欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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分かち合う痛み

「3人だと少し狭く思えるわね」

「そうね。今までは霞が一緒に寝に来るだけだったものね」

「霞は甘えん坊ですねー!」

 

夜、姉妹3人の時間。私、朝潮と大潮の部屋に霞が来るだけではあるものの、妹が1人増えただけでも賑やかになるものだ。大潮は常にテンションが高いため尚のことである。

瑞穂さんはどうにか言いくるめて今の自室である医務室に行ってもらった。そうでもしないと夜這いがありそうで怖い。

 

「結局夜は霞の部屋は空き部屋になるんじゃないの?」

「……そうなるかもね」

「なら誰かと相部屋でもよかったんじゃ」

「そういうわけにはいかないわよ。その人を置いて私がこっちに来るわけだし、体裁というか……」

 

もう全員にバレバレなシスコンだが、霞としてはまだ体裁が気になる様子。それに、せっかくの相部屋なのに置いてくるというのは相方に失礼だとも考えている。霞は優しい子だ。

 

「霞は優しいですねー。いいこいいこ」

「ちょっと、せっかく髪を梳かしたのに」

「またやってあげるわ。ほら、大潮動かないで」

 

私は霞に梳かしてもらったので、次は私が大潮の髪を梳かしてあげる。深海艦娘化したことで真っ白に染まってしまった大潮の髪は、見ていると少し痛々しかった。後ろから見てもわかる角も、大潮が犠牲者であることを如実に表している。

 

「本当に真っ白ね……綺麗な白」

「ヒメの髪の毛みたいよね」

「くすぐったいですよー」

 

霞の髪より櫛の通りがいい。本当にヒメさんの髪を触っているようだ。深海艦娘は艦娘より髪質がいいのかも。

 

「角ってどんな感覚なの?」

「んぅぅ、変な感覚ですねー。例えるのが難しいです!」

 

結構先端は尖っている。深雪さんが寝ている時に電さんの角が刺さったと言っていたし、白時雨さんの小型艤装を剥がした時に服が破れるほど角が胸に突き刺さっていたのを覚えている。結構危険なものだ。

 

「大潮、なるべく気をつけてね。これ、意外と刺さるから」

「りょーかいです! 霞と添い寝はやめた方がいいですかね?」

「私が刺されることになるのはちょっと……」

 

大潮との添い寝は危険を伴うということで決着。人肌恋しいときは後ろから抱きしめる方向で。あすなろ抱きとかいうらしい。はちさんから借りた本に書いてあった。

 

 

 

翌朝、大潮の小型艤装切除の施術。参加者は私と霞。私だけでは難しそうなので、大潮が暴れるのを2人がかりで押さえ込むつもりだ。瑞穂さんはあちらはあちらで検査が必要なため欠席。

また、施術室の外には姉妹に同じことをすることになる、皐月さん、吹雪さん、潮さんの3人がスタンバイしている。惨状と叫び声を事前に知っておけば、覚悟だけはできるから。

 

「これももう4回目ね。小慣れてはきたけど、気分は良くないわ」

 

いつも通り、山城さんが施術。代役が立てられないのも辛いところだ。

 

「大潮、覚悟はいい?」

「だ、大丈夫です!」

 

事前にどういうことかは聞いているため、震えながらも私に抱きついてきた。私も深雪さんに倣って、大潮の顔を胸に押し当て、両腕を腰に回してもらう。霞は隣から大潮の身体を押さえる形に。これだけ固めれば、暴れても何とかなるだろう。

 

「じゃあ歯を食いしばって」

「オッケーです! は、早く、お願いします」

 

すごく震えている。私にもそれが伝わってくる。霞にも伝わっているだろう。大潮には頑張ってもらうしかない。

 

「やるわよ。3……2……1……0!」

 

いつも通り、小型艤装が弾け飛んだ。そして、やはりいつも通り血が噴き出す。いつもは遠目に眺めている側だが、今回は当事者だ。お腹に力を入れて、大潮を押さえつけることに全力を尽くす。

 

「っあっ、ぎゃあああああああああっ!?」

「頑張って大潮! すぐに治るから!」

「大潮姉さん! 耐えて!」

 

脚をバタバタさせながら私を絞めてくる。白時雨さんの時と近いタイプだ。暴れる力を抱きつくために使ってしまっているため、私にダメージが入るように。脚も動き続けているため、霞も何度か蹴られることに。

すぐに高速修復材をぶちまけるが、痛みが無くなるまでには時間がかかる。どうにか私達も耐えなくてはいけない。

 

「ひっ、ぎぃいいいいっ!?」

「大丈夫、頑張って! 頑張れ!」

 

角が私の胸を抉った。白露さんのようにスタイルがいいわけではないので、肋骨の辺りに突き刺さっている。私も歯を食いしばり、大潮と痛みを分かち合う形で耐えた。

早く痛みが引くように、深雪さんと同じように塞がった首の傷口を撫でてあげた。

 

