欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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女帝

私、朝潮の羞恥プレイの翌日。次回の救出作戦まで、今日を入れて猶予は2日。部隊はまだ決定していないが、誰もが自分が選ばれる可能性を考え、訓練に励んでいた。私も勿論その1人。深海艦娘と化しても洗脳されない例外のため、全員のサポートのため出撃する。

それまでは各々伸ばしたい能力を伸ばしていくことになる。時間が短いので新しいことをやっていくというのは難しいが、出来ることをさらに極めていくというのはいくらでも出来る。扶桑姉様のように既に極まってしまっている人などいない。山城さんですら伸び代はある。相変わらず筋トレしているみたいだが。

 

北の戦場に出られないメンバーは、警護任務の他に訓練の相手をすることがメインになっていた。特に、私を含まず深雪さんを含めた8人の深海艦娘は、スペックアップもあり訓練の相手には最適である。

私は今、その詰所として扱われている一室にいる。瑞穂さんは定期的な診断と艤装のメンテナンス、春風は扶桑姉妹と警護任務のため、率先して私に付き従う人達は珍しくいない。

北の戦場に出るメンバーではあるものの、私も深海艦娘、この組の一員である。訓練を受けたいものは、ここで申請を通す形。今は五月雨さん、叢雲さん、大潮が出払っている状態。

 

「最近さ、あたしら酷使されてるよな?」

「そんなことは無いと思うけどね。演習相手に毎日呼ばれているだけじゃないか」

「白しぐちゃんは元気過ぎなのです。黒しぐちゃんが来た時は率先して参加するし」

「そりゃあね。黒いのは僕が倒さないといけないからね」

 

こちらはこちらで楽しそうで何より。割と頻繁にやってくる神通さんや夕立さんがそろそろ面倒とも呟いていた。好戦的な人は大概援軍の方々である。

 

「艦載機1個しか使えないし、深海艦娘としては半端もんなのに、何であたしがリーダー扱いなんだ。白しぐ辺りで良くね?」

「いや、これは深雪だよ。僕にリーダーは出来ない」

「そうなのです! 深雪ちゃんが最初に電を救ってくれた救世主なのです! 鎖の性質を身を以て教えてくれたし、電の小型艤装の時にも付き添ってくれたし!」

 

深海艦娘は深雪さんが窓口になっていた。深海艦娘の会の発起人であり、初めての間接的な犠牲者。救出の仕方を示してくれた張本人でもある。何から何まで深海艦娘に使ってしまったようなもの。

そして推薦者の電さんの圧が凄かった。ある意味命の恩人であり、思うところがいくつもある深雪さんへの感情は、一言では言い尽くせないものなのだろう。

 

「わかったろう? リーダーは深雪なんだ」

「へいへい、謹んでお受けいたしやーす」

 

ヘラヘラとしているが満更では無さそうだった。頼られるというのは嬉しいものである。

 

「朝潮もこんな感じなのか。いや、まぁ、誰かに頼られるってのは悪いことじゃないんだけど」

「私の場合は頼られるっていうんですかね」

「朝潮組の組長が何言ってんだ。最高戦力3人も抱え込んで」

 

朝潮親衛隊が朝潮組に変化していた。どんどん聞こえが悪くなっている。春風の飼い主扱いよりも辛い。

確かに今、私の周りには戦力が集まっている。深雪さんがいう最高戦力3人とはおそらく、扶桑姉妹とレキさんのことだろう。ついには私も攻撃に参加できるようになったので、少し人を集えばわりと強力な連合艦隊も組めるくらいになった。

 

「深雪、朝潮は組長じゃないよ。確か女帝だったはず」

「はわ、朝潮ちゃんすごいのです。戦艦のお姉さんを手下にした女帝だったのですね」

「じゃあ朝潮帝国だ。逆らったらヤラれる」

 

私の印象がさらに別方面へ向かっていく気がした。明石さん、他の人にも口走ったのか。飼い主や組長よりは全然マシではあるが、あまりにも大それている。

 

「別にヤッてもいいんですよ。全員で深雪さん集中狙いで。まず扶桑姉様をけしかけます」

「それマジで殺されるタイプのヤツ!」

 

冗談が言える仲なのはいいこと。ただ、最近の冗談は割と過激なことが多くなってきた。やはり深海艦娘化は対象の思考をそちらの方へ傾ける作用がある気がする。

 

