欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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侵食の代償

鎮守府に帰投。変わり果てた私、朝潮の姿に鎮守府一同騒然。特に司令官は、私が攫われたことを一番気に病んでいたので、戻ってきた喜びと変わり果てた驚きが綯い交ぜになって訳の分からないことになっていた。

その後ろの扶桑姉様の姿でさらに騒然。手酷くやられた人も多く、怯え続けるヒメさんと今にも噛み付きそうなレキさんを宥めるのが大変だった。

 

「つまり、朝潮君がもう1人の妹となることで、深海棲艦の未練が消える、ということか」

「朝潮は私の妹になってくれると……愛してくれると言ってくれたの……。ここには山城もいるから……ここが一番満たされるわ……こんな世界なら……滅ぼさなくてもいいわね……」

 

昨日とは打って変わってスッキリした表情の扶桑姉様。司令官も緊張感無く話を進めている。

 

「そうか。なら、私達に協力をしてくれるのかな」

「私の愛する妹達がそれを望むなら……少しばかりは協力するわ……。ごめんなさいね……まだ人間は好きになれないの……」

 

正式な配属というわけにはまだ行かないが、一旦この鎮守府に身を寄せることとなった。北端上陸姫の改造を受けているのなら、身体に何か仕込まれていてもおかしくない。今日1日は精密検査に使われるだろう。

 

「姉様、部屋は私と相部屋でよろしいですか」

「山城と一緒なら……大丈夫よ」

 

たまに私もお邪魔することで合意が取れた。扶桑姉様は妹によるサンドイッチがご所望の様子。どちらかといえば私が挟まれそうな感じではあるが。

 

「後は君達だが……」

 

並べられる私、皐月さん、潮さん。首輪は癒着していなかったため簡単に外れた。小型艤装が植え付けられているわけでは無かったので、あの地獄の痛みを味わうこともなくて安心。

 

「よく帰ってきてくれた。私がどれだけ心配したか……だが、怪我もなく、姿が変わった程度で済んで本当に良かった」

「し゛れ゛い゛か゛ん゛〜〜〜!」

 

皐月さんが泣きながら抱きついた。潮さんもぼろぼろ泣き始めてしまう。洗脳されてたとはいえ司令官を敵だと思っていたことは拭えない。本気でこの鎮守府の艦娘を殺そうとした感情も残り続ける。罪悪感がずっと付きまとい、消えることのないトラウマになってしまった。

 

「トラウマは簡単には取れないんだ。今はゆっくり休みなさい」

「う゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜! ご゛め゛ん゛な゛さ゛い゛〜〜〜!」

 

これは立ち直るのに時間がかかりそうだ。

 

「朝潮君は鎖を接続されても問題無かったと聞いたが」

「外見は結構大きな問題ですが、洗脳はされませんでした。今までの訓練のおかげで、脳の容量が大幅に拡張されていたおかげみたいです」

「そんな逃げ道があったとは……。さすがに朝潮君にしか出来ない裏ワザだろうね」

 

私は例外中の例外。私じゃなければ全員洗脳されている。

これにより、あちら側からすれば、見かけたら集中攻撃してでも殺さなくてはいけない対象になった。内部に潜り込み、洗脳されたフリをして掻き回し、結果的に2人の深海艦娘と扶桑姉様を失う結果を作ったのだ。

 

「今後は集中攻撃されるでしょうね。私は目障りでしょうし」

「君も深海艦娘となってしまった。基本通り、あの戦場には出したくないんだが」

 

これは言われると思っていた。

深海艦娘を北の戦場に出さない理由は、あの鎖に触れてしまった時に即座に敵側に倒れてしまうからだ。深海棲艦関係者全てが該当するわけで、私もその該当者になってしまった。

だが、私は鎖を直に掴んでも洗脳されないことが保証された。丸一日の間鎖に繋がれていても洗脳されていないのだ。これはむしろ好都合。残り3人の鎖を私が掴んで破壊のサポートをすることだってできる。

 

