欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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本能の化身

そこまで長くない入渠が完了し、自分を元にして生まれた深海棲艦、アサとの共存生活が始まった。とはいえ基本は私、朝潮が身体の主導権を握り、要所で交代するというスタンスである。

 

「お召し物をお持ちいたしました」

 

相変わらずそこにいてくれる瑞穂さん。一緒に入渠したのにあちらの方が早かったようだ。三方に載せられた私の服を見るのも、なんだか久しぶりな気分。丸3日、この鎮守府、世界から隔離されていたようなもの。

いつもの朝潮型の制服と、海峡夜棲姫の着物を羽織るのも、とても久しぶり。アサは駆逐棲姫のような服だったので、イメージが大分変わる。

 

「深海朝棲姫様のお召し物も用意されています」

「私とアサの絆のようなものですから、そのまま置いておいてください。また部屋ができたら持っていきますよ」

 

着ないということはないだろう。最初からアサが主導権を握る時は、こちらの方が都合がいい。とはいえ、あまり着ないのも確かである。

 

『せっかくなんだからたまには着ろよ。私はあっちの方が動きやすいんだ。それは一度着たが、お前は厚着すぎる』

「貴女が主導権の時に着るわ。あと貴女は薄着過ぎ。黒尽くめな割にスタイル出るような恰好だし」

「あとは、こちらを」

 

髪を結ぶリボン。私が深海棲艦化したときも残っていた、敷波さんのリボンである。長く使っているのでボロボロだ。そろそろ敷波さんに替えを貰わなくてはいけない。次に援軍に来たときにでも。

まだ使えるのでしっかりと髪を結び、いつものスタイルに。電探眼鏡は失われてしまったが、理由はわからないが無しでも鎮守府の反応は全て見えている。これで、本当に私が戻ってきた。

 

「よし、これで元に戻りましたね」

「はい、お帰りなさいませ、朝潮様。瑞穂は朝潮様のご帰還を、一日千秋の思いで待ち侘びておりました。このお姿の朝潮様を見ると、瑞穂、日常が戻ってきたことを実感します。朝潮様がいないこの3日間は、皆生気を失ったような振る舞いでございました。瑞穂もその中の1人。ですが、それも終わりなのですね。本当におめでとうございます。ですが深海朝棲姫様を否定しているわけではございません。朝潮様との共存をなさる深海棲艦なのですから、それは実質朝潮様ご本人ということになります。身体を共有するのですから、ご本人も同然でしたね。瑞穂、言葉を誤っておりました。申し訳ございません。無論、深海朝棲姫様にも仕えさせていただきますとも。深海棲艦という身でも、朝潮型なのですから。瑞穂も誠心誠意尽くさせていただきます。何かご要望がございましたら、いくらでもお申し付けくださいませ」

 

うーん、久しぶり。これを聞くと、私も日常に戻ったと実感できる。

 

『朝潮、私はこいつが一番怖い』

「こらこら、深海棲艦の姫ともあろう者が」

 

出会いが悪かったのもある。

 

 

 

入渠完了を司令官に報告する。今回は検査の結果もあるので、じっくり腰を据えて。

短時間ではあったが、入渠中に私の身体を調べてもらった。前回アサが受けたものとほぼ同等なものではあるが、密閉情報(ブラックボックス)が消えた今、私にどのような影響が出ているかが主な目的。本来ではあり得ない、1つの身体に2つの精神が入った状態だ。完全に混ざり合った扶桑姉様や、一部が混ざり二重人格じみている春風とはまるで違う、完全に独立した精神。側から見れば私も二重人格なのだろうが。

 

「アサ君は朝潮君の中でこの話は聞けているんだね?」

「はい。何かありましたら交代します」

「よろしい。では明石君、セキ君、検査の結果を」

 

結果を持つ2人が横に。私も少し緊張する。

 