 

 

「訓練頼みたいんだけど」

 

霞が訪ねてきた。深雪さん曰く、好戦的な人達以外では霞が一番ここに来るらしい。私が一員になる前から深海艦娘に訓練を頼んでいる。成長に躍起になっている。

 

「あら朝潮姉さん、今日はここなの」

「ええ、私もここの一員だから。リーダーには顔を見せておかないとね」

 

私は自分の訓練ばかりで他の訓練をあまり見たことがない。深海艦娘相手に『未来予知』の訓練もさせてもらっているし。こういうときくらいは私も深海艦娘の一員として、人の訓練の手伝いをしてみたいものだ。

 

「誰を使いたいんだ?」

「全員」

「は?」

「ここにいる全員。いい具合に6人じゃない。叢雲がいないのは残念だけど、白しぐいるし、皐月いるし、朝潮姉さんまでいるし、都合がいいわ」

 

それだけ大規模な何かをしたいのだろうか。霞以外にはここに来ていないが。

まさか1人で6人相手にしようとしているのか。ただの一方的な蹂躙になりかねない。私が改二になるときにやった1対9の訓練に似たような状態である。いや、むしろそれを深海艦娘でやろうとしているのでは。

 

「貴女1人?」

「ええ。朝潮姉さんが改二になるときにやってたのあるでしょ。あれ、ここ最近ずっとやってんの。昨日は萩風と時津風に頼んだわ。あと神通さんにもボッコボコにされた。レキや潜水艦姉妹にも頼んだわね」

 

私が記憶探しをしている時も、霞はあの無茶な訓練を続けていたそうだ。確実に短期間で成長できることは私や白露さんで証明済み。

ただし消耗も激しい。霞に疲れは見えないが、外に見せていないだけで疲れ切っている可能性はある。

 

「霞、無理してない?」

「してるわよ。でも朝潮姉さんに言われる筋合いは無いわね」

「別に無理するなとは言わないわ。だけど、理由くらいは教えてほしいわね」

 

別に無理するななんて言うつもりはない。一気に強くなりたいなら無理をするしかないのだから。私だって今までずっとそうしてきた。頭痛に悩まされても関係なしに訓練を続けてきた。

だが、何故急にそれをやり出したかを知りたい。私は敵となった深海艦娘を無事に救うため、狡猾な手段を使われても対処できるように無理をした。だが霞は今何故。

 

「……強くなりたいのよ」

「そう……私からは何も言わない。霞が決めたことだもの」

 

何か含みのある言い方だったが、私にも聞かれたくないことくらいあるだろう。霞にだってプライバシーくらいある。深く追求するよりは、力になってあげた方が霞のためになるはず。

 

「全員出払うってのは初めてだけど、まぁいっか。で、なんだっけ。6人がかりで霞をリンチすりゃあいいんだっけ?」

「もう少しマシな言い方無いわけ? 訓練よ、訓練」

「はいはい。んじゃあ、全員で行くぜぇ」

 

霞の訓練を手伝うというのは少し嬉しかった。妹の成長に貢献できるというのは姉冥利につきるというものである。

 

 

 

海上。霞の訓練が開始する。朝潮型は無理と無茶をするものと、鎮守府でも有名になってしまった。ケッコンカッコカリをした後にここまでの訓練を望んでいるのは霞くらいである。

 

「ルールは?」

「手加減無し。そっち6、こっち1。私が全部塗られるまで続けて」

「こっちはじゃあ轟沈判定でいいな」

「ええ。6人全員轟沈判定させるのが私の勝利条件」

 

かなり無茶なルール。こちらは連携できるが、霞は単独で全部捌くと言っている。正直、無理だと思っているが、何も言わない。

 

「朝潮姉さん、あれもやっていいわ」

「あれって『未来予知』?」

「ええ。むしろやってもらわないと困る」

 

これは自信があるから言っているわけじゃない。自分を追い込んでいる。自分の底を無理矢理押し上げようとしている。

なら、お望み通り全力で迎え撃とう。手加減などしたら逆に霞に失礼だ。それに、深海艦娘となってから私もどこまでやれるか知りたい。

 

「そう……なら心を折ってあげる」

「それくらいでお願い。早く強くなりたいの」

 

