翌朝、3回目の深海艦娘救出任務発令。今回は集中狙いされることがわかっている。だからこそ、迎え撃つ。
第一部隊は深海艦娘救出部隊。旗艦は私、朝潮。随伴に大潮の妹となる霞、鎖の破壊に適した皐月さん、その皐月さんとの連携が得意な長波さん、私の盾役を買って出てくれるウォースパイトさん、そして山城さん。扶桑さんも深海艦娘とカウントし、ここに投入。
第二部隊は水母棲姫撃破部隊。旗艦はガングートさん。随伴に金剛さん、榛名さん、ビスマルクさん、雲龍さん、飛龍さん。ガチガチの超高火力偏重。警護部隊をそのまま連れていくようなものである。
「警護は私達オーバースペック組にお任せください!」
「深海艦娘組もな! 背中はあたしらに任せろい!」
私達が出撃中の警護部隊は萩風さんを筆頭としたオーバースペック組。清霜さんと時津風さんの純粋なオーバースペック、深雪さん含む深海艦娘組、そして春風とレキさん。そこに長門さん筆頭のさらなる火力。頼もしすぎる防衛線だ。
「見てようちの妹。こんなに頼もしくなっちゃってまあ」
「うちの深雪も頼もしい! 私も対空で参加するからね。後ろは任せて!」
過保護な姉達が妹の成長に大盛り上がりである。
萩風さんはついに反動軽減をマスターし、素晴らしい戦力へと成長した。深雪さんも深海艦娘化の影響でオーバースペックだ。同じような妹を持つ2人は、事あるごとに意気投合。
こうも盛り上がっているのには訳がある。今生の別れというわけではないが、今回の敵は戦艦水鬼以上の難敵。12人で出撃して、全員が無傷で帰ることのできる保証がない。
皆でテンションを上げて鼓舞しているのだ。不安な心持ちで出撃したら勝てるものも勝てない。
「最終決戦というわけでは無いのだが、間違いなく今までで最難関の任務だ。君達なら帰ってくると信じているよ」
「勿論です。勝って帰りますよ」
「水母棲姫の首を持ってきてやるさ。まだ北端なんちゃらもいるしな。奴は通過点だ」
司令官の激励でさらに士気が上がる。司令官もこんな場では悲観的なことは言わない。最高潮にまで昂揚させ、最高の戦果を期待する。
「山城君、君には一番辛い戦いになるだろう」
「わかってるわ。ここで終わりにしたいわね」
「ああ。出来ることなら、姉妹で帰還してもらいたいものだ」
全員がスタンバイ。警護任務部隊も同時に出撃となる。
「第一部隊、旗艦朝潮、出撃します!」
「第二部隊、旗艦ガングート、さぁ行くぞ、 抜錨!」
「警護部隊、旗艦萩風、抜錨いたします!」
私達は天変地異に立ち向かう数隻の艦。無傷で帰れるとは思っていない。誰も沈まずに勝利をもぎ取りたい。
警護部隊と別れ、海路を突き進む。敵とも遭遇せず、すぐに赤い海へ到着。ここからは警戒を厳として、低速で航行。
「ちょっと緊張してきたわ」
「山城が緊張とは珍しいな」
「相手が姉様よ? 緊張しない方がおかしいわ」
緊張を和らげるためか、ずっと左手を見ている山城さん。やはり指輪を見ていると落ち着くらしい。
「そっちの人達はみんな指輪つけてるよネー。羨ましいヨ」
「霞まで付けてんだもんなぁ。全員とケッコンしてるってのもすごいぜ」
「うちの旦那は全員分け隔てなく愛してんのよ」
あちら側の人は誰も指輪をつけていない。浦城司令官はたった1人としかケッコンカッコカリをしていない単婚派だそうで。その選ばれた人は満場一致なので、揉めることも無かったとか。
「さぁ、そろそろよ。姉様、今度こそ……」
山城さんが指輪にキスする。示し合わせたかのように、全員一斉に指輪にキス。集中力を高めるために、私も同じことをした。自然と思考が静かになる。
「深海棲艦の気配だ」
「アサシオ、私の後ろへ」
ウォースパイトさんが私の前に。気配を感じたということは、そろそろ反応が入る。
「索敵範囲に入りました。水母棲姫、扶桑さん、深海艦娘は1人。随伴艦は……なるほど、待ち伏せですか。戦艦棲姫3、空母棲姫2、駆逐古姫3、その他諸々」
空母棲姫は私は初見。大きい空母の反応なので空母棲姫と判断した。
「多いわね……。ガン子、アンタ達に任せるわ」
「ああ。貴様は姉に専念しろ」
緊張が空気を支配する。山城さんは扶桑さんを、そして私と霞は大潮との対面をここで待つことになる。
「会敵。目視範囲に入りました。……大潮ですね」
他の深海艦娘と同様、真っ白な髪と真紅の瞳、額に角が生えた艦娘。私や霞と同じ朝潮型改二の制服が黒塗りにされていた。
「オ姉サンデスネ! アゲアゲデスカ?」
