欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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劣等感の払拭

対地攻撃用の装備が届けられ、ある程度の訓練も終了。解散後、私、朝潮は霞が目を覚ますのを待っていた。怪我でも何でもなく、ただ疲労だけでの入渠。ここまで長く入渠するとなると、霞は本当に限界ギリギリまで疲労していた事になる。

 

「ん、んんぅ……」

 

ドックが開く。ようやく入渠が終わったようだ。

霞が倒れる直前を思い出す。私を守れるのは自分だけと言い聞かせるようにしていたのが気になった。他の誰でもない、自分だけと。私の知らない感情が滲んでいるようにも思えてしまった。春風や扶桑姉様、瑞穂さんに近しい何か。

 

「おはよう霞。よく眠れたみたいね」

 

目をパチクリしながらこちらを見てくる。自分が置かれている状況をようやく理解したようだった。私がさんざん痛めつけた後、思いの丈を吐き出してそのまま倒れたまで思い出したのだろう。急に顔が真っ赤になる。

 

「ね、姉さん、さっきのことは忘れて!」

「流石に忘れられないわね。私を守ってくれるんでしょう?」

「あぁあ……なんで私あの場であんな事を……」

 

頭を抱える。あの時に垣間見えた狂気は薄れたようだった。瞳の中に浮かんだように見えたハートマークも今は見えない。

 

「春風やレキさんからはよく言われるけど、霞から面と向かって言われるのは嬉しかったわ。そのために行動予測も覚えたのよね?」

「……そうよ。姉さんを守るのは私の役目なの。産まれてここに来た時、姉さんは私が守らなくちゃって思ったの」

 

一度聞かれてしまったから、と霞はもう隠すつもりはないみたいだ。素直に話してくれるのはありがたい。思いの丈は何度もぶつけてくれて構わない。

霞と出会った時は初陣で、初めて実戦で対空砲火をしたときだ。他の人達のように敵を倒すことは出来ず、他の人達の道を開くために奮闘した。霞は駆逐艦でも一撃必殺の威力を持つ魚雷一本。心強い妹だと思ったものだ。勿論、今でも頼りにしている。

 

「やっぱり私、姉さんを守るためにも、今よりもっと強くなりたい。でも訓練しても誰にも追いつけないわ。元のスペック差はどうしても埋められない……」

「司令官に相談してみましょう。あ、それで思い出した。貴女あの無茶な訓練、許可取らずにやってたらしいわね」

 

目をそらした。『あ、やべ』って顔した。

 

「服を着てきなさい。その後に説教よ」

「私は姉さんのためを()って訓練したのよ。褒められて然るべきだと思うんだけど」

「褒めずに叱るべきと判断したわ」

 

その後、小一時間ほど説教をすることに。対地装備の件はまた後からにしよう。まだ時間はある。

 

 

 

「疲れだけで長時間の入渠というのは、あまり許容できないね」

 

困り顔の司令官。強くなるため、欠陥(バグ)を覆すために、ハードな訓練はある程度受け入れてきた司令官だが、疲労で入渠するほどは受け入れることはできない。艦娘が過労死だなんて笑えない冗談である。

 

「強くなりたいという気持ちはわかるさ。だが、それで身体を壊して悲しむのは朝潮君だ」

「姉さんから何度も言われたわ……」

「なら充分に自分の罪は理解しただろう。私からはここまでにしておくよ。私が言うより朝潮君が言った方が響くだろうからね」

 

本当によくわかっている人だ。一人一人のことをこれだけ理解しているから、この鎮守府を統括出来るのだろう。

 

「で、今以上に強くなりたいということだが……」

「何か案はありませんか。私はそういうところはどうも疎くて」

「仕方ないよ。朝潮君は欠陥(バグ)の都合上、攻撃のことはわからないことが多いだろうからね。実際、手段が無いことは無い」

 

霞の顔がパァッと明るくなる。今以上の力を手に入れることに躍起になっている霞は、藁をも掴む気持ちで司令官に頼っている。

 

「ただ、完全に試作武装なんだ。明石君とセキ君が試しに作ったと言っていたくらいでね」

「何でもやるわよ! 姉さんを守れるなら私は!」

「うぅむ……実際許可は出しづらいのだが……」

 

試作武装を装備するということは、失敗したときの危険性が非常に高いということでもある。強力な装備であるがゆえに、使用者にも負担がかかるということだろう。

 

「まだ時間はあるね。なら試験だけしてみようか。危険だと判断したらやめさせるからね」

「ええ、是非お願い。絶対使いこなして、姉さんを守るための力にするんだから」

 

