欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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工廠奪還作戦

漣さんと睦月さんを助け出した日の深夜、突如として深海艦娘が暴走した。その原因は助け出した2人にある。鎖が無くても洗脳されたままの状態であり、何らかの手段で鎮守府内の深海艦娘を暴走させている。私、朝潮もその影響で、電探の索敵範囲が縮小された挙句、行動予測をするための脳の容量を奪われてしまっていた。

 

工廠が占拠されてしまったせいで、艤装が扱えるのは半深海棲艦である扶桑姉様と春風、秘書艦のため執務室に艤装が置かれていた大淀さんの3人のみ。戦力としては、そこに艦娘を相手にした場合に無類の力を発揮できる司令官を加えた4人となる。私、霞、瑞穂さん、山城さんは艤装が無いため、それをどうにかしない限り戦力外。

 

「工廠までは一直線だ。だがその代わりに怖いのは時雨君だね」

「背部大型連装砲ですね。戦艦主砲並の威力がありますから」

「それは……私に任せてちょうだい……。ただし……鎮守府が壊れてしまうかもしれないけれど……」

 

扶桑姉様ならそれくらいの威力の弾も余裕で弾くことができる。ただし、弾くだけなので壁はどんどん破壊されることだろう。連射は出来ないが、1回の威力が駆逐艦のそれではないので、どうしても鎮守府に被害が出る。

こうしている間にも、あちらは準備が整っていく。もう全員艤装は装備済みだろう。

 

度々上の階で爆発音が聞こえた。部屋を1つ1つ、私の部屋と同じように攻撃している。わざわざ帰る場所を無くそうとしている。

 

「いい加減にしてもらわないと、建て直すのが大変だ。そろそろ行こうか」

「ええ……ようやく見つけた私の居場所……壊してもらうわけにはいかないのよ……」

 

扶桑姉様が1人、ゆっくりと廊下を歩いていく。月光に照らされ、恐ろしくも綺麗だった。前までは天変地異、厄災と思っていた姿も、今は救いの神。神は神でも破壊神。

 

「やっぱり扶桑が先陣を切るよね」

「……時雨がここを守るわよね……撃ちたければ撃ちなさい……当てられるなら」

「別に当てる気は無いさ。扶桑が勝手に鎮守府を壊してくれるんだろう? 僕はそっちの方が嬉しいね」

 

大型単装砲は準備完了している。

 

「おっと手が滑った」

 

白時雨さんが撃った弾は、扶桑姉様をまったく狙っておらず、片方は隣の部屋や天井を破壊していった。戦艦並の火力なだけあり、一撃で壁が吹き飛び、部屋の中まで見えてしまうような状態に。会議室が抉れてしまっている。

もう片方はお風呂に向いていた。流石にこれは扶桑姉様も許容出来なかったのだろう、即座に動き出し、そちらの弾だけは弾き飛ばした。弾く方向も考え、部屋を守るために天井にぶつけた。もう片方の弾と合わせて天井の被害は大きくなるが、設備は守ることはできている。

 

「ちょっと白しぐ姉さん! 私上の階にいる!」

「ごめんごめん。五月雨がそこにいるのは考えてなかったよ」

「もう。あ、でもここから下を狙うのもいいかも」

 

五月雨さんも愉快犯のように主砲を撃つ。撃った先には別の部屋。即座に扶桑姉様が反応するが間に合わず、資料室に撃ち込まれ、本棚が明るみに出てしまうほどに破壊されてしまった。

ただただ破壊を楽しんでいるようにしか見えなかった。洗脳のせいで性格が変えられているのが不憫で仕方ない。我に返ったとき、また頭を抱えるのだろう。

 

「あっ……ま、まずい。五月雨君がやらかしてしまった」

「どうしたんです司令官。冷や汗が……」

「今、資料室の辺りから音が聞こえたんですが……」

 

破壊された壁の奥からヌルリとやってきたはちさん。皆と一緒に避難していたが、自分の管轄の資料室で爆発音がしたことでここまで来てしまったらしい。後ろでゴーヤさんやイクさんが必死に引き止めていた。

今の光景を見て、瞳から光が消えた。

 

「あれ……風通しが良くなってますが……これはどなたが?」

「は、はち君、落ち着こう。洗脳はされているが、五月雨君は仲間だ」

「五月雨ちゃんがやったんだ……そっか……ふぅん……。天井に穴が……そこからやったのかな……?」

 

チラッと天井の穴の先を見る。主砲を構えた五月雨さんと目があった。

本当に恐ろしいものを見ると、顔とか見なくても寒気がする。たった今それを知った。はちさんの顔が見られない。勝手に身体が震える。ここから逃げ出したくなる。

 

