欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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繋がり

大部屋で起きる最後の朝。私、朝潮は珍しく萩風さんの総員起こしまでグッスリと眠った。両隣の扶桑姉妹の温もりで、とても気持ちいい朝を迎える。目覚めもすごくいい。

 

「おはよう朝潮……いい朝ね……」

 

扶桑姉様はかなり早く起きていたようで、ずっと私の寝顔を眺めていたらしい。少し恥ずかしいが、それで幸せになってくれているのなら安いものだ。

 

「おはようございます」

「この時間がもっと続けばいいのに……起きるのが惜しいわ……」

 

頭を撫でてくれた。扶桑姉様に撫でられると少し違う感覚がして気持ちいい。狂気に呑まれているとしても、妹に対する愛情が込められているのがわかる。長女だからか、姉の存在はとても嬉しいものだった。

 

「お部屋に遊びに行きますよ。また一緒に寝てください」

「ええ……朝潮と山城に一緒に寝てもらうと……とてもよく眠れるの……また……お願いね……」

 

私もよく眠れた。またお願いしたいくらいだ。

 

 

 

朝には昨日救助した第十七駆逐隊の4人が目を覚ましていた。阿奈波さんからここがどういうところかは事前に聞いていたようで、ある程度は理解した状態だったらしい。

 

「こいつぁ何かい、コスプレか何かかい」

「残念ながら本物の角です」

「朝潮にそっくりな深海棲艦なんですね」

「残念ながら朝潮本人です」

 

それでも私の姿は想定外のようだ。そういえばこの姿になってから外部の艦娘に会うのはこれが初めて。こういう反応をされるのか。

谷風さんには角を触られ、浜風さんには舐めるように観察される。物珍しいのは仕方がないとは思うが、ちょっとこれはやり過ぎなのでは。

 

「話には聞いていたが、こうも違うとはな」

「深海棲艦そのものじゃねぇ」

 

磯風さんも浦風さんも加わり私を囲う。輪形陣で襲われるのは初めてではないが、4人とも私よりも身長が高いので、威圧感がすごい。外の鎮守府の方々なので薙ぎ倒すわけにも行かず、やられ放題になってしまった。

 

「こらこら君達、朝潮さんが困っているよ」

「こういう扱いも慣れているので……。あの、谷風さん、角を撫で回すのやめてもらえませんか。これ一応神経繋がってるんです」

「へぁ、そうなのかい! そいつはごめんねぇ」

 

阿奈波さんに言われてようやく離れてもらえた。

 

「艤装の修理も終わったよ。帰投はいつでも出来るが、どうする?」

「鎮守府を空けるのは抵抗がありますので、すぐにでも帰投しようかと。ですが、僕達が帰投する手段がありませんね」

「この磯風が担いでいこうか」

「やめてほしいかな」

 

本来乗っていた船が破壊されてしまったせいで、帰ることが出来ない。結果的に、大発動艇を貸し出すことになるのだが、第十七駆逐隊の4人のうちに大発動艇を運用できる艦娘はいない。結果的に、こちらの艦娘が送っていくことになる。

 

「天龍君、龍田君。彼らを鎮守府まで送り届けてもらえないかな。龍田君は大発動艇の運用が可能だ」

「了解だ。龍田、いいな?」

「は〜い。天龍ちゃんがいるのならやるわ〜」

 

珍しく天龍型姉妹にそういったことを任せるようだ。おそらくだが、理解者ではあるものの初めて行くような鎮守府には、外見を気にした方がいいという判断なのだろう。救助はスピード勝負だったこともあるので外見は気にしなかったが、鎮守府への送迎となると話が変わる。

特に、阿奈波さんの鎮守府は大本営に近い場所にあるらしい。尚のこと気にしなくてはいけないことだった。

 

「天龍君、ちょっと」

「おう、どうした」

 

司令官と天龍さんが何やらこそこそ話をしている。今回の送迎、もしかしたら何か意味があるものなのかもしれない。

 

「了解。じゃあ帰りが少し遅くなるかもしれねぇから」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

龍田さんが大発動艇を用意し、阿奈波さんと佐久間さんが乗り込む。名残惜しそうにこちらを見てくるが、こればっかりは仕方の無いことだ。

 

