欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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戦艦の良心

行動予測の最終形『未来予知』の訓練を始めた私、朝潮。初日でそのコツを掴めたように感じたが、強烈な頭痛だけはどうにもできない。せめてこれが無くなるまでは訓練に訓練を重ねていかねばならないだろう。いざという時は霞が止めてくれる。今は無理をしなくてはいけない時だ。

 

余裕があるときは訓練をするが、私だって鎮守府配属の艦娘だ。当然任務だってある。

今日は防衛線の警護任務に参加する。基本的には戦艦と空母の方々がカタをつけてくれるのだが、火力のみでなく戦闘補助も必要。今回の私は対空の役割でこの場にいる。駆逐艦での参加者は私のみ。あとは全員戦艦という超火力偏重。空母隊はお休み中で、艦載機は陸上型深海棲艦に任せている状態。

 

「アンタ、また無理し始めたらしいわね」

 

待機中、仁王立ちの山城さんに言われた。相変わらず陸上型陣地のど真ん中で敵を見据えている。圧が日に日に上がっているようにも思える。

 

「今はその時だと思いまして」

「ほどほどにしておきなさい。焦って壊れたら意味がないわ」

「ありがとうございます。大丈夫です」

 

目もくれずに話してくれているが、心配してくれているのもわかる。厚意は素直に受けよう。

 

「援軍の戦艦2人はどうですか」

「役に立つわ。特に金剛。戦い慣れしてる」

 

その金剛さんは今、榛名さん、ウォースパイトさん、ミナトさんを巻き込んでティータイム中。陣地にテーブルとティーセットまで持ち込んで優雅なひと時。敵がいないときは好きにできる時間だが、ここまでリラックスしているのは初めて見る。とはいえ全員艤装を装備しているので、すぐに戦闘行動に移せる。

 

「Tea timeは大事にしないとネー。はい、ヒメ。お菓子もありマスヨー」

「ウマイカラスキダ。アリガトウ」

「んふー、可愛い子デスネー」

 

レキさんと同じくらいの社交性。ここに来てすぐに全員と仲良くなっていた。深海棲艦も含めてである。

 

「呑気なものよ。でも、それくらいの方が本領発揮できるのかもね」

「ヘーイ、山城ー! 貴女もどうですカー?」

「今は警護の時間。後から貰うわ」

 

今まで数少なかった戦艦組も、ここに来て一気に増えている。出向、援軍とはいえ長門さん、金剛さん、ビスマルクさんと加入したことで、戦艦だけでも7人。戦艦主砲が扱える人で5人となっている。

特に大きいのは出向の長門さんだ。ビッグ7の名に恥じぬ超火力と、誰とでも連携できる一斉射は頼りになりすぎるほど。

 

「敵艦載機が索敵範囲に入りました」

「テイサツキダ。ソロソロクルゾ」

 

ミナトさんが金剛さんからのお茶を片付け、迎撃の準備に入る。ティータイムが邪魔されたことを残念そうにする金剛さん。そして、それ以上に憤慨しているのはウォースパイトさんである。お国柄だろうか。

 

「優雅なTea timeを邪魔するなんて、礼節がなっていないようね。ナガト、ムネアツは私がやるわ」

「いいだろう。準備してくれ」

 

長門さんの一斉射を皮切りに、山城さんとガングートさんが特攻。それを主砲組で援護というのが基本的な流れ。この戦術になってからより力が発揮できているのは榛名さん。火力担当が増えたことで心に余裕ができ、十全の力が発揮できている。

 

「カンサイキヲダスゾ」

「ワタシモダス!」

 

ミナトさんとヒメさんが艦載機を発艦。相変わらず数が多く、制空権確保も容易だ。撃ち漏らしを私が対空砲火で迎撃するのみ。

 

「索敵範囲に入りました。方向はそちらであってます」

「では、ウォースパイト、行くぞ! 一斉射! 撃てぇーっ!」

「Fire! fire!! fire!!!」

 

相変わらずの火力で敵陣のど真ん中を薙ぎ払った。それだけで敵部隊の大半が消し炭となり、残りはイロハ級を壁にしていた鬼級姫級が数体と、端にいたイロハ級程度。

 

「戦艦棲姫2、軽巡棲姫2、駆逐古姫1ですね」

「最近そのシフト多いわね……。ガン子、戦艦行くわよ」

「懲りない連中だな。まったく」

 

ぼやきながら陣地から降り、戦艦棲姫に突っ込む。ガングートさんも一緒に、もう片方の戦艦棲姫へ。

 

