欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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罪悪感からの逃避

深海棲艦研究者である人間のスタッフ、佐久間さんが鎮守府に加入。今後はいろいろなパターンの深海棲艦についての調査が行われることになった。

早速翌日、身体構造を調査したいとのことなので、私、朝潮や春風、大潮が血液を提供した。艦娘、深海艦娘、半深海棲艦、純粋な深海棲艦の素材が無尽蔵に手に入るようなものだ。佐久間さんもノリノリで研究をしている。

どういうことをしているのかが気になったので、私は今、佐久間さんの研究室兼私室にお邪魔している。

 

「元深海棲艦がいるって聞いてるんだけど、誰か提供してくれそうな人、いないかな」

「そうですね……瑞穂さんからは少し控えてもらうとして、ウォースパイトさんかポーラさんですね。ガングートさんは戦闘で血を流すことが多いですから、ここで抜くのはちょっと」

 

瑞穂さんは自分が元深海棲艦であるとまだハッキリと理解できていない人だ。私がそう言うからそういうものなんだろうというくらいにしか認識していない。あまり騒ぎ立てると、思い出してはいけない記憶を掘り返してしまう可能性がある。

そうなるとウォースパイトさんかポーラさん。近くに誰かいないか見てみたら、ちょうど食堂から出てきたポーラさんと目があった。ワイン瓶とおつまみを持っている辺り、相当である。

 

「Buon Giornov〜」

「ポーラさん、早速酔ってません?」

「酔ってない酔ってない〜。舐めた程度でポーラは酔いません〜」

 

酔っているのは確かだった。

断酒させられてアルコールが抜けた状態での性能検査の結果は、飲酒している状態とほぼほぼ変わらず。むしろ少しだけ精度が下がっているらしい。アルコールが抜けると手が震えると言っていたが、本当にそれが原因なのかも。

 

「ポーラちゃん、ちょっと血が欲しいんだけどいい?」

「あ〜、サクマさん〜、ポーラの血は赤ワインで出来てますよ〜」

「それなら逆に調べたいね。ちょっと付き合って。元深海棲艦は大本営ではいろいろあったからさぁ、ここに居てくれるの本当にありがたいんだよ」

 

あちらでは叛旗を翻した結果処分されるという酷いことが起きている。佐久間さんはそれも知っているようだ。私達の鎮守府では未だそういったことはない。浄化の経緯が皆、満足して逝ったからだろう。瑞穂さんは例外だが。

 

「夜に一杯付き合うからさ」

「お〜、嬉しいですね〜」

 

お酒に釣られて佐久間さんの部屋に入ってくる。

昨日の夜にわかったことだが、この佐久間さん、ポーラさんと同じだけど飲んでも倒れなかった。ポーラさんと一緒に脱ぎ出した時はどうしようかと思ったが。

 

「そうそう、ポーラちゃんは改めて身体を確認したいところがあってさ。お腹の痣、見せてもらいたいんだよね」

「んぇ〜、こんなの見ても何も面白くないですよ〜」

「いやいや、私にはそれもお宝なんだよね。ところでここにワンカップだけど日本酒があります」

「ニホン=シュ! 白ワインみたいなお酒ですね〜。飲んだこと無いので嬉しいです〜。脱げばいいんですか〜?」

 

研究者といえど鎮守府に配属されるスタッフなだけある。艦娘の扱い方が上手い。

 

「そうそう。ここまで元々の深海棲艦の要素が身体に残ってる子はいないからね」

「ポーラ、これあんまり好きじゃないんですよ〜。ちょっと大きすぎません?」

 

重巡棲姫は腹に艤装の接続口があるため、腹がバックリと裂けていた。中が見えるわけじゃなく闇が広がっているだけではあったが、それがそっくりそのまま残ったような痣。お腹を縦に引き裂いたような痣なので、初見では大きな傷に見える。

 

「ただの痣だよねぇこれ。ちょっと触らせてね」

「うぇへへ、くすぐったいですよ〜、うひ、ひひひっ」

「おお、肌触りすごくいい。艦娘ってスキンケアとかしなくてもこれだからすごいよね。ああペロペロしたい!」

 

佐久間さんも大概である。

 

「うーん、とりあえずわかったのは、元深海棲艦は身体は完全に艦娘ってことだね。深海の要素一切無し。痣はただの痣。ある意味欠陥(バグ)みたいなものかな」

「消せない傷みたいなことですか」

「そうそう! 朝潮ちゃん賢いね。お姉さんが撫でてあげよう」

 