「朝潮ちゃん、また来るからね」

「はい。お待ちしています。佐久間さんは良き理解者ですから」

 

昨晩あれだけしか話をしていないが、全員の緊張は解けていた。ノリが軽く、やたら触ろうとしては来るものの、悪意は感じない。研究者としての単純な好奇心と、少し違う感情の表れ。

 

「随分と仲良くなったんだね」

「毛嫌いされなくてよかったよ。阿奈波君もこういうところと繋がり持った方がいいよ。特にここ、赤い海からも近いしね」

「……そうだね」

 

そういえば、赤い海を研究するために来ているんだった。佐久間さんがあまりにも深海棲艦推しだったため忘れていた。

 

 

 

皆を見送ってから、司令官が大きく溜息をつく。

 

「どうしました?」

「佐久間君はいいんだが……阿奈波君は少し警戒した方がいい。彼はどちらの息もかかっている」

「えっ……それじゃあ……」

 

元帥閣下との繋がりがあるからこそ私達の鎮守府に救援を頼んできたが、それ自体が上層部の策略の可能性もあるということ。

元帥閣下は私達のやり方を肯定してくれている理解者だが、上層部はそうではない。手のひらを返して容認しているものの、毛嫌いしているのは変わっていないだろう。

 

「阿奈波君も純粋に理解者なら、送迎は皐月君にやってもらうつもりだった。が、裏がありそうだったのでね。杞憂ならいいんだが……先にこちらも手を打っておこう」

「元帥閣下に連絡ですか?」

「ああ。万が一に備えて、打てる手段はいくらでも打っておくよ。君達の居場所は必ず守る」

 

こんなことで鎮守府解体なんてことがあったらやりきれない。私達もそうだし、司令官もそうだ。今までの功績があるにしても、さらに手のひらを返されたら終わり。

 

「あの、元帥閣下への連絡、私もいいですか」

「そうだね。ご機嫌取りみたいで申し訳ないが、よろしく頼むよ。一度君の現状を話した時に大変なことになったからね」

 

深海棲艦化する前に一度連絡した時、地位など関係なく全てを投げ打ってここに来ようとしたのだ。一度、ちゃんと声を聞いてもらいたい。

 

執務室、早速元帥閣下に連絡を取る。最初は鎮守府再建の目処が立ったことを伝え、最終決戦に向けての打ち合わせをしたいというところから。それも勿論重要なことだ。いきなり敵陣に乗り込むことになるかはわからないが、力添えしてもらえるならあんなに頼りになる人達はいない。

そして本題。昨日救助した人達のこと。元帥閣下も、阿奈波さんのことは気にかけていたらしい。どちらにも靡く可能性があるということは、いくらでも裏切られる可能性があるということ。ゆえあれば寝返るとなると、気が気でない。

 

「お久しぶりです、元帥閣下」

『朝潮ちゃんや、話は聞いておるよ。身体は大丈夫なのかい?』

「おかげさまで。ただ、あの時とはまた状況が変わりまして……今の私は深海棲艦なんです」

 

受話器越しに、元帥閣下の息が止まるのがわかった。

 

「だ、大丈夫ですから。身体が変わっただけで何事もないです。ほんの少しだけ鎮守府から出て行ったこともありましたが、大丈夫、大丈夫ですから」

『本当に? おじいちゃんすごく心配』

「あと私の中に深海棲艦が住むようになりましたが大丈夫です。っと、今はそのことより、阿奈波さんのことです」

 

私からの説明もあり、元帥閣下はほぼ二つ返事で了承してくれた。今からそちらの鎮守府にも出向いて話をするとのこと。

元帥閣下としても、私達の鎮守府を無くすのは惜しいらしい。本当に貴重な深海棲艦と共存できている鎮守府のため、出来ることなら戦闘行為すら禁じたいくらいだそうだ。だがそんなことをしたら北端上陸姫に押し潰されて終わってしまう。自衛は大事である。

 

『加藤の娘なら、儂の孫みたいなものじゃ。悪いようにはせんよ。こういうときに地位を使わんとな』

「ありがとうございます、おじいちゃん」

『いやいや、孫の頼みを聞くのがおじいちゃんの務めじゃ。もっと頼ってくれて構わんよ。朝潮ちゃんのお願いなら儂何でも聞いちゃう』

 

