここには援軍とはいえもう1人時雨さんがいる。差別化を図った結果、今の髪色と同じにしたそうだ。これも受け入れた形。

 

「時雨が漂白されたっぽい」

「そこまで正反対にしなくてもいいんだよ? もう1人の僕」

「僕が決めたことだよ。これなら、時雨であって時雨でないことがわかりやすいだろう?」

 

同じ声で喋るので混乱してくるが、確かにここまで色が違うと、容姿が同じでも別人に見えてくる。片方には角が生えているので簡単に見分けはつくが。

 

「時雨やい」

「「何かな、白露」」

「ハモらないでよ、笑えるから。あのさ、呼び方も変えよっか。どっちがどっちかわからないでしょ」

 

確かに、2人一緒にいるときだとどう呼んでいいかわからない。ここで決めておくのがよさそう。深海時雨だなんて呼べないし。

 

「じゃあ、普通の方が黒時雨で、深海の方が白時雨ね」

「安直すぎじゃないかな……」

「わかりやすくていいでしょ。制服の色も変わったし、都合いいじゃん」

「そのために制服変えたわけじゃないんだけどね」

 

時雨さん2人は若干否定的。だが

 

「いいじゃない。わかりやすくて」

「いいですよね。呼びやすくて」

 

山城さんと五月雨さんは乗り気。呼称の差別化は艦娘界隈では割と重要。この状況ならまだしも、本来なら何から何まで同じだから、慣れた者でもどちらがどちらかわからないまである。

 

「黒しぐっぽい!」

「白しぐ姉さん!」

「はぁ……もういいよそれで」

 

黒い時雨さんは諦めた様子。白い時雨さんもなんだかんだ受け入れることになった。




電と春風がプリキュアみたいと以前に書きましたが、黒しぐ白しぐは同じ顔でいろちがいなので、マイティブラザーズXX。
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