欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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想定外

神通さん相手に無傷で回避し続けられたことで、自分の戦い方に自信が持てた私、朝潮。このペースで訓練を続け、誰もが無傷で終わることのできる戦場を作っていこう。攻撃できない私だけの、たった一つの戦い方だ。

 

時雨さんと五月雨さんを救出してから1週間。そろそろ3回目の救出任務が発令される。残った深海艦娘から判断して、こちらの部隊も選出することになる。前回のような立候補も多くなるだろう。何せ、残った5人のうち3人が特型。吹雪さんが黙っていない。

 

「吹雪と敷波、潮は確定ね。むしろこれで深海艦娘を釣るまであるわ」

「姉妹艦で動揺させてくるからな。ある程度固定できるだろ」

「はい! この吹雪、勿論行かせていただきます!」

 

作戦会議中、部隊の要員を話していた。敵はこちらの部隊の姉妹艦を確実に出してくる。精神的にもダメージを与えようと、手段を選ばない。

それならばと、逆に誘い出す作戦に出る。そもそも特型が多いのなら、先に処理できるように姉妹艦を総動員する。吹雪さん、叢雲さんには吹雪さんを、漣さんには敷波さんと潮さんをぶつける。深雪さんも出したいところだが、何が起きるかわからないので保留中。

 

「叢雲を誘うなら、オレと龍田も出るぜ。アイツ、得物持ってるからな」

「武器持ちは武器持ちで対処するということだね。私もその方がいいと思う。確か龍田君は叢雲君に因縁をつけたと聞いているよ」

「ああ。さんざん煽ってな。龍田を見れば血相変えて襲ってくるだろ」

 

もしかしたら何らかの処置を受けて別物になっているかもしれないが、と付け加えた。艦娘を改造できる敵なのだから、何かやってきてもおかしくはない。

 

「むしろ問題は水母棲姫です。あれを処理できる部隊が必要だと思います」

「そうだね。聞いていると、あの戦艦水鬼と同じほどと言うじゃないか。深海艦娘とは戦わないにしろ、戦艦や空母の火力も必要になるだろうね」

「長門さんの一斉射で、あのエグい下半身をどうにかできるかもしれねぇ。あとは内部破壊か」

 

連合部隊の片方は、深海艦娘を無視して水母棲姫を倒す部隊にする必要があるだろう。そこは火力重視で行ければまだ戦えるかもしれない。

 

「っと、そろそろ警護の時間。朝潮、アンタもでしょ」

「はい、私と山城さんは任務ですね。この辺りで」

「部隊については私が決めておくよ。では警護任務、よろしく頼む」

「了解」

 

私の警護任務は対空のみのため、比較的簡単な仕事になるが、油断はできない。何が起こるかわからないのが最前線だ。

 

 

 

陸上型の陣地に到着。今日は陣地からミナトさんとヒメさんも出払っていた。最近午前午後と出ずっぱりであるため、休んでもらいたいという司令官の判断である。代わりに空母が3人体制。蒼龍さんと飛龍さんの二航戦コンビに加え、大鳳さん。正規(装甲)空母3人なら充分以上に艦載機が飛ばせる。

 

「待たせたわね」

「大丈夫大丈夫。飛龍にここまで運んできてもらったよ」

「曳航って大変だね。帰りは例の艤装でお願い」

 

戦艦も山城さんに加え金剛さんと榛名さんが参加。

火力は充分だが、ダメ押しに深海艦娘から電さん、深雪さん、白時雨さんが参加。五月雨さんは夕立さんに連携訓練に拉致されたらしい。

私も加えて10人体制。準備は万端だ。

 

「こうやって山城と肩を並べられて嬉しいよ」

「そうね……色は違うけど期待してるわ」

「酷いこと言うね。好きで白くなったわけじゃないんだから」

 

白時雨さんは山城さんと仲がいい。呼び捨てするほどなので、艦の頃からの仲のようだ。

 

「山城さんと白時雨さんは何か面識があったんですか?」

「艦の頃にね。こいつがあちら側の時に、黒い方に『スリガオ海峡』って口走ったんだってね。それよ」

「朧げな艦の頃の記憶でも、スリガオ海峡だけは特に覚えてるんだ。辛い思い出だけどね」

 

悲しい記憶だそうなので深掘りをしようとは思わないが、何となくわかる。あの時の白時雨さんの言葉、踏み台にして生きてきたという言葉からして、時雨さん以外が全滅したとか、そういうことだろう。これは軽々しく触れられる内容ではない。

 

「誰もが一度沈んでる身とはいえ、あれは二度と起こさないようにしなくちゃね」

「うちの提督ならあんなことにはならないようにしてくれるわよ」

「……そうだね。山城がそれだけ入れ込んでるんだ。勿論信用してるよ」

 

