欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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未来予知

救出した深海艦娘はこれで3人。植え付けられた小型艤装も剥がし、完全に解放されたと言えよう。今ではもう仲間として一緒に暮らしている。

白時雨さんは予定通り、響さんと相部屋となった。制服まで白くなったことで、より親密な付き合いになると響さんも喜んでいた。少なくとも冬の白ではないのだが、白時雨さんも良しとしているところを見ると、満更でもない様子。

 

前回の戦闘で新たな問題が挙がってきた。北端上陸姫の虎の子と思われる水母棲姫の存在である。

一向に戦闘行動を取らないと思いきや、今までに無い狡猾な手段を使ってきた。深海艦娘の価値に気付かせてしまったのは大きすぎる。今後の戦闘では、無傷での救出が非常に難しくなってしまった。

 

「頭脳戦をする深海棲艦か……」

「明らかに『観察』していました。こちらの行動を『分析』しました。私と同じように」

「結果、深海艦娘を人質として扱った、と」

 

駆逐棲姫に五月雨さんを狙わせたのは、他ならぬ水母棲姫だ。私達が五月雨さんを守ると確信した指示。結果的に白露さんは五月雨さんを守るために動き、隙を作ることになった。

 

「今後、深海艦娘が自殺しようとする可能性だってあります。盾役は確実にするでしょう」

 

あの時の白時雨さんの時のように、鎖の前に立ちふさがることだってあり得る。2人がかりでギリギリ。不意打ちも当然必要。あの時は黒時雨さんに注意を引きつけて、不意打ちで皐月さんを投げることで対処できたほどだ。

 

「今後は手段を選んでいられません。できることは全てやらないと」

「そうだね。……朝潮君、君はどうしたい?」

「私は……今後の戦場では常に『未来予知』を使っていきます。一番狡猾なパターンも入りましたから。もう負担のことは考えていられません」

 

1秒じゃもう足りない。全てを見通して、どれだけ卑怯な手段を使われても対応できるだけの力を付けなくてはいけない。そうなると、今後は禁じられている『未来予知』の訓練が必要になる。

 

「そうか、そうなってしまうのか。朝潮君、君には何度負担をかけたかわからないね。本当に申し訳ない」

「謝らないでください。この戦い方を選んだのは私ですし、この戦い方しかできないのが私なんです」

 

心の底から言える本心だ。私は欠陥(バグ)のせいで攻撃ができない。対空や対潜で貢献できるが、それだけでは足りない。だからこの戦い方を選んだのだ。

春風の件で護身術は覚えたが、あれ以来使っていない。一度だけ皐月さんとの演習で使った程度だ。やはり私にはこの戦い方しかない。

 

「皆が無理して戦っているんです。私も無理をしますよ。皆の後ろで守ってもらいながら安穏としているのは、もう辛いです」

「……君の意志は固いようだね」

「意固地ですみません」

 

これだけ言っても許可されないのではないかと思っていた。

私のやろうとしていることは、自分を蔑ろにする手段だ。全員の負担を全て自分に集約させ、全員無事に終わらせようとする代わりに私が全員分のダメージを請け負う。鼻血で済めばいいが、最悪の場合、私の脳が壊れ、再起不能になる可能性だってある。

 

「訓練を許可する。だが、壊れるような真似だけはしないでほしい」

「ありがとうございます。勿論、私は壊れるつもりはないです。全員無事で終われることが望みですから。私も含めて」

「そうだね、全員無事で帰ってくるために、朝潮君が奮闘するというのなら、私は応援するしかないさ」

 

悲しい笑顔だった。それでも、私の意志を汲み取ってくれたのは嬉しかった。

私は司令官のためにも今の技術を磨き、私も含めて全員無事に終わらせる。全員笑って帰ってくるために。

 

「全員無事に帰るため、君の意志を尊重する。我が愛娘、我が伴侶」

「ありがとうございます。司令官……いや、その、旦那様……?」

「すまない、それは本当にやめてほしい。君に言われると、ね?」

 

言って自分も恥ずかしくなってしまった。でも、伴侶と言われると心が熱くなるような、不思議な感覚がした。これが山城さんが感じている感覚なのだろうか。まだ私にはわからない。