「サゲサゲですよ、大潮。こういう形で出会いたくなかった」
「ソンナコト言ッテルカラ大潮ガ司令艦ニナルンデスヨー! 弱ッチイオ姉サン♪」
なるほど、こういう悪態。別に気にしていないことだからいいが、大潮が言ってきているという事実の方が堪える。
「山城……また会ったわね……。覚悟、出来てるのよね……?」
「はい、姉様。覚悟をしてきました」
山城さんはいち早く扶桑さんと睨み合う。あの場所にはもう近付けない。巻き込まれたら命の危険がある。
「水母棲姫の前に随伴の姫を倒しましょう。皐月さんと長波さんは大潮をお願いしますね」
「任せて。助けるから」
「おうよ。お前の妹なんだろ。絶対ここで助けてやるさ」
数が多くて水母棲姫に向かうことは簡単には出来ない。だが戦艦棲姫程度ならガングートさんが1人でどうにかできるレベルだ。イロハ級はもう払えば飛ぶ埃のようなもの。
「空母棲姫の艦載機は私が引き受けます。ウォースパイトさんも姫級を片付けてください」
「盾はいいのね?」
「大丈夫。先に周りをどうにかしましょう」
ウォースパイトさんにも攻めに転じてもらう。自分の身は自分で守れるくらいには鍛えているつもりだ。
「準備はいいですね。では……行きます!」
ここからは大乱戦だ。艦載機をどうにかしながら戦況を把握し、全員に指示を飛ばす。たったこれだけだ。それでもガングートさん達は指示を飛ばす必要が無いくらい洗練された動き。大潮と山城さんに集中する方がいいだろう。
「雲龍さん、飛龍さん、イロハ級を! 鎮守府に流れていくのはスルーでいいです!」
「了解。最初から飛ばしていくわ」
「私もセキちゃんから借りてきたんだ! 深海の艦載機、使わせてもらうよ!」
2人の空母から発艦された艦載機は、本来持つ精鋭達と同時に、陸上型から借りている深海の艦載機も並行して飛んでいる。私達の鎮守府ならではの戦闘。飛龍さんも馴染んできている。
「オ姉サンハ戦闘モ出来ナインデスカ? 役立タズデスネー!」
「操られると目も節穴になるのね」
大潮の砲撃は比較的私を狙ってくる。なかなかの精度だが、簡単に避けられる程度だ。威力も上がっているし、艦載機を飛ばしてくるのも今までと同じ。時雨さんのバックパックのような特殊な技能は無いように見える。
「アアモウ! チョコマカト! オ姉サンハ虫カ何カデスカ!」
「私ばかりに気を向けて大丈夫?」
艦載機が爆散した。長波さんが綺麗に撃ち落としていた。低空飛行なため対空砲火が出来ない分、普通の砲撃でも墜とせるのはありがたい。命中精度がそこそこでも簡単に当たる。
「艦載機って確か2つだよな! なら終わりだ!」
「ウ〜〜! ミンナ鬱陶シイ!」
さすがに3人の深海艦娘と訓練を積んできた甲斐があった。攻撃に慣れている。強力な主砲があろうが、艦載機が飛んでこようが、対処法を知っているのだから無傷でどうにかできる。大潮1人であるところもありがたかった。連携が無い分対処がしやすい。
それでも皐月さんの斬撃が鎖を掠めることも出来ない辺り、あちらの方が若干上手。回避に関しては異常に慎重である。
敵の艦載機の数が大分減ってきた。気付けば空母棲姫は金剛さんと榛名さんが処理しており、戦艦棲姫もガングートさんとビスマルクさんが各個撃破。駆逐古姫に関してはウォースパイトさんと空母2人が片手間に撃破している。
「アサシオ、姫級はそろそろ終わるわ」
「了解です。各自水母棲姫の方へ。艦載機が減ってきてありがたいです」
戦場が見やすくなってきた。周囲を確認する。いの一番に山城さんの状況を確認。
「山城……抵抗しないでちょうだい」
「馬鹿なことを言わないでください」
強烈な蹴りを受け止め、返しに殴り付けるが、砲撃と同じようにその攻撃を払われる。お互いにノーダメージとは言わないものの、蓄積されたダメージは山城さんの方が多い。
一回一回の攻撃が必殺級である2人の姉妹喧嘩は、近くに寄ってしまったイロハ級をも巻き込み、周りは残骸まみれ。
「姉様、貴女は半深海棲艦なのではないですか?」
「……そんなことを話している余裕が?」
強烈なローキック。それを待っていたように強引に踏みつけ、山城さんからも回し蹴り。顔面狙いのその攻撃はガードせざるを得ない状況を作り出すが、それも山城さんの狙い。
「ここっ、だぁっ!」
「山城っ……」
強引に脚を取り、押し倒した。あの流れ、天龍さんが神通さんにやっていた関節技だ。脚を極め、身動きが取れないように固める。
「ゆっくり話をしましょう姉様。貴女の本心を聞かせてください」
