何事もなく翌日を迎えることができた。
基本的には扶桑姉様と一緒に行動することで、海峡夜棲姫として洗脳されている
「私の艦載機が奴らの存在を感知したわ」
迎撃するとのことで陣地の外に呼び出された私、朝潮。私の前で作戦を話すのは離島棲姫。北端上陸姫は未だに篭っているらしい。その声もまともに聞こえるようになっている。
話を聞く限り、艦載機のスペックが異常に高く、私の索敵範囲に入ることなくこちらの部隊を確認できるほどだ。それならこちらに合わせて出撃させる部隊を決めることはできる。
「こちら側についた朝潮を見て、奴らはどう思うかしら」
「絶望するでしょうね。どんな顔をするか楽しみですよ」
「朝潮も染まったねぇ。ボクも楽しみだよ。特に霞がどんな顔するかな」
私と一緒に出撃するということで、皐月さんと潮さんも準備万端。潮さんは深海の魚雷と爆雷を、皐月さんは深海の高角砲を装備させられ、刀が深海棲艦らしく変化している。私も深海の高角砲の他に、艦載機のスペックが底上げされていた。攻撃できない
「貴女の力、期待しているわ。水母よりも強力な行動予測ができるのだもの。その力、存分に使いなさい」
「ええ、お任せください」
表情を崩さず応える。この一晩で、私は臆面もなく嘘を付けるようになった。もしかしたらこれも深海艦娘化の影響かもしれない。本質は洗脳されずに済んだが、ところどころは侵食されているのかも。それもこの鎖が取れれば終わりだ。
「本当に心強いよ。頑張ろうね朝潮ちゃん。あ、でも吹雪ちゃんは私がやるから。敷波お姉ちゃんもね」
「姉妹艦は自分でやりたいですか?」
「勿論。一番絶望してくれるだろうし、手加減もしてくるだろうから楽だよね」
潮さんの変貌が一番心に来る。早く解放してあげなくては。
「お供に戦艦水鬼と空母棲姫をつけてあげる。これで奴らを沈めてきなさい」
「りょーかい! やっと天さんと決着つけられるかな。ぶった切ってやるんだから」
「あの減らず口を叩けなくしてあげなくちゃ」
ようやく出撃。ここまでバレずに済んだ。もう少しだ。
赤い海の境界に近付き、私の電探にも反応が入る。12人。私が抜けた穴もちゃんと埋めている。能力からして青葉さんだろう。
当初に考えていた部隊から少し変わっている。私が攫われてしまったことで、無理言って戦場に来た春風と瑞穂さんの反応が見つかった。あの子達には悪いことをした。後で謝らなくちゃ。
「朝潮、ちょっと下がってて。朝潮の登場は演出した方がいいよ」
「霞ちゃんいるもんね。ふふ、どんな顔するかな」
第一部隊、救出部隊は吹雪さん、敷波さん、霞、春風、瑞穂さん、天龍さん。
第二部隊、随伴処理部隊は山城さん、ビスマルクさん、北上さん、大井さん、長良さん、青葉さん。
龍田さんとウォースパイトさんが一歩引いたようだ。龍田さんは因縁のあった叢雲さんを救出できているし、ウォースパイトさんは盾役をする必要がない。
「山城は……いるわね」
「扶桑姉様、できれば一緒に下がってください」
「ええ……わかってるわ。私達は……2人で1つの海峡夜棲姫……共に行動するわ」
山城さんとは戦闘することになるだろう。だが、扶桑姉様からしたらもう殺し合いではない。山城さんならそれを察してくれるはず。
「来たね! 旗艦は誰? 霞?」
「そうよ。朝潮姉さんはどうしたのよ!」
会敵した。向こうの旗艦は霞。私のためにそこまで身体を張ってくれた。大丈夫、すぐにそちらに戻る。だがタイミングが難しい。ただでさえ鎖のせいで行動予測が制限されているのだ。考えて立ち回らないと、隣に立つ戦艦水鬼が突然撃ってきてもおかしくない。
「朝潮を救いに来たんだよね。じゃあ会わせてあげるよ! 朝潮、来て!」