私のためとは言ってくれているものの、不安で仕方なかった。

 

 

 

霞が装備できるのは魚雷のみ。ゆえにその試作武装も魚雷である。いつもの魚雷発射管とは違い、黒く、歪な形をしていた。さながら、以前見た軽巡棲姫の艤装を小型化したように見えた。

さらにその魚雷の付属品として、左目だけにかかる片眼鏡(モノクル)。魚雷につくものとは到底思えないものだが、何か理由があるのだろう。

 

「なんか深海艤装みたい。でも私が装備できるんだから艦娘の艤装なのよね」

 

いつものように脚ではなく腕に装備してしげしげと眺める。違うのは見た目だけのようだが、それだけでも霞は少し()()()()()ように見える。

 

「霞だからこそうまく扱える魚雷だと思うけど、本当に試験武装だから、慎重にね」

「わかってるわ。で、これはいつものと何が違うの?」

「まず一回撃ってみようか。的を狙って撃ってみて」

 

海面ギリギリに的が用意された。いつもならそれに対して発射し、破壊することが訓練になる。ここ最近はその訓練もしておらず実戦訓練ばかりなので、的当ても久しい。

 

「それじゃあ撃つわよ」

 

合図を出した後、魚雷を放った。その魚雷も黒く、春風やレキさんが使う深海魚雷に似たような形状に見える。

 

「うえっ!? 何これ!?」

 

霞が妙な声を上げる。同時に魚雷は的から()()()()()()()()()。当然的には当たらず。いつもの霞ならあの程度の的を外すことなどないのに。まるで魚雷自体が自分で曲がったかのように見えた。

 

「これどうなってんの!? ()()()()()()()()()!?」

「よし、成功。うまくいってるね」

 

私と司令官には何が何だかわからなかったが、霞は普通では無い驚き方をしている。

 

「私とセキちゃんが共同開発した、最新鋭の魚雷! レキちゃんの深海烏賊魚雷と北上大井の酸素魚雷を組み合わせ、深海艦娘の艦載機制御と大発動艇の駆動制御を組み込んだ艦娘用の魚雷!()()()()()()です!」

 

つまり、魚雷の軌道を全て霞が制御出来るということなのだろう。今は初めて撃って動揺したせいで的から外れていったわけだ。

 

「魚雷は直進しかしないから、一撃必殺の威力があっても牽制とか入れないと命中させるのは難しかったんですよね。それを全部解決するために作ったのがこれ! これを使えば、魚雷が加速、減速、急カーブ、Uターンまで自由自在! 爆発のタイミングすら制御出来る優れもの! 深海艤装のシステムを組み込むのに苦労したけど、セキちゃんのおかげで何とか形になりました! 大発が手に入ったのも大きいですね!」

 

あの片眼鏡は、魚雷のコントロールを艤装だけでするのが難しいが故に作られたサブユニット。頭に近い位置に置けば、脳波を直接受け取りやすくなるだろうという理由。

至れり尽くせりの魚雷じゃないか。だが、何らかのデメリットがあるのでは。

 

「そこまで出来るのなら、何かデメリットがあるのだろう? それは霞君には危険なのではないかね?」

「勿論あるんですが、今の霞なら喜びそうかなぁと」

「デメリットを喜ぶ?」

 

霞が不意に顔をしかめた。

 

「一発撃っただけで頭痛がするんだけど……」

「魚雷のコントロールは本来霞が装備できない電探のシステムを流用している部分があるんだよ。電探で頭痛、もうどういうことかわかるでしょ」

 

なるほど、脳の容量を使った魚雷制御。今までに使わなかった部分を使ったから、それが頭痛として出てきたわけだ。今撃った魚雷は5本。何も考えずに撃っていた5本の魚雷のことを、これを使う場合は全て計算する必要が出てきた。私のそれよりは比較的小さな計算だろうが、初めてやる霞には苦しいものだろう。

 

「姉さんと同じ痛み……」

「そういうこと。朝潮も電探でこれと同じことやってたってことだよ。あれと比べると大分小さなことなんだけどね」

 

放った瞬間から演算スタート。着弾までは脳がフル回転。着弾爆発と同時に演算終了。同時に5本を制御しているのなら、その分負荷は増大。

 

「そっか……姉さんと同じ……」

 

倒れる直前に垣間見えた感情がまた滲み出てくる。私と同じであるということが喜びに変わり、痛みですら受け入れてしまっていた。あれだけ私に無理をするなと言っていた霞が。

