睦月さんと漣さんの解放が終わり、深海艦娘全員の洗脳が解かれた。私、朝潮のスペックダウンもこれにより完治。外部との通信も復活。鎮守府は半壊しているが、ひとまずは心配事が無くなった。
妖精さんの鎮守府再建は早くても1週間かかる。入渠ドックは午前中に修復され、艤装が残っている人は一応出撃できるように。次は全員が眠れるスペースを、ということで、白時雨さんに破壊されていた工廠と執務室を繋ぐ廊下の横に、畳の大部屋が作られた。元々は会議室などがあった場所だ。後からどうとでもなるようで、全てが終わったら会議室に作り直されるらしい。
私室も全て作り直されるようなので、再建までの約1週間は全員がここで眠ることになる。既に布団までぎっしり敷かれていた。現在40人近くが配属しているため、これでも結構ギリギリ。
「1階にあった部屋を優先的に直していくそうだ。2日から3日で医務室、食堂、資料室が元通りになるよ。はち君、妖精さんの技術で、破損した本も全て元通りだ」
「
幸いにも折れたり破れたりしただけで、焼失したような本は無いらしい。元通りどころか、はちさん自身が少し口を出してより使いやすい資料室に変えてしまうそうだ。
一番安心していたのは五月雨さん。洗脳されていたとはいえ、資料室を破壊したのは彼女。そして、怒りを買い陸上魚雷で殺されかけたのも彼女。
「食堂が破壊されてしまったが、食糧は大方残っている。清霜君、安心していい」
「朝も昼も控えめにしてよかった! 晩はいつも通りで!」
「調理スペースが無いから凝ったものは作れないがね」
多少失われてしまったが、食糧も無事。これには清霜さんも一安心。
「あとは、ウォースパイト君、さすがにその脚で畳に布団は難しいだろう。ベッドを用意するよ」
「Thank you very much indeed. でも、私も皆と同じように過ごすわ。眠る時と起き上がる時は、ガングートに持ち上げてもらうもの」
「おいレディ、勝手に決めるな」
なんだかんだ仲がいい2人である。似たような境遇の元深海棲艦であり、かつては宿敵だったのも懐かしく感じる。
「シン君はベッドが必要かな?」
「お姉ちゃんにやってもらえるから大丈夫!」
「皆と一緒に寝たいと言っているの。この子も同じにしてあげて」
両脚不自由なシンさんも、お姉さんのセンさんに手伝ってもらうことで布団で大丈夫ということに。みんなで一緒に眠るということがしたかったようだ。子供ならそういうことを望むだろう。
「さて、では鎮守府再建は妖精さんに任せることしかできない。我々はいつも通りで行くよ」
再建が終われば、今度は最終決戦の準備だ。半壊した鎮守府で同時に準備することは難しい。今はペースを崩さず、やれることをやっていこう。
会議室は破壊されているため、執務室で漣さんから話を聞くことになった。睦月さんは工廠で明石さんのお手伝い中。セキさんも頭痛が無いことを確認してまた工廠に戻ってきている。これからは3人でいろいろやっていくそうだ。工作駆逐艦という絶対にあり得ない艦種となった睦月さんは、そこで活躍の場を得た。
「えー、この度はとんだご迷惑をば……」
「気にしなくていいよ。あれは敵側の洗脳のせいだからね」
「感謝感激で何も言えねぇ……」
このノリも敵でやられると腹が立つが味方でやられるなら楽しいものである。これくらいのムードメーカーがいれば、鎮守府はより明るくなる。
「まずはですね、漣が見てきたことをお話ししますね。多分一番知りたいのはブッキーのことでしょう」
「そうだね。あちら側の吹雪君は今どうなっているんだい」
「簡単に言うとバケモンですかね。知っている限り、扶桑さんのパワーと、水母棲姫の行動予測、あと空母棲姫の艦載機を持ち合わせてます。防空棲姫の対空能力も付けてたかな? 対潜能力だけは並だった気がしますが」
聞いている限りで滅茶苦茶だった。何より、扶桑姉様のパワーと最初に言われた時点で勝ち目が一気に薄れた。
扶桑姉様に対応できるのが、現状私の『未来予知』と、山城姉様の白兵戦能力しか無い。私は避けるしか出来ないのだから対応できているとは言いづらいが。
鎮守府再建までに出来る訓練は、その白兵戦性能に追いつけるようにすることだ。
「多分ですけど、さっきまで漣とムッキーが持ってたアレも積まれてるんじゃないですかね。だから、深海艦娘でしたっけ? あれは近付いた時点でアウトっす。あ、漣もですね」
