欠陥だらけの最前線   作:緋寺

107 / 319
搦め手

あの扶桑さんの正体がわからない限り、こちらがどう攻めればいいかがわからない。そのため、次の警護任務では前回と同じ状況で誘き出す作戦を山城さんが立案。私、朝潮も悩みはしたが賛成した。

 

「山城君。君は本当にそれでいいのかい?」

「ええ。あれが扶桑姉様本人だったら、その後に考えるわ」

 

戦意喪失していた山城さんも、真実を知るためには折れていられないと立ち上がっている。

前回は実力の数パーセントしか出せなかったから負けた。不意打ちで、あの顔にやられたのだ。もう仕方ない。

 

「わかった。では明日の警護任務の部隊は、深海棲艦の気配が読めない者のみで編成する。なるべく精鋭にするよ」

「助かるわ。私の動きに慣れてる天龍や、簡単にはやられない神通とかだとありがたいわね」

 

敵の扶桑さんも白兵戦型だ。それに慣れているのは当然白兵戦型。山城さん含む白兵戦組総動員でもいいだろう。ただしガングートさんは深海棲艦の気配が読めるので出せない。

神通さんは天龍さん相手にいい勝負ができる人だ。未だに山城さんがどんな戦術をする人かわかっていない人ではあるが、対応力でどうにかできるだろう。

だがそれはすべて万が一のときである。基本的に山城さんが完全に引きつける作戦。

 

「……こんなこと言って悪いけど、割と私も怖いわ。あれが扶桑姉様本人だったらって思うとね」

 

山城さんの手が震えていた。まだ精神的な部分は完治していない。誰よりも強い山城さんだって、1人のか弱い女性であり、1人の艦娘であった。恐怖だって感じる。

 

「別に逃げたって構わない。嫌ならやめたっていいんだ。私はそれでもいいと、いつも思っている。命あっての物種、だからね」

「ええ、また戦意喪失するようなことがあったら、誰かの手を借りてでも逃げさせてもらうわ。貴方に会えなくなる方が、余程怖いもの」

 

山城さんはこの鎮守府の中でも、特にこの場所に思い入れのある人だ。そのおかげで、戦場で命を落とそうと微塵も考えていない。それがまた一つの強さなのかもしれない、

 

「朝潮、アンタにも苦労をかけるわ。姉様の観察、頼むわね。代わりに筋トレの手伝いもしてあげる」

「ありがとうございます。ガングートさんにプランを立ててもらいましたので、ジムでお願いします」

 

私も全身全霊の力で戦場を観察し続けよう。誰もが戦いやすくなるために。

 

 

 

そして、当日。まずは扶桑さんの正体をどうにか調べる。この際、この場で倒せなくてもいい。何者かさえわかれば、先が繋がる。

 

「すっごい緊張してきた。山城さん相手にするみたいなものって聞いちゃうとさ」

「大丈夫です。皐月さんは山城さんをずっと見てきている人ですから、回避の方法も身体が覚えていますよ」

 

刀を握る手が震えている皐月さん。今回の敵は歴代最強クラスの難敵だ。戦いにくいだけでなく、強さも兼ね備えている。見るだけの私ですら命の危険がある戦場だ。例えるなら、嵐に立ち向かうようなもの。

 

「山城さんの戦闘、この場で見せてもらいます。ついでに対策まで考えさせてもらいます」

「好戦的だな神通。でも、今は期待させてもらうぜ。山城姐さんはオレらじゃ簡単に止められねぇ」

 

今回に関しては、無傷で捕らえるなど無理だと最初から感じている。だからこそこのメンバー。山城さん、天龍さん、龍田さん、皐月さんの白兵戦組ほぼ総動員に加え、神通さん、夕立さん、長波さんの援軍でも屈指の実力者。大鳳さんと龍驤さんで水母棲姫を止める。戦艦には山城さんリクエストでビスマルクさんに来てもらった。魚雷が使える戦艦というのがキモ。

 

「いざという時には魚雷も使って姉様を止めてちょうだい。なんなら私ごと撃ってもいいわ」

「ハッ、このビスマルクに頼むんだから、最高の戦果を期待しなさい! 貴女に掠めることなく扶桑を沈めてあげるわ!」

 

調子に乗れば乗るほど本領発揮するビスマルクさん。煽てて煽てて実力を引き出す。山城さんもその辺りはわかっている。

 

