欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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疑心暗鬼

私、朝潮が目を覚ましたのは、その日の深夜。深雪さんと電さんは先に入渠が終わっており、白時雨さんは私とほとんど同じタイミングで目を覚ました様子。ドックから起き上がったところで目があった。

 

「朝潮、君もちょうどかい」

「はい……中破だったんですが、長引いたみたいですね」

 

怪我の具合は私の方が軽かったが、脳への負担が入渠時間を長くしていたらしい。入渠のおかげで身体中の傷は綺麗に治り、頭痛もスッキリ。

 

「司令官に言われて着替えを持ってきたわ」

「白しぐの分も持ってきたっぽい」

 

霞と夕立さんが私達の制服を持ってきてくれた。とはいえもう深夜。少ししたらそのまま眠ることになるだろう。今までグッスリ眠っていたため眠気はほとんど無いのだが。

入渠終わりに全裸で面と向かうのが恥ずかしいということを、ようやく司令官は理解してくれた様子。この後入渠が終わったことを報告しに行くことになる。

 

「ありがとう。この時間まで起きてたの?」

「まぁね……姉さんが無理したっていうから」

 

少し怒っているようにも見えるが、今回ばかりは本当に仕方ないことだ。生き残るために無理をした。これは納得してもらうしかない。

 

「じゃあ夕立はもう寝るっぽーい。おやすみー」

「うん、おやすみ。この時間に響の部屋に入るのは忍びないな……別の場所を借りよう」

「霞はどうするの?」

「最後まで付き合うわよ。どうせこのまま姉さんの部屋だし」

 

さっと着替えて執務室へ。さすがに大淀さんはいないようだが、司令官はここで私達が回復するのを待っている。入渠ドックの前にずっといるよりはマシに思えた。

 

「司令官、朝潮、入渠が完了したため参りました」

「白の方の時雨も入渠終了。入らせてもらうね」

「ああ、入ってくれ」

 

少し疲れた声の司令官。心配をかけてしまった。

 

「金剛君から話は聞いている。大変な目に遭ったみたいだね……。予測できなかった私にも責任はある。申し訳ない」

 

相変わらず頭を下げてくる司令官。頭を下げないでほしいと私も白時雨さんも慌ててしまう。

あれは誰も予測できない事態だ。見た目は深海艦娘のようだが、首輪も鎖も無かった。それでも水母棲姫に、深海棲艦に従っていたということは、何か今までとは違う存在なのだろう。そもそも声が普通だったことも気になる。

 

「もうこんな時間だ。また次の機会に話そう」

「了解しました。司令官もなるべく早くお休みください」

 

報告も手短に済ませる。これ以上話しても司令官の心配を増やすだけだし、本当に遅い時間だから、そろそろ霞が限界。執務室から出ると壁にもたれて船を漕いでいた。

 

「じゃあお休み。僕らはさんざん寝たけどね」

「はい。おやすみなさい」

 

霞を抱き上げたが、反応なくそのまま寝落ち。霞がドロップしたときのことを思い出しつつ、自室に戻った。

眠気は無かったつもりだが、横になるとそのまま睡魔に襲われる。入渠で疲れは取れたと思っていたが、そんなことはなかったらしい。

 

 

 

翌朝、未だ山城さんは目覚めず。怪我の具合からしたら私以上ではあっただろう。戦艦故に回復に時間がかかるのは仕方ないことだ。現在は身体自体は治療済みだが、精神的な回復に時間がかかっている。

もう司令官もドック前につきっきりだ。いつもの朝の会議も今日は中止である。

 

「さぁ姉さん。話を聞かせてもらおうかしら」

「また無理をなされたようで」

 

私は何故か談話室で正座させられていた。霞と春風が私の前に仁王立ち。私がまた脳を酷使したことに少しご立腹な様子。駆逐艦の中破ならいの一番に入渠が終わってもおかしくはないのに、大破の深雪さんと電さんよりも遅かった。理由は明白である。

 

「無理をしなかったら私は殺されてた。私達よりスペックの高い深海艦娘ですら一撃大破の状況を中破で終わらせられたのは『未来予知』のおかげなの」

 

あれができなかったら私はあの場で死んでいただろう。今思えばヒヤヒヤする戦場だった。一歩間違えれば、私は二度目の沈没を体験することになっていた。

 

「そう……ここ最近の訓練の成果は出たと思えばいいのね」

「ええ。でも、訓練にもう一つ取り入れたいのよね」

 

