敵にいる扶桑さんの正体が艦娘ではないことが判り、幾分か戦いやすくなった。艦娘のままあちらに付いているとなったら普通には戦えなかった。救出優先になるし、救出したところであの戦闘力は鎮守府に連れてくることも難しい。深海棲艦ならある程度割り切れる。
「シン君は深海棲艦と言ったんだね。ならこれで可能性はいくつかに絞られた。そこから最善の方法を模索しよう」
午後に緊急会議。扶桑さん対策、並びに、水母棲姫撃破のための作戦である。
「深海棲艦が相手を深海棲艦と認識したのだから、扶桑君の存在の可能性は2つ。外見を扶桑君のように作られた深海棲艦か、春風君と同様の半深海棲艦だ」
「半深海棲艦は確率的に無いんじゃないか?」
「あちらの技術がわからない以上、何とも言えない。確実に半深海棲艦を作る手段を持っている可能性だってある」
私、朝潮の意見としては、半深海棲艦の路線も捨てがたいもの。春風と同様に赤い海でドロップし、艦娘の心を持ちながら深海棲艦の身体を一部持ってしまったとすると、意外といろいろなところの説明がつく。あちら側についているのは、深海棲艦の力を受け入れた結果とも言えよう。春風とは逆の受け入れ方ではあるが。
「提督、先に言っておくわ。あちらの扶桑姉様、私より強いわよ」
「本当かい?」
「2度も手合わせしたらわかるわ。均衡がギリギリね」
思ったより絶望的な状況。
「あれ、私のデータが分析されてる。今までの襲撃、やたら戦艦棲姫来てたでしょ。多分対策するための情報収集よ」
私も何度か警護任務で敵の襲撃を受けているが、毎回戦艦棲姫がいたのは覚えている。そして、山城さんが任務に参加しているときは必ず戦艦棲姫を対処していた。
警護任務は継続戦闘がメインとなる任務だ。なるべく手早く敵を処理したい。そうなると、手慣れたところを処理するのが最善。戦艦棲姫を一番倒しているのは、他ならぬ山城さんだ。来るたびに山城さんが倒している。
「随分とふざけた手段よね。仲間を犠牲に情報収集なんて」
「あ、じゃあ水母棲姫が言っていた『完成』って」
「データが全部扶桑姉様に組み込めたってことでしょ」
この鎮守府の最高戦力が山城さんであることは、敵の目から見ても明らか。おそらく最初の夜の襲撃のとき、一撃の下に戦艦棲姫をミンチにしたところから、敵の計画は始まっていた。
「私だけじゃないわ。警護任務に出て、戦艦棲姫と戦ってる全員のデータが組み込まれてる。扶桑姉様1人に、ガン子やスパ子、あとレキとかのデータも入ってるでしょうね」
そこまで来るとお手上げじゃなかろうか。上から数えた方が早い戦力全員のデータが入っているとなると、倒す手段が無いと言っても過言では無い。
山城さんがベースになっているのが、とにかく厄介だ。砲撃は弾き飛ばすため効かず、攻撃力は白兵戦にも関わらず戦艦超え。耐久力関係なしに突き破る攻撃を、駆逐艦以上のスピードで繰り出してくる。
「私の攻撃が全部見透かされてるのがおかしいと思ったのよ。何処狙っても避けられるか払われるかされるんだもの。だから……もう殺す気で行くわ。そうしないとこっちが殺される」
それでもまだ手加減していた山城さん。正体がわかった後も、もしかしたらという可能性を持って戦闘をしていた。だが、命の危険があるのなら話は別だ。やらなくてはやられる。
「今は私より朝潮の心配をした方がいいわ。水母棲姫、完全に朝潮をターゲットにしたわよ」
「はい。覚悟しておけと言われましたね。こっちのセリフですよ」
「おお、朝潮がキレとる。珍しいモン見れたわ」
龍驤さんに茶化されるが、私も今は気が気でない。私に直接言うくらいだ。次の救出任務、私が出たら向こうからは大潮が来ることがほぼ確定。今まで以上に卑劣な作戦で来るだろう。
だからもうこちらも手段を選ばず屈服させる所存だ。それだけのことを向こうはやってきた。それが北端上陸姫の指示だったとしても、実行犯は水母棲姫だ。到底許すことは出来ない。