「出ますよ。私は洗脳されないことが実証されましたから。今後も皆をサポートします」

「君はそう言うと思っていたよ。だが無理だけはしないでほしい。鎖は触れないというスタンスを守るんだよ」

「了解です。本当に万が一の時だけにします」

 

触らないなら触らない方がいいだろう。私のような超例外が見えてしまったのだから、鎖の効果を強化している場合がある。今度こそやられる可能性だってあり得るのだ。

 

 

 

扶桑姉様は精密検査に。山城さんがその付き添いとしてずっと付くことになった。私も付いていった方がいいかと思ったのだが、山城さん1人が付くだけである程度安定していたので2人で行くとのこと。

今後の戦闘では、また以前と同じ形に戻すそうだ。扶桑姉様という乱入した時点で敗北が確定するようなイレギュラーがいなくなったため、緊急時でない限り、素手の山城さんは北の戦場には出ないこととなる。そのため、山城さんは基本的に扶桑姉様と共に行動をする。安定するようならまたいろいろ考える方向。

 

そして私はというと

 

「朝潮様。瑞穂、大変心配しておりました。生きて帰ってきていただけて、瑞穂はとても嬉しいです。ですが、朝潮様を守ることが出来ず、あまつさえ攫われてしまうだなんて。瑞穂の罪はまた増えてしまいました。瑞穂は朝潮様を命に代えても守らなくてはいけない存在なのに、結果的に朝潮様は攫われて、身体を書き換えられただなんて。瑞穂はこの罪をどうすれば償えるのでしょうか。これは死を以って償うべき大失態です。朝潮様、瑞穂はもう、もう……やはり腹を切るしか」

「大丈夫、大丈夫ですから。あの時守ってくれたのは本当に感謝してますから」

 

まず瑞穂さんから思いの丈をさんざんぶつけられ、

 

「御姉様、ご無事で何より……いえ、ご無事ではありませんね。変わり果てたお姿で……わたくしがもっと強ければ……」

「大丈夫よ。これは春風のせいじゃないわ」

 

春風に泣きつかれ、

 

「もう離さないぞ。アサ姉ちゃんはレキがずっと守るからな」

「レキさん、落ち着いて、ね? これだと逆に動きづらくて危ないですから」

 

レキさんが抱きついて離れなくなった。レキさんの声もハッキリと聞こえるようになったのは嬉しかった。

 

「霞、助けて」

「一回反省しなさい。私達は戦場で騙されてるんだから」

「敵を欺くにはまず味方からって言うでしょ。ちゃんと手加減したんだから」

「そういう問題じゃないの!」

 

演出とはいえ、霞には悪いことをしたとは思っている。ただ、あれくらいしないと計画が瓦解する可能性もあった。最高の状態で時間を稼ぐなら、あれが一番だと私は判断した。

 

「お姉さん、霞は昨日一睡もしてないんですよ」

「大潮姉さん、それはできれば言わないで」

「お姉さんが心配で心配で、自分のせいで攫われたってずっと泣いてたんです。物にも当たっちゃって、荒れてました。攫われたのはお姉さんのせいじゃないですけど、騙すのはちょっと良くないです。サゲサゲです」

 

いつも元気いっぱいな大潮に淡々と説教されるとなかなかに堪える。罪悪感でいっぱいになる。

大潮もあまり態度には出していなかったが、相当鬱憤が溜まっていた。目の前で私が攫われたのは霞と同じ。身体のせいで救出任務に出ることも出来ず、悶々と鎮守府で待つしか無かった。霞を一晩見て、私の事も考え続けてくれたのだろう。よく見るとクマも出来ていた。大潮も殆ど寝ていない。

 

「だから、しばらくはみんなに付き合ってくださいね! 大潮は添い寝を希望です! 刺さっても文句言わないでください!」

「今後は私も刺さる可能性があるんだけど……」

「お姉さんの角、ご立派ですもんね! 大潮のより太くて長いです!」

 

騙していた罰として、妹達の言うことを聞けとのこと。それくらいなら大丈夫か。心配をかけたのは間違いないし、騙したのも本当のこと。それくらいの償いは必要かもしれない。

