新装備により自信を取り戻した霞。コンプレックスが払拭できた代わりに私、朝潮への思いを隠さなくなった。シスコンっぷりは激しさを増し、私を守るために奮闘してくれるそうだ。
翌日も訓練を重ね、頭痛はあるものの確実に使いこなせるようになっている。リベンジと称して深海艦娘何人かと訓練を行い、その全てに勝利を収めるまで行った。元々、霞はそういった才はあったのだ。これもまた心の問題。解決できてよかったと思う。
そして、救出任務当日。
漣さん、睦月さんの救出任務は実質3回目。1回目は潮さんと皐月さんが奪われる大敗。2回目は私も含めた救出任務が先行。そして今回である。今回こそあの2人を救出する。
第一部隊、救出部隊は旗艦吹雪さん。随伴に敷波さん、天龍さん、龍田さん、神通さん、長良さん。睦月さんに対応する姉妹艦の皐月さんが深海艦娘化してしまったことで、あの戦場には出しづらくなったため、その思いは天龍さんと龍田さんが引き継ぐ。長良さんは前回の実績が大きく、今回もそれに期待。
第二部隊、随伴処理部隊は旗艦ガングートさん、随伴に雲龍さん、大鳳さん、ウォースパイトさん、霞、そして私。こちらの部隊も救出のしやすさを重視している。今回はさらなる改造があり得るからだ。今睦月さんの膂力に敵うのは、ガングートさんかウォースパイトさんしかいない。
「残りの子達は警護。そして支援艦隊として待機だ。緊急時は追加出撃があり得るということだからね」
三度目の正直と行きたいところだが、曲者の漣さんがいる。また誰かを洗脳しようと画策してくるはずだ。すでに5人救出しているのだから、鎖も5本余っている。それを全て攻撃に使えると考えた方がいい。
「朝潮帝国から出られる面子全員だな」
「そうですね。私は2人に守ってもらいながら戦況を把握します」
もう深雪さんに帝国扱いされても気にならなくなってきた。
盾役のウォースパイトさんと、攻撃役の霞。私には最高の盾と矛が付いてくれる。私がやれることは、守ってもらいながら、全員を守るために逐一戦況を見続けること。ずっとそれは変わらない。ようやく艦載機という援護が出来るようになった程度。
「背中はあたしら深海艦娘組に任せな。朝潮はその代表なんだ。頼んだぜぇ」
「ええ、任せてくださいリーダー。また仲間を連れてきますよ」
「メンバー増やしてくれよな」
警護は私を除いた深海艦娘組が主になっている。心強い声援。その中には大潮だって含まれているのだ。
「朝潮……私は支援艦隊として待機しているわ……必ず戻ってきてちょうだいね……」
「勿論です扶桑姉様。2人で1つの海峡夜棲姫ですから、離れ離れになるわけにはいきません」
「ええ……よろしくお願いね……」
赤い海に出られない扶桑姉様も、念のため支援艦隊に属している。どうにか赤い海を抜けるまで撤退できれば出番も来るだろう。そうなる前にカタをつけたいが。
「朝潮姉さん、時間よ」
「すぐ行くわ」
試作装備を身につけた霞に呼ばれる。たった1日半しか使っていないが、随分と様になっている。今の霞はもうコンプレックスなんて感じていない。私を守るために、ウォースパイトさんと力を合わせてくれるだろう。頼りにしている。
「さぁ、これが終われば決戦は近い! 何としても勝利し、次に繋げよう!」
「第一艦隊旗艦、吹雪! 出撃します!」
「第二艦隊旗艦、ガングート。さぁ行くぞ、抜錨する!」
この戦いは次に繋ぐための戦い。何度も後れを取るわけにはいかない。
赤い海に差し掛かり、索敵範囲に反応を確認。今回は随分と早い会敵になりそうだ。
「深海棲艦の気配を確認だ。これはまた大量だな」
「漣さんは周りにいっぱい付けるんですよ。目的が目的なので」
まだあちらの目的は人員補充だろう。私以外の全員がその対象になっている。誰が欠けても問題があるので、鎖の位置はずっと把握した状態でいなければならない。
「索敵範囲に深海艦娘が入りました。2人、予想通り睦月さんと漣さんです」
「姫も鬼もいるな。前よりどんどん増えている。あちらは我々が対処しよう。吹雪、貴様らは予定通り奴らの救出だ」
「了解です。ここで必ず!」
ソナーに感あり。鎖だけが先行してきた。狙いは……神通さん。