「これをやったのは……五月雨ちゃん?」

「そうですよー! 鎮守府を壊さないといけないので!」

「そっか……そっかぁ……」

 

持っていた本を開く。突然何を。

 

「伏せるでちー!」

「あれ開いたらダメなの! 全員伏せて!」

 

言われた通り伏せる。司令官が私達に覆い被さるように動いた。そんな事を言ってくるくらいだ。本当にまずいことが起こる。

 

「Feuer」

 

地上だというのに()()()()()()()

 

はちさんの攻撃方法は艦娘の中でも群を抜いて特殊。白紙の本の中に武装がしまわれており、本を開くことでその攻撃が可能となる。欠陥(バグ)を持たないはちさんであれば、海中で本を開き魚雷を放つ、という具合。

しかし、ここのはちさんは一味違った。潜れないが故に、地上で魚雷を放ってしまった。空気も重力も関係なく、まっすぐ五月雨さんに向かって飛んでいく。ここまで来るとほぼ主砲。

 

「ふぇっ!?」

 

辛うじて避けたようだが、2階の天井にぶつかった瞬間に主砲とは比べ物にならないほどの爆発が発生。当然天井は木っ端微塵。激しい衝撃で五月雨さんは気絶。装備も中破し、1階に落ちてくる。一応無傷。

私達戦力外組は司令官に何とか助けられたが、容赦がなさ過ぎて驚きを通り越して言葉が出ない。

 

「はっちゃん! それはダメって言ってるでしょ!」

「はっちゃんのParadies(楽園)を壊したヤツは絶対許さない。本が燃えたのならその分服を燃やしてやる。本が破れたのならその分皮を破ってやる。本が折れたのならその分骨を折ってやる」

「落ち着くの! あれは洗脳されてるから仕方ないのー!」

 

あまりの破壊力に呆然としてしまう。ゴーヤさんの口振りからして、一度や二度ではない。一番の常識人枠であるはちさんのネジが飛んでしまったので、イクさんですら手を焼いている。

あまりにも止まりそうにないので、瑞穂さんの説得(こぶし)で退場願った。ゴーヤさんもイクさんもすごく申し訳なさそうに引っ張っていった。

 

「な、なに!? 何が起きたのです!?」

 

2階の天井が破壊されたことで、3階にいた電さんが顔を出した。明らかに深海艦娘の火力ではない爆発が発生したことで、洗脳されていても驚きが隠せていない。

 

「時雨は大淀に任せるわ……あれを先にやっておく……」

「ちょっと!?」

 

少しステップを踏んだ扶桑姉様、気付けば3階まで跳んでいた。電さんの目の前に現れ、即座に脇を掴み、そのまま1階まで下りてくる。

 

「離すのですー!」

「デコピンで許してあげるわ……」

 

首をつかみ直し、電さんの主砲にデコピン。その一撃で粉々になる主砲。血の気が引いていくのがわかる。その指を額に押し当てられると、あまりの恐怖で涙を流している。洗脳されているようにはもう見えなかった。

 

「ひぃっ!?」

 

軽くデコピンしたように見えたが、その衝撃は凄まじかったらしく、脳震盪を起こして気絶。無傷といえば無傷。

 

「電!? この、よくも!」

「ああもう! グダグダじゃないですか!」

 

大型単装砲を扶桑姉様に向けたが、次の瞬間、その単装砲は左右とも破壊されていた。大淀さんの撃った弾が、砲門に吸い込まれるように入っていき、内部爆発を引き起こしたようだった。

 

「大淀さん、そんな射撃精度が……」

「青葉さんに教えたの、私ですから」

 

手に持つ主砲すらも簡単に破壊し、白時雨さんはあっという間に無防備に。ただ、大淀さんは実弾しか持っていないので、気絶させるのが不可能。これだけは他人任せになってしまう。

 

「時雨……貴女も今は寝ておきなさい」

 

気絶した電さんを投げ捨てると、既に間合いに入っていた。すぐさま首を掴んだと思ったら、鳩尾に一撃膝を入れてノックアウト。こちらも廊下に投げ捨てた。

あっという間に3人撃破。先に対処した漣さんと大潮を含めて5人。残りは4人。その全員が工廠に集まっている。

 

「武器を持っているのが2人……分が悪いわ……」

 

今全員『嘘つけ』と思ったが、扶桑姉様は武器を持っている相手は得意ではないらしい。特に叢雲さん。リーチが長いので近付くことが出来ず、戦いが長引いてしまうのだとか。負けるとは一言も言っていない。

 