お茶会の時といい、今といい、山城さんも弄られ役が多くなってきている。

 

「いや、もうホント意外。山城がこんなに、なんていうの、純愛に目覚めてるなんてさ」

「そうデスネー。お姉さんがいないからデスかネー」

「姉様がいても変わらないわよ多分」

 

頰を赤らめながら話す山城さん。誰もが思っているし、他にも山城さんと同じ感情を持つ人はいるが、司令官は魅力的な人だ。指輪を貰ってから一層そう思えるようになった。

 

「山城さんのお姉さんはどんな人なんでしょう」

「前向きな山城だよ。簡単に言うと」

「誰が後ろ向きですって?」

「アンタが異常なだけ」

 

山城さんのお姉さんである扶桑さんは、スペック的には姉妹なだけあり山城さんと同じ。ここの山城さんからは微塵も感じないが、()()()山城さんは浮き沈みの激しいネガティブな性格。扶桑さんはお淑やかで比較的前向きだそうだ。

時雨さんとも艦の時代に面識がある。扶桑姉妹と時雨さんは、切っても切れない縁があるようだ。

 

「まぁ姉様にはいつか会いたいわ。欠陥(バグ)のある姉様に会えるとは思ってないけど」

「確率がね」

「せめて欠陥(バグ)の無い姉様くらいには」

 

なんて話しているうちに索敵範囲に敵の反応が現れる。たった1体の姫級。しかもこれは()()()()()()()

 

「索敵範囲に入りましたが……え、嘘でしょ……」

「何が来た? また戦艦棲姫?」

「水母棲姫……です」

 

索敵にかかった姫級は、以前にも見た水母棲姫。狡猾な深海棲艦である。深海艦娘を管理するように赤い海から出てこないものと思っていたが、当たり前のようにこの場に来てしまった。

 

「なんでこんなところに……! どんどん近付いてきます!」

「長門がいないから一斉射も出来ないわ。空母、艦載機!」

「はいよ! 行くよ飛龍、大鳳! 攻撃隊発艦!」

 

大急ぎで艦載機を発艦させるが、もう目視できる位置まで来ていた。空母隊以外は陣地から降り迎撃態勢に。私も戦場の中心に立つために最後尾に立つ。

水母棲姫は、反応の通り随伴も連れていない単騎。艦載機からの攻撃も避け続けているが、こちらを攻撃してくる素振りはない。

 

「ハァイ。コンナトコロデゴクロウサマ」

「喧嘩売ってるなら買うわよ。どうせ帰すつもりは無いし」

「キョウハ()()()()()()()ダカラ、オモシロイモノヲミセニキタノヨ」

 

ニヤニヤしながら話しかけてくる。あくまでもこちらを見下している。

 

「ヤット()()()()シタノ。タノシンデクレルトウレシイワ」

 

海中から引き上げるように何かを呼び出す。今の今までソナーにすら引っかかっていなかったので、たった今ここに現れた。反応は潜水艦などよりも確実に大きい。戦艦サイズに見える。

 

「フフフ、ヤマシロ、ダッタカシラァ」

「あん? 私に何かようなの? 辞世の句でも詠みたいわけ? 殴り殺すわよ」

「アナタニミセタカッタノ。ハァイ、ゴタァイメェン」

 

大きな水飛沫を上げながら海上に現れたのは、見たことのない深海棲艦。いや、深海棲艦かもわからない。初めて深海艦娘を見たときのような違和感。

まるで雪女のような真っ白な着物。生気を感じさせない青白い瞳と、側頭部にそびえ立つ大きな角が目立つ黒髪の存在。首輪も鎖も無いため、深海艦娘では無さそう。調査通りならここまで鎖は伸ばせないはずだが。

何より、武器を持っていなかった。少し大きめな機関部艤装を背負っている程度。

 

その存在の顔を見て、山城さんが急に震えだした。初めて見る山城さんの()()()顔。今にも泣き出しそうな辛そうな表情。

 

「嘘……なんで……」

「山城さん?」

 

その山城さんの姿を見て、水母棲姫のニヤニヤ笑いがより下卑た笑みに変わる。

 

「サァ、ナノッテアゲナサイ」

「扶桑型戦艦……姉の扶桑。()()()()()()として推参しました」

 

訳がわからなかった。扶桑さんはさっきまで話していた山城さんのお姉さんであり、深海棲艦なわけがない。あちらの陣地でドロップして改造されたとしても無理がある。何より鎖をつけていない。

だが、()()()()()()と名乗った。深海棲艦として私達の前に立っている。敵として、私達に相対している。

 

「……貴女達を殺せと言われているの。素直に……死んでちょうだいね?」

 