霞が睨んできた。そんな反応なんだろうなと読めていた。『未来予知』はしていない。

 

「脳トレの前に筋トレが必要なのがわかったの。私の身体能力が低いせいで、回避しても躱し切れなくて傷だらけになったんだもの……」

「瞬発力の訓練、みたいなものですか。ご自分の身を守るために必要だと感じたのですね」

 

今回の件でほとほと感じたのが、自分の身体能力の低さ。攻撃しないにしても筋肉は重要というのを身を以て知った。山城さんの言う通りだった。

今でも勿論筋トレは怠っていない。だが、行動予測の訓練をするにあたり、そちらは必要最低限にしていた。筋力を上げるためではなく、筋力を下げないためのトレーニングである。身体能力だけは現状維持を貫き通していた。

 

「だから、今からガングートさんにプランを立ててもらおうと思って。山城さんはまだ入渠が終わってないし」

「自分の身を守る訓練なら文句無いわ」

 

死を免れるためなのだから文句を言われても困る。自分がカウントできていなかった前とは違い、私も自分の身が一番可愛い。それに私が死んで悲しむのは他ならぬ霞だろうに。

 

 

 

ガングートさんに筋トレのプランを立ててもらい、ジムから出たところで入渠の終わった山城さんと行き合う。あの後すぐに起きたようだ。目を覚ましてくれて本当に良かった。

 

「山城さん……あの、すみませんでした。あの時は咄嗟にあんな事を言ってしまって」

「気にしてないわ。それに、最善だと思ったことが無意識に出るんでしょ。自分の選択に胸を張りなさい」

 

精神的な回復も終わっているが、少し疲れた顔。相当堪えている。

 

「アンタ達の気持ちが少しはわかったわ。姉妹が敵になってるって辛いわね」

「そうですね……」

「昨日まで正直他人事だったわ。わかってるだけでも駆逐艦しかいないし、私はその戦場に出られないんだもの。助かった子しか見てないから実感無かった」

 

自嘲気味な笑み。山城さんの知る深海艦娘は、すでに正気に戻っている人達だけだ。性格を書き換えられ、姉妹に対して悪態をつく姿は知らない。

 

「アンタは深海艦娘を全部見てきてるわよね。……姉様は深海艦娘なの?」

「私が思うに……多分違います」

 

あの扶桑さんは、深海艦娘の特徴からいくつか離れている。

1つ目、鎖が無い。艦娘は身体を改造されても心まで侵食されないことが救出済みの深海艦娘の証言でわかっている。あちらは艦娘の制御を鎖を使ってでないと出来ない。それ以上の技術が手に入っているとしたら話は変わるが。

2つ目、話し方。鎖が繋がっていること前提ではあるが、深海艦娘が敵側にいる場合、深海棲艦のような少し反響した声になる。あちら側に倒れた春風と同じ感じになるのでわかりやすい。扶桑さんは普通に話していた。

 

「なら調べたいのは()()()()()()()()()()()になるわ」

 

わざわざこちらに深海棲艦の気配が読める人員がいないタイミングを見計らってきたくらいだ。深海棲艦かどうか知られたくないとしか思えない。ほぼほぼ深海棲艦だろうが、何か理由があって自分の意思で深海棲艦に(くみ)している可能性だってある。

 

「あともう一つ。何故こちらに深海棲艦の気配が読めるものがいないとわかったのかです」

 

必ず姉妹艦をぶつけてくるのもそうだが、こちらの部隊の情報が漏れているように思えてしまう。私の電探に引っかからない超長距離からこちらの情報がわかる手段があるのか、それとも……。

 

「最低な考えが出てしまいました。この鎮守府にスパイがいるかもと」

「無いわ。不穏な動きをしているのなら、アンタがわかるでしょ」

「そうですね。部隊はその日に発表されますし」

 

テレパシー的なものと言われたらもうどうにもならないが。と、もしやと思う部分に行き着いた。本当にそうだった場合、情報漏洩は回避できないものになる。

 

「……もしかしたら……」

「思い当たる節が?」

「深海艦娘の……瞳とか……」

 

深海艦娘が見ているものが全てあちら側に送られているとしたら、辻褄があう。空母が艦載機と通信できるように、深海艦娘自体が北端上陸姫の艦載機扱いなら、こちらの情報が漏れていてもおかしくない。

 

「調べてみましょう。電の時にセキが調べてるはずだけど、見落としがあるかもしれないわ」

「そうですね。誰かに頼んで再調査してもらいましょう」

 

