欠陥だらけの最前線   作:緋寺

13 / 319
緊急出撃

自分には出来ないことを知ることができた私、朝潮。哨戒任務を与えられても、これである程度は対応できるだろう。なるべくなら早くやりたいと思った。緊張感がまだ続いている。

主砲訓練を見終わり、一旦自室に戻ろうと思ったその時、以前にも聞いた緊急警報が鳴り響いた。

 

『私だ。現在鎮守府内にいる艦娘全員、講堂に集まってほしい。繰り返す』

 

また近海で深海棲艦が発見されたんだろうか。だが前回は直接出撃命令が出ていたが、今回は集合だ。意味合いが少し違うのだろう。私は急いで講堂へと向かった。

 

 

「全員集まったね。今から緊急出撃だ。作戦概要を説明する」

 

少し騒つくが、無いわけでは無いことの様子。すぐに静まる。

 

「現在哨戒中の部隊が、交戦中の別鎮守府の部隊を発見した。場所と損傷で不利だということだ。そこに友軍艦隊として救援に向かう」

 

集められた中から友軍艦隊を選出し、出撃することになる。哨戒部隊が見つけたということは、それなりには近い場所。だが、友軍は損傷もあるようだ。守りながらの戦いになるだろう。

 

ここからは戦場の状況が説明された。

味方は現在、近海に点在する小さな島の岩礁帯を利用して防衛戦をしている。島といっても人が住めるような場所ではなく、損傷した艦娘が休める程度の海岸があるくらいだ。岩礁のおかげで敵も攻め込みづらく、なんとか五分五分を維持できているらしい。

敵は戦艦も空母もいるような大艦隊。それに対して友軍は軽巡洋艦以下の艦娘が少数しかいない。戦況としては不利と言っても過言では無い。

 

「場所が場所だ。こちらも水雷戦隊で向かう必要があるだろう。だが、我々には覆すだけの力がある。では、部隊の選出だ」

 

小型艦でも最高戦力を出すというのが今回の基準だ。それに救出が最優先のため、最大戦速で向かう必要もある。

 

「旗艦は天龍君。君に任せる」

「おう、任せとけ」

 

やはり天龍さんが旗艦。戦艦にも匹敵するであろう格闘戦がある。切込隊長としては最高の戦力。

 

「火力担当として清霜君、時津風君、響君。魚雷は場所的に当てられないだろう。主砲火力を優先する」

 

実質戦艦と重巡洋艦の清霜さんと時津風さんというスペックアップ組。さらに響さんを加えて、4人が戦闘要員。だが、まだ空母、艦載機への対策がまだ。対空要員の選出だ。

 

「そして対空。皐月君と朝潮君。朝潮君は哨戒任務も無しに出撃になってしまう。本当に申し訳ない」

 

皐月さんはわかるが、私が選出。言葉も出なかった。

私以外にも対空ができる人はいる。しかし、鎮守府にいる対空可能な駆逐艦が軒並み欠陥(バグ)による低速化か訓練後のメンテ中なのだそうだ。そうなると、私しかいない。

 

「朝潮、大丈夫。ボクもいるし、天龍さんもいるよ。それに、訓練であれだけできてたんだから」

「せやで、うちのスパルタについていけとるんや。自信持ちぃ!」

 

皐月さんと龍驤さんが励ましてくれているが、私は手の震えが止まらなかった。初めての戦闘が救援。失敗は許されない。哨戒もしたことが無いから海域の事情も知らない。緊張する理由しかない。

 

「選出したものはすぐに工廠へ向かってくれ。出撃準備!」

 

号令とともに一斉に動き出す。私もあたふたしながら工廠へ向かった。

 

 

 

工廠ではすでに艤装の準備が終わっていた。私の艤装も当然用意されており、高角砲と電探が装備されている。

続けていた訓練のおかげで私は第1段階の改造ができていた。装備できる武装が一つ増え、高角砲が2つ。電探もあることで、より強力な対空攻撃ができるようになる。

だが、私はそれどころではなかった。緊張で吐きそうだった。哨戒ではなく、実戦だ。弾も当然実弾。撃たれたものは破壊される。

 

「よいしょーっ! ゴメンねーちょっと通るよー!」

「時津風も通るよー」

 

清霜さんと時津風さんが先に海上に立つ。駆逐艦とは思えない、あまりにも重装備な姿。

清霜さんは、駆逐艦の身でありながら装備しているのは46cm三連装砲。本来なら大和型が装備するはずの武器だが、欠陥(バグ)により装備できている。時津風さんはそれよりも小さいが20.3cm連装砲。しかも、その改良型の3号砲である。

完全な火力特化。私達の分を補いすぎているレベルだろう。

 

「朝潮、大丈夫。私達がいる」

 