言った瞬間、扶桑さんが()()()()()。この戦い方、山城さんと同じ。完全な白兵戦特化タイプだ。

 

「山城さん!」

「姉様、なんで……!」

 

激しい蹴りが山城さんに叩きつけられる。咄嗟にガードするが、動揺のためか簡単にフラついてしまった。いつもの山城さんならこんなことはない。ショックで正気を失っている。

 

「さすがは山城ね……でも、ダメよ。ここで死んでくれないと……困ってしまうわ」

 

次はローキック。あんなのを喰らってしまったら山城さんとはいえ脚が折れてしまう。だが山城さんは完全に戦意喪失してしまっている。私の言葉も届いていない。

 

「全員、扶桑さんを撃って!」

「お、オッケーネ! 全砲門!Fire!」

 

すんでのところで指示を出し、金剛さんに撃ってもらった。山城さんへの攻撃はキャンセルされ、代わりに砲弾全てを素手で叩き落とす。これも山城さんと同じ戦術。砲撃は全て弾かれ、接近戦では異常なパワー。近付かれたらアウトとも言えるところは、完全に山城さんの現し身。

私は引くしかないが、山城さんは茫然自失としており動く気配が見えない。

 

「山城さん! 戦えないなら引いてください!」

「姉様……」

 

このままだとまずい。どうにか山城さんの服を掴んで引っ張り、その場から引き離す。

 

「ウゥン、イイハンノウネェ」

「んだよあれ! 山城さんが敵になっちまったみたいじゃねぇか!」

「ど、どうすればいいのです!?」

 

大混乱。こちらには10人いるのに、たった1人の()()が現れたことで、なす術もなくなっている。深雪さんの言う通り、山城さんが敵として立ち塞がったようだった。

 

「山城が動かないのなら……別の子からやるわよ? 例えば……時雨、貴女にしましょう」

 

山城さんを見限り、即座に切り返し。タービンを積んだ山城さんと同じような速力で時雨さんに向かう。青白い瞳が閃光のように走り、躊躇なく特攻。それを止めるために金剛さんと榛名さんも砲撃するが、その全てを素手で弾いていく。

 

「空母の皆さんは水母棲姫を集中! 他で扶桑さんを止めてください! 機関部を破壊すればある程度は止まります!」

 

周囲を囲めたとしても、山城さんと同じならば全て弾く可能性が高い。敵がなんであれ、殺す気で戦わないと全滅する。仲間だとあんなに心強い山城さんが、敵となると対処方に困る難敵となる。この事態を予測していなかったことを後悔した。

 

「時雨さん!」

「早速役に立つとは、ねっ!」

 

即座に魚雷を放ち、主砲で撃ち抜く。着水する前に爆破したため、目くらましと同時に距離を取るための風圧にもなる。多少ダメージにはなるが、なんとか間合いを取れた。

 

「北上さんに感謝だね!」

「白しぐちゃん! 伏せて!」

 

電さんの合図で白時雨さんがしゃがむ。同時に電さんと深雪さんが砲撃。合わせて裏側から榛名さんも砲撃。山城さんでもそう簡単には回避できない3箇所同時の攻撃だ。本命は機関部を狙った榛名さんだが、この際どれか当たってくれればよかった。動きを止めることが先決。

 

「3人がかりは……ひどいわ……」

 

その全てを拳だけで払ってしまった。同時に着弾するはずの電さんと深雪さんの砲撃を片手で払い、榛名さんの砲撃は蹴りで払う。その風圧で目くらましの爆炎も綺麗さっぱり無くなってしまった。

 

「どうするよ……魚雷に変えるか?」

「でもそれだと傷つけちゃうのです。それがいいのかどうか……」

「くっそ、あれが艦娘なのか深海棲艦なのかもわからねぇ!」

 

水母棲姫が言う『いいタイミング』とは、ここに深海棲艦の気配が読める者がいないタイミングだ。本当に運悪く、ミナトさんとヒメさんが出払い、半深海棲艦の春風も、元深海棲艦のガングートさんとウォースパイトさんもいないこのタイミング。

さらには、精神的なダメージが最も大きく入るであろう山城さんもいる。戦況はガタガタ。鎮守府との通信も現在無反応な山城さんの役目のため、援軍の期待も出来ない。

 

「抗わないで……素直に死んでちょうだい」

 

躊躇っているだけで隙が出来てしまう。気付いた時には白時雨さんの懐。

 

「まずは時雨……貴女ね」

「なっ!?」

 

思い切り蹴り上げ、白時雨さんが宙を舞った。深海艦娘の身体のおかげか死に直結しなかったようだが、その一撃で艤装は破壊され大破。あまりの衝撃に気を失ってしまっている。

 

「次……深雪」

「マジ……かっ」

 