霞には悪いが、なるべく疑いが向かないように、演出しながら前に。私の身体が深海艦娘になってしまっているのは疑いようのない事実だ。これはもう治せない。敵意は無いが、なるべく敵であると思われるように霞を見据える。
「嘘……姉さん……」
「霞、私はもう戻れないわ。攫われたのだから、こうなっていてもおかしくないでしょう」
春風と瑞穂さんも、私の姿を見て絶望した表情になった。首には鎖も繋がっている。誰がどう見ても、今の私は洗脳された状態。されていないことを知っているのは、私と扶桑姉様のみ。
「私は……扶桑姉様と2人で1つの深海棲艦、海峡夜棲姫。覚悟……できてるわね?」
「姉さん……絶対に助けるから!」
霞が随伴を雷撃することで開戦。戦艦水鬼はビスマルクさんと青葉さんが、空母棲姫は北上さんと大井さんが対処するようだ。問題は長良さん。紙装甲で何をしてくるのかが気になる。
「扶桑姉様、山城さんを引きつけてください。私は霞達を」
「ええ、勿論……2人で戦いましょう……」
手を払い、艦載機を発生させる。深海艦娘となって、教えられていないのにこれだけはすぐにできた。攻撃できない私が手に入れた、新しい攻撃の手段。爆撃も射撃もでき、直接ぶつけることもできる。それは全て、私のコントロール下だ。電さんが難しいと言っていたが、なるほど、全てを並列思考で操るわけだ。これは数が増えれば増えるほど難しい。
「悪いわね霞。ここで……死んでもらうわ」
艦載機を直接ぶつけるために飛ばす。だが、手加減は当然している。
「本当に敵になっちゃったの!?」
「見ればわかるでしょう。まだ躊躇うの? おめでたいわね。鎖を破壊しない限り、私は貴女を襲い続けるわ」
射撃と爆撃も合わせて、小さく、小さくダメージを与えていく。他から見れば嬲っているように見えるだろう。手加減とはわからないはずだ。
「御姉様! わたくしが御姉様を止める!」
「瑞穂もお手伝いいたします。朝潮様を救いましょう」
あちら側に倒れた春風の声がはっきり聞こえるのは、この身体になって良かったと思えるところではある。いつものまま荒くなっているのだと実感できた。あちら側も春風とわかる。
「3人でも変わらないわ。それに……さっき言ったわよね。私は、扶桑姉様と2人で1つの深海棲艦だって」
「何よそれ! 何よ姉様って!」
「こういうことよ」
ゆっくりと扶桑姉様のところに近付いていた。タイミングを見計らって、扶桑姉様と選手交代。私が山城さんを、扶桑姉様が霞達を相手する。私と戦っているはずが、突如最悪な相手に切り替わって動揺を隠せないでいる。
こちらはこちらで山城さんと相対した。既に目から闘争の意思はない。戦いながら、扶桑姉様から聞いていたようだ。さすが姉妹、しっかり通じている。
「さすがアンタだわ。鎖で洗脳されてないとかどうなってんのよ」
「今までの訓練の成果みたいですね」
艦載機で山城さんを攻撃しつつ、頃合いを見計らうだけの状態に。私も山城さんも、戦場の真ん中だというのにお遊びだ。
「まだ鎖は繋がっているの?」
「はい、そのせいで行動予測が出来ません。そろそろ破壊します」
その時を判断するために、周囲の戦況を確認。一番気になるのは、やはり長良さん。
「どっちやる?」
「うちの妹! 長良さん動き止めて!」
「あいよー!」
ほんの少しダメージを受けるだけで大破する長良さん、恐ろしいことに敵の深海棲艦を足場にして、飛び移りながらまっすぐ潮さんの下へと向かっている。どれだけ敵がいようとも、関係なしに直進。その間に攻撃されているのに、それすらもヒラリヒラリと避けていく。
行動予測と身体能力の合わせ技だ。海上を駆けているときよりも速いまである。大群であればあるほど、あの技はさらに効果を発揮するだろう。
「ほい見つけた! 潮ちゃん、覚悟!」