「神通さん回避!」
「私ですか。なるほど、こちらを見る目はあるみたいですね」
軽々と躱し、鎖に攻撃。相変わらず回避性能だけはPT小鬼群を超えており、神通さんの攻撃ですらヒラリと躱して海中に潜っていく、前より回避性能が上がっているかもしれない。
まだ姿も見えてない段階からやってきたということは、少なくともあちらも私と同じくらいの索敵範囲があるということだろう。
「その鎖、捕まったら身動きが取れなくなります。触れた時点で自力で脱出は不可能です」
「なるほどな。経験者は語るってヤツか」
また反応が現れる。今度は3本同時。天龍さん、敷波さん、霞。
「天龍さん敷波さん霞回避!」
「っと、言ってる側からかよ!」
神通さんの回避の仕方を見ているため、回避しながら攻撃することで撤退させる。霞もその辺りはわかっているようで即座に魚雷を発射、見えるところまでは追ったのだが、加速させても追いつくことが出来なかった。
「逃げるスピードが速かったわ。多分引く方が速いわね」
「霞の最高速よりも速いのね」
そうなると、早いところ会敵して漣さん本人を叩いた方がいいだろう。本体を終わらせればこの攻撃も止む。
「会敵! 深海艦娘2人を発見!」
鎖の攻撃を回避しながら、ようやく戦場へ辿り着く。以前見た光景。大量のイロハ級と数体の鬼、姫級、そして2人の深海艦娘。
「いやぁ、また来てくれるたぁ嬉しいっすわー」
「今度は誰が仲間になってくれるのかにゃ?」
軽口を叩く漣さんと、既にドラム缶を振り回して臨戦態勢の睦月さん。特に漣さんは、私の姿を目に捉えるとにっこり笑う。だが目は全く笑っていない。前回は私を洗脳できたと思ったところで扶桑姉様ごと脱出している。あちらにとっては大敗のようなものだ。ご立腹な様子。
「5人は貰うから」
漣さんの合図で、横にいた空母棲姫2体から一斉に艦載機が発艦される。同時にイロハ級も流れ込んできた。開戦の合図となる。
「よーし、じゃあ早速行こうか! 漣ちゃんでいいね!」
「大丈夫です! 行ってください!」
長良さんの足元に艦載機を飛ばして最初の一歩をお手伝い。皐月さんの行動を見て、タイミングはある程度わかっている。3つ使えば長良さんでも持ち上げられるだろう。
「ありがと! じゃあ行くよー!」
私の艦載機を足場に敵の頭上へ。そのまま飛び石のように敵陣を駆けていった。
「援護するわ。大鳳、やるわよ」
「了解! 第一次攻撃隊、全機発艦!」
空母棲姫の艦載機に対抗すべく、雲龍さんと大鳳さんも艦載機を発艦。精鋭揃いの少数精鋭である雲龍さんと、物量で圧倒する大鳳さんの航空戦が始まる。爆撃なども飛んでくるが、長良さんはそれすらもしっかり避けていくので心配は無い。
「睦月、お前の相手はオレだぜ」
「皐月ちゃんの代わりかにゃ? おんなじ刀持ってるし、睦月がボコってあげるにゃしぃ!」
睦月さんには天龍さんがついた。一番善戦できるのは天龍さんで間違いない。ガングートさんとの個人演習もやっている。あの攻撃は受けることも可能。
「あの2人の邪魔はしないことね〜。私がぜ〜んぶ、殺しちゃうわよ〜」
「頼むぜ龍田。頼りにしてる」
天龍さんが向かうということは、そこに龍田さんも入る。横槍が入らないように、周りに群がるイロハ級を次々と斬っていった。
これで漣さんに集中できる。鎖の状況だけを確認。長良さんが一直線に進むのを見越して、真ん中に戦艦水鬼や戦艦棲姫を配置してきている。前回の戦闘の記録を取られていたようだ。しっかり対策されている。
「長良さんの方に漣さんがいます! 吹雪さん、敷波さん、そちらの方へ!」
「敵が多すぎてなかなか近付けないんだよぉ!」
「ガングートさん!」
「任せろ。Ураааааааа!」
道を開くように敵を薙ぎ倒していくガングートさん。突破力だけを考えるなら、今回の部隊ではトップだ。
「霞、ガングートさんの両サイド!」
「了解。任せて!」
魚雷を発射。3本と2本に分けてガングートさんの左右に振る。潜航させて誰にも当たらないように移動させ、タイミングを合わせて浮上。敵陣の真ん中で爆破。連携も完璧。