「朝潮君、君は冷静に物事を考える事が出来る子だ。熱くなりすぎないようにね」
「わかっています。わかっていますとも」
どんな手段でこちらを追い詰めてきても、それを後悔するくらいの
3回目の救出作戦は明日決行されることとなった。あちらに回復の時間を与えることにもなるが、こちらはこちらで作戦を立てる必要がある。
私は工廠の片隅で、水母棲姫がやりそうな手段を全て洗い出し、その一つ一つに対策を考えていた。真正面から来られたらどうするか、搦め手を使われたらどうするか。
「姉さん、怖い顔してる」
霞に指摘されるが、今は直せそうにない。手段を選ばない相手から名指しで宣戦布告されたのだ。こうもなる。
「次の救出任務、大潮が出てくる可能性が高いの」
「大潮姉さんが!? そ、そう……うん、そうもなるか」
霞も納得したようだ。
今まで2度の救出任務で、敵がどういうことをしてくるかは大体わかっている。深海艦娘は戦力であり人質。こちらに情がある艦娘だからこそ通用する卑劣な手段。大潮だけで来るなら自殺をさせようとするだろう。それでこちらの動きを止める。大潮の手で私を殺そうとするのも考えられる。
おそらくだが、水母棲姫は私の心に徹底的にダメージを与えようとしてくるはずだ。だからこそ、前以て思い付いては覚悟をし、対策を練る。
「……でもね姉さん、本来作戦は艦娘が考えることじゃないわ」
「わかってる。でも進言するくらいはいいでしょ」
「そうだけど……」
今まで、私は何度も作戦立案をやってきた。司令官を信用していないわけじゃない。自分で考えることをやめていなかっただけだ。特に今回は実の妹の件。やれることは全部やりたい。
「Hey! お二人さん、今時間大丈夫デスカー?」
「金剛さん。何か?」
「お茶会をしマース。Reluxして、明日に備えましょうネ」
正直気分ではない。が、金剛さんの思いを無下にするのも躊躇われる。霞と一緒にお茶会に参加することにした。確かに気が張り詰めすぎているのもよくない。
談話室の一角を占拠する形でお茶会が開かれた。私は一度警護任務の時に戴いているが、いつ飲んでも金剛さんの紅茶は美味しい。
それに今回はいつもと違っていた。お茶会のお菓子を提供してくれたのは、なんと司令官。息抜きと称して、司令官も料理をしていたそうだ。一口大のケーキや、手で摘めるクッキーなどが並ぶ。
「ふむ……こうも味が変わるか……。金剛君、さすがだね」
「んっふー。私の一番の得意分野デース。本場のスパ子のお墨付きですからネー」
司令官も参加していた。こと紅茶に関しては、どうしても金剛さんには勝てないと、いろいろ教えてもらったそうだ。代わりにお菓子を提供したが、そのお菓子の出来に、今度は榛名さんが対抗意識を燃やしている。
「大淀も気を楽にしてくだサーイ。いつも気が張ってては、いい仕事はできないデース」
「ありがとうございます。はぁ……癒されますねぇ……」
今だけは休憩と、大淀さんすら参加していた。今の執務室には司令官の代理の代理ということで、はちさんが陣取っているらしい。執務室でご満悦な様子。
「いい作戦を出すには糖分デース。美味しいお茶を飲んで、甘いお菓子を食べる。これが一番ですネー」
「なるほど、後にやるより先にやる方がいいか。大淀君!」
「ダメです。提督は宴会になりますから。これくらい細やかなもので終わらないでしょう」
司令官手製のケーキを1つ。甘い。すごく甘い。ずっと使い続けてきた脳が回復していくような感覚。
「朝潮、眉間に皺が寄ってますヨー」
「えっ、あっ、その……」
そんなに態度に出ていたのか。自分ではまったく気付いてなかった。
「朝潮君。君の気持ちは痛いほどわかる。だからこそ、今は頭を休めなくてはいけないよ。金剛君の言う通り、リラックスしよう」
「姉さんは気張りすぎなのよ。戦場で無茶するなら、普段くらいダラけていいんだから」