「背中の深海忌雷から。現在半壊状態です。全ての機能が取り払われたわけではありません。そのおかげで、朝潮の中に深海朝棲姫、アサが残っているということですね」

「身体中に張り巡らされた寄生の根もそのままだ。身体は深海艦娘とは違い、深海棲艦そのものになっている。()()()()()()()と言ってもいい」

「朝潮とアサの証言通りの状態です。それ以上でもそれ以下でもない、1つの身体に2人が共存しています。これは、この半壊した深海忌雷が残り続ける限り、ずっとです。ですが、朝潮の精神がまた封印されることは無いかと思います。そのシステムが壊れていますので」

 

大方私の思った通りである。これが完全に破壊されない限りはアサは消えない。私と運命を共にする事になる。摘出も不可能。寄生の根がそのままということは、剥がした時点で下手をしたら私が死ぬ。

結果的に、私はもう艦娘に戻ることは出来ず、アサと一緒に深海棲艦として生きる事となった。何も悲しくない。身体なぞ関係ないのだから。

 

「朝潮の現状のスペックのことです。以前までかけていた電探眼鏡なんですが……深海棲艦化の際、身体に取り込まれてしまいました」

「取り込まれた……とは?」

「古鷹さんの探照灯と同じです。内蔵型の電探と思ってもらえれば」

 

古鷹さんは左目が探照灯になっているという、他に類を見ない特殊な能力を持っている。自分の意思でオンオフが操作でき、体力を使って灯りをつける。

私も同じだそうだ。だから私は、何も付けていないのに鎮守府の全員の位置が把握できる。これはアサも同じ。同じ身体を使っているのだから、当然といえば当然か。

そういう意味では髪を結ぶ必要は無くなった。今まで結んでいたのは妖精さんを頭に乗せる足場を作るため。まぁそれでもそれなりに長い間この髪型で来ているし、アサが生まれた時ですら消えなかったリボンだ。ここの私はこの形、ということで、このままで行こう。

 

「それ以外は朝潮とアサの言う通り、深海棲艦の姫級です。ただし、元々の朝潮の練度もあり、姫級としては破格も破格。欠陥(バグ)を差し引いてもお釣りがきます。その分、入渠時間が戦艦並になっちゃいそうですけど」

 

アサが踏ん反り返っているのがわかる。自分が強いと褒められているのだから、それは嬉しいだろう。私だって嬉しい。

 

「わかっているだろうが、前と違い朝潮も敵に気配を探られるようになっている。さらにいえば、朝潮の匂いは()()()()。私でも朝潮が何処にいるかがわかるレベルだ」

「つまり、朝潮君は自分の場所を教えながら出撃するようなものということかな」

「そうなるな。雑魚を惹きつけるまである。存在が()()()のようなものだ。攻撃できない朝潮がだぞ。出撃させるなら護衛が絶対に必要だと断言する」

 

強くなった代償として、敵を惹き寄せるようになってしまったらしい。私の欠陥(バグ)から考えれば最悪なデメリット。自衛手段が回避行動しかないのだから、誰かに守ってもらう他ない。幸い、私の守護者として霞とウォースパイトさんが名乗りを上げてくれている。私が出撃するときは必ずその2人も来てもらうことに。

 

『これからはヲ級もいるぞ。3人に守ってもらえ』

「北の戦場にヲ級は連れていけないわ。何があるかわからないもの」

 

今回は鎮守府近海での戦闘だったため気にならなかったが、次は北端上陸姫の領海で戦うことになる。つまり、あの鎖が現れる場所だ。私は以前に鎖による洗脳が効かなかった実績があるが、それでも身体が変化したことで今後どうなるかわからない。アサだけがやられるという可能性だってある。ヲ級をそんな場所に連れていくわけにはいかない。

 

「あと朝潮の装備のことなんですが、深海艦娘の時から変わり、春風と同じように内蔵ですね。なので、装備メンテはセキちゃんにやってもらいます」

「電探の件も明石に聞いている。最高の状態に仕上げよう」

 

頼もしい限りである。深海側の工作艦として一流だ。セキさんになら大概任せられる。

 

「艦載機の数は前回からさらに増え12。倍ですね。もう駆逐艦じゃないですよ」

『姫だからな』

「姫にしたって駆逐艦は駆逐艦の性能してるでしょうに」

 