「紙装甲の長良さんが何をするっていうんです! 少し掠るだけで終わりでしょう!」
「その前にそんなことできないようにしてあげるよ!」
主砲を突きつけた。が、潮さんは悪い顔をして鎖の前に立ち塞がる。
「馬鹿ですか? 私は殺せないんでしょう?」
「殺さないよ」
御構い無しに撃った。ということは、あれは水鉄砲だろう。私はそこまでは立案している。しかし、隙を作った後に鎖を破壊する人は周りにいない。長良さんだけでは難しいはずだが。
「へぶっ!?」
「お久しぶりの、スウェーデンの缶詰ペイント弾!」
顔面直撃。嫌な記憶が蘇った。
私は水鉄砲と言ったが、そこまでやっているとは。
「あぁああああっ!? 臭い!? 眼が痛い!?」
「プラス! 催涙弾のスペシャルミックス! もう眼は開けられないでしょ」
あれは地獄だ。この場には消臭剤すらない。事が済むまであの臭いに苛まれることになる。それに加え目潰しまで入ってしまった。潮さんはもう当たり散らすように魚雷を放つしかできない。
「はい撤収撤収! あとはお姉ちゃんの意地、見せてやって!」
それだけやって、長良さんはまた敵を足場に移動。あんなことできるの、長良さんだけだろう。白兵戦をしない艦娘の中でも、屈指の体育会系。トレーニングも欠かさず、私達の訓練の教官もし、さらには夜間部隊にも参加しているのだ。それだけやって一度たりとも怪我がないのだから、極まっている。
「潮はもういいわね。皐月は……天龍と
「そうですね。では、霞達にネタバラシです。扶桑姉様!」
霞達の相手をしてもらっていた扶桑姉様を呼ぶ。ここまで来たら、もう大丈夫だ。
「もういいのかしら……」
「はい。霞達は?」
「軽く揉んでおいたわ……貴女の妹は筋がいいわね……」
疲労困憊だが新しく傷は付いていない霞達。扶桑姉様も相当手加減している。ただただ鍛えてあげただけ。こんな戦場でやられても困るだろうが。
「では、行ってきます」
「ええ……行ってきなさい」
扶桑姉様に投げてもらい、霞達の中心に降り立つ。鎖の位置は気をつけて、誰にも触れさせないように。
「お疲れ様、霞。春風、鎖を破壊して」
「え、ええっ!?」
「私は最初から正気よ。艦載機はまだコントロールが難しくて鎖が破壊しづらいから、主砲で撃って」
「は、はい、御姉様がそう仰るなら」
春風に鎖を破壊してもらう。思考が一気にクリアになった。行動予測に使うための脳の容量が解放された気持ち良さ。むしろ前より冴え渡っていた。深海艦娘化によるスペックアップが効いている。
「ふぅ、やっと重荷が無くなったわ。敵の随伴を倒してしまいましょう」
「ね、姉さん? 本当に姉さん?」
「鎖は壊れてるでしょうに。身体は元に戻らないけど、ちゃんと私は朝潮よ。海峡夜棲姫っていうのも強ち間違いじゃないけど」
艦載機を使い、周囲の深海棲艦を一掃していく。少しずつだが使い方がわかってきた。これは難しいが便利だ。
「後から説明するわ。空母棲姫を撃破しましょう」
「皐月は?」
「天龍さんだけで充分。潮さんはもう終わり。扶桑姉様はこちらの味方。これでこっちの勝ち」
ビスマルクさんと青葉さんの方には山城さんと扶桑姉様が向かった。なら私は北上さんと大井さんに艦載機を送ろう。
「朝潮ぉ! 何やってんだよぉ!」
「最初からそちら側では無かったということですよ。本当に、面白いくらいに手のひらの上でした」
「くっそー! 撤退! 撤退!」
自分達がまだあちら側にいる方が得策だということを理解している。だが、もう逃がさない。
「オレに喧嘩売っといて、逃げられると思ってんのか? あ?」
「面倒臭いなぁ! いっつもいっつも余裕ぶってて! ボクは天さんのそういうところが大嫌いなんだよ!」
「今のお前に何言われても響かねえ」