「っああっ、痛いっ、痛いぃいいいっ!?」

「もう少しだから! 大潮姉さん!」

「大丈夫、大丈夫だから!」

 

ゆっくりと絞め付けが緩くなってきた。ようやく痛みが引いてきたようだ。胸に突き刺さった角を抜き、修復材の影響下に。すぐさま傷は塞がるが、痛みは残る。

 

「はぁっ、はぁっ、ひっ、引いてきましたっ」

「お疲れ様。もう少しの辛抱だから」

「痛た……結構蹴られたわね……」

 

なるべく私は表情を変えず大潮を撫で続ける。私も相当なダメージを受けていた。

相変わらずの大惨事である。私も自分の血が混ざり、破れて胸元に大きく穴の空いた制服は真っ赤に染まっている。誰もが返り血を浴び、修復材でグショグショ。見慣れてきた光景とはいえ、いつ見ても酷い。

 

「ひっ……はぁっ……もう、大丈夫、大潮頑張りました……」

「よく頑張ったわ。これで一安心だから」

 

グッタリしている大潮。体力の消耗が激しいのは毎回のことだ。いつも元気な大潮が静かなのは見ていて辛い。早く回復してあげなくては。

 

「終わった……のかな」

 

大潮の叫び声が止んだからか、外で待機していた皐月さんが恐る恐る施術室を覗く。惨状を見て固まってしまった。いつも敵の深海棲艦をバッサバッサと斬り、返り血塗れになる皐月さんでも、今のこの現状は絶句するものらしい。

その後、吹雪さんと潮さんも中を見て、言葉を失っていた。特に潮さんは、今後漣さんに同じことをすることを想像して泣き出しそうになっている。

 

「まだ半分残ってるとか思うと気が滅入るわね」

「山城君には辛い仕事をさせてすまないと思っているよ……」

「いいのよ。こんな汚れ仕事は貴方にはさせられないでしょう」

 

小型艤装を弾き飛ばした指を拭きながら呟く山城さん。血塗れな姿は見慣れたものだが、仲間の血となると話は別。司令官も4人目とはいえ申し訳なさそうである。

 

「こ、これ、姉ちゃんにもしないといけないの?」

「強要はしないさ。今までの4人は自分で選択して施術を受けているからね」

「そっか……姉ちゃん次第か……」

 

青ざめた顔をしていた。今までの4人は何とか耐えているが、実際これは耐えられなくてもおかしくない痛みだ。むしろ気を失った方が耐えられる可能性だってある。

 

「姉ちゃんならやることを選ぶだろうなぁ。変に責任感強いし」

「叢雲もやると思うよ。無駄にプライド高いから」

「漣ちゃんは……どうだろう。でも最後はやるんじゃないかな……」

 

皆、姉妹のことをよく理解している。

 

 

 

小型艤装が外され、検査終了。検査の結果も、前の3人と同じで片がついた。念のため私と山城さんが五月雨さんにやってもらった詳細な検査もしてもらっている。大潮自身が無意識にあちらに情報を提供するようなことはないと確証が取れた。

 

「何事も無くて本当によかったわ」

「はい! 改めてよろしくお願いします!」

 

制服も皆と同じで黒塗りのまま。もう深海艦娘はこの方向で行くらしい。

 

「正直、死ぬかと思いました!」

「まぁ、うん、そうでしょうね。私も死ぬかと思った」

 

グッサリ刺さった角の痕は無いにしろ、制服が無残なことになるほどではあったので、相当深かったのだと思う。私にもう少し胸の肉があればダメージが少なくて済んだかもしれない。

 

「朝潮様から血の匂いがするのですが、何かあったのでしょうか」

「うぇえっ!?」

「いきなり現れないでください」

 

検査が終わったのであろう瑞穂さんが突然現れる。私はわかっていたが、大潮は心臓が飛び出るほど驚いた。私のことに関しては人間離れ、いや、艦娘離れした行動力を見せる。

というか、血の匂いってそんなにわかるものだろうか。返り血のついた制服は廃棄したし、先程までお風呂にも入っていたのに。

 

「大潮の処置をしたんです」

「小型艤装の切除ですか。なるほど、理解しました。2人分の血の匂いだったので何事かと思いましたが、朝潮様と大潮様の血の匂いだったのですね。ということは、大潮様の処置で朝潮様が怪我をされたということですか? 何故そんなことに。あ、わかりました。大潮様の角、それが刺さってしまったのですね。ということは抱きしめていたのですね。お美しい姉妹愛、瑞穂、感涙に咽び泣きそうです」

 

このマシンガントークに関しては大潮は初見。次々と溢れ出す言葉の奔流に引き気味。

それにしても、血の匂いと処置という言葉だけでよく気付けるものだ。水母棲姫の時から行動予測をしていたが、その才がこういう形で転化されたのかもしれない。

 