「索敵入りました。水母棲姫と扶桑さんを確認。今回は随伴います。駆逐棲姫1、戦艦2、空母4、軽巡3。軽巡はツ級です」

「こっちの戦力見てから来たわね。空母少なめなところにツ級入れてきたわ。朝潮、提督に連絡。私は扶桑姉様を止める」

 

通信は全て私に任せられている。全員への指示と鎮守府への通信。指示は一方通行でこちらには返事はできない。これはいろいろと理由があるが、一番の理由は私が『未来予知』をしている時に、返事を返されても私がわからないから。

 

「警護部隊、旗艦朝潮です。会敵。想定通り、水母棲姫来ました。扶桑さんも一緒です」

『了解。では作戦通りに頼む。こちらは追加の人員を用意しておく。山城君に、くれぐれも気をつけてと伝えてほしい』

「了解。山城さん! 司令官から、気をつけてと!」

 

グッと左腕を上に挙げ反応。山城さんはそれだけでやる気が出る。こちらを向かないということは、それだけ真剣ということだろう。今度は覚悟を決めて姉と相対する。

 

「予想通り来てくれましたね。水母棲姫」

「サソイダシタツモリ? オメデタイワァ」

 

いつものニヤニヤ笑い。こちらが扶桑さんの正体を探れないことがわかっている。

 

「貴女の出現する傾向はわかってるんですよ」

「デモ、ソノセイデ……ミンナココデシヌノ。フソウ……ヤリナサァイ」

 

立ちふさがるように扶桑さんが前へ出る。それに対する山城さん。ここからはあの2人の戦いに横槍なんて出来ない。山城さんですら、近付いてきたもの全てに攻撃するくらい周りが見えていない状態になると自分でも言っていた。

 

「マジかよ……本当に扶桑さんじゃん」

「でも服とか違うっぽい。角も生えてるし、深海艦娘……とも違うっぽい?」

 

あれを初めて見る長波さんはあの姿には驚きが隠せない。夕立さんはなんだか余裕そうにも見えるが、どんな状況でもあれなので凄く心が強い人なんだと思う。

 

「山城……死にに来てくれたのね……。嬉しいわ……」

「姉様。一つ教えてください。貴女は本当に扶桑姉様ですか?」

「……貴女には私が何に見えるのかしら」

 

扶桑さんが跳び、山城さんが構える。あの強烈な蹴りを真正面から受ける態勢。前回は当たりどころも悪く、一撃で中破し吹き飛ばされた。だが今回は違う。しっかり受け止め、山城さんも無傷。衝撃は激しいものではあるが、山城さんなら受けられる。

 

「ぐぅっ……」

「前よりはやる気みたいね……そう……」

 

扶桑さんは引きつけてもらえる。ここからは随伴の処理。私が司令塔。まだ『未来予知』は使わない。周りを信じて、目で見た情報で指示を出す。

 

「夕立さん、長波さん、ツ級優先で! 天龍さんと龍田さんは戦艦を! 神通さんと皐月さんは空母! ビスマルクさん、龍驤さん、大鳳さん、水母棲姫へ集中!」

 

部隊を配分。ツ級を最速で破壊できるのは天龍さん達白兵戦組だろうが、戦艦を任せるには火力が足りない可能性がある。そのため、駆逐艦の2人を差し向け、戦艦の処理をお願いした。

 

「頼りになる小さな指揮官ね〜。私が戦艦は荷が重いんじゃないかしら〜」

「余裕でぶった切っておいて何言ってやがる」

 

敵戦艦はいとも簡単に斬り払われた。天龍さんはともかく、龍田さんのスピードは前に見たときと段違いだ。守りの戦術に鞍替えしたにも関わらず、攻めの姿勢で瞬殺。本気でないということだ。イロハ級程度ならもう敵ではない。

 

「ツ級終わったっぽい!」

「おっし、こっちも終わった! 艦載機よろしく頼むぜ!」

 

夕立さんと長波さんも手早くツ級を片付けた。やはりあの2人、トップクラスの実力者だ。これで空母のラインが空いた。ここからは制空権も取れる。

 

「っしゃ、行くで大鳳! 攻撃隊発艦や!」

「了解! 攻撃隊、発艦!」

 