深海艦娘を再洗脳するシステムも積まれている可能性は高い。あれがあるだけでこちらの戦力が激減する。
「あのシステムは何なんだい?」
「簡単に言うと、深海艦娘遠隔操作システム、みたいな。鎖が無くても洗脳状態を維持する電波的なモノが首の小型艤装から出てたんです。漣達は植え付けられてたんで、鎖無しでも洗脳状態だったってことですね。漣の意思で、あの電波の範囲を拡げる事が出来ました。女帝様をこちら側に引き込んだときにはほとんど開発が終わってたんです。やっぱ鎖は不便だーってずっと作ってましたね」
大方予想通りのものだった。一度鎖で洗脳したものは、あれさえ使えば再洗脳可能ということ。電波のようなものが出ているので通信妨害もあり、電探も狂う。さらには純粋な深海棲艦には悪影響。
あちらの技術力はこちらのそれを優に抜いている。艦娘では出来ないことを平気でやってくる。その全ては北端上陸姫が開発しているそうだ。
「あれ、ちょっと待ってください。深海棲艦に悪影響が出る電波のようなものがあるなら、北端上陸姫や離島棲姫にも悪影響あるのでは?」
「そういえばそうか。じゃああっちにはそれの対策があるってことなんじゃないですかね。漣には何にも教えてくれませんでしたけど」
逆にいえば、対策が可能ということだ。それに関しては工廠組に任せるしかない。解析が進めば何かわかるはず。せめて電探の妨害さえどうにかできればいいのだが。
「えーと、あと向こうに残ってる戦力ですけど、追加の深海艦娘はいないです。結局ドロップしなかったみたいで。8人でおしまい。だから躍起になってこっちの艦娘奪おうとしてたんですね」
「それは安心した。こんな戦いはもうしたくないんでね。あと吹雪君だけなら終わりが見えたよ」
「その吹雪さんがとんでもないことになってますけど」
最悪な状況なのは変わっていない。今のままだと、たった1人にこちらが全滅させられる可能性だってある。
「あとは何が知りたいです? あ、設備とかは漣もあんまり見せてもらってないんですよ。建造ドックが大量にあって、海から無限に資源が湧いてくるのでイロハ級や鬼級姫級は作り放題ってくらいですかね。入渠ドックも漣達のために2つくらいあったかな? 基本深海棲艦は使い捨てみたいっす」
鬼級でも姫級でも使い捨てとは、なんて贅沢な。やはり命を何とも思ってない。深海艦娘は貴重な実験材料だから少しは大事に扱っていたみたいだが。
「あとは……あ、そうそう、あいつらの目的。何もないです」
「ふむ?」
「目的なんて無いんですよ。楽しければそれで良し。今はこことの戦いが楽しいんでしょうね。特に楽しんでたのは、女帝様の顔が歪んでたときですわ。自分で言っててアレですが、なかなかクズな思考ですなぁ」
つまり、こちらの苦しむ姿が楽しいと。内部崩壊も効率よく苦しめることが出来るから選んだわけだ。内輪揉めとか大好物なのだろう。
殺意が湧いた。
やっぱり私は思考が過激になっている。
「だから、今後も狙われ続けますよ。女帝様に洗脳効かないってわかったとき、あっちのお姫様、すっごい悔しそうにしてたけど、すっごい楽しそうでしたもん。何なんでしょうねアレ。サドでマゾなんですかね」
軽く話すが、私としては気が気でなかった。私が悔しがる顔、私が死ぬことが楽しいという敵を相手にするのはどうも気分が悪い。
「こんなところです?」
「そうだね。ありがとう漣君。窮地に立たされていることはよくわかったよ」
「いえいえ。これで罪滅ぼしになるなら安いもんです」
顔にも態度にも見せないが、漣さんは漣さんで今回のことを重く見ているようだった。自分の意思では無いにしろ、私、潮さん、皐月さんの深海艦娘化と鎮守府半壊の原因を作り出している。今までの深海艦娘の中で、最も苦戦した相手だ。メンタルケアが必要かもしれない。出来そうな潮さんも、洗脳による二度の敵対で精神的に参っているところはある。
むしろ今、深海艦娘の中で割り切れているのは白時雨さんくらいだと思う。あの人はメンタルが強すぎ。
その日中に復旧したのは結局工廠のみ。優先順位の高いものから修復しているが、食堂が明日午前目処、医務室がその次、資料室はその次と順番が決まっている。
1階の設備が復旧すれば、ある程度鎮守府運営は可能。私室が無いことが不便というだけだ。談話室やジムは最悪一番最後でも何とかなる。
「改めて、綾波型駆逐艦、9番艦の漣です。さんずいに、連なると書いて、さざなみと読みます」