たまたま行き合った五月雨さんを捕まえて工廠に向かった。万が一のことを考えると、いろいろなことを入念に調べなおす必要はあるだろう。

 

 

 

「チョウサガオワッタ。サミダレニハナニモナカッタ」

 

私の思ったことはハズレだったらしい。少しホッとした。味方を疑うのは、敵に艦娘がいることと同じくらい辛い。

 

「いろいろな観点から隅々まで確認したけど、五月雨の身体は最初に調査した通り、深海に染められた艦娘ということ以外何も無かった。首の小型艤装が無くなった今なら、あちらと繋がる部分はもうないよ」

 

明石さんのお墨付きも出た。艦載機扱いでもなく、体内に何か埋め込まれているわけでもない。細胞の一部に混ざり込んでいるかまで調査したらしいが、そこも前に調査したときと変わらなかったそうだ。

 

「安心したよ……私がまだ迷惑かけてるのかと」

「疑ってすみませんでした。少し疑心暗鬼になりすぎたかもしれません」

「ううん、大丈夫。今はそういう時期だもんね。私もいっぱい協力するから!」

 

頼もしいかぎりだ。

 

「じゃあまだあちら側の深海艦娘を見たことがない私に、あちら側だった頃の五月雨を見せてちょうだい」

「嫌です! 絶対嫌です! 忘れたい記憶なのでお断りです!」

「冗談よ。……まぁ扶桑姉様がそういうコントロールされているか気付けるかもしれないけど」

 

空元気のようにも見えたが、山城さんはある程度回復しているのはわかった。沈みきってはいない。多少は割り切っている。だが扶桑さんに攻撃するのはまだ躊躇しそうである。

 

「デキナイコトハナイゾ。クサリヲカイセキシタカラナ」

「え゛」

「クサリヲトオシテワタシトツナガレバ、アチラガワニカタムクダロウ」

 

セキさんが鎖を持ってくる。白時雨さんと五月雨さんに接続されていた鎖は、根元から破壊されたわけではないので、それなりの長さが残っていた。それを解析したらしい。

深海棲艦の汚染物質を流し込むための加工がされていることがわかり、純粋な深海棲艦であるセキさんと一緒に鎖を持てば、汚染物質が伝わり五月雨さんはまたあちら側と同じ振る舞いをしてしまうそうだ。

 

「ヤッテオクカ? アチラガワノサミダレカラ、ハナシヲキイテオクノモイイカモシレナイガ」

「春風みたいなものですか。緊急時はレキさんと繋がってもらうのはアリかもしれませんね」

「嫌ですー! 恥ずかしいのにー!」

 

とにかく、深海艦娘があちらに情報を送っているようなことが無くて安心した。だがまた振り出しに戻る。情報漏洩に関してはもう無視して、今は扶桑さんが何者かを調査することを念頭に置いた方がいいだろう。

 

「朝潮。次の警護任務、扶桑姉様を誘うわ。また深海棲艦絡みを全員無しにして挑みましょう」

「……いいんですか?」

「調べないことにはどうにもならないでしょ。あれが扶桑姉様本人なら問い質さないといけない」

 

だが前と同じように行ったら二の舞だ。何もわからず終わる。

 

「あ、そうだ。セキさん、深海棲艦の艤装で質問が」

「ナンダ?」

「電探の精度ってどれくらいでしょう。敵がこちらの部隊を見越した動きをするので」

 

これは直接深海棲艦に聞いた方がいいだろう。深海艦娘が関係ないのなら、内通者がいるか、敵の電探なりなんなりの精度がこちらをゆうに超えているかのどちらかになる。前者は無いと信じたい。

 

「カンムスノモノヨリハセイノウハタカイ。オマエガカンチスルギリギリカラカクニンシテイルカノウセイハアル」

 

艦娘を改造できるのなら、艤装を改造することくらいもできるだろうとも付け加えた。技術者を敵に回すと怖いということがよくわかる。

 

今回の敵は今までの敵にはいなかった、技術者と頭脳派。ただただ暴力で押し込んでくる今までとはまったく違う。むしろこちらより頭を使ってきている気もするほどだ。狡猾で、卑劣で、許せない手段しか使ってこない。

倒せる機会が来たら、もう容赦できないだろう。泊地棲鬼の時のような、一方的な暴力による蹂躙でもスッキリできなそうだ。

 




鎮守府に流れる不穏な空気。今は朝潮の憶測でしかないので、杞憂に終わればいいけれど。
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