白時雨さんが落ちる前に間合いを詰められ、そのまま蹴り。同じように艤装を破壊され、海面に擦り付けられるように吹き飛ばされる。

 

「次……電」

「ひっ……!?」

 

深雪さんを蹴った反動を使ってそのまま跳び、電さんの頭に蹴り。咄嗟にガードしても勢いが強すぎてそのまま深雪さんに激突する形で飛ばされてしまった。

一瞬で3人。いくら駆逐艦相手といえど、あまりにも滅茶苦茶。たったこれだけで、勝てる見込みが無くなってしまった。山城さんさえ正気に戻ってくれれば。

 

「次……朝潮」

「開始します!」

 

ここまでパターンは見てきた。山城さんのパターンとも合致する部分が多い。『未来予知』により、せめて私が避け続け時間稼ぎをする。

視認する反応はここにいる全員。私以外にも突然狙う可能性はある。最悪の可能性を全て考える。1秒じゃ足りない。今までの経験則で、2秒先へ。

 

「あら……避けるのね」

 

風圧が頰を切り裂いたのがわかる。が、痛みは感じない。痛覚も先読みに転化。触覚以外の全ての感覚を先読みへ。

 

「いい加減にしろ山城!」

 

勝手に口から出た言葉は、山城さんへの叱咤。この状態の私は思考で制御できないために、考えていることが勝手に口から出てしまう。回避方向、計算の内容、その他諸々。だが、こんな言葉が出たのは初めてだ。

 

「スリガオ海峡の二の舞になる! 動けぇっ!」

 

私にこんな乱暴な部分があるなんて思いもしなかったが、今はこれが最善と思ったから口から出た。

回避するのもギリギリ。山城さんが拳なら、扶桑さんは脚での攻撃が多い。大振りな代わりに範囲が広い。私の身体能力では、掠める時があるため、身体中傷だらけになっているだろう。

 

「っ……朝潮、言うじゃないの。二度と、あんな事になって……たまるかぁ!」

 

山城さんが動き出した。そろそろ私も終わらせないと反動がキツイ。

 

「以上……っああっ!?」

 

『未来予知』終了と同時に強烈な頭痛と身体中から悲鳴。無理した回避の負担と後回しにした痛覚も一斉に襲ってきた。頭痛は緩和されていたが、それ以上に身体中が痛い。

 

「姉様! どういう理由があるかは知りませんが、引いてもらいます!」

「引く? ……何故? ここで全員殺すの……朝潮と山城は後にするわ……次、金剛」

「What's!?」

 

傷だらけの私と突っ込んだ山城さんは無視し、今まで私が近すぎて攻撃できないでいた金剛さんの方へ。ようやく私から離れたことで砲撃を再開するが、やはり全て弾いて止まる気配がない。

 

「止まれぇ!」

 

山城さんが弾いた砲撃をさらに弾き、扶桑さんの機関部に直撃させた。それは想定外だったのだろう。さすがに動きを止め、山城さんに振り返る。

 

「金剛! 榛名!」

「全砲門! Fire!」

「主砲、砲撃開始!」

 

何度撃っても攻撃は弾かれるが、戦艦の主砲となるとそれに専念しない限り無傷で弾くことはできない。だからこそ2人に撃たせ、山城さんも突っ込む。先程と同じ3箇所同時攻撃。ただし、1つは白兵戦だ。

 

「……本当に酷いわ」

 

またもや片手で砲撃2つを対処。すぐさま山城さんに向かい合い、応戦の用意。

 

「山城は、私を殺せるの?」

「姉様……っ」

 

ダメだ。山城さんは扶桑さんの顔を見て攻撃を躊躇してしまう。その一瞬は隙を見逃されない。

 

「私は、山城を殺せるわ」

 

扶桑さんの攻撃、脇腹への蹴りがまともに入ってしまった。先程の深雪さんと同様、あの山城さんが海上を滑るように吹き飛ばされる。

 

「……機関部が破壊されたわね。山城……今日はここまでにするわ……また、会いましょう」

 

延々と空母隊の攻撃を避け続けていた水母棲姫に合図を出し、海中に撤退。水母棲姫もニヤニヤ笑いながら帰っていった。

 

結局、たった2体の敵になすすべなく敗北。時雨さん、深雪さん、電さんは大破で気を失い、山城さんも中破。私も中破で限界に近い。戦闘終了とわかった途端、意識が飛んだ。

ここまでの敗北は、戦艦棲姫改と戦った時以来である。想定外すぎる敵に、私達はどうしようもなかった。




精神的なダメージを優先的に選択する水母棲姫ならではの、最低最悪の敵。どれだけ強い戦力でも、心を折ればあっさり倒れるということ。
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