欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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逃走者

また次の朝、鎮守府再建完了まで残り2日という報告が挙がる。大部屋で寝るのもあと2回。そしてそれが終われば、私室に戻り、援軍を再要請、さらには元帥閣下との合流もあり、北端上陸姫との最終決戦が始まる。

白吹雪さんは、おそらく赤い海で戦いを挑んでくる。扶桑姉様対策が可能であり、あわよくばこちらの戦力を奪える可能性があるからだ。さすがに二度もここに来た挙句に逃げ帰るようなことをしているのだから、あちらも学習するだろう。

出来ることなら先に対処したい。陣地に辿り着くまでに襲撃してくれれば、余計な横槍が無い状態で北端上陸姫と戦える。あの時は戦闘が苦手そうな雰囲気を出していたが、もう大分時間が経っている。対策くらい練っていそうだ。

 

「こちらが準備している間に、あちらも準備しているだろうね」

 

今日は珍しく司令官と一緒に食事当番。おかげさまである程度料理も出来るようになったが、増え続ける配属艦娘全員に振る舞うのは結構大変。司令官と一緒にやって何とか間に合うくらい。

 

「緊張感があります。あれからさらに強くなっている可能性があるかと思うと」

「大丈夫さ。君達なら勝てるよ。私は君達の強さを知っている。一度負けても立ち上がり勝ってきたじゃないか」

 

私達は敗北を何度も経験している。戦艦棲姫改には二度、扶桑姉様にもやられ、漣さんにも損失が大きすぎる大敗、何度も何度も折られている。その度に立ち上がってきた。

 

「朝潮君、今日もアサ君の領海に行っておいで。心を落ち着けるならそこがいいだろう」

「えっ、でも……」

「君の決戦準備は、心を休ませることだ。万全の体調で臨むために、君は決戦まで非番でもいいくらいだよ。皆それを許してくれている」

 

私のやることは確かに多くなっている。訓練の相手は結構望まれることが多いし、いろんな人のメンタルケアもしている気がする。改二になってからはそれが顕著かもしれない。その結果がストレス性高体温症である。まるで人間のような病気。

 

「君には本当に頼りっぱなしだからね。君は私に頼ってくれればいい。何か悩み事は無いかな。遠慮なく言ってほしい」

「悩み事……ですか……」

 

パッと思い浮かばない。しいて言うなら

 

「何かしていないと落ち着かない……ですかね……」

「強迫性障害かもしれないね。それなら尚のこと領海に行ってきなさい。認知行動療法といってね、あえてやらないという手段で治していくんだ」

 

周りの心の病をケアしようとして、実は私自身が病んでいたという少し残念な結果だった。この病、自分ではわからないことが多いらしい。司令官に言われて気付くほどだし。

 

『領海に行くのか? なら着替えろよ。あそこには私の服で行かなくちゃいけないからな』

「はいはい。では司令官、今日は領海に行かせてもらいます」

「ああ、行ってらっしゃい。身体と心を休めるんだよ」

「その前にご飯を作っちゃいますね」

 

司令官はいつも気遣ってくれる。むしろ司令官のケアは誰がやっているのだろう。と考えて、ふと山城姉様の顔が思い浮かんだ。なるほど、本気な人達が癒しているわけだ。私は山城姉様を応援しておこう。

 

 

 

朝食後、早速着替えて領海へ。体質上、絶対に護衛が必要ということで、今日の護衛も霞。クウは深海棲艦組との交流があるそうだ。他の人達とも仲良くなれるなら私は嬉しい。

 

『やはりここはいい。心が穏やかになる』

「そうね……風も気持ちいい」

 

あの時のアサと同じように、浜辺に腰掛けて水平線を眺める。すごく気が休まる。そういうところもアサに引っ張られているのかも知れない。

霞は視界に入らないように後ろで控えてくれている。私がのんびりと過ごしているのを眺めていることが楽しいとのこと。アサ曰く、霞は極まっている。

 

「私は疲れてるのかしら」

『疲れてるだろうな。本当にお前は考えすぎだ。そのくせ自分のことは蔑ろにするからタチが悪い』

 

