欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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2人の目覚め

鎮守府に帰投し、早々に入渠した私、朝潮。右腕を機雷に爆破されるという大惨事も、入渠してしまえばすぐに治る。

私の心配は、初霜さんと重巡棲姫にあった。

初霜さんは右半身を深海棲艦化させられ、さらにはそこで食い止めるために右腕が磨り潰されている。深海棲艦の身体は後付けの欠陥(バグ)もあり得るため、そこが不安。

重巡棲姫はやはりあの場で命を失っていた。だが身体が消滅していない。おそらく浄化されたと思うのだが、まだ起き上がるかもわからない。目を覚ますことを祈り、入渠ドックへと入れた。

 

「今回は散々な結果だったな」

 

思考の海、アサと対面する。入渠中は夜に寝ている時間よりも出会いやすい気がする。お互い夢の中に入ることが条件のようだ。

 

「感知出来ない機雷なんてどうすればいいんだか」

「経験則と……潜水艦に頼る……かしらね。私達の特性で、他に攻撃が行きづらくなるわけだし。潜水艦デコイの戦術は使わなくてもよくなるわ」

「そうだな。あの深海忌雷だけは私達の天敵だ。あれをどうにかできるようになれればいいんだが」

 

あの特性に関しては正直お手上げだった。私でなくてもいい、海中が見える人材さえいれば完璧。今後の戦場では深海忌雷が設置されている可能性がかなり高くなった。私に有効というだけで、北端上陸姫は嬉々として量産しそうだ。

 

「私は初霜さんの方が心配だわ」

「……まぁな。あの重巡棲姫が目を覚ましてくれればな」

 

帰投するまでの間、初霜さんはずっと重巡棲姫の亡骸に向かって泣いていた。自分の右腕のことなんて一切気にせず。

 

「身体のことはもういいんだけど、心のことはどうしても……ね」

「お前の波瀾万丈な人生を聴いてると、深海棲艦化が些細なものに思えるぞ」

 

初霜さんの身体と心に何処までの影響があるのかは気になるところである。今までの半深海棲艦とは違う形の半深海棲艦。先天性ではなく後天性。さらにいえば、身体の半分にだけ影響がある。混ざっているわけではない。

それが心にどういう影響を与えるか、私達にはまったくわからない。私達のように2つの精神が1つの身体に宿るようなことも無ければ、扶桑姉様のように精神が混じり合ってしまうわけでもない。初霜さんのまま、ゆっくりと堕ちていくような、常識だけを捻じ曲げられるような、そんな影響だったら怖い。

 

「まずは起きてからだ。主導権はそちらに渡しておく」

「ありがと。戦闘では助かったわ」

「いっそ私が戦闘担当ってことにしておくか?」

「それはダメ。私の方が後衛に向いてるもの。アサの出番は緊急時と単独戦闘のときだけよ」

「はいはい、わかってますよ」

 

お互い笑顔で思考の海から離れた。アサの笑顔が見られるのは私だけの特権だ。

付き合い方はちゃんとわかっている。私も、アサも、自分のやるべきことはわかっている。

 

 

 

入渠完了。ドックから起き上がる。いつものように瑞穂さんが服を三方に載せて待っている。今日は隣に春風とレキもいた。入渠をした中でも、私はトップクラスに危険な状態だったのだ。皆にも心配をかけてしまった。

 

「どれくらい時間経ちました?」

「もう夜になります。もう少しで夕食というところです」

「割と早かったですね」

 

服を貰ってすぐに着替える。さっきまでは流れでアサの服だったが、今回は私の方。

私の他、2つのドックはまだ閉まっていた。片方は初霜さん、もう片方は重巡棲姫。

 

「どちらももう少しだそうです。ここで待ちますか?」

「そうですね。どちらも心配だったし……もう起きるならここで待ちます」

 

服を着替え終わったところでレキに抱きつかれる。私が余程心配だったのだろう。頭を撫でてやる。

 

「起きてよかった……アサ姉ちゃん、血が凄い出てた……」

「心配かけてごめんねレキ。大丈夫、私はそう簡単には死なないわ」

 

右腕の感覚を確かめる。深海棲艦の身体となってからは少し怖かったが、後天性の欠陥(バグ)は出来ていないようだ。一安心。

 

