欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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和らぐ狂気

初霜さんの実戦訓練を見届けた後は昼食の時間。司令官の監視下に置かれたポーラさんは、部屋の隅で扶桑姉妹の監視の下で食事中。アルコールが身体から抜けるまではまだ時間がかかるため、その間にこっそり飲んでいないかどうかを任せたらしい。そもそもこっそり飲むという状況がおかしいのだが。

 

「ああ……朝潮……なんだかこうするのも久しぶりな気がするわ……」

 

扶桑姉様は私、朝潮の姿を見るなり自分の膝の上に乗せて後頭部に頬擦り。私が深海棲艦化してから、あまりにバタバタしすぎていて、扶桑姉様とは離れていることが多く、山城姉様に任せきりだった。

 

「ごめんなさい扶桑姉様。私もいろいろありまして」

「大丈夫よ……理解してるつもり……。それにしても……一段と妹になってくれたわ……」

 

海峡夜棲姫の妹は黒髪で青い瞳だったそうだ。つまり、今の私とほぼ同じ。変化する前はカラーコンタクトで瞳だけはどうにかしようとしたが、今はもう純粋に変色している。強すぎる深海の匂いも相まって、扶桑姉様の私への感情はより一層依存に近いものになっている。

 

「ああ……可愛い妹……久しぶりに妹の服にお着替えしてほしいの……。きっと前より似合ってるわ……角も……ああ……本当に妹なのよ……満たされる……とても満たされるわ……」

 

午後からは扶桑姉様に時間を使ってもいいかもしれない。私が封印されている間は気が気でなかったようだし、アサと出会ったときも山城姉様が何とか抑えていたが私をどうにかしたくて仕方ないような顔をしていた。

 

『随分と優しいな』

「扶桑姉様は私で安定しているんだもの。それに、私の姉になってくれたんだから、尽くさないと」

『朝潮の姉ってことは、私の姉でもあるのか。ふむ……朝潮、少し変わってくれ』

 

妙なことをしなければいいが。思惑はわからないが主導権を渡す。

 

「……あら? 交代したのかしら……」

「フソウ、聞きたいことがある。朝潮がお前の妹なら、私はお前の何になるんだ?」

「そうね……貴女も朝潮なんだから……妹ね……。貴女に代わると……深海の匂いが強くなる気がするわ……心地いいの……」

 

それは知らなかった。アサが表に出ている方が匂いが強まるのか。精神と身体が一致するからだろうか。

 

「わかった。ならフソウ姉さんと呼ばせてもらおう。……なんだかこそばゆいな」

「あ、ああ……朝潮から生まれたアサにも姉と呼ばれたら私……満たされすぎる……幸せすぎね……」

 

扶桑姉様の顔が今までにないくらい緩んでいる。本来ならあり得ない、深海棲艦の2人目の妹だ。扶桑としての妹と、海峡夜棲姫としての妹が揃った今の状態に、イレギュラーな3人目の妹が増えたことで、扶桑姉様の幸福に対するキャパシティが溢れてしまった。

 

「朝潮に続いてアサまで妹になったから、姉様が凄い顔してるわよ」

「ヤマシロも朝潮の姉に当たるんだろう。なら、ヤマシロ姉さんだな」

 

山城姉様の顔も若干緩む。末っ子故に妹がいてもいいと思っているとは本人も言っていたが、いざ増えたらこの反応である。似た者姉妹。

むしろこれは私と正反対の性格であるアサが姉と認めたことによる違う方向での幸せなのかも。

 

『貴女も結構な()()よね』

「お前には絶対に言われたくない」

 

 

 

昼食も終わり、ポーラさんをまた執務室に引き渡したことで監視も終了、扶桑姉妹は共に非番に。ここ最近は2人で警護任務ばかりに出ていてお休みが無かったそうなので、扶桑姉様が私で癒されたいとのこと。

3人で談話室に入る。ちょうどいいことに誰もいない。

 

「やっぱり妹とのふれあいが一番癒されるわ……」

 

先程と同じように、膝の上に乗せられ後頭部に頬擦りされる。さらには服も朝潮型の制服から海峡夜棲姫の着物に。深海の服だからか、アサも割と気に入っていた。

私が強く抱きしめられており身動きが取れないため、山城姉様がお茶を淹れてくれる。日に日に上達しているらしく、毎日のように司令官に出しているようだ。山城姉様を応援している私としては、これからも頑張ってほしい。

 

「姉妹でゆっくりするのは久しぶりな感じね」

「援軍に一時帰投してもらってからは、警護に出ずっぱりでしたもんね」

 

白吹雪さんのパワーに対応できる2人だからこそ、警護に引っ張りだこになってしまう。扶桑姉様が襲撃してきたときに、その危険度は周知の事実だ。

私の予想では白吹雪さん自身が鎮守府を襲撃してくることは無いと思っている。あちらも扶桑姉様との交戦は避けるだろうし。

 