アサにすら言われると流石に受け入れざるを得ない。というかさんざん言われ続けていたことだ。自分が見えていないというのは何度も何度も言われている。

自分より他人に目が行ってしまうのは悪い癖だった。どうしても治らない。私の身体はもう私だけのものじゃないのだから、今よりもずっと自分のことを守らなくてはいけないのに。

 

『今くらい全部忘れろ。何のためにここに来たと思ってるんだ』

「……そうよね。身体も休まらないし」

 

浜辺に寝そべる。今日はいい天気。雲1つない青空。

 

「何にも縛られずにここにいるのもいいわね……」

『だろう? ここでなら好きにすればいい』

 

お日柄もよく、だんだん眠くなってきた。こんな朝からまた寝るなんて、今まででは考えられないこと。好きにしていいのなら、もう一眠りしてもいいか。気が緩むとすぐに睡魔に襲われる。本当に疲れていたのかもしれない。

 

が、それも突如現れた深海棲艦の気配が終わりを告げる。

 

「霞、戦闘準備」

「深海棲艦の気配?」

「……私の濃い匂いってヤツなのかしらね……。まっすぐこちらに向かってきてるのがわかるわ……」

 

せっかく気持ちよく寝られそうだったのに、酷いタイミングだ。少しイラッとした。領海を侵そうとするのなら、容赦なく叩き潰すだろう。

索敵範囲に入る。反応は1つ。少なくとも白吹雪さんでは無いので安心。見たことがない反応。大きさ的に姫級。こんなところで?

 

『代わるか』

「お願い。自衛はアサの方が得意だもの」

 

主導権をアサに渡し、接近してくる反応を見据える。

それは真っ白な深海棲艦。腹に接続された2本の蛇のような艤装が特徴的。片方を股下にくぐらせ、その速力を使い高速でこちらに接近してきた。

 

「くそっ、()()()()()()!」

「ちょっと待て、どういうことだ」

「駆逐艦にしては匂いが強いが、1体なら潰せる!」

 

突如魚雷を発射。完全に敵として見られている。今すぐ話が聞けそうにない。どうにか落ち着かせるべきだ。放たれた魚雷はアサが艦載機の射撃で破壊した。

 

「駆逐艦が艦載機だと!? 何なんだお前は!?」

「話を聞け! 私は敵対するつもりはない!」

「信用できるか! ()()はそう言って近付いてきて配下を皆殺しにしたんだ!」

 

今度は蛇のような艤装からの砲撃。形は違うがレキのようなものか。私は雪風さんとは違うので砲撃は避けざるを得ない。だがそうすると島が傷付いてしまう。アサはそれだけは食い止めるために、艦載機で砲撃をガード。何とか島は守ることが出来た。

 

「私は艦娘と共存する深海棲艦だ! 見ろ、こいつは艦娘だろう!」

 

隣に控える霞を見せて落ち着かせようとする。しかし、

 

「そいつの武器は同胞のものじゃないか! 油断させるための偽装だろ!」

「いや、それはさすがに」

「カスミが深海棲艦に見えたらもう病気だぞ。あいつ頭に血が上って目の前が見えてない」

 

だがこれはどうしたものか。攻撃を止めているだけではいずれジリ貧になる。だがこちらから攻撃するわけにはいかない。事情を聞かない限り、敵かどうかも判断できない。

色から見たら白だ。黒い私達に対して敵意を見せている辺り、派閥としては完全に白。穏健派の深海棲艦であることは間違いない。

 

「こちらにはお前以外の白もいる! いいから話を聞け!」

「信じられるか!」

 

疑心暗鬼に囚われてしまっている。説得が通用しない。こちらは回避と島の防衛に全力を尽くすしかないのも辛い。

そこにさらに敵が増える。この白い深海棲艦がやってきた方からだ。

 

「気配追加だ。先にそっちを片付けるぞ」

「ええ、任せてちょうだい。そのための私だもの」

 

索敵範囲に入った。数は少なくイロハ級のみが、戦艦などもいる。艦載機しか使えない私には荷が重い。相方が霞でよかった。

 

『目の前の白い深海棲艦と迎撃するしかないわね』

「そうだな。おい、そこの白いの! 後ろから来るヤツらを殲滅する! 手伝え!」

「挟撃するつもりじゃないのか!?」

「信用しろ!」

 

