欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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水母の土産

溜まりに溜まった霞のストレスを垣間見てしまった私、朝潮。過剰とも言える訓練をこなして、どうにか早く強くなろうとしていた理由は、私をその手で守りたいという一心だった。確かに私の周りには普通ではない人が集まっている。それでも、霞はその中に埋もれているわけではない。充分に、私の心の支えになってくれている。それをわかってほしい。

 

その霞はというと、結局倒れることに。最後まで私を守ると言いながら眠りに落ちていった。寝言ですら私のことを気にかけている。終わったとはいえ、訓練した海上で眠ってしまうくらいなのだから、本当に疲れ切っていたのだろう。私でもここまではしたことがない。トドメを刺したのは私だが。

 

「入渠を許可するよ。そこまで疲れているんだ。お風呂よりそちらの方がいいだろう」

「ありがとうございます。うちの妹がご迷惑を」

「いや、霞君もいろいろ考えていたんだろう。相談されなかったのは残念だがね」

 

工廠にいた司令官に話をつけ、霞はドックに寝かせることにした。ただの疲れなら、怪我をした時よりも早く回復するだろう。これに味をしめて訓練と入渠の繰り返しなどにならないことを祈る。

まさか司令官に相談無しであの訓練をしていたとは思わなかった。これは起きたら説教した方が良さそう。

 

「そうだ、ちょうどよかった。朝潮君、この後また工廠に来られるかい?」

「大丈夫ですよ。何かあるんですか?」

「今から秋津洲君が戻ってくるんだ。新装備を持ってね」

 

電さんの救出が完了した辺りの時、秋津洲さんが陸から対地攻撃が出来る武器を運んでくるという話をしていた。だが、その時からもうすでに結構な時間が経っている。数日という話だったのだが、手配できそうな鎮守府が戦闘に巻き込まれてしまったらしく、ここまで長引いてしまったそうだ。

 

「なるほど、対地攻撃。北端上陸姫との戦闘の時に使うんですね。私にもそれが使えるとか……?」

「ああ、朝潮君は改二丁である場合のみ装備が出来るんだ。だが、欠陥(バグ)の影響がそこまで出ている可能性があるから、調べておきたくてね」

「了解しました。最終決戦も近いですしね。先に知っておくことはいいでしょう」

 

都合がいいことに、私は改二丁である時に限り対地攻撃の装備が出来るらしい。改二では無理だったという辺り、私は本当に運が良かった。自分の最終形が該当しているというだけでも喜ばしいことだ。

ただし、私の欠陥(バグ)である主砲と魚雷の接続不備がそこまで影響しているとなると、残念ながら対地攻撃は不可能となってしまう。

 

「他にも該当者がいてね。今から該当者を集めてちょっとした講義になる予定なんだ」

「それなりにいるんですね。わかりました。参加します」

 

対地攻撃が出来るのならより戦いやすくなるだろう。北端上陸姫と離島棲姫を同時に相手取るならそういった対策も必要。確かあちらの姫2体自身は攻撃がそんなに得意ではなかったが、今となっては何をしてくるかはわからない。スペックが変わっている可能性もあるし、増えている可能性だってある。

 

「まだ少し時間があるから、その間にお昼を食べてきなさい。そのあとにここで実践を交えた講義だ。やれるものなら開発もしたいしね」

 

基本的には開発が不可能な装備らしいが、この鎮守府にはセキさんという例外がいる。深海棲艦の技術も加えれば、もしかしたら何か出来るかもしれない。

本来できない量産が出来るとなれば、さらに戦いやすくなるだろう。

 

 

 

小一時間ほどして、該当者が工廠に集められた。私以外には大潮、皐月さん、響さん、白露さん、そして意外にも龍田さん。

龍田さんは先日改二に改装され、いろんな部分がパワーアップしている。制服は天龍さんほど様変わりはしていないが、大胆に肌を見せるようになっていた。薙刀も大型化し、攻撃力が上昇している。