 

「もう少し試してみるわ。姉さんと同じなら、何度もやれば慣れてくるんでしょ」

「時間はかかるけどね」

「なら尚のこと何度もやらないといけないわね」

 

的に向かって魚雷を発射。今度は逸れることなくまっすぐと的に向かい、直撃。動揺が無くなればこの程度は普通と。

 

「痛っ……撃つたびこれかぁ……」

「朝潮の痛みに比べたら全然軽いと思うけどね」

「今度は曲げてみるわ」

 

そこからしばらく、魚雷のコントロールを試していく。

最初は慣れないことなので簡単にはコントロール出来なかったが、最終的には明石さんの言った通り、魚雷とは思えない軌道を描いて的に向かったり、急に沈んだと思ったらトビウオのように跳ね上がったりと、もう魚雷でも何でもない別の武器のようになっていた。海中を駆け回る艦載機といった様相。

 

「痛た……姉さんはこんな頭痛と戦ってたのね」

「霞が無理するなって言った頭痛よ」

「でも姉さんと同じ痛みだもの。耐えられるわ」

 

私と同じ、というのが心の支えになっている。そういう意味では、サブユニットの片眼鏡も私の電探と近しいものなのでモチベーションアップに貢献しているのかもしれない。

 

「これ頭痛を止めることできないの? 姉さんは電探切ったら止まったみたいだけど」

「そこが試作品なんだよ。やっとシステムが出来たところなんだから。今は装備を外すしかないね」

「戦場では無理ってことね……」

 

頭痛を止める手段はおいおいということ。それまでは痛む頭は我慢するしかないという。一回や二回ならすぐ引くが、連続使用、長時間使用はよろしくない。

 

「まぁでも試作としては上出来! 負担は心配してたけど、霞の様子を見る限りでは耐えられないってわけではなさそうだね」

「これ、私専用にしてもらえないかしら。雷撃しかできない私には本当に欲しかった装備よ」

 

霞の発言に司令官も思案顔。危険性は今のところ無いことが証明されている。何かあってからでは遅いのだが。

 

「わかった。明石君、これを正式に採用しよう。負担の軽減が朝潮君と同じなら、連続使用で頭を慣らしていくしかないのだろう? 同じ者が何度も使うべきではある。それに……霞君は朝潮君の妹だ。一度決めたら揺らがないだろう」

「了解です。霞、毎日メンテするから、使用感変わったら教えてね」

「ええ、よろしく頼むわ」

 

装備変更により、霞は以前よりも確実に強くなった。テストしただけでもこれだ。実戦に活かせるようになれば、さらに活躍してくれることだろう。常々言っている『私を守る』ことだって、以前よりも確実に上手くいく。

 

「あとは実戦テストね。まだ時間あるでしょう?」

「そろそろ日も落ちる。できても少しだけにするんだよ」

「わかってるわ。私にも負担がかかるものね」

 

自分への負担もあるため、1戦だけという約束で実戦テストをすることとなる。新しい玩具を買ってもらった子供のように楽しんでいる霞は、何処か危うい部分も見えた。

 

 

 

夕暮れの海上。霞が相手に選んだのは、春風。

口には出していないが私には何となくわかっていた。霞のストレス、コンプレックスの始まり。私の周りに集まってくれた人の中では霞の次に古く、基本スペックは霞よりも上。

今まで努力して努力して何とか追いついてきたが、どうしてもあと一歩が届かなかった。それを覆すのが新装備。実戦テストという名目だが、霞の中では一皮剥けるための儀式である。

 

「悪いわね春風、新装備のテストに付き合ってもらっちゃって」

「いえ、大丈夫です。霞さんの装備ということは、魚雷ですか」

「ええ。これは個人演習としてちょうだい。本気で相手するように」

 

黒く歪な魚雷発射管を見せる。片眼鏡も込みで、霞は今までと大きくかけ離れていた。

 

「じゃあ、最初からこっちで行かせてもらうよ」

「そうしなさい。今までの私とは違うんだから」

 

古姫側に倒れる。春風もフルスロットル。合図も無しに砲撃を始めた。

 

「大丈夫、わかる」

 

行動予測を覚え始めている霞には、もう単調な攻撃は当たらない。その先生は完全にマスターしている瑞穂さんと叢雲さんだ。私と同様、何秒か先まで見ている可能性まである。

だが春風は初戦とはいえ瑞穂さんの行動予測を上回り相打ちにまで持っていった実績がある。そこまで入れて五分五分。基本スペックの差を踏まえると、どうしても霞の分が悪い。