響さんも準備が終わり海上へ。普通の小型主砲に、念のため装備されたソナー。岩礁帯のため潜水艦が敵にいるとは思えないが、離れた位置で遭遇しないとも限らない。

 

「そうだよ朝潮、ボクらを頼って!」

 

皐月さんも海上に立った。私とまったく同じ装備。艦載機を墜とすことに特化した装備だ。私にもそれを任せられている。それが私にできるのだろうか。

 

「大丈夫、私は君を信じている」

 

天龍さんと一緒に司令官も工廠に来ていた。そうだ、司令官は出撃を見送りに来るんだった。司令官が頭を撫でてくれる。

 

「初陣をこういう形にしてすまない。だが君が今までずっと努力していたのは知っているよ。君ならできる」

「司令官……」

「本当なら出撃なんてさせたくないんだよ。怪我をするかもしれないところに愛娘を行かせるなんて……! 今すぐにだってやめてもらいたい! だが、提督として命令を出さなくてはいけない……。本当にすまない!」

「し、司令官……?」

「必ず帰ってきてくれ! 愛すべき我が子!」

 

思い切り抱きしめられて違う意味で硬直してしまう。天龍さんが苦笑しながら司令官を引き剥がす。初陣の艦娘全員にやっている恒例行事らしく、全員笑っていた。

緊張がほぐれた気がする。手が震えていない。今なら行ける気がする。

 

「朝潮、出撃します。必ず帰りますから」

「うむ、信じている。君ならやれるさ」

 

海上に立つ。今までと違う感覚がした。空気が熱い。

最後に天龍さんが先頭に立ち、準備が全て整った。

 

「天龍、水雷戦隊、出撃するぜ!」

 

一斉に工廠から駆け出した。

 

 

 

最大戦速で戦場に向かう。先頭は天龍さん。その後ろに私と皐月さんが付き対空準備。私達対空駆逐艦を囲うように清霜さん、時津風さん、響さんが続く。いわゆる輪形陣で進んでいた。

今回の作戦はスピード勝負。敵を倒しきる必要も無い。素早く行動し、友軍を救助し、すぐに島から離れる。全員助けられれば作戦終了だ。

 

「こちら天龍、そろそろ接敵する」

『了解。海域の様子は』

「海は穏やかだが、敵の匂いがプンプンするぜ。こいつはなかなか骨のありそうな戦場だ」

 

天龍さんの言うことはわかる。少し空が赤い。遠くで交戦しているからだろう。少し遠いところで爆発音も聞こえる。

天龍さんが早くも刀を構えた。まだ敵の姿は見えないが、近いのだろう。すでに岩場が見え始め、普通の戦艦や空母では移動が難しい段階に。

 

「皐月、朝潮、対空用意」

「了解」

 

言われて高角砲の射角を上げる。まず最初に見えるのは敵の姿より艦載機の姿だろう。

 

「艦載機発見! 対空、撃てぇーっ!」

 

艦載機がこちらに向かってくるのが確認された。数は3機。龍驤さんの艦載機より遅く、練度は低い。これなら墜とせる。

 

「てぇーっ!」

 

天龍さんも含めた3人での対空砲火。あっという間に3機が撃墜された。私の攻撃も1機墜とせたようで少し安心するが、艦載機が来たということは完全に交戦状態に入った。目視でも敵の姿が確認できる。

 

「キヨシ! 先攻!」

「オッケー! 射線を開けてー!」

 

合図に合わせて少し離れる。戦艦主砲の発射は周りにも衝撃が来る。陣を変えて清霜さんが先頭になる単縦陣に。

 

「清霜の主砲、伊達ではないよ! 撃てぇ!」

 

主砲訓練でも聞いたことのない轟音。しかも三連装砲だ。強烈な威力の弾が敵に向かい、一撃で敵戦艦1体を葬り去る。とんでもない威力だ。

 

「行くよー」

「Урааааа!」

 

そこからさらに時津風さんと響さんの攻撃も始まった。その間に飛んでくる艦載機も私達が次々と墜としていく。

敵の艦載機は全て龍驤さんや蒼龍さんの艦載機よりも練度が低く、見慣れたものより狙いやすい。ただただ数が多く、爆撃に加え艦載機からの雷撃もあったが、それを躱しながらの対空もできている。訓練が生きている。

 

「響、朝潮、友軍の救助に向かう! キヨシ、トキツ、そこで敵の進行を止めてくれ! 皐月はキヨシ達を対空援護!」

「了解!」

 

入り組んだ岩礁帯に天龍さんを先頭に入っていく。岩礁帯に入り込んでいる敵は、天龍さんが軒並み斬り伏せた。撃たれそうになると響さんがそれを阻止する。連携も完璧だ。

島にたどり着くと、必死に防衛している友軍艦隊に出会えた。すでに弾もギリギリで、身を守る事のみを最優先に行なっている。

 