霞も該当者なのだが、今は入渠中。いろいろやっているうちに目を覚ますだろう。

 

「私と大潮、皐月さんは大丈夫ですかね? 深海艦娘ですから、一般的な装備が普通に出来るかどうか」

「もしかしたら侵食とかしちゃうかもだよね」

 

深海艦娘は装備が深海艤装のため、深海棲艦と同様、一般的な装備を深海側に寄せてしまう可能性があった。深海艦娘はその時点で専用装備になってしまう。

逆に、セキさんが万が一開発できたなら、最初から深海寄りの装備になってしまうかもしれない。

 

「大潮は北の戦場行かないですけど、いる意味ありますか?」

「念のためいた方がいいわ。何に使うかわからないもの」

「わかりました! 覚えておきます!」

 

私は最終決戦にも参加できるが、大潮と皐月さんは参加不可。それでも対地攻撃を覚えておくのはいいと思う。今後何に使うかわからないし、もしかしたら深海艦娘も陣地まで攻め込む可能性がある。覚えておく方がいいだろう。

 

「私と霞ちゃんはそもそも装備できない可能性があるのよね〜」

欠陥(バグ)の範囲が広いですもんね。装備できればいいんですが」

 

霞は魚雷以外、龍田さんは電探以外が装備できない。そこに今回の装備も含まれていたらアウト。こればっかりは調べてみないとわからない。

 

「戻ったかもー!」

「お帰り、秋津洲君」

 

大荷物の秋津洲さんが工廠に入る。私と皐月さんの姿を見るや否や目が飛び出るほど驚いていた。こうなってからは初めて顔を合わせるので、事情を知らない秋津洲さん的には私達の変貌は何事かと心配するほどのようだ。

 

「えっ、ええーっ!? 朝潮ちゃんも皐月ちゃんもどうしたの!? 髪の毛真っ白!? つ、角!? 深海棲艦みたいになってるかも!?」

「あとから事情を説明します。敵の攻撃の犠牲になったということで今は」

「そ、そっかぁ……大変だったんだね。うん、あとからお話ししようね」

 

事情は後回しにして、今は対地攻撃の装備について。

秋津洲さんが運んできたのは4つの装備。その内の3つは派生形の似たような装備である。

 

「今日のお土産は! 大発動艇(だいはつ)3種類とWG42(ロケラン)かも!」

「おおっ! さすが秋津洲君だ。ありがとう!」

「へへー、どういたしましてかも!」

 

大発動艇は本来、上陸用舟艇という陸上に揚陸するための船。物資の輸送が主な目的である。が、秋津洲さんが持ってきたものは完全に戦闘用の3種類。戦車搭載型の大発動艇、それを大型にした特大発動艇、そしてそのものが水陸両用戦車の特二式内火艇、通称『カミ車』。陣地強襲のためにしっかり用意された3つである。

WG42は駆逐艦と軽巡洋艦、潜水艦などが装備できるロケットランチャー。大量のミサイルが陣地に向かって雨のように降り注ぐというなかなかに強烈な武器。

 

「大発はあたしも使えるから、教えることできるからね。まずは装備できるか調べてみるかも!」

「ではまず最も影響力が少ないであろう響君から調べていこうか」

「да」

 

その後、集められた6人で装備可能かを確認していった。

結論から言うと、まず深海艦娘でも普通に装備出来たということ。侵食も無し。ありがたいことに選ばれれば私も使用できそう。WG42も問題なく使えたのはありがたい。

そして龍田さんの問題。残念ながらWG42は装備できなかった。欠陥(バグ)はそこまで影響を与えていた。が、大発動艇3種類は問題なく運用可能。その理由が、大発動艇の装備機構が改二になってから発生したためである。改装することで新たに使えるようになるのだから、最初期の欠陥(バグ)が影響しなかったようだ。これなら霞も装備できるだろう。

 

「大発だけでも装備できてよかったわ〜」

「はい、龍田さんも陣地攻略の要ですからね」

 

