欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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深夜の攻防

漣さんと睦月さんの救出が完了し、鎮守府へと帰投した。戦い方が良かったようで、2人とも無傷。多少の擦り傷くらいはあるが、お風呂でどうにかなる程度だった。対するこちらも、白兵戦により中破行かずの怪我を負ったガングートさんが少し目立つ程度で、小破までも行っていない。こちらもお風呂で何とかなる。充分すぎるほどの戦果。

 

「あー……なんも言えねぇです。助けてくれてありがとうございます」

 

これまで洗脳によりさんざんなことをしてきた漣さんは、司令官に会うなり申し訳なさそうな顔で目を背ける。睦月さんに至っては無言。正気に戻って、こちらの皐月さんと潮さんを深海艦娘に変えてしまったことが罪としてのし掛かってきているのだろう。

 

「君達は悪くない。全て鎖に繋がれていたことによる性格の変化だと聞いている。誰も責めないよ」

「そう言ってもらえると助かりますなぁ……」

「今はゆっくり休んでほしい。心身共に疲れているだろう」

 

疲れた笑顔の漣さんと、終始無言だった睦月さんは、そのままお風呂へ。潮さんと皐月さんが連れていったので安心だろう。こういう時は姉妹艦に頼ればいい。

 

「入渠は誰かいるかい?」

「一番酷いのが私くらいだ。霞は大丈夫か? 体調が悪そうだったが」

「大丈夫。戻ってくるまでに治ったわ」

 

ガングートさんは念には念を入れて入渠という形になった。毎度毎度ドックを占拠しているようで申し訳なさもあるらしい。白兵戦とはそういうもの。敵の砲撃を掻い潜りながら戦場を猛進したのだ。これくらいで済んでいることの方がすごい。

 

「皆、ご苦労様! 今後のことはまた考えていこう! 最終決戦も近いぞ!」

 

これで残った深海艦娘は1人。艦娘の姿をした別の何かという吹雪さんのみ。ゴールは見えた。この調子で邁進していこう。

 

 

 

漣さんと睦月さんの処遇は明日以降に決めることとなった。思った以上に消耗が激しいらしく、お風呂の後にすぐ眠ってしまったらしい。精密検査も後日に回された。

首にある小型艤装のことはお風呂で話をしたようだが、覚悟する時間をくれと言われたそうだ。

 

「そりゃそうだよねぇ……死ぬほどの痛みがあるんだもん。即断できた電や五月雨の方が凄いよ」

 

談話室で皐月さんと話す。私達はこの姿に変えられても小型艤装が植え付けられなかったおかげで例の痛みは受けていない。対して、あちら側から救った深海艦娘は全員に植え付けられているので、どうしても通らなくてはいけない道。取らないなら取らないで大丈夫とは言っているものの、敵を呼び寄せるという機能があるので皆取ろうとはしてくれる。

 

「私はまだ不安なんですけどね……」

「何かある?」

「あれだけ時間があって、あの2人は前に見た時と何も変わってませんでした。追加の改造があるかと思ったんですが」

 

初めて戦った時となんら変わらないスペックだったのが、どうも気になっている。行動予測すらされなかった。ここまで追い込まれても強化されてないとは、私は思えなかった。

 

「精密検査でわかることかと思います。強化ではなく、こちらが救出した後に何か変わるとかかもしれませんし」

「扶桑さんみたいな?」

「はい。脚部艤装が壊れるとかはありそうですよね」

 

それくらいならまだいい方だろう。最悪の場合、このまま目覚めないなんてこともあり得る。

 

「今考えても仕方ないかもしれませんけどね。まずは明日を待つべきでしょう」

「そうだね。睦月姉ちゃんには明日検査受けてもらうように言っておくよ」

 

時間で解決できることではないが、疲れて眠っている人を無理矢理起こしてまで調査することではないだろう。せっかく救出できたのだ。今はゆっくり休んでもらって、明日以降に考えよう。

 

 

 

その日の夜。ふと目が覚めた。今日は午後も非番で、疲れ切った霞と一緒にお昼寝と洒落込んだからか、妙に眠りが浅かったようだ。だがどうせまた目を瞑れば眠りに落ちられる。私も大分疲れていた。