「ったぁ……でもまだ大丈夫! この程度の頭痛、姉さんに比べればまだまだよ!」
「完璧よ霞。まだ行ける?」
「当然!」
ガングートさんと霞によって、漣さんまでの道はどんどん開いていく。先行する長良さんも、戦艦水鬼に苦戦しながらも道を指し示してくれた。一点突破もこの状況ならなかなか行ける作戦だ。
合間合間に鎖による横槍が入るが、それは私が全て把握している。誰にも当たらないように回避指示を出し続けていた。
「朝潮さん、私も長良さんのように行きます。足場を」
「了解。逆側からどうぞ」
神通さんも長良さんの動きを見て覚えたらしく、敵の頭上を駆けてまっすぐ突っ込んでいった。長良さんだけでは姫級は難しいというのはすぐにわかること。神通さんがそこに支援に入ることで、道をより広く作っていく。
「いやーん、すごい猪突猛進じゃねーですか。でも、そろそろこっちも本気ですわ!」
5本の鎖が同時に索敵範囲に入る。対象は霞。私の周りから堕として、精神的ダメージを与える魂胆か。洗脳されているとはいえ、やけに癇に障る方法を取る。
「霞! 7時に回避!」
「了解っ、っぶない!」
5本同時に海中から突き上げられ、その隙間をギリギリ抜ける霞。そのまま追われることも視野に入れ、即座に魚雷を発射。が、鎖は霞の方ではなく、ウォースパイトさんの方へ。
「ウォースパイトさん!」
「Don't rush! Fif, sit down! Go!!!」
「私も開始します」
即座に玉座に変形させ、その場から退避。
そのタイミングから『未来予知』開始。次の鎖の方向を確認。そのままウォースパイトさんを追うなら霞に指示。霞に向かうなら退避させながらウォースパイトさんに指示。私を狙うなら回避しながらウォースパイトさんに指示。
それ以外にも全ての可能性を確認。吹雪さんと敷波さんはこちらに背を向けている。勿論ガングートさんもだ。あちらを狙うなら一番近い敷波さんに指示。
「お姉ちゃんが欲しいな!」
「敷波6時下方向2本」
「あいよ!」
向かったのは2本、背後から巻き付こうとしている。即座に指示を出したが、やはり回避。どうにも破壊することが難しい。
「朝潮、戦艦水鬼とかち合った。神通と長良とで撃破するぞ」
「問題無し。撃破して直進を」
全自動の解答もまともに出来ている。
今回は視覚も先読みには回していない。視覚も込みで全情報を把握し、艦載機を使った支援もやっている。負荷は当然大きいが、深海艦娘化の影響からか、頭痛はまだ先。
「吹雪、4時攻撃」
「敷波の方!? 鎖だね!」
2人がかりなら身を守れるだろう。ここからは残り3本の挙動。比較的霞に寄っているせいで、霞が魚雷を撃つことが出来ない。
主砲が使える軽めのメンバーが私の周りから離れていることが1つの問題だった。霞もウォースパイトさんも火力が高い分隙が大きい。猛攻を受けると防ぐのに精一杯になってしまう。鎖の破壊もしづらくなる。
「まずい……! 姉さんから離されてる!」
霞が追い詰められているのはすぐにわかった。私から引き剥がされている。以前の潮さんと同じだ。
「以上! ウォースパイトさん!」
「OK!! カスミ、Get ride!」
『未来予知』を一旦やめ、ウォースパイトさんに合図。即座に反応したウォースパイトさんが霞を手に乗せ、その場から離脱。鎖はフィフの副砲で弾き飛ばし、どうにかその場を切り抜けた。
「助かったわ! 姉さん、漣を撃つわよ!」
「いいわ、やりなさい!」
何処にいるかさえ確認できれば、霞の独壇場になる。その射線上に誰かがいたとしても、魚雷を深く潜らせることでそれを関係なくする。ある意味高雄さん以上のスナイプを手に入れている。
「でもそれで、朝潮ちゃん無防備なんじゃないのー?」
私の周りに3本の鎖。しっかり周囲を囲み、逃げ場まで無くしてきた。確かに今の私は孤立した状態。守ってくれる人はいない。逃げ場が無いとなると、鎖に掴まれるしかなくなる。
「私に鎖が効かないことくらい理解しているでしょう」
「だから本数増やすんじゃん。1本でダメなら2本。2本でダメなら3本ってね」
「それに、貴女はまだわかってない。私の守護者は1人じゃない」