焦っているようにも見える。『早く』の部分を強調しているように思えた。霞らしくない。

 

「指示頼むよ女帝」

「霞は痛い目を見たいみたいだからな。頼むぜ女帝」

「後頭部気をつけてくださいね。私は貴女達より多く艦載機使えるんですから」

 

こちらの部隊は私、深雪さん、白時雨さん、電さん、潮さん、皐月さん。皐月さんを最前衛に置き、サポートに深雪さんと電さん、後衛に潮さんと白時雨さんを配置。私は最後尾で艦載機を使いながらの指示。

 

深雪さんと電さんのコンビは連携が恐ろしく上手い。電さんが深雪さんを引き立てる動きをするのだが、お互いがお互いを理解しているというか、心が通じ合っているというか、普通じゃできない連携までやってのける。私も扶桑姉様との連携に見習いたい部分が多い。

潮さんは私と同じく艦載機運用にシフト。雷撃をしながらの航空戦をするのでペースが狂わされる。全員に言えることだが、艦載機を普通の空母のように使うのではなく、中距離武器のように使うのが特徴。

そして、白時雨さん。曲者中の曲者。バックパックの連装砲が長距離高火力の単装砲に変化するため、状況を見ながらの運用変更を視野に入れなくてはいけない。

皐月さんは何も変えてない分、全ての精度が段違いに上がっている。今まで見てきたものは一旦捨てて考え直さなくてはいけないレベル。

 

霞はその全てを超えて、私まで倒そうとしている。それだけ自分を追い込んで、何処を目指しているのだ。

 

「それでは……開始します」

 

目を瞑り、意識の没入。本当に久しぶりにやる『未来予知』だ。対象は霞を中心に、私を含めた深海艦娘部隊6人。さらに、各々が飛ばす艦載機。そして、霞の魚雷。把握しなくてはいけないものが多く、以前までの私なら後が怖いレベル。

今回は視覚のみを先読みに使う。聴覚はそのまま。霞を嘗めているのではなく、段階を踏むことで頭痛が緩和されるかの確認も兼ねている。

 

「皐月、直進。深雪、電、展開後左右から」

 

まず3人で速攻。

 

「潮、艦載機発艦、時雨、準備」

 

後衛はそれを補助するための動きを指示。白時雨さんはまずバックパックを単装砲に変形させてからが始まりだ。小型の主砲よりそちらで援護した方が追い込みやすい。

 

「いかにも姉さんが考えそうな作戦ね。私も今までいろいろやってきてんのよ。戦いやすい状態に、私が作るわ!」

 

両サイドに魚雷を発射。深雪さんと電さんへの牽制。向き的に、皐月さんに近づけようとしているのはわかる。縦に並べれば処理がしやすく、魚雷も当たりやすいだろう。

 

「皐月、回り込め」

「魚雷が邪魔で霞の横に行けないけど」

「ほら、()()()()()()

 

深雪さんと電さんが艦載機を皐月さんの目の前に配置。まさか階段状にして上を走らせるつもりか。私を持ち上げることすら出来ないのに、その上に乗ることなんて。

 

「サンキュー! ボクの分も使えば!」

 

さらに自分の艦載機まで使い、合計9つの階段。なんて滅茶苦茶な。霞もこれには意表を突かれた。

 

「そんなのアリなわけ!?」

「皐月でギリだぜぇ。よっしゃ、行け行け!」

 

艦載機の階段を駆け上る皐月さん。なるほど、足を付く瞬間に突き上げるように動かせば、皐月さんくらいならギリギリ支えられるのか。覚えておこう。

 

「霞ちゃん、余所見してたらダメなのですよ」

 

それを余所に、一切の容赦がない電さんの砲撃。深海艦娘化の影響で一番過激になっているのは間違いなく電さん。狙うのも基本顔面。

 

「ほんっと容赦無いわね!」

 

先読み。ギリギリで回避し、真後ろに回り込んだ皐月さんと電さんに向かって雷撃。少し上に向けて、魚雷そのものを身体に当てようとしている。電さんからは少し遠いが、近距離の皐月さんは危うい。

 

「電、3時回避、皐月、9時回避」

「ここで指示出してくるとか朝潮鬼かよ」

「鬼じゃなくて女帝なのです」

 