その時、あまり聞いたことのない物音が聞こえた。夜に聞こえる音なんて、夜間部隊の帰投の時くらいのはず。だが、今聞こえたのは金属が擦れるような音。

 

「んぅ……何……?」

 

添い寝していた霞を起こしてしまったらしい。

 

「何か物音が聞こえない……?」

「音……? どうせ大潮姉さんが寝返り打ってるとかじゃないの……?」

 

それにしては音が遠い。廊下から聞こえる。少し不安になり、眠っていた妖精さんに無理を言って電探眼鏡を装備。念のため敷波さんのリボンも手に。

……索敵範囲が極端に縮小されている。妖精さんに聞いてもなんでこんなことになっているかがわからない模様。部屋の中と外の廊下しか確認できず、大潮がここにいないのはわかった。トイレにでも立ったのだろうか。

 

「霞、静かに……。何かおかしい。電探が利かなくなってる」

「何よそれ……何かに干渉されてるとか?」

 

よくはわからないがそれが妥当。電波妨害(ジャミング)でもされているような感覚。

 

「……部屋の前で止まった。寝てたら気付かないわねコレ」

「まさか……」

「最悪を考えるわ」

 

扉がゆっくりと開いた。この部屋に入ろうとしている時点でもう答えは1つしかない。さらにいえば、入ってきたのは大潮では無い。()()()()()()()漣さんだ。

 

「霞、合図したら布団を蹴って」

「わかった」

 

ギシリギシリと近付いてくる。一直線に私のベッドの方へ。

 

「せー……のっ!」

 

2人同時に布団を蹴り、そこにいるであろう漣さんに被せた。霞には辛いかもしれないが、今の私は夜目が利く。布団が被さった漣さんに一蹴り入れてから、霞の手を引いて部屋から脱出した。

若干余裕が無かったが、すぐに電探で反応を確認。縮小されていても、漣さん以外にもこの夜中に動いている反応がいくつか見える。その全ては()()()()

 

「すぐに工廠に行くわよ!」

「大潮姉さんは!?」

「後から考える! この調子だと大潮は()よ!」

 

どういう仕掛けかはわからないが、鎖無しで洗脳されている。その軸になっているのは漣さんだ。

真後ろで私の部屋が爆発した。駆逐艦とはいえ深海艤装、威力は重巡並。隣の部屋にまで届かず、一部屋で済んでいるだけマシ。部屋の外から撃たれなくてよかった。

 

「たまたま起きてたの? 運がいいですなぁ朝潮ちゃんは」

「なんで鎖が付いてないのに洗脳されたままなんですか!」

「そんなのわかってんでしょ。()()()()()()()()()()()()だよ」

 

爆発した部屋から出てきた漣さんに、廊下で主砲を突きつけられる。逃げ場がない。私の部屋は3階だ。窓から飛び降りるのも難しい。せめて艤装があれば話は変わるのだが。生身では掠めただけでも重傷。

 

「お前だけは殺せとお姫様からの命令なんですわ。だから、霞氏から離れて1人で死んでくんない? 漣としては他の子殺すのは忍びないってーか」

「お断りします。むしろ自分の命の心配をした方がいいですよ」

 

精一杯の強がりをしながら、出来る限りの行動予測。せめて霞だけは逃がさなくては。

 

「……そういうことですか」

「姉さん?」

「行動予測できない。これ、鎖が繋がってる状態と同じ」

 

おそらく、漣さんを中心に鎖が繋がっている状態にされている。ということは、この鎮守府にいる深海艦娘は全員敵だ。深雪さんすら危うい。その影響が電探にも出てしまっているのではなかろうか。今の私は、何もできないのと同じ。

 

「鎖が繋がってると洗脳されない代わりにスペックダウンしちゃう感じ? いやぁ、なるほどねぇ。取り柄が無くなっちゃいましたなぁ」

「そんなこと言う前に、本当に命の心配をした方がいいですよ。これは忠告です。私でも止められない」

「強がりばっかり。こんな夜中に、艤装も持たない朝潮ちゃんが、どう対抗するのかな?」

 