「今は戦闘のことを忘れて、身体を休めなくちゃ」

「そうですね。筋トレも休み休みな方がいいらしいですし」

「筋トレは毎日よ。お風呂の力でその辺りがショートカットできるわ。朝潮、アンタ最近ちゃんとやってる? 衰えてはいないようだけど」

「最近できてませんね……。再開したいと思います」

 

言われると、ここ最近は前ほどやれていないと思う。アサが私の中に入ってからは疎かになっている。

 

『艦娘に筋トレなんて必要ない……わけじゃないな、姉さん達を見てると』

「最近はバタバタしてたから出来てないわね……。アサ、貴女も気付いたらジムに行ってよね」

『筋トレなんてどうやればいいのかわからないぞ』

 

今後は本格的に護身術も必要になってくると思う。主に身内から身を守るために。

昨晩は添い寝の権利を手に入れるために、本当に私を中心とした輪形陣を組まれ、周囲から襲われるという事件が起きた。周りは盛り上がっていたが、私としては気が気でない。特に初霜さん、割と本気で押し倒そうとしてくる。押し倒して抱きつけば添い寝完了という雑なルール。全員をどうにかした私を褒めてほしい。『未来予知』までしっかり使って対処したほどだが。

 

「朝潮……貴女はゆっくり身体を休めた方がいいわ……」

「大丈夫ですよ。私も今すごく癒されてますから」

「ならもうしばらくこのままで……」

 

少しすると扶桑姉様が居眠りを始めてしまった。こんなに緩んでいるのは初めてみるかもしれない。これもまた、私の深海の匂いの効果のうちなのかも。

 

「姉様が寝ちゃったわ……珍しい」

「うたた寝している扶桑姉様なんて初めて見ます」

「私達以外にはずっと警戒してるもの。アンタが出ていった時、私は片時も離れてないわよ」

 

完全妹主義ということは、逆に言えばそれ以外は全て敵と同じようなもの。ある意味変化前の初霜さんと同じ状況なのかもしれない。私と山城姉様が仲良くしているから、社交辞令で仲良くしているフリをしているに過ぎないとか。

それがいつ誰が来てもおかしくない談話室でこんな無防備な姿を見せるだなんて。少し前では考えられないことだ。

 

「アンタが忙しいのはわかってるけど、たまにはこうしてあげて」

「はい。私も癒されますから」

 

扶桑姉様の温もりで、私も少し眠くなる。出来ることならこの安眠は妨げられたくない。ということで

 

「瑞穂さん」

「お任せください。春風さんと初霜さんから朝潮様をお守りします」

 

さすがである。今まで姿形も見せていない瑞穂さんも、呼べば本当にその場に現れる。話の内容まで全て把握して。

電探の反応的には常に談話室の外にいたみたいだが。山城姉様はこの現れ方にはまだ慣れていない様子。

 

「いつもありがとうございます瑞穂さん。今度労わせてください」

「その言葉だけで、瑞穂は満たされます。これ以上を求めてしまうと瑞穂はさらに罪を犯してしまいそうです……」

 

スッと姿を消した。

 

「本当に神出鬼没ね……」

「でも助かります。感謝しているんですが、なかなか労わせてくれません」

「アンタは今は自分のことを考えなさい。瑞穂に頼んだってことは、ここで寝たいんでしょ。ほら、私も見ててあげるから」

 

気を緩ませるとすぐに睡魔に襲われた。やっぱり私は疲れているらしい。そういえばアサの反応も薄くなっている。あちらはあちらで眠ってしまったのかも。

 

時間にしては小一時間程度。扶桑姉様とのお昼寝は霞やクウの添い寝とはまた違った心地よさだった。

 

 

 

私達の安眠は瑞穂さんが守り切ってくれたようで、談話室の外には、縄で縛られた挙句、猿轡まで咬まされた春風と初霜さんの姿があった。そしていい仕事をしたと満足げな瑞穂さん。

さすがにこれを見て、扶桑姉様も呆れ顔である。

 

「朝潮……本当に人気ね……」

「最近は敵からも人気なので……」

 

見かねた山城姉様が猿轡を取ってあげた。

 

「何やってんのよアンタ達……。春風はともかく初霜まで」

「私は本能に逆らわないことにしたんです」

「半深海棲艦化の影響ってそういうことね。性格まで変わっちゃってまあ」

 

目の中がぐるぐるしている。春風も初霜さんもやっぱり暴走している。私のせいだと思うと、罪悪感が出てくる。

 

「……貴女達は……朝潮の安眠を妨害しようとしたのね……」

「そういうわけでは。朝潮さんの可愛らしい寝顔を見たくてここに来たら、瑞穂さんにこうされただけです」

 

見るだけでは終わらなそうだから、瑞穂さんはこうしたんだと思う。

 

「お仕置き……しましょうか。デコピンで許してあげる……」

「ひっ……」

 

知っている春風は扶桑姉様のデコピンと聞いただけで竦み上がってしまった。対する初霜さんはデコピンくらいならと余裕そうな表情。知らないということは、いいことでもあり悪いことでもある。

 

「先に春風……覚悟なさい……」

「あ、あの、本当に申し訳ございませんでした。出来ることならデコピンは勘弁していただきたいかなと思うので」

 