まだ信用は得られていないが、お互いの利害は一致しているはずだ。今は争うより、後ろから来た敵を倒すために共闘する方がいい。

 

「先に司令官には連絡しておいたわ。援軍が来るまで耐えましょ」

「さすがカスミだ。えらいぞ」

「こっちの姉さんに褒められるの……イイわね……」

 

これである程度時間を稼ぐことが出来れば十分に迎撃できる。白い深海棲艦が共闘してくれる意思さえ見せてくれれば、だが。

 

敵のイロハ級なら性質的に匂いが強い私を集中攻撃してくる。アサもそれがわかっているようで、いち早く島から離れた。これで回避しても島が破壊されるようなことは無くなるだろう。

案の定、白い深海棲艦を無視してこちらにターゲットを絞ってきた。寄せ餌と言われてどうしようかと思ったものの、敵の行動を制限することができるのなら、それはそれで有用かもしれない。

 

「何あれ、硬い!」

 

霞の魚雷が戦艦に直撃するが、一撃で撃破するまでいかない。まだ普通に動いてくるほどだ。ということは、あの深海棲艦は改造されている。

 

『全部改造されてるわね』

「ならあれも北端なんたらの手がかかってるってことか」

『おそらく。霞の魚雷で沈まないなら、そう考えるのが妥当よ』

 

未来予知を全て自衛に使うアサに攻撃が当たることはないが、攻撃を全て回避するとなると負荷はそれなりにかかる。休みに来たのに疲れさせられている。

 

「白いの! さっさと手伝え!」

「な、なんだこの状況は!?」

「考える前にヤツらを攻撃しろ!」

 

ダメだ、あの白い深海棲艦は使い物にならない。混乱でどうすればいいのかわからなくなっている。

 

「カスミ、まだ行けるか!」

「まだ大丈夫!」

「もう少しの辛抱だ!」

 

集中砲火は実力で回避し、攻撃は全て霞に任せきる。私にしか向かってこないので、霞も安全だ。寄せ餌も使い方次第ということか。いいじゃないか、囮戦法。イロハ級を集中させられるのなら、今後の戦術が組み立てやすい。

 

「来た! 援軍だ!」

 

索敵範囲に3人。霞の魚雷がなかなか効かない部分を補えるくらいの高火力。天龍さん、皐月さん、叢雲さん。全員白兵戦特化な辺り、近場で訓練をしていたのだろう。だが、これはありがたい。魚雷が効きにくいなら、それ以上の火力をぶつけたかった。

 

「スマン! 白いヤツ以外を頼む!」

「今はアサの方か! 任せろ!」

 

ここまで来れば安心だ。

強化された装甲も、いとも簡単に斬り伏せていく。天龍さんは言わずもがな、皐月さんと叢雲さんも相当な使い手。戦艦だろうと空母だろうと関係なしに突っ込み、海の藻屑に変えていった。

 

「朝潮、交代だ。そろそろいいだろう」

『そうね、変わりましょう』

 

主導権を渡され、私が表側に。自衛能力が落ちる代わりに、援護能力が強まる。戦場でもお互いの長所を入れ替えながら戦える。今日は初陣のようなものだったが、上手くいった方だ。

 

「霞、頭痛は?」

「ちょっとキツくなってきた。あとは3人に任せるわ」

 

少しだけ顔色が悪くなっている霞に寄り、敵は援軍の3人に任せた、ここまで来れば、私の寄せ餌の機能も関係ない。あちらが私を見た時点で首が刎ねられている。さすがに間近に敵がいるのに餌に食い付くほど愚かでも無いだろうし。

私は結局何も出来なかった白い深海棲艦の下へ。殴り合えるほど近くに寄っても、動揺から身動きが取れていない。本当に私が敵だったらどうするつもりなのだ。

 

「さて、お話しましょうか。白い人」

「おま、さっきまでの調子は」

「アサでは貴女と会話がしづらいでしょうから交代しました」

 

余計に混乱しているようにも見えるが、気にせず話を進める。

 

「貴女は何故ここまで?」

「お前も黒だろうが! 白を潰して領海を奪うつもりだろ!」

「なるほど、貴女の領海が黒に潰されたと」

 