「救援に来たぞ!」

「あ、ありがとうございます。助かります」

 

友軍の旗艦、川内型2番艦神通さんが必死に応戦している。その後ろにはその部隊である綾波型2番艦敷波さんと、同7番艦朧さん。3人とも小破状態だ。

 

「怪我人は?」

「大破しているので、島の上で休息中、撤退する準備は完了しています。ただ……」

「何か問題でもあるのか」

「ドロップ艦も保護しています。そちらはまだ目覚めていません」

 

飛んでくる艦載機を撃ち落としながら状況説明を聞く。響さんと友軍の駆逐艦の方々で周囲を守りながら、私が率先して救助へ。主砲を持たない私は両手が空いているので、肩を貸すことも容易だ。

 

「大丈夫ですか!」

「ごめん……ちょっとヤバい……」

 

怪我を負っているのは夕雲型駆逐艦4番艦の長波さん。真横から敵戦艦の一撃が直撃し、艤装と同時に腕がやられている。すぐに肩を貸し、島からの撤退を試みる。身長差はあるものの、海上に降りてしまえば脚部艤装の力で何とかなった。

問題はドロップ艦だ。私が2人運ぶのはさすがに無理。響さんは主砲を持っているので難しい。今のままだと、天龍さんか友軍のどなたかになる。

 

「天龍さん。ドロップ艦はどうしますか」

「ちょっと待ってろ。皐月! 来れるか!」

「すぐ行く!」

 

時津風さんが空母を何体か倒したことで艦載機が大分いなくなっている。そこで、私と同様両手が空いている皐月さんに、私が担いでいる長波さんを任せ、私がドロップ艦を運ぶことに。ただ、私が運ぶドロップ艦というのが、

 

「この娘は……」

「ああ、そいつはお前が運んでやれ」

「……霞……ですね」

 

朝潮型駆逐艦10番艦、霞。つまりは私の妹。

 

「トキツ! 戦況は!」

「大分減ったよー。逃げるなら今ー!」

「よし、神通、行けるか!」

「問題ありません、皆さん撤退です。急ぎますよ!」

 

神通さんの合図と共に、友軍艦全員が岩礁帯を抜けていく。響さんを護衛に、私も霞を抱きかかえた状態で岩礁帯を抜けることができた。全員が島からいなくなったことを確認し、天龍さんが時津風さんに合図をし、最高船速で敵艦隊を引き離した。

しんがりは清霜さん。トドメと言わんばかりに主砲を放ち、何体かの敵を蹴散らした。恐ろしいほどの火力だ。

 

「近いのはうちの鎮守府だ。急げ!」

「あー、もう眠い眠いー……」

「清霜もお腹がペコペコだよ……」

 

スペックアップ組の限界が近い。特に時津風さんは危険だ。清霜さんは懐に忍ばせたオヤツでどうにかしのいでいるが、時津風さんの眠気ばかりはどうしようもない。

 

「こちら天龍、救助成功。オレ達は無傷。友軍は3人小破、1人大破。あとドロップ艦がいる。ついでにキヨシとトキツが限界」

『了解。すぐにドックを用意する。最後まで気を抜かず戻ってきてほしい』

「了解。 急いで戻る」

 

天龍さんが通信したことで、作戦終了が間近であることがわかる。怪我人も多い。早く鎮守府に戻らなければ。

 

 

 

私の初陣は完全勝利で幕を閉じた。

仲間に怪我人は出ず、友軍に元以上の怪我は増えなかった。ドロップ艦も無事だ。

 

「よく帰ってきてくれた! ドロップ艦と大破している娘は入渠ドックに運んでくれ!」

 

工廠で帰りを待っていた司令官の声に出迎えられる。すでにいろいろ準備済みで、事後処理はスムーズに行われていく。大破している長波さんと、ドロップ艦の霞は入渠へ。他の方々は小破のため、お風呂でじっくり治す方向になるようだ。

工廠についた瞬間、時津風さんは寝落ち。それを見越して先に用意されていたガングートさんが、そのアームで海上から引っ張り上げた。

 

「朝潮君、ご苦労様。初陣がうまくいって良かった」

「はい、本当に良かったです。訓練の成果も出せました。みんなを助けられました!」

「ああ、本当に逞しくなった。これで一人前だね」

 

訓練しかしてこなかった私だが、今日の初陣を経て、本当の艦娘になれたような気がした。私はこの手で敵の艦載機を墜とし、この手で全員を助けることができたのだ。

 

「さぁ、艤装を外しておいで。君達も休息が必要だ」

「はい、ありがとうございました」

 

艤装を外した瞬間、訓練とは比べ物にならない疲れが身体を押し寄せた。でも、それは充実した疲れだ。立ち上がれないレベルだったが。




清霜の主砲発射セリフはあえて武蔵からの引用。装備は武蔵、身体は清霜。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。