「ではまず明石を助けましょう。そうしたら私の弾を全てダミーに変えられます」

「なら……私が時間を稼ぐわ……。瑞穂……明石のところへ全員を案内しなさい……」

「了解しました」

 

扶桑姉様が当然のように先行。正面に睦月さん、皐月さん、叢雲さん。潮さんは少し後ろに控えていた。攻撃方法が艦載機しかないからだろう。

 

「皆様こちらです」

 

瑞穂さんに案内されて大急ぎで明石さんの下へ。当然瑞穂さんの行動は許してくれない。ここからは4人を扶桑姉様と春風で止めることになる。私達は傍観者にならざるを得ない、

 

「潮! あっち止めて! って大淀さん? 秘書艦しかやってない人ならサクッと止められるでしょ!」

「艦載機全部出しておくから、その危ないのどうにかして!」

 

扶桑姉様はもう危ないの呼ばわりである。今回は睦月さんも主砲。ドラム缶を振り回すようなことはないが、膂力は健在。白兵戦を仕掛けてくる可能性は大いにある。

 

「春風……貴女も瑞穂を援護しなさい……」

「いいんですか? 武器持ちは不得手なのでは?」

「潮の艦載機の方が邪魔よ……これは私1人でやれそうだわ……」

 

皐月さんと叢雲さんからの猛攻を躱しながら指示を出している。見ている限りなかなかの連携なのだが、当たる気配がまったく無い。

 

「なんなのこの人!? 全然当たらない!」

「でも攻撃もしてこないから押せ押せ!」

「睦月もやるぞよ!」

 

1対3。それでも扶桑姉様は1人で捌き切る。睦月さんは今回は普通に砲撃で応戦していたが、その弾は全て弾かれていた。

ひとえに、私と山城さん、2人の妹を守るという信念があるからだ。完全妹主義で狂気に呑まれた扶桑姉様だからこそ、妹が絡むことで100%以上の力を発揮できる。龍田さんと似たようなものである。今回はそこに、ついに見つけた自分の居場所が絡んできているのだから、さらにやる気も出るだろう。

ただ、気を抜くと3人を傷付けてしまう可能性があった。だから攻撃もなかなか出来ない。漣さんは私の危機に駆けつけたから加減が出来ていなかっただけ。あれはもう仕方ない。

 

「明石!」

「大淀! 助かったぁ! 早く解いて!」

「わかってる! その後は私にダミーの弾装填して!」

 

鎖で雁字搦めにされていたので解くのに苦労したが、明石さんを何とか解放。その間に飛んでくる潮さんの艦載機は春風が処理し続けていた。

大淀さんの弾の入れ替えが終わり、霞と瑞穂さんは艤装の装備まで完了。しかし、

 

「ごめん! 朝潮と山城さんの艤装、あいつらに破壊されたの! すぐには修理厳しい!」

「やってくれるわね……」

 

こういう状況も考えていたのか、私と山城さんは対策されていた。艤装が無ければただのお荷物だ。

 

「だから()()()()()

「えっ!?」

「まぁ見てなさいって」

 

明石さんが艤装を装備。普段から装備の調整や改造の時も艤装を装備していたが、それは工作艦、延いては明石さんの特性のためであった。

明石さんは艤装を装備すれば、他人の装備を持ち上げられる。全てこれに尽きる。装備するわけではなく持ち上げるだけ。使いこなせないが運ぶことはできるということだ。清霜さんの46cm砲なども、明石さんなら運ぶだけはできる。

その特性を活かした結果が、今からの戦い方。

 

「よーし、天龍の()()()()

 

装備ではなく、艤装の一部だからこそできる『裏ワザ』である。運ぶことが出来るのだから、それを振り回すことも出来る。それが天龍さんの刀でも、龍田さんの薙刀でも。装備はしてない。物凄い屁理屈。

 

「久しぶりじゃない。最近工廠仕事ばっかりで訓練もしてないのに」

「大淀もそうでしょー。でもヘッドショットの腕、落ちてないみたいじゃん」

「実はこっそりやってたのよね」

「あはは、私もメンテとか言って振ってみたりしてるよ」

 

無駄口を叩きながらでも、大淀さんは潮さんにヘッドショット。ダミーの弾と言うが、当然これは以前に用意したもの。スウェーデンの缶詰ペイント弾である。

 

「またぁあああ!?」

 

前回洗脳された時に引き続き、またこの匂いに苛まれることになろうとは。しかも今回は鎖が繋がっているわけではないので正気に戻るのもいつになるかわからない。洗浄は正気に戻ってからである。

 

