欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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穏やかな日常

私、朝潮が深海朝棲姫アサと共存生活を始めた翌日。久しぶりののんびりした雰囲気な朝。大部屋でみんなで眠るのは少し楽しかった。私は初日以来なので、もう何日もこれをやっている皆が少し羨ましい。

昨日の白吹雪さん襲撃により、鎮守府の復旧目処が少しズレてしまった。本当だったら今日中くらいには終わっていたらしいが、もう少しかかるとのこと。私室以外は修復が終わったため、鎮守府としての活動は正式に再開した。

 

「んぁ……おはよう姉さん……」

「おはよう霞」

 

私の隣を勝ち取ったのは霞とレキさん。レキさんはまだ寝ており、私の腕にしっかりとしがみ付いてきている。なんとか起こさないように腕を引き抜いた。

 

「姉さんの隣で目を覚ますのは本当に久しぶりな気がするわ」

「そうね……私はここで眠るのが久しぶりだもの」

 

帰ってきたという感じがした。賑やかさもそうだし、人に囲まれているというのもそうだ。アサのように島で迎える夜というのも穏やかでいいかもしれないが、私はこの賑やかさが好きだ。仲間に囲まれていると実感できる。

 

「朝潮様、お召し物を」

「ありがとうございます。眼鏡をかけなくても電探の性能がそのままなのはありがたいかも」

 

大部屋でも私の真横についてくる瑞穂さんから制服を受け取り、その場で着替える。

大部屋で唯一今までと違うことは皆の前で着替えること。別に女所帯で気にすることはないと思うが、春風とか萩風さんは少し気にしている。気になるならもう少し地味なものを着ければいいのに。

 

「姉さん元に戻ってもそのままなの……?」

「何が」

「春風よりも派手なの」

 

そういえばアサがお風呂に入ったときにやたら見てた。人の脱いだものを凝視するのはあまり褒められたことではない。

 

「私は春風みたいに他人の目を気にしてないもの。レキさんと同じようなものでしょ」

「大人の階段昇ってる……」

 

ああ、これが明石さんの言っていた趣味趣向の変化というものかも。以前の私なら恥ずかしがっていたかもしれないが、今は全然気にならない。むしろこれでないと落ち着かないまである。今までのは少しお子様すぎる。

 

『ついでに私の服を着ろよ。動きやすくて戦闘がしやすいぞ』

「薄着過ぎるって言ったでしょ。誰よりも後ろで戦う私がそんなに薄着でどうするのよ」

『お前も前に出ればいいんだ。ヤマシロやフソウのように』

「無茶言わないで。いくら深海棲艦の身体になったとしても、そこまで頑丈じゃないわ」

 

アサはどこか好戦的な部分もある。穏やかな生活のためには、敵に容赦しない辺りはさすが深海棲艦というべきか。私に白兵戦を勧めてくる辺り、欠陥(バグ)についてはアサも気にしているかもしれない。私達には艦載機があるのだから、それで我慢してもらわないと。

 

「んおー、おはようアサ姉ちゃん!」

「はい、おはようございますレキさん」

 

急にレキさんが不機嫌に。

 

「アサ姉ちゃん。レキも呼び捨て」

「えっ、でも」

「クウも呼び捨てにしてる! ズルイ! レキだけ”たにんぎょーぎ”だ!」

 

何処でそんな言葉を覚えてきたのか。

確かにクウに対してはそういう態度ではある。アサの時からの流れというか、私もそういう扱いにしてしまっていたが。

 

『朝潮、私が深海棲艦の姫なんだから、お前も姫だ。レ級もヲ級と同じようなものだぞ』

「まぁそうかもしれないけど……ん、わかった。レキ、これでいい?」

「それでいい! レキも姫様って呼んだ方がいいか?」

「それはやめて。レキに言われると物凄く距離を感じる」

 

なんだかんだ絆が深まったような気もする。思ったより躊躇いとかも無かった。アサの影響が私の思考にも影響しているようだ。これも趣味趣向の変化の1つかもしれない。

 

 

 