 

 

 

午後、ちょうど深海艦娘の3人がフリーになっていたので、事情を話す。最悪を想定した訓練。白時雨さんと五月雨さんには辛い記憶を思い出させるようで申し訳ないが、あの時のことがわかっているからこそ、卑劣な手段を使われた時の訓練ができる。

 

「これからの敵はああいうことをするだろうからね。いいよ、協力する」

「他のみんなを助けるためですもんね!」

「電がお役に立てるのなら、いくらでも使ってほしいのです」

 

3人とも二つ返事で了承してくれた。特に五月雨さんは、今の力の使い方がまだよくわかっていないらしく、その練習のためにも訓練したいそうだ。その方が予測外の行動をしてもらえて私としてはありがたい。

 

「で、僕らは誰を相手にすればいいのかな。朝潮だけだと意味が無いだろう?」

「そうですね。今空いてるのは……あ、ちょうどいいところに。吹雪さん、ちょっといいですか!」

 

敵は狙い澄ましたかのように姉妹艦をぶつけてくる。おそらくそれもこちらの動揺を誘う戦術なのだろう。効果は絶大である。

残っているのは吹雪さん、叢雲さん、漣さん、睦月さん、そして大潮。この中で一番関わりがあるのは吹雪さん。自分自身がいる上に、実妹である叢雲さんと、義妹扱いの漣さんがいる。自分の手で救出することを強く望んでいる。

 

「そういう訓練するんだ。じゃあ私も参加するよ。叢雲と漣を助けなくちゃだしね」

「じゃあ、あたしも参加していい? 救出対象に漣いるんでしょ?」

 

そこに敷波さんもやってくる。漣さんは綾波型。つまりは敷波さんの妹。ここに来て潮さんのことを気にかけている姿を見るくらいには、敷波さんも妹のことを大事にしていることはわかる。

 

「3対3だから丁度いいんじゃないかな。朝潮がいることで何処までやれるかは、僕も知りたいよ」

「電は身を以て知っているのです。2人がかりを相手にして、こちらの攻撃一切当たらなくなったのです」

 

数的優位があればそれくらいはできるだろう。それに、今回のように自殺や同士討ちまで考えることは無かったので、まだ読みやすい。

今回は実質2対3。私が2人を何処まで押し上げられるかが決め手。そのための訓練でもある。

 

「どういうルールでやるんだい?」

「本番を想定すると……こちらの勝利条件は全ての武器の破壊です。敗北条件はそちらに傷が付くことと、こちらの轟沈判定ですかね」

「ハード過ぎないかな……。私、深雪ほど射撃精度高くないよ。対空特化なところあるし」

 

深雪さんのようにオールマイティを目指さず、基本は対空でやってきている吹雪さんだが、それでもこの鎮守府では貴重な全ての行動ができる艦娘だ。低速化の欠陥(バグ)は割と簡単に覆せるということを、白露さんや深雪さんと一緒に体現している。

 

「んなこと言ったらあたしはどうすんのさ。ここの人達みたいな特化な訓練なんて受けてないんだかんね」

「でも深海艦娘になる前の深雪さん並にはオールマイティでしたよね。精度もなかなか」

「頼りにしてるよ敷波ぃ」

 

敷波さんに抱きつく吹雪さん。ここの吹雪さん、敷波さんが言うには、他よりも若干癖が強いらしい。

 

「とにかく、そのルールでやればいいんだよね」

「はい。よろしくお願いします」

 

吹雪さんの言動はさらりと流し、訓練の準備に取り掛かった。

 

 

 

領海内の一角。3人で向かい合って並ぶ。が、私の後ろには霞も立っていた。この訓練のことを話したら、ついてくると言って聞かなくなったからだ。

今回は狡猾な手段を使われることを前提とした訓練という名目で、私の訓練に皆を巻き込んでいるようなものでもある。それも、脳に強烈な負荷をかける『未来予知』の訓練だ。私が倒れる可能性を考えた霞は、私の保護者としてここにいる。

 

「前にも言ったけど、私は最初から今までを知ってるんだから。無理して壊れるような真似する前に私が止める」

「危ないと思ったらブレーキをかけるってことね」

「鼻血なんて出したら承知しないんだから」

 