「ビス子は長門と軽巡お願いしマース」

「ええ、前回と同じね。あとビス子言うな」

「榛名はお姉様ともう片方の軽巡を!」

「OKネー。スパ子は駆逐をよろしくデース!」

「ハルカゼのそっくりさんね。Leave it to me」

 

戦艦組の司令塔は金剛さん。山城さんとガングートさんが止められないのを考慮して、主砲組の指示を一手に引き受けている。戦闘経験が榛名さんよりも多く、あちらの鎮守府では最古参の戦艦だそうだ。

 

「ミナトとヒメはイロハをお願いしマース! 榛名、Follow me!」

「榛名、頑張ります!」

 

姉妹と出撃することでやる気が120%くらいになっている榛名さんは、金剛さんよりも活躍するほどの動き。連携もさることながら、個々の実力も相当なものだ。そして金剛さんは司令塔ができるだけあり、一歩引いた戦い方もできる。実戦経験の差が如実に表されていた。

 

「私達を見くびっているのかしら。同じのばかりぶつけてきて」

「ぼやくなぼやくな。鎮守府を守れているのだから、今はそれでいいだろう」

 

ビスマルクさんがそう言うくらいなのだから、余程似たような敵ばかり出てきているのだろう。敵側にも何か思惑があるのか、それとも。

 

「まぁいいわ。このビスマルクに立ち向かうとはいい度胸ね。沈めてあげるわ! Feuer!」

 

海外戦艦の中でも屈指の力を持つビスマルクさん。主砲の威力もそうだが、特筆すべきは魚雷が装備できること。()()戦艦が装備できないものが装備できるということで、唯一無二の能力を持っている。

そう、()()はだ。ここには元深海棲艦特有のスペック変更により同じことができるガングートさんがいるため、ビスマルクさんの唯一性が失われてしまっていた。そのせいでガングートさんのことをものすごくライバル視している。

 

「ハッ、この程度でこのビスマルクに向かってこようだなんて」

「イロハ級にも気をつけろビス子」

「わかっているわよ! 長門までビス子言わないでくれる!?」

 

軽巡棲姫が一撃の下に撃破され、すでに雑多なイロハ級の掃討に入っている。

戦艦だけの部隊はとにかく戦闘が派手だ。爆音に次ぐ爆音、大きく立ち上る火柱、乱れ飛ぶ敵の残骸。その力が北の戦場で使えないのが本当に惜しい。深海艦娘を全員救出できたら、その力を遺憾なく発揮してもらおう。

 

「終わったわよ」

「今日のは輪をかけて弱かったぞ」

 

戦艦棲姫2体もすぐさま処理していた。以前あれだけ苦戦したのが嘘のようだ。単に強くなったのか、戦闘に慣れたのか、はたまた敵に何か思惑があるのかは知る由もない。

 

「こちらも終わったわ。ハルカゼのそっくりさんを撃つのは少し心苦しかったけれど」

「終わったデース! さっすが榛名、お姉ちゃん感激ダヨー!」

「榛名、頑張りました! 金剛お姉様のおかげです!」

 

姫級も全滅。防衛戦はこれで終了。私は結局ほとんど何もやっていない。あわよくば訓練に使おうかと思っていたが、危なげなく無傷での勝利である。戦艦の火力、おそるべし。

 

 

 

再びティータイムに戻る。私もお呼ばれして、膝にヒメさんを乗せながらくつろぐことに。金剛さんの淹れる紅茶はとても美味しい。今度淹れ方を教えてもらおう。

今はガングートさんと長門さんが警護をしているため、山城さんも参加中。

 

「紅茶が美味しいネー。戦闘の後はより美味しい気がシマース」

「ホント美味しいわね……。どうやったらこんな風に淹れられるのかしら……」

「後から教えてあげるネー。愛しの提督に淹れてあげなヨ」

 

顔が赤くなる山城さん。こういった形で山城さんが弄られているところを見るのは新鮮だ。

 

全艦娘で見ても、金剛さんは艦として歴史のある人。艦の生まれだけでいうなら、旧式と言われている天龍さんや山城さんですら金剛さんの歳下に当たる。金剛さんより歳上なのはガングートさんくらい。

だからか、金剛さんはとても面倒見がいい。そして、それに対して誰も反発しない。ビスマルクさんも漫才みたいな掛け合いはするものの、金剛さんには信頼を寄せている雰囲気は見える。

 

