訓練も他の方々と同じようになり、新人らしさがようやく抜けてきた私、朝潮。今日も対空訓練で顔面で爆撃をキャッチするところだったが、何とか終わらせた。
一緒に訓練している対空担当の駆逐艦と遜色無いレベルにまで仕上がってきているかは不安だが、司令官からはそろそろ哨戒任務に出ることも打診されている。
私はまだ戦場を知らないのだ。哨戒任務をこなしてようやくスタートラインに立てるだろう。
駆逐艦のみの哨戒は3人1組で行う。そのとき、3人の役割がなるべく重複しないようにするらしい。私ができることは対空、対潜、あとは殆どの人ができる電探による索敵。自ずと一緒に組む人には主砲担当が必要になる。
そういえば、と思い出し、鎮守府から外に出て海を見に行った。確か今は主砲訓練をしているはずだ。
私は主砲がどうやって攻撃しているかを知らない。自分で使えず、見たことのある戦闘が艦娘らしからぬ格闘戦である。そもそもどうやって訓練をしているかすら知らなかった。
「結構陸に近い場所でやるのね……」
海沿いを歩いていると、銃声が聞こえてくる。海にいくつも並べられた鉄製の的に向かい、海上を移動しながら射撃する白露さんの姿が見えた。
また、私の受けてきた訓練と明らかに違うのが
「すごい……さすが戦場の花形……」
本来なら自分もできるはずの主砲攻撃の訓練を見てると、ほんの少しだけ胸が痛んだ。だが、そんなこと他の皆も同じなのだ。すぐに開き直ることができた。
遠くから眺めていると、訓練を受け持っている古鷹型重巡洋艦1番艦、ネームシップの古鷹さんと目が合った。軽く手を振ってきたので、こちらも会釈を返す。
「だぁーっ! 切り返しがやっぱり難しいなぁ!」
一通り終わらせた白露さんが叫びながら古鷹さんのところに戻っていた。訓練の結果がしっくり来ないらしい。私もそういうことがあるから気持ちがすごくわかる。
白露さんも私に気付いたようで、何やら古鷹さんに話している。ちらちらこちらを見ているので、私に何かやらせたいのかもしれない。
「朝潮ちゃーん! ちょっと来てもらってもいいかなー!」
「えっ、えっ?」
呼ばれるままに古鷹さん達の元へ。
白露さんの他にも深雪さんがいる。この2人が絡むとどうも嫌な予感がしてならないが、今は訓練だ。何もないだろう。そのはず。
「なんですか?」
「今からこの2人が競争するから、立会人になってもらえるかな。1人の目より2人の目だって白露ちゃんが聞かなくて」
「朝潮なら絶対に甘く見ないからさ。信用してるんだよ」
競争というのは、的当ての速さ。今までは置かれている的全てに弾を当てて帰ってくる訓練をしていたが、それを半々に分けて競い合うらしい。それでも結構な数はあるし、1つ1つの間がそれなりに開いているので、行って帰るだけでもそれなりに時間はかかる。
古鷹さんは僅差だと勝敗を付けないという。それが白露さんと深雪さんには納得いかないのだとか。
「朝潮、しっかり見ておいてくれよ! 今日こそあたしが勝つからな!」
「あたしがいっちばーん!だから!」
こういう競い合える仲は素敵だと思う。私には……やはり皐月さんだろうか。まったく同じ
「じゃあ位置についてー」
古鷹さんの号令で2人が所定の位置へ。何度もやっている事なのだろう、迷う事なく準備する。
私も一番見やすそうな桟橋に立つ。古鷹さんも同じように桟橋の近くに。ゴール地点をほぼ真横から見られる都合のいい場所だ。
「始めーっ!」
同時に駆け出した。やはり2人とも
最初は互角。同じタイミングで的に弾を当て、同じタイミングで舵を切る。だが、何度かやるうちに白露さんが遅れてきていた。先程叫んでいた切り返しというやつだろう。カーブのところで若干だがスピードが落ちている。
「白露ちゃんは命中精度は高いんだけど、移動に少し難があるね。本当に少しだけど」
古鷹さんからの評価も移動に関しては少し低い。
そうこうしているうちに折り返し。先に抜けたのは深雪さん、だがUターン後の的を一回外してしまった。その間に白露さんが一気に差を詰める。
「深雪ちゃんは命中精度にまだまだ問題があるかな。連射すれば当たるから戦場ではまだマシかも」
こちらの評価も射撃に関して若干低め。
白露さんと深雪さんは長所と短所が真逆なようだ。お互いを補い合うことで最高の戦果になるだろう。
競争はそろそろ大詰め、差もほとんどない。息もピッタリだ。的に弾が当たる音など、ほぼ同時である。
「っだあああ! ゴーーーール!」
「いっちばーーーーん!」
古鷹さんが勝敗を付けないのもわかる。本当にほぼ同時にゴールした。
「どっち!?」
「朝潮、どっちが勝ちだ!?」
ゴールするなり詰め寄ってくる2人。圧がすごい。
私の見る限りでは、ほんの少しだが白露さんの方が速く感じた。
「私は白露さんが勝ちだと思います」
「そう……だね。今日は私も白露ちゃんかな。微妙なところだけど」
古鷹さんと同じ意見だったようだ。
聞いた白露さんは飛び上がるほど喜んでいた。その隣で崩れ落ちるほど落ち込んでいる深雪さん。この勝敗はそれほどのものだったのだろう。お互いに競い合っているからこそ、勝敗にもこだわる。この人には負けられないという意地がお互いにあるのだろう。
「じゃあ、負けた深雪ちゃんは的の片付けをよろしくね」