反応が無くたってわかる。これは本当に危険な状況だ。

 

漣さんが。

 

「私 の 妹 に 何 を し よ う と い う の か し ら」

 

気付いた時にはもう遅い。後ろから漣さんを掴み上げた扶桑姉様が、廊下の床に顔面から叩きつけた後、そのまま艤装を蹴り壊す。さらには寝そべる漣さんを蹴り上げ、壁が壊れんばかりの勢いでぶつけた。

扶桑姉様に相手が誰かなど関係ない。私と敵対した時点で扶桑姉様の敵だった。殺さないように手加減してくれただけマシ。

 

「朝潮……大丈夫……?」

「大丈夫なのでその辺にしておいてあげてください」

 

漣さんは気絶しているようだが、まだ電探の不備は終わらない。今は現状を把握しなければ。こういう時には頼もしい人がいる。

 

「瑞穂さん」

「確認してまいりました。暴走しているのは漣さんを含めて9名。艤装を持つのは睦月さん、皐月さん、潮さん、今破壊された漣さん。他は電さん、白い方の時雨さん、五月雨さん、叢雲さん、そして大潮様です。失礼ながら大潮様は集まる前でしたので先に対処させていただきました」

 

目を回した大潮を担ぎ上げた瑞穂さんが現れる。さすが自称従者、私の知りたい情報を全て知っていた。

やはり深海艦娘が暴走している。深雪さんが大丈夫な辺り、身体が完全に変化していることが前提だ。私にも影響があるのだから、広範囲に鎖が接続された状態を作り出す何かがある。漣さんは気絶しているので、意思と関係なしに起動しているか、他にもその何かがあるか。怪しいのは睦月さんだろう。同じ改造をされていてもおかしくない。

 

「工廠が占拠されています。艤装を装備していない深海艦娘もそちらに向かい、艤装を装備しようとしています。まずは工廠の奪還が最優先かと」

「艤装が無いとまずいですからね……そうだ、深海艦娘と相部屋の人は!」

「殺されてはおりませんが、怪我は負っていました。でき得る限りは外へ誘導しています」

「さすがです」

 

深雪さん、響さん、白露さん、吹雪さんは現在鎮守府外で治療を受けているようだ。治療しているのは萩風さんを運んだ時津風さん。医務室から道具も持ってきて不器用ながら頑張っているらしい。

私や霞も大潮に攻撃されていてもおかしくないと思うが、それをされなかったということは、気付かれる前に艤装を使って殺そうと画策していたからだろう。だから大潮はその場から離れていた。

 

「なんで艤装が装備できたんでしょう。明石さんが許可を出さないと艤装は装備できませんよね」

「睦月さんがやっていました。工作艦の能力を植え付けられているのではないかと」

「じゃあ最初から救出された後のことを考えて改造を受けていたということになりますね。用意周到なことで」

 

明石さんは妖精さんも込みで工廠の隅で拘束されているらしい。さらには司令官は執務室に閉じ込められているようだ。私の部屋が爆破されると同時に、あちらも扉が開かないように細工されたらしい。大淀さんもそこにいる。瑞穂さん1人ではどうにもならないということで、情報収集だけを手早く済ませたそうだ。

 

「春風! レキさん! 大丈夫!?」

 

隣の部屋の扉を開く。爆発音と衝撃、そして扶桑姉様の戦闘音で目を覚ましていた春風が、何事かとキョロキョロ見回している。

 

「な、何が起きたんです!?」

「深海艦娘が全員暴走してるの!」

「アサ姉ちゃん……レキ、頭が痛いぞ……」

 

この広範囲に鎖を繋いだ状態にする何かは、レキさんにも悪影響を及ぼしている。純粋な深海棲艦には洗脳の効果は発揮しない代わりに酷い頭痛が起こるようだ。そうなると潜水艦姉妹もこの頭痛に苛まれているはず。早くどうにかしなくては。

 