今日の私の予定はほぼ無し。要求されれば訓練の相手をする、深海艦娘の詰所に入り浸ることに。ここには大潮もいるし、身体を休めることも出来る。

最初はまた白吹雪さん対策の訓練の予定だったが、そもそも扶桑姉妹単独を対策できない限りどうにもならないのはよくわかった。そのため、今は私の行動予測なんて関係なしに、あの姉妹といい勝負できるようになる訓練になってしまっている。

 

「朝潮、ちょうどよかった。ボクら全員明石さんに呼ばれててさ、朝潮も呼びに行くつもりだったんだ。一緒に行こう」

「私にも? ならあれですか、洗脳電波キャンセラーの件」

「多分ね。あの時も大部屋で大変なことになってたんだよ」

 

詰所の近くで皐月さんに言われ、私も工廠に向かうことに。

後から聞いた話だが、最後に目を覚ました時津風さんと萩風さんが洗脳状態の深海艦娘を監視することになったらしく、その時は暴言の嵐だったらしい。山城姉様は全員を縛り上げるだけで終わっており、口は聞ける状態だったため、2人が恐ろしい勢いで罵られたそうだ。元々強気な叢雲さんや、大概の暴言が軽口に聞こえる漣さんなどはまだマシだったが、電さんや潮さんからの口撃は相当堪えたとのこと。

 

「あれの記憶が残ってるんだよね……。凄いよあの装置。いきなり頭の中が真っ黒になってさ、ここの人達全員が敵に見えるようになるの」

「辛いですね……。私は酷すぎるくらいの頭痛なのでまだマシかも……」

「そっちはそっちで辛いね……」

 

あの頭痛、私はアサが体験しているのを見ているだけだったが、『未来予知』の負荷で受ける頭痛が永遠に続くような痛みに見えた。私は受けたいとは思わない。

 

『立ち上がれないくらいの頭痛だぞ。覚悟しとけ』

「今から貰うのはそれが起こらないようにする装置だから」

『私が命懸けで守った装置だな』

 

皆について工廠に入った。そこには私達の他にも深海棲艦組は勢揃いしている。あれの影響を受ける者は全員対象になるので、それなりな人数になる。

 

「お、集まったね。察してると思うけど、昨日完成した洗脳電波キャンセラー、小型化して増産したよ。好きなように身に付けてね」

 

恐ろしいほどの性能を持つ電探を眼鏡の形に出来る程なのだから、それくらいのことはできると思っていたが、まさか洗脳電波キャンセラーが親指の爪程の大きさになっているとは思わなかった。元々が首筋に植え付けるほどの大きさだったので、それに対抗するものも小型化は出来るのだろう。

 

「どんな形でもいいのかい?」

「出来ることなら頭に近いところにしてね。小型化した分、自分1人分を守るくらいしか出来ないから」

「なら、ピアスなんてどうだろう。頭に近いし、簡単に離れないよ」

 

白時雨さんの提案。私はペンダントとかがいいかと思ったが、確かに毟り取られる可能性とかを考えるなら、ピアスの方がいいかもしれない。結局耳にぶら下げるようなものなので、ペンダントよりは取れないかという程度ではある。もっとサイズが小さかったらまた違ったかもしれないが。

 

「提督が許すかなぁ……耳に穴空けるわけだし」

「イヤリングでいいんじゃないですか? 同じように頭に近いですし」

『私はピアスでいいぞ。いいじゃないかオシャレで』

「アサは黙ってて」

 

いろいろ意見を飛ばし合い、最終的にはイヤリングで落ち着いた。肌に傷は付けないで、それでも頭の付近に置くということで。

 

「うん、これはいいね。黒いのより僕の方がオシャレじゃないかな」

「どれだけ目の敵にしてるんですか」

「僕の宿敵だからね。正統派の時雨は」

 

こういったアクセサリーは初めてだ。オシャレな艦娘はいるが、こういうことをしている艦娘は殆ど見たことない。確か秋津洲さんがイヤリングをしていたはず。それくらい。

 

「アサ姉ちゃん、つけてー」

「姫様、つけてー」

 

甘えん坊な2人にイヤリングをつけてあげる。レキはいいとして、クウは私より大きな子なのでしゃがんでもらって。私はお母さんか何かだろうか。

 