今まで積み重ねた私の成長や変化が、深海棲艦化したことで全て強化されたようなもの。欠陥(バグ)が直らないのは仕方ない。0にはいくらかけても0である。

普通の艦娘から深海艦娘化した時点で艦載機を手に入れたが、深海棲艦化でそれが失われるどころか増えるとは。

 

「この朝潮は、もう艦種『朝潮』と言ってもいいくらい特殊です。あちらもこぞって潰しに来るでしょうね」

 

狙われているのは前から変わらない。北端上陸姫のお気に入りだなんて不名誉な称号まである。

 

「朝潮君、二度目の身体の変化だが、何か変化らしい変化はないかい?」

「今のところは。頭の中にアサがいるくらいですね」

「あー……本人は気付いてないかもしれませんが、趣味趣向が若干変わっているのかも」

 

明石さんが少し言いづらそうに口を出す。血の気の多い思考になった時みたいに、無意識に何か変化しているのかもしれない。事前に知っておけば対策はできるし、受け入れることもできるが。

 

「何が変わったんだい?」

「提督にはとっても言いづらい事です。女の子のデリケートな部分ですから」

「そ、そうか……なら私は何も聞かないでおこう」

 

私には気付けていない何かがあるのかもしれない。それはおいおい知っていこう。

 

「朝潮君、アサ君に代わってもらえるかな」

「了解しました」

 

主導権を渡す。私は思考の海へ。

目を瞑って、再び開くと、自分が動いているはずなのに映像を見ているような状態になる。この状態で会話が出来るというのはなんとも不思議な感覚。

 

「何か用か」

「朝潮君の中にいるとはいえ、君もこの鎮守府の一員だ。何か聞いておきたいこととかはあるかな」

「そうだな……聞いておきたいことというか、1つ頼みがある」

 

アサは深海棲艦だがそこまで無茶なことは言わないとわかっている。頼みと言っても些細なものだろう。

 

「たまにでいい。私の領海に行きたい。ヲ級を連れて」

「構わないよ。事前に言ってくれればいつでも」

「そうか。なら今からでもいいか」

「ああ。やはり気になるかい?」

「……まぁ、な」

 

自分の居場所とした島には、私の身体を使わないと帰ることができない。それくらいなら、私も全然構わない。

 

 

 

アサの領海へはすぐに向かうことになった。せっかくだからと、アサの服に着替える。あの場所には、この姿で。主導権は今は私に渡されている。

 

一緒に行くヲ級は、私が入渠し、司令官と話をしている間にさんざん弄り回されていた。

まず名前。レキさんと同様に、そのままの名前で呼んでいると不信感が大きいため、ガングートさんがクウと名付けた。空母ヲ級だからということ。

そして服。こちらもレキさんと同様、そのままだと敵と誤認して撃ってしまう可能性がある。さすがに朝潮型の制服は無理があるということで、適当に見繕ってもらい、最終的には、同じ空母である蒼龍さんと同じ弓道着となった。色は黒。クウも気に入っていた。

 

今回は哨戒も兼ねているため、クウの他にもう1人連れていくことに。それはもう決まっていた。あの島は、もう1つ思い入れのある場所だ。

 

「アサの領海はね、霞と出会ったあの島なの」

「へぇ……」

「導かれるようにあの島に辿り着いて、すぐに拠点にしようと考えた。私の記憶が影響したのかもしれないわね」

 

あの島が見えてくる。連れてきたのは当然霞。私の初陣の場所。私と霞の繋がりを作った場所。私とアサの繋がりにもなった場所。勿論ヲ級の生まれ故郷にもなる。

 

「変わんないわね。これくらいの無人島なら」

「岩礁帯もそのままよ」

 

主導権をアサに渡す。瞳に閃光が走ったので、霞にも交代したことがわかっただろう。

 

「ここで日がな一日ボーッとして過ごすのが私の理想だ。穏やかで何もないのが一番いい。満たされる」

「……いいわね。そういうのも」

 

島に上がって腰掛ける。隣にはクウも一緒に。

この島に辿り着き、クウが生まれ落ち、ただ水平線を眺めているだけ。それが出来たのは3日間のうちでもさらに短い時間だが、穏やかで、満たされた時間だった。波の音しか聞こえない、静かな時間。