発射するときにはそこに2人はいない。同時に深雪さんには背中を向けることになる。察した深雪さんの砲撃によりダメージ1回目。

 

「皐月、バック。潮、艦載機」

「了解。ごめんね霞ちゃん、女帝がこうしろって」

 

私の艦載機も込みで10個、一気に爆撃を始める。対空訓練でも似たようなことが起こるが、低空飛行かつ、その場で停止できる艦載機の爆撃だ。命中精度が違う。

それにしても、潮さんからも女帝と呼ばれると少し堪える。潮さんも電さんと同じく深海艦娘化で性格に若干影響が出ている人。

 

「うへぇ、近付けないよ」

「すげぇな霞、あれちゃんと避けてやがるぜぇ」

 

それでもしっかり避けていた。これは瑞穂さんや叢雲さんから行動予測を習っている。(つたな)いながらもちゃんと出来ているようだ。霞もなかなかやるじゃないか。集中しすぎて無言になってるようだが。

なら、予測できないくらいにしていこう。霞はそれがお望みのようだし。

 

「皐月、艦載機、直接」

「マジでここに追加!? ボクまだ攻撃は慣れてないんだけどなぁ!」

「皐月の艦載機は足場だもんな。んな使い方するの皐月だけだぜぇ」

 

追加で6つ。爆撃ではなく直接ぶつける方で。皐月さんならそちらの方が慣れるのが早いだろう。

 

「ああもう鬱陶しい!」

 

先読み。行動予測により爆撃は全て避け、直接ぶつかってくる艦載機は大きく旋回して回避。さらに旋回に合わせて深雪さんと電さんへ雷撃か。少し腕が狙いを付けた。

 

「時雨、10時」

「了解。もう撃てるからね」

 

旋回のタイミングを合わせて、白時雨さんに指示。駆逐艦を大きく凌駕した大型単装砲を霞に発射。

 

「深雪、8時回避。電、4時回避」

「撃ってくんのか! 電!」

「大丈夫なのです。ちゃんと当てて避けるので」

 

同時に回避指示。予知通り魚雷が放たれたが、余裕で回避。撃った直後の硬直で電さんの砲撃は避けられず2回目。さらには強烈な白時雨さんの砲撃も受けて3回目。

 

「全員、集中砲火」

「鬼かよ!」

「女帝なのです」

 

白時雨さんの砲撃が直撃したことで少し動けなくなっている。そこに容赦なく砲撃。4回目、5回目とダメージが蓄積されていき、最後は皐月さんの刀が首筋に突きつけられて終了。

身体中ペイント塗れ。こちらは無傷。さすがに無理があるだろうと思ったが、ここまで圧倒的だと申し訳なくなる。

 

「以上……あれ、頭痛が来ない」

「深海艦娘化の影響じゃないかな。特化された部分がもっと強くなるみたいだしね」

「ありがたい作用ですね。マスターしたとは言いづらいですが、『未来予知』、大分使っていけますよ」

 

聴覚まで先読みに使ったらどうなるかはわからないが、少なくともここまでなら負荷の心配が無くなった。あとはより長時間使った時の負荷が気になるところ。むしろ、聴覚を先読みに使わずに、前以上の成果が出せている。こればっかりは深海艦娘化に感謝する。

 

「霞、大丈夫かぁ?」

「最後エグかったわね……全員分の艦載機と砲撃喰らったわ……」

 

余すところなくペイントに染まった霞がゼエゼエ言いながら立ち上がる。白時雨さんの主砲を受けてからは総崩れ。回避のタイミングを狙っての攻撃は大正解。

 

「身体を洗ったら次やるわ。もう少し付き合ってちょうだい」

「やる気満々だね。でも女帝の意見を聞かなくちゃ」

 

もう今日は女帝で通されるらしい。

 

「やりたいだけやらせてあげてください。私がやりたいようにやったんですから、霞もその方がいいでしょう」

「理解が早くて助かるわ」

「倒れたら承知しないわよ」

 

今はそれしか言えない。霞が何を思ってこんな無茶な訓練を続けているかはわからないが、自分も似たことをやってきたのだから否定することはできない。




壊二帝、本領発揮。妹の成長のために容赦しなかった結果がこれ。一番後ろに鎮座する辺り、本当に女帝。
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