 

「大潮さんズルイです。わたくしも添い寝希望です」

「大潮様は比較的近い位置でご就寝されていますよね。別室の我々に譲っていただけると幸いです。瑞穂も先日逃した添い寝の権利を頂きたく存じます。あ、ですが瑞穂は罪を……死を以って償うべき大罪を犯してしまった身……瑞穂は一番最後で結構です。お側に置いていただけるだけでも喜ばねばならないのに、欲が、欲が溢れるのです。瑞穂はどうすれば……」

「レキも! レキもアサ姉ちゃんと一緒に寝る!」

 

添い寝大人気。この程度で許してもらえるならいくらでもしていいのだが、逆に、この程度で本当にいいのか不安になる。もっと重いペナルティでも私は構わない。むしろ霞がだんまりなのが怖い。

 

「ちょっと、ちょっと待って。その、ね、まずは一番心配をかけた霞のお願いを聞きたいわ」

「……朝潮姉さん、その前に言わないといけないことあるんじゃないの。鎮守府に帰ってこれたのよ?」

 

そうか、まだ言えてなかった。戦闘中にはそんな暇なかったし、帰投中も扶桑姉様のことで全員いっぱいいっぱいだった。ここに帰った直後もそのまま司令官に報告、扶桑姉様の検査の調整とバタバタしていた。

 

「ただいま、霞」

「お帰り……朝潮姉さん……」

 

肩を震わせる霞。たった1日離れていただけだが、その間私は敵地にいた。大丈夫ではあったが洗脳される危機もあり、一生会えなくなる可能性だってあった。霞のストレスは想像を絶するものだったかもしれない。

 

「うわああんっ! 帰ってきて良かったよぉ!」

「ごめんね霞……心配かけたわ」

 

人目も気にせず大泣きしてしまった。張り詰めていたものが切れたのだろう。幸いここにいるのは全員私の関係者。霞のこともよく知る人達だけだ。

本当に心配をかけてしまった。これからも心配をかけてしまうだろう。せめてこれ以上にはならないようにしなくては。

 

 

 

「まさか朝潮が仲間入りするとはなぁ」

「私も昨日までは予想してませんでした」

 

霞が泣き疲れて眠ってしまったため、霞は瑞穂さんに任せ、今度は深雪さんが発足した深海艦娘の会に大潮と一緒に顔を出す。救出したメンバーは全員ここに属しており、ただただのんびりするだけという集まり。

深雪さん以外は全員、私達に牙を剥いた罪悪感が残ったままだ。それを少しでも癒そうとした結果、こういう集まりを作るに至った。白時雨さん曰く『傷の舐め合い』だが、癒されるなら何をやってもいいと思う。

 

「つーか変わりすぎじゃね? 大潮みたいに黒くなるだけと思ってたんだけど」

「これは扶桑姉様の妹さんの服でして」

 

深雪さんに言われて改めて自分の現状を確認するが、私はもう朝潮型駆逐艦朝潮の原型が1つも残っていない状態。色も違えば髪型も服も違う。判断できる材料がない。初めて私を見る人は、私が何者かわからないのではないだろうか。

 

「今の私は朝潮型駆逐艦であり、名誉扶桑型であり、海峡夜棲姫である深海艦娘です。自分で言ってて意味わからないですね」

「属性盛ったなぁ」

 

で、私が何故ここに来たかというと、私も今後は属するというのと、もう一つ。皐月さんと潮さんのこと。

今もどんよりと落ち込んだ空気を出している。敵対したというのは発足者の深雪さん以外のメンバー共通なのだが、最初ここにいて仲間として戦っていたのに敵対したというのは2人しかいない。私は演技だったわけだし。

 

「司令官に顔向けできない……」

「死んでしまいたい……」

 

この2人が向こうで何を言っていたかを知っているのは、今のところ私だけだ。なるべく触れない方がいいだろう。2人の名誉のために。

 