「ちくしょーーー!」
なるほど、そういうのもあって落ち込んでいたのか。深雪さんらしくて物凄く納得した。
「朝潮ちゃん、何か悩み事?」
白露さん達がまた訓練に戻った後、古鷹さんから話しかけられた。
悩みというわけではないが、そろそろ始まるであろう哨戒任務に対して、少し緊張していると伝える。
「うん、わかるよ。私も最初はすごく緊張したもの」
「そうなんですか?」
「初めての戦場だからね」
今でこそ熟練者だとしても、最初は私と同じ初心者だ。それに、慣れたとしても死と隣り合わせであることは変わりない。今でも緊張すると古鷹さんは語る。
古鷹さんの
だが、索敵が出来ないということは、不意打ちを確実に受けるとも言える。それは怖い。緊張もするだろう。
「初心者は必ず大人数の哨戒任務だから安心してね」
「大人数、ですか」
「朝潮ちゃんは駆逐艦だし、水雷戦隊で行くと思うよ。旗艦は天龍ちゃんかな?」
少し安心した。最初から3人1組の駆逐艦チームだったとしたら、私は確実に足手纏いになっているだろう。
水雷戦隊とは、軽巡洋艦1人を旗艦とし、駆逐艦を数人添える編隊のこと。3人から5人くらいがよくあるらしい。その駆逐艦でも清霜さんと時津風さんは除かれるとか。艦種がほぼ違うのだから仕方ない。
「大丈夫、哨戒任務は安全第一。もし敵を見つけた場合、基本的には撤退だから」
「あ、そうなんですね。非武装では無いはずですが」
「その時の部隊によるかな。水雷戦隊なら戦闘に入るかもしれないけど」
少人数の哨戒任務なのだから、武装していても戦闘は避けるべきだ。特に私は、敵と1対1でも勝てるとは到底思えない。敵を見つけたことを司令官に伝え、その場からすぐに逃げる。その後、実働隊に向かってもらう。この流れが基本。
私を拾ってもらった経緯から、それなりに鎮守府から離れた場所まで哨戒することもあるだろう。そんなところで交戦しようものなら、実働隊が到着する前に全滅の可能性がある。それだけは避けたい。司令官も許さない。
「お、なんだなんだ、緊張してんのかぁ?」
訓練を休憩している深雪さんもやってきた。深雪はそれなりに場数を踏んでいる。勿論哨戒任務も何度もこなしている。
「だーいじょうぶ大丈夫。最前線だから敵はやたら見つかるけど、あたし達は交戦せずに逃げるだけだから」
「撤退戦とかになったりしないんですか?」
だがそこはやはり不安になる部分だ。逃げても敵に追いつかれては意味がない。いや、むしろ撤退戦を最初から考慮しているということか。
「そもそも向こうに気付かれる前に逃げるんだよ。気付かれたら撤退戦になるだけ」
「哨戒任務だからね。様子見だけで終わりなの」
「そもそも低速以下の船速での見回りだから、あたしでも問題ないしな。最大船速なんて撤退戦のときくらいだぞ」
そういうこととなると、哨戒とはいえかなり慎重に動く必要がありそうだ。万が一の水雷戦隊なのだろうけど、交戦しないに越したことはない。無駄弾を使う必要もないのだから。
緊張はまだ取れないが、少しばかり気が楽になった。そもそもまともに戦えない自分には交戦というだけでも心配点が多すぎる。
「朝潮ちゃんは、私達に頼ってくれればいいからね」
「その代わり艦載機全部任せるからな。敵空母もわんさか出るぞー」
最前線なのだから敵もただ雑多な駆逐艦とかだけでは無いだろう。最初から戦艦や空母だっていそうだし、別海域の艦載機だって処理する必要はありそうだ。
まずは自信を持って自分の役割をやれるように、しっかり訓練していこう。実戦で怯んでいては意味がない。やはり龍驤さんのスパルタが一番良さそうだ。
結局主砲訓練が終わるまで見学してしまった。今は先程の競争で負けた深雪さんが的を片付けている。
「ふぅ、今日もあたし、いっちばーんに近付けたかな?」
「もう少しカーブの移動技術を上げようね」
「古鷹さん手厳しい!」
実際、カーブでの切り返しでスピードが落ちていた白露さん。自分でも難しいと言っていたり競争でも改善できていなかったりと、苦手分野なのだろう。誰もが自分のできる事を十全にこなすことは難しい。
少ししてから疲れた顔の深雪さんが合流した。的はちゃんと片付けたようだ。
「深雪ちゃんは良くなってたね。1回外してたけど」
「それなんだよなぁ。止まって撃てばちゃんと当てれるんだけど」
対空もそうだった。避けながら撃つとなかなか当てられない。命中精度と移動技術なら、前者の方が必要だろう。そういう意味だと白露さんの方が一歩リードしているのかもしれない。
「今日はありがとうございました。自分でできないことを知れるいい機会でした」
「そっか、じゃあ声をかけてよかったかな」
「はい。参考になりました」
実際とても勉強になった。得手不得手以前の問題だが、知らないより知った方がいいことだ。わかっていれば、戦術も自分で組み立てることができる。
「朝潮、哨戒任務で組んだときはよろしくなー」
「そうそう、あたしら主砲組は結構出されるからね。多分どちらかと組むよ」
「はい、よろしくお願いします」
緊張もしているが、少し楽しみにもなってきた。この2人と組めば、哨戒にも気が入るだろう。
この鎮守府の古鷹は思ったことをバシバシ言うので、真面目な教師役に持ってこいです。古鷹is天使。