「睦月型駆逐艦1番艦の睦月ですー! なんかうっかり工作艦の力を手に入れちゃったので、工廠勤務しますねー」
夜になり、改めて今回仲間になった2人が自己紹介した。いつもなら私室でのんびりしている時間でも、今日は全員同じ部屋。いつもと違うというのは少し楽しい。
ちなみに司令官は執務室の隣に私室があり、そこは破壊されていなかったため問題なし。明石さんは工廠の仮眠スペースがほぼ私室みたいなものらしく、そこで休むそうだ。
「姉ちゃんが工作艦になっちゃうだなんて、夢にも思わなかったよ」
「それは睦月もだよ。皐月の刀は睦月がメンテしたげるからね」
睦月さんは、ほんの少しの時間ではあるが、洗脳が解けた後に明石さんとセキさんからここで何をやっているか教えてもらったらしい。妹の武器は自分がメンテナンスしたいというのはあるのだろう。
「漣は大体仕事終わったんで、何やってくかはリーダーに任せますわ」
「じゃあ詰所直ったらそこで待機。訓練の相手役滅茶苦茶頼まれるから」
「あ、それなら全然。鎖を操る力はもう無いようなものなんで、ふっつーな深海艦娘ってことで」
持ち前の明るさで馴染むのも早かった漣さん。皆が洗脳されていたということを理解しているからこそ、受け入れられるのも早かった。
2人の精密検査もあの後すぐに行われ、もう何も問題ないという結果は出ている。艤装を取り除いたことで、他の深海艦娘と全く同じ状態になったようだ。
漣さんは追加された力が北端上陸姫と同等の鎖をコントロールするものだったため、こちら側では全く意味がない力になってしまっている。使える時は再洗脳を受けている時である。
「漣ちゃん、馴染むの早いね……」
「やらかしちまったものはしょうがないんだようっしー。受け入れてもらえるんだから、漣はそれに乗っかるのです。時間は戻ってこないんだからさ」
「でもさっき2人の時に、みんなに嫌われてたらどうしようって泣きそうな顔で」
「オフレコーっ!?」
やっぱり漣さんも罪悪感が拭えていない。これはもう深海艦娘全員について回る問題だ。おちゃらけているようでも潮さんと2人の時は本音もこぼしているようだった。実の姉妹にしか見せない本当の顔というのもあるのだろう。私達は仲間とはいえ他人である。隠したいことだってある。
「うっしーさ、もしかして深海艦娘になってちょい性格悪くなった?」
「そうだとしたら漣ちゃんのせいだよね」
「なんも言えねぇ!」
潮さんも漣さんに対してだと気兼ねないというか、素が出ているというか、少し雰囲気が違う。私と同じように、姉妹相手だと気が楽なのかもしれない。
「しおらしいトコあんじゃん漣よぉ」
「ぐぬぬ……そうだよぉ、漣結構えぐいことやったじゃんさぁ。いくら洗脳されてたとはいえキッツイんだよぉ。なんで全部覚えてんのさぁ……いっそ忘れさせてほしいんだけどぉ」
「はいはい泣かないで。みんな漣ちゃんのこと許してくれてるからね」
「誰のせいだと思ってんだよー!」
いつもの潮さんは少し引いたところからこちらを見ているイメージ。人見知りとかそういうのではない思うが、控えめだとは思う。それが漣さん相手だとマウントを取るような物言いもしている。意外な一面が見れて嬉しい。
「私が隣で寝るからね」
「じゃあおっぱい枕よろしくおにゃさーす」
「角が刺さるからやめてもらえると嬉しいかな」
こうなるとどちらが妹かわからなかった。体格的にも潮さんの方が少し大きい。ただ、この2人は姉妹というよりは親友のような付き合い方だ。
「あー、そうだ。漣、多分うちの姉貴が迷惑かけるから、先に言っとくわ」
「うん、それは何となく予想ついてる。うっしーがこちらにいる時にもっのすごく陰口叩いてたから」
「漣ちゃん!?」
私は秘密にしてあげてたが、思わぬところからバレたようである。これは皐月さんのことも時間の問題かもしれない。
「ちょっと詳しく。潮の悪態とかレア中のレアだからすっげぇ気になる」
「マカセテ、マカセテ」
「漣ちゃん、余計なこと言わないでね? ね?」
潮さんが威圧しているとかさらにレアな光景。漣さんもタジタジだが、私や皐月さんなら後押しが出来てしまうので黙っておく。
漣さんが加入したことで、さらに騒がしくなった鎮守府。こういうことで騒がしいなら楽しくていい。仲がいい証拠だ。
初期艦の中では漣が一番好きです。軽い言動の裏に闇を抱えてそうで。