「あ゛あ゛あ゛〜〜〜」
初陣後のお風呂で早速醜態を晒す私、朝潮。訓練後なんて目では無いほどの回復量。一緒に出撃した人だけならまだしも、小破した友軍艦隊の方々にも見られているのはちょっと辛い。
ちなみに時津風さんは天龍さんの胸を枕に眠っている。清霜さんは先に食事中だ。
「おーおーだらけきっちゃってまあ」
「初陣なんだから許してあげようよ。ボクらだって初陣の後のお風呂はこんなだったよ」
みんなこうだと言われても、緩みきった私と失われる尊厳は覆らない。訓練の時のお風呂に慣れている分、復帰は早そうではあるが。
「あ、あの、初陣って?」
友軍艦隊旗艦の神通さんが話しかけてくる。そこで天龍さんに私について話してもらった。私は話せる状況ではないので。
改めて思い返すと、初めての戦場が大量の敵陣から友軍の救出というのは普通ではありえない。実戦なら近海のはぐれ深海棲艦を掃討するのが大概一番最初だろう。経験値が欲しいなら演習などもある。
さすがに皆さん驚いていた。私だって驚いている。
「初陣で見つかったドロップ艦が妹ってのも、なんつー因果だろうな。まぁ
「そうですね、発見したのが私達ですので、鎮守府間でのルール的にはそうなりますか」
本来のドロップ艦は見つけた鎮守府にそのまま配属となることが多い。その鎮守府に何らかの問題がある場合、もしくは
「万が一
「ですね。とはいえ、
「そうそう無いな。朝潮には悪いが、妹との生活は諦めてもらう他ない」
姉妹がいるというのはそれだけでも鎮守府での生活が変わるものだ。ここでは吹雪さんが当てはまるが、妹の世話を焼いているだけで充実しているように見えた。とても楽しそうだった。出来ることなら一緒に暮らしたい。
だが、他人に
「初陣であれだけ動けてるなんて、この娘すごいなぁ」
敷波さんに頰をつつかれる。何もやり返すことができないほど力が抜けているためなすがままだ。この場に深雪さんがいなくて本当によかった。
「練度はあたし達と同じくらいかな」
「それでも朧達より動けてたよ……多分」
「よっぽどここの訓練がハードなんだろね」
ハードじゃないと言えば嘘になる。だが充実もしている。特に今回は、それが結果として表れたことが大きい。今までやってきてよかったと本気で思える。
だが、今のままで満足していられない。救援任務だったから敵のことより撤退を優先していた。これが殲滅任務だったら、私は最後まで持たなかったかもしれない。
「改めてお疲れさん朝潮。お前の対空は頼りになったぜ」
天龍さんからも頭を撫でられる。褒められるとやはり嬉しい。今後も同じようにやっていけるよう日々励まなければ。
「あのー、一つ質問」
おずおずと敷波さんが挙手。
「すっごい失礼かもしんないけど……ここの人達って
「そうだよ。ボクと朝潮が主砲撃てないから対空特化」
「明らかにオーバースペックの子いなかった?」
やはりそこは疑問に思うだろう。特に清霜さん。水雷戦隊がやっていい火力じゃない。
そこは誰もうまく説明できなかった。
「まぁ、な、うん、
それが私達のできる唯一の答えだろう。謎の解明については大本営に任せるしかないのだ。
私達も最初は自分の
友軍の方々は長波さんの入渠終了後、霞の結果がわかるまでは滞在ということになるそうだ。そもそも作戦開始が昼過ぎだったので、外は暗くなってきている。一晩は空いている部屋を使ってもらうとのこと。
だがその前に司令官に呼び出された。執務室には神通さんもいる。
「朝潮、参りました」
「ああ、よく来てくれた。君にだけは先に伝えておかなくてはいけないからね。ドロップ艦の霞君の事だ」
入渠している霞の事のようだ。もう検査がある程度終了したということだろうか。
「欠陥有無の検査を先行した。その結果、霞君に
「……え!?」
「順を追って説明しよう」
まず最初に、今回の霞の
本来なら、霞は正常な状態で生成され、他と同じ『霞』として戦えるはずだった。
しかし、霞がドロップした
「生成直後の艦娘は当然だが普通より脆い。だからこそ、見つけた時点で保護を最優先にするのが基本だ。だが、霞君の場合はタイミングがあまりにも悪かった」