メイクで隠すくらいは出来るかもしれないが、基本的には受け入れるしかないと話す。

ほんの一瞬だが、ポーラさんの表情が曇ったように見えた。自分が元深海棲艦であることを受け入れきれていないのかもしれない。

 

「実際にそこの細胞を貰いたいくらいだけど、絶対に痛い思いするからね。機会があれば貰って解析するよ。ありがとねポーラちゃん。はい、約束の日本酒」

「わ〜、ありがとうございます〜。早速お部屋でいただきま〜す」

 

お酒が手に入った途端、踊るように部屋から出ていった。曇った表情が嘘みたいだった。

 

『朝潮、あの酔っ払い、雰囲気違くなかったか』

「ちょっと曇ったわよね。あの痣が余程嫌なのかしら……」

『それだけじゃなさそうだな』

 

アサも同じようなことを思っていたらしい。少し気になる。

 

 

 

佐久間さんが研究に没頭するようだったので、私も退室。そこで待ち構えていたかのように初霜さんと合流。何処にいても居場所がわかる状態というのはメリットにもデメリットにもなる。

 

「ポーラさんがご機嫌でお部屋に入って行きました。何かあったんですかね」

「佐久間さんの研究に付き合ったお礼にお酒貰ったんですよ。日本酒は飲んだこと無かったみたいで」

「ああ、なるほど」

 

イタリア重巡のポーラさんは基本ワインを持ち歩いている。他の国のお酒はあまり飲まないようだ。

 

「本当にずっとお酒を飲んでますよね。あの時から酔ってない姿を見ていない気がします」

「でも訓練とか演習とかは成績いいんですよね……酔ってた方が」

 

意思を持つ艤装、ロッソとビアンコのおかげかもしれないが、ポーラさんの訓練成績は非常にいい。元深海棲艦であることがそれに影響しているわけではないのだが、タイミングが崩れるというか、酔っているからか予測不能なことを稀にする。少し違うが雪風さんの幸運のようなことが起こる。

 

「お腹の痣のことを調べたんです。あの痣は欠陥(バグ)みたいなものって佐久間さんは言っていて」

「なるほど……でも、私はポーラさんのあの痣、すごく好きです。私をこの状態で食い止めてくれた重巡棲姫だったってわかりますから」

 

私の深海の匂いに狂わされてしまった初霜さんだが、これが無かったらポーラさんに惹かれていたのではないかと思う。命の恩人であり、命をかけてくれたのだから、こんな状態でも私の次にはポーラさんを気にかけているみたいだ。

 

「痣のこと、あまり好きじゃないって言ってたんです」

「そうですか……なんだか悲しいです。受け入れきれていないんですかね……」

 

ポーラさんの話をしながら歩いていたからか、ポーラさんの私室の前に来ていた。様子見がてらお邪魔してみることに。

 

「ポーラさん、日本酒はどうですか?」

「んぁ〜、アサシオとハツシモ〜、美味しいですね〜。ワインとは違うけど、いくらでも飲めそうで〜す」

 

佐久間さんから貰ったお酒はコップ1杯程度だったが、それでも満足している様子。

 

ポーラさんの私室に初めて入ったが、皆と同じ机とベッドの他に、ワイン棚が鎮座していた。鎮守府の備蓄とは別に自分用のお酒を司令官にせがんだらしい。今ある分で渡せる分は渡したとのことだが、ハイペースで飲み続けているのでいつ在庫が無くなるか。

 

「う……お部屋がお酒臭いですね……」

「ず〜っと飲んでるから〜」

 

私室を割り当てられたのは昨日の午後。まだ丸一日も経っていない。それでこの匂いとなると、本当にずっと飲んでいるとしか思えない。

 

「ポーラはずっと酔ってたいの〜」

「なんでそこまで……」

「だって〜……嫌なこと忘れられますよ〜?」

 

また表情が少し曇る。ポーラさんの本質が見えたような気がした。

 

「あの、ポーラさん。差し支えなければでいいんですが、お酒で忘れたい嫌なことって」

「それ、アサシオが聞いちゃいます〜?」

 