出さないという保証はない。何せ、極限まで感覚を研ぎ澄ます予定でいるのだから。

 

演習開始と同時に目を瞑る。自分を含めた6つの反応にのみ集中する。真後ろにいる霞の反応すら無視。

今回の演習、深海艦娘側は()()()()()()()()というルールだ。私達の敗北条件はあちら側に傷が付くことというものがある。よって

 

「これで勝ちってことだよね」

 

白時雨さんは容赦なく()()()五月雨さんに砲を向けた。なるべく痛くない足元を狙っているが、当たれば傷がついたと同じこと。私達の負け。

 

「読んでますよ。白時雨さんが一番シビアですから」

「うわ、ホントにやったよ」

 

敷波さんが白時雨さんの主砲を撃ち、射線を変えた。五月雨さんには当たらない。ついでに武器破壊も成功。さすが敷波さん、いい精度だ。

 

「吹雪、10時移動。敷波、2時移動」

「私が電に行けってことかぁ。義妹(いもうと)ちゃんと戦うのは心苦しいんだけどなぁ」

 

そう言いながらも、割と容赦なく武器を狙って撃つ。確かに深雪さんほどの精度は無いが、それでもなかなかのもの。電さん自身には絶対に当てないように細心の注意を払っているせいであまり精度が出ていないという程度だ。

吹雪さんは妹を溺愛するあまり手加減するものだと思っていたが、むしろ溺愛するが故に容赦しない。姉の威厳と言っていた。その辺りは白露さんと同じかもしれない。

 

「ふ、吹雪ちゃん、結構容赦ないのです!」

「そりゃあね。勝ちたいもん」

 

思考を没入させる。今やりそうなことを全て洗い出す。

武器を失った時雨さんは現状放置状態。魚雷と艦載機、そしてバックパックの連装砲がまだ残っている。時雨改二特有の装備と聞いているため、要注意。

電さんは吹雪さんに攻撃されているが、思ったより余裕そう。視線は五月雨さんの方。周りを気にかけながら戦っているが、吹雪さんの隙も探している。

その五月雨さんは敷波さんと交戦中。本人の性格か、余裕が一切見えない。が、深海艦娘のスペック差で互角以上。五月雨さんは他を攻撃することは無さそう。

 

「もっと深く……もっと深く……」

 

演算能力を上げ、全ての行動を予測し、最適解を算出。予測を確定させ、次の行動を考え、指示。

フリーの白時雨さんが一番危険だ。この状態なら、バックパックからの砲撃が両サイドに飛ぶ。止める必要がある。

 

「吹雪、3時攻撃」

「ちょっ、てぇーっ!」

 

微妙に体勢を崩しながらも、電さんを見据えながら真横への攻撃。その時の白時雨さんは丁度バックパック変形中。予測通り。隙にもなっているし、止めないと2人同時に攻撃される可能性もある。これを止めるのが最優先事項。

 

「えっ、くぅっ!」

「姉さん、白時雨中破判定。負けよ」

「あ、しまった」

 

演算に集中しすぎて、本人に当ててしまった。吹雪さんも咄嗟すぎてバックパックのみを狙うことが出来なかったのだろう。これは私の指示ミスだ。

方向を時間単位で説明するのは、手っ取り早い代わりに精度が本人任せになってしまう。

 

「洗礼を受けた気がするよ……」

「ご、ごめんなさい。武器だけってところが頭から抜け落ちました」

「私も見てなかった。ごめんごめん」

 

電さんの時は相手が1人だったから何とかなっていたのだろう。コントロールは3人だけ。敵は1人だけ。それなら余裕は無いにしろ、傷をつけずに救出可能。

だが、3人ともなると難易度が数倍に跳ね上がる。それに、たったこれだけでも負担が段違いだった。すでに頭痛の前兆が来始めている。

 

「姉さん、頭痛は」

「まだ大丈夫。もう一度」

「また僕が狙われるのかな」

「根に持たないでください。本当に狙いますよ」

 

 

 

その後も何度か訓練に付き合ってもらったが、なかなか上手くいかないでいた。本人に当ててしまうか、吹雪さんか敷波さんが轟沈判定に持っていかれるかのどちらか。深海艦娘は火力が高いので、直撃が直接死に繋がる。