「初霜さんから薄く深海棲艦の気配がするのね……」

「半分は侵食されていましたから……。深雪さんのように、右半身だけだそうです」

 

ここにいる全員が深海棲艦の気配を感じることができる。私の気配が邪魔ではあるらしいが、初霜さんの薄い気配も至近距離ならわかるようだ。

言っていると、入渠ドックが開いた。初霜さんが目を覚ます。

 

「お疲れ様です。初霜さん」

「はい……お疲れ様です……右腕は動きますね……よかった」

 

ドックから出る。その時点で以前とは少し違っていた。

右側の額にのみ角のようなものが出来上がり、右の瞳だけ蒼く染まってしまっている。その他、肌の色も右側だけ深海棲艦の要素を強く含んでいた。一番大きかったのは右の前腕。深海忌雷が刺さっていたところから全体的にヒビ割れのような痣が出来ている。私の背中にも似たようなものがあるのかもしれない。

 

「……これが深海棲艦化の証ですか」

「これだけで済んで良かったと思うべきです」

「朝潮さんに言われるとぐうの音も出ないですね」

 

苦笑された。

明石さんから用意された制服も以前と変わらず。袖をまくっているので、右腕の痣は丸出しな状態になってしまうが、初霜さんはこの痣があってこそ今自分がここにいられるのだとそのままにした。

 

「もう大丈夫かい?」

 

着替え終わるのを待っていた司令官が入ってきた。重巡棲姫の様子を見にきたついでに、私達の検査の結果を聞きにきたらしい。私は何事も無かったので前回と変わらず。問題は初霜さんの方である。

 

「初霜の身体は半分深海棲艦です。右半身だけですね」

「深雪君と似たようなことかい?」

「全然違います。初霜、艤装を出すこと出来る?」

 

言われてすぐに艤装を展開した初霜さん。深海棲艦化の影響が右半身だけとなると、いろいろと厄介なことがあるようだ。

まず第一に脚部艤装。右足は深海艤装だが左足は艦娘の艤装である。速力を合わせないと、移動すら不便。次に武装。右腕に深海忌雷が侵食した時に出来上がった主砲があるとはいえ、バランスがとてつもなく悪い。腰に装備していた魚雷も右側だけ。機関部だけが深海側に寄せられている状態。

 

「左側には深海艤装が装備できません。なので、バランスを取った独自の艤装設計が必要です。最低限、脚部艤装だけはすぐに間に合わせますよ」

 

攻撃力が上がっているようで、実はおそろしくピーキーな仕様になってしまったというところ。右と左で使い勝手がまるで違う。慣れるまでに時間がかかりそうだ。

 

「あとは……頭の中ですね。基本的には初霜のままです。ただし……朝潮と似たような傾向があります」

「あ、察しました」

「デリケートな問題なわけだね。聞かないでおくよ」

 

私はさっき着替えていた初霜さんを見ているのでわかっている。趣味趣向が深海寄りになってしまったわけだ。以前までとは大きく様変わりしていたので、まさかとは思っていたが。

 

「半分だけだったおかげで、初霜は初霜のままです。艤装だけは明日から慣れていってもらわないといけませんが」

「それだけで済んだのなら問題無いですね。これからは半深海棲艦の初霜として、よろしくお願いします」

 

仲間が増えたと喜んだのは春風であった。傾向がまるで違うので仲間と言っていいものかはわからないが、近しい存在であることは確かである。

 

 

 

それからまた少しして、最後の入渠ドックが開いた。一同、緊張した面持ち。当然ながら全裸なため、司令官には退席願った。

 

「ん、んぅぅ〜」

 

以前までの重巡棲姫とは打って変わって気怠そうな声。瑞穂さんと水母棲姫のように、元とはまるで違う人格に変化してしまったようだ。少し複雑な気分だが、初霜さん的には生きているだけでも嬉しい様子。

 

「ん〜あ〜……ここ何処です〜?」

「私達の鎮守府ですよ」

「あ、そうでしたそうでした〜。一度来ましたもんね〜。あ、ハツシモ、無事で良かった〜」

 

無事と言えるかはわからないが、初霜さんの姿を見て喜びながら抱きついた。記憶もしっかり残っている。初霜さんを助けたこともしっかり覚えているようだ。だが、先程までとあまりにも違うため、私は動揺が隠せないでいた。