私は中で見ていただけだったが、アサの心が安らいでいたのはすぐにわかった。何にも干渉されない時間がどれだけ貴重なのかも痛いほど理解した。

 

「私が離れたから領海では無くなっているな。侵食させておくか」

「やめときなさい。不審に思われてここに来れなくなるわよ」

「それは困る。だがここは私のモノだ。何か目印が欲しい」

 

目印といっても、そんな簡単に出来るものではない。艤装の一部でも、なんて言い出したが、破損させるわけにはいかないし、適当に置いておいても風で飛ばされたり波に浚われたりで残らないだろう。大きなものだと不審に思われる。

 

『何度も来ましょう。目印が無くたって来れるんだから』

「……そうだな。また来よう。何度も何度も来よう」

 

少し寂しそうだが、もう来れないわけではない。思い立ったらまた来ればいい。

 

「カスミ、ここはお前にも因縁のある場所なんだな」

「そうね……私が生まれた場所が近くにあるらしいわ。姉さんの初陣の場所で、ここで出会ったの。私に意識は無かったけど」

「なら、この領海は絶対守らないといけないな」

 

この場所はいろんな始まりの場所と言ってもいいだろう。だったら、永劫に守り続けなくてはいけない。ここは私達のものだ。誰にも渡さない。

 

「ここには哨戒に来るんだろ。私は率先して参加したいんだが」

『それ私の行動に制約が入るんだけど』

「いいだろ。お前だってこうやって休むべきだ。気を張りすぎなんだよ」

 

何も言い返せない。

 

「私はお前から生まれた。当然私には記憶は無いが、それでもこの島を選んだんだぞ。お前は望んでいたんじゃないのか。こういう場所で、ゆっくり過ごしたいと」

『否定は出来ないわ……』

「今ならハッキリ言える。私はお前の『本能の化身』だ。お前が我慢していることを、私がやってやる。お前は私に振り回されていればいいんだよ」

 

本能の化身。そうかもしれない。深海棲艦という形で生まれたが故に乱暴ではあるものの、私ならこうするという行動を大概選んできていた。明石さんの盾になったこともそうだし、なんだかんだ鎮守府にやってきて検査も受けたこともそうだし。守ってもらえるからと鎮守府に来たのに、結局は自分が鎮守府を守った。深海棲艦なのに、率先して指示を出し、味方の被害を最小限にしようとした。

誰も死んでほしくない。争いが嫌だ。穏やかに過ごしたい。仲間が大切だ。ずっと一緒にいたい。迷惑はかけたくない。それなら私が犠牲になる。全部私が常々思っていること。それを抑えつけることなく、本能のままに体現しているのがアサだ。

 

アサは、怖いくらい私だ。

 

『大暴れだけはしないでよね。私の身体なんだから』

「保証は出来ないな」

 

私相手だからこそ、私もこれだけ強く出られる。アサの言う通り、私達に上下関係なんてない。お互いに身体があれば、それこそ神通さんと北上さんのような関係になっていたかもしれない。もしくは天龍さんと神通さんのような、笑顔で殴り合う仲。

 

『あれ、霞は?』

「私を見て惚けてるな。カスミもそれなりに()()()奴なんだな」

 

クウはアサの隣で転寝しているくらいだが、霞はこちらを見てボーッとしている。以前に見た瞳の中のハートマークが再発している。そういえば私が初めて電探眼鏡を装備したときも惚けていた。

 

「……普段の姉さんもいいけど、こういうワイルドな姉さんもなかなか……」

 

だんだん霞が心配になってくる。吹っ切れてから霞も良くない方に入ることが多い。

 

「こうなった霞はどうすればいいんだ」

『放っとけばいいわ。満足するまでここにいるでしょ』

「ああ。クウも居眠りしてるしな。もう少しここにいたい」

 

哨戒は兼ねているが、本来の目的はここに来ることだ。司令官にも許可は貰っている。アサが満足するまではここにいるつもりだ。




話の中でもちょくちょく出てくる無人島。通称『霞の故郷』ですが、ここが朝潮帝国の拠点となりました。辿り着く場所は、最初の場所。
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