なんとなく察してはいたのだ。お腹の痣が好きじゃないと言った時点で、前世の記憶が枷になっているのではないかと。

ガングートさんのように罪悪感のないような生き方をしたわけでもなく、ウォースパイトさんのように罪悪感と向き合えるわけでもなく、瑞穂さんのように全て忘れてしまったわけでもなく、私達を利用した、裏切ったという記憶がずっと付いて回っている。

 

不意にポーラさんの微睡んでいるような雰囲気が消えた。同時に、どんよりとした空気が漂う。

 

「ポーラね、主砲撃つときにアサシオの背中がチラつくの。でも、お酒飲んだ時は見えないんだ」

 

命惜しさにやった行動が、全て罪悪感になっている。私達と一緒に鎮守府にやってきたのも、私達を利用して助かろうと考えながらの行動だ。ここにいること自体が罪悪感を刺激してしまっているのかもしれない。

 

「シラフになると、あの時の記憶全部思い出しちゃう。領海で仲間を全員殺されたことも、命からがら逃げ出したことも、アサシオを……後ろから撃とうとしたことも。だからポーラはお酒に逃げてるの。嫌なことから目を逸らすために、ずっと酔っ払いたいの」

 

本来のポーラさんは完全な趣味で飲み倒しているらしいが、このポーラさんは元重巡棲姫だからかお酒を逃避のために使っている。

お酒を飲んでいないと手が震えると言っていたが、それはおそらく恐怖でだ。いつ責められてもおかしくない恐怖で震えている。それだけのことをしたと、ポーラさん自身が思っている。人間不信の1つかもしれない。

誰もポーラさんのことを責めたりはしていない。重巡棲姫がどういうことをしたかを知った上で、皆ポーラさんを受け入れている。主砲を突きつけられたとき、私は少し強い物言いをしてしまった。だがそれだけだ。別にポーラさんのことを悪くは思っていない。

 

『朝潮、こいつはこういう奴なんだ。放っておくのが得策だぞ』

「そうかもしれないけど……」

『少なくとも、これはお前の関わることじゃない』

 

アサの言い分は正しい。私がどうこう言う資格はない。ただ、そういう理由でポーラさんがお酒に溺れる姿を見ていると、少し悲しい気持ちになる。皆が受け入れているのに、自分が一番自分を好きになれない。

 

「……ポーラさん」

「なぁにハツシモ」

「そんなにお望みなら、言葉にしてあげます」

 

肩を掴み、しっかりと向き合う。睨みつけるような怖い顔。

 

「貴女の()()で私の身体はこんなことになってしまいました。全て貴女が私達を利用した()()です」

 

直球で責め立てた。ポーラさんが一番されたくないであろう、初霜さんからの責め。あの戦場でたった一人の、後を引く傷を負った犠牲者。

一気に酔いが醒めたのだろう、ポーラさんの表情が酷く歪む。泣きそうな、辛そうな表情。

私には止めることが出来なかった。初霜さんにも何か考えがあってこんなことを言っているのだと思えた。ただただ責めるなんてこと、今の初霜さんならしないだろう。以前までならわからないが。

 

「私をこんな身体にして、どう責任取ってくれるんですか」

「あ、う、ポーラは……どうすれば……」

「責任の取り方がわからないなら、私の言う事を聞いてください」

 

恐怖で震えているのが私でもわかった。罪悪感から、責任から逃げてお酒に溺れていたポーラさんには、何をすればいいのかがわからない。

 

「貴女はそれを罪だと思っているようですし、まずそれに向き合ってください。有り体に言えば、断酒です」

「だ、ダン=シュ……首を斬れと」

「それは斬首。お酒をやめろと言っているんです。私達を見て罪悪感があるのなら、まずそれと向き合ってください」

 

それが出来なかったからお酒に逃げたのだが、無理矢理にでも向かい合わせようとしている。

 

「罪悪感と向き合い、その上で一緒に戦いましょう。それが償いです。先に言っておきますが、皆ポーラさんのこと悪く思ってませんからね? だったら初日の宴会なんて出来ないでしょう」

「ま、まぁ、確かに」

「とはいえ、罪悪感があると夜に眠れなかったりするでしょうから、夜だけ飲むようにしましょうか。一人でではなく、みんなで。この前も言いましたが、軽めの晩酌くらいなら付き合いますから」

 

少しずつお酒から離しつつ、罪悪感を軽めにし、お酒への逃避を控えさせる作戦。程よく飲む程度なら全然構わない。ここの人も全員が全員お酒を飲まないというわけではないのだから、程度をわきまえればいくらでも飲めばいいのだ。