今のままなら本人の判断に任せた方が戦える気がする。私のせいで危険に晒してしまっているのではないか。

 

「次を最後にさせてください。そろそろ負担が」

「はいはい。朝潮ちゃんも無理しちゃダメだよ」

 

頭痛が少ししている状態。これを最後にしないと明日に響く。

 

「それでは……始めます」

 

いつも通りの思考への没入。今日だけで何度もやっているだけあり、すぐさま戦場が手のひらの上に。だが、これだけでは足りないことはわかっている。

深く、深く。さらに思考の奥底へ沈む。まだ足りない。さらに奥へ。他の思考も全て反応へ注ぎ込む。雑念を捨てる。

 

「よくよく考えたら、朝潮が無防備だよね。あちらを狙えばいいんじゃないかな」

「白しぐちゃん、本当にズル賢いのです」

「賢いだけでいいんだよ電。ズルくない」

 

白時雨さんがこちらを向いている。私を狙っている。動かないのだから当然だろう。今までやってこなかったのが意外なほどだ。

 

「敷波、5時攻撃。吹雪、3時移動」

 

今の言葉、()()()()()()()()()。今までで溜まった経験値が、それを可能にしていた。気付いた時には指示を出している。

白時雨さんが撃つ場所はわかる。自然と身体が避ける。また考えずに動いた。何度もやり続けることは間違いではなかった。

 

「さすがに当たらないか」

「白しぐ姉さん、私やられてるから立て直して!」

「五月雨、艦載機使いなよ。電も。6つ同時なら撹乱できるよ」

 

艦載機が反応に増えた。ここまで来るともう関係ない。

 

「吹雪、5時移動8時攻撃。敷波、10時移動」

 

行動に思考を使っていなかった。私自身が電探になったような錯覚。人間の形をした演算装置として、ただ指示を出すのみになっている。行動に使う思考が全て先読みに使われ、1秒以上の『未来予知』を可能にしていた。

 

「……以上。これで終わったと思いますが」

 

目を開く。深海艦娘側の武器全てにペイントがべったりとこびりつき、艦載機も墜とされている。が、残念なことに電さんが大破判定だった。どこを見落としたか。

 

「惜しかったね朝潮ちゃん。最後、ギリギリのところで電が自爆したんだよ」

「あっ、それが先読みに入ってませんね……。今までやられてなかったから」

「自分でやるのは勇気がいるのです……」

 

演習が終わり、気が抜けた瞬間だった。鈍器で殴られたかのような頭痛が一発。あまりの衝撃に気を失いかける。急いで電探を切ったところ、すぐに治った。

 

「姉さん!?」

「大丈夫よ。酷い頭痛が来ただけ。電探を切ったら治ったから、初めて使ったときとは違うわ」

 

それでも身体の消耗が異常。脚から力が抜け、霞にもたれかかる形になってしまう。

 

「無理するなって言ったでしょうが!」

「わかってるわ……でもね霞。もう無理しないとダメなときなの」

 

これだけやっても電さんの自爆が止められていない。ということは、同じことをされたら深海艦娘が助けられないということだ。誰もが無事に終わるためには、私がこの負担に耐えられるように訓練を続けるしかない。

 

「司令官にも許可を貰ったわ。だから霞、私を見守ってて。壊れる前にブレーキをかけてちょうだい」

「……本当に意固地なんだから。私が姉さんのストッパーになるから、これをやるときは必ず私を側に置くこと。いいわね?」

「ええ。霞が止めてくれるなら遠慮なくできるわ」

 

あの感覚を忘れないように、これからは毎日訓練を行う。何度も何度も同じことを繰り返し、脳の容量(キャパシティ)を増やすことが今後の目的だ。最低限、頭痛がなくなるまでは鍛えなくてはいけない。

 

もうあまり時間もないだろう。多少無理してでも必ずモノにして、これからの辛い戦いに活かしていこう。皆を無傷で助けるために。




現状の深海艦娘組のリーダーは時雨君。深雪は後から変化した上に半分だけだし、電と五月雨は人を引っ張るタイプじゃないので、必然的にこうなる。
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