ここからは運用方法の訓練。司令官は明石さんとデータを睨めっこ。

WG42に関しては、高角砲に似たような使い方のため、私や皐月さんは手慣れたものだった。初めて使う白露さんと響さんは若干苦戦していたが、言うほどではないくらい。結局主砲が上に向いているだけと考えればいいだけである。

大発動艇はある意味、私達深海艦娘の艦載機のような扱い方。遠隔操作ができる小型船舶のようなものだ。艦載機運用のおかげでコントロールは難しく感じなかった。

 

「私達は大丈夫そうです」

「艦載機使ってますからね! 操作の仕方同じでした!」

「深海艦娘の利点が出たようだね。それなら安心だ」

 

逆に、艦載機を使わない普通な3人はこのコントロール系統は初めて。龍田さんは相変わらずそつなくこなしているが、響さんと白露さんは大苦戦。

 

「なんでそんな簡単に動かせるの!? これ滅茶苦茶難しくない!?」

 

白露さんはかなり特殊で、大発動艇と特大発動艇は装備できず、特二式内火艇だけが装備できる。白露さんが対地攻撃に参加する場合、この特二式内火艇は白露さん専用になることだろう。

 

「私達は感覚的にわかってますから」

「深海艦娘になると教えられなくても艦載機使えるんだよね」

「何それずっこい!」

 

特に私と皐月さんは同時に6つの艦載機をコントロールしている。私は攻撃に、皐月さんは突飛な行動をするための足場に。そこに大発動艇が1つ増えたところで、ほとんど変わらない。厳しいなら艦載機の数を減らせばいい。

 

「こっちは乗ってる戦車が別扱いよ。結構難しいわ〜」

「これはなかなか……」

 

響さんも2つのものを別々に動かすということに苦戦していた。大発動艇と搭載された戦車は駆動系が独立している。1つの装備で2つのコントロールが必要ということだ。慣れていないとまともに攻撃すら出来ない。

首を傾げながら訓練する響さん。頭を抱え悶絶しながら訓練する白露さん。難しいなどと言いつつすっかりマスターしている龍田さん。三者三様。大潮や皐月さんも交えて何とかものにしようと頑張っていた。深海艦娘化していなかったら、私もああなっていたかもしれない。

 

「秋津洲さん、これって水上機母艦なら誰でも使えるんですか?」

「そのはずだよ。あたしは二式大艇ちゃん専門だったけど、これも使えたんだよね。もしかして、水上機母艦仲間が増えたかも?」

「はい、1人ですけど水上機母艦が所属しました。元深海棲艦なんですが、欠陥(バグ)も無いです」

 

仲間が増えて大喜びの秋津洲さん。水上機母艦という艦種自体が若干レアな上に、この鎮守府の特性上、増える見込みは無いようなものだった。それが増えたとなれば、こうもなろう。

 

「瑞穂さん」

「お呼びでございますか朝潮様」

「うわぁあっ!?」

 

一声で真横に立つ瑞穂さん。秋津洲さんのこの反応も久しぶり。

 

「大発動艇は装備できますよね」

「勿論。瑞穂は輸送任務も可能です。朝潮様の願うことは全て行いましょう。輸送任務ですか? 対地攻撃ですか?」

「いえ、あれを見ていただければわかります」

 

特二型内火艇を装備し四苦八苦している白露さんを指差す。

 

「白露さんのお手伝いですね。了解しました」

 

気付けば白露さんの隣に。こんな何も無い工廠でも電探を凌駕してくる。

 

「えっと、あの子が水上機母艦?」

「水上機母艦の瑞穂さんです。ちょっといろいろあったんですが、今はこんな感じです」

 

皆の大発動艇の訓練を見ながら、秋津洲さんの知らないことを簡単にだが説明していく。ここを離れることが多い秋津洲さんは、今の戦況を詳しく知らない。対地攻撃用の装備についても、必要ではあるがどう使うかなどは殆どわかっていなかった。