ここまで皆に心配されているなんて思っていなかった。また自分が見えていない。せっかく戦場では自分が見えるようになったのに。素直に反省する。
「君がやりたいことはやらせてあげたい。あまりにも危険なら承服しかねるがね。だが、今は、ね?」
「ありがとうございます。今くらいは考えないことにします」
「そうか。ならお茶会を楽しみなさい」
紅茶に口を付ける。なんだかこの前よりも美味しく感じた。
「んっふふー、朝潮、紅茶美味しいデスか?」
「はい。この前の戦場のお茶会より美味しく感じます」
「それは良かったデース」
ニコニコしながら併設されている給湯室に手招き。奥から来たのは春風だった。なるほど、この紅茶は春風が淹れたものか。
「春風が淹れたのね。美味しかったわ」
「よかったです。金剛さんに習って、頑張ってみました。煎茶とはまた違った難しさですね」
「朝潮は妹に愛されてますネー。私も負けず劣らずデスガネ!」
妹では無いのだが、と言いかけたが、今はやめておいた。この場はただただ身体と心を休める場だ。負の感情が混ざる否定的な言葉は似合わない。
実際このお茶会はいい気晴らしになった。何も考えず、ただただ甘いものに舌鼓をうち、他愛ない会話をするだけの時間。
最近は考えてばかりで、霞や春風ともまともに話が出来てなかったように思える。春風に至っては、最後に話したのが私が紅茶を淹れたときくらいかもしれない。誘ってくれた金剛さんに感謝である。
夜、お風呂の後。珍しく山城さんに呼ばれる。今の状況になってから、2人で作戦会議することが増えた。今回もその事だろうと思う。
「率直な意見が聞きたいんだけど、アンタはあの扶桑姉様をどう思う?」
「どう、とは」
「私は、自分の意思で深海棲艦として振舞っているように思えるのよ」
山城さんは、あそこまでやられても和解できるのではないかと考えている。
私もそうだった。例えば戦艦棲姫の外見を改造してあの姿にしてるとしても、あまりに私情を挟みすぎている。最初の戦い、山城さんを殺せるほどの実力があるにも関わらず、中破で止めた。艦娘としての意思があるようにしか見えない。
「……私は、あの扶桑さんは半深海棲艦だと考えています。でも、そうなると少しおかしな点が」
「春風みたいな二重人格?」
「はい。完全に抑え込めているのか、そもそもそんなものがないのか。謎が多すぎます」
混ざりこんでいるものが駆逐古姫のため、好戦的なもう一つの人格を持っている春風。それに対し、あの扶桑さんにはそういうものが見当たらない。
考えられるのは3つ。混ざっている深海棲艦が扶桑さんと同じ性格である。混ざっている深海棲艦を抑え込んでいる。そもそも混ざっていない。
「次の戦い、私も出るわ。あの戦場には出ちゃいけないんだけど、扶桑姉様が出た時点でアンタ達全滅確定よ。手加減が気まぐれの可能性だってあるんだから」
「そうですよね……。山城さんがいない状態で立ち塞がられたら……多分勝てません。抑え込むことすら出来ず、1人に皆殺しにされるでしょう」
その山城さんですら、勝てるかわからないと言うほどの戦力差なのだ。たった1人の天変地異。全員薙ぎ倒されて終わり。
「鎖にだけは気をつける。なるべく扶桑姉様を引きつけるわ。だから、アンタ達に水母棲姫を任せる」
「はい。任せてください。姉妹喧嘩に専念してください」
「姉妹喧嘩って……強ち間違いじゃないわね。次こそは本心を聞き出す。ダメだったら……私がこの手にかけるわ」
拳を握る。震えているようにも見えた。誰であれ、姉妹を手にかけるなんてしたくないに決まっている。
私は全力でサポートするしかない。作戦は固まってなんていない。でも、お昼のお茶会で皆に心配されていることを知り、山城さんの決意が聞けたことで、不思議と不安は無かった。
扶桑は私が指輪を渡した2人目の相手です。扶桑姉妹は幸せになってもらいたい。