これで水母棲姫への牽制も確実なものになる。向こうは何もしてこないかもしれないが、万が一の時のことは常に考える必要がある。2人の空母により、水母棲姫の艦載機は駆逐され、制空権はこちらのものに。

 

「よし! 空母も終わり!」

「天龍さん、駆逐棲姫は!」

「おう、そろそろ終わるぜ。順調じゃねーか」

 

これで随伴はほぼ終了。ここまで来ると、本当に酷い量が来ない限りイロハ級は瞬殺である。姫級である駆逐棲姫も、姫の中では最下級。天龍さんの実力ならば1対1でも即座に終了。

 

さぁ、ここからだ。前回と同じ、あちらは水母棲姫と扶桑さんのみ。こちらは全員無傷。人数は違うが、数的優位はこちらにある。

 

「姉様、答えてください。貴女は何者なんです。艦娘なら、何故そちらについているんです!」

「……そんなこと言われても……ねぇ? ()()()()()()()()としか言えないわね」

 

まだ真相が掴めていない状況のため、山城さんは防戦一方。急所にしか来ない攻撃も、今ならしっかりとガード出来ている。遠目に見ても酷い威力の攻撃だ。下手をしたら山城さんよりも強い。山城さんが拳でやることを脚でやっているのだから仕方ない。

 

「よし、作戦開始。お願いします」

 

水母棲姫にも扶桑さんにも聞こえないように呟き、水母棲姫の反応にのみ集中する。あれだけの集中攻撃を受けながらも全て回避している。今回は以前より数が多いせいで攻撃もしているようだが、今のところ全員回避できている。

 

「天龍さん! 開始しますか!?」

「まだ大丈夫だ! お前は観察でいい!」

 

まだ全員無傷のうちは『未来予知』の必要は無いと天龍さんは判断。ならば、打開策を見つけるために観察を続行。

水母棲姫の避け方は何処かで見たことがあった。長波さんや夕立さんが攻撃しようとしたときにはすでに回避行動を始めている。雪風さんの回避の仕方だ。だがおそらく直観と異常すぎる豪運は無い。私と同じ形の行動予測を雪風さん並に使ってきている。

 

「行動予測です! 雪風さんと同等!」

 

水母棲姫の視線が少し鋭くなったように見えた。目論見がこちらに気付かれることが気に入らないらしい。なるほど、ならもっと表情を歪ませる必要がある。

 

「フソウ、ウシロニイルメザワリナヤツヲコロシナサイ」

「……ごめんなさいね山城……朝潮が優先だそうよ……」

 

山城さんを退かすように蹴り、ガード越しでもフラつかせた。さらに回し蹴りをもう一撃。さすがの山城さんも道を開けるほど飛ばされた。

 

「どうせ来るとは思ってました。開始します」

 

向かってくる扶桑さんを確認した後、目を瞑る。自分の身を守るため、そして()()()()()ため、『未来予知』開始。敵に気付かれないように、本来の目的を達成する。

今回の目的は水母棲姫を倒すわけでも、扶桑さんを倒すわけでもない。扶桑さんの正体の判別だ。わかってしまえば撃退でも問題ない。

 

「すみません姉様。朝潮をやられては困るんです」

 

どうにか回避しているうちに山城さんが追いついてくれた。私の前から扶桑さんが退いたので、回避する必要が無くなる。『未来予知』終了。

 

「以上! よし、()()()()()()()()()()!」

 

頭痛もそこまでない。後回しにした痛覚も回避の回数が少なかったおかげでほとんど無かった。これで実行に移せる。

 

「結果を報告してください! ()()()()!」

「ソノオネエチャンハ! シンカイセイカン!」

 

大きな水飛沫を上げて海から飛び出してきたのは、イルカのように舞い上がったシンさんだ。

 

今回の作戦、本来の目的を達成するために、私と山城さん、そして司令官以外には伝えていない極秘任務があった。それがこれ。深海棲艦の潜水艦姉妹に、扶桑さんの判別をお願いすること。

航空戦艦も水上機母艦もソナーは持っていない。水上機は潜水艦を探知できるが、扶桑さんは白兵戦のため水上機なと飛ばしていない。水母棲姫の水上機は龍驤さんと大鳳さんの艦載機が全て駆逐している。探知する暇すら与えていない。

深海棲艦の気配が読まれる心配も、潜水艦故にその範囲の外に出ることができた。気付かれたときにはもうシンさんは海上だ。それだけ泳ぐのが速い。

 