 

「そっちに避ける!」

「瑞穂の行動予測! ならわたくしには効かない!」

 

避ける方向まで予測して魚雷を発射。ここから演算開始。さっきまでは止まって的を狙うだけだったが、今回は相手の攻撃を避けながらというのが増える。それだけで簡単に容量を超える。

 

「ここ!」

 

春風が避けた瞬間、霞が指を鳴らした。視覚的、聴覚的に次の魚雷の挙動を決める方法として、霞は指や身振り手振りを加えていた。指を鳴らすのは爆破の合図。魚雷は春風に触れてもいないのに爆発し、大きな水柱を立てる。

 

「当たってないのになんで!?」

「そういうもんだからよ!」

 

顔をしかめながら、さらに魚雷を発射。今度は3本を普通に、2本を潜らせて。魚雷が5本だからだろう、5本の指に魚雷を当てはめて、コントロールを視覚的に表現している。今は薬指と小指だけ下へ。あの2本が潜っている2本。

 

「どっちに避けようが関係ないわ。予測は出来るし」

「なら魚雷くらい撃ち抜いてやる!」

 

春風は敵の魚雷を撃ち抜くことで自分に届かせなくする算段の様子。本来ならそれで処理が出来るだろう。だが、この魚雷はそんなに甘くなかった。

 

「それも読めてる」

 

手を握る。魚雷が一気に減速し、春風の砲撃を直前で回避。

 

「は!?」

「ここで、加速!」

 

手を開く。減速していた魚雷が急激に加速し、春風の足元へ。撃ち抜くことが出来ないと判断した結果、急加速でその場から退避する。霞はそれすらも視野に入れている。

 

「2本だけ爆破!」

「なんでそんなところで!?」

 

再び指を鳴らす。潜行していた2本だけが春風の進行方向で爆発。ブレーキをかけざるを得ない状況を作り出した。

 

「トドメ!」

 

指を内側に倒すと、通過したはずの残り3本がUターンして戻ってきていた。止められた春風はなすすべなくその魚雷に直撃し、大きな水柱の中に消えた。

 

「やった……やったわ! 完璧に使いこなし痛ぁあっ!?」

 

興奮しているのも束の間、頭痛が一気に押し寄せてきたようだ。頭を抱えて蹲る。戦闘中に頭痛はほとんど無かったが、それが溜まりに溜まって戦闘終了と同時に爆発した。私の頭痛と同じ。私の場合は痛覚の後回しという裏ワザ的なやり方ではあるが。

 

「この頭痛は辛い……頭ガンガンする……姉さんはこんなことを……」

「『未来予知』は多分もっと痛いわ。鈍器で殴られたかと思うくらいだから」

「ならまだ軽いのね……痛た……」

 

おそらく私が電探を使い始めた頃に受けていた頭痛と同じだろう。フラついていたので肩を貸してあげる。素直に抱きついてきて、体重をかけてきた。さすがに初めての使用だ。消耗も激しいのだろう。

 

「参りました……なんですか今の魚雷……」

「姉さんの艦載機と同じ挙動をする魚雷、と思えばいいわ。頭痛が酷いけど」

「なるほど……だからおかしなタイミングで爆発したのですね。行った魚雷が戻ってきたり、急カーブしたり……」

 

びしょ濡れの春風がこちらへ。霞はまったくの無傷という完全勝利である。これなら今まで持っていたコンプレックスは緩和出来ただろう。

 

「姉さん……私、姉さんを守れるわよね」

「ええ。頼りにしてる。ただ、この頭痛ホント辛いから、無理だけはしないように」

「はは……立場変わっちゃったわ」

 

頭痛を耐えながらも、力を得ることが出来たことを本当に喜んでいた。私と同じ痛みを受けていることも喜んでいた。滲み出ていた感情は、演習前よりも強くなっていた。

 

ようやくわかった。これはただただ私と一緒にいたいという気持ちだ。だから同じ痛みが嬉しい。私を守る力が手に入ったことが嬉しい。私の知らない感情を霞が先に知ったということなのだろう。対象が私でいいのかはわからないが。

 

この時から、霞は自分のシスコンを隠さなくなった。私にもストレスを吐き出したことで吹っ切れたようだ。それも溜め込んでいたものの1つだったとしたら、吹っ切れてくれて良かったと思える。




おかしな戦力が集まる朝潮帝国唯一の一般人である霞でしたが、装備による補正によりおかしな戦力の仲間入りをしようとしています。姉と似た攻撃、姉と同じ頭痛。
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