そのままやれば折ることだってできる。扶桑さんからは攻撃できない完璧なロック。この状態なら会話もできるだろう。
「……少しだけ教えてあげる」
「姉様、やっと」
「私は、私の意思でお姫様についてるの……。今の私は艦娘の、人類の敵……戦艦棲姫改二よ」
強引に蹴り上げ、山城さんを吹き飛ばした。その時にゴキリと鈍い音がしたが、扶桑さんはまったく気にしていない。
「……私には艦娘と深海棲艦どちらの思考もあるの……混ざり合って一つになっているのよ。だからね……人間は守りたいけど、世界が憎いの」
「そんな……」
「山城のこと、妹として愛しいと思うわ……でもね、殺したくもあるのよ……」
痛みを感じていないような言動。完全に脚が折れているのに、当たり前のように直立。表情も変わらない。改めて間合いを取り、互いに戦闘態勢を取る。
随伴の姫級全てを撃破し、あとは水母棲姫のみとなった。大潮には皐月さんと長波さん、そして霞がついている。敵艦載機が無くなった今、私は一歩下がりウォースパイトさんが盾に。山城さんは扶桑さんにつきっきりなので、残り6人が水母棲姫に立ち向かう形に。戦況としても、一番ダメージを受けているガングートさんが中破に近い小破だ。空母の2人は無傷、他も軽傷といったところ。『未来予知』を使うまでも無い、いい流れ。
この惨状を目にしても余裕の態度は変えない水母棲姫。こうなることか想定済みだったという表情だ。
「ハァイ、ミンナテヲトメテチョウダイネェ」
何もしてこなかった水母棲姫が突如動き出した。大潮の首輪の鎖を引っ張り自分のところへ引き寄せる。あのままでは大潮を救うことができない。大潮を盾にしている。
「ソロソロオワリニシマショウ。ヘタナコトヲスルト……オオシオガシヌワヨォ」
「急に動き出したかと思えば……」
こうなるようにこの戦場をコントロールしていたのだろう。他の姫級も全て前座。倒されること前提で連れてこられた随伴。こちらの士気を上げるだけ上げた後に、戻れないところまで落とそうとしている魂胆がバレバレである。
「アサシオ、ワタシイッタワヨネェ。カクゴシテオケッテ」
「言ってましたね。私の目の前で大潮を殺すということですか? その時点で全員が集中攻撃しますよ。絶対にここから逃がしません」
「デモ、コノコガコロサレタクナケレバ、イウコトクライキクワヨネェ?」
水母棲姫が合図すると、大潮が海中からもう一本鎖を引きずり出した。誰とも接続されていない、深海艦娘を制御する鎖だ。電さんや時雨さんに接続されていた鎖が修復されたものだろうか。大潮が持っていても鈍く輝いている。
「アサシオ、コレヲニギリナサイ」
「私に深海艦娘になれと?」
「オマエガゼンインコロスノ。ソシタラシマイナカヨクワタシノナカマ。サイコウノシナリオジャナイ?」
私に一番屈辱を与えようとしている。自らの意思で仲間を裏切れと言ってきている。大潮と他の仲間全員を天秤にかけろと。
「コバメバオオシオガシヌダケ。ヒトリノギセイデスムワネェ」
「オ姉サン、大潮死ニタクナイデス。仲間ニナリマショウ!」
2人してニヤニヤ笑いながらこちらを見ている。私が拒むことが無いと確信した、こちらを見下した笑み。
「ここにはもう1人妹がいるんですけど」
「アッチハイラナイワァ。オマエノチカラガジャマナダケダモノ。ソレガナクナッテ、コッチノモノニナレバカンペキヨネェ」
こちらの戦力を削ごうとする作戦としては、手段はさておき完璧ではある。私の行動予測は水母棲姫にも目の上のたんこぶだったようだ。酷い形で敵に評価された。
「ホラ、エラビナサイ」
大潮が自分の主砲を自分のコメカミに突きつける。下手な答えをすると自殺するということだ。
チラリとガングートさんを見る。小さく頷き、声は聞こえないが口が動いた。『大丈夫だ』と。
「私がそちらにつけば大潮は死なないんですね?」
「ヤクソクスルワァ」
「わかりました」
ウォースパイトさんに退いてもらい、歩み出る。全員無言。この戦場の仲間全員を無傷で救うためには、この手段しかないのは皆わかっていた。私が深海艦娘になり、洗脳され、牙を剥いたとしても、鎖さえ破壊すればこちらに戻ってこれる。
「姉さん……」
「霞、わかってるわよね」
「……ええ」
涙目の霞の頭を撫でて水母棲姫の前に立つ。隣の大潮が鎖を差し出してきた。
「クツジョクテキデショウ。タカガイモウトノタメニナカマヲウラギルナンテ」
水母棲姫の減らず口は流し、一呼吸。皆の見守る中、私は無言で鎖を掴んだ。