「でも、ここの戦場は今までとちょっと違うネ。深海棲艦が毎日来るなんて初めてヨー」

「普通ではあり得ないような敵ばかりですからね。深海艦娘がその筆頭ですけど」

「艦娘を改造する深海棲艦は聞いたことないデース。早く助けてあげないとネ」

 

助けられる方法はわかっているのだ。なるべく早急に全員助けてあげたい。だが、敵の出方も変わってきている。学習してきているのは想定外だ。

 

「朝潮、さっきも言ったけど、焦らないように」

「わかってます。焦りは禁物ですからね」

 

山城さんに念を押される。無理をしているのは百も承知。

 

「今はTea timeを楽しんでネー。ゆっくり休憩することが、BestなPowerを出す秘訣ネ」

「ありがとうございます。糖分が頭に染み渡るようです」

 

戦場のど真ん中でお茶会を開くなんてとんでもないことだが、気を張り続けるのも疲れるだけだ。和やかに敵を待つ。それだけでも気分は良くなるものだ。余裕があるだけで、スペックを高めることができる。

 

「朝潮は頑張っちゃう子なのネー。無理しすぎることは一番の遠回り。覚えておいてネ」

「はい、肝に銘じておきます」

 

金剛さんとお話をするだけで、疲れが取れるような、ヒーリング効果があるような気がした。直接聞いてはこないが、見据えたように核心をついてくるようなことも沢山ある。実戦経験、人生経験の差だろうか。

 

「敵が来ないと暇なものね。金剛、私にも一杯貰えるかしら」

「OKヨー。ついでに朝潮と山城にお茶の淹れ方教えてあげるネー」

「ありがとうございます。私も戻ったら妹達に淹れてあげます」

 

山城さんもなんだかんだ素直にお茶の淹れ方を聞いていた。慎重に丁寧に淹れていたので、ものすごく震えていたのが印象的だった。

 

 

 

警護任務が終わり、鎮守府に帰投。あの後にもう一度襲撃があったが、結局私の出番などなく、戦艦の圧倒的な火力で速攻撃破。

だが、また戦艦棲姫がいたのは気になる。私が以前に交戦した敵部隊にも戦艦棲姫がいた。ウォースパイトさんの後輩といえば聞こえはいいが、立て続けとなると何かあるように思えてくる。

 

「姉さんは考えすぎ。そんなんじゃ疲れ取れないわよ」

「そういったことは司令官様にお任せしましょう。御姉様は身体と頭を休めてください」

 

進言だけはしておいたので、これからのことは司令官が決めてくれるだろう。私は指示に従うだけだ。

 

「それで、今度は紅茶?」

「金剛さんに淹れ方を教わったの。2人に飲んでほしくて。ちょっとしたお茶会だと思って」

 

茶葉も少し分けてもらってきた。金剛さんほど上手には淹れられないだろうが、少しでも私が楽しんだお茶会を再現できれば。いや、戦場で艤装をつけたままのお茶会はさすがに再現できないか。

 

「ふぅん、金剛さんのね」

「御姉様の淹れてくれたお茶……大切に飲まなくては」

「美味しく飲んでくれればいいから」

 

自分なりには上手くできたと思う。酷いものを出すことにはならないだろう。

 

「うん、美味しいわね」

「はい、とても。御姉様の愛情を一雫残らずいただかせていただきます」

「概ね間違ってないけど言い方」

 

喜んでくれたのなら何よりだ。特に霞にはまたお世話になりっぱなしだし、多少なり恩を返せたようでよかった。

紅茶を淹れるとき、何よりも相手の喜ぶ姿を想像しながら淹れろというのが金剛さんの教えだ。春風の言葉もそんなに間違っているわけではない。

 

「ありがと。また淹れてほしいくらいね」

「わたくしも是非。今度はわたくしが淹れられるようにしたいですね」

「喜んでもらえたのなら何よりだわ」

 

こんな辛い戦場でも、こうやって心休まる時間があれば耐えられる。当然負ける気などない。だが不安が大きいのは確かだ。その不安がほんの少しでも和らげることが出来たのなら、お茶会は大成功と言えるだろう。

金剛さんには感謝しかない。遠回しにだが悩みも聞いてもらい、お茶という形で余裕もできた。さすが司令塔。

 




金剛は戦艦の中ではリーダーシップに溢れる良キャラ。年の功……と言ってしまうと怒られそうですが、ハイテンションの中に落ち着きもあって、視野が広いんですよね。提督絡みになるとぶっ飛ぶだけ。
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