「はい、できた。2人とも似合ってる」

「ありがとうアサ姉ちゃん!」

「姫様ありがとー」

 

このやり取りは完全に親子な気がする。特にクウは私……というかアサの領海から生まれた深海棲艦だ。ある意味アサが生んだと言える。そういう意味では親子と言ってもいいのかもしれない。

 

「なんだか癒されますなぁ」

「朝潮ちゃん、深海棲艦になってから柔らかくなった?」

「女帝様は母性本能も強化されたのかな」

 

柔らかくなったと言われると、今までの私は堅かったと思われていたのかと勘繰ってしまう。

レキもクウも、立ち位置的には姫である私とアサの部下、配下となってしまう。その意識が出来てしまったせいで、妹とは違う愛情が生まれているような気がした。姉妹愛ならぬ、親子愛。レキもなんだか娘に見えてきた。

 

「全員に行き渡ったかな。ならそれ、基本は外さないように。お風呂もそのまま入れるから。寝るときは外すにしても近くに置くこと。夜中に洗脳電波受けたこともあったからね」

「漣のこと見て言わないでくださーい」

「漣ちゃん元凶なんだから諦めて」

 

潮さんはやっぱり漣さんには当たりが強い。

 

「はい、それじゃあ解散! 睦月はいつものようにお願いね」

「工作駆逐艦睦月に任せるがよいぞー。今なら朝潮ちゃんも弄れる自信があるのね」

「深海艤装も覚えたんですか? ならお任せします。睦月さん本当に便利ですね」

 

仲間になっておおよそ1週間。睦月さんは工廠仕事を大分覚えた。工作艦としての仕事もさる事ながら、戦艦棲姫の膂力はいろんなことに便利らしく、雑用係として重宝されている。頼んだことは大概やれるので、今や工廠のマスコット扱い。セキさんですら可愛がっている。

 

「うちの姉ちゃん凄いよ。ボクの刀の整備も完璧でさ」

「私の槍もよ。やるじゃない」

「褒められて伸びるタイプにゃしい、もっと褒めるがよいぞ」

 

深海艦娘の白兵戦担当、皐月さんと叢雲さんも太鼓判を押しているほどなら任せられそうだ。

 

 

 

解散となったので、皆に便乗して詰所へ。

改装された詰所は、与えられた一室のときよりも使いやすくなっていた。詰所として改めて作られた、深海艦娘のための新たな談話室といってもいいだろう。給湯室まで作ってもらえたので、お茶を淹れて依頼を待つことに。

 

「お姉さんが増えたみたいです」

「私は別にお前の姉というわけでは無いんだがな」

「でも身体はお姉さんですから!」

 

主導権はアサに渡しているので、私は思考の海から高みの見物。

アサは戸惑いながらも深海艦娘に囲まれている状態。霞の計らいで一度全員とは話をしているが、正式に仲間となってからは当然初めてだ。今はもう勝手に涙が出ることもないし、私のサポートもある。事情を全て知っているのだから、相手側に警戒心もない。

 

「でもすげぇよなぁ。春風みたいな二重人格じゃなくて、マジで2人入ってんだろ?」

「ああ。今は私が表に出ているだけだ。朝潮が中からこっちを見ている」

「性格が違いすぎて、見てて面白いわ。態度違いすぎるもの」

 

叢雲さんが言うのもわかる。アサはあちら側の春風のように若干態度が悪い。今も皆の中心で腕を組み脚を組みで座っている。そして相変わらずの無愛想。アサの笑顔は私くらいしか見たことが無いかもしれない。それすらも夢の中、思考の海である。現実で、本当の笑顔を見せてくれるときは来るのだろうか。

 

「霞が言ってましたけど、ワイルドなお姉さんって感じです」

「ワイルドというか、不良なのです」

「まさに女帝って感じだね」

 

人が中にいるからと好き勝手に言って。表に出たら文句を言ってやろう。

 

「お前は慕われてるのか遊ばれてるのかわからないな」

『どちらかといえば遊ばれてるわ。あとから演習と称してコテンパンにするから』

「はー、怖い怖い。そりゃあ女帝様だ」

 