「潮のああいう悲鳴って珍しいよね。録音しておけばよかった」

「可哀想だからやめておきなさい。扶桑さん、私達が白兵戦組を受け持ちます」

「睦月の艤装を破壊してください!」

「ええ……わかったわ……」

 

大淀さんが叢雲さんに狙いを定めてヘッドショット。しかし行動予測が出来るだけあり、それは躱される。その攻撃と同時に明石さんが飛び出していた。思ったよりも動きが速い。

 

「皐月ぃ、私の相手してよ!」

「ちょっと、なんで明石さんが天さんの刀使えるわけ!?」

「誰が整備してると思ってんの」

 

下手をしたら天龍さんよりも鋭い剣筋。皐月さんは防ぐので精一杯になっている。

 

「へいへい皐月ぃ、腕鈍ってんじゃない? やっぱ洗脳は弱くするよね」

「なんでっ、この、工作艦のくせに!?」

 

一撃一撃がやたら重い。しかも明石さん、大分遊んでいる。あちらの殺意のこもった攻撃を、軽く払って峰打ちしていく。

 

「ちょっと皐月! 何やってんのよ!」

「それはこっちのセリフです」

「お、大淀っ、何なのよその精度! 専任秘書艦風情が!」

 

大淀さんは大淀さんで、行動予測を超えた砲撃でわざわざ服や艤装に臭いを付けていく。すぐに終わらせない辺り、すごく陰湿な戦い方である。

 

「叢雲臭い! 近寄らないで!」

「大淀に言いなさいよ!」

「どっちも黙ってもらえます?」

 

大淀さんが皐月さんにヘッドショット。同時に明石さんが叢雲さんの武器を破壊する。

この2人、最古参なだけあり、腕前が全艦娘の中でもトップクラスだった。大淀さんは青葉さんの精密射撃の先生をやっていた経験があり、明石さんに至っては天龍さんの白兵戦の訓練の相手をやっていた時期があったそうだ。それだけで練度が上がり、専任秘書艦と工作艦が()()()()()()()()()()()()、弱いわけが無かった。

 

「ぎゃああああっ!? 臭い臭い臭い!」

「嘘でしょ!?」

「まったく、アンタ達は私達を嘗めすぎ。私も大淀も、ここの全部を知ってるんだよ? 脚部艤装がまともなら、普通に戦果挙げられるの。正気に戻った後も覚えといて」

 

峰打ちで2人とも気絶させた。これで残りは悶絶している潮さんと扶桑姉様が対処している睦月さんのみ。潮さんはもう戦力外と言ってもいいだろう。

 

「んにゃあ! なんなの! なんなのぉ!」

「妹のために……その艤装を破壊するわ……」

 

砲撃も艦載機も関係なしに突っ込む扶桑姉様。何をされてもダメージが一切無い。すでに見た目が弱いものイジメのそれ。

 

「睦月が何したっていうのさぁ!」

「私の居場所を奪おうとしたわ……鎮守府を破壊しようだなんて……お仕置きしなくちゃいけないわね……」

 

ついに首を掴んだ。もうどちらが敵でどちらが味方かわからない。

 

「知っていることをすべて話しなさい……漣は気絶してしまったの……貴女からしか聞けないわ……」

「お断りにゃしぃ」

「そう……なら身体に聞くしかないわね……」

 

目にも留まらぬ早業で主砲と艦載機を破壊する。もう睦月さんは無防備。首を掴まれている腕をどうにか外そうと悶えるが、戦艦棲姫()()()()膂力では扶桑姉様の腕力を突破することは不可能。

 

「扶桑姉様、もういいです。とりあえず拘束してください!」

「そう……睦月……朝潮に感謝することね……」

 

拘束するにも意識があると面倒と、鳩尾に膝蹴り。気を失ったところで艤装も破壊した。それでもまだ電探の索敵範囲は戻ってこない。まだ違う原因があるようだ。

 

「山城さんの艤装は最優先で修理するから。入渠ドック壊されたのキッツイなぁ……」

「頼むわ。またこんな事があったら私も戦わないとやってられないわ」

 

ここに来て内部崩壊を狙ってくるとは思いもしなかった。いや、むしろここで恐れるべきは、遠隔でも洗脳が行き届いていることだろう。もう鎖など関係ない。同じことをあちら側の吹雪さんがやってくるのはほぼ確定。深海艦娘は絶対に戦場に出せなくなってしまった。私にも悪影響があるとなると、何か対策を考えなくてはいけない。




明石と大淀は、初期艦よりも先に提督と出会っている、真の初期艦。鎮守府の全てを把握していると言っても過言ではないので、鍛え上げれば誰よりも強くなる可能性はあるのです。
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