「瑞穂さん、レキさんを皆のところへ。大潮は私が預かります」

「了解しました。レキさん、行きましょう」

「うん……アサ姉ちゃん……頑張って」

 

これである程度の心配事は無くなる。このままレキさんまで暴走してたら、本当に打つ手が無くなりかねない。扶桑姉様ばかりに頼りきるのもどうかと思うし。

 

「よし、まずは司令官を助けに行くわ」

「姉さん正気? さすがにこればっかりは扶桑さんと春風に任せた方が」

「何言ってるの。扶桑姉様に行ってもらうなら、私も行かなくちゃいけないわ。だって私達は」

「2人で1つの海峡夜棲姫……2人でいれば……無敵よ」

 

まずは司令官の救出を先行する。

気絶した漣さんは扶桑姉様が引きずり、ひとまず執務室へ。扉の近くが同じように爆破され、瓦礫で封じられている。窓ガラスまで徹底されているようだった。

そこには既に山城さんが駆けつけていたが、艤装が無い状態ではいつものパワーが出せない様子。

 

「姉様、お願いします!」

「ええ……この程度なら」

 

瓦礫ごと扉を蹴り壊した。こういう時に半深海棲艦は便利。艤装が自分の意思で出し入れできることが、ここまで有用に作用するとは。

 

「提督! 無事!?」

「すまない、助かった!」

「一体何が起きているんですか!?」

 

掻い摘んで説明。その時には瑞穂さんも戻ってきていた。レキさんは外の人達に任せてきたようだ。

夜間任務の人達も、ここに帰ってこれないように襲撃を受けているらしい。本当に用意周到。あちら側との通信も途絶えてしまった。私の電探を妨害するもののせいだろう。

 

「なるほど、わかった。今ここにいる者で、工廠奪還の戦力は扶桑君と春風君のみということだね」

「艤装が無いとどうにもならないわ。あちらも艤装が無いなら話は変わるんだけど、さすがに私でもそのパワーバランスは覆せない」

「この状況では四の五の言っていられない。いざとなれば私も手伝おう。だが3人だ。相手は9人……いや、7人だね」

 

寝かせた大潮はともかく、扶桑姉様に放り捨てられた漣さんを見て困った顔をする。漣さんの艤装は完膚なきまでに破壊されているが、私への妨害は一向に終わらない。となると、この妨害は睦月さんの方から発生していると考えるのがベター。

 

「大淀君、久々だが艤装を装備してくれ」

「了解しました。私も工廠奪還作戦に参加します」

 

秘書艦の艤装は工廠ではなく執務室に置いてあるそうだ。いつでも提督を守れるようにという配慮が、こういうところで役立った。守る必要がないくらい強いのだが。

 

「瑞穂さん、他の方は今どうなってます?」

「無事を確認しがてら、全部屋の扉だけは開けてきました。爆破で歪んで脱出出来なくなっては困りますから。外へ脱出するようには声をかけてありますのでご安心を」

「完璧ですね。ありがとうございます」

 

その場にあるもので大潮と漣さんを縛り、目を覚ましても暴れないようにしておく。これで少しはマシになるだろう。

 

「明石はすぐに助けましょう。それだけで大分変わります」

「ええ。艤装さえ装備できればこちらのものよ」

 

山城さんに艤装が装備できれば、扶桑姉様も込みでトップ2が揃う。そうなればこの戦いは大分楽になるはずだ。

 

「おそらくこの鎮守府の破壊も目的だろう。妖精さんに直してもらうことは出来るが、なるべく壊れないことを祈ろう。特に資料室が破壊されたらはち君が……」

「食糧倉庫が破壊されたら清霜さんが倒れますね……」

 

割と責任重大だ。この工廠奪還作戦、いろいろな人が巻き込まれている。こちらの戦力は司令官まで含めて4人。対する相手は姫級まで引き上げられた深海艦娘7人。勿論、なるべく無傷でが最低条件だ。

 

「さぁ、工廠奪還作戦、開始だ」




深夜の室内戦闘のため、暗闇の中での戦いです。その中でもシュンシュン移動している瑞穂が異常なだけ。
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