一番驚いていたのは、やはり私と皐月さんの姿。とはいえ外見が変わった程度と簡単に受け入れた。私はさておき、皐月さんはあちら側での振る舞いもあったのだが、本人たっての希望でそこは隠しておくことに。

それと、瑞穂さんや扶桑姉様の参入も話すのが難しい案件。何せ、私のちょっとした恥部を露呈しないといけない。出来るだけ私がダメージを受けるところを隠し隠しで説明した。

 

「なんかもう理解が追いつかないかも……」

「いろいろありましたから」

 

本当にいろいろあった。簡単には語りつくせないくらい、いいことも、悪いことも、いっぱいあった。

 

「でも、やっぱりここが一番楽しいかも。もっとギスギスした鎮守府とかいっぱいあるもん」

「そうなんですか?」

「あたしはいろんな鎮守府に顔を出すことが多くて、それなりに顔パス利くかもなんだけど、元帥のお爺ちゃんの息がかかってないとこは怖いとこもいっぱいあるよ」

 

戦果史上主義だったりすると、艦娘同士の諍いも絶えないらしい。場所によって艦娘の個体差が出るのはわかるが、全員が喧嘩っ早い鎮守府や、全員がネガティブな鎮守府などもあるそうだ。そう考えると、この鎮守府はアットホームな雰囲気だ。何より司令官が素晴らしい。

 

「あたし、普通の外見だけど殺し屋みたいな朝潮ちゃん見たことあるもん」

「そ、そうですか……殺し屋って……」

「あたしはそれならこっちの朝潮ちゃんの方が好きだなぁ。髪が真っ白でも、角が生えてても、中身は優しいもんね」

 

面と向かって言われると恥ずかしくなってくる。むしろその殺し屋のような私にも会ってみたくなる。

でも秋津洲さん、今私はこの鎮守府で女帝と呼ばれています。

 

「たまにこうやって帰ってきて、みんなの顔を見ると、すっごく楽しいかも。今日は一晩ここに居られるし、みんなともお話ししなくちゃ!」

「そうですね。援軍の皆さんや、深海艦娘の皆さんともお話ししてください。おそらくまず秋津洲さんに頭を下げるところから始まるでしょう」

 

ここの兵站事情を一手に引き受ける秋津洲さんだ。ついには現在攻略中の敵を倒す鍵となり得る装備まで持ってきてくれた。全員が頭が上がらない。司令官すら秋津洲さんには足を向けて寝られないと言う。本当の女帝は間違いなくこの人である。

 

 

 

しばらくして、全員がある程度動かせるようになった。一番苦戦していた白露さんも、なんとかコントロールできるように。まだ集中していないと無理なようだが、使えるだけマシだろう。最終的には主砲で攻撃しながらのコントロールだ。

 

「霞は私が教えておきますね」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

結局この訓練中に霞が起きてくることは無かった。余程疲れていたらしい。

 

「明日もやっていい? あたしこれ苦手だぁ」

「時間があるうちは訓練して構わないよ。頭を使う装備だから、疲れたら休憩もするように」

「りょーかーい」

 

私もやらせてもらおう。艦載機と同じ動かし方とはいえ、空と海では勝手が違う。霞と一緒にやるのが良さそうか。

 

「では、一時解散。また使いたくなったら申請してくれれば許可を出すよ」

 

霞が起き次第、体調さえ良ければ早速申請しよう。むしろ霞がそれを望むはずだ。

北端上陸姫攻略は私も参加する。それには必ずついてくる。何せ、私の周りの人達で、北の戦場に出られるのは霞とウォースパイトさんしかいないのだから。龍田さんの傾向からして、霞もWG42は装備できないが大発動艇は装備できるタイプのはず。私ならそのコントロールの方法も教えられる。

 

対地攻撃は、霞と肩を並べて戦う絶好の機会だ。私もそれを逃したくない。

 




大発動艇の扱いは作品によってまちまちだと思いますが、ここでは完全遠隔操作で、思い通りに動く小型船舶。しかも脳波コントロールできる。
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