深雪さん達が不思議な顔をする。

 

「昨日から気になってたんだけどさ、たまに独り言呟いてるよな。それって中の朝潮と話してんのか?」

「ん? ああ、そうだが」

「この鎮守府には本当にいないタイプだよね。朝潮ちゃん、どんどん変な方向に行ってる」

 

変なとは失礼な。ただ、明石さんの言うように、今の私は特殊すぎることは否定できない。艦種『朝潮』と言いたいのもわかる。完全に独自路線に入っている。

向こうの鎮守府にいた、生まれたばかりの私を思い出した。今は大分成長しただろうが、少なくとも私のようにはなっていないだろう。本来の私がどのように成長するのか興味が出るほどに変わってしまった。またあの鎮守府にお邪魔したいものだ。

 

「まぁでも収拾ついてよかった。朝潮が戻ってこなかったら、この鎮守府は終わってたかもしれない」

「だよな。扶桑さんと春風が見るに堪えなかったもんな」

 

その辺りは詳しく知りたい。アサに交代してもらう。

 

「深雪さん、その話詳しく」

「うおっ、朝潮が表に出てきたのか」

「扶桑姉様と春風、どうなってましたか」

 

私が深海忌雷に寄生されたとき、一番近くにいたのはその2人だ。海中に引きずり込まれた私を、最後まで助けようとしてくれた。手を伸ばしても届かず、結果的に海底まで行ってしまった。私が変化する前の最後を見たのはあの2人。

 

「扶桑さんは山城さんが縛り付けて何とか押さえたんだよ。朝潮を追うって聞かなくなってさ。全員守って傷だらけだってのに、入渠も断ったくらいだったぜぇ」

 

その後も酷かったらしい。入渠が終わった途端出撃しようとし、山城姉様でも止められそうになく、結果的にウォースパイトさんを連れて哨戒に出る羽目になったようだ。そのおかげで私のピンチを助けてくれたのだから結果オーライかもしれないが、あまりに無鉄砲。変わり果てた私と顔を合わせてもどうすればいいか困惑していたほどなのだから、あれは本当に考え無しで来ていた。

 

「春風は気の毒なくらい落ち込んでてな。自分の部屋も無いから工廠で蹲ってた。飯も食わないでさ、夜も大部屋に来ないくらいだった」

 

その後、レキ達や山城姉様達が発見したことで春風も立ち上がったようだ。それでも丸一日は塞ぎ込んでいたらしい。あのときやつれていたのはそういうこともあったからか。褒められたことでは無いが、それだけ心配してくれていたとわかると、少し嬉しく思う。

 

「アサとして帰ってきた時に、霞が機転を利かしたんだよ。それでようやく元通り」

「ああ、あのお風呂での一件ですか……」

「どっちの服を着るかってやったんだよな。無茶苦茶だと思ったけど、すげぇ効果的だったんだろ。霞から聞いたぜぇ」

 

アサが私と同じ選択をしたことで解決したあの一件。あそこで私もアサは自分を元にしていることを確信できた。

鎮守府に出向くことなどは別に温厚な深海棲艦ならやることだろう。現にヒメさんやミナトさん達はそのタイプだ。だが、あんな限られた条件で、しかも自分の今後にまるで関係のないところで、私と全く同じ選択をしたというのは他の何よりも大きかった。

 

「霞には感謝してますよ。自慢の妹です」

「最近暴走してる気がするけどな」

 

他人から見てもそうなのなら、霞は吹っ切れ方があまりよろしくないのかもしれない。少し気にしておこう。

 

「ところで電さん、人のこと不良とか言ってましたけど、どういう意味か説明してもらえます?」

「そういうとこなのですー」

「あとから演習しましょうね。1対1で、ごめんなさいを言うまでやりましょう。電さん、覚悟してくださいね」

「女帝様怖ぇっす。深海棲艦になってから箔がついてるんで勘弁してやってくだせぇ」

 

穏やかな日常がこんなに楽しいと思えたのは久しぶりな気がする。軽口の言い合いも楽しい。私はここに帰ってこれたのだ。

 




朝潮の本当に望むものは、仲間達と穏やかに日常を歩くこと
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