「聞こえましたね! その扶桑さんは深海棲艦です! 艦娘ではありません!」

「アイツ……」

「バーカバーカ! バレテヤンノー!」

 

水母棲姫にあっかんべーしながら海中に戻ったシンさん。ここからは潜水艦も参戦。海中にはセンさんもスタンバイしている。水上機さえ処理できれば、この戦場、潜水艦は無敵だ。

水母棲姫のニヤニヤ笑いが無くなり、冷酷な表情に。ようやく私達を見下すことをやめたようだ。

 

「オマエガシクンダノカシラ」

「ええ。扶桑さんの判別が最優先でしたからね。自分だけが搦め手を使えると思わない方がいいですよ」

 

水母棲姫の下半身が途端に爆発。動揺で思考がブレたのだろう。ビスマルクさんの砲撃が途端に当たり出した。

そして同時に足元が爆発。海中からの潜水艦姉妹の魚雷も直撃した様子。潜水艦による攻撃は有効だ。これがあることがわかれば、水母棲姫が防衛線まで来ることは無くなる。

 

「随分と余裕が無くなったじゃない。いいのよ、そのまま沈んでも」

「ウッフフ……イタイワァ……」

 

この期に及んで笑顔を浮かべる水母棲姫。全く怯んでおらず、行動予測を再開し、未だに他の攻撃を避け続けている。白兵戦の天龍さん達や、あの神通さんの攻撃も避けている。自分の身を守ることだけなら、私を超えているかもしれない。

 

「キョウガソガレチャッタワ。フソウ、カエルワヨ」

「残念ね……山城。決着は次の機会で……」

 

扶桑さんはそのまま海中に沈んでいった。山城さんはそれを追うことをしない。途中から均衡していた姉妹喧嘩だが、神経を使い続けていたのだろう、山城さんも無傷ながら相当消耗していた。

 

「アサシオ……ダッタワネ。カクゴシテオクコトネェ……」

 

水母棲姫も海中に沈む。今回の目的は達成したため、強引に追うことは考えていない。海中はやっぱりズルイ。あれを追えるのは深海棲艦だけだ。

 

 

 

戦闘終了。全員無傷だが敵は撤退。戦術的勝利といったところだろう。海上に危険が無くなったので、潜水艦姉妹にも海上に出てきてもらう。

 

「アタシ、ヤクニタッタカナ?」

「最高です。MVPですよ」

「ヤッタ! デッチニジマンシヨ!」

 

お姉さんに抱きつきながら大喜びのシンさん。今回の作戦はシンさんでないと出来なかったものだ。存在そのものがMVP。

この鎮守府の中でも最年少であろう子を戦場に、それも最重要任務に使うのは正直気が引けた。話をしたのも今朝の事だ。なるべく情報が漏洩しないように、ギリギリまで隠し続けた。結果がこの通り。

 

「ホンマ驚いたで。まさか潜水艦仕込んどったとはな」

「すみません。この作戦はなるべく極秘でやりたかったんです。私と、山城さんと、司令官しか知りません」

「はー、なるほどな。いや、今回はマジでいい仕事したで」

 

これでわかったのは、鎮守府内であちら側に情報を送るものはいないであろうということ。

自由に出撃できる深海棲艦とはいえ、シンさんは車椅子生活をしている人だ。海に出るときは大体誰かに見られる。私達が出撃した後に姉妹2人で遠出したら、さすがに不審に思われるだろう。

それなら、私達の部隊編成は、ここに来てから確認している。私達の手が届かない場所から探知していると見ていいだろう。

 

「山城さん、大丈夫ですか?」

「ええ。すごく疲れた程度よ。警護任務はまだ時間あるから、その分くらいは何とかするわ」

 

心なしか、山城さんはいろいろ吹っ切れたような顔に見えた。敵になったのが扶桑さん本人でないとわかったことで、安心したのだろう。とはいえ同じ顔をしているのだから、戦いにくいことは変わらない。

 

最高の戦果とも言える今回の警護任務。目的達成で士気が大きく上がった。だが、あの強さだけは本物。山城さんでないと倒せないほどの存在だ。正体がわかっても警戒は必要だろう。

 




例え艦娘で無くとも、同じ顔なら抵抗はあるでしょう。最近のイベント海域はそんなのばっかりですが。抵抗ありましたよ。いろいろと。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。