たった一刀。パァンと、砲撃をしたかのような音。その一撃で、皐月さんの刀が砕かれていた。今まで本当に手加減していたということがわかる。
「なんだよ……これ……」
「お前、そっち側行って弱くなってるぞ。帰ってこい」
呆然としているところで後ろに回り込み、鎖を叩き斬った。
あとは潮さんだが、なんというか、物凄く不憫。水鉄砲作戦が見事に上手くいき、海水で顔を洗っている。ペイント弾は海水でも落ちるくらいだが、臭いだけはどうにもならない。
「ああもう! ああもう!」
「あ、あはは……悪いね潮。実験台みたいにして」
敷波さんが鎖を撃ち抜いて終了。正気に戻ったところを見計らって、吹雪さんが懐に隠し持っていた消臭剤を使ってやる。気休めにしかならないが、無いよりマシ。
「空母棲姫終了ー、はいお疲れー」
「戦艦水鬼終わったわ。まさか扶桑が手助けしてくれるとはね」
任務完了。全員の救出と、深海棲艦の全滅が確認できた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
謝りながら頭を抱える潮さん。今までの言動を省みて、罪悪感でいっぱいな様子。それはそうだろう。本人には聞かれていないが、吹雪さんへの陰口をどれだけ言ったことか。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
同じように皐月さんも天龍さんに土下座するようにうつ伏せに。たった今も悪態をついたので、申し訳なさで押し潰されそうになっている。
「あの2人は……まぁ仕方ないですかね。時間をかけてケアしましょう」
「姉さん、本当に大丈夫だったの? いや大丈夫じゃないか……綺麗な黒髪だったのに……」
「これはもう仕方ないわ。治せる手段が見つかればいいんだけどね」
髪を撫でる。やはり前より髪質が良くなっているような気がした。深海棲艦すごい。
「……朝潮……本当に私が行っていいのかしら……」
「扶桑姉様、大丈夫です。司令官はわかってくれる人ですから」
「……そう……何かあったら……鎮守府を破壊するわね……皆殺しにするわ……」
「物騒なことは言わないでください」
深海棲艦の思考は混ざり込んでしまっているのだから、まだ事あるごとに物騒な言動はあるかもしれない。だが、私と山城さんがいれば満たされるはずだ。私は後付けだが、いてほしい2人の妹が揃ったのだから。
とはいえまだ部隊の皆は一歩引いて見ている。当然だ。昨日鎮守府をめちゃくちゃにした最大の脅威が仲間になったと言われても簡単には信用はできない。
「覚悟したはずなのにいつも折れてたわ……。でも、姉様がこちらに来てくれて本当に良かった。殺したくないもの。殺されたくないもの」
「山城……朝潮のおかげで私は満たされたわ……妹が2人……やっと揃ったの……私の望むもの……」
「まさか朝潮が妹になるなんてね。朝潮、アンタは今後は名誉扶桑型よ。扶桑姉様のこと、愛してあげてよ」
当然だ。私は司令官と同じように仲間全員を愛する。扶桑姉様も仲間なのだから、例外には含まれない。それに、心の底から妹としてみてくれているのだ。私も姉として見るのが必然だ。
「この件についてはじっくり聞くから。長女に姉が出来るとかどういうことよ。私と大潮姉さんはどうすればいいわけ」
「霞は私の妹。私は扶桑姉様の妹。なら、霞は扶桑姉様の妹よね?」
「おかしいったら!」
ここはなんとか説明しよう。北端上陸姫撃破の最大の難関が突破出来たのだ。今はそれでいい。
実は当初、朝潮完堕ちルートも考えてはいました。皐月達と同じように嬉々として霞を嬲り殺そうとし、救出後に罪悪感に苛まれるというキツイルートだったのですが、朝潮を救出できるプランが全く想像付かず、なんだかんだ今の形に。敵に回ったら扶桑より厄介。完全にバッドエンド。