あの敵を見ても、犯人は北端上陸姫だろう。私達ではなく、周りに手を伸ばし始めた。北の防衛線に気付かれることなく、こちらの方へ手を伸ばしているということは、白吹雪さんがやった遠回りによる南からの襲撃ルートを使っている。

 

「私は黒い見た目ですが穏健派です。私は貴女を救いたい」

「嘘を吐くな! 信じられるか!」

「貴女はそうかもしれませんが、この子達は懐いてくれましたよ」

 

この白い深海棲艦の艤装はウォースパイトさんのフィフと同様、意思を持つ自立型艤装のようだ。私の強い深海の匂いに反応したのか、2本の頭を私に擦り寄せてきている。深海棲艦化で美的感覚も変わったか、とても可愛らしく思えた。

 

「お前ら……」

 

艤装が私に懐いたことで、諦めたように警戒を解いてくれた。やっとまともに話が出来る。その頃には敵も全滅しており、血塗れの3人が近付いてきた時にもう一度警戒し始めたのは笑うしかなかった。

 

「私は……重巡棲姫だ」

「私は近海の鎮守府配属の駆逐艦、朝潮です」

 

白い人、重巡棲姫は、自分の領海にやってきた深海棲艦に配下を全て沈められ、逃げるようにここまでやってきたらしい。

 

「貴女の領海を侵略したのはどんな人だったんです?」

「あれは戦艦水鬼だ。だが、段違いに強かった。それと……こいつらみたいな艦娘が混ざっていた。深海棲艦の気配がしたから同胞だと思ったが……間違いだった」

 

皐月さんと叢雲さんを見て怯えたような顔をした。なるほど、白吹雪さんか。

 

「貴女の領海を奪った者は、私達の敵でもあります。一時的でもいい、協力しませんか」

「協力だと? ふざけるな! そういって私を誑かすんだろう! あの白いヤツもそうだった!」

 

信じたところで裏切られたのだろう。重巡棲姫は誰も信用できない状態にある。無理もない。

 

「なら、貴女は私達を利用すればいいんです」

「利用だと?」

「ええ。場所さえ教えてくれれば、私達が殲滅しますよ。私達は貴女を騙した白いヤツを倒したいんです。勿論戦艦水鬼も倒します。それだけが目的です。正直、貴女の領海には全く興味はありません」

 

どこに領海があるかは知らないが、下手な場所に拠点を作られると、鎮守府への一斉攻撃で防衛が非常に厳しくなる。それは避けたい。先んじて潰せるなら潰しておきたい。

 

「私の領海が戻ってくるのか?」

「はい、必ず」

 

目を見据えて話す。自分の特性も活かし、重巡棲姫を落ち着かせるように。

私の強い深海の匂いは、敵対するものには寄せ餌だが、仲間には精神を落ち着かさせる作用があるのかもしれない。事実、私に抱き付いて寝たレキさんはいつも以上にぐっすり眠っていた。

私を味方と認識してくれれば、混乱や動揺も無くなるはずだ。

 

重巡棲姫はひとしきり悩んだ後、納得したような目で見返してきた。

 

「……なら今回だけお前達を信じる。裏切ったら鎮守府とやらを破壊してやるからな」

「どうぞご自由に。私達は貴女を裏切りません。それに、仲間もいますから過ごしやすいと思いますよ」

 

なんとか折れてくれた。利用すればいいと言ったのに、信じてくれた辺り、元々は人がいいのだろう。そこを付け込まれてしまったから、どん底になるまで人間不信になったと。

あまりに気の毒。この人も救ってあげたい。

 

『本当にお人好しだな。だが白いフブキが絡んでるのなら私もやぶさかではない』

「私達以外に手を出すのはお門違いだもの。そろそろ後悔させてあげないと」

 

正攻法ではダメと踏んでのこのやり方なのかは知らないが、他人様に迷惑をかけるのは良くない。重巡棲姫が領海を奪われたのは、ある意味私達にも責任がある。それなら手伝ってあげなくては。

 




ヴェアア!って言わないと重巡棲姫はクールな感じになりますね。夏姫の時に近いか。
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