などと命乞いをしている最中に一撃。以前の電さんのように脳震盪を起こし、白眼をむいて気絶してしまった。あまりに想定外のことなので、初霜さんの表情が強張るのがわかった。

 

「初霜さん、こんな状況で伝えるのは心苦しいのですが……扶桑姉様のデコピンは、艤装を粉砕する威力がありますので」

「そ、そういうのは、早く言ってほしかったです。あ、でもちゃんと伝えてくれる朝潮さんは優しくて素敵だと思いま」

 

こちらも話している最中にデコピンを喰らい、強制終了。同じように気絶。額から煙が出ているように見えた。もうデコピンじゃなくて、超小口径の弾が着弾したかのような感じ。

 

「アンタの体質なんだっけ? 厄介なものね」

「これに関してはもう受け入れることにしました。初霜さんもいろいろと変われて喜んでいましたし」

「まぁ……それならいいか……」

 

気絶した2人を談話室に放り込んだ。縄も解いてやり、起きたらすぐに行動できるようにしてあげる優しさ。

 

「初霜までああなっちゃうってことは、もしかして姉様にも結構影響出てるんじゃないの?」

「そう思いますが……扶桑姉様、私の側だと何かおかしくなりませんか?」

「……あそこまでじゃないけど……多少はあるかもしれないわね……前より可愛く見えるわ……私の妹だもの……仕方ないわよね……」

 

調子が変わっていないだけで、しっかり扶桑姉様にも効いている様子。暴走しないのは扶桑姉様が大人だからか、それとも狂気に呑まれた結果最初から暴走しているからか。それは私にはわからない。

 

「今日は……ずっと一緒にいましょうね……。今まで我慢してきたんだもの……いいわよね……」

「はい。大丈夫です。夜の大部屋も一緒に寝ましょう」

「そうね……それがいいわ……」

 

大部屋でみんなで眠るのも今日で最後だ。明日には私室の修繕も完了し、鎮守府再建が全行程完了となる。その最後の大部屋は、扶桑姉様と一緒に寝よう。もう争いも起こさせない。

 

少し不安なのは、扶桑姉様がポーラさんに酔い潰されないかどうかくらいだ。昨日の夜の乱痴気騒ぎ、私達子供は大部屋に撤退したが、本当に見るも無残な状態だった。朝起きても大部屋にはほとんど戻ってきておらず、食堂で潰れていた。そういうところをなかなか見せない龍田さんがギリギリ。

検査のために禁酒させられているポーラさんの反動が恐ろしい。下手をしたら駆逐艦にも飲ませるかもしれない。そこはもう、司令官の手腕に任せる。

 

「今日は……私と山城で朝潮を挟んであげましょう……」

「あ、それすごく助かります。昨日は酷い目に遭ったので」

「ああ、霞から聞いたわ。添い寝の権利を賭けたバトルロイヤルが開かれたとか」

 

あながち間違っていない。

 

「私が全員倒して終わりました。結局私の隣には瑞穂さんがいましたね。壁際に行ったんで」

「瑞穂もしこたま飲んでた気がするんだけど……」

「朝潮様の身を案じて、瑞穂は酔わない程度にしていましたから」

 

事実、あの時も呼んだらすぐに来た。助けを求めたが妙に練度が高い輪形陣のせいで私の側には来れず、歯痒い思いをしたらしい。結局私が全員薙ぎ倒した後の護衛を引き受けてもらうことに。

 

「私も……朝潮と一緒に朝を迎えたいわ……。山城がいるのもいいのだけれど……朝潮も必要なの……2人いて初めて満たされるんだもの……今日は満たされ続けるわ……」

「はい、満たされ続けてください。私もお手伝いしますから」

 

いつになく緩い雰囲気の扶桑姉様。本当に心が満たされているんだなと実感する。私と山城姉様が近くにいるだけで幸せだというのなら、喜んで側にいよう。

最近では鎮守府の皆ともある程度は話も出来ている。山城姉様が近くにいるからというのもあるかもしれないが、諍いもなく、平和に過ごせている。狂気も薄れてきている気がする。

 

「扶桑姉様、この鎮守府は楽しいですか?」

「……ええ、楽しいわ……朝潮がいて……山城がいて……壊そうとした私を皆が受け入れてくれて……私は幸せ者ね……」

 

出会い方は最悪ではあったが、扶桑姉様はちゃんといい方向に進めている。今の関係も、最初は救いたい一心だったが、今では愛しい姉様だ。一緒にいれば、お互いに満たされる。

 

「妹とお散歩なんて……満たされるわ……」

「いくらでもしましょう。ねぇ、山城姉様?」

「そうね。これくらいなら毎日出来るわ。扶桑姉様は満たされなくちゃ」

 

今までの不幸を忘れるくらい、ここで幸せになってもらわなくてはいけない。




扶桑姉様の完全妹主義は朝潮の体質で悪化していそうですが、元々が元々なので何もないように見えます。朝潮を抱きしめているときの幸福感が増していたり、頬擦りの密度が変わったりと、地味に効いている状態。
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