「皐月ちゃん、潮ちゃん、大丈夫なのです。電も深雪ちゃんのことさんざん(なじ)ったのです」

「私も白露姉さんのこと罵ったし、白しぐ姉さん殺そうとしたよ?」

「大潮もお姉さんの悪口言いました! みんな同じです!」

 

慰め方がネガティブなのも、この会の特徴。自虐ネタが多すぎて聞いていると辛いところもある。共感しづらい私と深雪さんは苦笑するしかない。

 

「私はもう龍田さんの顔まともに見られないわ……。夢に出るのよ。首の艤装剥がされた時のこと」

「そっか、叢雲は戦闘中に修復材無しなんだっけ。僕らはまだ幸せな方だよ」

「髪も切られて、ここに来るまで傷口塞がらないから痛みも引かなかったわね。海水と潮風が沁みる沁みる」

 

聞いてるだけでも血の気が引く会話である。現場にいた私もあれは酷いと思った。その時に皐月さんと潮さんが奪われたので、なかなか触れられなかったというのも辛い。叢雲さんはもしかしたらこの中で一番不憫かもしれない。

 

「なんか叢雲の話聞いてると元気出てくる……」

「叢雲ちゃんが不憫すぎて……」

「そういう同情しないでくれる!? アンタ達がこっち側来た時にひっそり助けられてるのよ私は!」

 

ある程度笑い話に出来ているのならまだマシな方。割り切っているからここでもやっていける。龍田さんに対する苦手意識はずっと残り続けるだろうが。

 

「朝潮は向こうでも皐月と潮とも話をしてるんだよね?」

「それはまぁ、最後の部隊は一緒でしたし。私が深海艦娘になる時に嬉々として眺めていたのがこの2人ですから」

「僕達は戦場に出られないからさ、この2人がどれだけ変わってたのかわからないんだよね。結構興味あるんだよ。教えてもらえないかな」

 

潮さんがものすごいスピードで詰め寄ってきた。目が『話すな』と語っている。皐月さんもじっとこちらを見つめてきた。潮さんと同じような視線。『余計なことを言うな』という感情が見える。

 

「弱みを握ったようで申し訳ないですね。2人の名誉のために、秘密にしておきます」

「残念。僕の酷いところは皐月に見られてるからさ。知っておきたかったんだけど」

「白い方はホント遠慮ないなぁ! ボクのことは言っちゃダメだよ朝潮!」

 

少しだけ元気になったように見えた。さすが先達者。気持ちの切り替えさせ方も先に知ってる分的確。

 

「とにかく、気にしない方がいいよ。全部敵のせいなんだからね。僕なんて僕自身を罵ったんだよ? 誰にも被害がない代わりに、僕自身がただただ自己嫌悪に陥るだけって、何の罰ゲームかな」

「でも復帰も早かったですよね。自分の事だからか」

「割り切れるからね。もし僕が白露や夕立を罵ってたら、ここまで早くなかったと思うよ」

 

私も同じようになってしまったものの、あちら側に意識が行かなくて本当に良かったと思う。私もしっかり洗脳されていたとしたら、霞や春風のことを有る事無い事言って罵っていただろう。立ち直れていたかわからない。

私は本当に運が良かったのだ。今までの訓練が功を奏したのだって運が良かっただけ。今考えるとヒヤヒヤする。霞があそこまで心配するのも当然だ。

 

「気休めにしかなりませんが、今は癒されてください。紅茶でも淹れますよ。私、金剛さんに淹れ方教わったんです」

「えっ、金剛さんの紅茶とかめっちゃ美味いヤツじゃん! すげぇな朝潮、多芸すぎる」

「山城さんも教わってましたよ。司令官に淹れてあげたんですかね」

 

まだまだ立ち直るまでには時間がかかるだろうが、これで少しでも気が休まればいい。私が出来ることなんて、あちらでの事を何も言わないでおく事と、紅茶を淹れてあげる事くらいだ。

 




大潮だって、朝潮型10人姉妹の2番目。霞の面倒は見るし、霞からも慕われています。が、朝潮ほどではないのは、長女と次女の違いというよりは、日頃のテンションの差。大潮が真面目になると、途端に皆がいうこと聞き出す。
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