この辺りで後ろから引っ叩く音が聞こえた。これは確実に赤城さんである。受話器の先でガサガサ聞こえた後、今度は赤城さんが通話。

 

『朝潮さん、うちの耄碌ジジイがごめんなさいね』

「い、いえ、大丈夫です。今度また顔を見せることになるので」

『私達も楽しみにしているわ。生まれ変わった貴女というのも』

 

長門さんからいろいろ聞いていたらしい。だが、それは深海艦娘となっていた時期だ。今はまた全く違う存在。どういう顔をされるのだろうか。

 

 

 

午後、送迎に向かった天龍さんから連絡が入る。案の定、上層部の息のかかった者が鎮守府にいたらしい。阿奈波さんが仕組んだことではなく、鎮守府の構成員として最初から配属されていたとのこと。天龍さんと龍田さんも少し嫌な視線を受けたらしく、司令官の想定が大正解だったことを思い知らされる。

代わりに、元帥閣下とも合流できたらしい。前以て連絡しておいてよかった。完全にアウェーな環境でも、こちらの理解者がいるというだけである程度は我慢できるというもの。

 

「天龍君と龍田君の帰りは大体夕方くらいになる。その間に、1つやっておかないといけないことがあるね」

「やっておかないといけないこと?」

「先程ついに君達の私室の修復が完了した。部屋割りだよ」

 

これにより、鎮守府再建は完了ということになった。楽しかった大部屋での就寝はこれで終わりを告げられる。少し残念だったが、私室も欲しいというのが本音だ。

 

「部屋は君達が好きに選べばいい。これが見取り図。名前を書き込んでいってくれれば、妖精さんが対応してくれる。1人1部屋だけど、相部屋が希望なら好きにすればいいよ。部屋を持っておいて、他の部屋に入り浸るのも構わない。過ごしやすいように過ごせばいいからね」

 

大きな紙が張り出された。3階建てなのは変わらず、ズラッと横に並ぶ部屋は1つの階に14部屋が2列。全部で84部屋である。再建と同時に規模自体が拡張されており、気付かないうちに鎮守府そのものが大きくなっていた。実は人工島まで少し大きくなっていたらしい。破壊されたのを修復すると同時にいろいろ手を回されていた。妖精さんの謎の技術の恐ろしさがわかる。

 

現在の所属艦娘はなんだかんだで52人。その中でも陸上型深海棲艦3人は自分の陣地が寝床であり、部屋は使わない。また、潜水艦姉妹はシンさんの脚の都合上、必ず相部屋となる。

そうなると、部屋を求めるのは48人。潜水艦姉妹とウォースパイトさんは車椅子があるので必ず1階になるが、それ以外は本当に自由。

 

「姉さんは何処にする?」

「そうね……ま、どうせ霞は毎日通い詰めるんでしょ?」

「当然。だから正面の部屋はいただくわ」

 

もう一切隠さない。大部屋で寝ている時にあれだけのことをやっているのだから隠す必要もない。というか吹っ切れ過ぎているくらいなので隠そうとしてもバレバレ。

 

「じゃあお隣は大潮で! 朝潮型3人で固まりましょう!」

「それがいいわね。姉妹は近くの方がいいわ」

 

こうなるの私の部屋の隣、大潮の逆サイドが空く。おそらく誰かが来るだろうが、そこは本人達に任せよう。

 

「初霜さん、これは戦争ですよ」

「そうですね春風さん。朝潮さんの隣の部屋を賭けた戦争です」

 

この反応は予想がついていた。

何が起きてもいいように、さっさと名前を書いておく。2階の真ん中の辺り、隣に大潮、正面が霞。と、書いたところで、気付いたら霞の隣の部屋は瑞穂さんの名前が。ちゃっかりしている。

 

「朝潮型全員に仕える者として、この場所が妥当かと。最短距離を確保致しました」

「いつもありがとうございます」

「いえ、その言葉だけで瑞穂は満ち足りた気持ちになるのです。今後とも侍らせていただけますよう、よろしくお願いしたく存じます」

 