 

「えっと、何とお呼びすれば」

「あ、は〜い。元重巡棲姫の、Zara(ザラ)級重巡3番艦、Pola(ポーラ)です〜。何にでも挑戦したいお年頃〜。頑張りま〜す」

 

緊張感のない間延びした話し方。今でも微睡んでいるのかというくらいトロンとした表情。何度でも言える。前と違いすぎる。記憶が残っていても嘘なんじゃないかと思えるくらいである。

だが、誰がどう見ても元重巡棲姫であるという証拠があった。大きく裂けたような腹。重巡棲姫の時は艤装の接続部だったわけだが、ポーラさんのコレは初霜さんの右腕と同様、大きな痣となっている。

 

「浄化されて……生きていてくれて本当に良かったです。私は貴女にお礼が言いたかった。それに謝りたかった」

「ハツシモ、大丈夫、大丈夫です。ポーラを撃ったのはハツシモじゃなくて深海忌雷だから、謝る必要はないですよ〜。いいこいいこ〜」

「う……うぅぅ……」

 

泣いてしまった初霜さん。それを慰めるためにも、ポーラさんは落ち着くまで撫で続けていた。

 

しばらく泣いたことで初霜さんも落ち着き、ポーラさんも用意された服を着る。これでやっと司令官が中に入ることができるようになった。

入渠中にされた検査の結果、ポーラさんにはこれといった欠陥(バグ)は発見されなかった。しかし、

 

「う〜ん……ポーラ、定期的にお酒飲まないといけない体質で〜。ほら〜、アルコールが抜けると手が震えちゃうんです〜」

 

Zara級重巡のPolaという艦娘は、ドロップ例が少なめではあるものの、大本営が建造することに成功した報酬艦である個体。

その全ての個体に共通している特徴が『酒』である。とにかく飲む。いつでも飲む。毎日飲む。ずっと飲む。1日の半分を酔って過ごし、もう半分を寝て過ごすという、話だけ聞いたら艦娘として大丈夫かと思えるような人である。

 

「それはオススメできないね。夜はしこたま飲めばいいから、少し我慢しなさい」

「え〜」

 

不満顔である。完全にアルコール依存性。

 

「ポーラさん、この後夕食なので、その時に飲みましょう。晩酌くらいなら私も付き合いますから」

「ハツシモは優しいですね〜。じゃあ一緒に飲みましょう〜」

「私は子供ですから飲みませんからね?」

 

この後、全員を巻き込んで乱痴気騒ぎになるとは思わなかった。その中心にいたのがポーラさん。歓迎会と称して飲ませたのが運の尽き。周りに振る舞い、自分でも飲み、飲めない者にも飲ませて大変なことに。

 

 

 

駆逐艦(こども)は相変わらずこっそり逃がされ、全員が大部屋へ。シンさんとレキさんは深海棲艦組がうまく逃した。

こうやってみんなで寝るのもあと僅か。残った時間を有効に使うため、あちらの乱痴気騒ぎに乗じてこちらではかなり久し振りの駆逐艦定例会。お布団が敷き詰められた部屋に、ジュースやお菓子を持ち込むというのは少し悪いことをしているような気がして楽しい。

駆逐艦も増えに増え、今では総勢20名。当然鎮守府では一番多い艦種であり、パワーバランスもめちゃくちゃ。ここにはこの鎮守府にいる全ての種類の駆逐艦がいる。ついにまともな艦娘の方が少なくなるとは思っていなかった。私も深海棲艦となったので、もうまともではない。

 

「初霜まで変わっちまうとはなぁ」

「深雪さんと似たようなものですよ。私も半分だけですから」

 

今回集中砲火を受けるのはやっぱり初霜さん。

今までは雷撃担当として堅実に戦っていた初霜さんが、今回の一件で弾けてしまったようなものだ。明日以降に今後の戦い方を決めることになるが、それでも今まで通りに行かないのは確実である。

 

「これがあの時刺さってた痣なのね」

「ここから根を張ってるらしいです。腕だったから右半身だけで済んだと」

「姉さんみたいに背中だったらもっとまずかったってことね……」

 

右腕を撫でる。ただの痣となっているので何も違和感が無いらしい。重巡棲姫(ポーラさん)のおかげで深海忌雷の破片もなく、痣以外は綺麗なものだった。

 