「霞さんがドロップしたのは敵陣の中です。私も発見したときすぐに保護しようとしました。ですが……敵にそれを阻まれました」
結果、生成直後の霞に流れ弾が当たってしまった。身体にも艤装にも後に残るような傷は無かったものの、艤装の内部にダメージが入ってしまっていたのだ。それが
そういう艦娘は少なくは無い。運が悪く直撃を受け、生成直後に轟沈という場合だってありえる。霞は見た目無傷で生きているだけまだ良かった。
生成直後の艤装へのダメージは妖精さんでも修復できない場合があり、それがきっかけで私達のような
「以前朝潮君にも説明したが、
複雑な気持ちだ。姉妹が一緒に居られることが嬉しくないわけがない。だが、欠陥艦娘という事実は霞にとっては辛いことだろう。
「朝潮君を先に呼んだのは他では無い。もし霞君に何かあった場合、そのメンタルケアをお願いしたいんだ」
姉妹だからこそ、霞のためにできることがある。この鎮守府には他に姉妹艦もいないのだから、最初に頼るのは責任者の司令官か、実の姉である私になる可能性は高い。
「了解しました。そういう意味では私が適任かもしれません」
「霞君の目覚めまで、一晩はかかるだろう。その後、よろしく頼むよ」
私だって妹の事が大事だ。やれるものなら訓練を最初から最後まで見てたあげたい。だが、私にも出来ることと出来ないことがある。それでもメンタルケアなら私にも出来るだろう。姉であり、
「司令官、霞の
「ああ、勿論。だが、少し重いね。天龍君に近いといえば納得してもらえるだろう」
対空装備以外全滅の天龍さんに近いということは、攻撃手段を持たない可能性が高いということだ。
霞の
「私達がもう少し早く保護できていれば……」
「神通君は充分やってくれたよ。何せ、霞君は生きている! 敵陣の真ん中から救い出してくれたんだ! 誇るべきところだと思うがね」
そう、霞は今生きているのだ。誰も責めやしない。少なくとも、私は感謝している。妹に会わせてくれて、妹と同じ鎮守府になれて、妹と同じ戦場に立てて。
霞の
早速談話室で霞の今後を話し合っている人達。霞の意思はどこにも無い。唯一残った魚雷に完全特化させるか、何もなくてもできる格闘戦を教えるかでちょっとした口論になっていた。
「あのさ、艦娘で格闘戦って何」
敷波さんの言い分はごもっともである。私達は見慣れているので感覚が麻痺しているのだろう。
「天龍さんが救援で何やっていたか見ました?」
「飾りだと思ってた刀で深海棲艦ぶった斬ってた」
「そういうことです」
初めて天龍さんの格闘戦を目の当たりにしたが、物凄く派手だ。敵に砲撃させる間も無く一撃で斬り伏せる。砲撃させたとしても紙一重で避けてやはり斬り伏せる。最古参の天龍さんが、常に格闘戦をやり続けていたからこそ培われた技術なのだろう。
連携をしていた響さんも、天龍さんのことを知り尽くしている動きだった。自分の攻撃が致命傷にならないことがわかっていて、天龍さんに任せるための牽制をし続けていた。
「口論の真ん中に山城さんいますよね」
「うん、あたしの知ってる山城さんと全然違うけど」
「あの人は姫級の深海棲艦を殴って倒しました」
あまりにも非現実的なことを言っていると自覚している。だが本当のことなのだから仕方ない。敷波さんも信じていないようだ。
あえてガングートさんのことは伏せておいた。余計混乱する。
「ホント、変わった鎮守府だねここは」
「私もそう思います」
個性的な仲間が多いのはわかる。敷波さんのいう通り、おそらくここの山城さんは特別変わっているというのも理解できる。
「それでも、楽しいですよ。ここにいると」
「うん、それは見てればわかるや。
それもひとえに司令官のおかげだろう。私達欠陥艦娘を分け隔てなく愛し、全員に尽くしてくれる。私達はそれに応えようとやる気を出す。いい循環が出来ている。
その循環に霞が入ってくれることを望もう。ここなら大丈夫だ。
霞は始めた当初は少し苦手でした。だけど、史実とかを知って好きになったタイプ。ああなるのも仕方ないよねって。ぼのと同じ。