「そういえば、大潮も()なんですね」

「偉大なる朝潮様の妹様ですから、大潮様も霞様も総じて瑞穂の敬うべき存在です。朝潮型全てへの敬愛となっているのです。朝潮様の流れを組む朝潮型、それ即ち全員が朝潮様と言っても過言では無いでしょう」

「過言です」

 

虚ろな目は相変わらずだが、その奥はグルグル渦巻いているようにも見える。辻褄合わせと思い込みが渦を巻いてドツボにハマっているということだろうか。

 

「大潮様、小型艤装の切除はさぞかし辛かったことでしょう。瑞穂も話だけは聞かせていただきました。死ぬほどの痛みとだけではございますが、その辛さ、瑞穂にも何故かわかるような気がいたします」

「もうホント痛くて……大潮すごく頑張りました!」

「素晴らしいです大潮様。よくぞ耐え抜きました」

 

小さく拍手。心の底から褒め称えているのがわかる。

 

「瑞穂は大潮様にも償わなければいけない罪を持っていると、この心の奥底で感じます。それを償うためにも、大潮様にも仕えさせていただければと思います。瑞穂は全ての朝潮型に仕える者。是非とも瑞穂を使ってくださいませ」

「うーん……嫌です!」

 

大潮からの完全な否定。あまりに力強く否定されたので、瑞穂さんも固まってしまった。瞳はより一層光を無くし、明後日の方を向き始める。

 

「瑞穂はいらないのでしょうか。瑞穂は不必要でしょうか。それだと罪を償うことができません。償わせてください。何もわからぬこの身ですが、何か罪があるとは感じているのです。必ず、必ずやお役に立ってみせますので。お願いします。機会を与えられたのに、何もできずに捨てられるのは嫌なのです。瑞穂は、あれ、もしや瑞穂はこの世界にいてはいけないのでは。死んだ方が、死んだ方が償いになるのでは。命をもって償いにした方が」

「ストップ! ストーップ! 大潮はそんなこと言ってないです!」

 

暴走し始める瑞穂さんをどうにか静止する大潮。私も動くことが出来なかった。ほんの少しの否定で、そのまま思考が死に直結してしまうとは思っても見なかった。あまりにも危うすぎる。

 

「大潮は、家来とかそういうのが欲しいんじゃないです! 瑞穂さんはお友達、お友達です! だから、使うとかじゃなくて、一緒に頑張りましょう!」

「お友達……? 一緒に……?」

「そうです! 大潮と瑞穂さんはお友達! 仲良くしましょう! 上とか下とか無しで!」

 

大潮は瑞穂さんに対して苦手意識を持っていないようでよかった。洗脳を受けていた記憶があるからこそ、自殺を強要した水母棲姫の浄化後、かつ、そっくりな瑞穂さんには何か思うところがあるかと思ったが、そこはしっかりと割り切っているみたいだ。

 

「大潮様……瑞穂、感謝と感激で涙が出そうです。罪深く穢らわしい瑞穂を対等に見ていただけるなんて、寛容すぎます。こんな瑞穂をそのように見ていただけるなんて……」

「テンション上げて、瑞穂さんもアゲアゲで行きましょう! ドーンと、ガツーンと!」

「はい、大潮様。瑞穂もご一緒にアゲアゲで行かせていただきます」

 

わかっているのかわかっていないのかは判断できないが、大潮とは対等、ということで落ち着いたようだ。恭しい態度は変わっていないし、様を付けるのも変わっていないが。

それなら、私とも対等でいけるのでは。

 

「あの、瑞穂さん。私とも対等で」

「申し訳ございません朝潮様。瑞穂はどうしても朝潮様を対等に見ることが出来ないのです。妹様以上に、朝潮様はあまりに神々しすぎて、その光で瑞穂の罪が浮き彫りになるのです。朝潮様と共に在ることが、瑞穂の根幹。これが無くなってしまうと、瑞穂は瑞穂で無くなってしまいます。朝潮様、どうか、どうかご容赦を。瑞穂のことは部下、(しもべ)、下僕と見てください。小間使いとしてくれて結構です。瑞穂のことを艦娘として見ていただけるだけでも幸せなのですから」

 

今度はこちらが否定されてしまった。心が壊れた原因を作ったが故に、これだけ言われると現状維持しか出来ることがない。無理に否定すると先程のように壊れてしまう可能性がある。

 

「わかりました……でも私からは対等に見ますからね」

「その心遣いだけで、瑞穂は罪を償えていると実感いたします。本当にありがとうございます。感謝を言葉でしか伝えられないのが心苦しいですが、朝潮様はこの形が一番よろしいと理解しました」

「今はそれで結構です。いつか対等に。様も外させますから」

 

私に新しい目標ができた瞬間である。瑞穂さんのこの仰々しい態度を改めさせ、真に仲間として付き合えるようにしたい。そういう意味では、私も水母棲姫であったことは割り切れているのかもしれない。




大潮は朝潮型の中でも屈指の社交性を持っていると思います。根深い闇も少ないように見えますし。
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