「対処が遅かったら、私は戻ってこれないところまで行っていたかもしれない。ポーラさんには本当に……いくら感謝してもしきれません」

「あの深海忌雷が私の時とは違うものになっていた可能性もありますもんね……本当に良かった」

 

私の時は、私の身体が敵対することを見せつけるという意味合いもあり、元の精神を密閉情報(ブラックボックス)に閉じ込めていたが、初霜さんの場合、元の精神がそのまま染められていたかもしれなかった。一度変化したら戻ってこられない可能性もあったのだ。

 

「ところでさ、やっぱ初霜も深海棲艦化の影響あったりするのか?」

「そうですね……深海棲艦の気配というのが薄っすらですがわかるようになりましたし、右目だけですが夜目が利くようになりました」

「片目だけ夜目が利くってのはあたしと同じだな」

 

半分だけの侵食でも、深海棲艦の特性は手に入れている様子。気配がわかるのと夜目が利くのは、戦場でも役に立つ力だ。気配に関しては私が邪魔をしてしまうので少し申し訳ないが。

 

「それと……この身体になってから、朝潮さんがとても魅力的に見えるようになりまして……」

「ん? 流れ変わったな」

「なんでしょう……この気持ち。朝潮さんの気配を感じるととても落ち着くというか……ずっと感じていたいというか……」

 

これはもしや、重巡棲姫の艤装にも作用した、強い深海の匂いへの反応では。自立型艤装が懐いてくるほどだ。これはどんな深海棲艦にも何らかの作用があるとみていいかもしれない。薄くでも感じられる初霜さんも例外ではないということだ。

 

「初霜さんも気付かれましたか」

「春風さん……はい、私、気付いちゃいました」

 

春風も半深海棲艦なのだから同じように影響を受けているのだろう。態度はほとんど前と変わっていないが、あちらからすれば私への感覚が変化している。

不意にこちらを見つめてきた初霜さん。瞳がキラキラしている。右目に至っては閃光が走っている。

 

「朝潮さん……」

「は、はい、なんでしょう」

 

少し潤んだ瞳で詰め寄られる。何故だろう、恐怖を感じた。

 

「この気持ちは何なのでしょう……まさかこれが……恋?」

「私の強い深海の匂いに反応しているだけです。深海棲艦化の弊害です」

 

初霜さんってこんなキャラだったっけ。

 

「これは朝潮さんがその気配を抑え込むことが出来るようになったら消えてしまう気持ちかもしれません。ですが、私はこの一時の感情に素直になってみてもいいかなって思ってます」

 

妙にアグレッシブになっている初霜さん。詰め寄るスピードが上がる。私の後退るスピードも上がる。周りのボルテージも上がる。

 

「はいストップ。いくら初霜でも()()姉さんに詰め寄るのは看過できないわ」

 

霞が間に入る。少し言い方が気になったものの、助かった。

 

「霞さん、ここはむしろ一致団結するときです。朝潮さんの信奉者が多くいるのは私もわかっています。大潮さんと春風さんとレキさんも加えて、輪形陣で朝潮さんを」

「……悪くないわね」

 

助かってなかった。ミイラ取りがミイラになってどうする。

緊急時なのだからここはアサと交代すべきでは。うん、それがいい。と思ったら交代ができない。強引な交代を見越したか、アサも防御の体勢。絶対に主導権を渡されないという覚悟を感じる。こういう時ばっかり。

 

『朝潮はいろんなヤツに好かれるな。誇れよ』

「ぐぅ、アサまで……!」

「観念してください朝潮さん! 夜は長いですよ!」

 

最終的には私が全員を薙ぎ倒して終わったが、これからはもっと周囲に警戒しないといけない。

深海の匂いが強まるというデメリットは、想定以上だった。初霜さんまでこうなってしまうというのは予想外。




カウンターバーのラインナップを確認すると、実は初霜はお酒飲めます。朝潮は飲めませんが、霞や春風は飲めます。春風は予想外のワイン派。でもここでは駆逐艦は子供ゆえにお酒は飲めないということにしています。提督がそれを許さないでしょう。



あと、ゲームの方で朝潮とケッコンカッコカリ出来ました。我が鎮守府では4人目の指輪持ちとなります。ここの主人公だもの、贔屓にしてあげなくちゃ。
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