部屋1つでこうなってしまうのも私の影響だと思うと心苦しいものである。そういえばクウはどうしたのだろうと思ったら、レキと仲良く隣同士になろうとしていた。ここに来て友達もできたのはいいことだ。

 

「姫様、わたしも遊びに行ってもいい?」

「レキも行く!」

「ええ、いつでもおいで」

 

これは毎晩賑やかになりそうだ。

 

「女帝様は人気ですなぁ」

「いつものことですよ。漣さんは潮さんと?」

「まぁねー。やっぱ姉妹は近い方がいいと思うんスよ」

 

それはそうかも。なんだかんだ一番気心が知れてるのは姉妹だ。あの潮さんですら、漣さんに対してだけは結構強い口を利く。

すでに書かれている名前を見ると、以前まで相部屋だった人達はしっかり隣、もしくは向かい合う部屋を取っていた。私は決まった自分の部屋へ。春風と初霜さんの部屋取り合戦は放っておくことにした。

 

紙に名前を書いた時点で、妖精さんが部屋として完成させてくれたらしい。前まで使っていたベッドと机に似たものが置かれた部屋。肌着の類もタンスの中に全部詰まっていた。

そして壁には私の使う3種類の服。本来の私のもの、海峡夜棲姫の着物、そしてアサのもの。妖精さん、いろいろ察してくれている。

 

『お前、結構オシャレなのな。他の連中と違って服を何種類も持ってるなんて』

「私が特殊なだけよ。いろいろと立ち位置があるの」

『朝潮型の長女ってのと、姉さん達の妹ってのと、私か』

 

服の種類も私が歩いてきた道の証だ。こうなるまで私は本当にいろんなことをしてきた。されてきたとも言う。

今日からはこの部屋で過ごすことになる。早くも愛着が湧いてきた。

 

 

 

部屋割りも終わり、夕暮れ時。そろそろ天龍さん達が帰ってくる時間だ。お出迎えに工廠へと向かう司令官に私もついていく。と、工廠の手前に未だに妖精さんが工事している場所が。元々そんなところに空間など無かったはずだが、何か部屋を作っているような雰囲気。

 

「司令官、ここは……」

「もう少ししたらわかるよ。さ、そろそろじゃないかな?」

 

電探に天龍さんと龍田さんの反応が入る。あとは大発動艇の反応も。ただ、その上にもう1つ、見知った反応が。

 

「帰ったぜー。ホント疲れる遠征だったぜ」

「あの連中の目玉をくり抜いてもよかったんだけどね〜。天龍ちゃんのことジロジロ見て」

「やめてやれ。オレらが人間やっちまったら提督がヤベェ」

 

行って帰るだけでも疲れた様子の2人。奇異の目で見られ続けるのはストレスが溜まるものだろう。春風が心を壊してしまうほどなのだから、誰もが例外ではない。

 

「ついたぜ。降りてくれ」

「はーい!」

 

大発動艇から降りてきたのは、佐久間さんだった。

 

「この度! この鎮守府に正式に配属されました! あっちの鎮守府は居心地悪くてねぇ。私の研究はこっちの方がしやすいし、加藤准将も許可出してくれたしで万々歳!」

「佐久間さん!」

「また会おうって言ったらその日中に帰ってきちゃった。いやぁ、縁って大事だよね」

 

さっき妖精さんが工事をしていたのは佐久間さんの部屋。研究室を兼ねた私室。工廠に近い方が手に入る情報も素材も多い。

 

「佐久間君、これからよろしく頼むよ。君の思想は私の思想に似ているからね。共に、争いのない世界を作ろう」

「了解です准将! よろしくお願いします!」

 

またもや騒がしい仲間が増えた。人間の仲間というのは初めてのことだ。鎮守府が賑やかになるのは嬉しい。

 

「では早速朝潮ちゃんをひん剥いて隅々まで調査を」

「おじいちゃんに訴えますよ」

「おじいちゃんって?」

「元帥閣下です」

「ご勘弁を!」

 

ノリは漣さんみたいなものだ。多分仲良くなれる。

鎮守府再建と共に仲間も増やし、私達は次の道へと歩き出した。最終決戦まで近い。




人間のスタッフ追加は初。今まで加藤司令官しかいなかった鎮守府に、癖が強い新人が追加されました。
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