鎖の周りで爆発が3つ。私を囲んだ鎖は綺麗に破壊された。衝撃で私にも多少ダメージが入るが、これくらいなら安いものだ。
「姉さんは私が守るっつってんでしょうが!」
「げ、魚雷に鎖破壊されるとかクソすぎ!」
「もう少し顔を歪ませてもらえませんか? ほら、想定外のことはもっと起こりますよ」
漣さんの真後ろで魚雷が爆発。霞の撃った魚雷は3本が私の足下に、2本が漣さんの方へと向かっていた。減速と加速、潜行を繰り返し、完璧なタイミングで爆発。
残念ながら漣さんに接続された鎖を破壊するまでにはいかなかったが、充分動揺させることは出来た。
「どっから撃ってきた!?」
「いい顔、するじゃないですか」
まだ霞の魚雷についてわかっていないようだ。これなら都合がいい。そのままやっていこう。
「あとはそこの空母棲姫だけだなぁ!」
戦艦水鬼の死体を放り投げてガングートさんが漣さんの前に立つ。神通さんと長良さんの援護もあり、無傷とは行かないまでも中破も行かずに撃破していた。道が開いたことで吹雪さんと敷波さんも到着。他にいた鬼級姫級も、雲龍さんと大鳳さんがあらかた掃除し終えた後。
「龍田さん、そちらは」
「もう少しってところね〜。天龍ちゃん、楽しんじゃってて〜」
睦月さんが振り回していたドラム缶は、既に処理された後だった。皐月さんでは出来なかったようだが、天龍さんはその内側に入って鎖のみを破壊。爆発させることなく海を漂流することになった。
「龍田、こいつの鎖壊してくれ。手が離せねぇ」
「いいっ、痛い痛い痛い!?」
その天龍さんはというと、睦月さんに関節技を決めていた。武器さえ無くなればこっちのもの。持っていた主砲も艦載機も全て破壊し、鎖に触れないように腕と脚をロックしている。少しでも動くと骨が軋むという、なかなかに恐ろしい光景。
「さっ、漣ちゃん! こいつ、無防備!」
「予定と違うけど天龍さん貰おうか!」
「させると、思っているの?」
海中から出た鎖は、私が言う前に龍田さんが即座に破壊。天龍さんに触れる間すら与えない。やはり天龍さんが絡むとスペックが数倍増す。
「私ならまだしも天龍ちゃんを狙うとはいい度胸ね〜」
睦月さんの鎖を破壊。叢雲さんとは違い、ちゃんと鎖だけを破壊していた。龍田さんは龍田さんなりに、叢雲さんにやらかしたことは反省していた模様。
「うごご……一転不利じゃんかよぉ……」
「貴女は本当に苦労させてくれましたね」
今破壊した鎖は4本。最低1本はまだ潜んでいる。そちらに注意しながら、残りを処理していく。空母棲姫程度なら、ガングートさん1人でも充分。2体だとしても神通さん達がいる。漣さんの救出が最優先だ。
「こちとらまだ主砲も艦載機も残してんのさ!」
「そうですね」
主砲を構えた瞬間に敷波さんがそれを破壊。艦載機は発艦した瞬間に吹雪さんが破壊。魚雷は撃つ前に霞が目の前で爆破し牽制。鎖の位置も把握済み。出てこようとした瞬間に私が簡易爆雷で破壊。即座に打つ手を無くさせた。
「あ、あらー、お強いのですね」
「いい加減にしてもらわないと困るんだよ」
吹雪さんと敷波さんが同時に鎖を撃った。別方向からの砲撃で避けることは出来ず、外れても避けられない場所だ。そのまま鎖は破壊された。
空母棲姫もあっさりと処理されていた。イロハ級も処理され、戦場には血溜まりだけが残されていた。
戦闘終了。この戦闘、もっとも働いたのはやはり霞だ。道を開くための支援や牽制、私を守ってくれたりと、縦横無尽の大活躍。睦月さんは天龍さんに任せることとなったが、それ以外の全てに貢献したと言っても過言ではない。
「よくやったわ霞! お疲れ様!」
「頭痛い……でも、私……やれたわよね。姉さんを守ること、出来たわよね」
「ええ、鎖の破壊は助かったわ。3本に掴まれていたら、私でもダメだったかもしれないもの。本当にありがとう」
頭痛でグッタリしている霞を支えてあげる。大分無理しているのはわかった。入渠とまでは行かないが、すぐにお風呂に入ろう。霞は頑張った。帰投時もずっと私に縋り付いていた。余程消耗しているのだろう。今はこのままで。されるがままでいい。
霞も最高戦力の一角に。朝潮帝国は盤石なものとなっていきます。