 

「……うん、わかった。ポーラ、みんなにごめんなさいするために、お酒、控えめにする」

 

ウォースパイトさんも通ってきた道だ。罪悪感を克服することなんて出来ないだろうが、受け入れて歩くことは出来るはず。事実、先駆者がいるのだから、ポーラさんもきっと出来る。控えめと言っている辺り、まだやめるわけではないようだが、それでも一歩進むことが出来ただろう。

 

「じゃあまずは部屋のワインは倉庫に戻しますね」

「えっ」

「文句、ありますか?」

「ナイデス」

 

これ見よがしに右腕の痣を見せる。それを見せられたら今のポーラさんは言うことを聞かざるを得ない。しぶしぶだがワイン棚は片付けられることになった。

 

 

 

まだ酔ってはいるものの、ポーラさんはお酒を控えることになりそうだ。初霜さんもその後に、身体が変わったのはポーラさんのせいだなんて1ミリも思ってないとちゃんとフォローしている。それでもお酒を控える誓いを立てたのだから、ポーラさんは罪悪感と向き合おうとしている。

 

『よかったな。ハツシモが全部やってくれたぞ』

「そうね……うん、よかった」

 

ホッとしたからか、なんだか頭がフワフワしてきた。少し身体が熱い。部屋の中の気温が上がったような感覚。

 

「なんだかこの部屋……暑くないですか……?」

「え、そんなことないですけど」

 

ポーラさんの部屋の中はお酒の匂いが充満している。頭がフワフワして、少し気持ちがいい。でも暑いのが耐えられそうにない。これはもしかして服を着ているから暑いのでは。

 

「うぅ……服が邪魔……」

「え、朝潮さん!?」

 

いろいろと脱いでようやく涼しくなった。肌着だけになってしまったが、これならようやく耐えられる。初霜さんがすごく驚いているようだが、暑いのだから仕方がない。

 

『おい朝潮、何やってんだ!』

「あついんだもの……ぬがないと……」

『お前空気で酔ってるのか!? 代われ! 私がどうにか……って、出られない!?』

 

アサがうるさいので思考の海をロック。なんだか気分がいい。周りが明るく見える。気が大きくなるような気分。やりたいことがなんでもできるような感覚。

 

「朝潮さん、服を、服を着てください! とても眼福ですが良くないです! 瑞穂さん! 瑞穂さーん! 朝潮さんが大変でーす!」

「んぅ、はつしも、うるさい」

「はぁあっ、呼び捨てぇ……幸せすぎるぅ……」

 

なんだか足下がおぼつかない。ポーラさんのベッドに座らせてもらうことに。

 

「ど、どうしましょう〜……空気で酔うほどお酒に弱いなんて」

「助けは呼んだので……」

「はい、呼び出されました」

 

瑞穂さんも部屋にいる。相変わらず神出鬼没。

 

「この部屋の空気で酔ってしまったのですね」

「はい……」

「ひとまず服を着せてこの部屋から出します」

 

瑞穂さんに脱いだ服を着せられていく。が、暑いから脱いだのに着せられたら意味がない。暑いのが耐えられない。

 

「みずほ、あつい」

「っ……そうは言われましても、そのお姿で部屋の外に出てもらうわけには」

「あつい。あーつーいー」

「なんて……可愛らしい……。で、でもダメです。朝潮様、この瑞穂、今回ばかりは心を鬼とし、反抗させていただきます。これは朝潮様のためになりません。ささ、お部屋から出ましょう。外の方が涼しいですから」

 

担ぎ上げられるように部屋から出された。後ろではポーラさんの部屋の換気がされている様子。

 

「暑いのでしたら、今はお着物だけにしましょう。扶桑さんの妹さんのものですね。袖もありませんし、裾も短いですから」

「うん、すずしい」

「それはよかったです。では食堂でお水をいただきましょう。まだ軽微ですから、酔い覚ましはそれでできるかと」

 

自分の脚では歩けそうにないので、瑞穂さんに連れて行かれることに。

 

この後、さんざん醜態を晒した私は頭を抱えることになる。二度とお酒に関わることをするものかと、心に誓うことになった。




闇の深いポーラ。酒に溺れることで嫌なことを忘れたいという、とても人間味のある艦娘。酔ってるなら何しても酔ってるからで済ますことが出来そうだもの。
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